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「さってと、お姉さんは魔法についてもよく調べろって言ってたし、タマジローさんの反応を見たかぎり隠し事はほぼ100%ビーストウォーリアのことだろうな。魔導書魔導書っと・・・」

部屋についたユウは、タマジローと研究途中の品の山の中からビーストウォーリアの魔導書を探していた。

「まあ、この手の魔法でアイリさんに隠し事ったら・・・何だろうな、産まれてくる子供が獣の血を受け継ぐ可能性があるとか・・・?」

パラパラと魔導書をめくりつつ怪しいページを探す。
そのときユウは最初に魔導書を読んだとき『限界を超えて~』と魔法について説明されていた箇所を思い出す。

(・・・そういえば・・・体が壊れるんだったっけ?いやでもタマジローさんは魔法に失敗してあの姿だ。体に限界がくるほどの負担はかかってないか・・・いや、まてよ・・・)

限界を超えていようがいまいが、魔法に蝕まれていては体のどこかに負担がかかっているには違いがない、体はいつでも平気そうなタマジローを思い出していると、ユウの頭に嫌な予感がよぎった。

(体は至って普通?負担はかかっていない。だがまて、不自然だろう・・・あそこまで獣に成り下がって、自我を失うことすらあるのに、どうして今タマジローさんがタマジローさんでいられる?あの姿で、何故人でいられる?)

考えるまでもなく、ユウの中で答えは出ていた。
今タマジローに最も負担がかかっているのは間違いなく『精神』であると。

(これは・・・まずい。かもしれない。)

あわてて適当な紙を数枚引っ張り、転がっていたペンを使って魔法について殴り書く。ひたすら計算する。様々な視点で予測を立てる。結びついた結果から隠し事を掘り当てる。

数時間後、ユウはグチャグチャの紙を握りしめ、タマジローのいる工房まで走り転がった。
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ユウは工房のドアを開ける、そこには退屈そうに伏せてあくびをするタマジローがいた。

「ユウ?なんだよ今更戻ってきやがって、謝りにでも来たのか?」

無言でタマジローを見下ろしたユウは、静かに首を横に振る。
その表情は哀れむようにも多少の気まずさを含んでいる様にもみえる。
そしてユウは様々な式や走り書き、幾何学的な図形や魔法陣の図がかかれたクシャクシャの紙をタマジローへとみせる。

「タマジローさん・・・これ。気づいていたのか・・・?」

それを見たタマジローは一度驚いたように立ち上がり、諦めたかのような口調で話を始めた。

「・・・何時間もかけて何をしてたのかと思えば・・・しかし流石だ、もうそこまで行き着いたか。
・・・それにしてもユウが解いても結果は同じだったとはな、信じたくはなかったけどな・・・」

「やっぱりな。隠し事ってのはこのことで違いねぇよな。タマジローさん・・・」

「期間の計算はしてみたか?」

「ああ、一応。タマジローさん・・・もう。」

ユウとタマジローが深刻な雰囲気で話を進める中、ティアとアイリも工房へと帰ってきた。

「いやぁ!遅くなっちゃったね、ティア。」

「うん、色々買い物した上に喫茶店でお茶までしちゃったからねぇ、パフェおいしかったなぁ・・・」

両頬に手を添えて笑顔で語るティアをアイリが制止する。

「しっ!ティア、タマジローとユウが工房でなんか話してる。こっそり聞いてみよう!」

「え!?まさかユウ、告白とか!?」

2人はコソコソと隠れながら1人と一匹の声が聞こえる距離まで近づいた。

「────そういうことだ。つまりもう、お前はわかってるんだろ?ユウ。」

「・・・」

「・・・俺は、今回を最後にもう『戻ってこれねえ』かもしれねぇんだ」

((えっ!!?))

