悪い顔をしながらリリーナが持ち上げた紙袋。
ユウとティアの顔色が変わる。
閃き、驚愕、それらを一瞥し、リリーナの顔が極悪人のそれになる。

声を上げたのはティアだ。
焦りとも感動とも取れるその声色に、ユウの閃きは納得へと移り変わる。

「リッ!リリーナ・・・っ!
それっ・・・!

『ラブハートブレイド』の紙袋・・・!?」

「ああ!どっかで見たことあるマークだと思ったら!」

「違うわよ、ティア!
ラヴハートブレイドよ!ラ!・・・ヴっ・・・!」


リリーナが下唇を噛んで優しく美しく、えっちな声で発声する。

『ラヴハートブレイド』
以前、ユウとティアとランスがリリーナの美貌の秘密に迫った時に話題にあがったブランドだ。
戦うかわいい女の子達の間で人気の名品。
ブランド名もかわいさの内、こだわる人間は『ブ』と『ヴ』の発音の差にはこだわる。

しかしティアはそんなことは気にしない。
猫じゃらしを追う猫の如く、視線を紙袋へと向けてそらさない。

「そう!知ってるよ!ラッ・・・ブ!
え!?それ!?渡したいものってそれなのラブリーナ!?」

「ちょ、誰よラブリーナって!
そうじゃなくて!ラ!・・・ヴっ・・・!」

「「いや、誰だよラヴリーナって。」」

男たちの無関心を横目に嬉しそうな笑顔で紙袋を手渡すリリーナ。
このときばかりはリリーナの笑顔からも邪気が消え去っており、純粋にセンスを共有し合える女同士の顔をしている、ティアはタマの様に瞳をうるうると輝かせ、両手を胸の前で組んで震える。

「それより早くあけてちょうだい!ティア!
私が直々にポイントを消費して特注で作ってもらった品なのよ!」

「ええええ!?本当!?うそ!?嬉しい!!
ありがとおおお!!!

・・・では・・・早速・・・!!」

緊張感あふれるどや顔でティアはそれを膝の上に置き、紙袋の縁についているテープへと震える指先をかける。
ティアとリリーナの間に緊張が走る。
リリーナも飲み物に口をつけたまま、全神経を集中させてその指先を暖かな眼差しで見守った、ストローの半分まで上がったまま止まったアイスティーがその緊張を物語る。

「その時さ、俺がそのゲス商人の尻にさぁ・・・うはは!」

「ひはは!おまっ!それ!ホモ!!」

「「男性陣!うるさい!」」

「「はひっ!?」」

その場の空気に任せて男性陣を黙らせた女性陣が一つ息を漏らす。
リリーナのアイスティーがボコボコボコっと沸く。
その緊張を感じ取ってか、驚いて黙りきった男性陣もティアの指先へと視線を向けた。

そして

ティアが───

───勢いよくテープを剥がした。

「「「「───・・・・っ!!!」」」」

全員が身を乗り出して袋の中を覗く。
が、その袋の中には今度はブランド名が入った布袋が入っており、それがなんなのかは特定できない。

「「「───ふぅ。」」」

ティアを除いた全員が息を吹き、肩の力を抜いて一瞬の緊張を解いた刹那───

「なによ!このマトリョーシカ!!」

───ティアが、その場の全員の意表を突いて布袋を瞬殺する。
あまりの突然さと、気を抜いていた刹那の出来事故、ユウは驚き椅子ごとひっくり返りかけ、ランスはむせかえり、リリーナのアイスティーは噴水と化す。

しかしティアはブレずに場の混乱に乗じてその中身を店内の照明にどや顔で照らし出す。
斜め45度の椅子から、むせかえりの立ち直り際から、アイスティーの噴水の隙間から、それに向かって視線が集まる。

そして、それを手にしたものが一言───

「えっ・・・?
・・・なにこれ?」

また、ティアを除いた全員から肩の力が抜け落ちる。
この声に最も肩すかしを食らったのはリリーナである。
あれだけの緊迫した開封からのこの一言、ましてや自身がそれを贈ったのだ、期待はずれもいいところである。

