しかし、ティアはどこまで行ってもティアだった。

万が一を恐れたティアは無意識に『力の調整』していたのだ。
そう、それこそまさに『本物のユウなら難なく剣一本で叩き落とせる程度』に魔法の数を絞っていた。
そして弱体化後も、一度ティアは彼のことをボコボコにしていた。
その甲斐あって、彼の動きがどの程度鈍っていたかなどの重要な情報も彼女は把握している。
結果、出てきたのが、彼が彼自身を証明するのにベストなパフォーマンスを見せることが出来る、絶妙なラインの魔法だ。

「──おっ?!……そうかい─」

もちろんユウもそのことに気がついた。

─証明して見せろ─

彼女の魔法が、彼に言葉以上の声を伝える。長く一緒に居た者同士、これも一種のパフォーマンスだ。

「なん……という……!!」

「ゆっ……ユウ!……!?」

『結果』は最良。
満足げなため息を一つ吹き落としながら崩れるように腰を落とした少年は、ティアの魔法の全てを無傷で落としていた。
その剣の速度、威力、正確さ、どれをとっても不足なし。
そこにいた額の冷や汗を拭う少年は、間違いなく『アリエスアイレス2の剣士』だった。
表情とは裏腹、不満を含んだ明るい声で言う。

「手ぇぬいてんじゃねえよ!
俺ならあと六つは余裕だったっての……文句無しだろ?
本物だよ」

その『いつもの声』にも不足はない。
駆け寄る少女の足取りは軽い。

「……ユウ!!
よかっ……ぶぇっ!……よかっだ……!!」

「キレたり泣いたり忙しい……つか、なんで急にキレたりしてたんだよ…?」

「──!!
ユウ!!ライラさんが……モココさんを……!!」

「寝かしつけた。だろ?
それがなんなんだよ?びっくりさせやがって…」

「──え?」

忙しい少女はユウの言葉に仕事を増やした。
ティアは、動かぬモココの元へと再度駆け出し、彼女の頭を膝へと乗せ、細い手首へと指をあてる。
─要らない確認であった。脈の動きがティアの指先へと伝わるより速く、その耳へと届く中途半端ないびき。
少し注意すれば、見ただけでわかることだった。

やはりモココは眠っていただけだった。

「モ…モゴ……ずびっ…!!」


彼女の元から「ぶびええええん!!!」が聞こえる頃には既にユウは頭を切り替えている。
彼に残された仕事は、あとは傷口を押さえて横たわる男に話を聞くだけだ。

「……なるほど……その剣で…魔獣を……?」

「そうです。この剣で、魔獣を」

無駄に剣を掲げつつ、暗闇の中でも輝きを失わぬ刃を自慢げに肩へと落とした少年は、それに負けないほどの白い歯を光らせつつ笑ってみせる。
そして、ライラの元へと歩み寄り、問い詰める。

「変化なし!!……どういうことですか!?
戦ってる間!意識ばかりが削り取られるだけで全然魔法は使えそうになかった!
あの方法で呪いを解くなんて、ほんとは最初から出来ないんじゃないんですか!?ライラさん!!」

ユウの言葉を聞いたライラは、あきらめたようにひとつ、短く笑い声をあげ、ことの全てを正直に話していく。
呪いについては、生存者がいないから本当に知らなかったこと。
間違いなく確実なのは『正攻法』のみであることしかわかっていないこと。
黒の魔力を集め、人間を皆殺しにしようとしていたこと。
そのために、最初からユウを殺すつもりだったということ。
それを助けにいこうとしたティアも殺そうとしたこと。
モココが出しゃばり、ティアと敵対し、自分のために死ぬ気まんまんだったため、彼女だけは死なせまいと、モココを殺したフリをしてティアの意識を自身に向けたこと。
ボコボコにされ、死を覚悟したとき、突然ユウが現れたこと。

