2人が街の人間に話を聞きつつ向かった先は港である。
街はそれほど広くもなく、ほどなくして目的地へとたどり着く。

ほのぼのとした晴れた港、静かな波の音、どこまでもどこまでも広がり、空との境界を混ぜあう海、ミャーミャーと変わった鳴き声で鳴くカモメ、巨大な船。
初めての光景とその素晴らしさに、2人ははしゃぐことも忘れて海を眺めた。

「これが・・・海か・・・!」

「これが・・・海だよ・・・ユウ!」

「そうか・・・海だな・・・ティア!」

「うん!・・・海だね・・・ユウ!」

「ほら!・・・タマ!・・・海だ!」

「あそこに見えるのが海だよ!タマ!」

腕をくんで大海原を眺める二人。
今からこの海を越えて、まだ見ぬ世界へと乗り出す不安と期待に、2人は感慨深さを覚える。

「俺達の冒険はこれからも続く!」

「長い間、ご愛読ありがとうございました!ユウ・ラングレル先生の次回作にご期待ください!」

「・・・終わらねーよ。
さっきからノリだけで会話するのやめてくれよ。」

「それで!それでね!次週からは私の新連載がはじ───

「まらない!だめだ!」

「ちょっ!?ずるいよ!私もペンでブレイクしたい!」

「今の終わり方だとブレイクどころかどう考えても打ち切りだけどな。
ちなみにどんな新連載だ?評価してやるよ。」

「タマが主役のハードボイルド。」

「よし買った。」

「ほんと?予約者特典つけないとね!」

「よし、10冊買った!
特典内容は?」

「タマのウルウルストラップ。
『ウルウル』と『売る売る』をかけてるの、縁起がいいでしょ?
これで私のお財布も潤潤なの!」

「・・・古本屋に売られてなければいいけどな・・・売る売る。」

他愛もないいつもの雑談を投げ合いつつ、2人は依頼主の元へと向かう。
港の端にたどり着いた2人は、たくさんの木箱が乗せられた大きな船の横で足をとめた。

「コンテナーノセール号・・・これだ・・・!」

ティアは震える声でその巨大な船を見上げる、あまりの巨大さ故に見上げているのに足がすくむ。

「でっ・・・けぇ・・・マジかよ・・・」

固まる2人に対して船の上からバンダナをした男が声をかけた。
どうやら乗組員のひとりらしい。

「おーい、おまえらー、なにやってるんだ?
そんなとこにいたら荷物の積み込みのじゃまだぞ?
観光船はあっちだ。」

「ああ!いえ!違います!俺達ブロンズランクの旅の人で、その、今回は依頼を受けさせて頂こうと参りました!!」

「ほら!ちゃんとブロンズランクのペンダントももってますよ!」

ユウの説明と、ティアの掲げるペンダントを目にし、乗組員は怪訝な顔をみせる。
どうも信用してない表情だ。
しかし乗組員のその様子にも無理はない、依頼の内容から考えるとどう考えても船の下の見える少年少女は役不足に見えたからだ。

「いや、依頼って・・・『貨物船護衛の依頼』のことだろ・・・?
確かにブロンズランク以上の募集だったらしいけど・・・お前らにほんとにこの船の護衛なんてできるのかよ?
最近ここいらでは『海賊被害』が頻繁に起きてるんだ、遊びじゃないんだぞ?」

2人が受けることにした依頼とは、乗組員の男の言うとおり
『貨物船の護衛』
である。
この依頼なら前回のシルバーランクの依頼の様な変な危険もない上、船で海を渡った上にお金までもらえる。
目的地は船の行く先に固定されてしまうが2人が目指すのは大陸の中心部にある王国である、
別の大陸に流される心配さえなければ別に行き先はどこでも構わなかったため、この依頼を選んだのだ。

「ああ!それなら大丈夫ですよ!俺達最近飛竜と戦ってきましたから!」

「いや、まって!ユウ、あれ一方的にやられてただけじゃ・・・?」

しかし、ユウの言葉は逆効果となる。

「飛竜!?飛竜だと!?嘘つけ!そんなもん相手にして生きて帰れるわけないだろ!?
子供の遊びに付き合ってるヒマはないんだ、高くついちまうから避けたかったが今回は妥協して護衛団に依頼するよ!
帰った帰った!」

