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ひたすら考えつつ、ユウの攻撃を避けつつ、ティアはぼんやり今までのことを思い出していた。
ひさひぶりの『けっとう』だが、いつもの手合わせと変わらない、しかしもしかしたらこれが二人で過ごす最後の時間になるかもしれない。
信じられないが、あと数分で二人の八年が終わりを告げるかもしれない。
夢を見ているような、今が現実なのかどうかわからない。
そんな気持ちでユウの攻撃を避け続けるティアはユウの声でハッとする。

「フロスト=メテオール!!」

上空より眼前に迫る氷塊。
驚いたティアは『クセ』で後ろへと跳ぶ。

「かかったな!」

ニヤリと笑うユウをみて、ティアの身体に一瞬の緊張が走る、
そしてその緊張がさらにユウの罠を成功へと近づけた。
あれほどまでに激しかった『けっとう』の最後は実に呆気のないものであった。

氷の隕石を避けたあと、着地の瞬間─────ティアは足を滑らせた─────

突然なくなる地面、視界に映る満点の星空と満月、水のたまったバケツに濡れ雑巾を投げ入れるような音、ぬるくて気持ち悪い水の感覚、鼻を突く泥のにおい。
一瞬なにが起きたか理解出来なかったティア。

反射的に起きあがろうと地面に手をついた瞬間、ユウの声が草原に響いた

「───フリーズっ!!」

あっという間に水たまりは凍りつき、ティアは身動きがとれなくなる。

「そんなっ・・・!?」

「氷の魔法は、俺なりのヒントだったんだけどな。氷に要注意ってか」

ぐるぐる右腕をまわしながら、ゆっくりとティアへと歩み寄るユウ。

(そっか!フロスト=ウォール・・・!!)

ティアは『けっとう』の最初の場面を思い出す。
ユウが数枚張った氷の壁、そしてそれの壊しきれなかった部分が溶けてできた水たまり・・・。

「さぁて」

「・・・!!」

眼前まで迫るユウ。
このままでは敗北しか道は残されていない、ティアはあわてておろおろするが動けないのだからどうしようもない。
そして杖を振り上げたユウは一際大きい風切り音とともにそれをティアへと振り下ろす。
『ビクッ』と肩をすくませて目をギュッと閉じたティアにユウの声だけが聞こえた。


「チェックメイト。わりいなティア、俺の勝ちだ。」

とたんに凍った水たまりは溶けて、起きあがろうとしていたティアの身体を支えていた左手は抵抗を失い滑った。
またしても先ほどと同じ音をたてて、ティアは再び背面に嫌な水の感覚を覚える。

しかし、ティアは起きあがろうとしない。
そのまま天へとむけられた左腕をそっと自分の瞼の上へと落とす。

ユウが振り向いた音が聞こえる。
そして、さっきよりも少しだけ聞き取りにくくなったユウの声も聞こえる。

「明日から、俺はもうここには来ない。長い付き合いだったな。・・・元気でな。」

そして、ユウが離れていく足音が聞こえる。

「・・・ってよ・・・」

足音はとまらない。

「ユウ・・・っちゃ・・・めだよ・・・」

起きあがりたいのになぜか起き上がれない。

「・・・ぇって・・・きてょぅ・・・」

大声しか出なかった。

「う、、、うぐっ!うわああああああああん!!!ユウ~~~~~~~!!!!!いかないでよおおお!!!」

ユウの服に落ちる数滴の雫は、降り始めた雨のようにぽろぽろぽろぽろと増えてゆく。

「わだしをまたっ!!えぐっ!ひとりにしないでええええええ!!!!!」

いつまでも雨が止まなかった、ある晴れた、満月がきれいだった夜のこと。
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静かな夜の街
大方の家は食事を済ませており、食後の余韻を楽しむ声が、ちらほらと周りの家から漏れる。
そしてそんな家々の中で、一件だけ雰囲気の違う家があった。


「・・・ただいま・・・」

「おお、お帰り、ティ・・・どうしたんだティア!?」

ティアの家だ。
それはティアの父親が慌てるのも不思議ではない、いつもは朝から剣士服でユウとの手合わせに向かう娘が突然夕方から出発すると言い始め、買ったくせに全く着ていなかったフリフリな洋服を着て、家を出る数時間前からプルプル震える慣れない手つきで化粧をし、顔を洗いに行き、また化粧をしては顔を洗ってを繰り返し、やっと出発して帰ってきたかと思えばこれだ。
玄関先に立っていた娘は有り得ない姿をしていた。
新しい服にはさらに新しい泥模様が入り、白くてかわいらしかったはずが前衛的で個性的な牛柄になっていて、髪の毛も泥のワックスでパンクでファンキーな風貌に。
顔なんてもう、目からいくつかの黒い線が頬にでていたり、逆に白い線も目から顎まで伸びていたり、、、口紅が右半分だけ落ちているわりに左半分が頬まで延びていたり・・・もはや父の知る娘はそこにいなかった。

「なにが・・・あったんだ・・・?」
当然の疑問である。

「うっ・・・ユウが・・・ユウが・・・っ!!

