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その日のメニューはアイリが担当で、ティアは食器洗いと後片付けを受け持った。
初め、アイリは手伝うと言って聞かなかったティアに「お客さんだから」とやんわり断っていたが、真剣なティアを見れば見るほど逆に断ることに申し訳なさを感じてしまったようで、食後の事をティアに任せることにしたらしい。
アイリのつくる料理はどれも控えめな味付けだが、なぜか物足りなさを全く感じさせない不思議な味で、ユウとティアは終始、調理の秘密を探りながらその味を堪能していた。
タマジローいわく、タマジローと同棲し始めた頃のアイリの料理はとても食べれたものではなかったらしい。
しかしアイリは毎晩毎晩タマジローのために内緒で料理ノートをまとめていたようで、そのおかげでここまで深い味が出せるようになったようだ。
その内緒のノートをタマジローが見つけてしまった時、アイリは泣きながら家を飛び出してしまったが、足が遅くて飛び出してから数百メートルでタマジローに捕まり、その日の晩は遅くまでお互いに愛を語り合ったとか、合わなかったとか。
そんな話をティアは鼻息を荒くして聞いていた。
呆れ顔のユウを横目に。

慌ただしい時間は過ぎ去り、ティアが食器洗いを始めたのを合図に残りのメンバーも各々の作業に入る。

「悪いね、ティア。アタシは先に工房にいるから、洗い終わったらティアも来てね。もう少し調べたい部分があるんだ。」

「はい、わかりました!」

「ユウは俺と一緒に俺の書斎に来い、失敗した魔法がまとめてある魔導書を見てもらおう」

「タマジロー!ユウのこと可愛がってやるんじゃないよ!?」

「は・・・はは、ティア、俺の悲鳴が聞こえたらすぐ来てくれよ・・・」

「うーん?どうだろうねぇ?事が終わった後になっちゃうかもね?」

冗談半分、本気半分で言い放つアイリ。
少し肩を落として力無くつぶやくユウ。
ニヤニヤとイタズラな笑みで笑うティア。

「だから・・・なんのことなんだよ」

タマジローは少し居心地の悪さを感じたが、分からないことに頭をひねっても仕方ないと思い、ため息をつきつつも鼻先でユウを書斎の方へ案内する。
その後、二、三言ティアへと話しかけたアイリも台所にティアを残して工房へと向かった。
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「悪い、ユウ、ドアをあけてくれ!畜生!情けねえ!!」

「畜生ねぇ・・・今はタマジローさんが畜生なんだけどな・・・」

「うるせぇ、うまいこと言ってるつもりかよ!」

「あー、ごめんなさい、つい。」

少し間抜けな姿でがりがりとドアを引っ掻くタマジローにニヤニヤしつつ、ユウはドアノブに手をかけ、質素なドアを引っ張った。

「・・・っおお・・・!」

「どうだ?ってもお前も魔法使いなら、部屋はこんなもんじゃないのか?」

ユウの瞳に飛び込む景色、それはとてもさっきの質素なドアの裏側とは思えない世界であった。
部屋の中の全ての壁はユウの背丈よりもずっと高い本棚で埋まっていて、その中はカラフルな背表紙の本がぎっちり詰まっていた。
部屋の真ん中には二人掛けの小さなソファ、その向かいの低いテーブルには冗談とも思えるような大がかりな試験管、フラスコ、何かの粉末、干からびた何かの部位が所狭しとおいてある。

「いや、こんな実験器具はもってなかったよ、タマジローさんはもしかして魔法研究で食ってたのか?」

「まぁ、そうだな、魔法研究八割、旅の人二割が俺の収入だったな、いまじゃあアイリに飼ってもらってるだけの身分だが・・・」

「ほおお、タマジローさんも旅の人だったのか・・・ランクは?」

「ブロンズ。魔法研究中心であまり依頼はこなしてなかったからな。おいしそうな依頼があったらたまに飛びついてた程度さ。」

「で、なれの果てがそれか、どんな魔法の研究してたんだ?」

「う・・・悔しいがお前の言うとおりだ。研究に力を入れてきたクセに、失敗してこのざまさ。自分のこともひとりで出来やしねえ。アイリが俺のトイレの砂を取り替えてくれるときの申し訳なさと屈辱感はお前にはわからんだろうな、ユウ。」

