「……どうするの?まさか正面突破とは……いや、い、いけるかもね……?」

「タマもいるからな。多分いけるだろうけど、何があるか分からねえし……あまりリスキーな行動は選択したくねえ」

「……そっか」

「今回ばっかは、お前のその秘密道具の数々も日の目をみるかもな」

「夜だし、多分日の光みたいなのをみるのは私たちだと思うけどね」

「冗談吐ける余裕あんなら大丈夫だな」

ティアがリュックをひっくり返すと、いつもの爆竹、煙玉、癇癪玉が転がり出る。
そして、ティアにしては珍しく、使い捨ての魔導書も数冊出てくる。簡易ヒールの書、マナ水が利かなくなってからはこれがないと傷を癒すことができない。
それから、魔力吸収の書、おやつをはじめとする食料などなどが顔を出した。

「お前が魔導書なんて珍しい……てか、そんなのいつの間に?」

「ユウの分だよ。私は使うつもりはないよ。
ユウの魔法は殲滅用としては燃費が悪いじゃない、基本オーバーキルだから」

「心配いらねえよ!……と、言いたいところだけど、ありがたいな。初っぱなから大火力が必要になりそうだったからな。
……作戦がある」

「あると思ってた」

ティアのリュックのサイドポケットからメモ帳とペンとマジックフェアリーを取り出したユウが、ゴブリンの砦の適当な見取り図を描きつつ説明を始める。

「まず、あの砦、入り口?出口?……まぁ、どっちでもいいけど、それが一つしかないだろ?」

メモ帳に、大きくC型の外壁が描かれ、Cの丸が切れてる部分に矢印が書き入れられる。

「つまり、進入はそこからのみ……?」

「とはならないだろう?俺には風魔法があるし、もっと言うと、土魔法で足場も作れる。
それにお前なら砦を囲ってる丸太をぶっ壊すぐらいも難なくできるだろ?
入ろうと思えば、どこからでも入れるよ」

「なるほど」

「でも単純にそうすると騒ぎが大きくなって面倒だ。俺たち側としては、あまり労力をかけずにできる限り多くのゴブリンを殲滅したい」

「となると、やっぱり……あまり多くのゴブリンを相手にしないために…戦闘の中心はここ?」

ティアがユウからペンを取り上げると、ユウが書いた矢印をまるで囲った。
砦の入り口は規模の割には狭いため、出てくるゴブリンを確実に仕留めていけば囲まれたりする可能性は減る。
が──

「そうだな。しかしそれじゃ俺たちは少しも油断ができない。なんでだと思う?」

「なんで?」

「……櫓」

「そっか、櫓があるってことは、そこに弓とか魔法の遠距離攻撃を担当するゴブリンが配置される可能性が高いって事だもんね……!」

「おう、そうだ。
入り口にとどまってちんたらちんたらゴブリン狩りをしてたら、俺たちは弓や魔法の雨で狙い放題。
だから、あえて内部から攻めようと思う」

今度はユウがCの中に、いくつか櫓に相当する□を描き入れ、Cの閉じてる方から矢印を書く。

「内部って!そんなの、囲まれちゃうじゃない!
それとも何!?ユウが囮にでもなるつもり!?だめだよ!」

「ちょっ…落ち着けよ!
乱戦を避けようっつう基本方針は一緒!やるべきは相手の戦力の分断だ!」

「分断って……?」

「いいか、まとめるぞ。
乱戦を避けつつ、弓兵をしとめつつ、一匹も逃がさず、且つ内部から!」

「うん、そのために?」

「そのために、ここにタマを配置する」

Cの切れ目の入り口に、雑な獣の絵が描き入れられた。

「タマを囮に!?」

「大丈夫だ、入り口から流れ出る程度の数のゴブリンならタマでも……つか、タマは囮と言うよりも蓋だ。ゴブリンが一匹も逃げ出さないようにするためのな。
入り口に視覚的にも最も威圧感のあるタマを置いて、ゴブリンが逃げ出さないようにする。
万一逃げ出されても、タマの鼻と脚があればすぐに追いついて潰せるからな」