「ふーん、やっぱりね!胡散臭えと思ってたよ!」

「しかしあんたは私に従った」

「……ぐっ!……それは……」

「君に会った段階でな、バレない程度に判断力を奪う魔法をかけさせてもらってたからな。
私には逆らえないような気になっていたんだろう?」

「……ふざけやがって……」

話が一通り終わったところで、ユウとライラ、お互いに一つずつ疑問がわいた。

「あんた……なぜ、正気を保っていられたんだ?」

まず、ライラが疑問に思ったことを質問にする。
ライラは知っている、黒の魔獣を相手にする上でもっとも厄介なものは、暴走する破壊の意識であることを。
呪われた本人の弱体化はもちろんであるが、その人間の意識が破壊の意識に飲まれることで、戦い方が雑になることが大体の死因。
己の傷などはかえりみず、ただひたすらに魔獣に向かう結果となり、最終的には魔獣の力の前に命を落とすのだ。

「……ええ、そうですね。確かにあのままじゃヤバかったな。
痛みは感じてこなくなるし、おまけに疲労感までなくなってくる。
魔獣の攻撃を避けることもどうでも良くなってきて、結果的にいらない傷が増えちまった。
メイガスエッジの守りのルーンがなければ死んでたかもしれませんね。
で、どうやって正気を保ったかってーと…」

べっ!
と、ユウはライラへと向かって舌を出した。
その先に乗っている、ぬらぬらと光る小さな小さな緑の玉。
爽やかな香りが辺りに広がり、それがさらにライラの眉根を歪ませる。

「……なんだ?それは……」

「メイプリルクールキャンディー。
たまたまポケットに入ってたんすよ、ティアからもらったのが」

「……なんだって?それが一体何の……」

「……前にタマジローさんが教えてくれたんだ。
意識が乗っ取られそうなときは、より人間らしいものを食えってさ。
メイプリルクールキャンディーなんてさ、人間らしいことこの上ないだろ?
すーすーするし、頭もすっきりです!」

もちろん、タマジローの話は嘘である。
カレーが食べたいが故についた嘘。
ユウは、彼の演技だけが嘘だと思いこんでおり、彼が咄嗟に出したとんでも精神理論そのものは未だに本当だと信じ込んでいたのだ。
ある意味、信じる気持ちが大事な場面だったため、そんな話もまるっきり全てが嘘だったとも言い切れない状況ではあるが。
ライラからしたらそんなことはあり得ない話である、そのタマジローという人物が目の前の少年に嘘を吐いていたことも容易に想像がついた。
故に、滑稽だ。

「くっ……くふっ……くはっははははは!!
いいな、それもいいだろう……くははははは!!」

「なにがそんなにおかしいんですか……調子狂うぜ」

「おかしいさ!あんたは慎重で疑り深いくせに、ティアっちよりよっぽど騙されやすい様だな!!」

「……魔法のせいですよ……。
うるせぇ」

ふと、笑い声が切れ、一つ、息を吹いたライラは満足げに薄い笑みを浮かべてユウへと向き直る。

「……私の負けだ、完全にな。
憎たらしくて仕方がないだろう?腹が立つだろう?
さあ、その剣でさっさと殺せ……。
まぁ、私を殺したところであんたもその呪いですぐに死ぬがな…くふっ!ははは…!」

「いや……いいよ。
あの世でまであんたの顔はみたかねーよ。
安らかに寝かせろ」

「……失礼な奴だな……」

肩の位置まで空気を持ち上げ、長いため息を一つ吐き出したユウも、疑問を質問へと変え、投げる。
彼の様子から見えるのは、最早話題作りでも、死ぬまでの暇つぶしでもなく、単純な好奇心である。
ユウの立場から察するに、ライラの行動に一つだけどうしても納得がいかない点があったのだ。

「死ぬ前に、一つだけ質問を」

「……なんだ……?」

「……どうして、自分がボコボコにされてまでモココさんのことを生かそうとした?
人間は最初から皆殺しにするつもりだったのでしょう?
だったらここで無理にモココさんを生かす必要も無かったろうに……」

ユウからすれば、当然の疑問である。
しかし、それはライラにとってはユウ以上に疑問であった。行動を起こした本人であったにも関わらずだ。

困ったような、悩んだような様子でユウから目を逸らしたライラは、言葉を探すように辺りを見回し、わめき散らすティアの膝で寝息をたてるモココへと視線を落ち着かせる。

そして、無理矢理言葉を発するように、不機嫌そうに眉尻を持ち上げ、ぽつぽつと語り始めた。

にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー 小説へ
読んだよ!


スポンサーサイト



コメント
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 

トラックバック
トラバURL:  
この記事へのトラックバック