後は、2人のやることは決まっている。
最早一刻の猶予も許されてはいなかった。
ヒール屋に着いても最低限の手当しかせず、ヒール屋に集まっていた人々にも呪いについて聞く。
酒場へと走って聞く。
依頼所へと転がり込んで聞き続ける。
洋服屋、菓子屋、肉屋に八百屋、魚屋、魔法薬店、魔法具屋、酒屋、武器屋、防具屋ラブハートブレイドショップ。
教会にも出向き、果てや大通りで人混みに向かって叫ぶように聞く。
燃え尽きる寸前のろうそく達は、最後の希望の灯火が消えてしまわぬよう、ひたすらにその身を溶かし続けた。

空の明かりが消え去り、街に人工の明かりが灯る。

人々は各々の自宅へと足を運び始め、明らかに人通りも減ってゆく。

「──もうやめろ。ティア」

「──っ!?」

ユウがティアを制止した。

「…どうして…?」

「……」

ティアからの問いかけに、ユウは黙って首を横に振る。
理由は彼女の声だ。
ユウのすぐ隣を歩いているティアの声が、よく耳を傾けないと聞こえなくなっていた。
彼女の声は、すでに潰れていた。

自分のためにこうも身体を張り続けるティアに、ユウは申し訳なさでいっぱいだったのだ。
聞いたこともないほどに耳に障る彼女の声にユウの胸が耐えきれなくなった。

かすれた叫びが耳に入るたび、引き裂かれるような気分だったのだ。
またも涙の溜まった視線に当てられ、ユウは仕方がなくなり、彼女へと嘘をつく。

「諦める訳じゃない。
魔法の知識は俺の専売特許。聞くより、試す方が早い。
戻ろう……」

「……うん」

(あんたも嘘つき……か。
ごめんな。ティア……)

うつむき、困ったような表情でかすれた返事を落とす相棒に、ユウの視界もぼやけて滲む。
もう、ユウは諦めてしまっていた。
ユウだけではない、ただ認めたくないだけで、本当はティアだって無理だと思っていた。
魔法は万能だけど、全能ではない。


それからは無言だった。
ただ、ユウが歩き、ただ、ティアが寄り添い、ただ、タマが後からついていた。
夕飯に歓喜する子供の声や、路地裏でタバコを吸う行商人達の声。
酒場からの怒声、依頼所からの笑い声、風の抜ける音、足音。
全てが、無音だった。

程なくして、2人は借りていた貸し出し住宅へと戻ってきた。
放置された食材の数々は、数日前の朝と変わりはない。
それだけではない、椅子も、食器も、雑巾も、全てが動くことなく時を止めていた。

無言でユウが中へと進み、無言のティアが後へと続き、最後にタマが取っ手に尻尾をを引っかけて扉を閉めた。

バタン

という無機質な音が、無音を壊し、時間を動かした。

「──?」

突如、ユウが背中に重みと温度を感じたとき──

「──っ!」

──少女の中の諦めが、力のない泣き声へと形を変えて暗闇の中に溢れ出した。

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