いなぐなっぢゃっだよおおおお!!うわああああああん!!!!」


子供のように泣きじゃくる娘、もちろん父にはそれだけでは伝わらない。

(ユウくんがいなくなった?魔物にでも襲われて・・・いや、ティアがユウくんを見捨てるわけがない、、、きっと見つけるまで探し続けるはずだが・・・はて?)

「落ち着きなさい、ティア、ゆっくりでいいから、少しずつ話してごらん?」
優しく促す父親に対し、またティアは大きな泣き声をあげ、えぐつきながらメソメソことの顛末を語る。

支離滅裂で伝わりにくかったが、なんとなくは父親にも伝わったらしい。
だがティアの父はどうしても腑に落ちないことがあった、娘の行動についてだ。
そのことに関して娘に問おうかとも思ったが、ティアがもう泣くだけで精一杯に見えたため、落ち着いてから聞くことにした。

「そうか・・・そんなことが・・・今日はもうお風呂に入って休みなさい、明日の朝食も私が作ろう。おこしに行くまで、ゆっくり寝てなさい」

こくこくと頷くティアを確認し、父親はティアの分の食事だけ片付け始めた。

それからしくしくという泣き声はリビングを出て行き、廊下を移動していき、風呂場でしばらく止まり、シャカシャカしくしくという音を経て、深夜におさまった。
それを確認してから、その日はティアの父も床についた。

次の日の朝

ティアよりずっと早起きをして、慣れない手つきで食事の用意をしていたティアの父の耳に、モーニングしくしくが聞こえ始める。
そのしくしくはトイレに向かい、洗面所で止まり、シャカシャカしくしく、バシャバシャえぐえぐと鳴ったあとにリビングへ向かってきた。

「うっ、うぐっ、おどうざ、おはょぅ・・・ぐすっ」

ティアは、全く落ち着いていなかった。

「あ、、、あぁ、おはよう、さあ、食べなさい」

「うん゛、ごべんなざい、ズズっ」

(これだけ泣いても収まらないのか・・・よほどショックだったんだろう・・・)

「もくもく、しくしく」

「もぐもぐ」

「こくん、ぐすん、しくしく」

「ごくん」

「こくこく、しく、もぐもぐ、えぐっ」

「もぐも・・・ごくり。・・・ティ、ティア、忙しそうだし、泣くか食べるかどっちかにしたほうがいいんじゃないのかい?体にも、心にも多分良くないだろう・・・」

「・・・うぐっ、うん。」

父の話に耳を向けたティアは、ちぎっていたパンをお皿にそっと置いて

「うっ!うぅ・・・びえええええええん!ユウ~~~~~!!!!!」

泣いた。


これは埒があかない、娘は多分、落ち着くことはない。
そう思ったティアの父は、昨晩からずっと疑問に思っていたことを質問にしてティアに投げかけた。

「なぁ、ティア、昨日はどういう状況だったのかは私はみていないからわからないが・・・その、、、

ユウくんについて行くという選択肢は・・・なかったのかい?」

「うわぁあああぁぁああ!・・・え?」

「ユウくんは『絶対1人で旅に出る』とは言っていなかったのだろう?」

「・・・」

こくりと頷くと、ティアは皿に置いたパンを再び手にとり、もくもくもくもく食べ始めた。
その時のティアの顔の赤さはどうみても泣きすぎだけが理由ではなかった。

「う・・・ぐぅ、流石に、疲れた・・・帰って寝るか・・・」

ティアが朝食を終えて、旅の支度をいそいそと始めたころ、ユウは街の門をくぐった。
いつもの門ではなく、衛兵長側の門をだが・・・
街はまだ穏やかな朝支度状態で、ポツポツと仕事の支度を始める人や、家の前を掃除する人なんかが見て取れる。

ティアとの『けっとう』のあと、どうしようもないやるせなさと妙な焦燥感に駆られたユウは、街についたあと家には帰らず、そのまま街の逆の門を抜けた。
満月の夜、魔物が特に狂暴になるという迷信を知ってか知らずか、ユウは無謀にもその傷ついた体で魔物狩りを始めたのだ。
────なにか、ある種の爆発した感情のすべてを魔物へとぶつけるかのように。

一晩中魔物と男の雄叫びが響き続け、辺りが明るくなるころには微妙にすっきりしない雰囲気のユウと、かなりの数の『魔物だったもの』の姿が草原にあった。
それからユウは空腹なのか傷なのか、腹部をさすりながらよろよろとゆっくり街へと戻り今にいたる。