諦めかけるティアを余所に、ユウは流石に頭にきた様子で乗組員の男に食ってかかった。

「なんだと!?降りてきやがれおっさんよう!!
あんたのことボコボコにすりゃあ文句ねえだろ!?
相手の実力も見誤るようなヤツにガキ扱いされたかねーよ!
少しはタマジローさんみならいやがれ!
なんなら呼んできた護衛団もまとめて相手してやるよ!」

「ちょっ!ユウ!やめなよ!
ごめんなさい!乗組員さん!ユウはちょっと頭に血がのぼると・・・」

あわててその場を取り繕おうとするティアの耳に入った声は呆れた様子の笑い声。
その声は紛れもなくその乗組員の男によるものだった。

「あっははは!言うじゃねえか坊主!気に入ったよ。
俺は威勢のいいガキは大好きだ!よし、ブロンズランクであることは間違いなさそうだし、この船の護衛はおまえらに任せよう!
だが大人相手に喧嘩売ったんだ、ちゃんとこの船目的地まで守り抜けよ?!」

「えっ!?いいんですか!?」

「いや、お嬢さん、むしろこちらからお願いする!
さぁ!もうすぐ荷物も積み終わるから早くのんな!」

2人は顔を見合わせ笑顔で頷き、乗組員の男に頭を下げつつ船へと乗り込む。

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予定会議から一夜あけ、2人は予定通りに事を進めようと宿をでる。

「よーし、昨日の話どおり!
今日は依頼所で『海に関する依頼』を探して一石二鳥ってことだったよね!」

「そうそう、早速依頼所いってみようか。」

2人は難なく依頼所にたどり着き、難なくランクフリーの依頼を探す。
しかし、その様子はどこか面白くなさそうである。

「海岸掃除、魚釣り、屋台開き・・・なによこれ、便利屋以下じゃないの。」

「海底洞窟への入り口の発見・・・1000000F
これどう考えてもブラックだろ。」

「「はぁ・・・」」

ティアがファイルをたたんでユウへと話かける。
その表情はいかにも「面白くない!」といった感情が見え隠れし、ユウも同じことを思っていた。

「ユウ!せっかく港町まできたのに、海に関する依頼がひどいのしかないよ!」

「海底洞窟、探しにいくか?」

ティアは困った表情で首を傾げてすぐに断った。

「やめとく。つい最近そのノリで死にかけた。」

「だよなー・・・」

ふと、ユウは思いついたかのようにブロンズランクの依頼を探し始めた。
ティアはさらに困った様子でユウへと問いかける。

「ユウ、それブロンズランクだよ?
私達まだノーランクだからその辺は受けられないよ。」

「まぁまぁ、ちょっとな。
もしかしてノーランクの依頼しか探さないから面白くないんじゃないのか?」

パラパラとファイルのページをめくりつつ、ユウは依頼を読み上げていく。

「クラゲ鮫の捕獲、危険海域調査、大マグロ一本釣り補佐・・・なるほど!面白そうかも!!
ティア!やっぱり俺たちがノーランクだから依頼が面白くないんだよ!
もしかしたらグリーンヴィレッジの依頼にもブロンズランク以上なら面白いのがあったのかもしれない!」

笑顔で目を輝かせつつ、ユウはティアへと向き直った。
その様子にティアも両手を合わせて同意する。

「なるほど!それだ!
じゃ!じゃあさ!まずは適当な依頼をポコポコやっつけて、ブロンズランク入りを目指せばいいんだね!?」

無言でユウは頷いてランクフリーのファイルを再度開く。

「決まりだ!

