• 04<
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • 31
  • >06

数時間も歩いたあたり、2人の会話には最早旅の不安や新しいことへの期待などは含まれていなかった。
いつもと同じやりとり、結局2人は一緒にいれさえすれば良くも悪くも変化に流されたりはしない様だ。

「そ・・・それで、それでねっ!100人目の村人が怪談を話し終えて!」

「うんっ!うんっ!」

両脇を締め、胸元で左手をギュッと握り、人差し指だけを立てた右手を真剣な顔の前へと持ってきて、ユウへ熱い視線を向けるティア。
腕組みをしながら上半身をティアの方へと傾け、生唾を飲み込みながら食い入るように話を聞くユウ。

「そ、その村人が緊張した面持ちで、左右の村人に首の動きだけで確認をとって、最後のろうそくを思いっきり吹き消した瞬間!!」

「どうした!?」

「とっ!突然小屋の明かりがフッと消えて!真っ暗になっちゃったんだって!!怖いよねー・・・!!」

きゃあああと左こぶしをブンブン振りながら話すティアに一度はユウも驚いたが、ユウは少し考えて話しはじめる。

「う、うわあああっ・・・って、あれ?その話なんか変じゃないか?」

「え!?変!?」

「いや、変っていうか・・・そりゃ最後のろうそく消したんなら、部屋が暗くなるのは当然じゃねえか?」

「・・・・・・」

「だけどな、ティア。ろうそくのくだりはきっとフェイクだ!その話の本当に恐ろしいところは・・・」

「お・・・恐ろしいところは・・・?」

「小屋だ・・・昔の村の話だろ・・・村人だって100人もいるかわからないのに百物語のために100人も集まるか?不自然だろう、それにな・・・『小屋』なんたぞ?大の大人が100人も入った上で座って!ろうそく100本もたてて!!一人一人話す度にろうそくの所に移動するほどの空間があるか!?・・・つまり」

「つ・・・つまり・・・?」

何かを察したティアはガタガタと震え始めた。

「100人のうちの少なくとも数十人は幽霊だ・・・!!」

「いやああああっ!!」

「いや。そうでなかったとしたらもっと恐ろしいぞ!本当に100人も入れる小屋があったんだとしたら、村人は何のためにそんなものを建てる!?必要がない・・・そんなものが無意味に建てられるわけがない・・・きっとその小屋には想像するに恐ろしいいわくが・・・むしろ!それ自体が小屋の幽霊だったのかもしれないぞ!!うわあああっ!!小屋怖え!!建物おっかねえ!!」

「いや。それは流石にないと思う。」

「・・・・・・」

「あ!ユウ!あれ!ペールタウンの入り口が見えてきたよ!!」

ティアが指さす彼方、大きな大きな木製のアーチが見える。

「ほーう!あれがペールタウンかぁ!俺達の街みたいなでっかい門はないんだな!」

「うん、街の規模はそんなに変わらないんだけどね!このあたりは魔物とか、危ない獣が出ないからがちがちに固める必要もないんだってさ!果物屋さんが言ってたよ!」

「ふーん、なんか、長いことあの街に住んでたからあれが普通なんだと思ってたよ。世界って広いんだな・・・」

「隣街なんだけどね・・・きっとユウの世界が狭いんだよ、私も人のこと言えないけどさ。」

「よっしゃ!街まで競争な!」

「そんな、競争って・・・子供じゃないんだか─────

「ウィンド=ターボ!!」

「うーわ、本気だ・・・」

ものすごい速さで豆粒になっていくユウ。
ティアは知っている、ユウの使う魔法に『ウィンド=ターボ』なんて存在していなかったことを、つまりあれは即席。付け焼き刃。おふざけ。

(ただ突風を後ろから吹かせて走ってるだけでしょう、その内足がもつれて・・・)

