「さあ、さっさと終わらせようか・・・。
ほれ、血をくれよ。」

「ユウ・・・なんかそれ、軽すぎない?」

魔獣に魔力を供給し、ユウは血を要求してみる。

「・・・?」

「・・・」

「・・・」

「・・・なぁ、タマジローさん。動かねえ。」

「おう、そうだな。動かねえな・・・おかしい。」

魔獣はお座りのまんまぴくりとも動かない。
ユウはふと、あることに気づく。

「ていうかさ、これ、許可いるの?タマジローさん。
今のうちに注射器ぶっさすなりティアに斬ってもらうなりして血をもらっちゃいけねえのか?」

「ん?ああ、出来ねえこともねえが、お前じゃ出来ねえ。ユウ。」

「え?なんで?」

「お前は今、契約の下そいつに命令をする身分だ。
命令なしにお前がそいつにどうこうするのは契約違反。
というか、命令をしないで危害を加えるようなことはできねえ。試しに攻撃してみろよ。」

「え?いいのか?そんなことして。」

「まあ、試せばわかる。」

ユウは魔獣に向かって杖を構える。
そして、魔法を放った。

「アース=スフィア=ドロップ」

ユウの周囲から魔獣の頭上に向かって土があつまり、岩が形成される。
ユウが杖尻を地面に落とすと、岩が魔獣へと落下する。

「っ!?えっ!?」

「ほらな?」

重たい音を響かせ、ユウが落とした岩はなんの抵抗もなく地面に落ちる。
透けている。
魔獣は岩に埋まるようにして、その場から動かない。

「なにこれ・・・シュールね・・・ティア。」

「うん・・・雪だるま?岩だるま?の頭がこわい狼・・みたいになったみたい・・・。」

「見ての通りだ、お前からの攻撃は効く効かない以前にまず当たらねえ。透けるんだ。


「殴ってもだめ?」

「・・・お前、パンチであれが倒せるのか?」

「無理。」

「だろ?」

「うーん、仕方ないな、ティア、頼むよ。」
「おっけー」

ティアはユウのからの依頼を快諾し、採血用の注射器を構えて魔獣に歩み寄る。
その時、魔獣がティアを睨みつける。

「っ!!ティア!!」

「言われなくてもっ・・・!!」

慌ててティアが飛び退く。
ティアが立っていた所には太く、白い前脚が叩きつけられていた。

「っ、なんなんだよ、コイツ、俺はティアに攻撃しろなんて命令してねーぞ・・・」

「っうわぁ・・・なんか、威力すごそう・・・当たってたらすごく痛かったかも・・・」

衝撃で少しへこんだ地面を眺めてティアは息を呑んだ。

「おい!タマジローさん!コイツ言うこと聞かねえだけじゃなくて勝手にティアのこと攻撃しやがったぞ!?なんなんだよ!?」

「・・・っ、わからねえ・・・間違いなく魔法は成功していたはずだ、、、考えられる原因は・・・っ!?あぶねえティアっ!!」

「っうおわっ!また私!?」

魔獣はティアの方へと突進を始める。
ティアはそれを横へのステップで回避した。
魔獣はなおもティアを睨みつけ、その様子をみたタマジローの頭に、原因が浮かぶ。

「・・・っ!まさか!
ティア!!もしかしてその牙の持ち主!生きてるんじゃねえのか!?」
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「2人はゆっくり休んでてよかったのに、大丈夫か?昨日の疲れはとれてるのか?」

「魔獣の血は俺とユウだけでもとれるからな、2人は家で待ってても良かったんだぞ?」

「狼の魔獣、見たかったから・・・」

「アタシはどっちでもよかったけど、ついてきた方が面白そうだったし・・・ティアにタマもついて行っちゃってたし・・・」

三人と二匹は昨日の丘に来ていた。
街中で魔獣などを召喚するわけにもいかず、人気の無いところを選んだのだ。
途中、洞窟内で無惨にも抜き散らかされたナナヒカリニジイロハッコウタケにユウとタマジローが慌てたり、丘に落ちていたいかめしらしきものをタマが食べてしまったりとトラブルはあったものの、無事にたどり着いた。