ユウがタマに一言「できるか?」とだけを確認をとると、タマは一つ、鼻息を噴いて、ユウの顔面を鼻先で殴る。

「ぶへっ。大丈夫そうだな」

「じゃあ……私たちは……?」

「そうだな、入り口でタマが暴れてくれれば、当然ゴブリンたちの意識はそっちに向いて、入り口付近にゴブリン達は集結するだろう?」

「うん」

「そこで裏から入ったお前が、内部で混乱しているゴブリン達をさらに攪乱するんだ」

「ふむ、それなら……ユウが使うって言ってた大火力の魔法は……」

「そう、ランスオブリリーナ。
本当は、ゴブリン達にバレねえ距離から一匹ずつこいつで焼くだけの精度があればいいんだけど……残念ながら俺はそこまで射撃に自信はねえ。
あともっと言うと火炎魔法が一番楽なんだろうけど、山火事なんてごめんだからな、火気厳禁で」

「……ランスオブリリーナで櫓を一度に全部ってこと……?
できるの?ユウ……」

「やるしかねえだろ!
……なるべくゴブリンが全部櫓に集まってから落としたい。且つ、弓もできればほとんど撃たせたくはないからな、準備が出来次第、全ての櫓を同時に一度で落とす。
お前は櫓の下敷きになったり、ランスオブリリーナそのものに当たらないように気をつけながら動いてくれよ」

不安そうな瞳が、マジックフェアリーの明かりに照らされて揺れる。
作戦は、タマが入り口を塞ぎ、ティアが攪乱と殲滅を担当し、ユウが櫓や遠距離攻撃を担当するものを破壊するという形に落ち着いた。
しかしそこで問題が出る、ユウの魔力の限界だ。
櫓を一撃で落とす破壊力のランスオブリリーナを同時に櫓と同じだけの数で放つ。ユウの魔力の放出量を知るティアからすれば、少しばかり彼の提案は無謀であった。

「……そんな顔すんなって、少なくともメテオール乱発よりかはマシさ。なるべく低燃費で櫓を落とした上でお前の魔導書もありがたく使わせてもらうよ、魔力切れに関しては心配要らん、工夫するから」

「そう……」

「作戦はここまで!あとは各自アドリブで頼むぜ!
弓兵は櫓が崩壊後最優先で殲滅……っても、ゴブリン程度なら、櫓が崩壊した時点で虫の息だと思うけど……まぁ、あれだ、妙な情けはかけるなよ。生きてるヤツがいたら全部トドメを刺せ。
そうすれば、残りは接近戦だけで済む!俺も櫓を破壊した後は殲滅に移る!
……それじゃ、健闘を祈るよ!」

ティアが頷いた。
タマも頷いた。
そして、ユウが頷いて、二人と一頭は崖を降り、遠くに聳えていたゴブリンの砦を目指した。
──人間達による、亜人種の虐殺が始まる。
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こんばんは。
身の程もわきまえず、なろうにノアのはこぶねを半分近く置いてきました。

ここのをコピペしただけだったけど、結構大変ですね。三時間もかかったorz

置いてきたはいいけど……誰も読まないんだろうなぁ……って、なんか痛感した。
だって、ねぇ……

前半が思ってたよりもずっとひどかった。+゚(*ノ∀`)

なんなんでしょう、リアルタイムで書いてたときはあれが私の最高だったのですが……読み返してみると頭をかかえる出来で……。
グダグダだったねぇ……。
ちょっともう、うん。あれ?ってなった

かといって修正するにしてももうそんな気力も沸いてこないほどの文量で……。

あきらめたorz


というか、むしろ開き直りました。
最悪なろうに置いてきた分はもう、誰に読まれなくてもいいです。
ただ、そこから少しでもこのブログを見に来てくれる人がいてくれたらいいやって思いました。
ただの宣伝みたくなっちゃった。もっとも、
宣伝にもなってないと思うけど。


これ、成長なのかなぁ。
成長したから過去のものが残念にみえるのかなぁ。

今書いてるところも、今は最高に面白いと思えるように努力しながら書いてるけど、また数ヶ月後に読み直したら頭かかえるのかなぁ。



結構ヘコんだ。


とにかく!まぁ!うん!今はあまり難しいことは考えずに完結を目指しましょう!!
なんだかんだで集落のお話ももうすぐ終わりますしね!