「うっはは、わかりたくもないよ、アイリさんがいてくれて良かったな、タマジローさん。」

「あいつは俺の大事な女だ。いてくれねえと生活云々抜きに、精神的に困る!・・・話が逸れたな、俺もアイリのことは言えないな・・・
本題に戻るぞ、ユウ、正面の左側の本棚、上から四段目の右から14冊目の魔導書をみてくれ」

「う、うん・・・った、これか・・・なになに?
強化魔法『ビーストウォーリア』?
己の身体の一部を獣のそれとすることで、人間の限界を超えた力を得る。
しかし、己の限界を超えて動き続けると、耐えきれなくなった肉体はいずれ崩壊する・・・ふむふむ」

パラパラとページをめくりつつ、魔法の概要を調べていくユウ。
初めの魔法の説明より後ろはよくわからない魔法陣や、図、その他の原理、理論の説明が延々と記されていた。

「なるほどな、この魔法で失敗したタマジローさんは一部どころか全身が獣になっちまったわけだ。そして元に戻れないと」

「おう、そうだな、しかもこんなマヌケな獣になったっつうわけだ。笑えるだろ?」

タマジローは吐き捨てるように言い放つと、鼻息をふかした。
おそらく、人間でいうところの鼻で笑ったというところか。

「で?戻す方法は?」

「ああ、その魔法の逆の魔法を作るんだよ。ビーストウォーリアは身体の一部を獣にする魔法だろ?それとは別に『身体の一部を人間にする』魔法を作ればいい。そして俺が失敗した部分を逆手に応用して、『身体の全てを人間にする』ように調整する。」

「簡単にいうけどなあ・・・できるんか?」

「出来るかできないかじゃねえ、やるんだよ!一応頭の中で理論はできている、あとはこの姿じゃ出来ねえ薬の調合やら魔力の利用やらをお前に頼みたいんだ、ユウ。」

「薬の調合はあんまりやったことないけど、まあ、やるしかないよな。
タマジローさん、とりあえず必要な物を・・・」

その日、タマジローの部屋は深夜まで明かりがともっていた。
ユウは入浴とトイレと洗顔、歯磨き以外で部屋を出てくることはなかったため、一足先に工房からリビングへと戻ってきたティアとアイリはユウとタマジローをほっといて床につくことにしたようだ。

「全く、タマジローはいつもそうだった、一回研究に没頭するとアタシのこともほったらかし、あーあ、それが原因で一体何回寂しい夜を過ごしたことか。獣になってからは『戻ってきてない』ことが多いし、アタシはこの豊満なボデーを持て余してるよっての。」

布団を床に広げながらアイリは不満げに言葉を投げた。

「あはは、やっぱりタマジローさんもそうなんですか?」

「『やっぱり』?『タマジローさんも』?なぁにぃ?ティアもそのボデーを生かしきれてないの?もったいないないなぁ、かわいい顔してるくせにさ。若いうちにできるだけすることしとかないとすぐおばさんになっちゃうぞ?」

ティアの分の布団んをぱんっぱんっと叩くアイリにクスクスと笑いかけ、パジャマを着たティアはアイリの隣の布団に入り込んだ。

「本当に可愛い顔をしていたら、今頃ユウも私にメロメロだったんじゃないですかね?そうじゃないってことは、そんなことないんですよ。」

「まぁまぁ、謙遜しちゃって。そんな顔であんな体で、そういうこと言えちゃうんだもんねぇ・・・なんか女として負けた気分」

「あんな体て・・・そうですね、さっきお風呂にアイリさんが急に入ってきたときはびっくりしましたよ・・・」

「いいじゃん、女同士、仲良くしようや。」

仲良く、その言葉にティアは少しむずがゆい気持ちになった。

「仲良く・・・か、ふふ・・・」

「どうしたのさ、アタシおかしな事言った?」

「いえ、その、私、、、昔魔法が得意だったんです。
でも私と同じくらいの歳の子たちは私の魔法を怖がって・・・私には、友達がいなかったんです。
ユウは確かに私を受け入れてくれてくれたけど、やっぱりユウは女の子じゃないし、その、アイリさんみたいに、同じ女の子同士で仲良くできるのって、不思議で・・・」