『どっちが先にブロンズランクになれるか』

競争だ!」

「望ところ!私の方がアドバンテージあること忘れないでよね!」

ティアはユウがタマジローと魔法研究に明け暮れていた時にもいくつかの依頼をこなしていた、そして、得意分野が多い分、ユウよりもティアの方が受けられる依頼の幅も広い。
ユウはすぐさま討伐の依頼を引き受け街の外へと出て行ったが、ティアは悠々とランクフリーファイルから
『手芸教室補佐、荷物配達、施設の臨時子守、パーティー料理作りの手伝い』
など、はば広く、且つ、街の中で受けられる依頼を引き受ける。

「この競争、私の勝ちね。
さーて、なに奢ってもらおうかな?」

2人の競争開始宣言から数日後の話である。
いつもの依頼所には笑顔でブロンズランクのペンダントを受け取るティアと、頭をかきながら必死にランクフリーのファイルをめくり漁るユウの姿があった。
目の下には隈まで出来ている。

「さて、競争は私の勝ちだね、ユウ?
それじゃあ、私はそこの喫茶店でタマとお茶してるから、さっさとブロンズランクに上がってきてね?」

「ちくしょう!なんでだ!なんでだよ!俺は1日三つぐらいしか依頼受けれねえのに、なんであいつは倍ぐらいの数こなせんだよ、ふざけんなよぅ・・・」

ユウもブロンズランクにあがるまでにはさらに数日かかった。
暇をもて余したティアが一度妖精の村まで遊びに行った位である。
そこで笑顔を見せてくれたマコとコトの話をされたときは、ユウは悔しそうに目元を拭っていた。
しかし、ようやく二人ともブロンズランクへと昇格した。
ブロンズランクは別に珍しいこともない、むしろ、旅の人として生活しているものならばブロンズランク以上でなくてはおかしいぐらいだ。
ユウとティアは、ようやくそのランクまでこぎつけた。

「じゃあ、負けた方にデメリット無しっていうのもあれだもんね、罰ゲームはユウが考えてよ。
自身が・・・納得いくようにね?むふふっ!」

「くそう・・・ちくしょう・・・!
俺だって本気になれば討伐以外の依頼だって・・・!」

「受けた結果、失敗して怒られた上に罰金までとられてたよねー、あははっ!」

「・・・」

ユウの罰ゲームについて話し合いつつ、二人はブロンズランクのファイルを開く。
始めてのブロンズランクの依頼。
少し状況が特殊すぎたということもあるが、シルバーランクの跡継ぎで死にかけた節もあるため、2人は若干の緊張を覚える。

そして、2人はある依頼を受けることにして依頼所を後にする。

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二人は海までの道など知らない。
初めての街であるから当然である、しかし海までの方角はわかるため、とにかく海の方角へと向かって障害物や別れ道をのけてゆく。
順調に街の中をかけていたが、途中でティアが突然足を止める。

「あ・・・」

「おおっと、どうした?ティア?」

首を横の建物に向けて止まっていたティアは、ユウの呼びかけにも答えず、身体も首の方向へと向ける。
なにかに興味を惹かれた様子で口を開けて固まったその表情、ユウは自然とティアの視線の先を注視する。

「・・・映画・・・?」

映画のポスター、そして、受付と思しきテーブルと、そこに座る男性。
映画館であるらしい。

「ユウ・・・私・・・映画みたい!!」

「んあ?!映画!?・・・海は?」

「・・・うーん、ユウは・・・海がみたい?」

ひとつ、ユウは首を傾げてティアへと問う。

「なに遠慮してんだよ、らしくねえな。
いつものお前ならコレだろ?」

そう言うとユウは右手を握って前へ出した。

───数分後───

そこには映画の席に着き仏頂面でポップコーンを摘んでいるユウがいた。
タマも大人しくティアの膝の上でジャーキーを噛んでいる。
ティアはというとすでに泣きそうな様子でまだ何も映っていないスクリーンをながめていた。
じゃんけんは、ティアに軍配が上がったようだ。

「ごめんね・・・ユウ・・・この映画、どうしてもみたかったの・・・
旅に出てくる前から楽しみにしてたんだけど・・・みる機会もなかったから・・・」

「・・・で、俺が原因で旅にでたから見れなかったと、そしてそれを言うと俺に気を遣わせそうだから遠慮気味だったと。
バカだな、映画ぐらいいつでもかまわねえよ。
俺は寝るけどな。」

