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集落は狭い。からね……なにが起こるかわからない状況ではあるけど、歩き始めてすぐに建物のそばへとたどり着いた。当然だけどね。
暗かったし、遠くから見てたからあまり見えなかったけど、近くに来て改めて見てみると立てかけてある武器はみんなボロっちい。
なんだろう、普段からメイガスエッジをみてるから感覚が麻痺しているのかもしれないけど、ここにある剣の数々はとてもじゃないけどお世辞にも業物には見え難い。
いやほんと、アイリの武器工房に並んでた武器は本当に見るからに立派なものばっかりだったし、そんな工房に長く寝泊まりしていたのもあって感覚が麻痺しているのかもしれない。
それにしたって、アリエスアイレスや他の街の武器工房にあった武器に比べてもここの武器は雑だ、なにもかもが。

あと、なぜか全部がよく使い込まれている。グリップはすり減ってるし、刃こぼれも所々にちらほら。品質も安定していないのか、錆がひどいものも……。
手入れからみても武器への愛を感じない。これじゃまるで食堂の椅子だ、目に付いた物を無差別に使い、使い終わったら適当に元の位置に戻すみたいな…。
これは……そうだ、売り物じゃない……!
ってことはここは武器工房ではあるけど、武器屋では……ない?ってこと?
ますます何のための施設なんだか……。

集落の暗さと相成って、施設の存在感が不気味さを増す。
ユウも無意味に気配を消しているのを感じる、もちろん私も無意味に息を殺している。
これからまさにこの建物へと訪ねるにも関わらず、私とユウはこっそり窓の下を通り、中から見えないように入り口へとまわる。
……たぶん、私の背中の大きすぎる籠は建物の中から丸見えだっただろうけど気にしない。
いつの間にかタマも小さくなっている。この辺はさすがはユウだと思うし、全く吠えないタマもさすがだね。

倉庫のような奥行きのあるスペースの右となりの質素な木製ドアを前にして、ユウが声と眉をひそめて言った。

「……おい……ティア……カウントダウンを頼む」

「カウントダウンって……なんの…?」

「決まってるだろ!突撃へのカウントダウンだよ……!」

「っえぇ…?」

ユウは、無意味な緊張の果てに混乱しているのかもしれない。
今日の内『薄く延ばせば金箔だろ!?黙って食えよ!』の次に意味の分からない発言だ。
なに?突撃のためのカウントダウンって……?
でも、必要とあらばティアさんもやったります!
雰囲気はいい、この緊張感のもとにカウントダウンまであれば、きっとこの建物の中に何が居ようとも上手なコミュニケーションから始められるはず……!!
もちろん根拠はない!!

「……うん、わかったよ!
20、19、18──

「ばっ!なげーよ!なんで20秒前からカウントなんだよ!」

「え!?なに!?そんなの知らないよ……3!2!」

「あー!ちょっ!はやっ!おっ───!!
ごめんくださーい」

コンコンコンと、子気味の良いノック音とともに、ユウの営業ボイスが響いた。
うん。
実に普通だ。
結局こうなるなら最初っからそれから入れば良かったんだ…。
……けど、反応はない。
建物の中から気配はない。
おかしいなぁ、確かに灯りはついてるんだけど。

「すみませーん!私達!旅の者です!
山菜狩りに来たら道に迷ってしまって…!
入れてくれませんかぁ?」

「え?ティア?俺たち迷ってなんか……

「こうした方が自然でしょう?
怪しまれて出てきてくれないのかもしれないじゃない!ひそひそ」

「……その取り繕い方のがよっぽど怪しいけどな……」

ユウはわかってない。
こういう集落の人たちは旅人よりも遭難者への方が二割ぐらい優しいんだ。
もちろんこれも根拠はないけど。
ほら!今度は手応えあり!私の声から数秒の間を置いて、ドアの向こうからパタパタと軽い足音がかけてくる。

「っはぁーい!少々おまちくださぁい!」

「「──え!?」」

おどろいた!中からの足音と、取り合ってくれた声!
私とユウが顔を見合わせるのも仕方がない、だって──

「おん……なの、こ?」

「……だったよね…?」

ユウは金魚みたいな顔でドアを指差したまま口をパクパクさせて私を見たままだ。
もしかしたら、ユウからみたら私も金魚なのかもしれない。
……うん、事実そのぐらい驚いたし。
こんな山奥の謎の武器小屋で、日が沈んでいるにも関わらず最初に取り合ってくれた声がどう聞いても小さな女の子のもの。
なんだかすごく違和感だ、こういうときは危ないから、普通は大人がでてくるんじゃないかな?
まさか、この建物に住んでるのが声の主の女の子だけじゃあないでしょうしさ。
ちょっと変な気持ちで足音がドアの向こうまで動くのを待ちきると、ドアがカチャカチャと音を立てた。鍵を開けてくれたみたい。

──そうして、ゆっくりとドアが開き始める──

二十センチくらいドアが開き、止まった。
建物の中から灯りが漏れ、同時になんともかわいらしいびっくりが響く。

「わぁ!わんちゃん!?
……っすごいうるうるしてる……」

タマが一足先に前に出て、声の持ち主とのご対面を
果たしてるみたいだけど、もちろんタマのリアクションからはなにも読みとれない。タマ、小さいときは無反応なんだもん…。
そして、ドアの端に小さくて白い手が掛かり、そろー…っと、手の持ち主が顔を覗かせた。

「ゴブリン……じゃないですよね……?」

「「……あ、こ、こんばんは……」」

控えめな小さな確認に、私たちは声を揃えて挨拶をすることしかできなかった。
その手の持ち主は、小さな頭を窮屈そうにドアの隙間から出して、低い位置から私たちを見上げた。
ころころとした可愛らしい目で、一つ、ユウを見て、二つ、私の背中の籠、そして三つ、私と目を合わせる。
その子の腰の辺りまで伸びた髪が、私の興味を惹いた。白い。
その白さが目立つという理由だけではなく、単純に私は心を惹かれた、綺麗だ。
その髪はまるで月明かりのように淡く優しく光を反射して、暗い集落の暗い建物の入り口にぼんやりと浮かんでいた。
ぱつっ!と切りそろえられた前髪の下から真っ直ぐに私を見つめる宝石のような瞳は、月明かりにそっと寄り添う星明かりのような薄めの金色。

さっき掘り当てた金塊がただの金属屑にすら思えるようなその瞳の輝きに、そして、丸い丸い水饅頭のように透き通った血色のいい頬に、見るからにぷにぷにとした、桃色の唇に、私は自然と漏らしてしまった。
リリーナに対するものとはまた別の意味で感じるこの気持ち……

