またも私たちは長老宅の例の部屋の例の食卓に集まって話している。
アルマちゃんは前回と同じようにパタパタとお茶の用意。
でも、ユウは前回とは違って聞き入る体勢ではなさそう……何か言いたげな仕草と視線で長老と向き合っている。
アルマちゃんが四人分のお茶を用意し終えたところで、そっと私の隣のへと座った。
そう、座った。私の隣に──長老を差し置いてだ。

「おい、なにどや顔してんだよ……」

「え?なに?どや顔?私が?まさかぁ!」

はい。してました。ごめんなさい。
にこにこしながら、恥ずかしそうに私を見上げたアルマちゃんに私が頷いたところで、長老が話をはじめた。

「今回は、共にゴブリン達と戦ってくれてありがとう。
君たちは強いな」

「……どうも」

「……ありがとうございます……私はなにもしてませんけど……」

「ふむ……それはいいのだが、なぜまた集落へ…?」

……ま、まぁ……そうなりますよね。

「……それは……ティア。頼む」

そしてユウはずるい。
実は私と同じぐらいにアルマちゃんと遊びたいくせに私に言わせるなんて!
女々しいったらありゃしない!
私は男らしく素直に言うよ!女だけど!

「アルマちゃんと遊ぶために来ました!」

「……と、いうことです。
実は深い意味はないんですよ」

「……そうか。
それなら問題はないんだ」

『それなら問題はない』?
なにかつっかかる言い方だなぁ。
長老は一口湯飲みから緑茶をすすると、一息とともに表情から緊張を逃がす。
ユウは……今回の一通りの疑問についてなにか触れる気はあるのかな?
アルマちゃんの両親のこと。
アルマちゃんが集落から出してもらえない本当の理由。
そして、『契約』について。あたりでね。
隣のユウはどちらかというと小難しい顔をしている。
疑問と言うより、不安げだね。

「……まぁ、あなた方が見たとおりだ。
ああして我々はほぼ毎日、ゴブリンたちと戦闘を行っている」

「ふむ……。
ゴブリンたちが……集落を生かしているって言ってましたが……あれはどういう……?
アルマの活躍と併せてみるに、集落の勢力がゴブリン達に劣ってる様には見えませんでしたが……」

ユウが疑問を口にした。
言われてみればそうだ。あのゴブリンたち、アルマちゃんの魔法がかかった集落の人達にばちばち圧されてたくせに、よくあんなことが言えたもんね。

「あれはゴブリン達の中でもごく一部だ。
奴らの住処には、もっともっとたくさんの、さらに、もっともっと力を持ったゴブリンもいる。
我々の集落が落とされないのは……おそらく我々が金を探していることを知っているからだろう……。
もしかしたら、我々が大量の金を発見したところで潰すつもりなのかもしれないな」

「……なるほど……奴らも金が……。
そして、横取りするかもしれないと……。
──?待ってください、じゃあ……」

「どうしてわざわざ集落を襲うのか……ってことかな?そうでしょう?ユウ。
どうしてですか?長老」

私の割り込みに一つ頷いたユウを見、長老がさらに続ける。

「……監視。だろう。
我々もゴブリンの行動原理を逐一理解しているわけではないが、最も自然なのはそれだ。
我々が異常に力を持ちすぎないか、怪しい兵器などを作ったりしていないか……などまぁ、色々あるだろう……。
現にゴブリン達は今回も──……」

「……今回も?」

不自然なところで長老の声が切れた。
ユウから聞かれるも、長老眉間にしわをよせ、話しの続きを止めた。
……これは……

「契約に関係してるとか……でしょうか?」

私からの質問には、黙って頭を落とした。
契約の内容については聞かないでおこうか。さっきユウと首を突っ込まないって決めたし、長老の様子からしてもきっと素直には話してくれなさそうだ。

「とにかく、我々がアルマを集落から出したがらない理由もわかっただろう。
こう毎日のようにゴブリン達に襲われているとなると、アルマの様な存在は大きいのだ」

アルマちゃんがでれない理由は予想通り。
疑問は一つ解決した。そして、問題も!
私とユウは頷き、顔を合わせた。
ユウの目に力がある、つまり、私と考えてることは一緒かな?