「それで?この魔導書の通りにすれば狼の魔獣を召喚できると。」

「ああ、その魔導書そのものと牙がないと召喚はできねえけどな。
召喚魔法を魔導書フリー、素材ナシにするのは難しいもんだ。」

今回使用する召喚魔法はタマジローのオリジナル魔法である。
所々にタマジローの意匠も込められている。

「ふーん、俺は召喚魔法なんて研究したことねえし、わからねーけど・・・」

その場にしゃがんだユウはリュックから大きな布を一枚取り出して、丘の芝生の上に敷く。
土の魔法を上手く使って布の端四カ所を上手く固定したとき、布の全貌が明かされる。

「なにこれ、すごい魔法っぽい!!」

「おお、そういう魔法の使い方もあるんだ!!タマジローさんが考えたのですか?」

「まぁな。名付けて!どこでも魔法陣!!」

ユウが広げた布にはでかでかと正確な魔法陣が描かれていた。
魔導書を読みながらユウは作業に取りかかる、魔法陣の六芒星の先六ヶ所に一本ずつマナ水を置いていき、真ん中にウルウルフの牙を置く。
そして手前の小さな円の中に立ち、魔導書を広げる。

「こんなもんか?タマジローさん。」

「ああ、後は今開いてるページの詠唱!」

「っえー、このちょっと痛々しいの読まねえといけねーの?」

「我慢してくれ・・・」

魔導書を苦い顔で指差しつつブーブー言うユウ。
タマジローも出来ることなら変えたいと思っている詠唱である。

「じゃ、じゃあ、始めるか」

「な、なんか、ユウが魔法っぽい魔法を使うよ!アイリ!!」

「うん!なんか、なんだかんだいってユウもタマジローもすごい!」

ユウが魔力を解放し始めると同時に、どこからともなく風が吹き始め、魔法陣がまぶしいほどに光る。

「『魔導の深淵に生まれし闇の契約者よ その禍々しき力、我の眼に映し出せ 神に背きし法の下、汝を咎めし者はない 銀の殺戮者よ 来たれ ダークソウルリカバリー』!」

突如として上空に暗雲が立ち込め、魔法陣の周りに竜巻の如く魔力がまわる、落雷がウルウルフの牙に落ち、眩しくて直視できないほどの輝きを放つ。

「ぬっ!ぬおっ!タマジローさん!大丈夫なのか!?これ!ヤバそうな雰囲気しかねえぞ!?」

「魔導書、各種アイテム、魔法陣、長い詠唱が必ず必要、ないとうまく行かない・・・一応大魔法なんだよ。これでいいんだ!」

「うっぐ、まぶし・・・」

「うわあ!タマジロー!なにこれ!?風!まぶし!」

一通り謎の演出も収まり、辺りには白い煙が立ち込める。

「・・・!?」

「ふむ。」

「わぁ・・・」

「ひいっ!タッ!タマ!おいで!」

煙の中に巨大な影が見える。
煙が一通りはける頃、それは姿を現す。
風に靡く銀の剛毛、丸太ほどもある前足、刃物のような真っ白な爪、槍のように巨大な牙、この世の者とは思えないほど暗く、鋭く、不気味な目。