「それでユウ、このことはアイリには内緒に────


バサリと、ものが落ちる音がタマジローの言葉を遮った。
音の方へとユウとタマジローが目をやると、そこには驚いた様子のティアと────荷物を落としたアイリが立っていた。

「・・・っ!!アイリ・・・っ!いつからそこに・・・!?」

「っ・・・いゃあ、はは、ごめんね、ティアの荷物も落としちゃったよ・・・あ、でも大丈夫、ほら、中身はさ・・・ね」

明らかに不自然に取り繕うような、意図的に話をそらしたような、現実から目をそらすようなそんな雰囲気をアイリに対してティアは感じた。

「ア・・・イリ?」

「ごめんね!タマジロー!ユウ!ほら、いまからご飯の準備するから、ね?お腹すいてたでしょ?」

「アイリ!?」

「ちょっとね、ティアとね、話し込んじゃって、でも、ほら!ちゃんと晩御飯の食材も────

「もうやめて!アイリ!」

唖然とするタマジローとユウを横目に、ボロボロと大粒の涙を流しながら笑顔で振る舞うアイリにティアは耐えきれなくなった。
二度、ユウを失いかけたティアには今のアイリの気持ちは痛すぎるほどに理解できたのだ、それ故にそのようなアイリの姿を見続けるのはティアにとっても想像を絶するほどの苦痛であった。

「え?どうしたの?ティア?・・・あぁ、そっか、今日のご飯はティアが────!?

アイリの言葉を遮り、ティアはアイリを抱きしめる。
そっと、しかし確かに、今そこに自分がいることをアイリに知らせるように、アイリを落ち着かせなだめるように。

「ごめんね、アイリ、私には、こうすることしかできないの。辛いでしょう、ごめん、ごめんね・・・でも、私にはアイリの辛さを消せないの・・・」

そっと、言い聞かせるようにアイリへと声をかけたティアは、ユウの方をみて言葉を落としていく。

「・・・ユウ、お願いだよ、タマジローさんを、元に戻して・・・!
アイリを・・・アイリを助けてあげて・・・!」

言い切るが先か、涙が頬を伝うが先か、ティアの声は悲痛でか細く、ユウにはやっと聞こえるかどうかの声であった。
しかしその声は、たしかにユウへ届いた。

「ったく。あーあ、タマジローさん。あんまり女の子を泣かせるもんじゃねえよ。」

うつむくタマジローに対し、頭をかきながらぶっきらぼうに一言吐き捨てると、ユウはタマジローの首輪を外す。

「行こうぜ、タマジローさん・・・俺が元にもどすから、ここでアイリさんとティアを泣かせた分、あとできっちり笑わせろよ。約束しろ。」

ユウは立ち上がり、ティアとアイリの方へは一切目をくれずに真っ直ぐタマジローの部屋へと足を向けた。
そして工房を出る直前に、ティアへと声をかける。

「大丈夫、やってみせるよ。だからティア、お前も泣いてなんかいねえでアイリさん励ましてやれよ。こっちは任せろ、そっちは任せた。お互いにやれることをやるんだ。」

涙を拭ったティアはアイリの頭を撫で、ユウの言葉に大きく頷く。

工房を出たユウとタマジローは、タマジローの部屋へと真っ直ぐ戻る。
その間、1人と一匹は一言も言葉を交わすことはなかった。
部屋についたユウはすぐさま机の上の魔導書の山からハードカバーの一冊を取り出し、無言のままに付箋の貼ってあったページを開く。

「・・・ユウ。」

「・・・なんだよ」

「俺は、アイリを泣かせちまったんだよな・・・」

「そうだな。」

話しかけるタマジローを見ずに、ユウはひたすら手元を動かし、ペン先と魔導書だけに視線を集中したまま黙々と作業をすすめている。

「アイリは、怒ってんのかな・・・」

「しらねーよ。そんなのアイリさんと一番一緒にいるタマジローさんが一番よくわかってるんじゃねえのか?」

「・・・そうだな。悪い。わかってて聞いたよ。」

「わかってるよ。そしてその気持ちも分からんこともない。」

「・・・お前も、ティアを泣かせたことがあるのか・・・?」

少し驚いた様子でタマジローはユウへと問う。

「・・・」

一呼吸おいてからタマジローは続ける。

「自業自得で、相手に落ち度がないのに泣かせるのがこんなに辛いなんてな・・・」

「そうだな、隠してたタマジローさんが悪いな。素直に話してもアイリさんはショックを受けてたかもしれないけど、今回みたいな状況でなければもう少しアイリさんも辛くはなかったんじゃないかと俺は思うけどね。
きっと、隠されていたことが一番ショックだったはずだよ。」