ティアの200メートルくらい先で黒豆が派手に跳ね回る。
結構な量の血飛沫も見えたようにティアは思った。

(ほーら転んだ・・・早速マナ水が一本無駄になったなぁ。)
スポンサーサイト


「まったく・・・」

ティアは額に手首を当ててうつむき、小走りで赤豆に駆け寄る。
そこに転がっていたユウだった赤いものにティアはマナ水を振りまく。

「ユウ!起きて!なにやってんのよ!?あれ家出てすぐやったら本当に5秒で野垂れ死んでたんじゃないの!?」

「う・・・あ、ティ、ア・・・俺の・・・遺言を・・・」

「ユウの最期の言葉は『うーあーティア俺のゆいごんをー』はいはい了解了解ー」

ティアはいそいそと辺りに散らばったユウのリュックの中身を拾い上げていく。

「ユウ、模範解答の中に『バカにつける薬』が入ってないよ!」

「うぅ・・・どうせティアが持ってくると思ったから置いてきただけだ。」

「と。バカは犯行について述べており、動機は未だ掴めておりません。」

「後悔している、でも反省はしていない」

「・・・逆の方が、今後のユウのためにもなると思うよ?
ほーら!早く!立った立った!」

ぱちぱちぱちというティアの手拍子を聞いてダラダラと立ち上がったユウは、その後ティアから生きていく上でいくつかの大切な話を聞かされた。
焦ると人はミスをするということ。
今回のユウの行動はそれに当たるということ。
急いでもミスをしてしまうと、急がず順調に進めた時よりもかえって時間がかかってしまうこともよくあるということ。
今回のユウの行動はそれに当たるということ。
地味に楽しそうだったから今度風力弱めでティアもウィンド=ターボしてみたいということ。
成功の秘訣は風力弱めにあったということ。
そしてそのまま2人で風力についての熱い議論に入ろうとした頃、2人はペールタウンの入り口にたどり着いた。

「うーん、風力の話はまた今度ね」

「そうだな、それより今は・・・」

「「ついたあーーー!!ペールタウンだぁ!!」」

「よ!よよよよし!ユウ!待っててね!いいいっ!今っカメラをね!」

「お、お、おう!二人で入口の前でだな!」

なぜか慌ててリュックを漁るティアと、それにつられてユウも慌てて服についた汚れを払う。
が、ユウはふと我に返った。

「うん?ティアよう。なんでそんなにテンションあがってんだ?俺らまだ街でて数時間だし、ペールタウンなんてお前は見飽きてんじゃねえの?それに、ただ歩いてきただけで別に苦労なんてしてないし、そんなに達成感あるか?」

「・・・・・・」

ティアは少し難しい顔をして数秒考え込み、取り出したカメラをゆっくりとまたリュックにしまった。

「そうだね、なんか、旅に出てきて最初の街だし、雰囲気に飲まれて取り乱しちゃったよ・・・さ、行こうか。」

「おう。まずは旅の人申請だったか?」

突然に落ち着きを取り戻した二人は、なんとなくまた風力の話を進めながらもティアの案内で依頼所へとたどり着いた。
十数分ほどで手続きは終わり、2人は晴れて旅の人となった。

「以上で説明はおわりです、ではお二人には旅の人の証明であるペンダントをお渡ししますね。お二人のご健闘とご無事をお祈りいたします。」

貼り付けたような綺麗な営業スマイルの受付嬢が、小さな箱を2つ持ってきて、それをユウとティアへとそれぞれ渡した。
それを開けた2人は顔を見合わせて渋い顔をする。

「なあ、ティア、なんかこれ、すごくショボくないか・・・?」

「うん、何だろうね、これ。ちゃっちいね。」

木でできたよくわからない形をした物に、申し訳程度の黒いヒモが通してあるそれが、旅の人である証らしい。
それをヒモから持ち上げたユウは、木製のなにかを指差しながら受付嬢の目をじっと見つめる。
それをみたティアは「ちょ、やめなよ」と小声でユウの肩を叩く。
そんな二人に受付嬢は、明らかに苦味成分を含んだ営業スマイルで少し説明を加えた。

「あ・・・えーとね?君たちはまだノーランクだから。そのペンダントは、ブロンズランクなら銅製、シルバーランクな銀製、ゴールド、プラチナと豪華になってくから・・・その、すみませんでした。」

