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赤地の端っこに走っている白い線を摘まんで引っ張る。

「……よし!」

私のお気に入りのリボンだ。

夜に入る布団の暖かさと、明け方の冷気の惨たらしさが直に身体に感じられる季節が来た!

いつも通りの今日がはじまったけど、今日の私は少し違う。
遠くにそびえる山々は、赤くなったり黄色くなったり。
街を歩いていても、街路樹から落ちた葉っぱが目立つようになった。
そして、鏡に映る私は秋用の剣士服。少しオレンジがかったコーヒーブラウンは、窓の外で世界の色味を奪う枯れ葉っぽいし、胸元のリボンは紅葉のようだ、私の頭は黄葉。私も、秋。

今日から衣替え。
衣替えの初日は、私は必ずリボンをリボン結びではなくて、ネクタイ結びにする。
そうすると、なんだか気が引き締まるし、季節の終わりと始まりを感じるからだ。
最近では特に夜はめっきり寒くなってきたから、いくら長袖だとはいってもワイシャツが剥き出しのタイプの剣士服だと心許ない。

夏の終わり。

重ね着で少しごわつく袖はまだまだ違和感があるけど、すぐ慣れる。これも、八年前に初めて剣士服を買ったときからずっと同じ。
そして今日も、私は年がら年中黒ローブのそばかす面を冷やかしに向かう。

重たいリュックを一旦部屋の外へと出し、私も部屋の外に出て、入り口からぐるっと、忘れ物が無いかを見回し、ホテル入り口のフリースペースでくつろぐユウのもとへ。

リュックのせいで狭くなった赤床の廊下を端まで行き、七段ずつの階段を八セット。一階へ。

フリースペースの端っこの窓際のテーブル席に、いつもの姿を見つけた。
やっぱりユウはくつろいでいた。
黒い背中を丸ーく丸めて、つきだした下顎を向かいのテーブルの端に乗せ、なぜかタマのジャーキーの端っこを前歯ではみはみしている。
その顔の隣でタマも、ユウと同じようにテーブルの上に伸び、向かいのティッシュ箱に下顎を乗せて誇らしげにふるえている。

「………」

「………」

「……あの、ユウ……?」

「……あ?」

「………おはよう」

「………」

「………」

「………おう……もぐもぐ」

何だろう、嫌にユウのテンションが低い。
声をかけてしまっていいのか迷っちゃうぐらい、ユウの視線は虚ろでやる気が感じられない。
なんだか不安と不気味な気分に襲われたけど、なにも気にしていないような素振りを見せながら、私もユウの向かいに腰掛ける。

「……それ、おいしい?」

「……味しねえ……」

「………そう……」

けだるそーうにテーブルの下から左手を出したユウは、タマの頭を撫でくり回したついでに箱の中からティッシュを一枚取り出し、めんどくさそうにそれを自分の目の前に広げると

「……ぷぺっ……」

ジャーキーを吐き出した。

「……どうしたのよ、ユウ、具合悪いの?」

私が聞いてみるも虚しく、ユウからもタマからも反応が返ってこない。
端っこにだけ歯形の残ったジャーキーを持ち上げて、私はそれをすかさずタマの口に押し込んだ。タマもどや顔でぷぺって吐いた。
とうとう落下地点に紙切れの一つも敷いてもらえない悲壮感漂う赤肉の成れの果てを眺めながら、黙ってユウの言葉を待つ。
ユウが何かを言いたげな雰囲気を醸し出していたこともあったし、なによりユウが荷物を持っていないことに違和感を感じたからだ。
だって、今日の朝、この街を出発するって言ってたのに、ユウが荷物をもってきてないなんておかしいでしょ?
そうすること約八秒、ユウがようやく口をきいてくれた。

「……なぁ、ティア?
この街に来て、俺たちがしたこと……一つ!」

「マナ水、おやつ、その他諸々消耗品の買い足し」

やっと口をきいてくれたと思ったらそんなこと?