一旦ペンを置いて、魔導書を見ながらフラスコに薬品を流し込みつつユウはさらに言葉を連ねる。

「そもそも、そんな姿になったのもタマジローさんの自業自得。何一つアイリさんに落ち度はないだろ?」

「・・・」

うつむき黙るタマジローの方へと初めて視線を向けたユウは、少し明るい表情でタマジローを励ました。

「それでも黙ってタマジローさんとずっと一緒に居てくれたんだ、そんなアイリさんに感謝して、幸せにしてやれよ!今回は泣かせちまったけどやっちまったもんは仕方ねえ。一秒でも早く元の姿に戻るのが、今のタマジローさんにできる一番の恩返しだろ?」

「うわっ、こんな反応するはずじゃねえっ」などといいつつフラスコからあがる煙を払うユウをみて、タマジローは思う。

(そうか、コイツも俺とアイリみたくずっとティアと一緒に過ごしてきたんだもんな・・・)

なにか大切なことを学んだ気持ちになったタマジローは、今度こそ元の姿に戻る決意を固めた。

「ユウ!」

「・・・?」

「三行目のルーンを間違えてるんだよ。」

その日も、1人と一匹は遅くまで研究に明け暮れた。

ユウとタマジローが部屋に戻り、ティアとアイリは2人で工房に取り残された。

(私も、今出来ることをするんだ!)

落ち着きを取り戻し始めたアイリをそっと胸から離すと、ティアはゆっくりとアイリに話しかける。

「いこう、アイリ。ユウなら絶対にタマジローさんを元に戻してくれるよ。とにかくずっとここにいても仕方がない、私達が今出来ることを探そうよ!」

ひとつ、小さく頷いたアイリはキッチンの方へと歩き始めた。
アイリがお茶と軽食作りに取りかかるのだろうとすぐに察したティアはアイリの落とした袋も拾い上げ、アイリの後をついて行く。

(ユウが旅にでるって言った日は、私はただただ泣くことしかできなかったのに・・・アイリは強いなぁ・・・)

キッチンにつくなり2人はすぐに行動に移る。
ティアはティーカップと飴やチョコレートなどの糖分が豊富なお菓子を用意しつつ、アイリが何を作ろうとているのかにも注意を向ける。
アイリは手を洗い終わるとレタスとトマト、ハムを取り出してまな板付近に並べる。

(サンドイッチ・・・?)

その様子を確認したティアは予測の下に食パンとマヨネーズ、チーズなども用意する。
手際よく作業を進めるアイリを精一杯サポートするために、ティアはアイリの些細な動きも見逃さない。

そんな中、アイリはティアへと話しはじめる。

「・・・ごめんね、ティア、みっともないとこ見せちゃった。でももう大丈夫、まだ終わった訳じゃない!泣くのはやれることを全部やったあとでもいい。」

異常な切れ味の包丁でトマトをスライスしつつアイリは続ける。

「ありがとう、ティア。あんたとユウのおかけでアタシはまだ頑張れそうだよ。あんな話、アタシ1人で聞いたらもう・・・タマジローを諦めていたかもしれない」

アイリの隣でお湯をわかし始めたティアはそんなアイリの話を聞いて数日前の自分を思い出す。

「・・・本当に、アイリは強いね・・・。」

「?」

「私はね、実は数日前に一度ユウを諦めたの。」

「!?」

ティアはゆっくり、お湯が沸くまでの間にこの数日前の出来事をアイリに話した。
ユウが大事な話があると話をもちかけてきたこと。
それはユウが旅にでるつもりだという話であったこと。
何が何でもユウを失いたくなかったティアはユウへと決闘を申し出たこと。
あっさりユウに負けてしまって、去っていくユウに泣きわめくことしかできなかったこと。

「───まぁ、お父さんの提案でついて行くことにはしたけど、私はその提案が出るまでは本当にユウを諦めていたの・・・あんな気持ち、アイリには味わわせたくないよ。」

「・・・そんなことが・・・」

お湯が沸騰しそうになったのを見たティアはコンロの火を止めた。

「大事な人と本当の別れが来るのは、その人の事を諦めてしまった時なんだと思う!」

「・・・」

「アイリが諦めなければ、絶対大丈夫だよ!」

「・・・ティア・・・」

ティアは沸かせたお湯でティーカップを暖めつつ笑顔で話を続ける。

「だから、ね!今はまず諦める前に出来ること。早くユウとタマジローさんに食べ物をね!」

「あんたとユウなら、本当にやってくれそうだね・・・よし!もうすぐ出来るよ、ティア!おいっしいお茶を入れてね!」

「まっかせなさい!」

2人は魔法には詳しくない。
だからといってそれは出来ることがないということを意味するわけではない。
自分にも出来ることを探すこと、それが立派な『諦めないこと』でもある。

