殴った杖先の感触に、ティアは違和感を覚える。
杖先がどっとめり込む感触を覚えた後、手元に伝わる感触が突然硬くなった。
まるで分厚いガラスのような強い抵抗。そして一瞬の硬さを越えた途端にはじきか返されるような圧迫感、振り抜いた後に残ったのは、嘘みたいに軽い感触だ。

骨が砕けるような、肉が裂けるような、何とも言い得ない『破壊の音』を一瞬響かせ、黒いものは飛んでいく。
「がっ!?」「まはっ!」「えあっ!!」「たまぁあぁあ…」と、壊れた音声装置のようなぶつ切りの男の声を響かせる物体が、ユウと同じ容姿をしていることにティアが気づいた時にはすでに手遅れ。

三度に渡る盛大なバウンドを経て、それは地に伏せていた。

「……なっ!……あれはっ!……ゆ!ユウ……?」

小さな声を漏らしつつ震える相棒の姿をした何者か。
ティアの中で疑念が柔らかい風船の様になんの抵抗もなく膨らむ。
タイミングが悪すぎたのだ。
ユウがライラに激突して入れ替わった瞬間は、ティアからすれば杖を振る瞬間であり、見方によってはユウらしきものがライラをかばった様にも見えた。
まして、彼女の中ではユウが現れる可能性など微塵も無かった。一人では脱出不可能なユウを救う、そのための救出作戦だったのだから。
さらに、弱体化したはずのユウが彼女の全力の殴打を命を落とさずやり過ごした時点でその状況は彼女にとって不自然極まりない。
それらの無理のある条件より、彼女の疑惑は確信へと移る。
彼女は頭も悪くはないため、ここへ来て突然現れたユウを本物のユウだと信じ込むほどの未熟な隙はない。
そこはもちろんユウも買っている彼女の長所だ。

─抜けてこそはいるものの、こいつは致命的なバカはやらない─

多分な依怙贔屓がこもっている点も否めない、しかし人一倍慎重で責任感のあるユウが彼女に大事な場面を任せきるのはこういう頭があるからでもある。
だから今回彼女が出した答えも、ユウにとっては正解だ。

「……ちがう……あれは……ユウじゃない……!!」

が、単純な二者択一の答えとしては、限りなく間違いである。

弾かれ、転がり、驚きの表情のままに動きを止めたライラへと、ティアは鋭い睨みを流す。
明らかな怒りと、それを通り越した侮蔑と哀れみの視線だ。

「あなたは……どこまで……!
ユウの姿をした身代わりを用意するなんて……!!」

もちろん勘違いだ。
彼女の八メートル先で唸るユウは紛れもない本物である。

「いや…あれは…

「ユウの姿なら!私が戦えないとでも思ったんですか!?」

「……くっ!どういうことだ!?
なぜ……ユウ君が……」

「見くびらないでよ…あなたは知らない。本物のユウの剣技を……。
姿だけを真似たところで!」

「……う、ぐふ……ティア……ちが……俺は……

「あいつの剣技まではまねできない!!
消えなさい!偽物!!」

「うわっぷ!?お!ティ……やめっ──!!」

岩壁内の床をなで下ろす魔力の風。
その中心に立つ小柄な少女の周囲に、異質な輝きを放つ魔法陣が浮かぶ。

──殺される!!ティアに!?──

肌に触れた魔力の波に、ユウは死を覚悟する。
痛む体を気遣っている余裕などもなく、ユウは即座に起きあがり、両手に握った剣一本でその強大な魔力へと立ち向かう腹を決める。

反則じみた短さの詠唱を経て、彼女の右手、九時の位置に現れた魔法陣は、彼女の頭上を越えて三時の位置へと向かう。
トランプの山から扇を作るように流れ、増え、輝きを増してゆく。

「本物のユウなら……こんな魔法の一つや二つ!剣一本で…!!
──氷魔、冷獣の宴!!」

「っの!──バカヤロォォオオオッ!!!」

この日、ティアはその頭の良さと、抜かりの無さ故に致命的なバカをやらかした。
十二にまでその数を増やした魔法陣のそれぞれから狼の顎を模した氷塊が放たれ、その全てが一斉にユウへと襲いかかる。

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