「ふーん、そっかぁ・・・じゃあ、アタシがティアの初めての女友達??」

「・・・へ?・・・ともだ・・・ち?」

「ん?嫌かい?アタシはもう、ティアのこと友達だと思ってるよ?」

「友達・・・か、そっか・・・ねぇ、アイリさん?」

「なあに?ティア。」

「そ、その・・・『アイリ』って・・・呼んでもいいですか?」

「あっはは!もちろんだよ!あと敬語とか丁寧語もいらないよ!友達なんだから不自然でしょ?」

恥ずかしそうな、しかし嬉しそうな色にティアの顔が染まっていった

「うん!ありがとう!アイリ!!」

次の日の朝、ティアは初めてできた女友達のことを昨夜の日記に追記した。

「ユウ~、タマジローさ~ん」

返事がない。
ティアは密かにユウを心配していた、草原を走るだけで自分の魔法で自滅するくらいだ、魔法の研究の過程でユウもタマジローのようになってしまうのではないのだろうかと思うのも不思議ではない。

「うーん、寝てるのかなあ?」

軽く三回、ティアは入り口をノックする。

「・・・」

素早く二回、ティアは入り口をノックする。

「・・・」

ちいさくため息をつき、ティアは入り口を連打する。

「おーきーてー!」

コココココココココココココココココココと、子気味の良い音を立てるドアの音に気がついたのはユウでもなく、タマジローでもなく、アイリだった。

「どうしたの!?ティア!まさかユウが啄木鳥になっちゃったの!??」

ひよこのエプロンを身にまとって、左手におたまを握ったアイリがティアの背後から声をかける。
アイリは朝食の準備中だったようだ。

「え?いや、ごめん、鳴らしてたの私!」

「え?ああ、なんだぁ、ノックの音か・・・」

赤くなったティアの拳をみてアイリはほっとした様子でうなだれた。

「ユウまでタマジローの魔法の餌食になったなんて言ったら、ティアに申し訳なくてアタマおかしくなっちゃうよ、アタシ。
で?2人?1人と一匹?はまだ起きてこないの?」

「うん、起きてこないの。0人と二匹になってなければいいけど・・・」

「あはは、それ笑えないよ、ティア・・・」

「うーん、2人ともどうしたんだろ・・・」

「・・・開けるか?」

「え?開けるの!?」

「いや、別に開けちゃいけないってこともないでしょ?男が2人、隠すものなんてエロ本くらいさね」

「タマジローさん、読むんだ・・・」

「え?いや、例えだよ例え!読まないし、隠してないよ!・・・多分。」

アイリは少しあわてた様子でティアにおたまを預け、五歩後ろへとゆっくり下がる。

「なにしてるの?アイリ?」

「あ、ごめんティア、そこ、危ないよ?一旦どいてもらっていい?どかないなら、一発避けてもらっていいかい?」

「え!?ちょっ!ア────

ティアが言い切る前にアイリは駆け、跳び、ドアへと蹴りを入れた。
すんでのところで頭をかかえながらしゃがんだティアの頭上を、轟音とともにアイリが通過していく。
今にも外れそうな勢いで鳴くドアが開き、部屋の入り口で華麗に着地をしてみせるアイリに、ティアの思考は停止した。

「ふぅ、ごめんね、ティア、驚いたかな?気づいてたかは知らないけど、タマジローのヤツ、研究中はドア封印するんだよ。魔法か鍵かはしらないけど。だから朝になってもドアが封印されてて出てこない時は大抵・・・」