翌日、昨晩のことなど無かったかのように三人と一匹は朝食をとっていた。
サンドイッチを作ったあと、アイリはいつものようにタマジローの部屋のドアを蹴破った。
その姿はユウを驚かせ、タマジローを安心させた。

部屋を蹴破られた時、修羅場を予測したユウは必死に話をそらそうとした。
何故タマジローは獣になったのにドアを封印出来るのか、ティアがおぼんに乗せてるお茶は高いのかなどと目を白黒させながら身振り手振りを大袈裟にして必死にその場の全員の注意を自分へと向けさせようとしていたが、ティアに「お黙りなさい・・・!!」と制された後は気まずそうに黙り込んだ。
その後、サンドイッチを机に置き、ゆっくりゆっくりとタマジローへと距離を詰めたアイリは右手をタマジローに向け、一発のデコピンをその額に入れる。
タマジローが一言謝り、アイリが鼻息を荒くして頷き、ティアが「これだからユウは囮には向かない」と締めくくり、全員の結束が深まった所で話は片付いた。
先述のとおり、ユウとタマジローは遅くまで研究に明け暮れ、ティアとアイリは次の手伝いに備えて床につき、今に至る。

「んでだ。今日、2人に手伝って欲しいことは・・・ユウ!」

「おう!」

眠そうな顔をした1人と一匹は一枚の地図と数冊の図鑑を取り出す。

「んー?なにそれ?」

フォークでハムエッグをつつきつつ、ティアはそれらに視線を落とした。
何かを察したアイリは「ふむ、お弁当!」などと呟いている。
それを聞いたユウは隈のできた目を閉じてうんうんと頷き、話を始めた。

「そのとおり、さすがアイリさんだ!ティア!やりなおし!」

「だっ!?ちょっ!なんで!?」

「はい!もう一度!」

「・・・だから、これはなに?」

ムスッとした表情でティアはハムエッグを持ち上げつつ逆の手でそれらを指差す。

「よろしい、よくぞ聞いてくれたな、ティア!ここにあるのはだな!図鑑と地図だ!」

「むぐむぐ・・・ごくり。・・・私を馬鹿にしてるのかしら?ユウ。」

「いや、頼りにしているんだ!そこら辺が理解出来ないうちはまだまだだぞ!やりなおしっ!」

食卓に左手をつき、立ち上がり際にティアを指差しつつユウが再度やり直しをティアへと告げる。

「・・・いい。ユウ、お座り。」

「はい!」

そんなユウを一匹の獣が座らせる。

「ったく、話をややこしくするんじゃねえよ。わりいな、ティア、今日はおまえさんとアイリにお使いをお願いしたいんだ、頼まれてくれるかい?」

「はぁ、なるほど、もちろんですよ!さすがタマジローさん、話が早いですね。」

タマジローの隣でお座りをして朝食をほおばる魔法使いを睨みつつティアが応じる。

「話は簡単だ、ここにある図鑑、鉱石図鑑、茸図鑑、獣図鑑、お花の図鑑だが、ティアとアイリにはこの図鑑の付箋がついてるページのものを集めてきて欲しいんだ。だいたいの場所は地図に記もつけてあるが、それでもわかりにくい場所があるよな?」

