夜の集落を往く。

長老がいいと言った、私達も納得した、それを喜んですらいる。
でも、やっぱり不自然だ、こんな小さな女の子を見ず知らずの人間に預けっきりなんて。
長老さんは本当にアルマちゃんを大切に想ってるのかな?
タマを抱いた白い背中が私とユウの前で可愛らしく揺れている。

「こっちですよ、ユウさん、ティアさん!」

「はい。
アルマはモンブランケーキは好きか?今日はティアがおいしいモンブランケーキを作ってくれるからな、おなか空かせておくんだぞ?」

「ほんとう!?モンブラン大好きです!
お母さんがよく作ってくれてたから!」

「──!」

はっとした。
ユウも同じだったみたいだ、特にユウは、私にもお母さんが居なかったことを気にかけてくれるあまり、この手の流れには人一倍敏感だ。
リリーナのお父さんの話を聞いたとき、一番困ったような顔をしていたのもユウだったしね。
私としては慣れっこ……まぁ、私の場合はお母さんの記憶がほとんどないからなんだろうけど……。
ここだけの話、私のお母さんはすごい人だったようだ、お父さんはことあるごとにそんな話をしながら写真たてのお母さんをなでていた。
ちなみに私の髪はお母さん譲り、世界的に見ても珍しい明るさの髪。
写真の中のお母さんと私は同じ髪の色をしている、これについてもよくお父さんは「母さん譲りだ」って言っていたし、私が誕生日を迎える度に「母さんそっくりになってきた」と笑っていた。
なんでも、私のお母さんは一国の皇帝の息子さんと結婚が決まっていたのだけど、戦乱の最中で知り合ったお父さんと一緒に駆け落ちしたんだとか……!!
……どうも出会いの流れを聞くと、死にかけてたお父さんをお母さんが助けたみたいな話だったけど……お父さんよりお母さんのほうが圧倒的に強かったみたい……というより、私のお母さんが……うん。
王国の博物館にお父さんと二人で行ったときにその話を聞いて、それから私は髪を染めなくなったんだったね。
慰霊碑にお父さんの名前が刻まれていたのには私も驚いたっけ。
当時は慰霊碑がなんのためのものかもわからなかったけど、大きな綺麗な石にお父さんの名前が書いてあったことに純粋に驚いた。
それで引っ越してからユウと初めて会ったんだったね……あの時は髪の下半分が真っ黒だったからユウは驚いたかもしれない。
ふと、そんなことを思い出して、アルマちゃんの頭を撫でてみた。
不思議そうにきょとんとした顔が私を見上げている。
アルマちゃんのこの月明かりみたいな髪も、私と同じくお母さん譲りなのかな?

「アルマちゃんの髪、綺麗ね!
今日のお月さまみたいだよ」

秋の夜月は明るくて、透き通っていて、白くて綺麗だ。

「えへへ……お父さんも…ほめてくれてました……」

何処のご両親もいっしょらしい、不意に笑いがこみ上げてきて、三人で小さく笑った。
ユウも少しほっとした様子で私が金塊をたけのこと勘違いした時の話を始めた。

程なくしてアルマちゃんの家について、本当に楽しい時間を過ごした。
時間が時間だったから、ご馳走を食べてからお風呂に入ったらすぐに寝る時間になっちゃったけど、とても有意義な時間だった。
あれほどユウが楽しみにしていたモンブランケーキは結局タマが平らげちゃって、アルマちゃんと一緒にサツマイモのケーキを作り直したり、お風呂では結局演劇の歌を歌うことになったり、パペット人形をひとつアルマちゃんにあげたり……。
なにが大変だったって、調味料がなくて、長老の家とアルマちゃんの家を行ったりきたりしたことだ。
最後の最後のバニラエッセンスを取りにいくまで、いやな顔ひとつしないで対応してくれた長老には頭があがらない。
この数時間、確かに私はお姉ちゃんで、ユウはお兄ちゃんだった──

──それで、呪われた王子様は悪ーい魔女に魔獣の檻に閉じこめられちゃうの!」

そして夜も更け、後は眠るのを待つだけだ。
私はアルマちゃんと一緒のベッドに入って、ある『童話』を話している。
このベッドはアルマちゃんとアルマちゃんのお母さんのベッドで、アルマちゃんはよくこうしてお母さんとゆったりした夜を過ごしていたらしい。
ユウはタマと一緒にアルマちゃんのお父さんの部屋を借りてる。

「お姫様は、どうなっちゃったんですか?」

「ん?お姫様はね、王子様が大事にしていた杖で、魔女と戦うんだよ!」

「……え!?」

「大丈夫、お姫様はね、剣と同じぐらいに魔法が得意なの!
でもそれがさ、すごいんだよ!?魔女、意外と武闘派なのよ!
魔女のくせに魔法の槍を振り回したりするの!
お姫様は魔女を倒して王子様を助けに行かなきゃいけないんだけどね、魔女が強くてなかなか助けにいけないの……」

