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薄暗い四角い部屋の真ん中、申し訳程度の大きさのリュックにせっせと物を詰め込む若い男の姿があった。

「何を入れればいいんだ・・・?」
魔法ランプ、魔法温冷兼用湿布、マナ水、包帯、その他諸々、男は頭をかきながら渋い顔をし、それらを適当にリュックに詰めていく。

「地図と・・・あぁ、そうそう、まだ読んでない魔導書も・・・とっ」
男の部屋が薄暗い理由は単に小さなランプ一つしか光源がないのと、山のように積んで置かれた魔導書が窓の高さを超えているのが原因だ、片付ける暇があるなら魔法の勉強をしよう。そういう考え方をするような男だ、部屋の様子がそうなるのも必然である。

「・・・これでよかったのかな、アイツは今どうしてるんだろ・・・」
二日前の出来事、『彼女』との別れが今も男の脳内に疑問符をなげかける。
━━━━━長い付き合いだった
そんなことを考えながら男は手元の作業を片づけていく。

明日は早い内に出よう
ふとそう思い、男は必要な物をリュックに詰め終えたらすぐに床につくことにした。

と、決めた途端に男は作業が面倒になったらしく

「あーーー、もういい、他に必要なもんは現地調達!決まりっ!」
男は机の上にリュックを投げ置き、枕元に数冊の魔導書が転がっているベットに寝転る。
そしてその魔導書の中から一冊を手にとり、パラパラとページをめくっていく。
今の男からしたらなんてこともない初級魔法の本だ、こんな簡単な魔法を扱うのにもずいぶんかかったよなぁ・・・などと思い苦笑いを浮かべる。
『アイツ』は、これを扱うのにどれほど苦労したのだろうか、一人の少女の笑顔を思い浮かべ、そのまま男は少女との思い出を思い出してゆく。

「俺が魔法を身につけたのも、もとは『アイツ』がいたからだよな・・・」


━━━━━8年前━━━━━


「嘘だろ・・・、衛兵に・・・勝った?」
「い、いや、でも、まだ相手は新入りだろ?ま、まぐれだよ、まぐれ・・・はは・・・」
「おまえあの闘い見てまぐれなんて言えるのかよ・・・信じたくはねえけどよ・・・」

街の噴水広場、広場の真ん中に一つ大きな噴水が設置されていて、ドーナツ状になった道からさらに街の東西南北へ向かって道がのびている。
普段からたくさんの人々で賑わいを見せる街の中心だ。
大体のイベント行事はこの噴水広場で行われ、イベントの日にはよりたくさんの人々が集まる、そして今日のイベント内容はなんと
『街の天才少年剣士VS街の平凡新人衛兵』
というそもそものスタートラインが微妙なイベントであった。

しかし特に大きな事件もニュースもあまりない平和な街だ、微妙でもなんでも、イベントがあるというだけ人々が期待するのも不思議ではない。

天才と言えど少年
街の人間からすれば少年が衛兵に勝つなんて思えない、今回のイベントは新人衛兵の歓迎会とも思っていて、街で噂になっていた天才少年剣士と闘わせてみるのも親睦を深めるための戯れに過ぎない。
例えるなら、プロスポーツ選手を少年チームの特別コーチとして呼んで、その日の最後はその選手と試合を行ってみるという風習と同じ様なものだ。

衛兵が少年を軽くあしらって盛り上がったら解散、これはある意味暗黙の台本とでもいうべき流れだったはずだ。

しかし、この戯れの台本はあくまでも暗黙のものでしかなかった。
意外な展開に頭が追いつかない。
人々は先ほどの出来事を頭の中で整理する
試合前まではなんてこともない。広場の緊張感など㎜単位ですら存在していなかった。
緊張の色が見て取れたのは少年の態度ぐらいだった・・・のだが・・・

お互いの礼からの一撃目・・・不意打ち?いや、あれは速すぎたからそう見えただけでそれからは一方的な展開で・・・気がついた頃には地に落ちた剣と少年を交互に見やり、オロオロする衛兵、わけがわからない。

いまだに広場は困惑と吃驚のざわめきが収まらない。

衛兵も少年も別にそこまで難しい、ましてや常人に理解できないほどの闘いをみせたわけではない、広場の人間が困惑しているのは単に展開が意外すぎて頭が追いつかなかったのと、少年の剣に素人の目が追いつかなかっただけというのが正解であろう。
少年の剣も、剣を嗜む者ならば別に驚くほどのレベルではなかった。
ただ一つ、年齢を除いては・・・だが。

しかししばらくして広場に

まぁ、よくわからんけど少年が勝ったんなら別にそれはそれでいいんじゃね?

とも思われる色が見え、一気に歓声が広場中に響き渡る、結局街の人間は騒げれば結果がどうであれ別に気にはしないらしい。
それ以来、少年の知名度はさらに上がり、街にはまた別の話題が上がりはじめた。

『森の魔女っ娘』と『天才少年剣士』ならばどちらが強いのだろう?

この話題が後に2人を引き合わせ、男と彼女の長い、少し変わった付き合いが始まる。

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『森の魔女っ娘』

彼女もまた、街で有名だった
一年ほど前にこの街に引っ越してきたのだが、『天才少年剣士』と同じぐらいの歳で天才的な魔法のセンスを持っているらしい、しかし他の子供は彼女の魔法を怖がる故に彼女には近寄らず、友達がいないそうだ。
他のどの子供とも遊ぶことなく、いつも街の外の草原の奥、陰鬱な雰囲気の森の入り口にある、大きめの石に座り、ずっとひとりで本を読んでいるらしい。