「……え……かわいい……!」

「お……おう、かわいい…!」

けど、気持ちはわかるけど……

隣のユウの発言にはさすがに少し引いた。


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──アルメリア・ミラピナクル──

彼女は自身のことをそう紹介した。
ミラピナクルなんてまた変わった名前だったから、『ミラピ』って呼んでみようかと思ったけど、集落の人達からは『アルマ』と呼ばれていると彼女が付け加えたために、ミラピはお蔵入りになっちゃった。
またね、その自己紹介の時の動きがいちいち可憐で幼くて……というかさ!『えへへ…』って笑うんだよ!?恥ずかしそうにさ!!ねえ!!……なんかテンションあがっちゃった、私……!!
一人っ子にとって、妹や弟は憧れだ。
私は生まれてこの方ずっとこ一人っ子だ。
つまり、この子は、なんだろうか、そんな私の憧れの的だ。
コトちゃんと出会った時のような、憧れへの階段を昇る行為へのときめきが心臓を太鼓代わりにしてる。ドンドコドンドコ高鳴って……鼻息が…荒くなってるかも…!
なんだかもう、この子さ、見るからに妹すぎて私……私……もう、いいかなっ……て……えへへ…。
なにがいいのかはさておいて、早速私とユウは謎の建物の中へとあげてもらっている。
入り口で背中の籠が引っかかったけど、無理矢理引っ張ったらパツーン!って鳴って入った。

「ついてきてくださいね、長老のところへ行きます!すぐそこの部屋ですよ、客間です」

かわいい。

「はい、わかったよ。
ここは長老さんのお家か?」

「はい!わたしも長老と一緒に暮らしてるんですよ!」

あ、その笑顔、かわいい。

「へぇ…!アルマは長老さんのお孫さんか何かなのか?」

「いえ、いそーろーです!」

居候、ちゃんと意味が分かってるのかな?
難しい言葉で背伸びしてる感じがかわいい。
相乗効果で、初々しい敬語もかわいい。
ユウ、なにげにちゃんとお兄ちゃんしてて悪くない。

お兄ちゃんのユウが困った眉で私をみてる、きっと私の鼻息が荒いからだろう。大丈夫だよ、お兄ちゃん、そんな心配しなくてもさ……。
私はきっとこの子に手を出したりなんかしない、そう、多分手を出したりなんかしない……精々一緒にお風呂に入りたいぐらいだよ。
頭や身体を洗いっこして、歌いながら一緒に湯船に浸かるぐらいだ…。曲は……そうだ、かもめの水兵さんなんてどうだろう?アルマちゃん、10歳ぐらいに見えるからそれじゃ少し幼すぎるかな?でも、歌ってほしい。
それで、こう、お風呂のお湯がざぁっ!って溢れて、二人で「「きゃああああ!洪水だぁ!」」って笑い合いたいだけだ……!
……ずるいよ……!私もお風呂で姉妹の愉しい時を過ごしたい……!!
それで、夜は眠くなっておやすみなさいするまで、マジックフェアリーのぼんやり輝くベッドで素敵な童話やパペット人形劇をば──

「おい?……おい!ティア!?」

「……へ?」

「こっちだよばか!なにぼけっとしてんだよ…?」

「……は、ごめん……。
……あの、お風呂……」

「ああ?風呂?勝手に入っちゃダメだよ。
あ、こんばんは、長老さん。こんな時間に申し訳ありません。
……ほら、お前も挨拶しろってば…」

私だけ一人で廊下を直進していたようだ。
アルマちゃんとユウは一つ手前の部屋で右折して、長老様とご対面を果たしている。
いけない!完全にアルマちゃんのペースに乗せられてる…!!
あわてて廊下を戻ってユウとアルマちゃんが消えた部屋へと戻る。
そこには大きめの食卓と気持ちばかりのおやつ入りのカゴ。
そして食卓の奥の席に座ってる、うっすーい目をした、つるっつる頭の優しそうなおじいさん。あの小さいおじいさんが長老様みたいね。

「あ!長老様!こんばん──あっ!?」

「あ、ばか!」

──また籠だ。
長老様の部屋に入ろうとするなり、やっぱり籠が引っかかった。
見事に尻餅をついた自分が恥ずかしい。サウスパラダイスのリュックから成長してないじゃないの……今度から、荷物はちゃんと入り口の寸法を考えて詰めよう。
……こう、リュックがドアの形にフィットするように調整しながら荷物を詰めていこう。
最終的にリュックが四角っぽくなるように荷物を詰めていけば、きっと同じ量の荷物でも丸いよりドアを
通りやすくなるはず……今回は籠だからどうしようもないけど……。
ユウに手を引いてもらうままに、また無理矢理引っ張ったらパツーン!って鳴ってちゃんと入れた。

「驚いたなぁ、君たちみたいな子が、このポポラマ山脈で遭難だなんてな…!
ローブのお嬢ちゃんの方は大漁だねぇ」

「えぇ、お恥ずかしい限り……です」

私の籠をみるなり、なんとか部屋に入れた私をみるなり、長老様は顎髭をなでながらげらげら笑ってる。
みた目通り優しそうな人でちょっとほっとした。

「……特定危険区域内ですよね?……ここ……」

しかめっ面で鼻息を一つと、私に軽くデコピンをしたあと、考え事をするように顎を掻きながら虚空を見つめたユウが長老へと問う。
実に端的で含みのある質問だと思う、みじかいけれど疑問のすべてが詰まってて、いい質問の仕方だね!
………一つ致命的な問題点をあげるとするなら、ザックリしすぎ……。

「だからこそ驚いたんだよ、少年!」

ほら、ザックリした答えしか帰ってこない。

「……ですよね、俺も驚きましたよ。だからこそ。
あ、ユウ・ラングレルと申します、こっちはティア・アルノーティス、それから、今そこでアルマと戯れてるのがタマ。」

「ふむ、よろしく。
アルマは自己紹介を済ませたんだな。
私はこの集落で……一応長老と呼ばれている者だ……というか、君たちもさっき長老と呼んだし、それでいいだろう」

端的でいいと思う。
一つ致命的な点をあげるとするなら、それではあなたの名前がわからないです、長老。
それにしてもこういうときのユウの礼儀正しさ?というか、意外としっかりしてるところは素敵だと思う。
私も見習わないとなぁ。

「──それはそうと……『収穫』はあったかえ?」

「「『収穫』?」」

突然話を切りだした長老のうっすーい目が少しだけ鋭く大きくなった。
明らかに、長老から発せられる雰囲気が真面目モードに切り替わったのが見てとれる。
収穫は見ての通り、籠が部屋の入り口を通らないぐらいあるけど……どうも長老の様子をみると、言いたいことはそういうことじゃないみたい。
ユウもきょとんとした様子で私の顔を見下ろしてる。ユウも…ピンとこない……?

