そうして用意した背負い籠は、街の雑貨屋さんで一番大きなサイズのもの。
私のリュックと同じぐらいに大きくて、それを背負ってお店を出ようとしたとき、すれ違ったおじさんが大笑いしていて、そのおじさんの顔をみたユウも大笑いしていた。失礼だ。
かくいうユウは手さげタイプの籠にしてた、ユウのくせにいちいち女々しい。
そのくせいっちょ前に白いタオルをバンダナなんかにしてて男らしい。
小憎らしい。
ちなみに私は三つ編みに布のサンバイザー。軍手もちゃんと用意したし、服だってサウスパラダイス時の鬼コーチスタイル。完璧だ。

で、肝心の籠の背負い心地はというと、竹をこう、ぐるっとあやめに編んでて、ぎっちりっていうよりすけすけになってるから、見た目通りすごく軽い。
その上、口もリュックより大きいし、蓋チャックもなくて、物の出し入れが容易。
ユウのはちゃっかり蓋がついてた。
小賢しい。
柔軟性こそリュックには劣るものの、ひょっとしたら普通の依頼に向かうときはリュックよりも、この竹籠の方がいいのかもしれないわね!

……って、思って、ユウに相談してみたら大笑いしてた。

なんか、突然の山登りってことでユウもテンションが上がっているみたいだ。
さっきから私の籠にタマを投げ入れたりしてきゃいきゃいはしゃいでいる。
私も山登りは好きだ……と、思う。あんまり山登りなんてしたことはないからよくわからないけど、この澄んだ空気の中、高い高い青空の下をこうしてあるいているだけで楽しい気持ちになってくるのだから、あながち間違いではないかな。
時々私たちの間を抜ける風も、寒いというよりも冷たくて心地いい。
伸びきった綿あめみたいな雲がいつもよりもコントラストの強い青を飾っていて、風情を感じさせる。

しばらく、まだまだ日が白い午前の街を散歩する。

「栗ったら、栗ご飯はもちろんの事さ……」

街の大通りにさしかかった辺りで、ユウが私をちらちらと見ながら話を始めた。
もちろんの事って、栗ご飯意外にも栗の定番があるってこと?

「今夜は貸し出し厨房だな……たのむぜ!ティア!」

パツン!と両手を合わせて、タマの様な瞳を広げたユウ。
その瞳の輝きに、私は心当たりがない。
もちろん私は今夜、秋の味覚で腕を振るう予定だけど……

「頼むって、なにを?」

そんなに定番で楽しみみたいな反応をされると、少し私も献立てには自信がないかな。
……だから、聞くよね。
するとユウは愕然とした表情で手足をバタバタさせながら説明を始めた。
私はこの説明で二秒で理解する。

「ほら!あれだよ!あれ!!栗のクリームがぶりぶりしたケーキ!!」

「……あぁ、モンブランか!!
私も食べたい!!作ろっか!」

ぶりぶりって表現はどうかと思うけど、ナイスアイディアね!
献立てにモンブランはなかった!
自慢じゃないけど、私の自慢はチャーハンだけじゃない!
そういうと、ユウはあきれた様子で「……頼むぜ、今の俺はお前だけが頼りなんだから…」なんて、料理ができない自分を嘆きつつ、調子のいいことを言っててちょっと可愛かった。
子供のころから、食べることには必死なんだよね、ユウ。
その後、ユウがせっかくだからと『ケーキを題材にしたクイズ』を出してきた。
たしか、三個のホールケーキと、四切れのケーキを、A、B、C、の三人の子供たちで平等に分けるにはどうすればいいか?
なんてクイズだったっけ?

答えは簡単だった。

Aが、ケーキをおなか一杯たべる!
Bも、ケーキをおなか一杯たべる!!
Cも、ケーキをおなか一杯たべる!!!

と、私は答えた。
ユウはポカーンと大口を開けて「……なんでそうなんの……?」
って聞いてきたけど、私からしたらそんなこともわからないからユウは三流なのよね!
そもそも、子供が三人で三個以上ものホールケーキを食べきれるわけがない!このクイズはケーキが余るのが前提!
もっというと、子供一人一人の満腹量は決まってる、だから、一人一人が満腹までたべて、みんなが平等に満腹感を得られれば、それでみんな平等に幸せだ。
みんなが平等にケーキをおなか一杯にたべること、平等に幸せを分けること、それが、三人で平等にケーキをわけることだ。
って答えたら、しばらく悩んだ様子で「なるほどなるほど」つぶやきながら、最後に一人で笑ってた。
意味がわからない。
最後の最後に「たぶん、正解でいいよ。もう、それがさ」と、ユウが言ったとき、私たちは街のゲートへと着いていた。

この街のゲートも、アリエスアイレスのゲートみたいに衛兵さんが常にいて、ゲートの規模もアリエスアイレスみたいに大きくて頑丈そうだ。
街にたどり着く前の高原にはそんなに物騒な魔物や獣はいない様子だったけど……そんなに護る必要があるのかな?