「そんな…!!」

いちいち反応が可愛らしくて、物語に熱が入ってしまう。
笑顔で喜んだり、眉毛を八の字に困らせたりと、アルマちゃんは表情が豊かだ。
薄暗い部屋の中、私はアルマちゃんが眠るまで話を続けることにした。

「結局王子様は王子様で勝手に魔獣を倒しちゃうんだけどね。それで、お姫様は呆れて王子様を杖で殴ります。
魔女は王子様が戻ってきたことで悪いことをするのを諦めるの」

「……そんな……でもそれじゃ呪いは……」

「……解けないよね~。
ほんとね、王子様が死んじゃうんじゃないかってね、お姫様は王子様と狼と一緒に歩き回るの、手当たり次第に国の人達にお話を聞くんだよ」

「……うん!」

「でも、やっぱり王子様の呪いに関するお話は聞けなくて、お姫様と王子様はがっかりしながらお城に帰ってくるんだけど……。
その晩、結局呪いが解けなかったことを嘆きながらもお姫様と王子様は出会ってからのお話をするの。
王子様はね、あきらめないっていうんだけど、本当は諦めてるのにお姫様も気づいちゃうの。
だって、王子様、ちょこちょこ泣きそうな顔するからさぁ……うふふ」

「……じゃあ、王子様は……」

「それからね、寝る前に、とうとう王子様が返事をしなくなって、お姫様はお話をやめてしまいます!」

「死んじゃったの!?」

「いや、王子様はね、お姫様にバレないようにお城を抜け出すの……。
お姫様は、決意を固めた王子様を引き留めちゃいけないから必死に声を殺して王子様の方を見ないの。
そうして王子様は狼にお姫様を託す話をして、お城を出て行きます。
その話はベッドのお姫様まで筒抜け。間抜けだよねー。
去っていく王子様の背中を、お姫様は狼と一緒に窓から見送るの…あぁ…悲劇悲劇」

「……なんで!!王子様ひどいよ!!」

「それは、あれね。
そうかもしれないけど、お姫様はね、王子様が不器用なの知ってるから……ね。
最期ぐらい……」

「……でも……」

「アルマちゃんにも大切な王子様ができたらきっとわかるよ」

「……」

「それからなんだけどね、この童話のすごいところはさ」

「どうなっちゃうんですか!?」

「次の日の朝、王子様が普通に帰ってくるの!
ボロボロの服で、でも、無傷で!!」

「……え!?呪いは!?」

「……なんか、お姫様が殴った時に解けちゃったんだって。
よくわからないけどね……」

「でも!王子様が帰ってきてよかった!」

「うん、そうだね!私も良かったと思うよ!」

そう。
そんな難しく考えなくてもいい。
童話でも、そうでなくても、終わりよければ全てよし、お姫様と王子様の旅は全てがよし。

「ふあぁ、眠くなってきちゃいました」

「ほんとう?アルマちゃんもそろそろ寝ようか!」

「待ってください、もうちょっとだけ……」

「……ん?」

「お母さんといるみたいで……。
もうちょっとだけこのまま……」

「……そっか」

私は、お姉ちゃんを通り越してお母さんになってしまったみたいね。
母性本能の赴くままにアルマちゃんを愛でるのも悪くないわね!

………でも、やっぱり変だ。

聞いちゃいけないのかもしれない、けど、もしアルマちゃんがよかったら……聞かせてほしい。
アルマちゃんには家だってあるし、その家だってまるで少し前まで人が住んでいたような感じ。
でもアルマちゃんには両親がいなくて、長老宅に居候していて……。

「──ねぇ、アルマちゃん?」

「……なーに?お母──!
あ、ごめんなさい…なんですか?ティアさん……」

「あの…アルマちゃんのお父さんとお母さん……」

──沈黙が、部屋を包んでしまった。
やってしまったと、今更ながら後悔する。
私はお母さんとの思い出がないから平気だと想ってたけど…アルマちゃんは違う。
ここがそうであるように、アルマちゃんがさっきそう言ったように、ここにはアルマちゃんとご両親の生活があって、思い出があって……私とは、違うんだ。
こんな小さな子の気持ちも考えることもできずに私はお母さんだとかお姉ちゃんだとか……恥ずかしい。
ひどいことをしてしまった

「──いや…ごめんね、アルマちゃん…私──

「いなくなっちゃったんです」

──え!?」

「お母さんがいなくなっちゃって……そのあとすぐにお父さんも……」

なにが起こったのかは聞かなかった。
憂いも悲壮感も含まない真っ直ぐな声に、きっとアルマちゃんにも答えられないのだろうと、直感で感じたからだ。
でも、それなら納得だ。突然いなくなってしまったなら、そりゃあ家だってそのままにするだろうし、いなくなってしまった両親に代わって長老が面倒を見ているのも納得だ。
長老から特別アルマちゃんにたいして思いやりらしい思いやりが感じ得ないことや、長老の言う『アルマちゃんが不幸』というのも、なんとなくわかる……気がする。

私はアルマちゃんのおでこに手を置いて、ただその吐息が寝息に変わるのを待った。

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