「隠さなくてもいい…君たちがこのポポラマ山脈へ入った理由は……そうだろう?」

何となく、長老の顔から言いたげなことを察した。
心当たりらしい心当たりといえばこれしかない、そうだ。

──ユウがローブを脱ぐとき、そのポケットに詰め込んでいたもの。

肩からかかっているユウのローブから、金塊を取り出す。


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ポケットから取り出されたそれは、すぐに部屋に溢れる光を反射して、外で見たときよりもずっと眩しく、鋭くその輝きを見せる。
予想以上の高級感、伊達に謎の純金してない。
驚く私に呼ばれるようにタマを抱いたアルマちゃんもよってきて、目をまん丸く広げながら「わぁ…!」って声を上げている、かわいい。
長老も一度驚いた様子で身を乗り出したけど、すぐに納得したような様子で腕組みをして、ユウに向かって顎を突き出している。

「ほぉお……立派なもんじゃないか……!
しっかり掘り当てているのに隠すだなんて水くさい……聞かせてもらおうか…?」

「聞かせてもらおうって………え?
どういうことですか?
俺たちはたまたまそれを見つけただけで、隠すもなにも…」

「いや、いいんだ、いいんだよ。
なにもそれを私たちに寄越せというわけでもない!
それについての情報だけで宿代と変えよう…。
そうだな、今日はもう遅いからな、集落に泊まっていくといい。
宿にはアルマの家を貸そう!」

「えっ……いや、その。はい。
あ、ありがとうございます……?」

ユウが……呆気にとられて気圧されている……!
首から上をカクカクと下げながら、長老に手招きをされるがままに食卓の席へ着く。
私もユウに続いて、背中の籠を床におろしてローブを脱ぎ、それをユウの肩へとかける。
ユウが長老の斜め隣へ、そのユウの隣に私。
アルマちゃんは、長老から鋭い目配せを受けてパタパタと台所の方へと向かう。

「こっ!紅茶でいいですか!?ユウさん!ティアさん!」

かわいい。
畳んで置いてあったなんだかわからない可愛い動物の描かれたエプロンをたどたどしい手つきで纏い、水道の向かいの台の上に立ったアルマちゃんが振り返りながら聞いてくる。
私が最高の笑顔でうなずいて返してあげると、アルマちゃんも笑ってお湯を沸かし始めてくれた。
だめ。あの子、いろいろと反則。
隣からはやけに気合いの入ったユウの声。
どうやら長老の様子にのまれてるみたいね、長老はすぐにメモ帳やら大きめの紙やらペンやらを用意して、ユウに対して取材モードを展開している。
難しい話は後でユウに聞くことにして、私は後で戻ってくるであろうアルマちゃんへの話題を用意しつつ、お湯が沸くのを待った。

──長老と別れた後でユウに詳しく聞いた話によると、どうやらこの集落は、あの金塊を求めて山にこもった人達の居残り組らしい。
数十年前、ここ、ポポラマ山脈はまだゴブリン達に乗っ取られていなくて、時々丸裸の金が出てくることで有名だったみたいだ。
山脈全体に膨大な量の金塊が眠っていると踏んだ人々が次々に山中を掘り返して金を探すも、結局まとまった量の金は採れずに、次第に人の数も減っていき、ゴブリン達の侵略を最後に、とうとう人がいるのはこの集落だけになっちゃったみたい。
この集落の人達は、今でも大量の金を信じて金探しに毎日精をだしてるんだとか。
ちなみに人がいなかったのは時間が悪かったようだ。この集落には、電気や水道は通ってるものの、街灯とか、それに代わる灯りがないから夜になるとみんな家からあまり出てこないらしい。
「どこで見つけたんだとか、どのくらいの深さに埋まってたんだとか、その場所をどう割り出したとか、知らねって言ってんのにしつこく聞かれて困ったよ、長老さん必死すぎ」
と、頭を掻きながら浮かべる苦い顔を見ていると、ユウに丸投げしたことに少し罪悪感が芽生えた。

私はと言うと、ユウが長老に捕まっている間、まんまとアルマちゃんとたくさんお話をした。
アルマちゃんにはご両親がいないこと。
アルマちゃんも実は魔法を使えること。
その魔法で、日々ゴブリン達を追い返すお手伝いをしていること。
煎れてくれた紅茶がアールグレイだということ。
最近目玉焼きが上手に焼けること。
いつか、演劇を見に行きたいと思っていることなどなど、話せば話すほど普通の女の子で、私は少しだけ本当のお姉ちゃんになれた気がして嬉しかった。

そして、最後、長老の話していた『アルマちゃんの家』へと向かうことになって、事態は意外な方向へと向く──

「あー、アルマ。
ユウお兄さんとティアお姉さんをお家へ案内してあげなさいな。
それから、もしよかったら今日はお前も二人と一緒にお家で泊まってくるといい」

耳を疑った。

いや!だって!そうでしょう!?長老!!たしかに!たしかにだよ!?私たちは悪い人には見えないだろうし、まだまだ子どもに見えるかもしれないけど!今日の今さっき会ったような得体の知れない遭難者A、Bに幼い女の子を預けたりするの!?普通はしないでしょ!!
いや、嬉しいけどさ!……その、いくら何でも……

ユウもしかめっ面でアホみたいに口を開いて固まった。
そして、大まじめに長老へと聞く。

「いや、長老、いいのですか?
いや、ダメですよ、こんな小さな女の子を得体の知れない連中に預けたりしちゃ。
最近物騒な事件もよく聞きますし…その、いや、ダメですよ、長老」

ついで、なんか、急に説教を始めた。
ユウからの説教を受けるも、長老は眉の一つも動かすことなく、言う。

「なに、私の経験から語るに、本当の悪もんは山で真面目に味覚狩りなんてしない。
まして、お嬢さんみたいに、そんなに籠いっぱいになるまで食べ物を集めないよ。
あの籠が、本当の本当に味覚狩りを目的に山へ入った証拠だ」

偏見だ。
そんな理由で私たちを信用しちゃいけない。
……まぁ、事実なんだけどね。
でも、こんなかわいい女の子を預けられたら、普通の悪くない人だって悪魔に変わるかもしれないでしょう?魔が差すっていうしさ。
今度はその旨を、私が長老へと真面目に語ってみた。
魔が差したらどうしてくれるんだ!責任とれないぞ!って、大まじめに語った。

「とにかく、そんなに心配しなくても大丈夫、お嬢さん。
アルマはあなた方が思ってるよりもずっとしっかりしているし、いざとなったら大声一つで集落の人間が集まるから。
一晩、アルマを頼みますね。その子は……少しばかり不幸だ。あなた方が楽しませてあげてほしい」

頼まれた。
そ!……そんなこと言われたらね!仕方ないよね!私!やりますよ!?長老!やっちゃいますよ!?
本当に味覚狩り用の準備しかしてこなかった私たちに、長老は適当な洗顔セットや貸し出し衣類の類、アルマちゃんの家の鍵やなんかを親切に渡してくれた、本当に泊まっていってもいいみたい……その、アルマちゃんと一緒に……!!

