ユウが言ったとおりだ。
『二度同じ遭難なんかしない』
私達は、次はちゃんとした目的を持って登山をしている。
ついさっき下ってきた路を、草木の隙間を、集落へと向かって真っ直ぐ駆け上がる。
日は高く登り、白い光を赤や茶色に変える足下や頭上の秋は容赦なく私の邪魔をする。


「なんでアルマちゃん!街に降ろさせてくれなかったんだろうね!」

数メートル先を跳ねるユウへと私は声をあらげた。
リュックが木の枝に引っかかって甲高い乾いた音を立てる。
枝が折れたみたいだ、パキパキざわざわが五月蠅くて会話がしにくい。
いつも大きくて重いリュックを背負ってる私からしたら日常茶飯事、もっともっと狭い雑木林を抜けたりした日はリュックが破けていたりすることもあるぐらいだ。

アルマちゃんはもちろん、集落の人たちもびっくりするだろうね。朝に麓まで送り届けた遭難者が昼前にまた集落まで戻ってきたとあれば……。
リュックが軽いユウは私と違って跳んだり跳ねたりしながら山道を駆け上がる。
ユウのローブのフードの中でわさわさ揺れてるタマは、特に怖がる様子や驚く様子もなく、ただ揺られるがままにフードから顔だけを出して私を見ている。
もちろんユウはそんなタマを気にすることもなく、邪魔な木などは容赦なくかまいたちで切り倒したり、場合によっては獣でも切り倒したりしながら声を上げる。
数メートル前から少し大きな応答が帰ってきた。

「なんでだろうな!それについてももうちょっと気になるし、それを調べるのも含めての登山だろ!
──あ!いったぞ!」

熊?魔物?
声と共に跳ね上がったユウの股下から毛むくじゃらの何かが顔を出したかと思うと、それはすぐさまユウに後頭部を踏み台にされて、前のめりにつんのめりながら私の方へととたとたと流れてきた。
同じように私は跳ねてその背中を借りる。
どうやらリュックのせいかユウよりも重かったらしく、それは私に乗られた途端にとうとう転んで山道を転がり下っていく。ごめん。

「アルマちゃんも許可もらえないのわかってそうな雰囲気だったもんね!
──っちょ!あんまり枝飛ばさないでよ!」

話しにくい上に、ユウが飛ばしてくる枝やら獣やら魔法やらが邪魔だ。
仕方がなくペースをあげて、ユウの隣に並んだ。

「道が狭いんだから並ぶなよ。
……さっきのお前の話と、あの人達の様子からするとな、あの集落、なんか隠してるぞ」

「それにね、アルマちゃんに都合が悪いことかもね」

私達余所者が、形成されきった『社会』に首を突っ込むのはあまり良いことじゃない。
わかってはいるし、仮に疑問が晴れたからといってそれをどうこうできるような気もしない。
でも、単純に好奇心を満たしたい。
あと、疑問の答えの形次第では、アルマちゃんともっと遊んであげることができるかもしれない。
まぁ、いろいろあるけど、別に焦る必要がないのに私達が今こうして走っているのはきっとあれだ、アルマちゃんを早く喜ばせてあげたかっただけなんだとおもう。

ユウもその辺についてはいろいろ言い訳してるけど、なんだかんだいって寂しそうだった今朝のアルマちゃんが頭から離れないんだとおもう。
惚れ薬の時もそうだったけど、割とユウは小さい子供のことを想って行動を選択する傾向がある。
あの子は、コウタ君だったかな?結局惚れ薬を使ったのかな?
ユウの気持ちがちゃんと届いていたら、きっとあの子も惚れ薬に水道水をつっこんでいるはず!

集落まではたぶんもう少しだ。
そのことに気がついたのか、ユウもちらりと私の目を見て頷いた。
──時だ、ユウが顔をこっちに向けたまま、視線を集落の方へと向けた。
……うん、私にも聞こえた。ユウが口を開く前に頷いてみせる。

確かに集落の方から大勢の男の人たちの大声が聞こえてくるし、一瞬地鳴りもした。
また、もっともっと高くて、耳障りな大声も聞こえてくる──独特の訛り、人語とは確かに違うけど、確かにその響きは言語、ゴブリンだ。
人語を話さないタイプのゴブリン、それに、たくさん!

一気にペースをあげたユウに、私もついて行く。

予想通り、すぐに集落にはたどり着いた。
集落の様子を一望しようとしたのか、最後に集落の端の一件の屋根を踏み台にして高ーく跳んだユウに倣って、私も背中の重たいリュックをぶん投げつつ、集落が一望できる高さまで跳んだ。
視界に広がる木造の建物の屋根の数々と、私達の出てきた方とは逆端に集まる村の男の人たち、そして、浅黒かったり、緑っぽい色をした『人型のもの』。

ゴブリンだ。
集落の男の人たちと同じぐらいの数のゴブリン達が武器を持って集落の端に集まり、それと対峙するように集落の男の人たちが長老宅にあった武器の数々を手に集まっている。

でも、私達の目を最も惹いたのはゴブリンの群でも、武装した集落の人々でもなかった。

男の人たちの後ろに見える、昼間に見るには不自然な光を放つ月光の髪色。
その小さなつむじは、泥や石、木で出来た魔物に囲まれている。

アルマちゃんが、人型の魔物に囲まれている──!!──

──ユウ!!!」

私が叫ぶが早いか、小さなタマが豆粒になるが早いか、ユウはフードからタマを荒々しく取り出すと、そのままタマをゴブリンと村の男の人たちとの間に投げ込んでいた。
巨大化したタマが音もなくゴブリンと人々との間に割って入るのとほぼ同時に、私の飛爪刃が、ユウのフロスト=スフィアが、アルマちゃんの周りの魔物を破壊していた。


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