「ということは、俺たちはこれから五日間は集落の外でアルマと遊んであげても問題ないってことですよね!
ゴブリン達との契約の関係で、最低でも三日はゴブリン達はここを襲わないし、仮に契約が通るのだとすれば、もう襲われない。
そうでしょう?長老」

さすが。一緒だ。
ユウの明るい声と、白い歯を見せた笑顔に、アルマちゃんが驚いて大きく息を吸った音が聞こえた。
サプライズ成功!……なんか、予定とは大きく変わっちゃったけどね!
それに……

「もしどうしても心配なら、私かユウか、タマの内誰か一人が集落に残ります!
言い切りましょう!私たちの内一人あたりでも、アルマちゃんの魔法で強化された集落の人達全員より強いですよ!!」

「──!
お嬢さん、確かにあなたがアルマのゴーレムを一撃で破壊したのは見たけどな、そういうのは──

「実際やってみなくちゃわからない。
ですか?長老。
やりましょうか?……俺たちはアルマと遊んでやりたいだけだ。もし俺たちの内の誰か一人で、集落の人全員を黙らせることが出来ればアルマの外出許可を出してくれるって言うなら……遠慮はしませんよ」

ふん、言うじゃない。ユウのくせに。
まぁ、有翼虎の件からしても、海賊達の件からしても、動く鎧の件からしても、私たちは割と対集団戦へは心得がある!
踏んできた場数が違うからね、並みの旅の人とは!
まして、集落の人達の戦い方は見るからに素人、はっきり言って余裕ね。
めずらしくユウもどや顔だ。
不安そうなアルマちゃんにはすこし申し訳ないかな?……大丈夫だよ、そんなに心配しなくても。
長老だってわざわざ本当にそんなことする気はないだろうし、仮にする事になっても大して大事にはならないよ。
ユウも私も対人の手加減ぐらいできる。八年もほぼ毎日対人戦をしてきてたわけだし……。
………タマは………まぁ、うん。
長老だって、あえて私たちの中からタマを選んだりはしないでしょう……。
うつむき、長老が唸り込んで数秒──アルマちゃんの、歴史が動く!──

「……わかった。
これから数日、アルマを頼んだ。
どうか、その子を楽しませてやってくれ。私からも頼む」

「「はい!ありがとうございます!」」

やった──!
やってやった!アルマちゃんと数日遊んでいい権利を私たちは勝ち取った!!
満足げに立ち上がったユウをみる限り、やっぱりユウは集落やその周辺の問題に関しては深く触れるつもりはないみたいだ。
よし!まだまだお昼ね!
五日間なんて意外と短い、早速アルマちゃんの家に荷物を置いて、これからの予定を立てないとね!

きょとんとした様子で私たちを見上げるアルマちゃんは、湯飲みに口を付けたまま、まん丸の瞳を大きくしたまま、とりあえず動かない。
状況が読めてないみたいだね……まぁ、無理もないか。
ちょっと、サプライズにしても急すぎたかな?

「いこ!アルマちゃん!
私と、ユウとタマと遊びにいくよ!!」

──元気な返事と共に、私たちは揃って長老の部屋の出口を抜けていく。
最後、一番後ろにいたユウは、思い出したかのように長老の部屋のドアから顔だけを突っ込んで言った。

「おっと──長老、一つ言いたいことがありました。
アルマの魔法、やたら無闇に集落の人にかけない方がいい。
あれは正規の掛け算的な強化魔法とちがって、もっと単純な足し算な強化魔法。
アルマがもっと成長して力を持ったとき、魔法をかけられた人間の身体が耐えきれなくなって、集落側が自滅しますよ」

廊下からドアの奥へとなにやら難しいことを言ってる。
戻ってきたユウの顔は、やっぱりどや顔だった。

「……なんの話したの?」

「……ん?
あぁ、あれだよ。
アルマの強化魔法は俺たちにとってはあんまり意味が無いって言ったんだ」

「……?」

「50に50を足すのと5000に50を足すんじゃ、その意味が大きく違うってことさ」

「なによそれ、皮肉ったの?」

「……別に。事実さ」

ぶっきらぼうに返されたその言葉には、文字通り嘘は込められていなかった。

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