アイリは言葉を止めて床を指差した。
ティアがその先に視線をやると、そこには仰向けで安らかな表情の獣がいた。
さらに奥には同じく安らかな表情の魔法使いもいた。

「うわぁ。これだけやっても起きないとか・・・」

「流石にユウまでタマジローと同じだとはアタシも思わなかったけどね。まぁ、そういうことだよ。ティア、朝食にしようか。」

「うん・・・」

2人は振り返らずに部屋のドアを閉めた。

起きない男組にはあとで冷めた料理で我慢してもらおうということで2人の分だけ別皿に用意して、ティアとアイリは食事をはじめる。

「うん、やっぱりアイリのご飯・・・すごい、おいしい、どうやったらこんな味を・・・?」

「ふふふ、ヒミツー」

「アイリってすごいよね、武器もつくるし料理もうまいし、タマジローさんの部屋のドアもアイリが作ったんでしょ?」

「いや、ドアは・・・作ったというより直したというか・・・」

なぜかタマジローの部屋のドアは蹴破ることを前提にしたような機能になっており、内側からでも外側からでも無理やり『押せば』開く仕様だ。
ちなみに普通に開けようとすると押しても開かず、引くと開く。

「壊れちゃったんだ、初めて蹴破ったときは。だから、直すときに蹴破れる仕様にしたの、今日みたいなことは珍しくないし、そのたびに壊れるような根性ナシなドアだと気が滅入るでしょ?」

「あ、はは・・・そう、だね。」

生まれながらにして、蹴破られてもびくともしない程に根性が座ったドアなど存在するのだろうかとティアは思った。
しかしティアは突っ込まなかった、生きているとどんなことが起こるかわからない。
自分だって昔は天才と呼ばれる程に魔法が得意だったのに今は剣士をしているのだ、普通に開けられるように作られたドアが、蹴破れるようになってもなんらおかしいことはないのだ。と、思うことにしたからだ。

「あ、そうそう、ティア、今日は落ち着いたら依頼所に行こうね?あんたらが正式にアタシの依頼を受けたってことにしないと、後々面倒だよ。報酬だけで構わないならいいけど、今回働いたことがランク申請の査定にも入るならそれに越したことはないでしょ?」

「あ、そっか!そういえば一応『依頼』なんだもんね、初仕事だね!」

「・・・うん、初仕事からこんなんでごめんよう・・・頼りにしてるよ・・・」

苦笑いのアイリにティアはどや顔で自分の胸を叩いた。

「まっかせなさい!タマジローさんのことは絶対元に戻すってユウも言ってたし、ユウがそう言ったなら間違いないから、私も全力でバックアップするよ!」

「ありがと・・・ティア」

2人だけの食事が終わり、ティアとアイリはお茶とお茶菓子を食卓に広げて談笑に入っていた。
2人が食事を終えてから、少なくともアイリがお茶菓子を作れるだけの時間が過ぎたようだ。

「「おはよー」」

「「あら、おそよう」」

リビングにゾンビのごとく現れる1人と1匹。
それらを横目に優雅に茶を啜る2人。

「やっとおきてきたのか、遅すぎるよ。」

「せっかく起こしに行ったのにね?」

「え?そうなのか?」

「ああ、そうらしいな、ドアの封印が無理やり破られてた。」

「え?タマジローさん、ドア封印してたのか?」

「あん?気づかなかったのか?」

「・・・」

ユウは肩を抱いて身震いをした。
『戻ってきていなかった』とはいえ、タマジローに一度襲われたことが相当傷になっているらしい。

「男2人しかいない部屋でわざわざ密室・・・タマジロー!あんたまたユウに変なことしてないでしょうね!?」

「・・・」

黙り込んでしまった1匹と1人に、ティアは食事を用意した。
両方「いただきます」とだけつぶやき、ひたすら黙って食べものを胃に落としていた。
談笑する華やかな女性組に対し、獣と魔法使いのその姿はあまりにも不気味、且つみじめであった。

「食べ終わったら『ごちそうさま』で教えてね、出かけるよ。」

アイリが談笑の合間に一言、獣と魔法使いに話しかけ、それらは頭を縦に振り、アイリの言葉に応じた。

しばらく後「ごちそうさま」がリビングに響き、「おそまつさま」で晴れて全員食事が終わった。
最早時刻は昼を過ぎていたが、逆に出かけるにはちょうどいい時間となる。

「で・・・、アイリ?どこへ出かけるんだ?」

「依頼所だよ、ユウとティアが正式に依頼を受けたって報告ね」

「ああ、なるほどな。」

「でもタマジロー、あんたは留守番!」

「え!?なんでだよ!アイリ、俺は『戻ってきてる』んだぞ!?邪魔にはならないだろ!?」

「だって、いつまた獣になるかわからないし、昨日の件もあるし」

「・・・そうか」

『昨日の件』という言葉をだされるとタマジローも弱い。
怯えるユウと、心当たりがない自分。それほどに怖いことはない。
自分の知らないところで、自分が他人に恐ろしいことをしたなどと想像すればするほどに、タマジローは身動きを取りにくくなっていた。

