──終わった──

と、ティアが思ったのもつかの間だった。

一瞬姿を消した雷玉が再生する。

「──なっ!?」

「私は……!!」

放たれ、またも直撃。
が、ティアには大したダメージはない。
一方モココは、ぐらつき、意識が飛びそうになり、呼吸もままならない。
それでもモココは魔法の発動を止めない。
モココの目からは既に光は失われている。
みぞおちへの重い一撃のみですでに半分意識を失っていたのだ。

「もっと……大……様……に」

「やめろ!!モココ!!!」

「まさか……!」

またも、モココは魔力を溜め始めたのだ。
もはや意識などない。
泡の混じった唾液と、血の気が引いていく顔色。
色のない瞳からは、理由がはっきりしない涙が落ち続ける。

「モココさん!……もう……!!」

もう一度。
モココのみぞおちへティアの杖先が入る。

しかし、またもモココは踏みとどまった。

「──なっ!?……モココさん……!?」

「あなたも……同じでしょう……ティアっち……?」

ティアの表情が歪む。あまりの執念に怖じ気付いたのだ。
モココの瞳に光が戻り始めた。
歯を食いしばり、みっともなく鼻水をすすり、それでも愚直に魔力を溜め続ける。

ティアが一歩下がる。

モココが、一歩前へ出る。

「愛する人のためなら……自分の身体なんて……!」

また、ティアが下がる。
まっすぐに彼女へと向けられる力強い瞳に、ティアの足が震え始める。
これ以上はモココを痛めつけることはできない。ティアはこれまでの経験から感じたのだ。
そもそも、ユウやティアの攻撃は魔物の命だって平気で奪える威力だ、気を失わせるためとはいえ、ほぼ一般人であるモココに対して何度も当てて、彼女の身体が保つわけがない。
しかし、気絶もしてくれない。
おそらく、次にまた同じようにモココにダメージを与えたら彼女の内蔵が破裂する。
そこまで読めるほどに、ティアは本気で彼女を殴っていたのだ。

──本気で死ぬ気だ──

彼女から感じる負の覚悟。

なぜ、モココが死ななくてはならないのか。

ライラも退けと命令をし、まして彼女は部外者であり、死ぬ必要はない。
よって、殺すわけにはいかない。しかし、やはり退かない。

ティアは武器を取り上げられた気分だった。
武器を持たず、抵抗を許されぬ彼女は、モココの成すその動きを見守ることしかできなかった。
そんな状況が彼女に恐怖を感じさせる。

「そんなの……間違ってる…!」

「間違ってなんか……ない……!
大魔導師様のためなら……私は……喜んで……。
あなたも、ホモさんのためなら……」

「……!」

ティアは大きな勘違いをしていたことに気づいた。
モココを部外者だと思っていたのは彼女とライラだけであり、モココ自身はライラのために初めから身を削る覚悟で共にいたのだと。
そして言われて気づく。自身も、ユウのために命をなげうつ覚悟を持っていたことに。

だからといって、モココを殺してもいいのだろうか。
自身がモココの立場であれば、殺されても悔いはないだろう。
しかし、ここでモココの命を奪ったとして、自身は後悔しないのだろうか。
またも、彼女には重すぎる選択だ。

自分の命と、他人の命を天秤にかける。

また、他人の命と、他人の命で天秤にかける

彼女はまた身動きがとれなかった。

しかし、モココを殺さなくては、ライラを殺さなくては、ユウだって死ぬ。

抵抗しなければ、もちろんそれでもユウは死ぬし、自分も死にかねない。

命の奪い合いにおいて、無責任な善意や迷いは枷になる。
以前、マリエッタはそんなことを言っていた。

思い悩み、彼女が気がついたとき──

──その左手の杖には魔力がこもっていた。

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