草原では襲われると面倒くさい程度の獣も出る上、森までは多少の距離があるのであまり人は来ない、ひとりになるにはなかなかの好条件だろう。

そんな少女の話が少年の耳に入ったのは例の衛兵との試合から数日後、街で魔女っ娘と少年剣士の強さ比べの話が程よく広がってきた頃合であった。
話の中で少年が気になったことは魔女っ娘の普段いる場所でもなく、友達がいないとか歳とか怖いとかそんな話でもない、『魔法』だ。
別に魔法自体はそんなに珍しいものでもない、日用品から兵器まで、いろんなところで魔法は使われている
『傷の特効薬』でお馴染みの『マナ水』だって、遠い国のすごい魔法使いたちが作ったという話ぐらい、少年も知っている。
だが逆にいうと、争いや事件などもない少年の街ではそういう『魔法を応用したもの』しか見る機会がなく、『純粋な魔法そのもの』は少年にとっては未知の世界であったのだ。
それを扱う少女の話だ、気にならないわけがない。

魔女っ娘に会ってみよう

そう頭で決意を固め、少年は剣の手入れを行った。

出会いの朝
いつもより少しはやく起きた少年は適当に食事を済ませたあと、母親にもらった弁当をカバンに入れ、愛用の剣と共に家を出た。

「行ってきまーす」

「はい行ってきな、夕飯までには帰るんだよ!」

お決まりのやりとりを挟み、少年は街の外につながる門へと駆けていった

「森の入り口かぁ・・・草原にこわい獣とかいなければいいなぁ・・・」
清々しい程に晴れた日で、街を駆けてる途中で洗濯物を干すおばちゃんなんかも目に入った、門までもうすぐだ、おばちゃんの挨拶に駆け抜けながら応えた少年は前方への注意がおろそかになっていたようだ。

どふっ!

「わっ!痛い!」
少年は何者かに盛大にタックルをかました・・・ようだ。
尻餅をついて痛がる少年に、それが語りかける。
「ああっ、ごめんっ、大丈夫かい?
それより君、今門を抜けようとしたでしょ?門の外は獣が出たりするから大人と一緒じゃなきゃ危ないぞ」

「あ、あの、でも・・・」
反論を考えつつも少年は顔をあげて語り手の顔を見る。

「「あ・・・」」

途端に2人は気まずい雰囲気になった

「だ、誰かと思ったら君か・・・この間は世話になったね、あのあと兵長にギッチリ絞られたよ、ははは」

「いや、その、なんか、、、はい、ごめんなさい」

数日前、広場で少年と共に注目の的になっていた衛兵さんだ

「ま、、、まぁ、君なら別に外にでたところで大丈夫か、このあたりの獣は弱いからね・・・」

「はぁ、なるほど・・・だから街の反対の草原の門は衛兵長さんが・・・」

「君、子供のわりに頭の回転はやいね、ただね、その納得の仕方は微妙に失礼じゃないかな・・・?」
衛兵長さん側の門の外は、こちらの門の外とは桁違いの強さの獣・・・というか魔物がでる。

「まあ、とにかく気をつけてね、門の外へ出せる子供なんて、この街では君と『魔女っ娘』くらいだよ、友達とかは連れて行ったらだめだぞ?」

「友達なんて、別にいないよ。誰も剣の相手なんてしてくれないじゃない」

「普通に遊びなさい!剣なんて、あんまり子供が振るもんじゃないぞ?」

「でも、剣が一番楽しいし・・・」

ぶーたれる少年の頭をポスポス叩きながら衛兵が笑う

「『魔女っ娘』も君と同じようなことを言ってたよ」

「おにいさん、最近衛兵になったばっかりでしょ?なんでそんな魔女っ娘と・・・?」

「ま・・・まぁ、ね、最初は僕も驚いたけど、あの子、毎日門から外に出て行くんだ。
最初、僕も外に出ないように言ったたんだけど・・・あの子の『危険かどうか試してみます?』って一言と笑顔に寒気を覚えてねぇ、恥ずかしいけど、僕が固まってる間にすたこらと門を抜けてしまって・・・一応その日に衛兵長に確認をとったら『魔女っ娘は顔パスだ』って、、、」

「ふーん、じゃあ、明日から俺も顔ぱす?」

「うん、いいよ」

「そっか、ありがと!おにいさん」

衛兵に見送られ、少年は街の外へと門を抜ける。
自分1人だけで街の外へ出たのは少年にとっては初めてのことで、門の外へでただけで少年はすでに小さな満足感を得ていた。
清々しい晴天!見渡す限りの草原!街とは違う自然の空気!

そして

辺りをうろつく獣たち・・・

「弱そうな獣しかいないし、これなら森までひとっ走りかな」
ずっと遠くに木々がざわめいている、森だ。
「あんなにたくさん木が生えてるのに『入り口』なんていわれてもなぁ、よくわからないけど、まあいっか、なんか、道っぽいのもあるし」
とりあえず少年は森に向かって門から最短の直線ルートで向かうことにした。その道っぽいものは森の方に向かっているようにもみえた。
確かに森は用もないのに人は近づかないが豊富な食料も資源もあり、そういう目的で森に向かう人はいないこともない、おかげで森までは草がはげた獣道のようなものがのびている。
それがその道っぽいものの正体だ。
しばらく走り続けて、そろそろ休憩をとろうかと思いはじめたあたりで少年はあることに気づいた。
「あ・・・確かに入り口・・・」
人間だれしも同じことを考えるもので、草原に道があればその道を歩く、森に道がぶち当たっていたら特に深く考えずそこから森へ入る。
草原の獣道が森にあたったところの延長だけ木が撤去されていて馬車一台分ほどの道がそのまま森の奥へと続いていたのだ。

休憩のことなど忘れて、少年はその『森の入り口』へと向かう
するとさっきまでは大きな木と道しか見えていなかったが、よくみると道の端にちょっと大きな石が、というよりちょっと小さな丸っこい岩が転がっている・・・上にさらに小さな人も乗っている。

いた、『魔女っ娘』に違いない

ひたすら手元の本に視線を落としている少女は不思議な雰囲気を出していた、どう不思議なのかは少年もよくわからなかったが、たぶん少女が普通すぎたのだ。
ごくごく普通の少女が、街から離れた陰鬱な森の入り口で1人で普通に本を読んでいる、その姿は森の雰囲気に合わせるにはいささか違和感がある、その違和感を、少年は不思議だと感じとったのであろう。
それとともに少年は変なことに気づく
少女の髪の色だ、頭のてっぺんから肩のあたりまでは日の光に当たると直視するには少し眩しいほどに明るく、まるで太陽が降りてきたかのような美しいオレンジ色をしているのだが・・・肩から下は、艶やかではあるがどうもあまり綺麗には見えない漆黒の髪色をしていた。

(全然こっちに気づかないな・・・)

少年はすたすたと歩いて少女の方へと近づいていっているのだが、少女は全く少年に気づかない。
少女との距離はじりじり詰まっていき、痺れを切らした少年が声をかけようとした瞬間

「・・・なに?」

ビビビックウゥウ!!?