ユウはティアの創作物好きは知っている、童話も演劇も映画も好きなのを知っているのだ。
今日は移動日で時刻もすでに夕方、依頼を受ける予定もないし、後は食事と宿取りを残すのみだ、海なら明日でも見に行けるし、お金に困っているということもない。
ユウには、断る理由がなかった。
しかしあえてじゃんけんにしたのはティアが予定を曲げた事を本人に気負わせないためである。
仮にユウが勝っても、映画のポスターに食いつく振りをして結局映画にするつもりだった。

「ありがとう~!
お礼に今日のおごりは奮発するからね!」

「じゃあそのお礼に映画は俺のおごりだ、楽しめよ、お休み。」

口ではそういいつつも実はユウも映画が気になる、どうせ数時間も続くのなら、つまらなくなってから寝ればいい。
最初の数十分は見ても損はないと、ユウも起きているつもりだった。
2人は光り始めるスクリーンへと目を移して会話を止めた。

物語が始まる。
内容は王道の恋愛もの、ある1人の騎士の男と、騎士に守られる姫の話。
姫の国と隣の国は戦争中である、ある戦いで騎士は罠にはめられて敵国に捕まってしまう。
騎士と恋仲であった姫はその事実に痛く悲しむ。
そこで姫は騎士を助けるために自ら敵国の王と結婚する事を約束し、結婚が成立したら戦争は終わらせ、全ての者の身の安全を約束する様、敵国の王へと話を持ちかける、自分を犠牲にして騎士を助ける道を選んだのだ。
姫は敵国の王の監視下に収まり、一旦は騎士も解放される。

しかし、敵国の王は嘘をついていて、結婚成立後、姫との約束を破るつもりであった。
その話を偶然聞いた騎士は、ある中立国に住む友人にその話を持ち込み、助けを求める。
その友人も中立国の騎士であったため、姫の国の危機を中立国の王へと報告し、姫の国への加勢をお願いする。
結果、姫の国と中立国の前に敵国は破れ、取り返された姫と騎士は結婚してずっと幸せに暮らすというものであった。

物語序盤、興味など無さそうにしていたユウが敵国の王に本気で怒る。
「映画だから」とティアになだめられ、一度立ち上がるもちゃんと座る。
それからはユウも物語に釘付けであった。
タマはウルウルしていた。

いやに生々しいベッドシーンでは2人とも固まったまま目を皿にしていた。
ユウはポップコーンを摘んだまま生唾を飲み込み、ティアはなぜか膝の上のタマの目を覆っていた。
その手の下でタマはウルウルしていた。

姫を取り返すために敵国の軍相手に剣一本で無双する騎士とその友人騎士にユウは大興奮で鼻息を荒くしていた。
ティアは眉間にシワをよせながら
「あそこでごうつい、そこからきりかげ・・・」などとつぶやいていた。
タマはウルウルしていた。


そして騎士と敵国王の一騎打ち。

『姫、君を───さらいにきた!』

この台詞にティアはブンブン拳をふって興奮し、ユウは一つ、鼻で笑った。
タマはウルウルしていた。

ラストシーンには2人でティアのハンカチを取り合いながら止まらぬ涙を拭っていた。
タマもまだジャーキーを食べながらウルウルしていた。

2人とも有意義な時間を過ごせたようだ。
映画館をでて、レストランで食事を始めても興奮冷め止まない2人は映画の話で盛り上がる。

「いやぁ、ほんとにあの騎士さんの台詞!!
『姫、君を───さらいにきた!』

きゃあああああ!しびれたねぇ!」

「いやいや、あれは流石に臭かっただろ。」

「まあねー!ユウには絶対無縁な台詞だもんねー!はいはい!
じゃあユウならあそこでなんて言うのよ?」

「姫さまをかえせー!!」

「・・・」

「かえせー!!」

「・・・」

「フロスト=スープ!」

「えっ!?何!?
・・・ああーーー!!!私の
『じっくりぐつぐつ煮込めばにっこり!新鮮魚介のダシが生きる!生きがいいから生きている!黄金色のエビカニホタテミックスデラックスープ』
が氷漬けにいいいいぃ!!!?
せっかくちゃんと名前を覚えて注文したのにいいいい!!!?」