営業受付嬢スタイルを一瞬くずした普通のお姉さんはなぜか最後にちょっと謝り、申し訳程度に小声でさらに付け加えた。

「そ、それに、プラチナランクのペンダントは一応一級装飾品位の価値はあるから、売れば家が三件くらいたつのよ?」

「え!?これ!?売ってもいいんですか!?」

意外な嬢の言葉に食いついたティアに、説明は続く。

「うーん、売ってもいいけどね、それ、無くしたらまたノーランクからやり直しなのよ。また作ったりはしてくれないから、プラチナランクを目指すなら途中で無くしたりはしないようにね?ゴールドランク寸前までいったのに、ペンダントを無くしたせいでノーランクからやり直しな旅の人の話も聞いたことあるし・・・」

「ふーん、なら何回でもプラチナペンダント売って、何軒でも家が立つな。」

「うふふ、そうね、でもね、それだけ実力がある旅の人ならそんなことしなくてもプラチナランクの依頼をこなすだけで充分よ!稀に一回で死ぬまで遊んで暮らせるほどの報酬が出るような依頼もあるからね!さぁ、若いの!頑張れ頑張れ!」

「うはは!そうだよ!そういう説明まってたんだよ!やる気出てきたな!ティア!」

「うん!」

「じゃあ、依頼受けるなら入り口の横の本棚を確認してね?そこに山のような膨大な量の依頼書が詰まったファイルが、山のように保管されてるからね。受けたい依頼が見つかったらそのページを開いてお姉さんのとこにもってくるのよ?わかった?若い二人。」

「うん!ありがとうお姉さん!ユウ!見に行ってみよ!?」

「おう、でも今日は依頼はなし。普通に観光な?」

「あら?残念ね?まあ、明日にでもまた気なさい、若いの。待ってるわよ?」

「ああ、色々どーもな、受付嬢さん!」

立ち上がったユウにつられてティアも立ち上がり、入り口の方へと二人は足を運んだ。

「ねぇ、ユウ?なんで今日は依頼受けないの?」

「なんでって、お前、自分のことだろ?」

「・・・?」

「うはは、天然だな!お前早朝からあんな荷物背負って歩いて、俺の家と自分の家往復して、街でてペールタウンまで歩いてきて疲れてないわけないだろ?」

「・・・あ」

「金なら心配すんな、遊んでても数日の宿代と食費分がまかなえるくらいは俺が持ってるし、とりあえず今日は休めよ。依頼をこなすにしても、俺一人だ。」

「だめだよ!ユウが依頼受けるなら私も行くよ!それに、お金なら私ももってるから半分こだよ!」

「まあ、その辺の話も後だな。ついてこられても困るし、やっぱり今日は依頼は完全にナシだ。適当な依頼に目星つけといて、今日は飯食ってさっさと宿に入ろうぜ?」

「うん・・・ありがと・・・」

じわわわと目を潤ませて震える声で礼を言うティアを横目に、ランクフリーと書いてある本棚の『討伐』という仕切りが挟まってる辺りから適当なファイルを一冊とったユウは、入り口正面の休憩スペースの大きな机の上でそれを開いた。

「ふーん、流石ランクフリー。雑魚ばっかだな。報酬もお小遣いだ。」

横からファイルを覗き込んだティアも言う。

「あー、確かにね。これなら1日に何個か簡単にこなせちゃうね!」

「そういえば、この○○頭討伐とか書いてる依頼ってどうやって成功の証明するんだろうな?」

「あー、確かにね・・・これなら旅の人は嘘つき放題だね」

「うふふ、それはね、一頭一頭から適当な部位を持って帰ってきてくれればそれでいいのよ?」

「うわっ!?びっくりさせんなよ!?てか!仕事仕事!」

驚くユウのティアとは逆隣にはいつの間にか先ほどの受付嬢がいた。

「ごめんごめん、休憩時間よ。若いの。」

「でもでも、そうやって部位をもってくるだけなら、一頭から色んな部位をもってくれば嘘の申告できちゃいませんか??」

受付嬢が急に立っていたことに関してはスルーしたティアはまた受付嬢に食いつく。
なんだかこの2人、姉妹みたいだなとユウは思った。

「あー、それなら大丈夫、特殊な技術で獲物の細胞を調べることができるからね。その細胞の情報から、それが同一個体かどうかは簡単に見分けがつくの。それがどの部位でもね?どんなに難しい部位検査でも、各依頼所には最低でも1人は鑑定のプロがいるから割と難なく依頼の成功と失敗はバレるわよ?」