少女が突然声をだした。
視線は本におちたままであったために、完全に油断しきっていた少年は驚きのあまり肩を三度ほどすくめた。

「・・・っほまえが!森の魔女っ娘か!?」

裏がえった声で少年は訪ねた、よほど少女の先制攻撃が効いていたようだ。

「森の魔女っ娘?なにそれ?まぁ、魔法は使えるけれど」
本をずっと見たまま少女は聞き返した、普段街にいない少女が街での自分の噂など知る由もない。

「俺もよくわからん!よくわからんからみにきたんだ!お願い魔法をみせてください!」
少年のよくわからない返しに、初めて少女は顔をあげて少年の方をみた。物凄いしかめっ面で。

「はあ?あなた、なに言ってるの?」

「いや、だから、魔法を・・・

「私の魔法は、他人に見せびらかすためのものじゃあない!」

言葉をさえぎられ、突然大声をあげられた少年はおずおずと言い返す。

「な、なにも急に大声でそんなこと

「帰って」

またも少女は少年の言葉を遮った。そしてそのまま続ける。

「私の魔法は、自分の身を守るための・・・『あのとき』だって、ちょっとおどかすためだけに・・・」

「あのとき?」

普段街にいない少女の話など少年は知らない、あのときとはいつの話なのか、気になった少年が問うと、少女は少年から目をそらして不機嫌そうに話す。

「あなたと同じような人たちが街にもいたのよ、断ったらいきなり怒り始めて私のことを叩きはじめたから・・・軽い火の魔法でおどかしたら、火傷しちゃって・・・あれから街の人達は・・・私のことを・・・」

「ふーん、じゃあ俺と『けっとう』してよ!それなら魔法を使ってもいいんでしょ?」

目をそらしていた少女は『バッ!』と少年を見る。

「え!?いまなんて!?」

「いや、だから、俺とけっとうしろと・・・

「ばっかじゃないの!?あなたみたいな普通の子供が私と喧嘩して勝てるはずないじゃない!魔法よ!?そんなことして怪我で済むと思ってるの!!?」

がーっとまくしたてる少女に、少し少年はムッとしたようだ。

「お前だって子供じゃん!それに、俺を普通の子供と一緒にするなよ、一応剣士なんだぞ!」

「っ!?剣士??」

そこで少女はあることを思い出した

(そういえば・・・街の門は最近新しく入った衛兵さんが立ってて普通の子供は通してくれなかったはずじゃ・・・?)

「あなたは、強いの?」

ひたすら本を読んで時間を潰す日々に内心飽き飽きしていた少女は、ニヤリと薄い笑みを浮かべて思う
この人になら、はじめて思いっきり自分の魔法を試せるかもしれない、小さくたって剣士、剣士相手に一体どれほど自分の魔法で戦えるのだろうか・・・と。

フンスッ!
と鼻息を荒くして大きく頷く少年をみて少女は言葉を続けた。

「・・・いいわ、怪我で済んだら私に感謝してよね」

ぱたん、と本を閉じて座っていた石からぴょこんと飛び降りると少女は石の上に本を置いた。

「その気に・・・なった・・・?」

「うん・・・楽しみね」

おずおずと問いかけ、緊張した面もちで剣を構えた少年をみた少女は石の裏に立てかけてあった杖を手に取る。

「フロスト=ウォール」

ぽつりと少女が呟くと杖の先がわずかに光を放った。
そして少女は言い放つ

「どこからでも、かかってきなさい・・・」

その言葉を聞くと、少年は剣を握る力を強め、少女に向かって駆け出した。

「いち、に、、、さんっ!!」

駆け出しからそのままタイミングを合わせ、少年は剣を凪払う
それと同時に少女は右手に握っていた杖でとんっと地面をつついた

ぺきっ

「!?」

少年の剣は少女の手前で見えない壁に阻まれた
わけもわからず少年は飛び退こうとする・・・が、少女は少年の隙を見逃さない

「フレイム=スフィア」

またぽつりと少女はつぶやき杖を少年に向けて振る
突然現れた火球が少年を襲う
ひとつ、ふたつ、少年はうまく火球を引きつけてかわす

「うあっっっつ!?」

大きく飛び退いた後、少年は地面を転げ回る、いや、飛び退いたと言うよりは弾かれたようにも見えた。
死角からの三つ目の火球は少年に直撃し、普通森の入り口では味わうことのない熱に少年は左肩をさする。

「あら、前の子はかすっただけで泣きながら逃げたのに」

「これが・・・魔法・・・?」

「初めての痛みでしょう?」

生唾を飲み込み冷や汗を流す少年をみて、少女はけらけらと笑う
そして起き上がった少年は先ほど自分の攻撃を遮った物の正体に気づく。
透明なそれは場違いな冷気を放っていて、火球と同様、森の入り口には縁のないものだった。

「氷!??」

また少女は口元を隠して笑っていた、そして少女が軽く杖で壁を叩くと氷の壁はまるでガラスが割れるように砕け散る
少年は瞬時に頭で算段をたてる

(普通に攻撃したんじゃまた氷の壁で防がれる、火の玉もとんでくる・・・だったら・・・!!)