「よ、よろしくお願いします……」

控えめに私を見上げる視線に、私の迷いも吹っ切れた。

今夜はアルマちゃんも加えての味覚祭りだ。

これから始まるごちそう作りに向け、私は肌寒さも忘れてジャージの袖をまくり、巨大な籠を背負いなおした。


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夜の集落を往く。

長老がいいと言った、私達も納得した、それを喜んですらいる。
でも、やっぱり不自然だ、こんな小さな女の子を見ず知らずの人間に預けっきりなんて。
長老さんは本当にアルマちゃんを大切に想ってるのかな?
タマを抱いた白い背中が私とユウの前で可愛らしく揺れている。

「こっちですよ、ユウさん、ティアさん!」

「はい。
アルマはモンブランケーキは好きか?今日はティアがおいしいモンブランケーキを作ってくれるからな、おなか空かせておくんだぞ?」

「ほんとう!?モンブラン大好きです!
お母さんがよく作ってくれてたから!」

「──!」

はっとした。
ユウも同じだったみたいだ、特にユウは、私にもお母さんが居なかったことを気にかけてくれるあまり、この手の流れには人一倍敏感だ。
リリーナのお父さんの話を聞いたとき、一番困ったような顔をしていたのもユウだったしね。
私としては慣れっこ……まぁ、私の場合はお母さんの記憶がほとんどないからなんだろうけど……。
ここだけの話、私のお母さんはすごい人だったようだ、お父さんはことあるごとにそんな話をしながら写真たてのお母さんをなでていた。
ちなみに私の髪はお母さん譲り、世界的に見ても珍しい明るさの髪。
写真の中のお母さんと私は同じ髪の色をしている、これについてもよくお父さんは「母さん譲りだ」って言っていたし、私が誕生日を迎える度に「母さんそっくりになってきた」と笑っていた。
なんでも、私のお母さんは一国の皇帝の息子さんと結婚が決まっていたのだけど、戦乱の最中で知り合ったお父さんと一緒に駆け落ちしたんだとか……!!
……どうも出会いの流れを聞くと、死にかけてたお父さんをお母さんが助けたみたいな話だったけど……お父さんよりお母さんのほうが圧倒的に強かったみたい……というより、私のお母さんが……うん。
王国の博物館にお父さんと二人で行ったときにその話を聞いて、それから私は髪を染めなくなったんだったね。
慰霊碑にお父さんの名前が刻まれていたのには私も驚いたっけ。
当時は慰霊碑がなんのためのものかもわからなかったけど、大きな綺麗な石にお父さんの名前が書いてあったことに純粋に驚いた。
それで引っ越してからユウと初めて会ったんだったね……あの時は髪の下半分が真っ黒だったからユウは驚いたかもしれない。
ふと、そんなことを思い出して、アルマちゃんの頭を撫でてみた。
不思議そうにきょとんとした顔が私を見上げている。
アルマちゃんのこの月明かりみたいな髪も、私と同じくお母さん譲りなのかな?

「アルマちゃんの髪、綺麗ね!
今日のお月さまみたいだよ」

秋の夜月は明るくて、透き通っていて、白くて綺麗だ。

「えへへ……お父さんも…ほめてくれてました……」

何処のご両親もいっしょらしい、不意に笑いがこみ上げてきて、三人で小さく笑った。
ユウも少しほっとした様子で私が金塊をたけのこと勘違いした時の話を始めた。

程なくしてアルマちゃんの家について、本当に楽しい時間を過ごした。
時間が時間だったから、ご馳走を食べてからお風呂に入ったらすぐに寝る時間になっちゃったけど、とても有意義な時間だった。
あれほどユウが楽しみにしていたモンブランケーキは結局タマが平らげちゃって、アルマちゃんと一緒にサツマイモのケーキを作り直したり、お風呂では結局演劇の歌を歌うことになったり、パペット人形をひとつアルマちゃんにあげたり……。
なにが大変だったって、調味料がなくて、長老の家とアルマちゃんの家を行ったりきたりしたことだ。
最後の最後のバニラエッセンスを取りにいくまで、いやな顔ひとつしないで対応してくれた長老には頭があがらない。
この数時間、確かに私はお姉ちゃんで、ユウはお兄ちゃんだった──

──それで、呪われた王子様は悪ーい魔女に魔獣の檻に閉じこめられちゃうの!」

そして夜も更け、後は眠るのを待つだけだ。
私はアルマちゃんと一緒のベッドに入って、ある『童話』を話している。
このベッドはアルマちゃんとアルマちゃんのお母さんのベッドで、アルマちゃんはよくこうしてお母さんとゆったりした夜を過ごしていたらしい。
ユウはタマと一緒にアルマちゃんのお父さんの部屋を借りてる。

「お姫様は、どうなっちゃったんですか?」

「ん?お姫様はね、王子様が大事にしていた杖で、魔女と戦うんだよ!」

「……え!?」

「大丈夫、お姫様はね、剣と同じぐらいに魔法が得意なの!
でもそれがさ、すごいんだよ!?魔女、意外と武闘派なのよ!
魔女のくせに魔法の槍を振り回したりするの!
お姫様は魔女を倒して王子様を助けに行かなきゃいけないんだけどね、魔女が強くてなかなか助けにいけないの……」

「そんな…!!」

いちいち反応が可愛らしくて、物語に熱が入ってしまう。
笑顔で喜んだり、眉毛を八の字に困らせたりと、アルマちゃんは表情が豊かだ。
薄暗い部屋の中、私はアルマちゃんが眠るまで話を続けることにした。

「結局王子様は王子様で勝手に魔獣を倒しちゃうんだけどね。それで、お姫様は呆れて王子様を杖で殴ります。
魔女は王子様が戻ってきたことで悪いことをするのを諦めるの」

「……そんな……でもそれじゃ呪いは……」

「……解けないよね~。
ほんとね、王子様が死んじゃうんじゃないかってね、お姫様は王子様と狼と一緒に歩き回るの、手当たり次第に国の人達にお話を聞くんだよ」

「……うん!」

「でも、やっぱり王子様の呪いに関するお話は聞けなくて、お姫様と王子様はがっかりしながらお城に帰ってくるんだけど……。
その晩、結局呪いが解けなかったことを嘆きながらもお姫様と王子様は出会ってからのお話をするの。
王子様はね、あきらめないっていうんだけど、本当は諦めてるのにお姫様も気づいちゃうの。
だって、王子様、ちょこちょこ泣きそうな顔するからさぁ……うふふ」

「……じゃあ、王子様は……」

「それからね、寝る前に、とうとう王子様が返事をしなくなって、お姫様はお話をやめてしまいます!」

「死んじゃったの!?」

「いや、王子様はね、お姫様にバレないようにお城を抜け出すの……。
お姫様は、決意を固めた王子様を引き留めちゃいけないから必死に声を殺して王子様の方を見ないの。
そうして王子様は狼にお姫様を託す話をして、お城を出て行きます。
その話はベッドのお姫様まで筒抜け。間抜けだよねー。
去っていく王子様の背中を、お姫様は狼と一緒に窓から見送るの…あぁ…悲劇悲劇」