「・・・・・・」

小難しい顔をして固まるティア。

「みんな違ってみんないいってことだよ。難しく考えるな」

ティアはブンブンと二回頷き、受付嬢へ頭を下げた。

「あー、それと、若いの。ランクフリーのファイルを見てるなら気をつけて欲しいことがあるの。」

「気をつけること?」

「うん、ちょっとファイルを貸してごらんなさい?」

受付嬢にいわれるままにユウはファイルを差し出すと。
パラパラとページをめくりながら「ちがう。これもちがう。」と受付嬢がつぶやき始める。
そして「あっ、」と小さな声を漏らして、あるページを開いたままユウの前へとファイルを戻した。

「これ、みてね。」

そのページは特に他のページとは変わりがない、普通の依頼書が入っている。

「あー?なんだ、普通の依頼書じゃん」

「なに?どうしたの?・・・え!?ちょ!ユウ!この依頼!!報酬!!」

「報酬?・・・はあ!?6200000F!!??なんでランクフリーの依頼にこんな報酬つくんだよ!?」

その依頼書には桁違いの報酬が書かれていた。
そして依頼内容は「銀魚竜の討伐、且つそれにより完成する魔法の発動」の文字。
慌てる2人に受付嬢はお得意の説明を始める。

「そう、すごいでしょ?報酬。
でも問題は依頼内容なの、依頼のランクっていうのはね、基本的には依頼所と旅の人協会で危険度とか難易度とか、希少度から推察して決めてるの。それももちろん適当じゃなくて、膨大な資料や研究者、経験者との相談の上でね。
それでもどうしてもランクを決めかねる依頼も中には存在しているの。
資料に存在していなかったり、内容が不明瞭だったりでね。実際『銀魚竜』なんてどの生物図鑑にも載ってないのよ。
そういうのは全部まとめてランクフリーに入れられててね、『ブラックランク』と呼ばれているの。
こればっかりは単純な難度の住み分けができないからなんとも言えないのよ。
プラチナランクの旅の人が何年探しても見つからない謎の依頼品が、ノーランクの旅の人がたまたま拾ってたりとか、ある呪いを解いてほしいという依頼では魔法を極めた旅の人でもどうしても解けない呪いだったんだけど、山奥の巫女の少女が五分で解いてしまったりだとか。
単純に知識や経験、強さだけでは解決しないせいで、下手するとプラチナランクよりも難しい依頼もブラックランクには少なくないの。だから、ランクフリーだからといって、ロクに内容もみないで適当にバンバン依頼受けないようにね?ブラックランクに限らず、身の丈に合わない依頼は命を捨てるようなものと言っても過言ではないの。」

「ほえー・・・知らなかったら真っ先に飛びつくよな・・・こんな依頼・・・」

「えっ・・・ユウ、そこは怪しいと思おうよ・・・」

「まあ、それだけ知っておけばランクフリーでは怖いこともないから、明日から、気をつけて仕事するのよ?」

こくりと小さく頷いた2人は一旦依頼所を後にすることにした。

「ブラックランクねぇ・・・よくよく話聞いたら、そんなもん受ける奴いねえよな。でもあの報酬は魅力的だったよなぁ・・・」

「銀魚竜を倒したら完成する魔法もあったみたいだしね!ユウは正直気になってたんじゃない?」

依頼所をでて、街の商業区へと足を運んだ2人。
ブラックランクについて素直な感想を述べるユウ、真っ赤なりんごを笑顔で頬張りながら、ユウの話に耳を傾けるティア。
りんごは途中で果物屋のおっさんと話してたティアが別れ際になぜかもらってきてたものだ。

「ああ、そうだ、ちょっとした買い物があるんだ。すぐに出てくるから、俺が買い物してる間にりんご食っちゃえよ。」

「あー、うん、わかった。入り口から見えるところにいるよ。」

ユウが薬屋の看板を指差しながら方向転換をする。
薬屋の中へと消えていくユウにりんごを咀嚼しつつ、ティアはひらひらと手を振った。

────約10分後────

紙袋を小脇に抱えたほくほく顔のユウが薬屋から出てくる。
そしてユウの瞳には道の端でしゃがみこむティアの背中が映った。

「おーい!ティアー!待たせて悪か────!?」

「ああー!ユウー!みてみて!この生物何だと思うー?」

「・・・」

きゃあああと笑顔で振り向いたティアの手元に視線を向けたユウは絶句する。
ティアが頭を撫でている生物。

(・・・えーと、なんだこれ・・・)

