恋をした。

 目の前にいる一人の女がそう言って、ビー玉のおっきいやつみたいな目玉を輝かせながら身を乗り出した。

 ため息が出た。

 正直僕は彼女の恋愛になんて──むしろもう恋愛になんて──興味がなかったからだ。
つまらなそうな僕なんか、彼女の視界には入っていないのだろう、適当な相づちを打つことすら止めた僕を無視して、その緩んだ口元を歪ませてひたすらにしゃべり続けている。
 どうせ彼女は話を誰かに聞いてもらえればそれで満足する、たとえ聞いてもらえてなどいなくてもだ。ただ、喋りたいだけ。
 笑顔で恥ずかしそうにはにかみつつ、胸の辺りで右手と左手の指を絡める目の前の女性を見て思うことは、すでに彼女は僕とは別世界に住む人間であるということ。
 明るい明るいファーストフード店の端の端。
大きなガラスの壁の外を、無表情な人間たち、笑顔の仮面を被った人間たち、なにがおもしろいのかわからないけど、笑顔な人間たちがベルトコンベアーを流れる缶詰めみたいに行ったり来たり。
 彼らもまた、僕とは別世界の人々だ。むしろ、缶詰めだ。何の旨みもない保存用の食品が、無駄に長く持つように工夫されている。中に入ってる。
 華の大学生活最後の一年に後悔のないようにと、必死に輝きを放つ彼女と、高校を出て早々に就職を決めて現実のつまらなさを知った僕とでは、そもそもが違うんだ。
なにが違うのかははっきりわからない。けれど、違う。
 彼女の話なんかより、多少なりとも存在意義を知るお経の方が、今の僕にとってはよっぽどおもしろいものだった。

「南無阿弥陀物…」

「え…?なんか言った?」

「…なんもいってないよ。気のせいじゃない?」

「そっか!でね!そしたらさぁ、タカシ君ね~──」

 タカシ君だかタカナシ君だか知らないけど、僕はそんな男のことは知らない。知りたくもない。全く興味なんてない。
 太陽みたいな笑顔と話し声だ。
 勝手に輝いて、夏は人を苦しめ、冬には嘘のように役立たず。
眩しいだけで、直視した者からは目を背けられているという現実を知ろうともしない。
 日除け、なんて物も存在する。供給過多。
 人は電気を生み出した。
 太陽がなくても明るい街。
 ガラスの壁の外。
太陽の存在がそこまで重要視されていないという事実を、今、この瞬間に、窓の外の景色が語っていた。

 ポケットでふるえる物があった、スマートフォンに何かが入ったようだ。
 わざとらしく右の手のひらをお喋りな太陽へと向け、『ちょっとたんま』を意味する日除けを作りつつ、僕はスマートフォンを耳へと当てた。

「え?今から?
いやぁ、ごめんな、今さぁ、冴木さんとお茶してて……え!?マジで!?わかった!今すぐいくよ!じゃ!」

 スマートフォンをまた手元へ持ってきた僕の目に映る
『新着メールあり』
の文字。

 「どうしたの?」と不安そうに僕を見つめる彼女へと、僕は平気で嘘をつく。
 
「トモが事故って病院に運ばれたって!ごめん!いかなきゃ!!」

「え?!トモ!?トモって誰…─」

「ごめん!!」

 僕は慌てたフリをしながら、財布からとりだした五千円札を飲みかけのアイスコーヒーの横へと叩きつけ、走って店を出た。
 トモとは、すなわち『友』。友達だ。そんなもんいないけど。
 メールの内容を確認すると、そこにはポイントを溜めて応募をすると旅行券が当たるとの旨が記されていた。
 
 鼻の奥に突き刺さるような透き通った空気だ。
吐き出す息は目の前を白く染め、広がり、消えてゆく。
 解放されたような気分と相まって、肺に送られた冷気は心の虚しさを感知するセンサーへと触れる。

「…ばっかじゃねぇの」

 誰に向けたのかはわからない。けれど、その一言が自分自身へと突き刺さったのは確かだった。

 ここ最近になってから急に独り言が増えたように思う、もちろん誰にも聞かれぬようにつぶやく。
いや、自分自身にのみ聞こえるようにつぶやく。
決まったタイミングなどはない、呟くときに、決まってる気持ちもない。
ただ一つ、間違いなく決まっていることは、吐き出されたそれはどす黒く、マイナスイメージであることだ。

 雑多な人混みを抜け、人通りのすくない道を選び、なるべく暗い道へと歩みを進める。
意味もない思考の羅列が、時にはコントのように、時には愚痴のように、境界のない明暗を繰り返しつつ流れていく。
それから、思い出したかのようにまた独り言。