ふむふむ、とスープを啜りつつティアは頷く。

「それで、アタシは道案内もかねてついていけばいいんだね?」

「さすが俺のアイリだ、1話せば10伝わるな!」

食卓に両前脚をつき、タマジローは尻尾を振った。

「なるほど、私はアイリを護衛しつつ目的のものを探すということですね。」

「そういうことだ、すまねえが俺とユウはお前たちが持って帰ってきたものをすぐに使えるように準備をしておく。どうか焦らずゆっくり、気をつけて探してきてくれ。」

ティアとアイリはお互いに顔を見やり頷き、お弁当のメニューについて話し始めた。
そんな2人を眺めてユウとタマジローもお互いを見やり頷く。

「ティア、アイリさん、頼んだけど、くれぐれも無理はしないようにな、今日はメシの準備は俺とタマジローさんでしておくから、ゆっくりでいいからな?」

「ふふん、ユウとタマジローさんの作るご飯か・・・楽しみにしてるからね?」

「ああ、魔法の準備と結果も楽しみにしてるよ?タ・マ・ジ・ロー?」

程なくして朝食は終わり、ティアとアイリはきゃあきゃあいいながら弁当を作り始めた。

その様子を横目にユウとタマジローも部屋へと戻り、研究の続きを始めた。

「・・・っしと。ティア?準備はOK?」

「あ、ちょ、ちょっと待ってて、アイリ!」

ティアはパンパンのリュックサックをパシパシ叩きながら必死にリュックのホックをひっぱっていた。

「あと・・・ちょっとなの・・・」

ググググ、とリュックが嫌な悲鳴を上げる。

「・・・あと・・・ちょっ────

「あー、ティア?あんたはアタシと旅にでも出るつもりなの?」

あとちょっとあとちょっとと呟くティアを見かねたアイリは呆れた声で呟きを遮った。

「あと、あとね、傘と剣は手に持って行くの」

「なるほど、聞いちゃいないってわけね。そしてアタシもそんなこと聞いちゃいない。」

「一体なにをそんなにいれたのさ?」などといいながらアイリはティアからリュックを取り上げる。
アイリがプクプク太ったリュックを転がしてみると、中から様々なアイテムが顔を出す。

「はー、なるほど。魔導ライトにマナ水に?お茶菓子、弁当包帯爆竹保冷剤、ナイフと本と焚き付け材に・・・って、なに?なによこれ、アタシ達はこれから秘境にでも向かおうっていうの?」