これから山に登るというのに、飽きもせずに黒いローブ姿のユウの後ろについて、二人でゲートをくぐろうとしたき

「おう、お嬢さん?
その格好、まさか、ポポラマ山脈へ?
しかもそのおっきい籠!……まさか山菜狩りに?
ポポラマ山脈へ!?」

衛兵さんに話しかけられた。
気持ち程度の椅子に座って、少し早めのストーブにあたった30歳ぐらいのその顔は、私がユウにモンブランについて聞いた時の様に愕然としていた。
ポポラマ山脈?……っていうのかな?あの紅葉の山。
二回も聞かれたけど、ポポラマ山脈がどうかしたのかな?

「……ん?えぇ、そうですよ……えー、と。
はい、このまま東に七キロぐらい行ったところにある山脈ですよね?」

私が驚いてぶんぶんうなずいていると、ユウは自分のリュックのよこに刺していた地図を取り出し、開いて、衛兵さんに確認をとっていた。
そして、衛兵さんはユウから確認をとるなり、ユウの言う山がポポラマ山脈であることをまた確認してユウと私の身なりを確認し始めた。

「ふむ、少年は杖…お嬢さんは……宝剣?少年の杖もずいぶん綺麗で飾りっぽいけど……闘えるかい?
あぶないよ?」

「あぶない……んですか?」

訝しげなユウの問いに、衛兵さんは納得した様子で声を大きくする。

「あぁ、君たちは旅の人か……それなら俺には説明する義務があるな。
言ってしまえばポポラマ山脈は特定危険区域だよ、ある程度腕に自信が無いなら、あまり深くは入らない方がいい」

「何か出るんですか?
俺もコイツもこんなんですけど、一応戦闘の心得はありますよ!」

「ほぉう、なら、そのやたらと綺麗な武器はちゃんとした武器なんだな!
それなら……大丈夫か。
君らの死体がこの街に運ばれてこないように祈るよ。……といっても、ゴブリンに殺されちまったらな、ちゃんと死体が残るだけでも幸運だけどな。
なにか出るもなにも、あのポポラマ山脈の一帯はゴブリン族の縄張りなんだ。
下手に足を踏み入れればそれだけでゴブリンどもに敵とみなされちまう!
腕に自信があるなら山菜狩りまでは止めようとはおもわないけど、あまり深くは入らないようにな」

そういって腕を広げて、その腕の間を渋い顔つきで衛兵さんは睨んだ。
その動き、表情が死体を表しているようにもみえる。
半分冗談みたいに話してるけど、衛兵さんの様子からすると、死体が山から出てくるのは珍しいことじゃないのかも……!
ゴブリン……か。
亜人種ね、人間とはなにかと相性が悪いから争いがちな種族の。
でも、人語を扱う個体もいるし、アリエスアイレスにもゴブリンの料理屋さんもあったから、必ずしも悪いのばっかりじゃないんだけどねぇ……。

「はぁー、なるほど。
だから、そんなに強い魔物が出たりもしないのに、こんなにおっきいゲートを置いてるんですね?」

「察しがいいな、お嬢さん。
ひょっとして、お嬢さんがたの故郷にもこんなゲートが?」

その通り、アリエスアイレスの片側のゲートの外は強い魔物でいっぱいだからね!
ということは、このゲートから察すると、ゴブリン族も束になるとアリエスアイレス周辺の魔物ぐらいの脅威になるってことかな?

「はい、アリエスアイレスっていう街に住んでたのですけど、アリエスアイレスにも同じぐらいのゲートがありましたよ!」

私のその言葉を聞くなり、衛兵さんは少し考えた様子で首を傾げて、安心した様子で微笑みながらマナ水を一本取り出し、投げてくれた。

「そうかそうか!君ら、アリエスアイレスに住んでたのか!!
それでいて戦闘の心得があるということは相当だろう?
よし、それならあまり心配はいらないか!少年!男ならお嬢さんをしっかり護ってやるんだぞ!」

「あ、マナ水じゃん、それ。
いいんですか?衛兵さん!このマナ水いただいても…!」

「おう、いいぞ!少年!
かわりに俺はタケノコが欲しいな!」

「わかりました、衛兵さんの分もとってくるぞ!ティア!」

「うん!」

衛兵さんと言葉をかわして、ユウと私は笑って礼を言ってその場を後にした。
衛兵さん、アリエスアイレスについて知ってたんだ……。
あの辺の魔物、やけに強いとは思ってたけど、もしかしたら知ってる人たちの間では結構有名なのかな?

ゲートをくぐると、秋空の高原にススキが揺れている。
その様子がなんとも不思議なほどに『秋』を感じさせてくれて、私の中で、秋の味覚狩りと、自慢のモンブランケーキを食べたときのユウの反応に期待が膨らんだ。

せっかく大きい籠を用意したんだし、たくさん、たくさんの『秋』を拾わないとね!

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