 暗い、細い、白熱灯の道。
都会の喧噪を離れ、吸い込まれるように無くなる音。
時期が時期だ、もちろん虫の声もどこにもない。

 あまりにも静かな住宅街だ。
 ファンタジーを思わせるほどの小洒落た外装の家々は、その見た目の明るさが嘘のように周りの静けさを飾っている。

 世界の住人が僕一人になる。

 ふと、顔をあげると景色が浮いていた。浮いていた景色は公園の入り口、誰もいない夜の公園の入り口を、三つ並んだ自動販売機の灯りが照らしていた。
 雨が降ったわけでもないのに湿り気を帯びた染みが見える土、闇の中へと無造作に生え散らかしている草。先ほどの住宅街の家なんかより、ずっと大きくて、不気味で、メルヘンな遊具には汚い黄色のスプレーででかでかと文字らしきものも書いてあった。

「『おっぱいもみもみ』……」

 文字らしきものものはやはり文字だった。読めたからだ。
 紅一点がいなくなった財布を開き、500円を取り出し、微弱な眩しい灯りへと向かった。
 苦み、甘み、潤いをため込んだ直方体に、薄っぺらい苦労の対価を一枚。

『イラッシャイマセ、今日もイチニチ、オツカレサマ』

「お前はずっと、おつかれさま」

 缶コーヒーを二本買い込み、一本は冷え込んだスーツのポケットへ。もう一本は飲み口をあけて、疲れ知らずの販売員の足下へ。
 歩きなれぬ道を一人歩く。
 歩きなれた道も一人歩く。
 開きなれた扉は僕が開く。

「ただいま」

 住み慣れた部屋。
迎えはもちろん、楽しみもない。

 楽しみは、最近失った。

 最近、僕はゲームにはまっていた、期待もせずに買ったゲーム。

 主人公は魔法使いの少年と、剣士の少女で、そんな2人が旅に出ることから始まるアクションRPGだ。
 初め、僕はそれがなんのゲームなのかは知らなかった。むしろ、今になってもわかっていない。
ただ、書店のワゴンでタダ同然に投げ売りされていたから、目に付いたおやつを買い物かごに入れるのと同じ感覚で購入した。
 結果としてそのゲームは僕の楽しみになった。
なんてことのない物語だった。主人公の2人は目的もなく旅へと出る。
魔王を倒すわけでも、秘宝を見つけだすわけでも、強くなるために修行にでたわけでもなく、旅に出る。
 大筋のストーリーがあるわけでもないけど、何となく太い道を進んでいけば物語らしきものが進んでいく。そんなゲームだった。
 僕はあてもなく2人と共に旅をした。
強力な魔物を倒したり、困っている人々を助けたり、お涙頂戴なわざとらしいストーリーに不覚にも泣かされたりした。
 良いアイテムを無駄に買い占めて金銭難に直面したり、指先で2人のピンチを幾度と無く救ったりもした。
 いつしか僕は、2人の旅をみるのが心地よくなっていた。
 プレイ時間が三桁へと突入した頃、2人は信じられないほどに強くなっていた。
ゲーム序盤に遭遇して、圧倒的な実力差で僕たちを幾度と無くゲームオーバーに追い込んだドラゴンなんかも、攻撃ボタンを連打しているだけで勝てるようになった。

 しかし、物語の大詰めにきて、ヒロインが突然死んだ。

 世界のための犠牲とか、凶悪な敵と相討ちとか、そんなかっこいいものでもなく、ただ死んだ。
ヒロインが死んだ後、ヒロインを殺したボスと主人公が戦うことになった。
攻撃ボタン連打で勝てた。

 僕はそのゲームをやめた。
飽きたわけじゃない。納得がいかなかった。
どんな敵でも簡単に倒せる主人公の一人が、なんてことない敵との間にイベントムービーを一つ挟んだだけで簡単に殺された。
 ヒロインを操作していても、ボタン連打で間違いなく勝てるような敵に、操作不能なイベントで殺された。
 僕はその後のイベントを見ることもなく、ゲーム機の電源を落とした。


 後で調べてみたら、ヒロインを救う手だては無かった。必ず死ぬようだ。
そして、ヒロインが死んだ後のイベントは、主人公がヒロインの死を今まで回ってきた街の人々へと知らせる話。
 制作側は、性格が悪いと思った。
 やりこめばやりこむほど、ヒロインと主人公との間に思い出を作れば作るほど、この作業が重苦しくなるようにつくられていたのだ。
 このゲームはサブイベントをこなさずにクリアをすれば二十時間と経たずにクリアができる。
百以上ある村や町のうち、八十くらいはメインストーリーとは無関係だった。
 