あと思ったのが、キャラがブレないように気をつけてたつもりだったけど、ユウもティアも随分キャラ違ってたなぁ……初期はもっと、きゃいきゃいはしゃいでた。

なんだか、またひとつ創作の難しさを知った日になりました……(´`:)


「それにしても──……いや、なんでもない……」

視界を遮る枝を剣で落としつつ、少女が話を始めた。
鬱屈した表情で言葉を濁す彼女は、夜中の森林内では全く隠れる気も見せない太陽光のような髪を銀光りさせつつ駆け、跳び、身体を広げたムササビの如く、風圧でスカートをで膨らませる。
が、巨大なリュックのせいで、スカートが得る空気抵抗はなんの役にも立たない。

「どうした?夜にしちゃあ魔物に骨がなさすぎるってか?」

闇に溶け込む黒の魔法使いは、少女に併走する巨狼に飛び乗りつつその言葉に反応を示す。

暗く、右も左もろくに分からないような木々の迷路を迷うことなく彼らは一直線に向かう。
目標は巨狼の鼻のみぞ知る方角にある一角。
まだ見ぬ目的地へと抱く『とある不安』が、あどけなさの残る少女の顔に険しさを焼く。

「……ゴブリン達からしたら、私たちは今回、ただの虐殺者よね……?」

「──……」

少女の言葉を耳にした魔法使いは、黴びた果物を見たような顔で不快を表した。深いため息を夜風に流し、ポケットからメイプリルクールのキャンディを取り出して少女へと投げつつ、次には不快を声にする。

「なんだよ、まだそんなことを言いやがって……今更亜人種を殺すのがイヤになったのか?」

「……それも多少はあるけど、それよりもさ、私が思うのは……。
も……もご。メイプリルクール味か……」

「思うのは?」

「いいの?勝手に亜人種相手にこんな……私たち、亜人協会からマークされるんじゃないの……?
捉えようによってはこれは大量殺人に相当する行為でもあるんだし……」

「馬鹿だな……こんなのただの山賊狩りだ。
協会を通したような正規の集団がこんな非人道的な『契約』なんて持ち出すか?
むしろ協会から謝礼をもらいたいぐらいだよ」

「でも……私のわがままでユウやタマにまで迷惑は……」

「はぁ……?
お前よ、的外れもいい加減にしろよな?
もう一発メイプリルクールキャンディ食らいてえのか?」

二人の間合いに一頭の魔物が入る。──と同時に魔物は凍り付き、切れぬ轟剣により破片となる。
舌打ちをしつつ、ローブに付着した破片を払った魔法使いは両手を肩の高さまで持ち上げて澄まし顔で言う。

「──っと、今のはそこそこ大物だったな!
要はこう。今俺たちは一頭の魔物を葬った。今の相手が魔物だろうと亜人種だろうと、人間だろうと!やらなきゃやられる、それだけだ。やらなきゃ、アルマが死ぬんだよ。
まぁ、今俺たちがしているような自殺行為に対する防衛を正当化しようとまでは俺も思わないけど……間違ってるとも思えないな。
それと、迷惑とかなんとか思うのは俺たちに失礼じゃねえのか?そんな言い方、まるで俺とタマが嫌々アルマを助けようとしてるみてえじゃねえかよ」