「・・・な、なんだよ・・・これ・・・」

「驚いてる様子だな?」

「かっこいいー・・・というか」

「う・・・うん、なんか、逆に格好良すぎるせいで一周してダサいというか、ちょっと反抗期な子供が好きそうな・・・」

「あー・・・それだ。私もそれが言いたかったの・・・変に、格好良すぎるよね・・・」

「はぁん!?なんだと女性陣諸君!何を隠そうコイツがビーストウォーリアの変化モデルだぞ!格好良いだろ!!」

「いや、だからさ。格好良すぎるのよ。無駄に・・・」

「・・・」

黙ってユウを見下ろしてお座りをする巨大な狼・・・というにはいささか厳か過ぎる。
一種の神々しさすらも感じられるその姿に、一行は息を呑む。

「い、いや、待てよ、タマジローさんさっきコイツがビーストウォーリアの変化モデルって・・・!?」

「おお?そうだぜ?すげえだろ?ビーストウォーリアを全身にかけると人間サイズのコイツみてえな姿になるのさ!」

「・・・」

「ふーん?流石のユウも言葉も出ねえようだな?ん?」

ちらっちらとユウとそれとを交互に見やる目の前の謎生物。
加えてどや説明。得意げ、謎のゆらゆらステップ。
ユウは我慢の限界を越えた。

「・・・っぐぶはあ!ーーーーっっっだぁっーーーーっはっはっはっはっは!!!おい!タマッジローさっ!ざけんなっ!!っははははははは!」

タマッジローを指差し、ユウは涙をこぼしながら腹をかかえる。
その様子にタマジローも困惑する。

「はあ?なにを笑ってやがる?ふざけてんのはてめえだろ。」

「うふ!ぶふっ!!ふざけてっん・・・うわあああっははははひーーー!タマジロさっ!うげほっ!けっ獣になってから!鏡見たことねーのかよっ!ひーーー!」

「あんだと!?」

「よくそんな姿で恥ずかしげもなくコイツがモデルだとかっうはーははははっ!おえっ!俺なら死んでもいえねえよっ!!ふっふぐっ!うふっ、そっ!そのチンケな小動物スタイルの間抜け面に加えて・・・ってか!そのネコ成分はどこから入ってきてんだょ!!どう間違えてもネコにはならねえだろうがよ!だっはっはっはっはっは!!!」

「・・・」

タマジローはうつむき黙り込んだ。
女性陣が口を抑え、頬をリスのようにパンパンにしながらプルプル震えているのを見てしまったのだ。
ユウだけではなく、ティアからみても、アイリからみても、ユウの言うことが正しいと言うことを証明された気分であった。
これ以上は反論できない。
反論すると、ティアとアイリを含めて自分が三倍笑われるということをタマジローは確信していた。
わざわざ自ら己の傷を深めることもない、女性陣もあんなに必死に笑いをこらえてくれているのだから無碍にはしたくない。
タマジローは、黙るしかなかった。

「・・・ユウ、魔力を、そいつに込めてみろ、意志を持つ・・・っぐっ!そしたら・・・命令するんだ・・・!血を・・・よこせと・・・っ!!」

タマジロー自身が血の涙を流しそうな勢いで、ユウに次の指示を出す。
その悔しそうな間抜けな獣の様子を見て、とうとうユウは呼吸困難寸前に陥った。

今度から、こういう魔法のモデルには間抜けなものを用意しよう。

タマジローは心の底で思うのであった。

「そうだな、せっかく取ってきてもらったんだ、もちろん使うさ。」

「ふむ、ひょっとして、直接的にタマジローさんをなおすのに必要ではないとか、そういった話なのではないでしょうか?」

「・・・ん?なぜ、そう思う?」

「さっきタマジローさんがユウが作った球をみたとき『最後の素材にそいつを浸して』と仰っていたのを聞いて、違和感を感じたのです。
牙は最後の素材ではなく、最後の素材はなんらかの液体。
そしてそれを手に入れるためにウルウルフの牙が必要。
といった考えが浮かびましたが、実際のところはどうなんですか?」

「・・・大当たりだな、ティア。90点だ、残りの10点分は解説しよう。」

アイリはティアをみて、驚いた様子で話す。

「ほえ~、花が高いところに咲いてるのを予測してさりげなくブーメラン持ってきてたり、ウルウルフに囲まれてるのにいち早く気づいたり、あんたってば普段抜けてるようで実はすごくしっかりしてて鋭いんだねぇ・・・びっくりしちゃった・・・」

「えへへー、そうでしょそうでしょ?」

「まぁ、俺よりも気は利くよな、ティアはさ。間抜けだけど。」

「えへへへへーそうでしょそう・・・間抜けじゃないわよっ!」

「脳ある鷹は、爪を隠すからな・・・ティアは脳を隠して爪を出しているようにも見えたが・・・」

タマジローの言葉にふんふんとどや顔でうなずき倒すティアに、少し呆れ顔のユウとアイリだが、実際にティアはよく気がつくし、機転が利く場面が多く見られる。
やや、間抜けに見えるのは、たまにその機転と気遣いが変な方向へと転がることがあるからだと思われる。
タマジローは何気にそのことを見抜いていたからこそ、あえて、ウルウルフの牙の話題はださず、質問された後も一度ティアの考えを聞いたのかもしれない。