「秘境に向かうならあと二つはリュックが欲しいよ!」

「そんなにたくさんリュックを背負いたいならとりあえずあんたの肩を増やすところから話を始めないとね?どうする?タマジローに相談してみる?」

小難しそうな顔をして固まったティアは、数秒後に呟く。

「・・・いや、今のままでいい。」

「そうでしょう?肩を増やしたくないなら、リュックを減らさないとね!」

「こ!今回は1つだから大丈夫だよ!」

「いいや、これは1.5個だね。ティアの肩はどうみても1.5個はないから今回は減らさないとダメだ。」

───数分後───

「・・・アイリ・・・?」

プルプルとふるえながら、げっそりしたリュックを持ち上げたティアはそれを指差しアイリに訴える。

「なにさこれ!空っぽじゃない!リュックに荷物を入れるんじゃなくて、これじゃあリュックがお荷物じゃない!」

「いや、よ、よく見なよティア・・・」

餓死寸前のリュックのホックを外したティアは愕然とした。
やせ細ったリュックの中には、マトリョーシカよろしくさらにやせ細った袋が入っていた。

涙目でアイリを睨みつけたティアに一瞬肩をすくめたアイリは視線をそらしてつぶやいた。

「・・・その袋にさ、集めたお使いの品々を───

「みせてよ」

「っえ?」

「アイリのリュックも見せてよ」

鬼気迫る表情でアイリの話を遮ったティアは、アイリにもリュックの中身を提示するよう要求する。

「ほ・・・ほら、みなよ・・・」

気迫に負けてリュックを差し出したアイリからティアはリュックを取り上げて「ていっ!!」とホックを外して中を覗いた。
そして数秒固まり、尋ねる。

「・・・あ、アイリ・・・正気なの・・・!?」

ティアの指差すリュックの中には2人分のお弁当とユウとタマジローから渡された各種図鑑と地図しか入っていなかった。

「いや、ね。それ以外に何が必要になるっていうの?ティア。」

「何言ってるのよアイリ!?何が起こるかわからないんだよ!!?突風で足がもつれて転んで血まみれになった魔法使いだっているんだよ!!??」

「いや、なんの話なんだかアタシには・・・

「こんなもの!こうして!こうやって!」

「あ!こら!ティア!やめなさい!」

突然辺りに散らばった方位磁石や双眼鏡やらをアイリのリュックにポイポイ詰め始めるティアをアイリは取り押さえる。

「うーん、どうすれば・・・」

「う、、、ぐ。・・・あ!そうだ!」

────────

「────それで、俺の所へ来たわけか。」

蹴破られたドアの前でぎゃあぎゃあわめく2人を眺め、疲れた様子でユウは研究の手を止める。

「ユウ!聞いてよ!アイリったら冒険をなめてるのよ!?マナ水の一本も持たないなんておかしいよね!!?」

「いや、そうだけどさ!爆竹やら煙玉やらは絶対にいらないと思わないかい!?ユウ!」

ため息を1つついたあと、ユウはタマジローへと声をかける。

「タマジローさん、一旦休憩・・・というか中断。ティアが悪い癖を発動させて、アイリさんがそれに乗っかったよ。」

「・・・アイリ・・・俺は爆竹も煙玉もいると思うぜ?」

「いや、いらねーから。タマジローさん、話をややこしくしないでくれよ。」

「そうだよ!タマジローの意見なんて聞いてないよ!」

「・・・おう、すまねえ・・・」

「・・・荷物は俺が入れておくよ。タマジローさんはティアとアイリさんにもう少し詳しくお使いの話でもしててやってくれ。」

頭をかきながらユウは一旦2人のリュックの中を空にする。

「爆竹と煙玉のロマンがわからねえとはな・・・がっかりだぜ。」

うつむきつつタマジローはぼやき、アイリへと鼻先を向けつつ話を変える。

「アイリ、地図を広げてくれ。ユウ!あれを!」

タマジローが言い切るよりも先にタマジローの足元に1つ、朱肉が転がった。
タマジローにお願いされ、ティアがその朱肉を開けると、タマジローはちょんちょんと肉球を朱肉に押しつけ、説明を始める。

「集めるものの確認はしたか?」

「まだです」

「そうか、じゃあそれの説明も兼ねてオススメルートを紹介するかな?
まず品物だ、今日2人に集めてきてもらいたいものは『翡翠晶』『ナナヒカリニジイロハッコウタケ』『ウルウルフの牙』『高嶺の花』の4つだな。」

「な・・・ナナヒカリニジイロハッコウタケ・・・!!」

「今回ばっかりはティアの想像してる通りなキノコかもね?そんな名前がついてるなんて、一体どんだけ光ってるのやら・・・」

キラキラした表情のティアをみてアイリがカラカラと笑った。
またなんとなくティアが想像していることを察知したのだろう。

「確かにすげえキノコだが、別に珍しくもないしクソマズイしそこら中に生えてるわであんまりありがたみはねえぜ?」

「それでまず2人には・・・」といいながらタマジローは地図上の街から、北へ向かって転々と少しずつ赤いしるしをつけていく。「ここだ。」とタマジローが肉球を押し付けた地点には赤い足跡が1つ。

「・・・洞窟・・・!」

タマジローが言うより先にティアが言葉を漏らした。

「そう、洞窟だ、この街の北にある洞窟では腐るほどナナヒカリニジイロハッコウタケが生えてる、ここでキノコを採ったらさらに洞窟の奥へと向かってくれ。」

「洞窟の地図は?」

アイリが不安そうに問う。

「残念ながら洞窟の地図はねえ。」

「そんな・・・!」

「ああ、すまねえな、アイリ。さらに残念なことを言うとこの洞窟は一本道なんだ、そもそも地図がいらねえのさ。」

「・・・先に言えよ。馬鹿ジロー。」

少し恥ずかしそうにアイリは吐き捨てた。

「まあ、気を悪くするなよ。次だ。」

そう言うとタマジローはまた朱肉に肉球を押しつけ、地図の洞窟マークのさらに北へと赤い点を連ねていく。

「洞窟を抜けるとそこは雪国?残念、小高い丘だ。」

タマジローは地図の緑色に塗られている箇所にさらに肉球を押し付けた。

「この丘は見晴らしがいいんだ、そしてこの丘から見える岩壁があるんだが、その岩壁の岩肌に白い花が咲いている。それが高嶺の花だ。」

ふむふむ、とティアとアイリは大人しくタマジローの話を聞いている。

「こんどはこの岩壁に沿って西へと歩いて行ってくれ。すると岩壁のてっぺんから流れ落ちている滝が見えるはずだ。その滝壺から先はごくごく普通の川になっているんだ、それからは川の流れに沿って南へと向かってほしい。」