「なにこれってあなた・・・
アクセサリーよ。アクセサリー。
『百獣王のたてがみ』よ。」

はっとしたように表情を明るくしたティアはブンブン首を縦に振った。
ティアが手にしているもの、クリーム色のもふもふした輪っか。
言われてみればたてがみに見えないこともない。
ティアはまぶしい笑顔でリリーナに再度礼を言い、そのままのまぶしい笑顔で───

───それを、自身の首へとかけた。


「えへ、えへへ・・・どう、かな?
変・・・かな?うふふ!」

うれしそうにたてがみを首に巻く少女、感想を求めている。
リリーナはもちろん、さすがのユウとランスも言葉を失った。

「うふふ、あったかーい!
ありがとう!リリーナ!気に入ったよ!」

まぶしすぎる笑顔。
嬉しそうな声。
リリーナは迷った、こんなにも、自分の贈り物を喜んでくれた少女、真実を、話すべきか否か。
よくよくみれば似合っていないこともない、が、一つ、たった一つだけ、致命的な問題があった。
ランスも、ユウもそれに気がついている。
ランスはひそひそと、ティアを指さしつつリリーナへと耳打ちする、その声に一度リリーナは眉を歪ませ、ユウからの視線にも一つ頷いて重い口を開くことにする。
ティアのまぶしい笑顔を見ればみるほどに、リリーナの心は罪悪感で潰されそうだった。
しかし、物には用途があるのだ、似合っていればいいというものではない、伝えなくてはならない。
世の理に悔しさすら感じたリリーナはティアをまっすぐ見ることもできない、リリーナはティアから視線をそらし、食いしばった歯の間から絞り出すように伝える。

「えへへー、あれ?みんな?どうし───

「・・・のよ・・・」

「え?・・・なに?リリーナ?」

「それ・・・その子の・・・アクセサリーなのよ・・・っ!」

「え?その子!?え?」

混乱したティアの視線の先、リリーナの震える人差し指・・・いや、今回は『獣差し指』と言うべきか。
物には用途があるのだ。
その獣差し指の延長上。

「・・・そっか・・・」

「・・・ごめんね、ティア・・・」

「いえ、いいのよ、リリーナ。
ありがとう、私、嬉しいよ?」

「ぐすっ・・・優しいのね。」

そこには、元気にドッグメニューを頬張るクリーム色の仔ウルウルフの姿があった。



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ぶっちゃけ最近やる気が落ち込んでいます。

わた氏だぁー。

みなさんこんにチワワ

・・・チワワ。

やる気のなさが文章に現れてしまっていて危機を感じた私。
とりあえずモチベーション上げなきゃ!
ってことでお絵かき。



うーん・・・チワワ。

うふ・・・うふふふ。


あ、そうそう、更新止まっちゃってる粘土工作の話。
出来上がったらまとめて更新しようかなーーなんて。
一応進めてはいますよ?
最近腕が折れました。次はその腕の修正です。

あれです、きっといろんなやる気がでないのは

七月病ですね!

知ってます?七月病。
私は知りません。
でもたぶんあるんですよ、七月病。

七夕を前にしてやる気をなくすあれ。

七夕といえば私、もうすぐ誕生日だね。
昔にあった

『誕生日を迎える度に♪何を祝うのかがずっと謎だった♪
見えなくなってしまったものは♪二度と帰らないと知ったとき♪
歳をとることに後悔と♪1日が過ぎていく恐怖を感じた♪』

って曲の歌詞がグサグサと刺さる刺さる。
おさる。
・・・チワワ。

な・に・は・と・も・あ・れ!

今日は2度目の更新だね!やったね!

と・は・い・え!

絵を描いたってだけで、特に語ることもないよ!

ないなら作ればいい!!
ってことですね。

雑談はじめちゃいましょう!!
何の話ってあれの話しましょう。
私が、最後に感動した漫画。

私、中学生の後半あたりからあんまり漫画読まなくなったんですよね。
そんな私の心を動かした漫画があったのでその漫画の紹介でも。

名を

『ヨコハマ買い出し紀行』

という。

ぶっちゃけます。

 面 白 い 漫 画 で は あ り ま せ ん !