「……なんで!!王子様ひどいよ!!」

「それは、あれね。
そうかもしれないけど、お姫様はね、王子様が不器用なの知ってるから……ね。
最期ぐらい……」

「……でも……」

「アルマちゃんにも大切な王子様ができたらきっとわかるよ」

「……」

「それからなんだけどね、この童話のすごいところはさ」

「どうなっちゃうんですか!?」

「次の日の朝、王子様が普通に帰ってくるの!
ボロボロの服で、でも、無傷で!!」

「……え!?呪いは!?」

「……なんか、お姫様が殴った時に解けちゃったんだって。
よくわからないけどね……」

「でも!王子様が帰ってきてよかった!」

「うん、そうだね!私も良かったと思うよ!」

そう。
そんな難しく考えなくてもいい。
童話でも、そうでなくても、終わりよければ全てよし、お姫様と王子様の旅は全てがよし。

「ふあぁ、眠くなってきちゃいました」

「ほんとう?アルマちゃんもそろそろ寝ようか!」

「待ってください、もうちょっとだけ……」

「……ん?」

「お母さんといるみたいで……。
もうちょっとだけこのまま……」

「……そっか」

私は、お姉ちゃんを通り越してお母さんになってしまったみたいね。
母性本能の赴くままにアルマちゃんを愛でるのも悪くないわね!

………でも、やっぱり変だ。

聞いちゃいけないのかもしれない、けど、もしアルマちゃんがよかったら……聞かせてほしい。
アルマちゃんには家だってあるし、その家だってまるで少し前まで人が住んでいたような感じ。
でもアルマちゃんには両親がいなくて、長老宅に居候していて……。

「──ねぇ、アルマちゃん?」

「……なーに?お母──!
あ、ごめんなさい…なんですか?ティアさん……」

「あの…アルマちゃんのお父さんとお母さん……」

──沈黙が、部屋を包んでしまった。
やってしまったと、今更ながら後悔する。
私はお母さんとの思い出がないから平気だと想ってたけど…アルマちゃんは違う。
ここがそうであるように、アルマちゃんがさっきそう言ったように、ここにはアルマちゃんとご両親の生活があって、思い出があって……私とは、違うんだ。
こんな小さな子の気持ちも考えることもできずに私はお母さんだとかお姉ちゃんだとか……恥ずかしい。
ひどいことをしてしまった

「──いや…ごめんね、アルマちゃん…私──

「いなくなっちゃったんです」

──え!?」

「お母さんがいなくなっちゃって……そのあとすぐにお父さんも……」

なにが起こったのかは聞かなかった。
憂いも悲壮感も含まない真っ直ぐな声に、きっとアルマちゃんにも答えられないのだろうと、直感で感じたからだ。
でも、それなら納得だ。突然いなくなってしまったなら、そりゃあ家だってそのままにするだろうし、いなくなってしまった両親に代わって長老が面倒を見ているのも納得だ。
長老から特別アルマちゃんにたいして思いやりらしい思いやりが感じ得ないことや、長老の言う『アルマちゃんが不幸』というのも、なんとなくわかる……気がする。

私はアルマちゃんのおでこに手を置いて、ただその吐息が寝息に変わるのを待った。

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アルマちゃんが眠った後も、私はしばらく考え事をしていた。
お母さんについてだ。
私のお母さんは、私を産んですぐに死んじゃったと聞いた。
忌日が刻まれたお墓も見たし、残っている写真も少ないし、どうやら本当にお父さんと知り合ってすぐに亡くなったようだ。
私は、お母さんのことを写真でしかしらない。その残っている写真だって私と一緒に写っているわけでもなく、ただ、お姉さんが微笑んでいるだけ…。
血のつながりは写真のお姉さんと同じな私の髪色が証明しているし、お姉さんの顔は今の私によく似ている。でもはっきり言って写真のお姉さんがお母さんだという実感は湧かない。私があの人におむつを変えてもらったり、あの人のおっぱいを吸ったことがあるのかどうかも怪しいしね。

……どういう人だったのかな……。
もし、お母さんが生きていて、私と一緒に生活していたら……私の人生に大きな変化はあったのかな?

すごい人だったっていうし、私があのお母さんの娘であるだけで、街中の人からちやほやされてたのかな……もしそうだったら、私はユウと出会わなかったかもしれない。そう考えるとお母さんの存在は私の人生に大きすぎる影響を与えることになる。
そうじゃなくても、もしお母さんがいたとしたら、お母さんは私がユウと旅にでることを許してくれたのかな……?
お父さんは、どうして私が旅にでることを提案してくれたのかな……。
どうして…反対しなかったのかな…。

ふと気になって、隣で眠るアルマちゃんを見てみた。
すごく幸せそうな寝顔だ。布団の下では、小さな手が私の服の端っこを握っている。
愛おしく感じて、その小さな手を上から握ってみた。
暖かくて、かわいらしくて、気持ちが落ち着いていくのを感じる。

──お母さん……か。

この愛おしい感覚を何倍にも膨らませたものが母性なのかもしれない。もしかしたら、もっと別の気持ちをお母さんは感じるのかもしれない。
お母さんの気持ちが少しでも理解できたら、私は自分のお母さんについてももっと深く知ることができるのかもしれない……。

でも、知ったところでやっぱり私にはお母さんはいない。

「…むにゃ…おかあ…さん…」

ちがうよ。

「私は……お母さんにはなれないよ……。
私は『お母さん』を知らないから……」

何やってんだろ。
アルマちゃんの寝言にすらも、私は自信をもってハッタリを張れない。
実はお母さんがいないことは私が思っている以上に私の中でコンプレックスだったのかも……。

……

…………

…………………知らない。私は、お母さんなんてわからないけど……

「……お姉ちゃん……って……呼んでくれたら……嬉しいな……」

……なんてね……。
私はお姉ちゃんもいないから、結局お姉ちゃんも知らないんだ。
けど、私はアルマちゃんのお母さんにはなれない代わりに、お姉ちゃんになりたい…。
少しでもこの子の心の隙間を埋めてあげられたら……うん、私には理解の届かない隙間だけれど、それでも少しでも……私と……いや、私が……だ、気持ちの全てとまではいかなくても、理解の届くまでは……。私もアルマちゃんも、お母さんがいないという事実には変わりがないんだしね……。

……これはちょっと、エゴかな?都合が良すぎるかな?押しつけがましいのかな?……悪いことなのかな……。
私は、この子を演劇を見せに連れて行ってあげたい、おいしいチャーハンの作り方を教えてあげたい、いろんな世界を感じてもらいたい……幸せを分かち合いたい。

この子がお母さんと一緒に出来なかったことも、お姉ちゃんとして、一緒にしてあげたい。

「……むにゃ…てぃあ……さん…」

ちがうよ。

「ふふっ…『お姉ちゃん』って、呼んでもいいんだよ…?」

うん、それがいい。
ユウにわがままをお願いできるかな?