「それで・・・この辺か?」と、タマジローは川の横にまた肉球マークをつける。

「このあたりは川が極端に浅くなってるんだ、川底まで数センチしか水深はねえ。この川底の砂利に混じって綺麗な結晶が混じって見えると思うんだが、それが翡翠晶だ。300グラムも採れれば結構だ。」

「見た目は?」

「鉱石図鑑。」

「あっそう。」

つまらなそうにアイリは頭をかく。


「次で最後か?そのまま川は街から西側へと離れた場所にある森へと続いている。ここではちょくちょくウルウルフの群れが目撃されているんだ。そこで───

「私の出番ですね!」

ティアが鼻息を荒くする。

「おう、頼もしいな、ティア。アイリとウルウルフの牙をしっかり頼む!」

ブンブン頷くティアをみて、タマジローは地図上の森に肉球マークを追加する。

「あとは東へと森を抜ければ街だ。お疲れさん。説明は以上だ、質問は?」

アイリとティアは首を横にふる。

「ふむ、そうか。ユ───

タマジローの足元に濡れ布巾が投げつけられた。

「わかってるじゃねえか。」

タマジローに背中を向けたまま、ユウはブンブン頷いた。
その様子に満足した様子でタマジローは肉球の赤色をその濡れ布巾へと落としてゆく。

「ちょうどいいな。こっちも終わりだ!」

リュックのホックを止め、ユウはティアとアイリの胸元へとリュックを投げ込む。

「わっ!ちょっと!ユウ!お弁当もはいってるのよ!?」

「腹に入れば一緒だよ、ありがとね、ユウ。
それじゃあティア、早速行こうか!」

「うん!」

きゃあきゃあ騒ぎながら部屋を後にする2人を見送り、1人と一匹の休憩時間もドアが閉まる音と共に終わりを告げた。

ティアとアイリの初めてのおつかいに無事を祈りつつ、ユウとタマジローは再び魔導書へと視線を落とした。

ペールタウンの周辺は獣も魔物も少ない、おかげで2人は難なく最初の目的地の洞窟へとたどり着く。

「それでさー、その時タマジローの奴膝から崩れ落ちてさー」

「アイリのタマジローさん好きにはほんとに・・・おお・・・!!これが洞窟・・・!!」

「えっ?ああ!ほんと!洞窟!」

2人の目の前には地下に向かって緩い角度をつけた大穴が空いていた、上をみるとトンネル状に岩が削られていて、その雰囲気は周りの林との効果も相まってどこか幻想的で『いかにも』な雰囲気がひしひしと伝わってきていた。

「こんな洞窟、初めてだよ・・・アイリ!装備の確認を!」

「装備?アタシの装備は護身用をはじめとする万能用途のお手製ナイフだけだよ?」

「え!?なにそれ!見せて見せて!」

「ふっふーん、見て驚け!触って指切れ!これはアタシの作った刃物部門の武器の中でも自慢の一品なんだ!」

アイリは刃渡り数10センチ程度のナイフを構えて太陽の光に反射させる。

「す・・・すごい・・・!!」

「お?さすがティア!見ただけで分かるのかい?」

「いや!全っ然!ただなんとなくすごい!」

「・・・」

「・・・」

「・・・貸すよ、試し斬りしてみたら?」

「え!?いいの!?」

「うん、なんか、腑に落ちなかったから・・・」

苦笑いを浮かべつつアイリはティアへとナイフを手渡した。

「じゃ、、、じゃあ!い!いくよ・・・!!」

なぜか緊張した面もちでプルプル震え始めたティアはナイフを握る力を強め、呟く。

「『剣技 飛爪刃』・・・!!」

「てやあっ!」と、林の方へとティアがナイフを振ると、数メートル先に生えていた直径10センチ程度の木が音も立てずに滑り落ちた。

「わああっ・・・凄い切れ味・・・っ!!」

きゃあああとナイフを握った拳をブンブン振り回しはしゃぐティアを見つめてアイリは思った。

(斬撃を飛ばした!?凄い!・・・けど、なんで・・・?なんであえて直接切りつけなかったのかしら・・・?)

