「えー、なになに?
『拝啓、ティアっち』
なにこれ、敬われてるの?」

「手紙ったらそういうもんだろ?
ほとんど書いたことも貰ったこともないからよくわからないけど」

「そっか」と納得した様子でティアの視線は緩く流れ、その流れを聞き慣れた声が読みとっていく。
あの時のかすれた声、治ってよかったな。

「『今、あなたの手にこの手紙が収まっているということは、ティアっちはまだ旅をつづけているのですね。
ホモさんのことは非常に残念だったけど』……って、ユウ!やっぱりユウはモココさんやライラさんの中では死んだことになってる!」

「化けてでてやろうか?旅の帰りにでもさ」

きゃあああと、手紙を指さし笑い始めたティアを見て、本当に笑い話で済んでよかったと思う。

「そうだね、せっかくだからモココさんたちともまた会いたいね」

「ライラさんとは勘弁な。
あの人苦手だ。俺。
で?続きは?」

「あ、まってね、ここじゃ邪魔になるからそっちのテーブル席にね」

カウンターの受付嬢のお姉さんに一度会釈をして、依頼の受付を一時中断してもらった。
依頼所の依頼書ファイル置き場の近くのテーブル付き座席へとパタパタと向かったティアの後ろについて、向かい合って腰を下ろす。
タマはそのままテーブルの上に寝かせた。
よだれで溺れて起きるタマを想像して、なんだか和んだ。
魔法がなければやっぱりただの子犬だ。タマは。


「ハンカチ、タマの下にしいてあげたら?
で、続きね!
『ホモさんのことは非常に残念だったけど、あなたが旅を止めなくて、ううん、止めてしまうほどに傷つかなかったようで少しほっとしました。
こんなこと書いたら、私にホモさんのなにが解るのかとティアっちは怒っちゃうかもしれないけど、私がホモさんの立場だったら、自分の死を理由にあなたに旅を止めてほしくはないわ。』
……ユウ……?」

「……モココさんの考えだろ……。
俺に、聞くなよ……」

手紙からそらされたまっすぐな視線を感じて言葉を濁した。
まさか俺がモココさんと同じ考えを持っていたとは思わなかった。
思わずごまかしちまったけど、俺が出て行った晩に残した書き置きもティアは読んでいる、俺の気持ちも伝わってる。
でも、ティアは聞いてきたんだ、こいつは少し鈍いからな、うまく想像がつかなかったのかな?
……というか、瀕死になったのは俺とモココさんだけだし、そういう状況に立たなきゃわからない気持ちなのかもな……。
なら、それならさ

「お前がもし死んだとして……俺に旅を止めてほしいと思うか?」

「……だめ」

「……だろ?」

納得してくれたようだ。

が、少し物足りないらしい。
珍しい程に眉間にしわを寄せたティアは、少し考えた様子を見せた後、もう少し言葉を続けた。

「確かに、私が死んでもユウには旅を止めてほしくない。
それなら、ユウやモココさんもそう思ってるのはわかったよ!
じゃあ……もし、もしもだよ?逆の観点で、私が……私に、旅を続けられないような出来事が起きたときに……」

「……?
旅を続けられないような出来事……?」

あくまでも仮定の話だろう。
でも、そんな仮定の話でもティアはいつだって真面目だ。
きっと今回も杞憂だとはわかっていながらも、コイツは無駄に深く考えて、頭を抱えてるんだろう。

「た、たとえば、怪我とか、病気とか……知らない街の知らない法を犯して捕まったりだとか……」

「……?」

「……そうやってさ、やむを得なくなったとき、私が旅のドロップアウトを宣言したら……ユウは、納得してくれる……?」

「………ふむ」

ないだろうけど……そういうことか?
例えば、縁起でもないけど、ティアの腕がなくなった、足がなくなった、目が見えなくなったとかがあったとしたら、コイツは俺の枷になると思ってるんだろう。
枷になるぐらいなら旅を止める。
でも、それでも旅を続けて欲しいとき……要は、死ぬとかそういうどうしようもない問題以外で、ティアが自ら旅をやめることを、俺が許してくれるのか。
ってことか。

……また、ティアに聞き返そうかとも思ったけど、真剣でまっすぐな視線に向き合ったとき、それは野暮でずるいと思った。
でも、答えが出ない。杞憂だろったらそれまでだけど、逆にいつまでも『今』が続くなんて思いこめるのは頭の中がお花畑だ。
ティアが言うほど極端ではないにしろ、いつか俺たちの旅には『選択』を迫られる時がくるだろう。
さっき、俺が何気なく放った『旅の帰り』という言葉もそうだ。
無意識でもそういう言葉がでてくるってことは、俺の中では少なくともこの旅に『終わり』があることを悟っていて、終わりがある以上、形がどうであれ、それをとる『選択』があるわけで……。