「ユウ、ティア、お願いだ、早く俺を治してくれよ・・・」

「あー・・・なんか、ごめんなさい、タマジローさん・・・別にそんなに大事でもなかったからあまり落ち込まないでください!ね?」

「いやいや、ティアが同じ立場にたったと考えてみろよ・・・」

「・・・」

「・・・」

「わりぃ、俺もそんなに気にしてないよ、タマジローさん」

「いや、想像したら私は相当嫌かも・・・」

意見が数秒で180度変わったティアにその場の全員が苦笑いをし、アイリの声で三人は家を出ることにした。
タマジローは小屋に首輪で繋がれていた。
寂しそうに見送るタマジローを見て、ユウとティアの決心はより強いものとなった、その姿はあまりにも惨めで可哀想だったからである。

ユウとティアは苦笑いしつつも顔を合わせ、小さく、しかし確かに頷いた。

「これで・・・よっしと!」

アイリは工房のシャッターを閉めて『本日休業』の札をかける。

「あら?アイリ、仕事はいいの?」

不思議そうに尋ねたティアのナチュラルな話し方に、ユウは不思議そうな顔をする。

「なんだよ、一晩でずいぶん仲よさそうになったな、そっちこそ昨晩はなんかあったんじゃないか?」

「うふふ、まあ、2人でお風呂に入ったくらいだからね!悪いけどティアは貰ったよ、ユウ」

ニヤリとユウに悪戯な笑みを投げ、振り返り際に「仕事はしばらく休み。どうせ間に合ってるんだから」とつぶやいたアイリは、ずいずいと依頼所の方へと歩きはじめた。
修理、制作注文の出ている品はもう既に作り終えてあり、あとは引き取り待ちらしい。

程なくして三人は、昨日ユウとティアが旅の人申請を済ませた依頼所にたどりついた。

「どうも!こんにちわー」

元気よく入り口から入って行くアイリの後ろをちょこちょことユウとティアはついていった。
すると、正面からユウとティアが聞き覚えのある声が聞こえる。

「あら!アイリさん!また依頼の条件の変更ですか?」

昨日の受付嬢の声だ。

「あっはは、少しでもいい条件にしないと、誰も食いついてくれないからね」

「えぇ、私達もアイリさんの依頼をブラックランクで扱うのは心苦しいのですけど・・・タマジローさん、依然お変わりないですか?」

「ああ、今は『戻ってきてる』よ。でもやっぱり・・・少しずつ戻ってくる頻度が減ってる気がするんだ・・・気のせいだよね・・・会いたいせいかな・・・毎日会ってるのにね、なんでなんだろうね・・・」

独り言のように、寂しそうに、アイリは悲痛な声でつぶやいた。

「でも!今回は大丈夫だよ!今日は他でもない!正式に依頼を受けてくれることになった旅の人を紹介にきたんだ!」

「あら!本当ですか!?素晴らしい!では早速お名前の方をどうぞ、手続きにはいりましょう!」

「紹介するよ!依頼を受けてくれることになった、『ユウ』と『ティア』だ!」

「「ど・・・どうも~・・・」」

気まずそうに2人はアイリの後ろから顔を出した。

「・・・あ、若いの・・・」

「え!?何!?受付ちゃんと2人は知り合い!?」

「『ユウ・ラングレル』『ティア・アルノーティス』。知ってるもなにも、この子達は昨日私が受け付けをしたんですよ。
しかし若いの、よくまあ最初にブラックランクを受けることにしたもんだわね、お姉さんびっくりよ。」

あたまをかきながら、受付嬢は依頼書を取りに席をたつ、戻ってくるなり「ったく。若さがうらやましいわよ」などとぼやきながら一枚の依頼書をユウとティアの前にそっと置いた。

