いや、逆だな。
これはむしろボーナスステージだ。
前向きな俺は嫌いじゃない。

どうせ最期なんだ、本当に死んじまうまで好きに暴れてもいいってわけだろ?
八つ当たりをさせてもらうぜ、山羊ども。
ただの一般人ならここで『あひぃいいいやああ!』って食われちまうんだろうけど、生憎俺は魔物慣れしてんだよ!
死ぬ間際にいつまでもいつまでも追いかけ回された人間の恨みは食い物関連の次に怖えってことを教えてやる!!

──一匹でも多く、道連れだ……!!

状況確認、足下には大小さまざまな石が転がっている。
背後は岩壁……使えるものは全部使う!

手頃で丸い石を二つ拾って握る、そこで耐えきれなくなって一匹が突っ込んできた。

相変わらず動きは単調、爪を振るか突進してくるかだけだ。
簡単だ。

「おらぁ!!」

きたねえ悲鳴が上がった。
カウンターで顔面に石をめり込ませてやった。
こいつらは普段から空を飛ぶことに特化している魔物だ、一度落としてしまえばリカバリーに時間がかかる。
手元の二つを威嚇程度にほかの奴らにぶん投げておいて、次は両手で持つのにちょうどいい、漬け物石サイズを持ち上げた。
それを、足下でのたうち回る一匹の頭へと思いっきり落とす。
赤黒いしぶきがあがり、それは次第に動かなくなる。
殺った。
ほかの連中もキレてるのかビビってるのか、なんとも魔物らしい鳴き声を上げながらこちらを威嚇している。
うるせえ、耳障りだ。立ち振る舞い一つで威圧するタマを見習いやがれよな。

「……一匹目だ……てめぇら全員覚悟しやがれよ……!」

たぶん、言葉は通じていない。
残る獲物はあと11匹、思ったより多い。
全員ぶっ飛ばしてやる!


───こいつらは馬鹿だけど、流石に俺が思ってるほど馬鹿ではなかったらしい。
始め、一匹だけで突っ込んだのが返り討ちにあったのをみて、次以降は二~三匹ずつ突っ込んでくるようになった。

流石に二匹以上でこられると、さっきみたいにうまくはいかない。
一匹の攻撃に気をくばりつつ、もう一匹にカウンター、威力は足りねえし、次々と四方八方から責められて、俺はなすすべもなくボコボコにされている。
もちろん、やめろって言ってもみたけど聞いてくれない。言うだけタダだろ?


違和感を覚える。
一般人とかわらないくらいまで弱っていたはずの俺が、魔物にボコボコにされるまで攻撃を受けても立っていられる、痛みもあまり感じない。

死なない。

初めてこいつらの爪が俺の首筋をとらえた時には本当にもう死んだと思った。
真っ赤な雨が降り、意識が遠のくところまでは想像できた…けど、実際には痛いで済んだ。
首筋を撫でると、確かに血はでていたけど、それだけだ。
明らかに丈夫さが戻っていた。
それからはもう雑だ。ひっちゃかめっちゃかでただ殴る蹴る。
命を左右するやりとりが、途端に子供の喧嘩以下だ。

小憎たらしい金切り声を上げつつ、人様のことをボコボコにしてくる魔物野郎達の内一匹に蹴りをくれてやりつつ俺は考えた。

なぜ、俺は生きているのだろう。

とだ。
もちろんここへきての哲学的な話ではない、もっと直接的で、事実にあった違和感に対する疑問。
こいつらから数時間くらい逃げれたことや、今現在ボコボコにされてても立っていられる時点でおかしいけど、それは、あれだ、人間やればできるってことにして、置いておく。
そんなことよりも、俺にはもっと死ぬべき瞬間があった。

そうだ、タマに投げられ、ティアに思いっきり殴られた時だ、あればかりは根性や偶然で説明がつかない。
あんなのどう考えても即死級だ。打ち所が悪ければ呪われる以前の俺でも死にかねない威力の一撃だった。
けど、俺はそれをモロに食らっても死ななかったし現にこうして生きている。

なんとなしに嫌な嬉しさがこみ上げてくる。

偶然にしちゃあ出来すぎているからだ。
ライラさんは言った。正攻法なら何とかなると。

ライラさんの言った正攻法は、感情のこもった一撃で黒の魔力を破壊するって話だった。
そこに感情が足りないと黒の魔力が集まりきらず、クッションになりきらなくて死ぬ。
魔力が足りなくても、黒の魔力の破壊にはいたらない。

俺は、ティアの一撃を思い出してみた。

あいつめっちゃおこってた。

しかも、ガキの頃から天才天才呼ばれてきたティアが、あのさんごの杖を使って思い切り振り抜いたんだ。


どう考えても、俺が死ななかった理由は一つ。


偶然にも呪いの破壊は成功していた


これに尽きる。

ということは、あれだ。
さんざん死ぬ死ぬ詐欺をこいた結果、ティアに苦しい思いをさせて、タマとかっこいい感じで別れてきて、蓋をあけりゃあ治ってました。ということだ。
不意に、やり場のない恥ずかしさと憤りを感じた。
山羊どもの声はうるせえし、大して痛くもねえぺしぺしが俺のストレスのボルテージを上げていく。

不意に、キレた。

故に、キレた。

「っざっ!けんなよおおおお!!!」

怒りに一瞬我を忘れた俺は、次の瞬間、視界に映っていた光景で我に帰った。

山羊どもが燃えていたんだ

木の実とか、人魂とかの火ではない、明らかに俺の身体から炎の渦が発せられていた。

魔法だ。

魔法に詳しい俺がそう思うのだから間違いない、確かに俺の身体から魔法が発せられていた。
俺も魔法使いとしてはまだまだだと思ったよ。

キイキイ悲鳴を上げながらあわてて逃げ去るお化け山羊どもの背中が小憎たらしい。わるいけど、ここは人間らしく八つ当たりをさせてもらうことにする。
暴れたくなった、枕に顔を埋めて足をバタバタさせたくなるような気持ちの延長だ。

「……逃がすかよ……!」

久々の自分の魔力を全身に感じつつ、俺は加速のための風の魔力を身に纏い、闇に溶けてく魔物の群を追う。

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