しかし、これほどまでに不思議な気持ちにさせてくれる漫画は他になかったですね。
そもそも、面白さを追求した漫画ではないのだろうと読んでいて思わされました。
流行らないカフェの店番を任されたロボットの女性『アルファさん』が周りの時間の流れおいていかれる話。
しかし作中でそのことを明確に描きつつもアルファさんも実はしっかりと成長しているということを読者に感じさせるお話。
寂しく、切なく、爽やかで、なにか考えさせられるお話。
全巻読み終わった後、ぽっかり心に穴が空きます。
いい気分でもあり、悪い気分でもあります。

紹介すると言いつつも、語るような漫画じゃなかったです、ごめんなさい。
読んでください。この一言につきます。

ああ、思い出したらなんか鬱になる。
あの漫画、今になってまた読み返してみたら全然印象違うんだろうなぁ・・・
きっと、集めた当時中学生だった私には早すぎた漫画だったと思います。
でも、今あの漫画読んだら本当に心が折れちゃうと思います。
きっと、泣きます。

あ、語りたいことあった。

この漫画、夕方や夜の描写が秀逸すぎます。
読んでいると匂いや風を感じます、いや、ほんとに。
絵が上手な漫画は腐るほどあるかもしれませんけど、これほどまでに引き込まれる絵はなかなかないですよ。
気になるなら買いです。

さー、嫌なこと言っていいですか?

もうすぐ、日曜日もおわりですね☆

明日からまた一週間頑張りましょう!
いや、頑張りすぎないように乗り切りましょう!

それでは、残り四分の1日ほどですが、良い休日を!

今後ともノアのはこぶねをよろしくお願いします。



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光陰矢のごとし、ユウとティアがサウスパラダイスに到着してから早一ヶ月が経とうとしている。
一月まえ、この街で闘技場の虜となったタマは今日も元気にユウを張っ倒す、ユウは相手がタマということもあって本気で戦うことができないようだ。
しかし手を抜いても大怪我を負わないだけ、この一月でユウも成長したのかもしれない。
獣レース祭りの後、一時だけ優しくなった鬼コーチは本命を前にしてまたもや鬼と化している、この一ヶ月の間で、海岸で暴れる若い男女と大きな獣の姿は一種の名物にもなっていた。
タマの最終調整の相手と聞いて一時は命の危機をも感じたユウだがなんてことはない、ティアもタマもその辺の分別はしっかり持っていたようだ。

「よし!今日もユウを三回倒したね!タマ!
ユウもありがとう!これだけ仕上がれば獣祭りでも充分タマは通用するよ!」

きゃあああとはしゃぎながらティアはタマの口に高級ドッグサラミを投げ込む。
ひれ伏し、口の中の砂を吐き出しながら満足げにその様子を眺めたユウはティアからマナ水をぶっかけられて起きあがる。

「どういたしまして、全く、いざこうして自分がサンドバッグになってみるとよくよく分かるよ。
お前、この間は無理しすぎだ。」

「・・・はは・・・まぁね、でも、その甲斐あってレース祭りはいい結果に終われたわけだし・・・ね?」

「ああ、おかげさまだな。
お礼に今夜は高級ディナーでも───

「いやいい。」

「冗談だよ。
そこまではっきり否定されるとはな・・・」

苦笑いを浮かべつつ、懐中時計を確認したユウはティアに用事の件を伝える。
数日前、獣レース祭りのあと、いつものように海岸でトレーニングをしていた2人の前にランスとリリーナが姿を現したのである。
用があったのはリリーナの方だったらしく、ランスはただの付き添いであった。
内容はリリーナから2人へ『渡したいものがある』とのことで、その日から数日後の今日、2人はリリーナに昼食に誘われていたのだ。
そして時刻は昼食前、ユウとティアははしゃぎながらホテルへと戻り、シャワーと着替えを済ませる。