「はい、ここ、サインしてね。あ、アイリさんは前にサイン頂いてるので大丈夫ですよ。」

「そっかぁ、あんたら昨日旅の人になったばっかりだったもんねぇ・・・」

「ま・・・まぁね、はは・・・」

アイリが見守る中、無事に2人はサインを終え、受付嬢は依頼書に大きなハンコを押した。

「はい!これで2人は依頼を正式に受けたことになるよ!若いの、初仕事だ!失敗しないようにね?」

「おう、わかってるよ」

「失敗しないようにね!ユウ!」

「まぁ、この依頼で死ぬことはないだろうけど」とつけ加え、受付嬢は依頼書のコピーを2人へ手渡した。
それを受け取った2人はアイリと共に依頼所を後にする。

「あ!寄らないといけないところが!どうする?ユウとティアもくる?」

依頼所をでて一番、突然アイリが思い出したかのように声を上げた。

「いんや、俺は昨日の続きがあるから先に戻ってるよ、タマジローさんも心配だしな。」

ふいっと右手を顎の前で倒しつつ、ユウはこたえる。
タマジローがいつまた獣になってしまうかわからないから、『戻ってきている』内になるべく魔法の事を掘り下げておきたかったのだろう。
しかし、それはアイリとティアには誤解の材料にしかならない。

「・・・あっ、わ、私はアイリについていくよっ!じゃあ!ユウ!ごゆっくり!」

「ああ、そうだね、ティアには実はついてきて欲しかったんだ、それじゃ、ユウ、タマジローとの、る・す・ば・ん、『しっかり』おねがいね?」

ケラケラと笑いながらユウとは逆方向へと2人は歩き始め、その場にユウはとりのこされる。

(さて・・・帰・・・あれ?
アイリさんの家は・・・どこだったっけ?)

魔法使いは独り、途方に暮れた。

「あ、そうだ。」

ユウは再び依頼所に入る。
そして受付嬢のもとへと駆け寄った。

「あら?どうしたの?若いの。忘れ物かな?」

「あの・・・いやぁ。アイリさんの工房の場所が・・・」

「へ・・・?」

「・・・迷子。迷子ッス。」

「・・・あっはっはっはっは!なあにい?若いの!置いてけぼりか!」

「・・・」

「ちょっと待っててね!お姉さんが地図描いてあげちゃうよ、哀れな若いの。」

そういうと受付嬢はさらさらさらっとメモ用紙にフリーハンドとは思えないほどの正確な直線と曲線で、まるで印刷されたかの様な地図を描き上げた。
しかし、その地図に書き加えられた嫌に丸っこくて可愛らしい文字と、アイリの工房の位置に描かれたぷくぷく太った星マークにより、その地図は残念な形に変貌する。

「一丁あがり!さあ、若いの、お姉さん本人に負けず劣らずのmiracle perfectな地図の完成よ。
これでもたどり着けなかったら後で『アイリさんの工房までの道案内』って内容の依頼書でも出す事ね。」

「なにこれわかりやっすい!?ありがと!お姉さん!」

メモ用紙を掲げて、まるで宝の地図を手に入れたかのようにユウははしゃぐ。
そしてそのまま依頼所を出ようとしたとき、ユウは受付嬢に呼び止められる。

「あー、若いの。これはお姉さんのただの勘だから、聞き流してくれてもかまわないけど・・・おそらくタマジローさん、アイリさんになにか重大な事を隠してるんじゃないかしら?」

「重大なこと?」

「さっきアイリさんも『戻ってくる頻度が減ってる』って言ってたでしょう?あれはきっと気のせいじゃないわ。帰ったらタマジローさんにかかってる魔法?呪い?について詳しく調べるなり、タマジローさん本人に問い詰めるなりしたほうがいいと、お姉さんは思うわ。それがたとえ杞憂であったとしても。」