「……」

「……第一、何が『殺人』だよ……魔物の命と人間の命、そんなに違うもんか……?
そりゃ体裁上は、お前が言うように協会なんかもあったりするから意識はしなきゃいけないんだろうけど、根本は魔物狩りと一緒だろうに」

「……昔のユウなら……そんなこと言わなかった……」

ユウの発した渇いた笑い声がティアの耳に障った。
しかしティアの言うとおりだ、魔物に対してはドライなユウでも、彼女が知る限りでは、彼は魔物と人間の命を同一視するような発言をこうも軽く発するような人間ではなかった。
だが、ユウはもう自分の命が、人の命だけが特別なものなどとは思ってはいなかった。

「……どうしても納得がいかないなら、力を失った上で夜の森で魔物に追いかけ回されてみろよ、価値観なんてあっという間に変わるぜ…」

つい先日、ユウは強烈な体験から経験値を得ている。
呪いで死にかけ、一人で死のうにも空気を読まない魔物に殺されかけ、朝までかけてそれらを返り討ちにして、結果自分がいかにちっぽけかを悟ったのだ。

「……だからって……!」

「よく覚えておけ。俺もお前も、魔物達から見たらただの餌。
ゴブリン達からみたら無個性な人間。
関係ねぇんだよ。奴らはきっと俺たちを襲ったり殺したりする事にいちいち疑問なんて感じてねぇ。
お前は少し優しすぎるんだよ。特に、人にさ」

「………」

「それは悪い事じゃねえし、俺はお前のそういうところだって尊敬してる」

「……ユウ……」

「……だから、わかってるからさ、あんまり失望させてくれんなよ。
お前にとって本当に大事なもんはなんだ?
お前の『大事』は、そんな簡単に『それ以外』と天秤にかけられるものなのか?」

「……ごめん」

「まて、そこでお前が謝るのはおかしい。
……とにかく、ウジウジ悩むな。お前がどうしてアルマを助けたいのか考えろ」

「………」

「………」

「………………」

「………──このっ!」

うつむいたまま、口を閉ざしたティアの頭頂部めがけ、ユウはもう一粒のメイプリルクールキャンディを思いっきり投げつけた。
一粒のメイプリルクールは、ぱつっという音とともにティアの頭で破裂し、緑の破片が舞う。

「──いてっ!?」

「お姉ちゃんなんだろ!!
アルマが唯一本気で頼れるヤツはお前だけなんだぞ!?
余所見すんな!まっすぐ見てやれ!助けてやれよ!!
そんなことも脊髄でできねえなら、軽々しく姉ちゃんヅラなんてするんじゃねえ!!!」

「──っ!!」

一つ、崖を飛び越える。
脚を止めたタマが、眼下に広がる場所へと視線を落とした。そして、鼻息を噴いて首を振る。

ゴブリン達の拠点。
砦のように巨大な丸太で囲まれた一帯の内部には、アルマ達の集落の三倍ほどの数の家がたっている。
入り口は一つ。丸太の囲いの切れ目で、長槍を握ったゴブリンが二体立っている。
所々に篝火が立てられ、その一帯だけが不自然に光って浮いていた。

──ユウとティアがアルマを救うために打ち出した作戦は『ゴブリン達の全滅』──

集落の人間に気づかれず、且つ、集落からアルマの存在価値を無くす方法だ。
下手にアルマを連れ出せば、後日に集落は全滅しかねない。それどころか集落の人間までユウとティアが全滅させなくてはならない方向に話が動きかねないため、一旦二人はアルマを諦めたのだ。

ゴブリン達からすれば、今回の二人と一頭の作戦は人間側による一方的なテロ行為である。失敗すれば己の命はもちろん、集落やアルマの命も保証されない。
その上、一匹でもゴブリンに逃げられでもして、協会に報告されてしまえばそれこそ亜人協会から睨まれる。
状況からしても、ユウの言うとおり、ゴブリン達は『山賊の類』である確率が高いものの、それだけでは協会が動かない理由にはなりきらない。

