翌日、アルマはその小さな頭を何度もひねって現状を確認することとなる。
先日のティアとの特訓と、本日のユウとの特訓とを照らし合わせて、違いを探しつつ大量の魔導書を運ぶ。
探せば探すほどに、その二つには違いしかなかった。
『助手』とだけ、そっけなく雑な文字で殴り書かれた手作りの札、安全ピン。
それを朝一で洋服へと通され、アルマの一日は始まった。

これが特訓なのだろうか?
では、昨日の特訓は特訓ではなかったのだろうか?

少女は疑問に眉間を絞りつつ、机の上の山の様な魔導書の上に魔導書の山を置くと、手元の術式の意味を男より教わる。

「これが、今までアルマが集落の人に使ってた強化魔法の術式だ。どうだ?さっぱりだろう?」

「はい」

「やりなおし!堅苦しいのは苦手だ、返事は『うん、わかった』だ。約束な」

「はっ…!!…うん、わかった……?」

「よろしい。じゃ、今持ってきた魔導書は?」

「……え、うと……『属性レベル操作 初級』、『人体魔学概論』、『発動原理“治療”』、『これだけは知っておきたい!意外と知らない危険な魔法』、と……『厳選、護身用魔法』?」

「そうだな、ルビを振っておいて正解だった。優秀だぜ。
これからしばらくアルマは俺の魔法研究の助手をやってもらおうと思う。
まず、アルマには原理から魔法を覚えてもらって、その原理から簡単な攻撃魔法を扱えるようになってもらう、そこまでできるようになったら、俺と一緒にゴーレムをどうやって動かしていたのか紐解いていく!……どうせあれだろ?お前もティアと同じようにさ、感覚だけで魔法操ってたんだろ?そんなんじゃあんなんになるぜ。
ゴーレムが動く原理をうまく紙面に引っ張り出せたら、それを俺の魔法に応用できるように一緒に魔法を作るぞ!」

文章に起こせば平気で数行にも及ぶユウの流れるような忙しげな説明を聞きつつ、アルマは小難しい顔で小首を傾げたり、目を丸くしたり、笑顔を見せたりと忙しげな反応を見せる。
もちろん、アルマはその説明のほとんどを理解していない。かろうじて理解できた部分など『そんなんじゃあんなんになる』というくだりだけだ。
アルマが笑顔を見せた箇所である。

このタイミングで部屋へと茶を運んできたティアが、アルマの笑顔を見、少し渋い顔をした。
昨日の特訓では見ることのなかったアルマの様子に、ユウに対して劣等感を覚えたのだ。

部屋の入り口でプレートをもったままのティアを、アルマはあわてて迎えに行き、その手からプレートを取り上げて上に乗っていたティーカップをユウの机に二つ、部屋のソファの向かいの小テーブルへと一つ置く。
数日前よりティア自身がアルマへと仕込んでいた『できる乙女の動き』だ。
その動きにユウは小さく声を上げ、礼を述べる。
一方でティアはというと、さらに眉間にしわが寄る。
アルマには悪気がないとはわかってはいるものの、その丁寧な場所分けに、彼女は単純な『仲間外れ』を感じた。

ティアはしぶしぶとソファへと腰掛け、丁寧にミルクと砂糖まで溶かされた紅茶のカップを持ち上げつつ、それから立ち上る湯気をわざとらしく吹き流す。

そんなティアの様子に、問うべき疑問を思い出したアルマはユウへと声をかける。

「あの、お兄ちゃん、じょしゅ?って、昨日みたいに、魔物と戦ったりはしないの?」

アルマの問いに、ユウは瞼を落とし、両掌を天井へと向けた。

「いきなり実践なんてナンセンスさ。まして、昨日は大けがをしてたんだろ?身体を休める意味も込めて、今日は丸々『正しい助手』について叩き込んでやるよ」

「……楽ちん……?」

「……そっ、楽ちん!」

ユウの言葉を聞いたアルマが、小難しい表情の面をかぶるように顎先に指を持ってきたとき、ティアはあえて茶を啜る音を立てた。
ユウは、上半身だけを返して椅子の背もたれの上からいたずらな視線をティアへと送る。

『できる乙女』のティーカップが、余裕のない音を室内へと響かせる。

「私に対する挑戦ね……!!」

余裕のない小声がアルマの背筋をなで上げる。

その後のティアは、なにをするわけでもなく大人しく二人の『特訓』を眺めていた。
その視線は刺すようでもあり、撫でるようでもあり、アルマのメモのペン先を震わせる。
その様子に気がつく度にユウは威嚇的に振り向いては「シッシッ!」と手の甲で空気を押しのけていたが、しばらくしてソファから寝息が聞こえてくると舌打ちとともに膝掛けを投げ、アルマへと休憩の指示を出すのであった。

数刻後、顔の前でシャボン玉が弾けて、弾かれた様にティアは目を覚ます。

本日の『研究成果』であるシャボン玉の魔法は、一人の少女を不機嫌にし、二人の研究家を笑顔にした。
寝起きの鼓膜に響く元気な笑い声に、少女はまたも、複雑な気持ちに気分を落とす。
スポンサーサイト



コメント
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 

トラックバック
トラバURL:  
この記事へのトラックバック