「おっけー、二つ!」

「簡単な依頼を私が四つ、ユウが六つ。
さらに、二人で三つ」

「あ、ちょっと、ジャーキーとってくれ」

すかさず私はユウの口にジャーキーを押し込んだ。

「はい、ありがと。
そうだな…三つ!……もぐもぐ」

「二人と一頭の、ワクワクドキドキビンゴナイト。
景品はこの街の名産品『コーヒー味の○○シリーズ』」

「おう、四つ目は?」

「……もうないでしょ……?」

そうだ。ユウがなにをいいたいのかはわからないけど、この街に来てからやったことの確認ならそれだけだ。
この街でも、特に事件や事故などが起きることもなく出発の日を迎えてしまったのだ。
平和なのはいいことだと思うけど……なんだかユウの様子をみてるとそれがよろしくない事のように感じてるように見える。
多分私は困った顔をしていたのだろう、ユウの眉毛がみるみる角度をつけていき、瞳に生気が戻っていく。
これはきっと、次に急にテンションが上がって、突然意味の分からないことを言う予兆だ……

「……ティア、やり直し!」

ほら、意味がわからない。

「……タマもジャーキー食べるー?」

私はリュックの横ポケットからドッグジャーキーを取り出して、タマの口に押し込んだ。
二、三回ぐらいもぐもぐした後、やっぱり、ぷぺって吐いた。

「……無視すんなよ……」

「いや、だってさぁ……。
とにかく、なにがしたいのかだけでいいからぱっと教えて?
詳しくは、興味がわいたらその後で聞くからさ」

タマが吐いたジャーキーもすかさずユウの口に押し込みつつ、一応話は聞いてみることにする。

「……もが!……もぐもぐ……。
……あれだよ、なんかさ、最近旅がマンネリ化してねぇか?」

「んー。確かに、言われてみればそうねぇ……でも、楽しかったでしょう?鶏と闘ったり、魚釣ったり。
あと、もっと最近だと、崖の洞窟でお宝だって発見したじゃない!」

「……ありゃ空の宝箱だよ。振っても音しなかったろ?」

「で、どうしたの?
私はなにがしたいのかを聞いたんだけども……」

そう、私が聞きたいのはそこじゃない。
マンネリ化してきたと言った上でこの様子、荷物も持ってきていないとあれば、きっとユウはなにか面白いことを提案しようとしているんだ。
もう一本ジャーキーを取り出して、それもやる気のなさそうな口へと押し込む。

「…おえっ…ぷぺっ!
よくぞ聞いてくれたな!ティア!!」

三本ともジャーキーを吐いて、突然上体を起こして声を大きくしたユウに、タマが驚いてティッシュ箱から顎を落とした。
不満そうにタマもユウを見つめて、偶然だけど、ユウへと私たちの視線があつまった。
一大発表の予感……!!

──そうして、その後にユウが発した言葉に、私は荷物を部屋に置いてくることとなる。

「イベントを開催します!」

「……イベント……?」

「秋の味覚が盛りだくさん!
近くの山でウハウハ食材探し!!」

「……おぉ……!」

「……俺、栗ご飯食べたい」

───

──これが、事の発端ね。
意外と悪くないユウの提案にまんまと乗せられた私だったけど、偶然とはいえ、ユウが山登りを提案してくれて本当に良かったと思う。
私も、そこで反対しなくて心底良かったと思う。

もし、この偶然が少しでもずれてしまっていたら、私たちが知ることなく、ひっそりと、理不尽に、幼く可愛い命が確実に失われていたのだから。

当時の私たちはまだ、ユウのこの何気ない提案が、一人の女の子─アルマ─の命を救うことになるなんて思いもしなかったのだから。

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コメント
おお
きれいな書き出しですね…!
2015/01/19(Mon) 23:10 | URL  | 雪村月路 #-[ 編集]
Re: おお
ほんとうですか!?月路さん!!
ありがとうございます!いゃぁ、よかった、悩んだ甲斐がありました(´`:)
 
実はユウとティアが山に入ることが大事でして、その動機や状況、流れは話の大筋に関係ないからどうでもよかったのです。
どうでもよかったのですけど、そういうところほど物語を飾る上では大事になってくるから、どうにかして『ノアのはこぶねらしい始まり』を意識してたら書けなくなって更新が遅れてしまいましたorz

次回以降はなるべくさくさく進められるようがんばります!
もしよろしければ、この先もご一緒ください!
今回も、ノアのはこぶねを読んでいただきまして、ありがとうございました。+゚(*ノ∀`)
2015/01/19(Mon) 23:26 | URL  | 柚希 ひろ #-[ 編集]
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