「へっ、姫さまをかえせーを馬鹿にするからだよ。
それに結局名前覚えたところで店員さんは
『はい、魚介スープ一つですね』って言ってたじゃねえか。」

「うるさい!てやっ!」

「わっ!あぶねっ!
・・・うおわあああーーー!!!俺の
『まさかの厚みが8㎝!中まで火なんか通さない!むしろ赤さがうまさの秘密!塩と胡椒で食べなきゃ出禁の高級しもふりレアレアステーキハイパー』
がただの細切れ肉にいいいぃ!!!?
ふざけんな!!」

「なによ!ユウだってしっかり名前覚えてるじゃないのよ!!
そのくせメニューの写真を指差し注文なんてずるいよ!」

「うるせえ!こんな長ったらしくてこっぱずかしいメニュー声に出して注文なんてできるかよ!?」

映画の話もそこそこに、喧嘩の末に高級レストランからつまみ出された2人は、今夜も仲良く貸し出し厨房でティアのチャーハンを食べた。
そこで2人は翌日からの予定を話し合い、宿へと入ってその日を終える。
地元だろうと海辺だろうと結局2人は変わらない。
変わらないから、楽しく旅を続けられるのかもしれない。

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「その夜、波打ち際を歩く男の足に絡みつくなにかが・・・!!」

「なにか!?」

「まぁまぁ、落ちつきなよ、ユウ。
話はこれからなんだから・・・」

「うんっ!」

「それは真っ赤な・・・」

「タコ!?」

「いやいや、違うから・・・ユウ?
話はこれからだから落ち着いて聞いてね?」

「俺たちは・・・これからそんな魔境に向かうって言うのか・・・大丈夫なのかな・・・」

「あ、私の話終わらされちゃった・・・」

妖精の村を抜けてから、2人はグリーンヴィレッジを通らないルートで港街を目指す。
ティアの海にまつわる怪談話もそこそこに、2人は軽快に足を進めていく。
お弁当も食べ終えて、あとは峠を下れば港町である。

「タマー?港についたらタマも新鮮なお魚たべたいよねー?」

ティアは笑顔でタマを抱き上げ頭をなでる。
相変わらず鳴きもせず、黙って震えつつ瞳を潤わせるタマ。
ユウの魔法で強化され、知能と力が増しても大人しく、ただの一鳴きもしなかった点から考えると、タマはもともと大人しくて物静かな性格なのだろう。

「タマって、魚介類食べても大丈夫なのか?」

「基本的には雑食だからね!きっとその気になればユウでも食べれるよ!?」

「タマサブローに本気で食われかけた俺からすればその話笑えない、やめてくれよ。」

「・・・それちょっとちがう・・・」

ある程度峠を下って、開けた道にでた。
そこでユウはとティアは大興奮を覚える。

「・・・あ!!!ティア!!みろ!海だ!アレ絶対海だよ!」

「えっ!?見えるっ!?・・・あっ!!すごい・・・!
あれが・・・海・・・青いね!!」

「ああ!でかいな!!」

ユウがとびはねながら指を指した先にはとうとう海岸線が見え、真っ青な海が顔を出していた。
2人とも実際の海を見るのは初めてなこともあり、大人げなくきゃあぎゃあ騒ぐ。

「すごいよ!あんなに・・・あんなに青くて大きい海から・・・無数の白い手が伸びるなんて・・・」

「えっ!?なんだよそれ!?白い手!?」

「知らないの?ユウ・・・私が聞いた話だと・・・海っていうのはね・・・」

ティアの怪談話が第二部へと進み、2人の足取りもより軽くなる。

───しばらく後───

「そこに現れた幽霊船がね・・・」

「うんっ!」

「不気味に・・・あっ!!ユウ!港町の入り口!あれじゃないっ!?」

「っなんっだよっ!幽霊船が不気味になんなんだよ!じらすなよ!」

怪談話も第四部まで続いていたが、ティアはその流れを自らぶった切り、初めての港町にはしゃぐ。
タマを抱えて話を聞いていたユウもそこで港町の存在に気づき、突然の怪談終了にブーブー言いつつも港町を眺める。
程なくして2人は旅開始以来の最初の目的地であった港町へと到着した。