「そうだ・・・マナ水、買って帰らないと。地味に傷がいてぇ・・・めんどくせぇな・・・」

ため息をつきながら自業自得の念に苛まれたユウは、ポケットの小銭を確認する。


「マナ水一本300F・・・手持ちが534Fか・・・一本しか買えねーな、一本で治りきるのか・・・?」

大体マナ水一本あたりで1日のティアとの手合わせ分くらいの傷は治る。
しかし今回は魔物狩りでも傷を負っている。

「・・・まあ、いいか。とりあえず一本で我慢して、明日の旅の買い出しの時にでもついでにもう一本飲めば治るだろ。」

あまり深く考えずにユウは薬屋の方へと歩き始める。
朝日が眩しくて綺麗な街並み、そんな見慣れた景色とは数日後には別れを告げる。なんだか寂しいようなそわそわするような不思議な感覚を感じつつ歩き続ける。
一本のマナ水を煽りつつ薬屋から出てくる時には全てが嘘のようにすらユウは感じていた。
家に帰ったユウはシャワーを済ませてすぐさまベッドに倒れ込んで目を閉じた。
旅の準備は起きてから始めることにしてとりあえず考えることを止めた。

考えることを止めた途端ティアのことで頭がいっぱいになり、そのままユウは深い眠りにつく。
なんだかんだ言いつつも、やはりユウもティアとの日常に安心感を覚えていたようだ。


────旅立ちの朝────

結局『けっとう』の翌日は夕方に目を覚まし、食事だけ済ませてまた眠ったユウ。
『けっとう』から2日後は買い出しと準備だけで半日を潰してしまった上に、必要なものもよくわからなかったせいで中途半端な準備のまま旅立ちの時が来てしまった。
昨晩はティアとのことを思い出しているうちに眠ってしまったらしい。
読んでない魔導書は置いていくことにしたようだ。

「朝・・・か?」

むくりと起き上がったユウは時計に目をやる。
「4:46・・・おお、ちょうどいいじゃねえか、6時には出発できるかな」

寝ぼけ眼で洗面所へ向かい、顔を洗って歯を磨いている時、ユウの母は起きてきた。

「あら、あんた、今日は早いのね」

「まーな。あ、飯いらね、昼頃には隣町につくだろうし、その時食うよ」

「そうかい、いよいよだねぇ。心配だけど、あんたももう立派な男なんだしねぇ・・・カーチャンはもう何も言わないよ!」

笑いながら言うユウの母の目尻には少しだけ涙のようなものが見えた。
それに気づいたユウは慌てて顔をバシャバシャと洗い始めた、先ほども顔を洗った上に、今は歯磨きをしていた最中だったというのに。
うがいもそこそこに、ユウはタオルで顔をゴシゴシふきながら母親に話す。

「あぁ、いよいよだよ。世話になったよな。ありがとな。」

「バカだねぇ、ほんとにバカなトーチャンそっくりになってきたねぇ。
・・・そうだ、あんた!ティアちゃんはどうしたの!?」

「ああ、もうお別れならしてきたよ、、、多分もう会うこともないだろう。」

「あああああ!っとに!あんたはバカだねぇ!あんなにいい子・・・もういないよ!
ティアちゃんとあんたはいずれはトーチャンとカーチャンみたいになると思ってたのに残念で仕方ないよ!このバカ息子!」

「そ!そんなんじゃねーよ!いいから飯の準備はやくしないと親父おきてくるぞ!?」

「あ、そーねー、おとーさん起こしてこないと」

「ったくっ!」

いつもと変わりない家の様子に少し安心したユウは準備の追いこみにかかった。
起きてきた父親とも母親と同じ様なやりとりをする。
台所からはせわしない調理音と「あれはもったのか」や「これをもっていけ」などといった母親の声。
それを横目に食卓で新聞を広げ、コーヒーを啜る父親。

変なお別れムードを出されるより、ユウはよっぽど気が楽だった。
準備は着々と進み、ユウの母親が味噌汁の味見を始めた頃、その時はきた。

「よっし、そろそろだな!じゃあな!親父、お袋!その内帰ってくるかもしれねーし元気でいろよな!」

「おう、行くのか!ユウ。死んだら手紙で知らせろよな!」

「ユウ、もうすぐご飯できるけど、ほんとに食べないのかい?」

ユウのことばに両親はそれぞれの反応を見せる。
それらに適当に2、3言返してユウが勢いよく家の扉を開けた瞬間───

「っまちな───あっ!!」

数十センチほどあけたところでドアに固くて質量のあるものが当たった。
それと同時に少女の声が聞こえた気がした。
おし黙って少し固まったユウは静かにゆっくりとドアを一旦閉める、そして真顔でドアを指差しながら両親の方を見る。
フルフルと首を左右に振る母親、コーヒーをもったままドアを凝視する父親。
どうやら2人とも心当たりはないらしい。

ドアの向こうで数歩下がる足音がかすかに聞こえた。
その音を確認し、ユウはもう一度ゆっくりとドアを開けていく。

そしてドアがまた数十センチ開いたとき、確かに少女の声が響いた。

「待ちなさい!!」

テイク2。
そこに立っていたのは両拳を握りしめ、真っ赤なおでこで全身をプルプルふるわせるティアだった。

「勝ち逃げとか・・・あ!勝ち逃げなんてズルいよ!私も・・・連れて行ってよ!」

言い直したあたり、おそらく台詞を考えていたのであろう。
しかしユウはそんなことよりずっと気になることがあった。

(なんだ・・・?なんでこんなに暗いんだ!?)