『青っぽいグレーの毛をした、猫と犬を、足して2で割ったようななにか』としか言いようのない生物。

「んーよしよしよし、可愛いなぁお前ー!ユウも触ってみなよ!すごく人懐っこいよ!」

「・・・(なんだこの尻尾。まんま猫の尻尾に見えるのにブンブン振ってやがる。犬?)」

「・・・ユウ?」

「ん?おお、悪い悪い。そうだな、ほーら、こっちだぞー」

ティアからの呼びかけに「ハッ!」としたユウはその生物の前にしゃがみこんで、先ほどの受付嬢のような笑顔でそれに呼びかける。

「お?おお??あらららら!」

ユウが差し伸べた手に、その生物は「撫でてくれ」と言わんばかりに頭をこすりつけた。

「・・・や!やべえ、ティア!コイツかわいい!」

「うーん!でしょでしょー?」

キラキラした眼差しでティアをみて、子供のようにユウははしゃいでいた。
するとその生き物は「ウー、ニャフ!ニャフ!」と、猫と犬を足して2で割ったような鳴き声をあげながらどんどんユウの身体に自身の身体をこすりつけていく。

「あっはっはっは、やめろよー、あっはっはっは」

「えー!ユウずるいよ!私もさわりたい!」
受付嬢スマイルから眩しい笑顔へと表情が変わったユウは最早その生物にされるがままになっていた。
その生物は身体をこすりつけながらユウの背後に回ると、ドスッとユウの背中に覆い被さった。

「うわあー、こらこら、怒るぞー?」

「ねえ、ユウ!私にも────

ティアがユウになにかを言おうとしたとき、ユウは背中、むしろ尻に違和感を感じた。

トンっ

「あはは・・・ん?」

トントントン

「あ・・・」

トントントントントントントントン

「ああああーーーっっっ!!」

「ユウうぅうぅぅう~~~~!!!!?」

「ちょっ!まはぁ!?ティア!ティアあぁあああっ!!!」

ティアは絶叫し、ユウは「うぐうぐ」と変な声を上げる。
なんとその生物は、ユウに向かって交尾を始めたのだ。

「やめてあげて!!ユウは!確かにユウはホモだけど!好きなのは人間だけだよう!」

「うっぐ、うう、うっうっうっ、ティアぁ・・・助けっ・・・」

抵抗する気力もなく、ユウはしゃがんだまま両手を地面につき、ただただ声を漏らすだけだった。

ユウの目が死に始めて、流石にその生物をユウから引きはがそうかとティアがわきわきと構えた瞬間

「オイコラ!『タマジロー!!』やめなさいっ!」

突然ハスキーな女性の声が響いた。
その声を聞くと、その生物はしぶしぶユウから離れて声の主の元へと歩いて行った。

「はぁ、ごめんなさい。あんたら、大丈夫だったかい?」

「え?えぇ、私は特には・・・」

そこに立っていたTシャツと作業着、ポニーテール姿の若い女性(若いといってもユウとティアより10前後年上にみえる)はティアの様子を確認して、困った顔をしながらそっとユウを指差す。

