アルマちゃんが眠った後も、私はしばらく考え事をしていた。
お母さんについてだ。
私のお母さんは、私を産んですぐに死んじゃったと聞いた。
忌日が刻まれたお墓も見たし、残っている写真も少ないし、どうやら本当にお父さんと知り合ってすぐに亡くなったようだ。
私は、お母さんのことを写真でしかしらない。その残っている写真だって私と一緒に写っているわけでもなく、ただ、お姉さんが微笑んでいるだけ…。
血のつながりは写真のお姉さんと同じな私の髪色が証明しているし、お姉さんの顔は今の私によく似ている。でもはっきり言って写真のお姉さんがお母さんだという実感は湧かない。私があの人におむつを変えてもらったり、あの人のおっぱいを吸ったことがあるのかどうかも怪しいしね。

……どういう人だったのかな……。
もし、お母さんが生きていて、私と一緒に生活していたら……私の人生に大きな変化はあったのかな?

すごい人だったっていうし、私があのお母さんの娘であるだけで、街中の人からちやほやされてたのかな……もしそうだったら、私はユウと出会わなかったかもしれない。そう考えるとお母さんの存在は私の人生に大きすぎる影響を与えることになる。
そうじゃなくても、もしお母さんがいたとしたら、お母さんは私がユウと旅にでることを許してくれたのかな……?
お父さんは、どうして私が旅にでることを提案してくれたのかな……。
どうして…反対しなかったのかな…。

ふと気になって、隣で眠るアルマちゃんを見てみた。
すごく幸せそうな寝顔だ。布団の下では、小さな手が私の服の端っこを握っている。
愛おしく感じて、その小さな手を上から握ってみた。
暖かくて、かわいらしくて、気持ちが落ち着いていくのを感じる。

──お母さん……か。

この愛おしい感覚を何倍にも膨らませたものが母性なのかもしれない。もしかしたら、もっと別の気持ちをお母さんは感じるのかもしれない。
お母さんの気持ちが少しでも理解できたら、私は自分のお母さんについてももっと深く知ることができるのかもしれない……。

でも、知ったところでやっぱり私にはお母さんはいない。

「…むにゃ…おかあ…さん…」

ちがうよ。

「私は……お母さんにはなれないよ……。
私は『お母さん』を知らないから……」

何やってんだろ。
アルマちゃんの寝言にすらも、私は自信をもってハッタリを張れない。
実はお母さんがいないことは私が思っている以上に私の中でコンプレックスだったのかも……。

……

…………

…………………知らない。私は、お母さんなんてわからないけど……

「……お姉ちゃん……って……呼んでくれたら……嬉しいな……」

……なんてね……。
私はお姉ちゃんもいないから、結局お姉ちゃんも知らないんだ。
けど、私はアルマちゃんのお母さんにはなれない代わりに、お姉ちゃんになりたい…。
少しでもこの子の心の隙間を埋めてあげられたら……うん、私には理解の届かない隙間だけれど、それでも少しでも……私と……いや、私が……だ、気持ちの全てとまではいかなくても、理解の届くまでは……。私もアルマちゃんも、お母さんがいないという事実には変わりがないんだしね……。

……これはちょっと、エゴかな?都合が良すぎるかな?押しつけがましいのかな?……悪いことなのかな……。
私は、この子を演劇を見せに連れて行ってあげたい、おいしいチャーハンの作り方を教えてあげたい、いろんな世界を感じてもらいたい……幸せを分かち合いたい。

この子がお母さんと一緒に出来なかったことも、お姉ちゃんとして、一緒にしてあげたい。

「……むにゃ…てぃあ……さん…」

ちがうよ。

「ふふっ…『お姉ちゃん』って、呼んでもいいんだよ…?」

うん、それがいい。
ユウにわがままをお願いできるかな?

旅にはきっと連れていけないだろうけど、もう少し、もう少しだけ、私はアルマちゃんと一緒にいたいな。

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