ティアの背後である。
本来ならドアを開けた時点でティアが立っていようがいまいが、日の光が家の玄関に入り込み、明るい街の様子がみえるはずなのだが・・・
なぜかティアの背後は黄色味がかった謎の壁で覆われていて街の景色はおろか、日の光すらなかった。

「ユウ!聞いてるの!?」

ガーガー言うティアの背後をよくよくユウは観察した。
どうやらその壁は布で出来ているらしい。
そしてティアの肩には同じ色の帯状の布が背後に向かってかかっている。
それらの情報から、ユウはティアの背後の物の正体に気づき青ざめる。

(こ・・・これはっ!!リュック・・・だと!!?)

あまりに受け入れがたい現実にユウの頭は疑問でいっぱいになる。
こんなサイズのリュックがどこで手に入るのか。
そもそもこんなリュックにどうやってティアは荷物をつめたのか。
ティアの力でこれが持ち上がるのか。
どうやってこのリュックをしょって家を出たのか。
さっきティアがプルプル震えていたのはでこの痛みでも旅への同行の許可を得るのに緊張していた訳でもなく、重さに耐えていたからなのだろうか。

黙り込むユウを見てティアは不安を覚え、先ほどよりもずっと弱い声でもう一度言う。

「ユウ・・・私も・・・一緒に・・・」

「ダメだ」

言い切る前にユウは冷たく言い放つ。

「そんな・・・どうして・・・!?」

突然のユウの却下に戸惑いを隠せないティア。
そんなティアをみて気まずそうに右頬を人差し指でかきながらティアの背後に目をそらしたユウは言う。

「なんでって・・・そりゃおまえ・・・どう考えても・・・邪魔・・・だろ?」

「─────っ!!?」

あまりに予想外なユウの言葉に、一瞬くってかかろうとするティア。
しかしティアはすぐにそれをあきらめた、もう今にも泣いてしまいそうで言葉が喉から出てくれなかったからだ。

「っ・・・、ぅん、わかったよ、そうだよね・・・邪魔だよね・・・」

(そっかぁ・・・はは、ユウは、私のことを邪魔だと思ってたんだ・・・いいの。これで、良かったんだ。そんなふうに思われてたんなら、一緒にいる方がずっと・・・ずっとつらいもん。最後にユウの本心が聞けて・・・よかった・・・)

うつむき、そのままゆっくり振り返るティア。
入り口の目の前でそんな大荷物を背負ったまま振り返ったのだから当然、ティアのリュックボールがユウの家の壁に激突する。
鈍い音がなり、少しだけ壁がキシキシ鳴る。
ティアはバランスを崩しヨロヨロと2、3歩踏ん張った後、ゆっくりゆっくりとユウの家から離れて行く。
その後ろ姿はあまりにも大きく、そのせいで全く切なさを感じさせなかった。
そこでユウはティアに最後の声をかける。

「せめて最低でも十分の一だな!」

「───・・・えっ?」

ユウ声を聞いてヨロヨロと振り返るティア。

「うっ、うわっ!!お前、なんて顔してんだよ!泣きすぎだろ!そんなに大事なもん入ってんのかよ!?」

「え?」

「『え?』じゃねえ!お前まさか本当にそんな大荷物しょって旅に出るつもりだったのかよ!?・・・歩くんだぞ?考えて準備したのか?ネタだろ、それは流石に。」

「え、だってさっき、邪魔だって・・・────っ!!」

なにかに納得したかのようにティアの表情が変わった。

「そうだよ!邪魔だからさっさと荷物減らしてこい!なに入れたらそんなに荷物多くなんだよ!?」

「ぅ・・・うぐ、うわああああああんんん!!!ユウのバカあ~~~~~!!!!!」

「いやっ、え!?バカはお前だろ!?」

「知らないよ!ユウのほうがずっとバカだよ!うわあああん!!!」

「わかったから、さっさと減らしてこい」

「うわあああん!わかってるよバカーーー!!」

またヨロヨロ振り向いてメソメソ泣きながら、おそらく急いでいるのであろう、ヨロッヨロッとさっきよりリズミカルにヨロヨロ帰るティア。
そんなティアをみてユウはため息をつき、母親へと言う。

「わりぃ、お袋。やっぱり飯食ってくよ、あとで戻るから、ティアと俺の二人分の飯、用意してもらっといていいかな?」

「ふふふ、わかったよ、ちょっと豪華にするから、ゆっくりいっておいで」

「ああ、わりぃな、それじゃ行ってくる」

そこまで話すとユウは自分のリュックを母親に渡してティアの背後へと駆け寄り、後ろからティアのリュックを持ち上げる。
突然少しだけリュックが軽くなったことに驚き、情けない声を漏らしたティアの耳に、リュックから聞こえる声が言う。