「話が逸れたな、残りの10点の話にもどそうか。
ティアの言うとおり、この魔法の仕上げに使うのはウルウルフの牙ではない!」

「それで?何を使うのさ?」

「まぁまぁ、あわてるなよ、アイリ。」

「いや、別にあわてちゃいないけどさ、なんでアタシたちに昨日の段階で最後の素材を取りにいかせなかったんだい?」

「私たちだけだと取れない物だったんじゃない?アイリ。」

「なんか今日のティアはキレキレだな。きもちわりーぜ。」

「なんでキレキレだと気持ち悪いのよ・・・まぁ、キレキレってことは、これも当たらずといえども遠からず。なのかしら?」

「ふむ、ティア、正解だ。アイリ!やり直し!」

「なによそれ?ユウのものまね?」

「実はいっぺんやってみたかったんだよ、突っ込んでくれるな。
さあ、最後の素材だな、これまたティアの言うとおりだ、欲しい素材がこの辺じゃとれねえんだ。
そう、『魔獣の血』はな。」

「「魔獣の血!?」」

ペールタウン付近に魔獣などは生息していない、そもそも、ティアとアイリには物理的に手に入れることができなかったのである。

「じゃ、じゃあさ!それをどうやって手に入れるっていうの?近くにない物を、あんたとユウが加わったからってとれるの??」

「ふっふっふ、とれるんだなぁ?それが・・・『コイツ』と・・・『コイツ』でなぁ・・・!!」

「おおっ、やっぱりタマジローさんの出番ではないんですね!」

タマジローは得意げにウルウルフの牙とユウを鼻差す。
その様子にはさすがにティアも突っ込みを入れてしまった。
ティアの突っ込みにアイリはからからと笑う。

「そりゃそう思うよねえ?ティア!タマジローさっきからなんもしてないもんね?
で?どうやって魔獣の血をてにいれるんだって?タマジロー?」

「うるせぇ、茶化すなよ・・・あれだ。方法は簡単さ、ユウがウルウルフの牙を使って狼の魔獣を召喚する!召喚された魔獣は大人しくユウの言うことを聞くからあとはでっかい注射器なりなんなりで献血してもらうだけさ。」

「ほう!楽勝ね!『ユウが居れば』ね!」

「アイリさん、タマジローさん、すごく沈んでるよ?」


うつむいてプルプル震えるタマジローの姿は見るに耐えないほどに惨めで、いたたまれなくなったティアは良かれと思って最悪のフォローをいれる。

「・・・ほ、ほら!タマジローさんとユウが作ったシチューもおいしかったですよ!?すごいからそんなに落ち込まないでください!」

言えない、自分の間違いで失敗して魔法を発動させてしまって結果としてシチューになったなんて、タマジローは言えない。

「・・・ちょっと、ティア・・・なんか、地雷踏んだんじゃない?タマジローがタマみたいになってない・・・?え?てか、タマジローって獣になってから泣いたことなんて・・・え?てかてか、泣けるの?獣の身体じゃ泣けないんじゃなかったの・・・?」

「そうだよ・・・ユウが居れば余裕なんだ・・・何のための『依頼』だよ・・・俺じゃ出来ねぇから他人に頼むんだろうが・・・これからあ!!作戦のぉおう!!説明をするぞおお!!!
こっから先は俺の説明を聞けえ!!!くだらん突っ込みで話の腰を折るんじゃねえええい!!!」

