「頑張る乙女の素敵な五箇条!ひとつ!」

「挑戦することをわすれません!」

「ふたつ!」

「失敗をおそれません!」

「みっつ!」

「諦めをしりません!」

「よっつ!」

「昨日の自分にまけません!」

「いつつ!」

「特訓にはこじんさがあり、過度な期待はきんもつです!
以上!引き続き、すてきな一日にご期待ください!」

「よし!いただきますは!?」

「いただきます!」

「はい、よくできました。あ、まって、私もいただきます。ほら、ユウ、なにぼーっとしてんの?」

ここはポポラマ山脈を下り、更に北へと向かった場所にある田舎町『ガーデンフェスト』
田舎でのどかで普通の街である。観光には立地的にも恵まれておらず、街の周りには危険な魔獣が出没する一帯も存在している関係上、旅人のための足休め的な存在だ。
しかし、それだけに集まる旅人は屈強であったり、情報通であったりと、旅の人にとってはこれほど面白い情報交換場も珍しい。
この周辺でしかお目にかかることのできない高危険度の魔物の依頼もこの街の依頼所限定で受けることができるため、名を上げたいハンターなどもここ、ガーデンフェストにはよく訪れる。
そんな街の片隅、小川をまたぐ立派な橋の横、小洒落た宿の食堂の朝。
電球色のランプの明かりに照らされた小振りなテーブルを三人と一匹で囲い、いつよりも少し元気な、いつも通りの一日が始まった。

「……え?なに、今の。え?……あれ?いつもやってたっけ?なに?素敵な乙女の五箇条?」

「違うよお兄ちゃん、頑張る乙女のすてきな五箇条だよ!お姉ちゃんが昨日の夜につくってくれたの!すてきでしょ?」

「ふーん……素敵……なのか?まぁいいや、いただきます。
……五つ目だけ妙に現実味帯びてなかった?」

はぐはぐとカボチャの煮物を頬張るアルマの隣に座ったユウは、正面に座るティアの髪型に嫌な記憶を掘り出される。
彼の見覚えのある白ジャージに身を包んだ素敵な乙女は、前髪のど真ん中を髪留めゴムで縛り上げ、広いと言えば広そうな、さして広くもない額を電球に光らせていた。

『鬼コーチ』

アルマの昨日の言葉と、昨夜の熱の入った勉強会と、今し方脳裏に浮かんだフレーズより、ユウは胃の奥に違和感を覚えた。
『アルマと協力して、近々ティアを捕まえることになるかもしれない』
ユウは過去の激闘を思い出し、その時逃がしてやったウワーンが元気に生きていることを願うことで眼前の現実より逃れる。

「……ユウ」

「……おう」

味噌汁椀を降ろしたティアから声がかかり、ユウは大豆を箸で摘まむ作業を中断した。

「今日のアルマはどうかしら?」

「……は?」

眉間にしわを寄せた鬼コーチよりかけられた質問は、思いの他漠然としており、向き合うユウも眉間にしわをよせた。
同時に隣で不器用な箸使いで大豆と格闘するアルマに視線を移し、ユウはすぐにティアの思惑に気づく。
不器用でも大豆に挑戦するアルマ。
失敗してこぼしても、恐れず大豆に箸を向けるアルマ。
どんなに大豆がとれなくても諦めないアルマ。
こと大豆に関しては間違いなく昨日のアルマには勝っているアルマがそこにはいた。
キーワードは成長。
ユウは決め顔を作り、眼前のティアに視線を合わせて言う。

「……やるじゃん。特訓の成果か……?」

「え?なに言ってんの?まだなにもしてないのに成果もなにもないでしょ?」

ユウはティアから視線を逸らし、味噌汁を啜る。

「私も熱くなっちゃうときっとアルマに自分のペースを押しつけちゃうと思うのよ。
特訓のペース配分について、ユウからも意見を聞こうとアルマをみてもらおうと思ったんだけど……なによそれ、『やるじゃん』って」

「あ……そう。……で?今日から特訓か……なにから始めるんだ?」

「んー、そうねー。アルマ?今日からどうしたい?戦闘勉強花嫁修業、タマとのコミュニケーション……お姉ちゃんが何だって教えて上げるわよ?」

どや顔でアルマの皿から大豆を箸で拾い、それをそのままアルマの口へとはこんでやったティアが言う。差し出されるがままに大豆に食いつくと、五回ほど咀嚼し、大豆を飲み込んだアルマはテーブルに両手をついて、星明かりのような瞳を輝かせる。