「ほら!手伝うから早くいくぞ!このままじゃ日が暮れるぞ!」

「う・・・うぇぇえ・・・びえええええん!!!ユウ~~~~~~!!!!」

「うわっ!なんで泣くんだよ!ほら!ちゃんと歩けよ!」

「わかっでるよう!!ありがどう!!バガあ!!」

「なんか今日のお前、意味わかんねーよ・・・」

その日、巨大なリュックを背負った少女とそれを後ろから呆れ顔で持ち上げる男の姿が街で話題になった。

「わるかったな、ティア。お前やっぱり天才だったよ」

「うへへー、やっぱりそう?ユウはそう思うの?」

「思いっきり皮肉ってんだよ。言わせんな」

「・・・・・・」

しばらくしてティアの家にたどり着いた2人はティアの荷物整理に取りかかっていた。
庭で。
あまりの大荷物だったゆえに、案の定ティアのリュックはティアの家の入り口を通らなかった、そこでユウはティアにどうやって家を出てきたのかと問い詰めるとティアは普通に答えた。
ブルーシートを敷いて、庭で準備をした。と。
ある意味賢いといえば賢いのかもしれないが、それなら何故荷物を減らそうという考えに至らないのかとユウは呆れていた。

「・・・まあいいや、さっさと終わらそうぜ」

「・・・うん、ごめんなさい」

バサッとティアの家から借りたブルーシートを庭に広げるユウの横でボスンとリュックを下ろすティア。
ここへ来る最中、いつから家の前で待ち伏せていたのかとユウが聞いたところ、なんとティアは朝の4時からユウの家の前に張り付いていたらしい。
律儀に荷物を背負ったままで。
ティアがプルプル震えていた原因は単純に疲労によるものが大きかったらしい。

「ぅ・・・ふぅえぃあはあ~~~・・・ユウ、か、肩が、とれちゃいそうだよ」

「自業自得だろう?そこでちょっと休んどけよ、ほんとバカだな・・・出発前からそんなんで隣町まで歩けるのか?」

「・・・ありがとう、かんばるよ。ユウのそういう何気なく優しいところちょっと好きだよ・・・」

「おう、俺の半分はやさしさでできてるからな。俺もそんな自分が好きですよーーーっと!」

ゴロンとユウはリュックボールの口の部分をブルーシートの方へと向けるように転がし、背伸びをしながらリュックボールの上方にあるホックを外す。
途端に荷物の雪崩がブルーシートへと流れ込み、それをみたユウは変な声を上げる。

「ぇあ?何じゃこりゃ?」

「あ!水色の袋には触らないでね!・・・そ・・・その、、、下着が・・・入ってる・・・から・・・」

「いや!そこじゃねえよ!なんだよこの荷物は!」

「え?なにが?」

リュックから流れ出てきたものは大方不要なものばかりであった。
色んな色の袋はおそらく着替えの類であろう、それだけでももはや入りすぎな気もしたユウだが、女の子だからとそこは目をつむることにした。あとから最低限に絞ってもらえば済むことだ。
それより問題なのは他のものである。

旅のために頑張ったのであろう、物凄くピカピカに磨かれたガスコンロとガス缶数本。
新聞紙にくるまれた中華鍋、中華おたま。
水筒は四本、中身はそれぞれ水、お茶、マナ水、お味噌汁。
ライター、着火材、ブーメラン、応急措置セット、ミキサー、煙玉、カメラ。
日記帳、ふでばこ、洗濯板、洗濯洗剤。
目覚まし時計、ボックスティッシュ、ステンレスカップ、シャンプー、トリートメント、ボディーソープ、徳用スポンジ八つ入りセット。
殺虫剤数本、爆竹。
毛布、枕、寝袋、食器類、魔法使いの姿をした抱き枕サイズのテディベア、食器用洗剤、携帯トイレ、ゴミ袋。
歯ブラシ歯磨き粉お泊まりセット。
懐中電灯、大量の乾電池。大陸地図、都市ごとの市街地図、観光雑誌。
謎の御守り、米、炊飯用鍋。缶詰めetcetc・・・


「・・・」

「ね?完璧でしょ?」

庭の柵を背もたれにしてすわりながら眩しい笑顔をユウへと投げるティア。
そんなほめてオーラを全面に押し出すティアをみて流石に怒る気も削がれたユウは優しくティアへと語っていく。

「ティアさん?」

「はい!」

「俺たちは、確かに旅にでます。時には野宿もあり得るでしょうが、大方は1日の内に次の街へ向かうか数日同じ街で過ごすことなるでしょう。これが何を意味しているかわかりますか?」

「・・・宿とか、ホテルとか、旅館に泊まる・・・?」

「正解。」

すっくと立ち上がったティアは大方泊まり先にありそうな日用品や洗濯用品類をブルーシートの端に寄せた。
そして笑顔で三度頷きユウを見る。
その姿をみたユウはさらに優しく語りかける。

「さらに、街を拠点とするということは、街で手に入る用な物品類は現地調達が可能ということになります。もっというと、食事やなんかは街の食事どころで済ませられるし、野宿が必要になりそうな時は事前に前の街で食料も手に入ります。食料に限らず、雑貨もそうですね?」

それを聞いたティアは、あごに人差し指を当てながら数秒目線を上空へと泳がせた後、また不要と結論づけた品をブルーシートの端へと寄せ、先ほどと同じように笑顔で頷きながらユウを見る。
そんなティアをみてユウも頷く。
そうしたやりとりをしばらくしたのち、ユウは絶句する。

「ふうー。うん!ユウ!