「「「あ、開き直った。」」」

最後の素材

『魔獣の血』

を手に入れるための作戦が、今始まる。


「はー、疲れた。なんか、タマって名前に決まった途端、タマジローさんの方がタマから名前をとったみたいになったな。」

「まぁ、『ジロー』だからな。だからあれほどタマサブローにしろと・・・」

「きゃああ、タマー」

「いやーん、タマー」

「・・・幸せそうだな。」

「ああ、さすが俺から一部名前を受け継いだだけのことはあるな、人気者だ!」

名前が決まったぐらいでタマは動揺などしない。
毅然として誇らしげにプルプルウルウルする姿はやはり女性のハートをつかんで離さない。
せっかくアイリの発想から研究がすすんで昨日2人が集めてきた材料の出番だというのに、当の本人たちはユウとタマジローの研究などそっちのけでタマに釘づけである。

「アイリ!タマもいいがこっちも見てくれ!お前のおかげで研究はかなり良い方向に進んだぜ?」

「ティア!昨日ティアとアイリさんが集めてくれた材料の出番だ!気にならないか?」

「あらー、タマちゃん?獣の獣と魔法使いのお兄さんがなにか話してるよ?見に行くー?」

「んー、そっかそっか、タマもみたいかー、じゃあティアお姉ちゃんと一緒に見に行ってみようねー?」

「あっ、ティア!だめ!タマはアタシと見に行きたいっていってるじゃないの!」

「えー!アイリはタマジローさんがいるでしょう?ずるいよ!」

「「・・・」」

「じゃあみんなでみようねー、タマー?」

「わぁ、さすがアイリお姉さんねー?タマー?見に行こうか!」

「・・・なぁ、ユウ。」

「なんだ?」

「なんでお前は魔法使いのお兄さんなのに、俺は獣の獣なんだ・・・?」

「・・・同情するよ。タマジローさん。」

部屋の入り口できゃあきゃあ騒いでいた2人と、静かにウルウルしていた一匹を加えて全員が実験机の前に集合した。

「よし、では、さっそく昨日集めてもらった材料を使わせてもらうぜ!感謝する!」

「「わー」」

「ほれ、ユウ!」

「「おー」」

やる気のなさそうな拍手に、ユウは若干のやりにくさを感じつつ、机の上に材料を並べる。

「じゃあ、まずは、ナナヒカリニジイロハッコウタケだな!みてろよー!・・・よし、ユウ、やるんだ。」

「うん。」

ユウはアルコールランプに火を灯し、銀の小皿を加熱しはじめる。
その後、沸騰したかのようにボコボコと沸き立つビーカーに入った透明な液体に、ピンセットでつまんだナナヒカリニジイロハッコウタケを突っ込む、数秒後、それを取り出すと、ナナヒカリニジイロハッコウタケはその光を失い、パリッパリに乾いていた。

「おおっ!光らなくなった!」

「すごい、干し椎茸みたい・・・!!」

意外にも女性陣の食いつきはいい。
タマはおそらく理解していない。

「よし、予定通り。次だ!ユウ!」

「うん。」

ユウは高嶺の花の花びらを千切り、透明な袋の中にいれる。
その後、パリッパリに乾いたナナヒカリニジイロハッコウタケを小さなハンマーでぺちぺちと粉々にして、その粉末を、加熱している銀の小皿にのせる、きらきらと輝く煙が粉末ナナヒカリニジイロハッコウタケから上がる。
その様子を確認したあと、先ほどの花びらが入った袋でその煙を捕まえ、口をとじて軽く振る、すると。

「うわぁ!ユウ!花びらがナナヒカリニジイロハッコウタケ色に・・・!」

「ふふ、なによその色、でも、確かにそうとしか言えない色だねぇ、綺麗だ。」

タマジローは得意げに頷き、言葉を漏らした。

「ふむ、俺の計算通りだ。すばらしい!」

「うん。」

ユウはその花びらをピンセットで取り出し、ビーカーの中に入っている赤い薬品に浮かべる。
数秒後、突然吸い込まれたかのように花びらは薬品の中に瞬時に沈んだ。
「ふむ。」と納得したかのように声を漏らしたユウは、翡翠晶をザラザラとその中へと流し込み、次いで、その中に先の光った凧糸を落としていく。