よって、許される成功条件は『一晩中に一匹のゴブリンも残さず、逃がすこともなく全て虐殺』と、常識のハードルを平気で越えている。
格下とはいえ、相手のホームでの数の暴力。
油断や迷いはユウ、ティア、タマであっても命取りである。
今回ユウがあえてティアに厳しい態度をとったのも、彼にとっては珍しいほどのお節介行為だ。

「……これがね……意外とデケェな。
集落との対比でとると、ゴブリンどもの数は……100~200ってところか……?」

タマから降りつつ、拠点を見下ろしたユウが苦い顔をする。

「なにがあるかもよく分からねえけど……あれ……あの黒いの、大砲……じゃね?
それから櫓もいくつかあるじゃん。本当に大丈夫か?これ。集落に毛が生えた程度かと思ってたけど、下手したらちょっとした戦争になるぜ?」

額に浮かんだ汗を拭ったユウの隣で、飴が砕ける音が響いた。
「ばりぼり、ぺろぺろぺろぺろ」と、力強く顎を動かしているティアの手は、既に剣を握っている。
鼻息を荒くして瞳に火を宿した相棒。それをみたユウは一つ鼻で笑って口を閉ざす。
彼は、野暮ったいことを嫌う。

「……ユウ……ありがとう!
帰ったら『三人』と一頭で残ったカレーを食べるよ!」

「……タマにはカレー食わせんなよ」

剣を握ったまま、背負っていたパンパンのリュックをその場に降ろしたティアは、ユウへと静かに目配せをし、頷き、その時に備える。




「……っ!
………なるほどな……」

ティアからの言葉を聞くも、一度驚いたように目を丸くしたのみで、ユウは取り乱さない。
諦めとも呆れともとれなくもない複雑な納得を身体で表現して見せ、ティアのカレー皿の隣にあったコップを持ち上げると中身を一気に飲み干し、大きく息をはいて見せる。
少し大きな音を立てて、コップの底が食卓へと落とされた。

「……エグいな。これを計画していた……とまではいかなくとも、長老だっていつかはこうなることが予測できていたろうに。それでどうして俺たちにあんなことをな……」

「あんなこと……?」

「アルマを楽しませてやってくれ……ってさ」

「罪悪感とか……罪滅ぼしじゃなくって?もぐもぐ」

きょとんとした様子でティアから発せられた答えを聞くと、ユウの表情は渋みを増す。
ティアに対してそんな態度をとっても仕方がない、と、本人はわかっているために感情を表面に出さぬように押し殺す。
しかし彼の中で消化しきれない気持ちの悪さからか、その後に吐かれた彼の言葉と様子は普段以上に棘を含んだ様相を呈していた。

「っくだらねぇ…」

つぶやき、頭の後ろで手を組み、椅子ごと上体を反らしたユウの足が当たって食卓が音を立てて揺れた。
彼の中では長老の言動がどうしても腑に落ちない様子だ。
不快を押し込むように眉間にしわを寄せて目を閉じたユウは、見えぬ視界に天井を据えたままでぶっきらぼうに話をまとめた。

「とりあえず状況は理解したよ。
このままじゃアルマが使われるだけ使い倒されたあげく捨てられるんだな。
それが許せねえから連れ出そうってことだな?」

「……うん」

「結論から言うとな、俺もお前の案には賛成だ。
ふざけやがって、ここの奴らはアルマの命をなんだと思ってやがんだか…!
けど……ティアよう……」

「……?
なによ」

ちらりと片目だけをあけ、仰向けの角度から見下ろすユウの視線。
もの言いたげなその様子に、ティアも少しばかり苛立ちを覚えて棘のある口調で返す。
まっすぐな口調とまっすぐな視線に負け、ユウは開けた片目を再度閉じるも、そのまま言葉を紡いだ。