初めは一人で旅をするつもりだった、けど、こいつがついてきた。
俺が、こいつの合意の元に無理強いをしたわけじゃない。
だから、俺にはこいつの選択を阻む権利はない。
けど、もしこいつが今、こいつの意志で旅を止めると言ったとしても……俺は……そうだな……そうかもな……

「納得いかねぇかもな」

「……!」

「でも、それがお前の意志なら……俺にはどうすることも出来ないから……そのときは……

「──そのときは!?」

身を乗り出して聞いてくる相方に、タマの耳が迷惑そうに動いた。
なにをそんなに真剣になってるのか……ペールタウンで惚れ薬を作ったときもそうだったけど、こいつは時々変になる。
そのときに俺がすることなんて聞かなくたって決まってるだろうに。

「──そのときは、俺は好きなように動いてみるさ」

「……わかってた」

ほっとしたような、納得したような笑みを浮かべたティアは、黙ってまた席に着いて手紙の続きに目を落とした。
そして、何事もなかったかのように、また声を出す。

「『それと、もし、ホモさんのお墓があったら伝えて欲しいこともあるの。』
よかったわね、ユウ。そのまま生きて伝わって。
『あなたの最期に遺した言葉は、今も私の中で生きていますよ。って。
大魔導──間違えた。
ライラ様は、独りで抱え込んでいて、壊れてしまっていたようです。
でも、あなたたちに会って、別れて、得た。と仰っていました。
妹様は還らない、だから、それ以上に、今守るべきものを守ると仰ってくれて、怪しげな力に研究を注ぐことも止めてくれました。
それから私はライラ様と一緒です。
一緒になって、ライラ様を見ていれば見ているほどに、ホモさんに貰った言葉が大切になり、輝きを増しています。
私がライラ様を欲していただけではなく、ライラ様にとっても私は必要だったのです。
もちろん、改心したからといって、ライラ様の罪が消えることはないでしょう。
ですから、今は一人でも多くの命をということで、ライラ様は万能薬の精製に心血を注いでおられます。
私もそんなライラ様に微力ながらも尽くし、添い遂げることを決めました。

ティアっち、ホモさん、ありがとう。
あなたたちのおかげで、今の私たち二人があります。
もし、また会えたらお互いに笑っていられますように。 敬具』
だって……さ。
ライラさん、もう怪しくないんだって」

くすくす、と笑ったティアに、俺も肩をすくめて笑って見せた。

「それなら、ライラさんのとこにも化けてでてやるかな」

少し笑って、ティアが残りのたくさんの便箋を取り出すと、そこに書いてあったのは『死後の神への100作法』とかかれた100にも及ぶ箇条書き。
実質、手紙としてティアに宛てられたのは最初の一枚のみで、残りは全てが彼女なりの俺へのプレゼントだったらしい。

ティアから渡されたそれらを受け取り、ざっと流して読んでみると
『・食事は無生物
・睡眠時は枕は二つ
・頭を下げるときは腰から45°』
などなど、しょうもないことが丸っこい字でひたすらに書き出されていてげんなりした。

最後にティアが手紙の封筒の裏へと目を通して、その瞳を丸くする。
封筒の端を凝視しつつパタパタとおいでおいでをするティアに負け、俺も身を乗り出してティアの持つ封筒の裏を見てみた。

丸っこい文字で、小さく書かれたイニシャルは、岩壁内でみたタオルと同じ『M.L』ではなく、『M.H』と書かれている。
確認をとるように、ティアの驚きの視線が俺へと向けられ、声を上げた。

「こ!こここここ!これ!」

「……なんだよ?」

「けっ!二人ともけっ!けけけっこん!!!」

「そうだな」

「そうだなって!ユウ!ユウは知らないかもしれないけどライラさん!元々──


彼の騒動の閉幕に俺は一番度肝を抜かれた。

その後、俺たちは二つの依頼を受けて依頼所を後にした。

世界って広いよな。
これだから旅は止められない、面白い。
『魔女の血』は、この結婚により絶えないみたいでよかったけど、ホモさんホモさん言ってるモココさんが、潜在的に同性愛者なのはなかなかどうかと思ったぜ。

平和だな。

明日も、これからもずっと世界が平和で、俺たちの旅路も平和でありますように。


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