「うわああっ!」

「単純ね、剣士くん?」

全く先と同様の形で少年は少女に向かう

「いち、に、さんっ!!」

「フロスト=ウォール」

剣を振りかぶったと同時、少女はやはりつぶやき、杖で地面をつついた
氷の壁が現れた

「しい、ご!」

「!?」

剣は氷の壁をそれて中空を斬り、大きな円を描く
そのままの勢いで壁の横を通過し、少年は少女の背後に回り込んだ
予想外、そう顔に書いてある少女に向かって少年は剣を振りかぶる

「っ!!ウィンド=ランス!」

「え!?うぐっ!」

振り向きざまに少女は杖を少年に突き出すと少年の身体は数メートルほど吹き飛んだ。と同時に数滴の血が飛散する

「うえ!?切れてる!?」

「はぁはぁ」

よほど焦ったのであろう、息をきらしながら氷の壁を軽く杖で叩く少女
それをみて少年は確信する
接近戦にさえ持ち込めれば勝てる、と。
そこまでわかればもう簡単だ、少年はまた頭のなかで算段をたてる。

(防御、氷の壁、フェイントでOK
中距離、火の玉、その気になれば食らってもOK
近接、杖、食らうと飛ぶ、けど避けたら隙だらけ
なら、よし!
血も出てて痛いし、次で決める!)

「ふっ!」

「っ!!フロスト=ウォール!!」

一気に距離を縮める少年に、焦りを隠せない少女は正面にいきなり大きめの壁をつくる
予想通り、氷の壁をそのまま通過する少年

「かかった!フレイム=スフィア!」

「残念それも予想通り!」

「!!?」

予想通りと言いつつも火球を食らいながら向かってくる少年に少女は困惑するが、あまり距離を詰められるのはまずいと察し、杖を構えた

「ウィンド・・・

「きた!」

少年は身を低くして少女に向かい「ランス」の声と同時に身をひねる
前傾姿勢のまま身を捻った少年の目にはすがすがしい青空と突き出された少女の杖が映る

「ここっ!」

そのまま少年はひねりの回転を利用して上空を切り裂く
子気味のいい音と共に杖の半分が宙を舞った。勝負あり。
しかし勢いよく少女の懐に入り過ぎた少年は少女の腹部にそのまま頭突きをいれざるを得ない

「よし!やっ

ぼふっ
ズズズズー
ごふっ

お互い予想外のタックルが決まった後も少年の勢いは止まらず、少女とともに少しの距離を進み、少女がすわっていた大きめの石にぶつかった。
その衝撃で少年少女もろともに気を失った。

こうして、二人の記念すべき最初の『けっとう』は幕を閉じた。

少年の頭突きから数十分後

そのまま石を背に座る少女の膝枕で少年は目をさました。
少女のほうが先に目をさましていたようで、少年の目覚めに気づいた少女は口を開いた。

「やっと起きたわね、気を失ってたみたいだし、私の勝ち」

下を向いた少女の髪が、さらさらと少年の顔をくすぐる

「ぶっ!髪がっ!というか!杖は真っ二つにしたし最後の一撃だって俺の攻撃だったんだから俺の勝ちだろ!?(止まれなかっただけだけど・・・)」

「なっ!?さっきまで私の膝の上でグデッてしてたクセに!あなたにとどめく

「あ、それより」

少年は少女の反論を遮り話を始める

「なによ」

「名前」

「は?」

「お前の名前、聞いてない」

「え?ああ、名前っ!名前は・・・普通はあなたから名乗るのがマナーじゃなくて?」

「・・・父さんが、れでぃーふぁーすとは守れって、女性が先がマナーだって」

「ふ、ふーん・・・れでぃーか、まぁいいゃ、『ティア』よ、私の名前はティアっていうの、あなたは?」

「俺は『ユウ』、よろしくな、ティア」

「えっ?ああ、うん・・・ょ・・・ょろしく・・・」

なぜかごにょるティア、それをみてユウは言葉を続ける。

「明日、またここに来る。いい?」

「ええ!?いや。別に、私はかまわないけど・・・」

「強かった、また俺と『けっとう』してよ」

「・・・うん!」

一瞬困惑したティアであったが、なんだか初めて他人に受け入れてもらえたような気がして、ユウの質問はティアにとってはこの上なく嬉しいものだった。
友達がいなかったティアにとって、形はどうであれ一緒にいてくれる人がいるということは嬉しいことであったのだ。

「それと・・・」
またユウは言葉を続ける

「明日に備えて準備がしたいから、今日はもう帰ろう」

「え?帰ろうって、私はまだ・・・」

「いや、俺が帰りたいんだ、杖折っちゃったから獣に襲われたら危ないでしょ?だから街まで送ろうと思ったんだけど、、、ティアが帰らないなら、俺も帰れないよ」

「そ、そっか、うん、わかったよ、お願い」

せっかく自己紹介を終えたばかりでもう別れるのは正直名残惜しいとティアは思っていた、でも、また明日会える、もう1人で本を読まなくてもいいんだ、そう思うと早く明日がきて欲しくて、ティアもユウの提案に素直に応じることにした。

難なく街にたどり着くとユウは少し思いつめた顔でティアに言う

「俺、これから武器屋に向かうよ、もう街に着いたから、後はひとりで帰れるよね?」

それを聞いたティアも武器屋に一緒に行きたいと思ったが・・・武器屋と聞いてティアも思うことがあったため、その場は別れることにした。

「そっか、わかったよ、明日も待ってるから」

ティアがそう言うと、小さく頷いたユウはそのまま走って街の人ごみへと消えていった。

家に着いたティア

「ただいまー」

「おお、ティア、どうしたんだ?今日は早かったじゃないか・・・
・・・!?ティア!その杖、どうしたんだ!?」

「折れちゃったの・・・ねえ、お父さん、これから武器屋と防具屋に私を連れて行って欲しいんだけど・・・」

一方その頃、武器屋に着いたユウ

「おお!ボーズ!この間の衛兵との試合は凄かったなあ!」

「おう!おっちゃん!その話は置いといて、この剣、いくらで買い取ってくれる!?
あと、売ったお金でそれが買いたいんだけど・・・」

ユウが指差したものをみて、武器屋の店主は困惑した。


━━━━━次の日━━━━━

「おはよう!衛兵のお兄さん!」

「お、今日も魔女っ娘に会いにいくのかい?