も っ て い く も の が 日 記 し か な い よ ! 」

「 ・ ・ ・ 」

可哀想なものを見るような、例えるならばバイキングで調子にのって盛れるだけ食べ物を皿に盛った結果、案の定食べきれなくて帰り際に親に怒られ、泣きながら皿の物を無理やり口に詰め込んでいる子供を見るような。
例えるならばお菓子の名店に早朝から並んでその店の名物を狙っていたが、いざ自分の番だという直前でそれが売り切れてしまって謝る店員に目が笑ってない笑顔で対応し、手ぶらで店を後にする中年男性を見るような。
そんな優しげながらもどこか冷たい表情でユウはティアを見つめる。
無言のユウに僅かながら恐怖を感じたティアは慌てて訂正を入れる。

「・・・な、なーんちゃって!あははっ!日記だけじゃなくてちゃんと剣ももっていくよ・・・?はは・・・なんなら水筒もさ、うん・・・」

「悪かった・・・ごめんな、ティア、俺が全部悪かったんだよな?お前は悪くない。そうだ、ティアは悪くないんだ。だから、許してくれ。」

「なにそれなんかすごくくやしい」

そのままの表情で一筋の涙を流すユウに対し、ティアは軽くへそを曲げる。

「そもそも、なにが必要になるかなんてあらかじめわかるわけないよ。」

「ふっふーん、これだから甘ちゃんは。甘えんぼうティアちゃんだな、可哀想に。仕方ねーからこの俺が模範解答をみせてやるよ!」

得意げで自信ありげなユウはリュックをおろそうと肩の辺りに手をやる。
その手は虚しくなにも握れずにわずかな衣擦れの音のみを立てる。

「・・・お?」

「・・・ぷふっ!」

パスパスとおもむろに自分の背中をたたくユウ。

「・・・」

「あっはっはっはっはっは!!!うわー!ないわー!恥ずかしいわぁー!忘れんぼうユウくんだねぇ!!可哀想に!模範解答が無かったら仕方ないよねー!!キャーーー!!」

「・・・」

ユウを指差し、お腹を押さえながら笑い泣くティア。
ユウは自分の家を出るとき母親にリュックを預けてきたことをすっかり忘れていた。

あーでもねーこーでもねーでてんやわんやな出発準備はそれから数十分後にようやく幕を閉じた。
すっきりした表情とリュックのティアと疲れた顔をした手ぶらの忘れんぼうユウくんは今後の予定を話しつつユウの家へと戻る。

「お邪魔します・・・先ほどは貴重な朝の時間にお騒がせしてしまいまして申し訳ありませんでした、遅れてしまいましたがおはようございます。」

ユウの家の玄関に入るなり「いらっしゃい」と迎えるユウの母に対し、ティアはぺこりと頭を下げる。

「うふふふ、いいの。気にしないで。それよりもウチのバカをよろしくね?ティアちゃん!」

「いえ、そんな、無理やりついていくだけですから・・・」

「まぁ、何はともあれティアちゃんがついていってくれることになってよかったわぁ!ウチのバカだけじゃ家を出て五秒で野垂れ死ぬからねえ・・・」

「流石にそれはねーよ、自殺でももう少し時間かかるっての」

適当なやりとりをすませ、ユウは食卓のイスに崩れるように座り込み、父親が起きっぱなしにした新聞紙を広げる。
それに続いてティアもユウの隣の席にそっと腰かける。

「ああ、もうすぐご飯の準備できるからね、もう少しまってなさい」

「あ!あの!私も何か手伝いましょうか!?」

「いいよ、客らしく座っとけ。これからも歩くことになるから体力温存しとかんと。」

「う、、、うん、ごめん。」

ユウの言葉を聞いたユウの母親は笑顔でティアをみて頷き、それをみたティアも上げかけた腰を静かに下ろした。

「・・・ねぇ、ユウ・・・」

「あーん?なんだぁ?」

「私が急についていくとか言い出して、やっぱり怒ってる・・・?」

「あー?なにをいまさら、そんなこと朝一で聞けよ」

「なかなか聞くタイミングがなくて・・・」

「い、いやいや、あれだけ無駄話しておきながらなに言いやがる」

「あまりにもユウが普通に接してくれるから・・・その、こんな話したくなくて・・・でも、これから2人で旅に出るわけだからそこはハッキリさせたくて・・・私、邪魔じゃないかな・・・」

らしくないティアの言葉に少し違和感を感じたユウは少し新聞を下ろし、ティアの方へと目を向けてみた。
そこには食卓のコースターを思いつめた表情でじっと見つめて、小さく肩を震わせる少女がいた。
なんだか見ていてはいけない気がしたユウは新聞紙をたたんで食卓に置き、頭の後ろで手を組んで天井へと視線を飛ばす。
そしてぼそりと言葉を吐いた。

