すっかり慣れてしまった下山道、ススキの高原、街のゲート。
並んで、話して、時折かき分けながら、私たちはプロの足取りで踏破する。
途中でさりげなくゲートの衛兵さん用のタケノコも拾っていくぐらいだといえば、私たちがこの道のりにどれだけ慣れたのかを察してもらえるだろう。
最早何度目の到着になることか、ここ、ポポラマ山脈の麓の街『カフェテラス』はなにかとコーヒー関連の物を全面に押し出す。
今だってそうだ、周りの建物の多くはさりげなくコーヒーカラーが多かったり、喫茶店の看板はこぞってコーヒーカップの形をしている。
ひどいところだと、お肉やさんの看板なのにコミカルな豚がコーヒーを啜ってるものなんかもある。

でも、コーヒー関連とはいっても、なぜかコーヒーそのものではない。あくまでも『コーヒー味のもの』であったり『コーヒー色の物』などなど、コーヒーの皮を被ったただの街だ。
私たちのワクワクドキドキビンゴナイトの景品もコーヒー味シリーズだった。

……なぜ、この街はそこまでコーヒーを推すのだろうか。
なぜ、その謎のコーヒー推しが名産にまで登り詰めているのか……それは──

「──ユウ?どうしてだと思う?答えるがいいわ!!」

「どうしてって……なぁ、アルマ……知ってるか?」

「いいえ、わからないです」

コーヒーブラウンな私の剣士服をまじまじと眺めつつ、二人の魔法使いは首を傾げた。
フードの中の仔ウルウルフはうるうるしてる。
ふむ、アルマちゃんもわからないか……ユウにしてもそうか、無理はないよね。

「そっかぁ、わからないかぁ。
実はね、この街がやたらとコーヒーを推しているのはある物語がきっかけなの」

「物語……?」

「物語……!」

うんうん、けったいな渋柿顔のユウは置いといて、アルマちゃん、いい喰いつきね!
この街のコーヒー推しの元になった伝説、実は演劇や童話にもなってたりしていて、私はそれらを既に知っている。
まさか旅の途中で偶然にも元ネタになった街に来ることになるとは夢にも思わなかったけど。

「そ!物語!ききたい!?」

「いや、べつ──

「はい!ききたい!!」

「はい、そうねー。『アルマちゃんは』いい子ね、私の話に関心を持ってくれてありがとうね、『アルマちゃんは』…ね?」

『いや、別に。興味ねえし』
と言おうとした魔法使いのことなど私はしらない。
あの気の抜けた様なアホ面から吐き出されるであったろう言葉はそうであったに違いない。
まったく、魔法の勉強ばっかりしてさ!たまには童話や演劇の勉強もしなさい!
早速私がその物語について……と、言いたいところだけど……

「でも、このお話はお預け!」

「え!なんでですか!?
ティアさん意地悪しないでください!」

「そうだぞティアさん。
意地悪するなよ」

「全く、私がアルマちゃんに意地悪なんてするわけないでしょう?
ユウは知らないけど」

「……おう」

ここいらでネタばらし。
私はポケットから今日の演劇の前売り券三人分を取り出し、それを一枚ずつ、ユウとアルマちゃんに手渡す。
ちょうど劇場も見えてきた。

「……『コーヒー色の夜明け』?」

物珍しげに両手で前売り券を掲げるアルマちゃんの隣でユウが声をあげた。
そう、私が今回用意した演劇は……

「はい!今回これから私たちがみる演劇こそが、この街のコーヒー推しの元になった物語になります!!」

「「おぉ……!!」」

よし!次はユウの食いつきも良かったね!
今回これを見てもらおうと思ったのは、この物語が私の好きな物語であったのと同時に、どうしてもこの物語をアルマちゃんに見せてあげたかったからだ。
内容は、とある女の子が家政婦の見習いとして親戚の若いお兄さんとお姉さんの営む小さなコーヒー喫茶でお世話になることになるところからはじまる。
女の子は最初、おどおどしてて、びくびくしてて、お兄さんにもお姉さんにも遠慮をしっぱなし、仕事のお手伝いも失敗ばかり。
それでも優しく接してくれるお兄さんとお姉さんに気が引けてしまう女の子は、さらにお兄さんとお姉さんから距離をとっちゃうんだよね。
そんな女の子に心を開いてもらおうとお兄さんとお姉さんはあれよこれよと手を打つ。楽しいこと、厳しいこと、不思議なことなどなど、女の子のために色々と用意する。
そんなお兄さんとお姉さんの気持ちが通じて女の子は二人に心を開くんだけど、あろうことか、今度は今までの遠慮が災いして女の子は素直に二人に甘えられない!

そこで女の子は二人と距離を縮めるためになにかを用意しようと四苦八苦する。

そして生まれるのがコーヒー味の○○シリーズ!
女の子はコーヒー味の○○シリーズをいっぱい用意して、お兄さんとお姉さんに笑ってもらって距離を縮めようと頑張る!健気!
そうして女の子が二人にコーヒー味の○○シリーズをお披露目しようとしたまさにその当日、お兄さんとお姉さんに詐欺の疑いがかかって、恐い恐い国王様に二人は捕まっちゃうんだったよね。

それで、女の子は国王様になんとかして二人を許してもらおうと、自分が出来ることを精一杯する。
それで国王様から『わたしが食べたことがない食べ物を用意できたら許してやろう』って言われて……そう、見事に国王様をやっつけるんだよね、コーヒー味の食べ物の数々で。

そうして降参して大笑いした国王様は、女の子の住む街の名前を『カフェテラス』と名付けたって話!

笑いあり、涙あり、コーヒーありの、どたばた喫茶コメディだ。

それで、この物語の最大の見せ場はそうだ、ラストだ、最後の最後!!
がらんとしたコーヒー喫茶で、お兄さんとお姉さんの帰りを迎えた女の子ははじめて二人に素直に甘えるんだよね!
『おかえりなさい!お兄ちゃん!お姉ちゃん!』
って!

そう……『お兄ちゃん!お姉ちゃん!』って……!!
そう……この演劇が終わる頃、きっとアルマちゃんは私とユウのことをお──

「──おい、ティア、いつまで入口で固まってんだよ、ほかの人の邪魔になるからさっさと入ろうぜ?」

「ティアさん、大丈夫ですか?顔赤いです、熱っぽいんですか……?」

不思議そうな二つの視線で私はふと我に帰った。
劇場の入り口のポスターに気をとられていたみたいだ……。

「……ごめん……私は大丈夫だから気にしないで」

楽しげな笑顔で劇場の中へと消えていったアルマちゃんに続いて、私とユウも劇場に入ることにした。
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