彼女にとって、最早無抵抗に近いモココに杖を振り下ろすなど容易いことだった。
あくまでも、身体的な意味であってだが。
精神的にはこれほどまでに重い杖はない。

彼女は今、罪無き者の命を奪おうとしている。

愛する者の為の犠牲。

綺麗事だ、言い訳でしかない。

それでもティアにとってユウはなによりも大切だった。
後悔するかもしれない、けれど、ここでなにもしない方がよっぽど後悔する。

あわよくば、ここでモココが気を失ってくれれば。
思い直して退いてくれれば。

彼女はそんなことを神に祈らんとする勢いで願う。
どう考えてもモココは意地で死のうとしているからだ。
はっきり言って死ぬ意味がない、それでも立ちふさがるし、無視してライラを仕留めに行っても無理矢理自身を盾にするだろうと思うとやはりどうしようもない。
仮にライラを先に仕留めることができても、仇討ちだといい、死ぬまで立ちふさがるだろう。
ある意味モココは、ここで死ぬことによりライラの中に生きた証を残そうとしている。
そして現実は無情だ、彼女は気を失うどころか、ふるえる両手でロザリオに魔力を溜めている。
誰もティアを責めることはできない。
もっと言うと、誰もモココも責めることもできない。

互いの掲げる正義が異なっていた。
全てを救えるヒーローなど存在しない。

結論はその二つだけだ。

「……ごめんなさい、大魔導師様……。
モココは、足手まといで邪魔かもしれないけど、嘘でもいいから、あなたのために生き、死にたかった。
役に、立ちたかったんです……」

「っく……この……バカが……!」

迷いに迷った杖が掲げられ、今まさに振り下ろされようとしたとき──

「──えっ……!?」

「かはっ!?……大……魔…様……?」

──ティアは信じられない光景を目の当たりにした。

まっすぐ、勢いよく、青白く輝く刃がモココの胸から飛び出した。
それは杖を掲げたティアの喉元寸前で止まり、彼女も状況を理解する。
モココの胸をライラの槍が貫いていた。
モココの背後に移動したライラによって刺された魔力の槍は、彼女が膝をつくと同時に光の粒子となって姿を消した。

「え……モ、モココさん……?」

「大魔導師…様?
どう……して……?」

光を失っていく瞳を包み込むように瞼がゆっくりと閉じられ、最期の疑問の言葉を口に、ティアの身体にもたれ掛かるように一度倒れ、そのままずり落ちるように床へと寝込んだモココはそのまま動かなくなった。
ティアは、倒れたモココを黙って見つめる他なく、言葉を失った。
動揺が表れた瞳は細かく揺れ動いている、音の発し方を忘れた唇はかすかに震えていた。

「モココさん…?
モココさん!!」

二呼吸ほど間を置いた後、目が覚めたかのようにモココへと呼びかける。
そして、この場で何度目になろうか

ティアは、またも冷静さを欠いた。

その様子を冷静に遠巻きに見ていた男が1人、口を開いた。
脳天気な疑問系は、タマの耳をビクビクと弾く。

「……はぁ?なんだあれ?
なんでライラさんがモココさんに睡眠魔法なんて……?
しかし槍の形とはまた派手な……
てか、え?
なに?なんでティアもライラさんもあんなに傷ついてんだよ!?」

そしてタマが、モココの登場以上に驚き苦しむのを忘れる。
タマの隣にあった扉が開いていて、中から1人の男が姿を現していた。

「……なっ!?え!?タマ!?お前まで!?
なんだよ!どうしたんだよその傷!?」

黒いローブは所々が裂けていて、その奥に見え隠れするかすり傷の数々より血を流す男。
その悪い目つきはよくよく見慣れたせいか、タマに妙な安心感をもたらす。

「ちょっと待ってろ!今すぐマナ水を……って、あれ?ティアのリュックはどこいったんだ?
あんなでっかいもんがどうして無くなってんだよ!?
……なんだよ、なにがどうなってるんだ……?」

きょろきょろと辺りを見渡す男の右手にしっかりと握られた、見覚えのある宝剣。
それは何者かの血によって所々が赤黒く染まっていた。
そばかす面の剣士はあわててティアのリュックを探しつつ、タマの様子に焦りつつ、意味が不明なティアとライラとモココの様子に眉根を寄せる。

「遅くなって悪かったな、思ったより手こずったよ……。
近づいても攻撃されても身体に変化はあんまり感じなかったからそのまま倒しちまったけど……ひょっとして騙された?」

口元からメイプリルクールの香りを漂わせる男。

──ユウ・ラングレル──

あろう事か、彼はその類い希なる剣の腕を持って黒の魔獣を征してきたのだ。

半ばすがるようにぼやいていたティアの
『メイガスエッジを持ったアリエスアイレス2の剣士が魔獣になんて』
という言葉は、少なからず的を射ていたようだ。


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