──あの煙、どう見ても山火事じゃあないよな……」

「そうだね、山火事なら、もっともっと燃え広がるだろうし、山全体がもっと騒々しくなるんじゃないかな?」

瓶詰めのサラダドレッシングの表面の油膜のように、赤い空の上には星空が乗っかっている。
結局こんな時間まで私たちは山の中。せっかく用意した籠の中身も三分の二止まりだ。
サンバイザーを外して、背中の籠の中へと放る。もう要らないでしょう、サンバイザーは。
おでこからの陰がなくなって、少し視界が明るくなったように思ったのもつかの間、私はすぐに足下の、そして、森全体の薄暗さに気づかされる。
それでも進んでいく。それすらも薄くなり、見えにくくなっていく煙の筋だけを頼りに。

時刻は六時をまわった頃かな?……さすがにこの時季のこの時間帯ともなると、鬼コーチスタイルだと肌寒さを感じずにはいられない。

「ユウ…今日はもう帰ることにしてさ、煙の正体は明日突き止めることにしない?」

「また明日もここまで足を運ぶのは億劫だし、今日の内に済ませちゃおうぜ。
それに気になるもんを放っておくとストレスだ」

探索は続行だね。
右手で金塊を弄んでいる隣の黒い魔法使いは、闇にとけ込んでさらに黒くなってる。
少し考えた様子で虚空を一瞬見つめた後、ユウはおもむろにローブを脱ぎ始めた。
ローブだけじゃなくて、中に着ているワイシャツまでいつも通り。ユウは服装には無頓着だから、まだ夏服でしょう。
この寒いのに、なにしてるのかな。

「──あっ」

「気になるもんを放っておくとストレスだ」

「……ありがと、さむくないの?」

「……中に着込んでる」

「……そっか」

それでも『寒くない』とは言わないんだね。
そのまま、ローブが私の肩に掛けられた……。
あったかい。
着込んでいるとは言ったけど、脱いですぐから鼻啜ってるし、本当はやっぱり寒いんじゃないのかな?
またユウは私に対して負い目を感じてるのかもしれない、私を山菜狩りに誘ったのはユウだし……気を使わせちゃったか……。

『無理しなくてもいいよ』

という言葉が、喉まで出てきてつっかかる。
なんだか、こういうことは私の立場だからこそ言うべき言葉なのかもしれないけど、今は…少し野暮ったい気がする。
せっかく甘やかせてくれてるんだから、そういうときぐらいもう少し甘えたい。
せっかくカッコいいところをみせてくれるんだから、そういうときぐらい水をささない。
それが、良い幼なじみ、良い関係だ。
多くの言葉は要らない、その分多くの思考でやりとりするから。

あの時も、あの時も、ユウはこんな感じ。
それなら、私は今もこうでありたい。

会話が途切れた。
でも、それは気まずい沈黙じゃない。
互いに思考を読みあって、読ませあって、理解しあうための沈黙だ……と、私は考えてる。

そのままおし黙って歩くこと数千里。
……盛った、たぶん数キロ。
私たちの目の前には、木造の家が数十件ほど立ち並ぶ、小さな小さな集落が広がっていた。

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