「せんとう!!私もお兄ちゃんとお姉ちゃんみたいに悪い魔物をやっつけるよ!」

「ふーん……。せんとう……だけにね!」

「……?」

ティアからの返しをよく理解できないアルマは、小難しい顔で首を傾げつつ、そっと席に着きなおした。
話を聞き、様子を見ていたユウはここぞとばかりにアルマの興味に食いつく。
アルマの魔法の才能に一目置いているユウとしては、彼女はダイヤの原石である。
いずれ生まれるであろう大魔導士の師とし、己の全てを弟子に叩き込まんと意気込み、コップの水を飲み干し、底を勢いよくテーブルへと落とした。

「よし!!それならこれからの当面の特訓は決まりだな!
アルマほどの才能がありゃあ一週間で全属性初級魔法から回復魔法、強化魔法の基礎まで教え込んでやれるぞ!」

「……わぁ!ほんとう!?お兄ちゃん!!」

「おう!それじゃ、飯食ったら街の外で俺と一緒に魔法の練習だ!ゴーレムを的にしようぜ!」

両手を合わせて笑顔を見せるアルマと、両手を広げて瞳を輝かせたのはユウだ。
一見すると話はこれで終わったように思える、が、それを面白いと思えない人物もまた一人。
コップの底が、テーブルをど突く音が食堂へと響きわたる。

「だめだよ!!」

「「!?」」

鬼コーチこと、ティアだ。

「……おい、なんだよ急に大声出してよ……なにがだめなんだよ……?」

「アルマは!私と一緒に剣の練習をするの!ユウが魔法を教えたら私とアルマのW剣技ができないじゃない!ずるいよ!」

「はあ?」

ティアはアルマの特訓が決まった段階でアルマに剣を教えると決めていたのだ。
自身が剣で苦労した経験から、非力なアルマでも扱いやすいであろう丈夫なレイピアだって前日中に彼女自身が吟味して購入も済ませていたのだ。

「そんなこと言ったって……アルマはどう考えても剣より魔法の方が得意だろう?」

「そんなこと!やってみないとわからないじゃない!それに、それならユウだって剣の方が得意なのに魔法使ってるし私だって魔法の方が得意なのに剣で戦ってるでしょ!!ずるいよ!」

「……さっきから聞いてりゃよ、とりあえずずるいよって言っとけばいいと思ってねえか?」

「そ!そんなこと思ってないよ!またそうやって話逸らして!」

瞳を泳がせる様子からも図星であったことは言うまでもない。
二人は互いににらみ合い、テーブルに手を突き、額をつき合わせた。
周囲に険悪な空気が流れ、息を呑んだアルマはやっと摘まめた大豆を箸から落としてしまった。
ここまでは黙って食事をしていた流石のタマもついに動く。互いに立ち上がり、にらみ合うユウとティアの隙を付き、ティアのメインディッシュのハムエッグをここぞとばかりに平らげた。
そして、息を呑むようにして黄身をのみこんだ。

「お前は、自分勝手なエゴのために、この貴重な貴重な天才の芽を摘むのか?
教えるのは大豆の摘み方だけにしておけよ……!」

「才能才能って!だったらユウも剣を振ればいいじゃない!努力が才能なんかよりもよっぽど大事だって、私が教えてやるわよ!この私の、努力の剣でね!表へ出なさいよ!」

「……ど、どうしようタマちゃ……あ!それお姉ちゃんのハムエッグ!!
だめだよ!……ほら!わたしのハムエッグあげるから、食べちゃだめだよ!
……あ、ちが、わたしのハムエッグをお姉ちゃんにあげれば……あ、食べちゃった……」

この程度の摩擦はユウとティアにとっては日常茶飯事ではあるが、幼いアルマにとって、兄と姉にあたるような2人の喧嘩は別の次元のことのように感じられる。ただおろおろしつつ、にらみ合う2人と自身のハムエッグがタマの胃袋に消えていくのをみていることしかできないアルマは、己の無力さとハムエッグを守りきれなかった悔しさより、頭が白くなっていく。

「お、おに、おね……やめ……」

声も出せずに、ただただハムエッグをを見ていることしかできない。


「……だったら、アルマ本人に選ばせればいいじゃねえかよ……みてろよ、アルマは絶対に剣士になんてならねぇんだよ!」

「ふん、面白いじゃない!そう長くはないけど、アルマは私の背中を見て、魔物の最期を見てきた!
憧れるのにユウと私の背中じゃ差は歴然よ!」

「「アルマ!!」」

「ひっ!?……ご、ごめ……っ!」

「魔法だ!今の世の中、魔法が使えりゃ剣はいらねえ!」

「剣だよ!魔法だって剣があれば切れちゃうよ!魚だって捌けるし、イノシシだってスライスできるよ!」

「そ、その……わたし……」

「あ!聞こえた!今魔法って!」

「言ってないよ!!適当なこと言わないで!!」

「……わたし……」


幼い少女から発せられた精一杯は、実に中途半端であり、また、実に合理的で、結果として見事に2人を黙らせる。
この騒動の後、変身し、事の状況を理解したタマがアルマに同情するのはまた別の話である。
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