「お待たせ!ユウ!」

「待ったぜ!ティア!
なにいっちょ前に女の子してんだよ?お洒落さんじゃねえか。
ほ、ほら、早くいくぞ!」

あの夜のようなお洒落な姿で現れたティアに、少しだけユウはぎこちなくなる。
いまだにユウはティアの乙女な一面に慣れていない節がある。

───悪くない。

感想は、あの夜と同じだ。
いつもよりすこし赤い顔をしたユウと、いつもよりすこし白い顔をしたティアは早速ホテルを抜け出してランスとリリーナとの待ち合わせ場所へと向かう。
そして飲食街の高級とまではいかないものの見た目お洒落な店の前にて、2人の姿を見つけた。
相変わらず小綺麗にまとまったリリーナと、それに対を成すようにこだわりを感じさせない姿のランス。
ランスとリリーナもユウとティアの姿を確認し、これまた対を成すような反応を見せる。
腕を組み、そっぽを向いてあくまでも気づいてない振りをしつつチラチラと横目で2人を確認するリリーナ。
大声をあげつつ、大きく手を振るランス。
そんな2人に少しだけ笑みをこぼしつつ、ユウとティアは合流を果たした。

「おっす!ユウ!ティアさん!
獣祭りまであと少しだな!調子はどうだ?」

「上々だ、期待してくれていいぜ!」

男同士の再会はあっさりとしている。
ランスとユウは謎のハイタッチをしつつ、一言目以降はすぐに話題を切り替えて馬鹿話を始めていた。
その一方で

「ふー・・・ん。
『お似合い』ね?ティア?」

「まぁね、私は『身の丈に合った服』が好きなのよ。
似合いすぎてごめんねぇ?」

女同士の再会はえらく醜いものだった。
リリーナはティアの着ている服がさほど高価なものではないことを一瞬で見抜いて皮肉を投げ、それを一瞬で皮肉と判断した ティアもすぐさま皮肉を投げ返した。
ブランドや服などにさほど興味のないユウとランスはそんなことに気がつくはずもなく、ただただ邪悪な笑顔を作り続ける女性陣に得体のしれない恐怖を感じていた。

それぞれの挨拶もそこそこに、四人と一匹は店の中へと入ることにする。

四人掛けの丸テーブルに座った四人。
適当な料理と飲み物を注文したのち、それらが運ばれてくるまでの時間を適当に潰す。
料理が運ばれてきて、四人は無言でそれを貪り、食後の余韻に浸る頃に、ユウがふと、今日の目的を思い出した。

「あ、そうそう、リリーナが言ってた『渡したいもの』って・・・?」

爪楊枝をくわえながらユウが身を乗り出した。

「・・・あ。
そう!ユウ!やっと思い出したのね!私も今思い出したわ!
ティア!みなさい!」

どうやらリリーナも目的を忘れかけていたらしい。
口元をハンカチで拭いつつ、リリーナは自身の席のよこに置いておいた紙袋へと手を伸ばす。



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会場は荒れに荒れた。
新入りが強敵を押しのけて一着、しかも人気も低かったために倍率も馬鹿みたいな数字になっていた。
そんなタッグに有り金を全てかけたティアは一夜にして大金持ちになったのだ。
それを他の会場の人間にバレたらよからぬことが起きそうだと察してティアは元に戻れぬタマと気を失ったユウをつれてこっそり会場を抜け出し、ヒール屋へと連れて行った。

ユウとタマの合計治療費、860000F。

一人分ではないといえ、あっさりとあのリリーナの治療費を上回る額にティアは目を回したものの、紙幣や金貨の山で溢れて閉まらない財布どころか、ポケットからもお金をはみ出させていた自身に気がついて再度目を回す。
ティアは隠れるようにきっちり治療費を払いきり、ユウとタマの治療が終わるのをヒール屋の外にて待つ。

今夜のディナーの内容に胸を踊らせつつ。

しばらくするとヒール屋ののれんを大きな狼がくぐってきた。
背中にはボロボロの服を着た、無傷の魔法使いを乗せて。
タマはくわえていたメイガスエッジをティアへと渡そうとするが、ティアはそっと首を横に振る。
不思議そうに首を傾げるタマに、優しく言葉をかけながら。