「ほお!・・・港になってて海沿いにあるってこと以外はペールタウンと大差ねえな。」

「・・・うん、なんか、白っぽくて綺麗だけど普通だね。」

街の入り口からは海が見えるわけでもない、海がみえなければ海沿いの街だろうとなんだろうとただの街である。
しかし海沿いにあるのは確かで、2人の目的は暗黙に決まっている。

「じゃあ・・・」

「早速・・・」

「「海見にいこうか!!」」

2人は海に興味など無さそうにおすわりをするタマを取り合いながら、街の中へと駆け出した。

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「あー、ティアのヤツ、なかなか帰ってこねえな。」

「なんか、鼻息を荒くしてでていきましたよ?ティアさん。」

「しかもどや顔してたよね、痩せたリュック背負って。」

妖精の村の入り口にはたくさんの妖精だかりができている、みんなユウとティアの見送りのために集まっているようだ。
その中でユウは二人分のまとめた荷物を持って、グリーンヴィレッジへと消えたティアを待っている。

「君もすぐに出発できるように大きくなって待つかね?ユウくん。」

長老の問いに、ユウは「あー」だの、「えー」だのと言いつつ地図をひらいた。
地図に定規をあてて、指を折りつつ数を数え、地図をしまって言う。

「妖精サイズを楽しめるのも今日だけかもしれないからもう少しこのままで待ちますよ。
そんなに焦らなくても、次の目的地には余裕を持って着けますし。」

ユウは低くなったお菓子の山の中から大きな飴を一つ砕いて、破片を口へとほおりこむ。

「もごっ!ほのはめああふあっはらもほひへふははい。」

「え、ユウさんなんて!?」

「たぶん、『このあめがなくなったら戻してください』じゃない?」

「あー、なるほど、マコ姉すごい!」

───数十分後───

「アメが・・・普通のサイズになったぜ。」

ティアは一向に戻ってくる気配が無く、ユウはアメを噛み砕いて長老へと告げる。

「さて、アメもなくなったしそろそろ大きくしてもらうか、長老さん、お願いします。」

長老が頷いて魔法を解こうとしたときである。
ガサガサと言う音と、かける足音、少女の荒い息が村の入り口へと近づいてきた。

妖精達が身構えて村の入り口へと視線をむけた。

「はぁはぁ、ふいー、おまたせっ」

「あ!ティアさん!おかえりなさい!」

コトが話しかける先、巨大な少女がさらに巨大なリュックを背負って現れ、膝に手をついて息をあらげている。
ティアが戻ってきたのだ。

「はいはい、おまたされ!」

「おまた!?ちょっ!ユウ!あんまり見上げないでよ!!」

怒った様子でティアは剣士服のスカートを押さえた。
スパッツをはいていてもやはり露骨にスカートの中を覗かれるのは抵抗があるらしい。

「そんなに見られたくないならズボンはけ!
それよりなんだよ結局リュック太らせてきやがって、旅用の荷物入れる気あるのか?」

「あるよ!これ、私の荷物じゃないから!」

「ティアさんの荷物じゃない・・・?」

首を傾げて顔を歪めるマコ。
そんなマコの様子を見下ろしながら、ティアは笑顔でリュックをおろした。

「んふふふー、マコちゃん!妖精のみんなへのプレゼントだよ!
楽しませてもらったお礼だよ!」

ティアがリュックの口をあけ、勢いよく中身をばらまいた。
そして、そこに集まる全ての者が驚き、言葉を失う。

「・・・は?これが、有意義・・・?」

「・・・ティアさん、これは・・・?」

「あ・・・これ、ティアさんがくれた・・・でも・・・なんで?」

ユウと妖精達が黙って眺めるリュックの中身、それはあるお菓子の箱の山。
ユウもよく知る人気お菓子。
大量の『はまぐりの浜』であった。

「・・・あぁ、裏切り者ってそういう!」

「裏切り者?ユウさん、それってどういう・・・?」

困惑気味のマコに、ユウは簡単に説明する。

「人間がな、このお菓子と、そのライバルのお菓子とでどっちが美味しいかでよく派閥を作って争ってるんだ。
で、ティアはこっちが好きで、俺もこっちに寝返った口なんだけど・・・結局俺からすればどうでもいいというか・・・今、どちらの派閥にもつかない中立にいるんだが、ティアはどうもそれが気にくわないらしいんだ。」