「ねえ、ユウ?なんでその凧糸、先っちょが光ってたの?」

「あー、魔法石のタネだ。俺の魔力に反応して光ってた。」

「ふーん。」

「ティア、わかるの?」

「いや、全く。」

「・・・」

「そろそろだな・・・」

「「っ!!」」

ユウは凧糸の端っこをちょいちょいと引っ張りながらつぶやく。
凧糸は質量のある物を吊しているようで、ピンと張っている。
次に起こることを見逃すまいと、ティアとアイリは目を丸くしてビーカーと凧糸を見つめる。

「そらそらそら・・・よーっ・・・とと・・・」

「わあっ!綺麗!!」

「っはあー!応用したら武器づくりに活用できないかなっ!」

そっとそっと、凧糸を引っ張り上げた先っちょには、ナナヒカリニジイロハッコウタケのような光を放つ花びらが閉じ込められた、宝石のように透き通る緑のまん丸の球がついていた。
その姿はエメラルドにも引けをとらない美しさで、女性陣もうっとりする。
仕上げと言わんばかりにユウは、凧糸を火の魔法で燃やす。

「どうだ!できたぜ、タマジローさん!花翡翠の魔力球だ!」

「おおっ!いいぜ!あとは最後の素材にそいつを浸して、出来た魔力を魔導書に込めるだけだな!おつかれさん、ユウ!」

「・・・すごいね、アイリ!」

「うん!すごい!・・・けど、タマジロー何もしてないじゃない・・・」

「っぐ、アイリ、痛いところを突かないでくれ、獣の姿じゃ限界があるんだよ。じゃあ最後に俺の仕事だ!質問は!?女性陣諸君!」

アイリが静かに手を上げる。

「あのさ、前々から気になってたんだけど、なんで魔法ってできたらいちいち魔力だけ抜いて魔導書に入れなきゃいけないわけ?そのまま使えないの?」

「ああ、確かにそう思うかもしれねぇな。簡単に説明する。魔法が料理だとしたら、魔導書は皿だ、食器だ!より安全に、より効率よく、手を汚さずに食すためのもの。とでも言うと伝わるかな?」

「なるほどねぇ・・・確かに料理をフライパンから直接手づかみで食べようもんなら手は汚れるわ火傷するわ、それこそ昨日のカレーみたいなのはちゃんとした食器がないと食べれないねぇ・・・あれ?でもなんで、わざわざ魔導書じゃないといけないの?武器とかににそのままつくった魔法を突っ込めたらおもしろそうなのに・・・」

「ふむ、いい着眼点だな、アイリ!確かにお前さんの言うことは可能だ!しかし、難しい!それをやろうとしたらあらかじめ魔法を武器に馴染むように調整したり、その上で失敗や暴走が無いようにしなくてはならねえんだ。そうすると魔法が失敗する確率もあがるし、単純にめんどくせえんだ。尚且つ、そこまでが上手くいったにしても、魔法がこもったその道具を他の魔力と近づけるなり、ぶつけるなり、交ぜるなりしたときにバクが起きねえ保証もない!危険なのさ。」

「ふむふむ。」

「それから、なぜ魔導書でなくてはならないかというのは、例えば傘があるとするだろ?傘を正しく使おうとするとどうだ?雨を避けようとするとどうだ?自然とああいう形に決まってくるだろう?傘なら話はそれで終わりだ。
しかし魔法は用途がきまっていても形が思い浮かばないことが多いだろ?魔法ってのは精神や、呪術的な面が大きく関わってくる。魔法を使う者に違和感を感じさせたらそれだけでも失敗や暴走につながりやすいんだ。
そこで傘と同じ発想だ、自然と違和感を感じない形にしていく。
形のない物に形を与えていくには説明しかねえよな?そう、魔導書っていうのは決まった形というものを持っていない魔法に対して、説明によって形を与えるのにうってつけなんだ。
そうだな

『傘って、どんなもの?』

って聞かれたら、傘について説明するか、傘そのものをみせるだろ?
そのノリで、今俺にかかっている魔法について

『ビーストウォーリアって、どんなもの?』

と聞かれた場合にビーストウォーリアの魔導書を見せるのが一番なのさ。
傘について説明した上で『ちゃんと傘の機能をもった傘』を渡せばそいつは難なく傘を使うだろう。
同じように、魔法について説明がかかれた魔導書が『ちゃんと魔法が機能するように魔力をもっていれば』魔法も難なく発動しやすいってわけさ。
ちなみに、バカすぎて魔導書が理解できなかったり、魔力が足りなかったりすると、そいつは魔導書の魔法がつかえねえ。
傘についてまたまた置き換えると・・・まぁ、そんなアホはいねぇと思うが、傘を持ち上げれねえほど非力だったり、傘の説明を聞いても傘の開き方がわからねえみたいなもんだ。