 人生って、こんなもんだよな。

 急激に冷めた。
 
 ファーストフード店で彼女のはにかむ様子を見ていたとき、僕はゲームの結末を知ったときと同じ気持ちを感じていた。
 無造作に投げられたゲーム機のコントローラーに、彼女へと吐き捨てたものと同じため息を吐き出し、僕は布団へと潜り込んだ。

 眠ることなく向かえた明け方、天井からロープを下げてみた。
 丈夫そうなそれは、先っぽが丸い輪になっていて、その輪はちょうど人間の頭がすっぽりと通りそうな大きさだ。

 カーテンを開けてみる。輪の後ろへと下がり、窓の外を眺めた。
 ちょうど輪の中に太陽が収まり、はた迷惑な明るさを薄暗い部屋の中へとばらまいた。

 僕の視界を白と黒が覆った。

 白い光の世界と、逆光の黒い輪。
その輪は、まるで別世界への入り口の様だった。



だめだ。やっぱり書けなくなってたorz

違うんですよ、もっとこう、伝えたいものをストレートに投げたい。
いや今回はむしろ伝える努力を放棄してみたからある意味正解ですけど、これは書きたいものじゃあない(´・_・`)

今回は自分でもなにが書きたかったのかわかりません。本当の本当に意味などないし、ぶっちゃけ読み物にすらなってない。
その上、絵に負けず劣らず雑。とにかく雑。スタミナが切れてからが特に顕著、とにかく雑。


『落書き』ってジャンルですかね、あえて分けるとしたら。

誰に見せるためでもなく、息抜きに、意味もなく、目標もなく、中身もなく、ただただ手が動くように動かすだけ。
テキトー。


私は、恥ずかしい。


ならupするなよと後ろ指を指されそうだけど……このままゴミ箱に捨てたらなんか、本当にもう書けなくなりそうだから一応。





………ノアのはこぶねは、落書きで終わらせたくないんだよなぁ(´`:)
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2014/12/03(Wed) 01:46 |   |  #[ 編集]
書きたいもの
書いた本人は、コレジャナイ感が強いのかもしれないけど、
読み物には立派になっていますよー。
内容は「あるある系」なのに、どことなく格調があって、いい。
そっかー、「落書き」なのかー、クオリティ高いです。

「書きたいもの」については、あせることなくて、
いろんな好きなもの(とか、嫌いなもの)に触れているうち、
水があふれるように言葉が生まれるんじゃないかな?と思いました。
梅ノリも、塩レモンも、ノアのはこぶねになるんだと思います。
意味わからなかったら、すみません!
2014/12/03(Wed) 06:36 | URL  | 雪村月路 #-[ 編集]
おはようさんさんひーちゃんさん。
私、好きよ、これ。
すごい引き込まれて読んでたよ。
何故途中でやめたし…ってなったよ、正直(笑)

あのね、自動販売機に「お前はずっと、お疲れさま」って言っちゃう主人公の心の底が好きだと思った。
この「僕」本人は殺伐とした現実の空気を肌に感じることで、いろんな感情に嫌気が差して薄目でしか自分の心を見ないようにしてるっぽいけど、それでも心の底に汚れがついていない気持ちが残ってるんだなって。心がくたびれているのに、まだ優しさが心の底に残ってるっていうのかしら。この主人公の人となりを表すひとつだと思った。いいなと思った。意味わからんね、すまん(;´∀`)

何はともあれ、伝える努力放棄して、ここまで表現力があることに嫉妬!
私の胸には結構ストレートに伝わったけどな~。
目的なく手が動くままに書いても、書いているのが人間なら文字に「思い」が必ず入っちゃうし、そこから伝わるものは人によって千差万別でも何かしら必ずあって、伝わるものがある限り、たとえそれが作者の思いと違っても、その作品は読み物として価値があるものだと思うなあ。落書きじゃないべよ。
と、思いました! なんか綺麗にまとめられません! とにかく、私は好きだと思いました! 以上!(笑)
2014/12/03(Wed) 08:44 | URL  | のん #-[ 編集]
Re: タイトルなし
おは鍵氏!

あなた様のその熱さと優しさを燃料に、私は心のステーキを焼こうと思うのだが、牛脂を少し、分けてはくれまいか?(過労性意味不明症候群N型)

そうなのかな?冬のせいに出来たらすこし気が楽なわたしです(´;ω;`)
いや、むしろ冬のせいですね!
冬はいろいろと参っちゃうから私マインド(冬季性意味不明症候群F型)
冬の空気、雪の匂いは私は好きですけどね、でもたしかにつもられると鬱陶しいですよね、白い悪魔(´・_・`)

読み切りの感想、ありがとうございます!
反省点は自分なりに見えてるので、ただの落書きで終わらせるか、次作の糧にするかは私次第ですね!
反省点は二つ。
わた氏特有の支離滅裂感、突拍子もなさに磨きがかかったのと、あとはまとまりの無さ、とりとめのなさ。