「お姉さんに言われたこと、それから、俺たちがこの集落に対して打ち出した結論、忘れてねえよな……?」

「……っ!
それは……わかってる……けど!」

「そうだ、ここで俺たちが集落とゴブリン達との関係に首を突っ込むことが意味すること……これが新たな災いの種になりかねねえって事だな。
俺たちは正義の味方でもなけりゃあ全てを守れるヒーローでもねぇ。何かを犠牲に持ってこないと守れないものだってある」

「……何がいいたいの……?」

無論、聞いたティアもユウの言いたいことはよくわかっている。
が、ティアが聞きたいところはユウの話ではなく、ユウの意志についてだ。彼が言わんとしている事の意味は、焦りのあまり頭が固くなってしまったティアからすると、アルマを救おうとする事を良しとしていないかのように聞こえる。
『賛成だ』とは言いつつも、是が非でそれを良しとしないユウの様子にハッキリ言ってしまえばティアは多少の失望を感じていた。

「集落からも、ゴブリンどもからも怨まれる覚悟はあるのかって聞いてんだ。
お前にとって、アルマはそこまでしてでも救いたい子なのかってことだよ」

静かなユウの声、それを聞いたティアの表情に、明らかな困惑が現れる。

「ユウ……あなた、本気でそんなこと聞いてるの……?」

「冗談でこんな喧嘩売り紛いの事をするかよ。
長老の立場からしても、アルマの命一つで集落丸々一つが守れるとしたらそうすんのは自然だ。
集落の人たちの様子からしても、今回の選択はやむを得ずにってところだろう。
気に入らねえけど、今回の集落の判断は正しいだろう?」

「……っ!」

困惑は激しい怒りへと変わり、ティアが机に両手をついて立ち上がった。ティアの背後で椅子が倒れ、再度大きな物音がたつ。

「ユウ!!見損なったわよ!!
ユウなら…!私の知ってるあなたなら──!!」

言い掛けたところでティアの言葉が遮られた。
ユウが話を始めたわけでも、ユウも大きな音を立てたわけでもない。ただ、静かに彼は微笑んでいたのだ。
多分な余裕を含んだその微笑みは、安心とも、取り越し苦労を自身で労っているようにも見受けられて、ティアはしてやられたことに気がつき、恥ずかしそうに椅子を起こした。

「──そうね、私の知ってるユウは……そういうヤツだったね……」

「……へっ、バカ野郎。
ここで俺に説得されかけたらどうしてやろうかと思ったぜ。これでわかったよ、お前に迷いはないんだな、安心した」

「ほんとうに面倒くさい」

「カマかけて悪かったよ。
お前が俺の知ってるティアで良かったぜ」

ティアの肺から重苦しい空気が抜けきった。
ティアの決意の固さを測るために、ユウはわざわざ彼女の最も嫌う『感情論抜きの正論』で嫌味な揺さぶりをかけたのだ。
もちろんユウ自身はアルマを助ける事が悪いことなどとは微塵も感じていない、それどころか、ユウは場合によってはアルマのために集落もゴブリン達も敵に回しても構わないと感じていた。
彼からすれば、赤の他人と変わらぬ集落の人間達やゴブリンたちなんかよりも、数日とはいえ実の妹のように可愛がったアルマの方がよっぽど大事であった。変に周りに気を配らないドライな面も持つ分、ユウはある意味ティアよりよっぽどブレない。ブレないが故に、相棒が相手であろうとも平気でこういった揺さぶりをかける。

「……そうだな、感情で状況を左右させるのも、決して悪い事じゃねえんだよ。
もう一回お姉さんに言われた事よく思い出せ」

「……ぐ」

「とりあえず落ち着こうぜ。
その話の通りで事が動くのなら、逆に言うと明日まではアルマの命は保証されてる。
何も今日の今からそんなに慌てて動かなくても、確実な時間が丸々一晩あるってことさ。だからよ、今はさっさとそのカレー食っちまえ」

「うん……もぐもぐ」

──それから数時間後、時刻は日付が変わる半刻ほど前。
二つの人影と、巨大な一頭の狼の影が音もなく集落を抜け出した。
月明かりに照らされた頼りないシルエットは、迷うことなく山脈内の森林を突き抜け、黒い落ち葉を舞わせる。