「まあね」

「なんだ?魔女っ娘のこと気に入ったのかい?ヒヒヒ・・・」

ニヤニヤしながらいたずらに問いかける衛兵に対し、ユウの反応はわりとあっさりしていた

「うん!気に入ったよ!」

「そうか、昨日は一緒に帰って来たもんね・・・それよりその格好、どうしたんだ?
魔女っ娘もそうだったけど、コスプレか何かかい?」

「うん?こすぷれ?まぁ、そんなところかな?
それじゃあそろそろいくよ!またね!」

衛兵の言っていることがよくわからなかったユウはあまり深く考えずにその場をあとにする。
「こすぷれって何だろう?魔法使いのこと、大人はこすぷれって呼ぶのかな?ティアもそうだったって言ってたし」
真新しい杖を握り、真っ黒なローブに身を包んだユウは昨日と同じ道を駆け抜ける。

しばらく走るとまた昨日と同じ光景が目に入った。
森の入り口、大きめの石、その上で本を読むティア・・・

「おーーーい!『けっとう』だーー!」
ユウは少し遠くから大声でティアに向かって叫んだ。
その声を聞いたティアはすぐさま開いていた本を閉じてぴょこっと石から降りる。

「けっとうだー!」
ティアは満面の笑みで真新しい剣を右手に握り、左手を突き上げる。
少しサイズの大きい剣士服と、肩のあたりまでバッサリ切った髪を、風になびかせながら。

「「・・・」」

威勢良く顔を合わせた2人は激しく混乱した。

━━━━━

その日の『けっとう』は凄まじいものとなった。
魔法など発動せず、闇雲に杖を振り回すが、結局その杖を頭にぶつけて自滅するユウ
剣に振り回され倒したあげく、度々フルスイングで剣を投げ飛ばすティア

数時間もするとそこには昨日よりもはるかにボロボロで、疲弊しきった2人の姿があった。

「はぁ、はぁ、、、き、今日のところは引き分けってことで・・・勘弁してやる・・・!!」

「う・・・うぅ、、、千歩譲ってそれでも・・・構わないよ」

お互い強がって見せるもボロボロなのには変わりない、互いに肩を支え合いながらヨロヨロと街へ向かっていく、そんな中、『けっとう』とは関係のない疑問をユウはティアへとぶつける。

「なあ、髪、どうしたんだ?」

色々と理由を考えていたユウだが、答えが最後までわからず結局ティアに聞くことにしたのだ。
しかし、その答えは至ってシンプルなものであった。

「剣を扱うときに邪魔になるから切ったの、私は、剣士になるの!」

「そっか、俺は魔法使いになる!」

「逆にユウは髪をのばすの?」

「なんでそうなるんだよ・・・」

街に着くまでの2人の会話は本当に他愛もないものだった、衛兵が今朝もどうとか、昨日の晩御飯がおいしかっただとか、ティアがいつも読んでる本の内容だとか・・・
だが最後まで『なぜ剣士になろうと思ったのか』『なぜ魔法使いになろうと思ったのか』という話題は出なかった。

おそらくお互いに同じ事を思っていたのだろう

『どうせ理由は一緒に決まってる』

と。
そう思うとなんだか気恥ずかしくもあるし、わかっていることをわざわざ聞く必要もないからお互いにその話題は避けていたのかもしれない。

それから2人は毎日のように顔を合わせて笑い合い、喧嘩し、涙し、少しずつではあるが確実に成長を重ねていった

一年が過ぎたある日
ティアが父から『けっとうというのは何か大切な物事を決めるときにするものだ』と教えられ、その話をユウにして以来2人は『けっとう』という言葉は使わなくなっていった。

二年が過ぎたある日
ユウが初めて魔法の発動に成功した、その魔法は線香花火みたいなものだったがティアも自分のことのように喜んだ。

三年が過ぎたある日
ユウは初めて魔法を成功させて以来コツを掴んだようで、メキメキと魔法の力をつけていた。
そんなユウをみて、ティアは1人で剣を振る時間も作り、ひたすら剣の練習に明け暮れ続けた。

四年が過ぎたある日
ティアが『剣技』なるものを身につけ、ユウを驚かせた。
ユウも知らない剣を振ることが出来るようになったティアはほんの少しの優越感に酔いしれた。

五年が過ぎたある日
衛兵長でも手に負えない魔物が現れ、街の平和が脅かされるが、怪我で入院中だった衛兵長に変わり、ユウとティアが2人で協力して魔物を討伐する。
この時、囮になったユウが大怪我を負い、数日意識を失う、その数日間、ユウの枕元には毎朝涙でぐしゃぐしゃになったお見舞い品が並んだ。
ティアの日課が増えた数日間であった。

六年が過ぎたある日
いつもの手合わせの時に、ティアが2人分のチャーハンを作ってもってくるようになる。
いわく「中華鍋でチャーハンを作るときの繊細な手の動きを剣に応用できないだろうか」という理由らしい。
結果的に美味しいチャーハンが食べれるなら、応用できようができまいがどうでもいいと内心ユウは思っていた。

七年が過ぎたある日
その日は二人でいつもの森の入り口でピクニックをすることにした。
ティアの手作りお弁当に案の定チャーハンが入っていたことに苦笑いを浮かべるユウ。
ユウの苦笑いに気づいて笑って誤魔化すティア。
(こんな幸せで楽しい日々が、永遠に続けばいいのに)
そんな風にティアが思った日。

そして、八年が過ぎたある日━━━━━

二人はその日もいつものように手合わせを終え、今日の反省点を他愛もない無駄話も織り交ぜつつ振り返る段階に入っていた。
しかしユウはどこか上の空で、ティアが何を話そうとも「ああ、そうだな」としか言わなかった
「なに?ユウはひょっとしてホモなの?」とティアが聞いてもユウの答えは「ああ、そうだな」だったのだから重症である。
実際にそうだという可能性も拭い去れないが、それにしても異常すぎるとティアは感じていた。色んな意味で。