「・・・ふーん、ユウさんの言うとおりだね、どうでもいい。」

興味がないのか、マコはお菓子に群がる妖精達をぼーっと眺めつつ、長い息を吐く。
しかし、マコの中では疑問が残る。
コトもはまぐりの浜の山へと飛んでいったのを見送り、マコは再度ユウへと問う。

「・・・でも、なんであのお菓子ばっかり・・・?」

「・・・うーん、なんでだろうな?
裏切り者と、有意義な使い道ねぇ・・・」

にやにやと笑みを浮かべながらユウはマコへと問い返した、どうやらユウにはすでにティアの意図がわかっているようだ。
困った顔で首を傾げ続けるマコを見かね、ユウは笑顔ではまぐりの浜を配るティアを眺めつつ自分の考えを述べる。

「俺やマコにはどうでもいいことかもしれないけどな、あいつにとってはあのお菓子が好きなのか嫌いなのかはすげえ重要なことなんだよ。」

「重要?」

「そうだ、重要だ。
あのお菓子の好き嫌いで敵も味方もつくれるんだよ。
つまり、きっとあいつは妖精達と・・・いや、お前や、コトと・・・仲間になりたかったんだよ。」

驚いた様子だ、マコの目がみるみるうちに大きくなる。

「仲間・・・私と、ティアさんが?」

「そ、仲間。」

「妖精と・・・人間なのに?」

「でも、信じてるんだろ?」

ティアが笑顔でマコにも声をかける。

「マコちゃん!マコちゃん!はやくこっちにきなよ!ユウなんかさんごの海でも食べさせておけばいいんだよ!
ほら!マコちゃんにはプレミアムタイプも用意したんだよ!?」

「仲間・・・」

マコの中から、何かがこみ上げてくる。
不思議な気持ちがあふれて、こぼれる。
おかしくなる。

「・・・ふっふふっ!
あははははは!今更そんなお菓子なんか用意しなくたってもう充分2人は仲間じゃないの!
ふふっ!それに!別にユウさんがお菓子に興味なくてもあなたたち仲良くしてるじゃないの!あはは!変だよ!ティアさん!」

一瞬、時間がとまった。

「あっ・・・マコ・・・!!」

「・・・マコちゃんが・・・!?」

「マっ!マコ姉!?」

「うふっ!ふふふっ!・・・え?みんな?どうしたの・・・?」

沈黙が続く、そして、沈黙を作った張本人がはっとした様子で沈黙を破る。

「・・・あ、あれ・・・?私・・・今」

マコは肩を震わせ、オロオロと何もない中空に手を泳がせて声を漏らす。

「私・・・今、笑ったよ・・・!」

ポロポロと涙をこぼし、訴える。
コトも顔を押さえて肩を震わせ、長老はただただ満足げに目元を拭い、頷く。
妖精達が沸いた。

「ティアさん!ありがとう!私!ティアさんも!ユウさんも!タマちゃんも!はまぐりのお菓子も大好きだよ!!」

泣きながら駆け寄るマコ、ただ、笑顔で、大きな指で小さな頭をなでるティア。
晴れてはまぐり派が1人増えた瞬間である。

「今宵も宴じゃあ!!村の者!準備をせい!!」

鼻水を啜りながら長老は宴の開会を宣言した。
そして長老は最後の最後までユウとティア、タマにも礼を言い続け、宴にも誘うが、2人はやんわり断って村を後にする事にした。
今夜も宴に参加したら、今度はユウも飲み過ぎ、ティアも食べ過ぎてしまうに違いないと思ったからだ。
それだけ今回の出来事には2人も満足だったのだ。

嬉しさと名残惜しさを半々に、2人は妖精の村を後にする。

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