「あー・・・」

芋虫のようにうずくまり、「むう!・・・むっふ!!」と押し殺すような声を上げ、時折ビクビク痙攣するユウ。ちょっと泣いているのかもしれない。

「いえ、あの。ユウは・・・経験がなかったことで少し戸惑っているだけだと思います、逆にあんまり気にしないであげてください。」

「い、いや、あんたらみたいな若いのが同性の獣と経験あったら逆に気にかけるよ・・・経験なくてよかったよ」

「ほ、ほーら、ユウ?リンゴの芯あげるから、元気だして?」

「・・・むう!むふっ!」

「・・・あー、はは。ユウ~・・・」

なんだか可哀想になってきたティアはとりあえずユウはそっとしておくことにして話を逸らす。

「その子!可愛いですよね!『タマジロー』っていうんですか?名前まで猫と犬を足して2で割ったような、言い得て妙なピッタリな名前ですね!」

あっはは・・・と苦笑いでその女性に語りかける。

「ああ、そうでしょ?アタシも偶然過ぎて驚いたよ」

「偶然?」

「うん、コイツの名前、見た目からつけたんじゃなくて・・・その、本名なんだよ・・・」

「へ?本名?」

「あぁ、いゃ、なんていうか・・・信じてくれるかなぁ・・・?あの、コイツね・・・アタシの・・・『彼氏』なんだよ・・・」

「っな!?・・・」

呆然と固まるティアに対して、「勘違いされないように」とその女性は付け加えた。

「コイツ、元は人間なんだよ。二年前、自分で研究してた魔法で失敗したらしくてね・・・アタシが買い物から帰ってきたら、タマジローの部屋でコイツが・・・」

「・・・魔法?」

なにかで濡れてふやけた紙袋を手に、黒い芋虫は魔法という言葉に反応してむくりと起き上がった。
真っ赤なその顔をみて、ティアは少しいたたまれない気持ちになった。

「あー、ごめんね、大丈夫?・・・って!あんた!その格好!ひょっとして魔法使いかい!?」

「おう・・・そうだよ・・・」

ユウの言葉を聞いた女性は突然明るい表情になり、ユウをまくしたてる。

「詳しいのかい!?あんた!魔法には詳しかったりするのかい!?さらにいうと!旅の人だったりしたりしないかい!?いや!そうじゃなくても金はある!アタシの話を聞いてくれないかい!?」

「んー?いや、まぁ確かにさっき旅の人にもなったな。多分魔法も詳しいし、話聞くだけならな・・・うん」

ユウがゆっくりティアの方をみると、ティアも首を縦に振っている。
ぱああああっ!とその女性の表情はみるみるうちに明るさを増していき、嬉しそうな声で言った。

「そ!それなら!今からアタシのウチに来てよ!お茶もだすから!ゆっくり相談に乗ってくれない!?」

2人は顔を再度合わせ、頷いた。
三人と一匹の影は、商業区の奥へと移動していく。

しばらく商業区を進んだ三人と一匹、そして女性は雑貨屋の入り口で足を止めた。

「ごめん、雑貨屋さん、今戻ったよ。アタシの店、なんか変わったことあった?」

「おおう!別にかまわねーよ!お互い様だろう?
変わったことといったらでっけえハンマーと折れた大剣背負った男2人が店の入り口でたむろしてたぜ?
店主は今留守だぞっつったら帰ってったよ!」

「大きいハンマーと、折れた大剣ねぇ・・・」

女性は作業着のポケットからクシャクシャのメモ用紙を取り出して、それを数秒眺めた。

「ああ、大丈夫だ、お得意さんじゃあないね。たまたま店に寄っただけか、まぁ、逃しちゃったのは痛いけどね。ありがと!
さぁ、こっちだよ!」

女性は雑貨屋の店主に礼を言うと、ユウとティアの方へと向き直り、雑貨屋の向かいの店を指差した。

「ほーう、・・・武器工房か!」

「みて!ユウ!スッゴい大きい剣が置いてる!」

「どうだい!?全部アタシが作ったんだ!業物の勢揃いだよ!さ!入った入った!」

女性はタマジローを工房の端の小屋へと押し込み、奥へと進んだ。
2人は女性に連れられるがままに、店の奥の扉へと入っていく。
入った扉のすぐ前には小さな段差があり、その前で女性は靴を脱いで奥へと進んだ。

「ああ、あんたらは右手にみえるリビングで座ってて!アタシ、お茶の用意するよ!」

奥から女性の声が聞こえ、ユウとティアは靴を脱いで通路の右手のドアの開いている部屋へと足を運んだ。

「「お、おお、、、」」

高そうな絨毯、窓際のつぼ、無駄に豪華なカーテン、ふかふかのソファ。
一歩部屋に入った段階でその女性がそこそこの生活をしているのが見て取れた。
ユウとティアは、とりあえず真ん中に花瓶がおいてある大きめの食卓の椅子に座った。
しばらくして女性が三人分のお茶をもってリビングへとはいってきた。