街の門が近づくと突然、固い表情でユウが口を開いた。
その内容にティアは眉をひそめる。

「・・・ティア、明日は手合わせはナシだ。そのかわりに夜に会いたい、1日の最後にお前に話したいことがあるんだ・・・俺はいつもの場所で待ってるから、そのつもりでたのむ。」

「え?明日?話??なに?今じゃいけないのかな??」

コクリと、小さくゆっくり頷くユウを見て、ティアもそれほど深く追究することはやめた。どうせ明日の夜にはわかることだ。

「うん、わかったよ、それじゃあ、またあしたね!」

「・・・おう。」

気がつくと2人は街の門をくぐっていたようだ、話してる内に街につくのは珍しくもないのでそのままいつも通り各々の家路につく。

━━━━その夜

1日の疲れを湯船で流し終え、パジャマ姿で首からタオルを下げたティアは歯を磨きに鏡へと向かう。
見慣れた自分の顔を見つめて思う、今日のユウの表情についてだ。

「ユウのやつ、、、珍しく浮かない顔してたなぁ・・・」

今日との違いを比べるためにティアは昨日のユウの様子を思い出してみた。

「昨日は・・・元気っていうか、明るすぎた気もするなぁ・・・なんか、無理してるっていうか・・・まさか!」

嫌な考えがティアの頭をよぎる

「・・・もう、手合わせなんてしたくないんだとか・・・あ、でもそんな話なら別に夜に会わなくたって・・・まさか!」

いやらしい考えがティアの頭をよぎる

「私たちだって、もう、もう!な、長く付き合ってきてるし、、、歳だって、その、あの!男女だし!!
『そろそろ』・・・なのかなあ、、、

・・・キャーーー!!!やだもうユウったらそれならそうと───あっ!」

ひとりで顔を覆い全身をぐねんぐねんさせ、首からタオルを飛ばしたティアはそれを拾い上げる過程で鏡に映る自分をみる。

茹でダコだった。

「ま、まあっ!!まさか!ユウに限ってそんなことはないよ!ないよね!!

『ホモ』だしっ!!・・・男の子が・・・好きなんだし・・・」

自分に言い聞かせるものの、どこか落ち着かなくなってしまったティアはいそいそと歯を磨き始める。

(そういえば、このあいだお父さんと隣街に行ったときに買ったお化粧道具と、ちょっと女の子くさすぎるお洋服・・・まだユウには・・・)

その日、乙女は眠れぬ夜を過ごした。

「さぁーって・・・どう切り出せばいいんだろうなぁ・・・」

時は夕刻、森の入り口の草っぱら。
朱く染まった緑の絨毯に寝転がり、訪れつつある夜を待つ黒いかげがつぶやく。

「快くOKがでればいいんだが、そううまくはいかないだろうな・・・」

それからユウは1人悶々と悩み続け、気がつけば辺りは暗くなっていた。
耳に入る獣の鳴き声も、夜行性のものの声へと移り変わっていた。

「ふう、そろそ────

「おまたせ、こんばんわ、ユウ!」

いつもより少し落ち着いたティアの声が、起きあがろうとしたユウの視線を動かす。
ユウの予想通り、そろそろだったようだ。

「ああ、来たな・・・それじゃ───!?」

「えへへー、変かな?」

ぽかーんと大口をあけて黙り込むユウに、月明かりに照らされたティアが問う。
沈黙に耐えかねたティアは言葉を重ねていく。

「今日は、その、ね、手合わせはナシって言ってたから・・・」

「お、、、おう!そうだな!だからオシャレさんなんだなっ!!はははっ!」

「ごめんね、びっくりさせちゃったかな・・・?」

「いや、いい。
それより随分女の子だな、意外だけど・・・悪くねーな」

恥ずかしそうに笑うユウに、ただうつむいて顔を赤く染めるしか出来ないティアは強引に話を移す。

「そんなことより!話ってなにかな!?」

「あ、ああ、そうだな、話な、、、」

なにか落ち着かない様子のユウ、言葉を選んでいるようにも見え、あーだのうーだのいいながら上を向いたり下を向いたりする。

これは長くなりそうだとティアは思う。

言葉に困ったときのユウの反応はよく知っている、こうなったユウには普通の話から落ち着いて話して、少しずつ本題へと進めるのがいいこともティアはよくわかっている。

「・・・まあ、いいよ、焦ることでもないし、ゆっくり話そうよ、せっかくきれいな星も見えるしさ」

「わりい、そうするか」

ちょこんとユウの隣に座ったティア、普段とは違う、いい香りがティアから漂う。

「・・・(香水かな・・・?)」

「ん?どうしたの?」

「なんでもねーよっ」

「あはは、ばーか」

くるりと顔をそむけるユウ、それをみたティアは明るく笑う。

「なんか、いいにおいだな、今日のティア」

「なによーそれ、普段はいいにおいじゃないっていうの?」

「普段はチャーハンのにおい」

「失礼ね!ある意味いいにおいじゃないの!というか会いに来る前に作ってるんだから仕方ないでしょ」

「俺はチャーハンのにおいも嫌いじゃないけどな」

「食いしん坊・・・」

「悪かったな」

いつもと同じ流れだ。
なにも変わらない、ティアが愛しく思う時間。
二人の時間。
今こうして話している間も、ティアは幸せな気分だった。
それから二人は小一時間も他愛もない会話を続けた。
ふと、会話がとまり、夜風が森の木々と草原の草花を優しく撫る
ざわめく植物の音と、静かに鳴いていた鈴虫が鳴くのを止めたとき
いよいよユウは本題を話し始めた

「あのな、ティア、俺、ずっと前からなんとなく考えてたんだけど・・・」

「う、うん、なあに?ユウ」
(き!ききき!!きたあああああーー!!!
落ち着け私、いえ、落ち着くのよ、ティア!
ユ、ユユ、ユウがついに『そろそろ』を解禁するときが来たのよ!!ホモだけど!
こここっ応え!応えは・・・!!どうすればっ!どうすればーーーっ!!?)