「・・・巻き込んで悪かった。俺の勝手に付き合ってくれてありがとな、ティア。」

二呼吸ほどおいてティアは大きく頷いて、目尻をぐしぐしと袖で拭い、震える声で応えた。

「そ・・・そうだよ!急に旅に出るとか言い出して!私がどれだけ・・・どれだけ・・・」

顔を隠すようにティアはユウと逆方向を向いて、やっと絞りだしたような声で締めくくる。

「ぐすっ・・・ありがとう」

「よーし、ティアちゃんの大好きなとりの野菜スープもつくったよ!たくさん食べていきなさい!」

一通りユウとティアの会話が終わると同時に食事の準備ができたらしい。
二皿、三皿と次々に食卓に料理が並んでいく。

「わあ!ありがとうございます!おばさんの作るスープ大好きです!」

ティアはすこし赤い笑顔で胸の前でぱしっと手を合わせ、ユウの母へと礼を述べた。

「お袋、どーもな。よし!さっさと食って出発するぞ!ティア!」

「うん!いただきます!」


賑やかな旅立ちの朝、これから2人を待ち受ける困難や苦労のことは今は忘れて、ユウとティアは出来立ての料理を胃に落としていった。

「う・・・うぐ」

苦しそうな様子でユウはお腹をなでる

「すごい量のご馳走だったね!おいしかった!それにしてもユウ、食べすぎだったんじゃない?」

「うーん・・・かもな。」

手を振るユウの母に見送られ、2人は家を出発していた。
向かうのはいつもの街の門、あらかた必要な物も揃っているから特にこの街にももう用はなかった。
しばらく歩いて2人は門に到着する。

「お!なんだ君たち、数日見なかったと思ったら今日は一緒なのかい?」

門のまえの一人の男が二人に声をかけた、今やベテランとなった街の元新人衛兵さんだ。

「ああ、衛兵のお兄さん、おはよ。
実は俺ら、今日から旅にでるんだよ、今までお世話になりました。また街に戻って来るときには歓迎してくれよな。」

「お!二人でか!ふふ、お兄さん嫉妬しちゃうなー。
冗談はおいといて、寂しくなるね、もう毎朝2人の顔をみていたわけだし、突然いなくなってしまうとなるとね・・・」

「あれから、衛兵さんもずいぶんながいですよねえ・・・」

「そうだね、あんなにちびっ子だったのに、気がついたらユウ君はたくましく、ティアちゃんはキレイになったよな、僕は少し老けたくらいでほとんど変わりないけどね・・・」

しみじみというティアに対して衛兵もしみじみとこたえる。

「まあね、お兄さんはあの時18だったんだっけ?じゃあ26か!なんだ!まだまだ若ぇじゃん!」

「僕からすると・・・君達が未だに当時の自分より若いってことに驚きだよ。当時のユウ君にすら負けたんだ、今闘ったらどうなることやら・・・」

「確かに、あのまま剣を鍛えてたらな・・・でも今は俺も魔法使いだし、案外わかんねーよ」

「ははは!謙遜するじゃないか!数年前の段階で兵長より強かったんだ、結果はみえてるよ!」

「今はお兄さんだって衛兵長さんより強いんだろ?それに、あの時はティアのおかげだ」

「ユウがおとりになってくれたからね、でももうおとり役は任せたくないかな」

「君達ほんとに仲良しだね、うらやましいよ」

笑いながらからかう衛兵にも2人は別れの言葉を交わし、いつもの門からいつもの森へと歩き始めた。
しかしいつもとは違って、2人で。

程なくして、いつもの森の入り口にたどり着いた2人、始まりの場所とのお別れに少し思うことがあったのだろうか、ティアはいつも座っていた小さめの岩にゆっくり座った。
そんなティアをみて、ユウもティアが座った岩を背もたれにしてゆっくり座り込んだ。

「ティアは、この先の道に行ったことは?」

「時々お父さんと隣町に買い物にいくときに。」

「そうか、それなら隣町まではまだまだティアの行動範囲内なんだな」

「うん、この道を進んでいけば、森の中を抜けたにしても、その先の平野にしても特に危ない魔物とか獣は出ないよ!」

ふむ、と声を出して地図を広げるユウ。

「・・・なるほどな、地図でみた限りだと森も草原もだだっ広いな、いつも馬車とか使ってたのか?」

「いんや、自転車」

「ふーん、ってお前自転車なんて持ってたのか」

「まあ、めったに使わなかったけどね」

この世界において自転車はあまりメジャーな乗り物ではない。
アスファルト舗装のようなかっちりした道路よりも剥き出しの土の道、短い芝、尚且つ街に入ったところででこぼこのレンガやストーンブロック造りの道が一般的で、商業ゾーンはところせましと店を店舗の入り口の防雨テントの下で展開する店も多く、必然的に道も狭くなる。
自転車はまだしも自動車なんてものはよっぽどの大都市のよっぽど広い道で数台程度しか走ることもない。
よって移動の基本は徒歩か馬か、馬車、あっても牛車になる。