「『それ』は私がユウに貸したものだからね。
ちゃんとユウの手から返してもらわないと・・・ふふ。
タマ、お疲れ様!格好良かったよ!
ふばっ!?」

ティアの笑顔には元気の証の濡れた鼻先が押しつけられる。
タマなりの照れ隠しなのだろう。
照れ隠しのついでと言わんばかりにタマは背中のユウを地面へと放りおとし、顔面へと鼻先をぶつけ続ける。

「あっ、わっ!ちょっと!?タマ!?
今日ぐらいは・・・あ・・・起きちゃったね・・・」

そして、ユウが目を覚ました。
頭を掻きつつ首を振り、タマの鼻先に首を振らされ、状況の確認を進める。

「・・・あれ?ティア?
・・・あぁ、そうか、レース・・・終わっちまったのか・・・
え?で?なに?結局どうなったん?」

軽い!軽すぎる!
ティアはそう思い、心配しすぎたことにも少し後悔する。
キョロキョロするユウの頭の上に、ティアはため息をもらしながら札束をばすっと落とす。
それを手に取り目にするユウの表情がみるみる驚き、夜のサウスパラダイスに元気な声が上がった。

────勝った!!!」

そして現在、ユウとティアは高級ディナーを食べに、高級料理店へと足を運んでいた。
乾杯はワイングラスの先っちょを軽く当てるだけにしておいた方が良さそうな程にお洒落な雰囲気の店だ。
純白のテーブルクロスのかかった小さな丸テーブル、そこにならんだリリーナレベルの盛りつけの料理達。
小さくなったタマはユウと交代と言わんばかりに眠ってしまい、今はナイフとフォークを器用に操るティアの膝の上だ。
膝の横には、ちゃんとユウの手から返されたメイガスエッジが輝いていた。
首を傾げながらナイフとフォークを眺めるユウが口を開く。

「おい、ティア・・・すげぇよ・・・」

「うん・・・高級だね!!」

「これさ、どこまで食べていいんだ!?
この葉っぱは食べていいのか!?」

「えっ・・・気にしてなかったよ・・・私それ、一緒のお肉に巻いて食べちゃったよ・・・?」

2人は若干後悔していた、雰囲気と約束で高級ディナーに足を運んでしまったものの、本当はもっとガヤガヤしたお店でバカさわぎをしたかったのだろう。
味は確かなものだが、緊張してそれどころではない。
なにせ一回ボロボロの服で訪れたユウが入店拒否されたくらいである。
よって、2人は今、何時になく堅い服を着ている、その事実が緊張を助長していた。
タマに関しては他の飲食店同様、ペットOKであったことに油断していた2人だが、他の席にいるペット達は異様な美しさで品があり、タマを元に戻す必要がなかったかのように思わされるほどである。

「なぁ・・・これ、いくら?」

ユウが極細の春巻きにチョコレートのようなソースのかかった料理をフォークで持ち上げて問う。

「え、単品の値段はしらないけど・・・コースで100000F・・・」

「は!?十ま────

「しっーーー!!静かに!ひそひそ!」

値段を聞いたユウが、本音をこぼした。

「これっぽっちの量の料理があと数皿出てくるぐらいで十万・・・
俺は・・・今日もお前のチャーハンかホテルのバイキングで良かったよ・・・」

2人とも、眉間を歪ませ、眉を八の字に吊り上げて黙々と高級ディナーを消化していく。

「そうね、私とタマの獣祭りの日にはご飯は酒場にしましょうか・・・ごめん。」

なんとも言えない高級ディナーになってしまい、2人は勝利の余韻に浸ることすら出来なかった。
最も幸せそうだったのは結局ティアの膝の上ではなちょうちんを膨らますタマである。