明らかに同様するティア、うまく落ち着きをはらっているようにみせたが、膝の上で固く握られた両拳はぷるぷると震えている。

「俺・・・」

「俺・・・?」

「実は・・・」

「実は・・・?」

「・・・なんで疑問系で復唱するんだ?」

「・・・なんで疑問系で復唱・・・なんてしてないよ?いいから!は、はやく!!」

「お、、、おう、、、実は」

「うんっ!うんっ!」

「旅に出ようと思うんだ」

「はいっ!!!よろこっ・・・え・・・?」

「いや、だから、旅に、出るんだ」

「え?・・・旅・・・え?」

ユウの突然の告白に動揺を隠しきれないティアは自分の膝の上の握り拳を見つめたまま動けない。
なにも考えられない。
しかし視界が一気に水滴に沈んでいく感覚だけは妙に生々しく、鮮明に感じられた。

このまま終われば二人の関係は今日この時が最後になってしまう
もう二度と会えないかもしれない
真っ白なティアの頭の中にも、そんな単純な考えは容易に浮かんだのだ。

雫がこぼれ落ちないように、動かないままでティアはユウに問う。その声はわずかに震えていて、普段のティアからは想像出来ないほどにか細く、弱く、消え入りそうなものだった。

「どうして・・・?なんで?ユウが?旅に・・・?いっ、いつ・・・?」

「なんでかな・・・もっと、世界がみたいとしか言えねーな・・・
あまりダラダラ先のばすと面倒になりそうだからな、三日後に出る」

「そっ・・・そんな!急に!
理由だってはっきりしてないのに・・・なんで!?」

「旅にでたいからでる!それだけだろ?
・・・やりたいことをやるのに、いちいち理由なんかあるかよ」

「それもそうだけど・・・だからって・・・!
納得なんか・・・!!」

ユウを止める権利は自分にはない、それはティア自身も充分にわかっていた。
ユウが旅に出るというだけのこと、やりたいことをやるというだけのこと。
極端な話で例えるとユウが

これから昼寝をする!

といっているのと変わらない、それで寝ようが寝まいがそれはユウの自由であり、ティアが止めれる訳もない。
話の程度は違いすぎるが、根本はこの例えと変わらない。
なにをしようとそれは個人の自由だ。
個人の自由を否定するには相応の状況と立ち位置が必要だが、良くも悪くも2人は対等だ。

それでもティアはどうしてもユウを引き止めたかった、失いたくなかった。

そうすればどう転がっても2人の関係は崩れてしまうだろう、でも、失うよりは、二度と会えないよりはこれがずっとマシだ。
ある考えを頭に浮かべたティアは、涙をサッと袖で拭い、歯を食いしばって立ち上がり、決意のもと行動に出た。
立ち位置が対等だから止められないなら、そんなものこの場で今すぐ変えればいい。
最も単純で簡単なことだ。

強い方が正しい

静かな風切り音をたて、ユウの目の前に白銀の刃が突きつけられる。
そして今までにない、迷いのない表情のティアが声をあげる。

「ユウ、立ちなさい!『けっとう』よ!!」

「っ!?・・・決闘だって・・・?」

「ここで私も倒して行けないようなら、旅になんか出てもすぐに死んじゃうよ!
ユウが死ぬかもしれないのに、私は黙って送り出したりなんて出来ない!!」

しばらく黙り込んだまま何かを考えるユウ、そして、納得したかのようにうなずくと口を開く。

「・・・ああ、わかったよ、お前らしいな。
分かりやすくて結構だ!そうと決まれば俺も全力でお前を倒す、負けた後でぶーたれたりするなよ!」

立ち上がり、杖を握ったユウはティアから距離をとるように歩き始め、後ろ向きのまま『けっとう』に応じた。
そして振り向いたユウの表情は、少し呆れたような困ったような、しかしそれでいて清々しさすらも感じさせるようなものだった。

「さあ、はじめるか!」

「・・・」

杖を構え、魔力をためるユウ。
剣を構え、ただひたすらユウを見続けるティア。

また草原に風が吹き

──二つの影が動いた──

ティアがユウに向かって走り寄る

「きたな。フロスト=ウォール!!」

透明な氷の壁がユウの前方に三枚張られる、どのようにティアが攻撃をしようともユウに刃は届かない・・・

しかし、そんなことはティアには関係のないことであった

「・・・轟槌・・・」

「ちょっ!?」

「剣打!!」

一足先にユウは後ろに飛び退いた
案の定氷の壁は易々と砕け、ユウの立っていた場所に氷塊の弾丸が飛び散る。
あまりの突然さに冷や汗をかくユウ。

(待て待て待て待て!いきなり剣技かよ・・・様子見すらさせてくれねえのかよ)

『轟槌剣打』
剣の切れ味を0にした上で剣の威力を数倍に跳ね上げる剣技、ティアの十八番だ。
剣技というのは魔法よりも魔法っぽいものばかりで、ユウの中では『インチキ』の類にふくまれるほど厄介な代物である。
ユウが知っているものだけでも
斬撃を飛ばしたり、剣が異様に切れるようになったり、切りつけた物を問答無用で打ち上げたりぶっ飛ばしたり、一振りで数カ所切れたりと恐ろしい程の汎用性とインチキぶりをもつ。
魔法すらも剣技によって切り裂かれた時には流石にユウも笑うしかなかった。


(というよりも・・・考える暇すらっ!)

