「それは……」

いつになく複雑な表情だ。彼の表情を見て、ユウは思う。
今のライラの様子から察するに、彼の中にある答えは自分たちが飛竜を助けようとしたときの答え──気まぐれ──なんかとは明らかに違うと。
なんだか、無理に語らせるのは野暮だという気分になったユウは一つ彼へと笑いかけると、思ってもいない答えを与える。

「……気まぐれでしょう?」

赤毛の男の表情の曇りが晴れる。
いつも通りの薄ら笑いの仮面を被って、自嘲気味に鼻で一つ笑うと、安心した様子で彼は平常運転を続ける。
そして直感でユウは悟る、ライラもすでに、自分と同じように答えを出していることを。

「……気まぐれだ」

「うはは……嘘つきですね。長生きしませんよ?」

「いいや、私は長く生きすぎた……」

「じゃあ…あと、百年弱!最低でもそのくらいは生きてそれから死ね!」

「あんたも嘘つきだな」

また一つ、ユウは笑い声をあげると、感情の波に流され、おぼれ、目から鼻から水をまき散らす相棒の元へと駆け寄った。
すでにモココは目を覚ましており、自分に膝枕をしつつ、大量の涙を流すティアに混乱した様子で泣いている。
何故か、泣いている。
もらい泣きだ。

「うぇっ!……モコさん!!モコ!ぶびえええ……!!」

「うっ!やめて!ティアっち!そんなに泣がれだら……わたひも……うえええ……」

「2人して何やってんだよ……」

あきれた様子で声をかけたユウを確認して、モココは初めて状況を飲み込んだ。
そう、自分は死んだんだと。
自分はライラに突然殺され、ティアもその後、殺され、ユウは結局魔獣に殺されここにいる。
ここは、死後の世界だということを。

が、それはあくまでも彼女の勘違いであり、もちろんそんなことはあり得ない。

「……ホモさっ!?……うぐっ!
ごめ!なさい!ティアっち……!!私!大魔導師様が好きだったがら!でも!だからってあなたまで死んじゃうなんて……ひっ!……うわああああん!!!」

「もういいよめんどくせえ!ほら!ティア!行くぞ!
時間がねえ!ライラさんの話だと、俺の呪いはまだ解けてない可能性が高い!」

「え……?行くって……ずび…ユウ……?」

「死にたくねえ!呪いを解くんだ!どんな些細なことでもいい!街を回って聞き込むぞ!」

「そ!そうだ!ぐす!こんなことしてる…場合じゃ……ユ……びええええ!!!」

ユウはティアとの会話を諦める。
ユウは自分の知らないところで色んなことが起きすぎていたことを彼女の様子から察し、また、今の彼女は怒ったり泣いたり焦ったり安心したりと心の疲労もさぞ大きいであろうことを懸念した。
代わりに冷静そうなタマに話題を振り、彼女に落ち着かせる時間を取る。

「タマ!そろそろ動けるか!?わりいけど、急ぎで俺とティアを街のヒール屋へ!
おまえの傷とティアの傷が心配だ、治してから廻るぞ!」

いつもほどのスピードは無かったものの、タマはちゃんと動けている。
ほっと胸をなで下ろしたユウは、タマの背中に乗り、ティアの左手を引いて自分の後ろに乗せた。

「え……タマちゃんまで……!?」

「大丈夫です、モココさん含め、みんな生きてる!
……ライラさんには、あんたが必要だ。あの人がもう暴れたりしないように、モココさんの方でしっかり見張っててくれよな!
じゃあ!またな!二度と会うことはないだろうけど!!」

ボロボロでも問題なく起きあがったモココにもユウは胸をなで下ろし、最低限の別れと状況説明をしてその場から逃げるようにタマを駆る。
その場に残されたモココは、ユウの言葉の意味を理解できている様子もなく、ただただ立ち尽くしていた。
それでもきっとわかる日が来るし、根底はちゃんと伝わってると信じ、振り向くことなくライラの方へと向かう。

最後の最後、ユウは横たわるライラの隣を抜けたとき──
──優しくも、申し訳なさそうにも笑いかけるライラをみた。
それは確かに嘘がない感謝も多分に含んでいて、ユウはなんだかもどかしい気持ちを覚える。

「俺はやっぱりあんたは苦手だよ……」

吐き捨てられた独り言は、モココにもライラにも届かなかった。
唯一タマの耳だけがぴくりと反応し、面白そうに鼻息が一つ漏れ出す。

2人の人間を乗せた巨狼の影が、すこしうれしそうに岩壁の外へと抜け出した。

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