「いやあ、ごめんね!ほい!お茶」

「「ありがとうございます」」

2人の前にティーカップが差し出され、そこにお茶が注がれる。
そのお茶を注視していたティアは固まった。

「だっ!えっ!?っちょ!これ!?いいんですか!!」

「あら?女の子のあんた、わかるのかい?」

「え?いや、だって、香り!こんなの!わからない方が・・・」

「あん?どうしたい、ティア。」

二人の様子を訝しげに眺めたユウはティアに状況説明を求める。
それに対してティアは「どうせユウにはわからないだろうけど」と前置きして、簡単に説明した。

「これ、ものすう~~~っごく!高いお茶。」

「うおうっ!?マジかっ!?」

ガタッと音をたてて椅子ごとユウは驚いた。

「あはは!あんたら面白いね!紹介が遅れて悪かった!アタシは『アイリ』!武器職人だよ!」

2人をみて笑ったアイリは、簡単に自己紹介を済ませた。
それに続いてユウとティアも自己紹介を済ませた。
アイリは気さくで明るく、物凄く話しやすい人物だったゆえに、ユウとティアはお得意の無駄話を始めてしまった。

そんな無駄話が数時間続き、辺りが暗くなってきた頃。

「っでねー、それの味がまたえずくほどに・・・流石にあの時はタマジローを恨んだね・・・幸せだったけど。」

「うんっ!うんうん!!」

「おい、アイリさん・・・ちょっと生々しすぎねーか?」

「なんだ、ユウは意外にウブだね!ティアとはまだなのかい?」

「いやっ!そんなんじゃ・・・って!ティア!お前もブンブン頷いてるんじゃねえ!」

「そうなんですよ!ユウったらウブで男好きだから、さっきタマジローさんに掘られただけで・・・って、そういえばここに来たのって──────

ティアがアイリの家にいる本来の目的を思い出した途端、工房の方から低めの美声があがる。

「うおおおおい!アイリ!!今日は何月何日だ!?」

「っは!タマジローが『戻ってきた!』」

ガタッと立ち上がったアイリはバタバタと工房へと走って行った。
しばらくして部屋へと戻ってきたアイリの横には、先ほどの動物特有の「なにをするのかわからない感じ」が抜けきった、タマジローがいた。
そしてタマジローは静かに口を開いた。

「アイリから話は聞いた。丁度よく『戻ってこれて』良かったぜ。アイリはすぐに無駄話を始めるからな、俺から説明するよ。」

「「しゃっ!?しゃべったあああ!!?」」

その後のアイリとタマジローの説明をまとめると、どうやらタマジローは姿はそのままだが、月に数回程度正気を取り戻す時期があるらしい。
一度正気を取り戻すと短いと数分、長いと数週間はタマジローがタマジローでいれるようで、アイリとタマジローの2人はこれを『戻ってくる』と表現している。
そしてこの『戻ってくる』条件と状況がよくわからないせいでタマジローはなかなか元に戻れないらしい。
武器職人なアイリは魔法のことなどサッパリで、タマジローを元に戻そうとヒントを得てもチンプンカンプンである。
したがって自然とタマジローを元に戻すには魔法に詳しい旅の人へとお願いすることが一番の近道になるが、肝心のタマジローがいざ旅の人と向かい合ったときに『戻ってきていない』と無能で、どんなにアイリが『戻ってくる』ことに関して説明してもチンプンカンプンで、それがいつになるかもわからない、そんなんだから他の旅の人は依頼を受けてくれない。
もちろん内容と状況が状況なだけにアイリの依頼はブラックランクだったため、真っ当な旅の人とコンタクトがとれること自体珍しかったようだ。
そのままズルズルと二年も引っ張ってしまい、諦めようかと思っていたころにユウとティアが現れたとのこと。
そんな2人に頼みたいことはズバリ『タマジローを元の姿に戻すこと』だそうだ。