「で?次の街は自転車で何時間くらいなんだ?」

「うーん、特に急ぎもせず、ゆっくりもせずで二時間くらいかな・・・」

「なるほどな、予想よりもずっと近えや。」

「あ!そうだ!ユウ!!『旅の人申請』忘れてたね!」

「あー?『旅の人申請』?なにいってんだ?」

「・・・え?ユウ、旅の人のこと、もしかして知らないの?」

「なにそれ、おいしいのか?」

「ちょ、えー・・・、ユウはどうやって生計立てるつもりだったの・・・?」

「・・・」

「うん・・・よかった、ついて来て本当によかった。もう、仕方ないんだから。いい?『旅の人』っていうのはね─────


ティアの『旅の人』についての説明をまとめると
旅の人というのは主に旅の途中で、ある方法で金を稼ぎ生計を立ててる者の事をいい、その方法というのが、各街の『依頼所』と呼ばれる機関で街の人からの依頼をこなして、その報酬としてお金や物品をもらうというものだ。
『旅の人』も『依頼所』ももっと長くてかっこいい正式名称があるらしいが、この二つが一般的すぎてティアもそこはよく覚えていないようだ。
依頼の内容は、夕飯の買い出しから超S級モンスターの討伐、建設、未開の地の調査、仕事の急な手伝い、珍品収集、要人護衛、品物配達などなど様々で、それぞれ依頼のランクがランクフリーからプラチナランクまで別れている。
同じく、『旅の人』にもランクがあり、自分より上のランクの依頼を受けるには自分のランクからの依頼をバシバシこなして、依頼所からランク認定してもらわなくてはならない。
そして『旅の人』とは名ばかりで、実は旅人だけではなく普通の街に住んでいる人も『旅の人申請』をしている人は多い。
休日などの小遣い稼ぎにはもってこいだし、何でも屋という仕事の立場柄、『旅の人』に対して優遇してくれる街や店も多いからだ。それどころか、『旅の人』は全世界で『共通の財産』という認識もあり、高ランクの旅の人の殺害や、誘拐、独占、束縛などは国家間の問題にすらなることもある。高ランクでなくてはあまり優遇もないが、申請を済ますことにデメリットはないのだ。
旅の人申請は並み以上の街であればどこの街にでもある依頼所で数枚書類を書いて提出するだけでOKで、もちろん依頼所はユウとティアの街にもあった。
そして実はティアの父親も『旅の人申請』を済ませており、隣街への物品配達の依頼を好んで取っていたため、その時にティアもついていくことが多かった、それがティアが隣街と旅の人をよく知る理由である。

──────って、いうのが『旅の人』のおおまかな知識かな?だから私達も街を出るときに依頼所で旅の人申請済ませてきちゃえば楽だったんだよ。
もっというと、次の街までの配達依頼くらいならランクフリーだろうし、それ含めて2、3個くらい適当な依頼も受けちゃえば良かったね。」

「ふーん、でも、前の街で受けた依頼の成功を次の街で報告して信じてくれんのか?」

「ああ、なんかね、全世界の依頼所同士で情報のやり取りはよくやってるみたいだし、普通にどこの街で受けた依頼でもどこの街でも処理してくれるよ。
あ、でも、報告先が依頼人になってる依頼は、報告後に依頼人と一緒に依頼所に出向かないと、報酬は依頼人からもらえたとしても実質『旅の人』としては仕事こなしたことにならなかったりもするから、一概にそうとも言えないけどね。」

「ふーん、じゃあ、今日は隣の街についたらまずは『旅の人申請』か・・・あ!!あー・・・」

「ん!?どうしたの!?」

地図を眺めながら頭をかくユウをみてティアは不安そうな表情をみせる。

「あー、とな、このまま森を抜けて次の『ペールタウン』をずっと東へ進んで行くと、あと街2つで海にぶち当たっちまうんだ、逆方向へ抜けたほうが良かったかもな」

「北と南は?」

「うーん、大してかわらねぇな、上に行っても下にいっても街2、3で海だ。」

ユウとティアの住んでいた街は大陸のなかでも東端に近い位置にあり、それより東は半島のように突き出ているせいでどの街へ向かっても海へと当たってしまう。

「じゃあー・・・仕方ないね、最短で港町へ向かって、そこから船で大陸のどこかへ、むしろ他の大陸へ流れるっていうのはどうかな?」

「決めかねるな・・・いいや、とりあえず港町まで最短。それにしよう。」

それを聞いたティアは微笑みながらちいさく頷き、岩からぴょこっと降りて身体をのばしながら言う。

「んーーーっ!ぷはぁ!楽しみだなあ!私、海ってみたことないから!!」

「おう、俺もねーな!よし、さっさとペールタウンに向かおうぜ!」

「おー!」

いつもの森の入り口に別れを告げて、また2人は歩き始める。