なんとなく不完全燃焼な気分でアイリはティアからナイフを受け取る。

「そのナイフさえあればどんな獣も一撃だね!アイリ!」

「ティアが使えばね・・・少なくとも、アタシは斬撃を飛ばしたりなんかできないよ」

からからと笑顔をこぼしたアイリは話を移す。

「それでさ、アタシ達結局まだリュックの中身みてないよ?一応確認しておかないとね!」

「そうだね!ここでついでにリュックの中身も確認しておこうか!」

ティアとアイリは2人で向かいあってしゃがみ、リュックの背中同士を合わせて地面に置く。

「じゃあ、開けてみようか、ティア。」

「うん!恨みっこ無しね!」

「いや、この状況で何をどう恨むっていうのさ。」

「「せーの!」」で2人はリュックを開け、渋い顔でお互いを見やった。

「うーん・・・」

「・・・ふむ」

「「・・・無難・・・」」

中に入っている物の機能性にはなにも問題はなかった。
汎用性も高く、傷口用と物品用に分けられた消毒液など、気が利いている所も見受けられる。

「うん、さすがユウ・・・つまらない。」

「ティアが面白すぎたからどうかと思ったけど、ユウは真面目なんだね・・・ん?ティア、なにそれ?」

アイリが指差すものを見て、ティアは普通に答える。

「え?何って、ただのマナ水でしょ?これ。」

「いや、そうじゃなくて、一回見て見なよ。」

アイリに促され、ティアはそれを持ち上げてまじまじと見つめた。

「・・・ああ、なるほど。模範解答・・・。ほんとにユウは真面目・・・というか負けず嫌い・・・。」

ティアの手のマナ水には、ボトルにでかでかと『バカにつける薬』と書いてあった。
それを確認した2人はリュックの口を閉めて、突風で足がもつれて転んで血まみれになった魔法使いの話をしつつ、洞窟の中へと進んで行った。

ティアとアイリは洞窟に入り、すぐにおかしな点に気づいた。

「・・・明るい・・・?」

「ほんとだね・・・別に外から光が入ってるわけでもないのに・・・」

妙に明るい洞窟を進む中、2人はその洞窟のなかでも一際明るい場所にたどり着いた。

「・・・うっわぁ」

げんなりしたようすで声を漏らしたのはアイリだった。

「なによこれ、いくら何でも限度ってもんがあるんじゃないの?」

「・・・す、すごっ・・・」

眉をひそめたティアの視線の先には異様に輝くキノコが生えていた。それは数メートルおきに十数本ずつ生えている。
そのキノコは不思議な光を放っており、その光が洞窟中の壁を反射して洞窟の中を異様に照らしていた。

「なるほど・・・ねぇ、確かにこんなキノコ見つけたらアタシでも『ナナヒカリニジイロハッコウタケ』って名前つけるわ・・・」

「で、、、では、早速・・・」

わきわきと構えたティアは輝くキノコへと歩み寄り

「てい!ていていていていていていてい!!!」

次々とそこら中に生えているキノコを回収袋へと放り込んでいく。

「だあああああっ!ティア!採りすぎ採りすぎ!そんなにいらないから!いらないから!」

「え?そうなの!?」

「いや・・・知らないけどさ、袋がそんなんなるほど詰めることは流石にタマジローもユウも視野に入れてないと思うよ?」

ぼおおおおっと不気味な光を放つ膨らんだ袋をアイリは指差す。
小難しい顔をして袋を見つめたティアは、唐突に袋をひっくり返した。
ボロボロと輝くキノコが洞窟の床を転がり回る。

「あっ、ちょっ、ティア・・・それはなんか・・・うん・・・まあいいや、なんでもない。」

「こんなもんで足りるかな?」

袋の中で光を放つ数本を眺めてティアはアイリへと確認をとった。

(なんか最後、キノコが凄い憐れだったなぁ・・・)

「・・・アイリ?」

「あ?ああ!ごめんごめん、多分足りるよ・・・多分・・・」

「洞窟で必要なのはこれだけだったよね?早く行こ?アイリ!」

「う、うん、丘についたらお弁当にしようか。」

それから数十分ほど2人は洞窟を歩いた、そんななかでナナヒカリニジイロハッコウタケは何度も視界に入り、初めこそ驚いていた2人も次第にキノコに慣れてしまい、洞窟を出る直前には「もう!しつこい!いちいち光らないでよ!」とアイリも怒り始めるほどであった。
そんなアイリを眺めて、逆に最後はティアの方がキノコを憐れに思っていた。