そのまま加速してきたティアは勢いよく剣を振り下ろす。
たまらずにそのまま右へと身をかわしたユウは防御体勢に入る。

「っ・・・ふっ!フレイム=スフィア=トラップっ!」

複数の火球がユウの前方に現れ、ティアの行く手を阻んだ。
これでティアも無闇に特攻はできない、攻撃の詠唱を始めようとしたユウは、次の瞬間目を疑う。

「抗魔返映剣!」

聞いたことのない剣技名だったがユウはあまり気にしなかった、火球に向かって剣を振りかぶるティアをみてどうせかき消すなり叩き斬るなりするのだろうと判断し、油断していた・・・が。
剣の切っ先が火球に触れたとたん、火球が歪んだかのように見えた。
そのままティアが剣を振り抜くと

火球がユウに向かって飛んでいく。

「んなっ!?・・・ふっ!!ざけんなよおおおお!??」

あまりに予想外な展開に、ユウは叫びながら両腕で顔をと胸のあたりを隠すことしか出来なかった、当然ティアの飛ばした火球は直撃する。
なかなかいい音を響かせてユウの腕で火球は破裂し、流石にユウも小さく声を漏らす。しかしティアは攻撃の手を休めない、自分の前方にある残りの火球も全てユウに向かってはじき飛ばす、ふたつ、みっつ、さらに飛ばす。
一通りティアの前方にあった火球が片付く頃には、辺りは雑草が焼け付くにおいと砂煙に包まれていた。

砂煙がはけた辺りでお互いが様子を確認しあう、片膝と杖を地面について息を荒くするユウ、無表情にそれを見下ろすティア。
どうみてもティアが圧倒的優位に立っていた、それはティア本人もわかっていたため、ユウへと声をかける。

「これで、いいでしょ・・・?降参、、、してよ・・・」

どこか悲痛を含んだその声は、皮肉にも返って和解を困難にした。

「・・・う、へへ、なにいってんだよ、まだ始まったばっかじゃねえか・・・それに」

膝に力を入れて立ち上がったユウは言葉を続ける。

「そういうことは、周りをよく見てから言えよ!」

「!?」

ユウの言葉に驚いたティアはを急いで左右を確認する。
が、なにもない。
慌てて振り向いて後ろを確認しようとしたときにその声は聞こえた。

「残念。上だ!フレイム=アロー=レイン!」

「うぐ・・・!」

相変わらずユウの戦い方は油断ができない、次に何をしてくるのかという選択肢が多すぎる。


上空を仰いだティアの瞳に映る数十本はあろうかという炎の矢は、ユウの声とともに次々とティアへと降り注ぐ。
しかしティアは取り乱さない、初見ならば避けきることなど不可能、尚且つ大打撃なこの魔法も数十から数百回はみている。
ユウ自身も認めた欠陥があることをティアはわかっている。

一見でたらめでランダムにも思えるこの魔法も実は矢の配置にいくつかのパターンというか、クセがあり、最初の配置からある程度どのパターンか予測した上で決まった回避行動をとれば、多少のランダム要素を無視して七割ほどの確率で抜けきれる。
仮にそのランダム要素に当たってしまって避けきれなかったとしても、被害は最小限に抑えられる。

(この形なら・・・最初はあそこに隙間が出来て、そこから前へ三本やり過ごして左後ろで・・・)

ユウが次に何をしてくるかもわからない以上、ティアはユウから目を離すこともできない。
ティアはパターンの記憶と体が覚えている感覚だけで一切魔法をみることなく避けていく。

しかしユウも馬鹿ではない、自分の魔法に欠陥があることもそれをティアに悟られていることも知っているのにあえてこの魔法を使う理由は1つ、魔法とユウ本人に気をとられているティアの隙を確実に突くためだ。

(あと三回。四回目のステップでティアは・・・)

「・・・!フレイム=プロミネンス」

(そんな!下から!?)

ちょうどティアが次の隙間へとステップをしたとたん、着地点からロープ状の炎が吹き出した。

「うああ!」

それが左肩へと直撃し、痛々しい悲鳴をあげるティア。
しかし、炎の雨は止まない。

「いった!!」
避けきれなかった炎の矢は無慈悲にティアを貫き続ける、なんとか急所には当たらないようにやり過ごしたティアだが、ダメージは相当なものだった。

「ぅう・・・」

小さなうめき声をもらしながらティアは小さな違和感を感じた。

(なんで・・・こんなに炎の魔法ばっかり・・・)

普段のユウならこんなかたよった魔法の使い方などしない、状況に応じて魔法を使い分ける。
フレイム=スフィア=トラップも回りくどい、単に詠唱時間が欲しかったのなら風魔法で逃げるなりなんなり他に色々方法はあったはずだ。

(あえてそれをしなかったとなるとなにか目的が・・・でも、炎の魔法ばかり使うメリットってなに・・・?)

「どうしたい、降参か?」

「降参なんて・・・絶対しないっ!」

したり顔で言うユウに引き続き剣を構えたティアは走り寄る。

「そうこなくちゃな、フレイム=バレット!」
それに対してユウは威嚇射撃を行う。
フレイム=スフィアよりも弾速は速くとも、軌道も直線的で球自体も小さめな魔法、特に難なくかわしたティアはユウへと距離を詰めて剣を凪払う。
身を低くしてそれをかわしたユウはウインド=ランスでカウンターに出る。
身をよじったティアの背中をユウの杖がかすめて行く、ティアはそのまま回転力を利用して上から剣をユウへと振り下ろす。
避けきれずに左肩へとそれをもらうが、怯まずに次の魔法で応戦する。
一進一退の攻防、草原に響く風切り音と二つの声。
それが数分続いたあたりでユウが一言呟く。

「・・・そろそろだな」

依然としてユウは炎の魔法の使用率が高い、二人の周りだけ暑いくらいに温度が上がってゆく。

「なにを、企んでるの・・・?」

距離をとったティアが静かに問う

「大したことじゃねーよ。しかしやっぱり気づいてたか、流石だな」

「当たり前じゃない、こんなにあからさまに炎の魔法ばっかり・・・」

「お楽しみだな、当てて見ろよ!フロスト=アロー=ショット!」

「うっ・・・!」

ユウが何かを企んでいるのは確かだ・・・しかし、それがなんなのか全く予想がつかない。
ユウの言う「大したことじゃない」は本当に大したことではない。
飛び散る氷の矢を避けつつティアは考える。

しかし実力が拮抗している今、その大したことではない何かが大きなアドバンテージになるのではないだろうか。
思考をめぐらせつつ、無意識と反射で攻撃を避け続けるティアは気づいていなかった。
ユウの攻撃を無意識に避けることでユウの罠にはまっていることを。
わざと避けれる攻撃を続けることで、ティアを『ある場所』へと誘導していることを。