「ユウとかいったか?さっき旅の人になったばかりらしいが、魔法使いとしての格はどうなんだ?」

「・・・一晩で街の近くの魔物を殲滅するくらいかな・・・」

「あっはっは、なにそれユウ!新しいネタ?」

ティアは、あの日の夜のユウの行動を知らない。

「はっはっは!そりゃ頼もしいな!魔物ってもピンキリだが、みた感じお前はなかなかの実力派らしい!そしてそっちの・・・ティアちゃんか?君も強いだろ!」

「ほんと!?タマジロー、みただけでわかるの!?」

「ああ、というかアイリは2人がやり手なのに気づかずにつれてきたのか・・・?」

「アタシはただの武器職人だもの、そんなのわかんないってば。」

「あっはっは!流石俺の愛する女だな!たまたまでこんだけの旅の人つれてきたのか!」

「アンタがユウのこと襲ってたから助けただけだよ。ったく、浮気者。」

「・・・なんのことだかよくわからねーんだが・・・」

なにはともあれ、一気に依頼の内容は明かされ、タマジローが『戻ってきた』ことで話は動き始める。

「内容はさっき話した通り、それを踏まえた上でお二人さんはアイリ、もとい俺の依頼を受けてくれるかい?」

「まぁ・・・乗りかかった船だしな、一応受けようとも思うけど・・・魔法の解き方とかは?方法はわかってるんかな?」

「魔法のことは少ししか分かりませんけど、私にも何かお手伝いできることは?」

「あー、そうだな。方法はある。しかし正直俺が戻ってきてるところで、結局数日はかかるだろう。ウチに泊まり込んでもらいたい。頼み込む身だ、もちろん金も食事も俺らでもつ。報酬も出すし、ティアちゃんにも手伝ってもらおうか。」

「なるほど、報酬は?」

「・・・アイリ、どうする?」

「え!?ちょ、アタシ!?・・・そうだなぁ、お金はちゃんと出すよ。でもそれだけじゃ申し訳ないか、2人から数日も時間を奪うわけだし・・・そうだ!ティア!ちょっと身体と剣、見せてくれないかな?」

「え!?あ、はい。」

ティアは立ち上がり、アイリの元へ向かった。

「手・・・みせて」

「・・・っ!あの・・・手は・・・」

「・・・あぁ、わかってるよ、女の子だもんね。でも、剣士なら仕方ないことだし、アタシだって・・・ね?」

アイリはニッコリ笑ってティアに自分の両手をみせた。
その両手はボロボロで、手のひらは皮膚が厚くなってでこぼこになり所々生傷もあった。

「・・・っ!?アイリさん・・・」

何かを感じたティアはアイリに自分も手を見せる。

「・・・うん、いい手だ、相当努力してるね」

「・・・はい」

少し嬉しそうに微笑むティアに「ちょっと失礼」とアイリはポケットからメジャーを取り出し、ティアの手に当てる。
続けてティアの腕、つま先から頭、肩幅と色んな箇所を計っていく。
一通りティアの身体をみた後、アイリはティアの剣も細かく寸法を見ていった。

「ふむ・・・じゃあ、ティア、ちょっと剣構えてよ。」

「はい。」

剣を構えたティアをアイリはまじまじと見つめる、そしてティアの剣の刃を色んな所から押していく。

「一番重く感じる所と、一番軽く感じる所教えて?」

「はぁ・・・」

しばらく2人は「ここ?」「そこ」なやりとりをして、それが終わるとアイリは大きく頷き、メモ用紙にペンを走らせる。

「ふむふむ、報酬は決まりだね。ティアの剣、好みもあるだろうし使い慣れてるかもしれないから言いにくいけど、ずいぶん身体に合ってないね!」

「えっ!?そうなんですか!?」

「うん、細かい説明は省くけどね、どうもその剣だと動きに遅れが出そうだ。あと、切りかかるときに隙も大きくなるでしょう。報酬は『ティアの剣』だ、オーダーメイドでティアに良く合う剣をアタシが作ろう!」

「え!?ほんと!?すごい!!楽しみです!」

両手を胸の前で合わせてはしゃぐティアをみて、ユウは小さくぼやいた。

「おお、羨ましいなティア・・・」

「そうか、確かに不公平だな・・・よし!ユウには俺が秘密裏に完成させた魔法をくれてやる!」

「おお!ほんとか!?タマジローさん!?」

「ああ、それで俺の体を元に戻してもらえるなら全然安いからな!期待してるぜ!」

「おお、至れり尽くせり。逆に申し訳ない!ティア!タマジローさんのこと、絶対元にもどすぞ!」

「うん!頑張ろうね!ユウ!」

報酬が決まり、ユウとティアもやる気を出したところで、三人と一匹はとりあえず夕食の支度に入ることにした。