いや、今夜だけではない、そもそも、闘技場の競技への参加もタマのわがまま、サウスパラダイスに来てからというもの、最も幸せなのは常にタマだ。
なんとなく、同時にそんなことが頭に浮かんだ2人はちらりと目があってため息混じりの微笑みがこぼれた。

残すわがままは本命の獣祭り。

期間は一週間とちょっと。

2人の受難とタマの幸福はもう少しだけ続く。


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顔は腫れ膨れ、体の至る所に傷を作り、ボロボロになりながらもユウとタマは先頭集団へと飛び込む。
最早魔法に頼りきりで押し切ることは叶わない。
指輪が砕けてしまったユウに関してはある意味戦闘不能と言っても過言ではないが、ユウもタマも諦めない。
いや、諦めなどという考えがそもそも消え去っている、一人と一匹は今

ただただレースを楽しんでいる。

その様子はまさに闘技場のそれに相応しく、且つ不相応に若々しく、見る者達を熱くする。
もちろんティアもその一人である、ティアは汗をタオルで拭いつつ、声を枯らしつつ、聞こえもしない大声を教え子達へとぶつけ続ける。

実際に聞こえていなくとも、それはしっかり伝わっているということを、ティアは肌で感じて疑わない。

一つ、また一つとユウとタマから血しぶきがあがり、よろめき、立ち直る。

そしてついに

再び先頭へと昇りきる。

「はぁ・・・はぁ・・・いてぇ・・・視界が・・・
・・・タマ・・・大丈夫か・・・?」

ユウの問いかけには自信のありそうな鼻息が一つ。
荒い息に混ざりきりで力はなくとも、力強さを感じさせる。
ラストスパートだ。
意気込んで空気抵抗を減らすために身を低く屈めたユウ。
依然として周りからの猛攻は続く。
ここまで残っているというだけでも、現在攻撃を続ける走者たちがかなりの実力であるの察することができる。

周りから飛んでくる魔法やマジックアイテム、武器を頼りない魔法障壁で相殺しつつ、押し切られつつ、ユウは息を荒げながらタマへと言い聞かせる。

「・・・ごめん!タマ!
俺、今・・・乗ってるだけで荷物かもしれねえけど、頼りねえかもしれねえけど・・・
言わせてくれ、指示を・・・出させてくれ!

───逃げ切れ!!タマ!!」

加速

ユウの声を聞いて、タマの脚に力強さが戻る、両脇から距離を縮めつつあった走者たちから一メートル、二メートルと、少しずつ、しかし、確実に距離を空けていく。
ユウの限界を察知し、避ける、あえて跳んで受ける。

ユウへの攻撃や負担も、タマが一身に請け負う。
ユウの視界が歪む、鼻っ柱と目頭が熱を帯び、喉が痛む。
海岸で涙したティアの気持ちを、わずかだが実感する。

「───ずっ!タマ!無理すんなよ!?
俺には、俺にだって、まだ───

───っ!?

ユウの言葉を遮ったのは見覚えのある大剣。
視界に入ったそれは、すでに避けるには間に合わぬ位置まで迫っていた。

大男が───再再度追いついてきたのだ。

振り下ろされた剣に、ユウの思考が働く。
不敵な笑みが浮かぶ

───ちょうどよかった───

と。
ユウはタマに、自身がまだ戦う意志をみせようと、鬼コーチからの贈り物に手をかけていたのだ。
そこへ振り下ろされてきた大剣、選択は一つ。

───盛大な金属音が、レースの先頭で鳴り響く───

「っ!?なんだと!?このガキ・・・!!」

「よう!おっさん!ひさしぶりだな!俺の魔法で頭の方は冷えたかい!?」

メイガスエッジ。
アリエスアイレス1の剣士の、世界最高の剣がアリエスアイレス2の剣士の手によって振り抜かれていた。

『お飾り』という言葉が最高のほめ言葉である『芸術的』見た目と
『お飾り』という言葉が最高の侮辱にもなりうる『剣』としての性能。
翡翠晶の宝石質の輝きが、闘技場のライトに当たり、それ以上の輝きを放つ。