余談だが、魔導書を読んで、それ以降は魔導書を読まなくてもその魔法を使えるようになるのは、身体がその魔力を覚えるからだ。
一度作り方を覚えた料理を作るのに、いちいち最初に作るときに読んだレシピは開かねえだろ?それに感覚は近い。
でも、なんどもその料理を作る度、いや、この場合はなんどもその魔法を使う度、かな?
『癖』がでるんだよ。使い手の。だから同じ魔導書を参考にして魔法を使うにしても、そいつの癖や、アレンジ、熟練度が魔法にはドストレートに現れる。だから魔法は料理と同じく飽きが無く、おもしれえんだ。

以上、長くなって悪かったな、納得してくれたか?アイリ?」

「うん・・・なんか、説明に愛を感じた。」

「なんだそりゃ?」

アイリの質問の説明を鼻息を荒くしつつ頷きながら聞いていたティアも、説明が終わったのを確認して静かに手をあげた。

「あの・・・ウルウルフの牙は・・・使わないんですか?」

ティアの質問を聞いたユウとタマジローは、互いに目を合わせてからひとつ頷き、ティアの質問への答を述べる。


「なんかねー、膝とかが良くないときはコンドロイチンって物質がねー」

「ふむ、鋼に混ぜてみたいね、それ。」

「武器も膝から崩れ落ちるの?」

「武器の膝って、どの部分に当たるのかねぇ・・・場所によっちゃあそうかもね。」

「ふーん。それよりさ、アイリ?それ、散歩になってるの?」

「・・・さぁ?」

「・・・」

ティアとアイリは商業区を練り歩いていた。
仔ウルウルフの散歩だ。
散歩の間、ずっと仔ウルウルフがアイリの胸に抱かれていたことにティアはひどく違和感を感じていた。

「その子もさ、ちゃんと散歩ぐらいあるかせないと、きっと膝から崩れ落ちちゃうよ?」

「・・・まさか、タマジローやユウじゃあるまいし・・・ね?」

と、言いつつもアイリは仔ウルウルフを地面にそっと下ろす。
相変わらず仔ウルウルフはただただウルウルするのみで、その愛らしい姿は女性のハートを鷲掴みにする。

「いやぁー!それにしてもかーわいいよねー!この子!」

「ああ、ほんとに!いっつもプルプルウルウルしちゃってね!・・・すこし大人しすぎる気もするけど、それもまた可愛いのよねー。」

「ところでさ、この子、名前とか決めてるの?アイリ?」

「名前?・・・あぁ、確かにずっと仔ウルちゃんって呼ぶのもねぇ・・・一応お腹が白いからメスらしいよ?図鑑に書いてた。」

「おお!女の子なんだ!ガールズトークがはかどるね!」

「喋れればの、話だけどね・・・タマジローじゃあるまいし・・・」

「・・・うん、仮に喋れたとしても・・・喋らなそうだよね、この子・・・それより女の子ってわかってるなら名ま───

「さんご。」

「・・・えっ・・・ちょっと、アイリ。」

「さんご。」

「いや、認めないからね?そっちがその気なら私ははまぐりを推すよ?ねえ。」

「さんご。決まり!おー、よしよし、さんご、おいでー。」

「んなっ!?・・・ほーら、はまぐり~、こっちにおいで~」

───十数分後───

「いや!だからね!普通ウルウルフの子どもにはまぐりなんて名前つける!?ユウ!!?」

「さんごだって大概でしょ!?ユウ!早くなんとか言いなさいよ!」

「タマジローさん・・・タマジローさん!・・・おい、そっぽ向いてんじゃねえよ、コラ、獣。」

「・・・ああ?シラネーヨ、迷ったなら名前なんざタマサブローにでもしとけよ、めんどくせえ。」

「「「やめい。」」」

ティアとアイリは予定していたよりも早めに散歩を切り上げた。
ユウに対して用事が出来たからである。
皮肉なことに、荷物をまとめた実績を買われたユウはティアとアイリのトラブルシューターになっている。
目を合わせようとしない獣、ぎゃいぎゃい喚く2人の女性・・・いや、獣。