「う・・・うん、そうするよ、意味深すぎてスルーできねぇよ・・・」

苦笑いを浮かべるユウに受付嬢は優しく微笑みかけた。

「大丈夫、大丈夫だ、若いの。あなた達2人ならきっとやれる。健闘を祈るよ!」

ユウは深々と頭を下げて、依頼所を駆け出した。

ユウが依頼所を出て数百メートル走ったあとにはじめてちゃんと地図を確認し、走ってる方向が逆だと気づいて引き返している頃、女性組はゆっくり目的地へと向かっていた。

「それでねー、その時ユウが膝から崩れ落ちてねー」

「ティアは本当にユウが大好きだねー」

「アイリと一緒にしないでよー」

「「あははははっ」」

「・・・で、どこに向かってるの?アイリ。」

「おっと、説明がまだだったね。
『とっておき』の注文に行くんだよ。」

「とっておき・・・?」

「話すと・・・ながくなるけど・・・?」

アイリのことばに何故か緊張した面もちで、ティアは頭をゆっくりと縦に振った。

「ティアの剣の材料だよ。ものすっごくいいやつ」

「ものすっごく・・・いいやつ・・・」

結局話が短かったことについては安定のスルーを決め込んだティアの頭に虹色の水晶の様な鉱石が浮かんだ。
緊張感のあった表情がみるみるうちに明るくなる。
何かを察したアイリはそんなティアに言葉を足した。

「悪いけど、見た目は普通だよ。例えば虹色の水晶みたいな見た目だったりは絶対にないから、あんまり期待しないでね。」

「え!?なんで考えてることがわかったの!??」

「・・・ユウは毎日退屈しなかっただろうね・・・
さ、ついたよ、ティア」

アイリが足を止めた店、そこは少し古そうな看板がかかっていてあまり目立たない。
アイリが店の中へと入っていき、ティアはその後ろをついていく。

「・・・ぁ、ここ、宝石店・・・」

「ご名答。こんにちわ!店主さん!今回も『あれ』頼んでいいかい?」

「おお、お久しぶりですな。『あれ』ならお客さんのためにとってあるよ。
しかしお客さんも物好きだ。あんなものほとんど価値もないガラクタなのに毎度毎度・・・」

アイリに声をかけられた背の低い初老の男性、どうやらこの店の店主のようだ。

「あー、はは。よく言われるよ。でもアタシは『あれ』が一番いいんだ。」

「まあ、お得意さんだし、こんなガラクタだ。少し安くしておくしおまけもしておくよ」

「ありがと!2㎏もあれば充分だよ」

「そうかそうか、いま用意するから待っていなさい。」

そういうと初老の店主は店の奥へ向かい、梱包材と袋と、黒めのゴツゴツした石を持ってきた。

「これが・・・『とっておき』?」

「そう、信じられないでしょ?でも、これが『とっておき』」

店主は手際よく石を袋に詰め終え、アイリは財布から適当な紙幣を数枚出して店主に渡す。

「さあ、いこうか、ティア。」

「うん。」

「まいどあり」

笑顔でアイリは店主に会釈をして、ティアと共に店を出た。

「ふーん、あれが・・・ただの石とは違うの?」

「うふふ、ティア、よーく見なよ」

首を傾げるティアに、アイリは袋から1つ石を取り出してティアへと手渡した。

「・・・ん?なにこれ。」

「気づいたかい?そう、使うのはそれだよ」
ティアが指差すそれは、石の表面にポツポツと顔を出している金色の鉱石。
どうやらアイリの目当てはそれらしい。

「その石、ある宝石の近くでたまに採れるらしいんだけど、見た目がそれだし、ほとんどみんな見向きもしないらしいんだよね」

タマジローが人間だった頃、アイリはタマジローと2人で興味本位で宝石店に入り、店の隅っこの木箱に積んであったそれを見かけた。
その頃鋼のブレンドに凝っていたアイリは店主を呼びつけてすぐさまそれを全て買い付けた。
家に帰ってからアイリは毎日毎日それの鉱石部分を取り出しては鋼に混ぜて、取り出しては鋼に混ぜてを繰り返したようだ。

「その鉱石ね、どの鋼の本にも載ってないんだ。だから有用性に気づくまでは大変だったけど、その鉱石は厳密に決まった分量の炭素と一緒に鋼に混ぜて、厳密な温度で焼き入れをすると異常なほどの粘り強さと硬さをもつんだ。おまけに腐食しにくくなる、夢のような鉱石だよ。」