影が通った後には、横たわる獰猛な獣や魔物の骸を覆うように、黒い落ち葉が浮遊を終えていく。



眉尻をつりあげ、下顎をつきだし、ローブの袖に腕を通した魔法使いは言う。

「……っ!……お前は…ほんとに……。
とりあえず食え!!
要はこれから動くってんだろ!?『腹減ってました』で足引っ張って見ろ!ぶっ飛ばすぞ!」

「……ユウ……!」

「お前が理由もなく駄々こねたりする事なんてそうそうねえからな……聞くよ。
ただしだ、今のお前はどう見ても冷静じゃねえ!
落ち着いてから話せよ!それに──

「アルマがせっかくつくってくれたんだもんね…!」

──そう、それだ。俺はとりあえずカレー温めてから準備にかかる!食いながら簡単に吐け」

びっ!とひとつティアを指さし、台所へと向かったユウがカレーを温め始めて、ティアは食卓について一息つく。
室内にこもっていたスパイスの香りがより一層濃さを増し、ティアの判断力を戻していく。同時に空腹感もかき立てる。
数分ほどでその匂いの元は彼女の目の前にコトリと置かれ、向かいについたユウも冷めたカレーをかき込む作業に戻った。

「それで?何で急にそんなに慌てたんだ?
契約がふざけてるってとこまでは聞いた。それからキノコはそもそも存在してねぇ。いいな?
もぐもぐ」

「あぁ…ごめんね、わかってる。
もぐ……おいしい……!!あ、人参が星の形になってる!」

「おい…わかったから食いながら話せよ…」

「そうだ…!
……それがね……──

ティアが聞いた話──契約の内容──は『集落で最も力を持つ者を生贄としてゴブリン側へと差し出す』というあまりにも非人道的なものであった。
ここまでを民家の外で聞いたティアは、真っ先に『アルマ』と『契約』の点を線で結んでしまい、耐えきれずに突撃してしまったのだ。
血相を変えて怒鳴り込んできたティアにたじろいでしまった民家の人間は、無言の殺気に半ば脅される形で彼女へと全てを話した。
民家の人間が言うには、実は以前にも契約は結ばれたものの、その契約は集落側によって破棄されたという。ティアは前回の契約についてさらに詳しく聞き、愕然とした。
以前の契約によって生贄に出された集落の人間が『アルマの母親』だったのだという。さらにおぞましいことに、アルマの母親を生贄としたことを長老をはじめとする集落の人間はアルマとアルマの父親には黙っていたという。はじめは神隠しだとか、事故だとかで嘘を押し通そうとしたものの、ふとしたことで嘘がアルマの父親に見破られ、真実を知り、激昂したアルマの父親は仇をとりに単身でゴブリン達の巣へと攻め込んだ。
結果は惨殺。アルマの父親はゴブリン達に手も足も出ずに殺され、後日、契約の解除を言い渡しに来たゴブリン達によって遺体は集落へと『返された』という。例により、集落の人間はこの一連の出来事をアルマには隠し通して今に至るようだ。

──……ってのが、私の聞いた『契約』について……だよ」

ユウの手が止まっていた。
手だけではない、豆鉄砲を食らった鳩のような、または金魚鉢を泳ぐ魚のような表情のまま、ユウはゆっくりと息をのんだ。
ただ静かにスプーンの先を見つめたユウは、ただ静かに事実の確認をティアへ。

「じゃあお前……その話が本当なら……次の……生贄って……!!」

神妙な面もちで、少女は頷いた。
長く共にいるからわかる。嘘をついていないティアの様子に、ユウは歯を食いしばる。
長く共にいるからわかる。ユウの現実逃避を潰すための言葉をティアは落とす。

「確認したよ。
明日、アルマはゴブリン達に……いや……『集落の人間に』殺される……!」