旅にはきっと連れていけないだろうけど、もう少し、もう少しだけ、私はアルマちゃんと一緒にいたいな。

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朝だ。
ふと目が覚めたときにはカーテンの隙間が白く光っていた。
右手に感じた暖かさがアルマちゃんの手だと気づいたときには私もさすがに驚いた。私は一晩中アルマちゃんの手を握っていたようだ。
その手をそっと離して起きあがろうとすると、布団の中で何かが引っかかった。
私のパジャマを引っ張っている、どうもアルマちゃんも一晩中私の服を掴んでいたようだ。かわいいなぁ。
アルマちゃんには服を掴ませたままにして、私は洗濯乾燥済みの鬼コーチジャージに着替えた。

────

私は打算的なできる女だからね!
今日はユウにわがままを言うために、『食』というユウの弱みにつけ込むことにした!

「……おはよ。
……お?なんだ?今日は朝から豪華じゃん……!」

私が台所で鬼コーチ特製朝食を鬼のように作っていると、早速右小脇にタマを抱えた平凡魔法使いローブが顔を出した。
左手をシャカシャカとせわしく動かしながらブクブクの口元のまま洗面所へと消える。そして戻ってきて、タオルでそのそばかす顔を磨きながらのぞき込んでくる。この鬼の調味料さばきをみるといい!

「……っはぁ……!
これは……!
味覚祭りの二次会!って感じだな!いつもあんがと。食卓周りは俺が準備しとく!あと、食器も洗う!」

「ありがと!
アルマちゃんも食べるからね!しっかりつくらないと!」

食いつきよし!
ユウはぽいっと床へとタマを降ろすと、ぱたぱたとタマ用の皿を用意して、自分の魔法で凍り漬けにしていた獣肉を火の魔法で炙っている。
涎を垂らしながら延々と尻尾を降り続けるタマに『まて』をしつつ、私の背中越しにユウは話しかけてくる。

「アルマは?」

「まだ寝てるよ。私ね、お母さんみたいだって!
よっぽど安心したみたいね、ぐっすり寝てたよ!」

「そっか、お前はお母さんっていうよりも、近所のドジなお姉ちゃんって感じだけどな…」

タマが待ちきれずに肉にかぶりついた!
へふんへふん!とか声みたいな咳?を出しながらばたばたしてる。どうやら炙りたての肉はタマには熱すぎたみたいだ。
ユウはため息を一つつくと、マナ水を取り出してそのまま炙り肉にぶっかけた!……男の料理……かな?悔しいけど、私以上に『鬼の調味料さばき』だと思う、それは。
というか、マナ水は調味料じゃない。

それにしても『お姉ちゃん』かぁ……やっぱり悪くない無いなぁ、ふふん!

「そうでしょう?お姉ちゃんっぽいでしょう?」

「なにどや顔してんだよ、誉めてねえよ」

「…………」

マナ水で濡れた肉をぺちゃぺちゃと必死に食べるタマはやっぱりかわいい。
変身してたら熱かろうとなんだろうと、あんな肉切れぺろんと食べちゃうからね…普段は小さいタマは無反応だけど、こういうときは小さいタマの方が表情豊かだ。

雰囲気はいい。
私はやる。ユウにわがまま言う!
………やるなら、今だ。

「そうだ、ユウ?」

「どうしたい」

「……あのね……?」

「おう……」

「……私ね……?」

「うん……」

「アルマちゃんと遊びたい!!」

「……おう。
その前に荷物取りに戻ろうぜ。荷物を街から回収したあとまたここに戻ってくる方向で!」

杞憂だった。
ユウは特に驚く様子もなく、反対する意思も見せず、ニコニコでタマの頭を撫でながら肯定した。
私は無意味に張り切って作った料理の数々を眺め、何となく損した気になる……豪華なのには越したことはないし、アルマちゃんも食べるからこの方がいいんだけどね。
ともあれ、もう少しここにいることができるってことは決まりね!
できればアルマちゃんも麓に降ろして街を連れ回したい!
………この件に関しては、長老に相談だね!

「どうせ降りるならさ、アルマちゃんも連れて行こう?
長老に許可とってさ!」

「……お、そうだな!
ここよりも街の方が遊べそうだもんな!
じゃあそうするか!きっとアルマもよろこぶぞ!」

そうして私とユウはこれから訪れるであろう楽しい一時へ向けて、期待を膨らませながら朝食の準備を進める。
せっかくだからサプライズにしようということで、長老からの許可を得るまではアルマちゃんには内緒にしておくことにした。

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ずるいよ!私も人間を滅ぼしたい!

過激な思想が私の頭を埋めた、ざっくざっく……。
思い出しちゃった、私の料理をうれしそーうにはぐはぐ頬張るアルマちゃんをみて、私は思い出しちゃった。
ライラさんが言ってた『モココは妹にそっくり』という話。
モココさんもレイラさんも、ライラさんの料理が大好きでたらふく食べていたと、彼…彼女?は話していた。今私はその状況に酷似した状況にいる。
なるほど………これは……。
そりゃ、ライラさんの悪行のためにユウが死にかけたり、タマが殺されかけたりしたことはどうがんばったって許せない…!!
でも、出会ってちょっとのアルマちゃんでもこうも可愛いのだ、それなら、ずっと一緒にいた妹なんて間違いなくもっとかわいい……それが理不尽に無惨に殺されたとしたら、ライラさんがおかしかったとは今となっては思えない。むしろ正常だ、おかしくならない方が異常だったんだ。
あの人はユウやタマに害を与えられて怒った私と同じだった。

……んでもまぁ、だからこそね、私は悔しかったんたけど……。
なぜ、人はわかりあえないのだろう。

──めずらしくちょっと真面目な気分に浸ってたら、きょとんとした様子の黒と薄金の眼差しが私に向いていた。
あわてて取り繕うように、私は豪華な食事を頬張った。

朝食後、適当に荷物整理を済ませたら、私達は三人で長老の家へと向かう。

「もう……いっちゃう…んですか?」

サプライズを仕込んでいるとはいえ、この寂しそうな八の字眉には罪悪感を覚える。

「んー、そうだな、でも、もうちょっとだけ一緒だ。
ほら、長老とお話するまでだな!」

「……そうですか……」

もう!なんでこう、ユウは!
ほんとに昔っからなんでこう!人をからかうのが好きなのかしらね!あげて落とすもの!
もうちょっとって期待持たせつつ、後で長老とお話するまでって!事情を知らないアルマちゃんからしたらそれ『あと数分』じゃないの!!
しょんぼりしちゃったアルマちゃんに視線を落とし、頭の後ろで手を組みながらカラカラ笑うユウを睨みつけた。
そんな私をみて、ユウはさらにカラカラ笑うだけだ。
……あれこれ、最初から私をからかうのが目的だったんじゃ……?