自分もいっそ獣の如く振る舞うことができたなら・・・

そんなことを考えつつ、ユウは災いの種をタマジローの隣へと避難させる。

「はぁ、いっそコイツもタマジローさんみたく喋らねえかな・・・ついでに勝手に自己紹介始めてこの場を丸く収めねぇかな・・・。」

「獣を人間にする魔法?つくるか?」

「失敗する未来しかみえねー。」

「「ちょっと!ユウ!聞きなさい!」」

「いちいちハモるなよ~二倍耳がいてえよ~」

「あー、もう、あれだ、ユウに決めさせるぞ、アイリ、ティア。それで文句ねぇだろ?」

「・・・ま、まぁ、うん。それがタマジローの提案なのが腑に落ちないけど、ユウが決めるなら」

「ま、まぁ、ユウが裏切ってさんごって名前にしないのなら・・・それで。」

ほら、ここから先はお前の出番だぜ?とでも言いたげにバチコン☆とユウへとウインクを投げる獣に、ユウはわずかに殺意を覚える。
なんだか全てがどうでもよくなりつつあったユウは、テキトーな方向に話をずらし、それっぽい名前にする事にした。

「おお!よく見るとコイツ!タマジローさんに似てねえか!?」

「「やめてよ、いや、ほんとに。」」

「なんか知らんが今俺は傷ついたぜ、ユウ。」

「知らん。まぁ、俺はタマジローさんに似てると思うんだ(これっぽっちも思っちゃいねえけど。)。だから、名前はタマジローさんから───

「そうか、タマサブローだな!」

「・・・とって決めようかと思うんだ、いいか?ティア、アイリさん?」

「そうか、無視だな!」

「えー、女の子なんだよ?ユウ!」

「いや、まあ、名前によっちゃあさ。女の子にもなれるよ。タマジロー子とか、タマジロー美とか。」

「そうか、女の子なのか、それなら尚更決まりだな!玉をとるぞ!!」

「・・・意外と品がないね、ユウ。まぁ、アタシが言えた口じゃないけどさ・・・」

「なるほど!ユウ!ナイスアイディア!それなら名前は決まりだね!!」

「ああ!コイツの名前はジロ───

「タマなんだね!?ユウ!」

「「えっ!?」」

自信満々でティアはユウの言葉を遮った、そしてティアはユウの予想の斜め上をいっていた。

「いや、まてよ、ティア?違うだろ?どうしてタマジローさんからタマをとるとタマになるんだ?」

「え!?だって、女の子なのにジローなんて・・・え?というかユウが『タマをとる』って言ったんじゃない!!」

「え!?おい!こんなに見た目が犬々しいのにタマはないだろ?タマったらネコだろ!?というかそれ、ジローをとってるじゃねえか!」

「えっ!?」

「えっ!?」

言葉は時に誤解を招く。
ティアは文字通りタマジローからタマをとり、名前をタマだと思った。
ユウはタマジローからタマを取り除き、名前をジローとしたはずだった。
その後、結局ユウとティアは和解せずに、あるルールで『けっとう』を行うことにした。
『けっとう』のルールは至ってシンプルである。
ティアとアイリが最初に行っていたことと同じ、仔ウルウルフがどちらの呼びかけに応じるか、というものだ。
ユウとティアは2人で工房の入り口に立ち、大声で仔ウルウルフを呼んだ。
危うく通行人が衛兵を呼ぶところだったが、アイリが必死に説得して事なきを得る。

仔ウルウルフは終始ウルウルしながら右へ左へとヨタつくばかりで、結局名前なんてどうでもいいと思っていたことを思い出したユウがあっさり負けを認め、晴れて仔ウルウルフの名前は『タマ』に決まった。