「わたし!魔法剣士になるよ!」

少女の気遣いは、茨の道を指し示す。

───

魔法剣士──剣士と魔法使いの中間を往く中途半端で器用貧乏な職だ。しかし、真に魔法剣を扱いし者は、魔法剣士についてその中途半端を揶揄されると激昂する。
曰くは魔法剣とは剣と魔法のいいとこ取りであり、魔法使いが苦手とする接近戦にも対応でき、剣士にとっての天敵である遠距離攻撃にも、状況に応じて柔軟に対応できるという。

最大火力や精度は魔法使いに劣るものの、剣で直接攻撃しつつの魔法の発動は隙がなく素早い。且つ魔法使いが苦手とする『抗魔力』を無視し、効率よくマナを削れるというメリットがある。
もちろん、剣士に比べても攻撃の幅や範囲は段違いである。
デメリットは必然的に無理な理論で魔法を展開する事になるので、体力と集中力の消耗が激しい。そしてやはり、純粋な剣に比べると精度や速度は劣ってくる。
魔法剣士のもっとも特徴的な攻撃は魔法剣による『打つ魔法』である。
魔法を『発動』するのではなく、直接『打ち込む』事で、発動によるロスや魔力の消費を抑える事が可能だ。
が、剣撃魔法を発動するとなるとやはり無理がたたり、場合によっては純粋な魔法よりも発動に時間がかかる、その上、純粋な魔法以上に魔力を消耗する。

───

───だ、そうだが?ティア、よくわかったか?」

「難しくて中途半端ってことはよくわかったわね」

「タマちゃん……ほんとうに魔法剣士ってあったんだね……わたし、知らなかったよ……」

アルマの意外な返答より、睨みは合いは互いの反応の伺い合いとなり、その後首の傾げ合いが始まった。
2人は魔法剣などについては深く考えたことはない。よって、いかにアルマがそれを望もうとも、2人はそれについて説明することができなかった。
2人はアルマを連れ、宿を出、書店でハウツー本『なんてったってmagic night』を購入後、街の外の河原にて知識を深めて今に至る。
大きめの石の上であぐらをかいていたユウは、小難しそうな顔と共にハウツー本を閉じた。
緊張した面もちでレイピアを握ってはまた難しそうな顔をしたアルマは、意味もなくどや顔のティアと、指先で本を弄ぶユウへと視線を行き来させて息を飲む。

「……で、肝心のアルマはだ、未だ剣も魔法もヒヨッコ未満。
これは……まずいな」

「っえ!まずいの!?お兄ちゃん」

「ほら、ユウ、アルマが怖じ気づいちゃったじゃないの。
心配しなくても大丈夫だよ、アルマ!お姉ちゃんが今すぐ魔法剣を見せてあげるからね!」

「……できるのかよ……」

眉間を頂点とする富士山を浮かべたユウに向き合った、眉間を谷間とするチャレンジャー海溝を浮かべたティアは言う。
「できるかできないかじゃない。やったらできるかも……だよ」と。
落胆した様子でユウは肩を落とし、アルマは期待に肩を持ち上げた。
2人の様子を満足げに眺めたティアはアルマからレイピアを受け取ると、その切っ先を天へと掲げ、声を上げる。

「必殺魔法剣技!!無限轟雷雨!!」

「──っば!?アルマ!!」

「…?」

青ざめたのはユウだ。
剣を掲げたティアからただならぬ魔力を感じ取ったユウは慌ててアルマの頭上に多重魔法壁を張り巡らす。
直後、ティアの掲げたレイピアの先端上空に直径数メートルはあろう魔法陣が展開、その周囲には八つの小魔法陣。
巨大な魔法陣より流れ出た魔力は八つの魔法陣へと伝わり、戯れにはあまりにも過ぎる紫電の雨を降らせた。
ユウが全力で張った多重魔法壁でさえ魔雷の四発で砕け散り、無防備なアルマをかばうようにしてユウがアルマを突き飛ばす。

周囲が閃光と轟音に包まれ、やがて収まると、中心にはやりきった表情でレイピアの切っ先を仰ぐ少女。
魔法発動から収束まで、レイピアの刃が空を裂くことはなかった。
幸いけが人はない。

「──あれ?」

「………」

「………」

「………」

「………おにいちゃん、膝、すりむいちゃった」

「……待ってろ、今マナ水用意するから。それとティア、おまえはそのまま少し黙ってやがれ」

ティアが放ったのは、魔法剣でもなんでもない、ごく普通─異常な威力と発動速度を除けばだが─の魔法であった。
ユウはともかく、もしアルマがティアの放った落雷にあたっていたらただではすまなかったことは周囲の様子から容易に想像がつく。
ユウは燃えさかるティアのリュックから熱々のマナ水のボトルを取り出すと、適当な布に染み込ませてアルマの膝にあててやる。

その後、ユウはユウで魔法剣に挑戦するも、レイピアが熱くなったり冷たくなったりするのみであり、魔法剣と呼べる代物の発動には至らなかった。
取り繕うように振り回されたレイピアは直接ではないにしろ、確かにアルマを魔法剣士へと一歩近づける。
ティアですら目を丸くするほどの素早く正確な剣閃はアルマの脳裏にしっかりと焼き付き、目標となる。
もちろんティアが放った魔法も、アルマにとっては良い刺激となった。

基礎から固めなくては何事も成せない。

そう結論づけた三人は、翌日からはティアが剣を、ユウが魔法をアルマに交互に教えることに決める。

幼い子供に最も大事なものは大きな成功や小さな失敗よりも、身近な目標だ。
その晩、アルマはユウに倣って納豆の混ぜ方を変えた。
ティアに倣って日記を書くようにもした。

納豆を混ぜるユウも、日記を書くティアも、同じようにして「実りのない一日だった」と口を尖らせていたが、それらを隣で見ていたアルマはちっともそんな風には思っていない。

夜もふけて、少女はベッドに入り込むと、強くなった自分を想像し、鼻の穴を膨らませて頬を緩ませる。
すりむいた膝の痛みと共に思い出される剣閃は、湖の水面に広がる波紋よりも静かで、燃え尽きぬ流れ星の様に力強い。
その剣から放たれる魔法は、トタンを叩く夕立よりも騒がしく、山間から射す朝日よりも眩しく美しい。
もちろん、その中心にあるのは他の誰でもない、少女自身だ。

「……必殺魔法けんぎ……むげんごうらいう……!」

「……? アルマ?今、何か言った?」

「ううん、何でもないよ。わたしもお姉ちゃんたちみたいになれるかな!」

「……! そうねぇ、頑張り次第かしらね……頑張る乙女の素敵な五箇条、五つ!」

「特訓にはこじんさがあり、過度な期待はきんもつです!以上、引き続き、すてきな明日にご期待ください」

「そういうこと!明日も早いからもう寝ましょうね、お休み、アルマ」

「お休みなさい、お姉ちゃん……」

少女は眠りにつくその瞬間まで、窓から見える星空を見上げていた。
少女は身体を休めるその瞬間さえもったいなく感じていた。
少女は夢見心地で朝日を待ちわびる。
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