長老の家についた。
やっぱり数分だ。
アルマちゃんの顔が通り雨の空がごとく曇っていく、ユウの笑顔が通り雨が過ぎたがごとく晴れていく……この人ほんと性格悪いなぁ……。

「おお、おはよう。
アルマ、楽しかったか?
ん?お嬢さんは、『収穫』は?」

「あー、あの、私、旅のリュックもあのぐらい大きくて…その、旅にはもっていけないので、どうぞ集落の皆さんで分けて召し上がってください」

出迎えてくれた長老の元には、集落の若い人達も何人か集まっていて、私とユウの顔を交互に見ている。

「……長老、彼らは?」

若い人の一人が長老に聞く。

「あぁ、昨晩な、遭難してここにたどりついたらしい。
……そうだな、遭難したのなら、帰るのは大変だろう。
この辺りはゴブリンもでる、若いのを何人か寄越すから、彼らと共に下山するといい」

あごひげを撫でた長老から、優しい提案がでた。
いや、うん、すごく気が利いてて、ありがたい提案なんだけど……

「いや、俺たちは大丈夫ですよ。
二度同じ遭難なんかしませんよ!……それより、一つ。その、アルマなんですけど、今日一日、街で遊ばせてもいいでしょうか?」

そう!それだ!
ほら!ね!アルマちゃんの表情も……あれ?
ユウの提案を聞くも、アルマちゃんの顔は暗いままだ。
心なしか、長老や集まってる若い人達の顔も暗い。
困惑する私達に対し、しばらく間をおいて長老は口を開く。

「……ダメだ。アルマは出せん」

「「……え?」」

きっぱりと、迷いの一つもなく断られた。

「ど!どうして…」

思わず口をついてでた私の問いに、長老はすこし迷惑そうに眉根を歪ませながら、しかしすこし申し訳なさそうに一言だけ応えてくれる。

「その子が集落にいないと、困るんだ」

それだけだった……。


納得は……できなかったけど、仕方なく私とユウは集落の若い人たちと一緒にポポラマ山脈を街へと向かって下っていく。
若い人たちは三人ついて来てくれて、彼らはそれぞれが長老の家に有った武器の一つを背負っている。……つまり、あの武器の数々はこういう時に使うもので、長老の家は武器庫代わりだったということだ。それにしても数が多すぎたように思うけどね。
最後の寂しそうなアルマちゃんの表情が、私の頭の弱いところをつつく。
心なしか、山全体が昨日よりもよりいっそう秋で、でもそれはきっと、私の心が見せてる景色で……つまり、私は今寂しい。
旅っていうのはこういうこと。
アイリにしろ、お姉さんにしろ、コトちゃんマコちゃんにしろ、リリーナにしろ、モココさんにしろ……仲良くなってもやっぱり別れは訪れるもの。

ここは割り切って、諦めるしか無いことだ。
別れがなくては、これまでの貴重な出会いもなかったかもしれないし。

今まで別れてきた人達はみんな大人で、それもわかっていたから……みんな、寂しそうにしつつもどこか明るく別れることができた。
なんていうか『夜は眠るもの』みたいな暗黙の了解の上に成り立ってたみたいな…そんな別れ。
でも今回のそれは明らかに違った。
うつむいたまま、唇を一文字に結んだままで右手を挙げてたアルマちゃんに、私はどうしようもなく胸を痛めた。
『夜はどうして寝ないといけないのか』
それを子供に説明するのは難しいことだ。
タマはそれが理解できなかったからついてきちゃったのかもね……なんて。

さっきからちょくちょく、珍しいほどに困った顔をしたユウと目が合う。
ユウも、今回の別れに関してはどこかおとしどころの悪さを感じたみたいだ。
私の表情をみてユウはひとつ、ため息で雲を吹くと、一緒についてきてくれていた集落の若い人たちに話を切りだした。

「あの、一つ聞いていいですか?」

「おん?どうしたんだ?」

三人の内、さっき長老宅で私達について聞いていた人が反応した。
ユウもきっと気になっていたのだろう。
私はざっくり聞いたからね…あえて聞いたりはしないけど。

「……あの、アルマの……ご両親は……」

「………うーん」

やっぱり。

控えめなユウの問いに、若い人たちは何故か視線をあちこちに逸らして唸る。
どこか都合の悪いことを話すような、隠すような、素直に困っているように見える。
そりゃね、二人そろって神隠しなんて──

「母親は……ある日急にいなく……なったんだよな?な?」

「ん?……おう、そうだ!そう、急に行方不明で!」

「で!でだ!父親は!そう……ゴブリンと戦って……亡くなった……」

「そ!そうだった!父親はゴブリンだった!」

「そうだ!……いやぁ、可哀想になあ……」

「……そう、だったんですか……」

って、んんんんん!!?
ちょ!ユウも!「……そう、だったんですか……」じゃないよ!この人達、急に三人揃って口を開いたかと思えば、どう見ても怪しすぎ!!
なんか、急に取り繕うように、無理に三人で話を合わせたかのように、ぶんぶん頷いたり、おうおう肯定したり、栗が火の中で弾けるようにおおげさに反応したり……。

「ほ、ほら、あとは……この路を真っ直ぐで山を降りられる。
気をつけてな!」

「はい!ありがとうございました!」

「……えっ!?あ…あ!ありがとうございまし……た?」

私達をその場において、若い人たちは三人揃ってさっさとまた山を登っていってしまう。
いや……露骨……過ぎるでしょう、いくらなんでもさ……。
ナチュラルに「はい!ありがとうございました!」って……ちょ、ユウ……あの反応、怪しく感じないわけ?

「ん?なんだよ?どうした?」

呆れはてた私の視線にユウは気がついたのかもしれない。
でも、ユウはアルマちゃんから話を聞いてたわけじゃないからね……別にどうとも思わないのも自然といえば……自然か。

「いや、あのね……アルマちゃんが言ってたのと少し……」

「……は?」

「アルマちゃんから聞いた話では、確かにお母さんは行方不明だったけど……お父さんも急にいなくなったって言ってた……」

「……ん……?
そうなの?
てか……あぁ、『いなくなった』って、『亡くなった』って意味で言ったんじゃないのか?」

「んー…──

ここで私は話をしてくれたアルマちゃんの声と様子を思い返す。
それはたしかに、どこか『無関心』にも近い、なんていうか『理解の外』みたいな色を含んでいたように思う。
それに私は『突然いなくなったからこその、今のアルマちゃんの状況』という納得の判断を下した覚えもある。
もしほんとうにアルマちゃんのお父さんがゴブリンに殺されたのだとしたら、それは最低限アルマちゃんは知るべきことであって、アルマちゃんからそれをわかっている様子が見受けられないのは不自然だ。
よって、アルマちゃんを信じるのだとしたら、少なくとも、アルマちゃんのお父さんは本当に行方不明。
若い人たちの話を信じるならば、さっきの様子からしても絶対『アルマちゃんには隠している』もしくは『アルマちゃんに対しては隠さなくてはならない理由があるはず』だ。
そんな話をまとめてユウに投げてみた。

──と、わたしは感じた…ってか、思う」

「……おい、それ、どう考えても変だろ。
怪しすぎだろ」

そして、ユウも納得してくれた。

「じゃあ、あれだな、当初の予定とは狂ったけど、その話の真意も気になるし……アルマとも遊んであげたいしな!
荷物拾ったら集落に戻るっていう第一案に戻そうか」

「うん!アルマちゃんへのサプライズにはなるよね!それはそれで!」


とは言っても、この段階では私達はアルマちゃんの両親に起こった悲劇の話についてはさほど興味はなかった。
単純にアルマちゃんと遊びたかったから、むりやりまた山に登るための理由が欲しかっただけ。
事実、アルマちゃんの両親については、私達は真相のために積極的に動いたりもしなかったしね!