一見すると前者も後者も似たように思うかもしれませんが、前者は文章力というか、思考力の低さ?かな?わからないけどそんなところで、後者はお話づくりの力不足かな?
前者は落書きなのでよしとしましょう。
後者も…落書きなのでよしとしたいのですが…あまりにも度を超えるとノアのはこぶねを書くときに影響出るので少し考えものですかね。
例えるなら、うさぎとかめとブルドーザーを引き合いにガンダムについて語って、髪型の話で無理やり関連づけてまとめた感じ!
つまるところ、意味が不明。
語り口の一つ一つには色があるけど、混ざってて何色とも定義しがたい色が出てる感…ですね。

なにはともあれ、毎度毎度鍵氏さんのコメントからは許された感があってほっとしますよ、ありがとう(´`:)

読んでいただきまして、また、ただ読むだけではなく、そこから『何か』を思ってくれてありがとうございました!m(_ _)m

精進します!!
2014/12/03(Wed) 12:40 | URL  | 柚希 ひろ #-[ 編集]
Re: 書きたいもの

月路さん、コメントありがとうございます!(´▽`)ノ
そうなんです、残念ながら落書きなんです(´・_・`)
でも、落書きには書き手の精神状態がよく現れます。
たぶん、この話に私自身が感じるコレジャナイは私が私自身に思うコレジャナイなんじゃないかって思いました。どうです?哲学的でしょう?(??)

水が溢れるには溢れますけど、多分私はまだ容器が小さいかな、精進します!
あと、水が溢れる様に言葉が生まれる。
これ素敵な表現です!

い た だ き ま し た !

本編で使わせていただくかもしれないので、そのときはニヤッとしてください(*´▽`*)

梅ノリも塩レモンも、いつか本編で生かせたらいいですねぇ……
私のことなので、もうなんの味付けも無くモロに登場させそうですけどね、梅ノリも塩レモンも(笑)
多分そのうちティアさん辺りが塩レモン漬け始めると思います(;¬_¬)

さて、そうするためにはちゃんと本編書かなきゃね!
月路さんの仰るとおり、焦ることなく、自分なりに模索してみますよ!
今は容器を大きくして、溢れる水を綺麗に見せる努力をします!

コメントありがとうございました!がんばってみる!(*´ー`*)

2014/12/03(Wed) 14:57 | URL  | 柚希 ひろ #-[ 編集]
Re: おはようさんさんひーちゃんさん。

私は、ほっとしました。

のんちゃん!ありがとう……うん。嫌われなくて良かったよ、ほんと。
実はね、これね、主人公のモデルね

わたし

ですから(´;ω;`)

性別、服装、友人関係その他諸々、フェイクっぽいのは入れてますけどね!
……あ、ちなみに、私の部屋にはロープとかも置いてないので安心してくださいどうぞ!(笑)

なんだ……その、吊る以外の用途で使ってみたいと思ったりする事もないとは言わんけど、少なくともないよ!ダンボール箱とか縛った時に興奮とかしてないよ!!
断じて!!!
……ごめんなさい。

自販機にお疲れ様はあるあるだとおもうんよ、私。
てか、主人公が私をモデルにしてるからね、そうなんよ。
心が疲れてるときってね、ほんと、自販機の『いらっしゃいませ』に癒される時があるよね……。
確かにただのプログラムだし、機械だけど、もっと考えると、その『無駄な機能』をわざわざつけようとした人がいるってことにすこし心が温まるよね。
だって、わざわざお金かけてさ、自販機に喋る機能なんてつける必要ないじゃん?ましてやね、お疲れ様なんて言わせる意味ないじゃん?
でも、つけようと思った人がいる。私みたいな単純な層をターゲットにして狙ったんだとしたら、私はまんまと作り手の考えにハマってる気がしないでもないけど、そういう心遣いはやっぱり嬉しい。
人だもの。

それと、月路さんへのコメ返にも書かせてもらったと思うけどそう。のんちゃんの仰るとおりです。
落書きだからこそ、自分をモデルにしたりして遊べるし、そこに変に、伝えようとか、格好良くとかを込めないから、ある意味この落書きには他のどれよりも私自身の思いがこもってると思う。ノアのはこぶねとはまたベクトルの違うものだけど。
ましてや、コレジャナイ感が否めてないけど(苦笑)

書いたあと、みなさんからコメントをいただいた後、少し気持ちが楽になったのがその証拠だと思う。

ありがとうございます。

また今夜も体力あったら更新します、暇があったら遊びに来てね!待ってます!



2014/12/03(Wed) 14:58 | URL  | 柚希 ひろ #-[ 編集]
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