「へぇー、なんでそんないいものなのに、鋼の本にも載ってないんだろ?」

「それが手にはいるのは宝石の採掘業界、尚且つガラクタ扱いでほとんど出回らない。ましてやそれが有用だと気づくのには大変な試行錯誤が必要。認知度が低いのは必然さね。ティア?このことは他の人にはナイショよん?」

「ほぇー・・・アイリ、すごい・・・」

帰り道、2人は鉱石と鋼について熱く語った。

「んふふふ、やっとついたぜー!」

額の汗をハンカチで拭いつつユウは閉められた工房のシャッターを開けた。
道に迷いつつも正確な地図と景色の記憶を参考にようやくたどり着いたようだ。

「おおおお!ユウーーー!!!やっぱりお前は頼りになるぜえ!!アイリのヤツ、ナチュラルにシャッター閉めやがるからどうしようかと思ってたんだ!帰ってきてくれてThank you!!ユウだけに!!!」

タマジローはぶんすかぶんすか尻尾を振り回し、首輪と後ろ足の三点で立ち、前足をふいふいと上下に振ってる。

「・・・・(犬だな、こりゃ)」

「首輪!首輪をはずしてくれ!」

「・・・タマジローさん・・・」

「あん?なんだよ」

ニヤニヤと不気味な笑顔でタマジローへと歩み寄ったユウはタマジローの前でしゃがみ込んだ。

「お手っ・・・!!」

「っな・・・・!?」

ユウから邪悪な右手が差し出された、流石のタマジローもこれは許せなかったようだ。

「っざけんな!」

「ふおうっ!?」

見事な頭突きがユウのみぞおちに決まり、その場にユウは倒れ込む。

「コノヤロー、人が獣だと思って調子に乗りやがって!俺はアイリにしかお手とちんちんはしねえ主義なんだよ!!」

「・・・うぐっ、お・・・お座りは・・・?」

「まぁ、お座りならきいてやらねえこともねえよ」

「クソっ・・・違いがわからねえ・・・」

「てめえが獣の気持ちを悟ろうなんざ十年早えよ」

「獣生活二年目の新参のクセによく言うぜ、百年以上生きた魔獣先輩に申し訳なくねーのか?タマジローさん。」

不満そうにタマジローの首輪を外したユウは本題へとうつる。

「・・・で?タマジローさん・・・これは依頼所のお姉さんの勘らしいけど・・・アイリさんになんか隠してねーか?」

「んあっ!?・・・なっ、なんのことやら・・・しーらんこった!」

(うっわぁ・・・なんだこの獣・・・ウソつくの下っ手!!)

ユウの突然の言葉にタマジローの取った態度はあまりにも不自然だった。
尻尾を何故か縦にゆーらゆーらと振り、その目は泳ぎ、鼻息がふんすっ、ふんすかっと変に不規則で妙な力の入ったものになっていた、おまけに前足が右へ左へとフラダンスをしている。

「それってさ、例えばビーストウォーリアのことについてだったりしね?」

「ふぁあん!!?んんんんな訳ねーだろ!?ちげーよ!」

「いや、もう重大な隠し事については否定しねーのかよ・・・それにその反応、図星か・・・」

「さささっきも言ったがてめえにゃ獣の気持ちはわからねえよ!そそそれなのになんで図星だと分かるんだ!?ふざけてっとビーストウォーリアすんぞ!?」

「はいはい・・・わりぃな、タマジローさん」

呆れ顔でタマジローにそう告げると、ユウはそっと首輪をタマジローの首へと戻した。

「あ!てめえ!!謀ったな!!?この裏切り者!首輪を外せ!・・・え?ちょ、待ってくれ!頼む!ユウ!ユウ!!
おねがいユウさんもう一匹で待つの嫌です首輪外してください!」

背後にジャラジャラと首輪の鎖が暴れる音と賑やかな獣の声を聞きながら、ユウはビーストウォーリアの秘密を暴くべく、1人タマジローの書斎へと向かった。
最後の最後『っニャオーーーーーン!!』という犬とも猫とも分別しがたい遠吠えがユウの足を一度止めた。
しかしユウは不敵な笑みを1つ浮かべ、一度は止めた足を再び動かし、そのまま書斎へと向かった。