それが、大男の奇襲を難なくはねのけた。

大歓声があがり、会場が揺れる。
逆に、ティアは言葉を失った。

───最高の舞台で、最高の剣による、最高の剣技。
応援どころではなかった。
ティアの1ファンとしての感動が、言葉を生唾ごと喉の奥へと押し込んだ。
熱気とは関係のない汗、声援の疲れとも関係のない震え。
ティアは胸元へと握り拳を持ってきて心臓の鼓動を自身で感じ取る。

そして、やはりティアが認めた『魔法使い』は期待を裏切らない

「・・・かっこいいじゃない・・・ユウ・・・!」

始まる

沸く

震える

他を置き去りに、レースのラストスパートでみせられた先頭の二組で始まった目にも止まらぬ剣閃の嵐。
タマと、大男の獣も目まぐるしく動き回り、場所が入れ替わったと思えばまた大きく跳ね、ぶつかり合い、また入れ替わる。

「おおおおらあああ!!沈みやがれええええ!!!」

「・・・っ!!
汚え・・・
剣っつうのはこうやって振るんだよ!!!」

振る

刻む

弾く

ユウも大男も、斬られようとも血がでようともものともしない、ただただ振り続ける。
己の腕と、プライドをかけて

ゴールまで残り400メートルを切った。

独走状態でユウと大男は剣をぶつけ合う、順位はこの段階で一位と二位は決まっていた、後は、どちらが折れるかのみにかかる。

「消えやがれぇぇぇえええ!!!」

「うぉぉおおおああああっ!!!」

異様な程に鳴り響く金属音、2人の男の声。
ゴールまで残り200メートル。

───メイガスエッジが宙を舞った。

「っつ!───くっ!?」

「終わりだああああ!!!」

丸腰のユウに今まさに剣を振り下ろそうと大きく剣を構える男。
ティアが声を上げる刹那───

───タマ!!!」

ユウも声を上げた。

指示と言うほどのものでもない、しかし、意図はしっかりとタマへと伝わった。

声を上げると同時にユウは素手のまま、大男に向かって跳んだ。
同時にタマはメイガスエッジの落下点へと向かってメイガスエッジを拾いに走る。

そしてハナから制御する気などさらさらないような魔力を両手に込め、大男の顔面に向けて放つ。

「秘技!!『タマの大爆薬』!!」

ユウの魔法は案の定暴走し───

───大爆発が起こった。


「ユウ!?!?」

ティアが慌てふためき先頭で起こった爆発の煙の中に視線を送る。
ユウの姿は───煙の外にあった。

ユウは自身の魔法の暴発を利用して大男の顔面を踏み台に、というよりも爆発を起点とした発射台にしたのだ。

「っが!・・・てめ・・・わざと・・・!?」

「・・・っくは・・・っはは・・・ざまぁ・・・みやがれ・・・」

遠のく意識の中。
ユウはメイガスエッジをくわえたタマを確認し、最後の指示を出す。

───タマ・・・轟槌『剣』牙・・・!」

自身の魔法の暴発で吹き飛びつつ、力無く、とてもカッコいいと言えるような指示の出し方ではない。
しかしそれが今のユウにできる精一杯。

ユウはタマに指示を出し切ったところで満足げに気を失った。

そして、ここに『剣技を扱う獣』が誕生する。

タマが、メイガスエッジをくわえたままに、大男とその獣のタッグに向かって轟槌犬牙を放った。
ユウのヤケの暴発魔法を食らった大男は視界と身体の自由を奪われており、なすすべなくそれをその身体にくらう。

大男の身体が、地に落ちた。

その後、ユウの身体がタマの背中の上に落ちた。

タマが、ユウを背負ったままにゴールを通過する。

「───った・・・!
ユウと・・・タマが───!」

ティアが口元をおさえて瞳を潤ませる。

「───勝ったあ!!!」

レース自体は大荒れだ、ブーイングから声援から様々な声が響きわたる。
しかし、誰しもが納得せざるを得ない確固たる『結果』がアナウンスによって伝えられ、魔光掲示板の1stの隣にユウとタマの名前が光る。


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