あとから街についた私達は、衛兵さんにタケノコをもってくるのを忘れたことを咎められ、それを拾ってくるという話も込みで、またポポラマ山脈へと登ることにした。
でも、今度はいつもの剣士服で。
ユウも、いつも通りの黒いローブで、だ。

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ユウが言ったとおりだ。
『二度同じ遭難なんかしない』
私達は、次はちゃんとした目的を持って登山をしている。
ついさっき下ってきた路を、草木の隙間を、集落へと向かって真っ直ぐ駆け上がる。
日は高く登り、白い光を赤や茶色に変える足下や頭上の秋は容赦なく私の邪魔をする。


「なんでアルマちゃん!街に降ろさせてくれなかったんだろうね!」

数メートル先を跳ねるユウへと私は声をあらげた。
リュックが木の枝に引っかかって甲高い乾いた音を立てる。
枝が折れたみたいだ、パキパキざわざわが五月蠅くて会話がしにくい。
いつも大きくて重いリュックを背負ってる私からしたら日常茶飯事、もっともっと狭い雑木林を抜けたりした日はリュックが破けていたりすることもあるぐらいだ。

アルマちゃんはもちろん、集落の人たちもびっくりするだろうね。朝に麓まで送り届けた遭難者が昼前にまた集落まで戻ってきたとあれば……。
リュックが軽いユウは私と違って跳んだり跳ねたりしながら山道を駆け上がる。
ユウのローブのフードの中でわさわさ揺れてるタマは、特に怖がる様子や驚く様子もなく、ただ揺られるがままにフードから顔だけを出して私を見ている。
もちろんユウはそんなタマを気にすることもなく、邪魔な木などは容赦なくかまいたちで切り倒したり、場合によっては獣でも切り倒したりしながら声を上げる。
数メートル前から少し大きな応答が帰ってきた。

「なんでだろうな!それについてももうちょっと気になるし、それを調べるのも含めての登山だろ!
──あ!いったぞ!」

熊?魔物?
声と共に跳ね上がったユウの股下から毛むくじゃらの何かが顔を出したかと思うと、それはすぐさまユウに後頭部を踏み台にされて、前のめりにつんのめりながら私の方へととたとたと流れてきた。
同じように私は跳ねてその背中を借りる。
どうやらリュックのせいかユウよりも重かったらしく、それは私に乗られた途端にとうとう転んで山道を転がり下っていく。ごめん。

「アルマちゃんも許可もらえないのわかってそうな雰囲気だったもんね!
──っちょ!あんまり枝飛ばさないでよ!」

話しにくい上に、ユウが飛ばしてくる枝やら獣やら魔法やらが邪魔だ。
仕方がなくペースをあげて、ユウの隣に並んだ。

「道が狭いんだから並ぶなよ。
……さっきのお前の話と、あの人達の様子からするとな、あの集落、なんか隠してるぞ」

「それにね、アルマちゃんに都合が悪いことかもね」

私達余所者が、形成されきった『社会』に首を突っ込むのはあまり良いことじゃない。
わかってはいるし、仮に疑問が晴れたからといってそれをどうこうできるような気もしない。
でも、単純に好奇心を満たしたい。
あと、疑問の答えの形次第では、アルマちゃんともっと遊んであげることができるかもしれない。
まぁ、いろいろあるけど、別に焦る必要がないのに私達が今こうして走っているのはきっとあれだ、アルマちゃんを早く喜ばせてあげたかっただけなんだとおもう。

ユウもその辺についてはいろいろ言い訳してるけど、なんだかんだいって寂しそうだった今朝のアルマちゃんが頭から離れないんだとおもう。
惚れ薬の時もそうだったけど、割とユウは小さい子供のことを想って行動を選択する傾向がある。
あの子は、コウタ君だったかな?結局惚れ薬を使ったのかな?
ユウの気持ちがちゃんと届いていたら、きっとあの子も惚れ薬に水道水をつっこんでいるはず!

集落まではたぶんもう少しだ。
そのことに気がついたのか、ユウもちらりと私の目を見て頷いた。
──時だ、ユウが顔をこっちに向けたまま、視線を集落の方へと向けた。
……うん、私にも聞こえた。ユウが口を開く前に頷いてみせる。

確かに集落の方から大勢の男の人たちの大声が聞こえてくるし、一瞬地鳴りもした。
また、もっともっと高くて、耳障りな大声も聞こえてくる──独特の訛り、人語とは確かに違うけど、確かにその響きは言語、ゴブリンだ。
人語を話さないタイプのゴブリン、それに、たくさん!

一気にペースをあげたユウに、私もついて行く。

予想通り、すぐに集落にはたどり着いた。
集落の様子を一望しようとしたのか、最後に集落の端の一件の屋根を踏み台にして高ーく跳んだユウに倣って、私も背中の重たいリュックをぶん投げつつ、集落が一望できる高さまで跳んだ。
視界に広がる木造の建物の屋根の数々と、私達の出てきた方とは逆端に集まる村の男の人たち、そして、浅黒かったり、緑っぽい色をした『人型のもの』。

ゴブリンだ。
集落の男の人たちと同じぐらいの数のゴブリン達が武器を持って集落の端に集まり、それと対峙するように集落の男の人たちが長老宅にあった武器の数々を手に集まっている。

でも、私達の目を最も惹いたのはゴブリンの群でも、武装した集落の人々でもなかった。

男の人たちの後ろに見える、昼間に見るには不自然な光を放つ月光の髪色。
その小さなつむじは、泥や石、木で出来た魔物に囲まれている。

アルマちゃんが、人型の魔物に囲まれている──!!──

──ユウ!!!」

私が叫ぶが早いか、小さなタマが豆粒になるが早いか、ユウはフードからタマを荒々しく取り出すと、そのままタマをゴブリンと村の男の人たちとの間に投げ込んでいた。
巨大化したタマが音もなくゴブリンと人々との間に割って入るのとほぼ同時に、私の飛爪刃が、ユウのフロスト=スフィアが、アルマちゃんの周りの魔物を破壊していた。


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状況が──一気に動いた!

アルマちゃんのか弱い悲鳴が響いたのと同時に、集落の男の人たちは慌ててアルマちゃんの方を振り向くいた。
それをみるやいなや、彼らと対峙していたゴブリンの群が奇声をあげつつ、その小柄な身体からは想像もつかないほどの速さと力強さで武器を振りかざして集落へとなだれ込む。

「タマぁあ!!」

ユウの声に弾かれるように動き出したタマは、その巨体を遺憾なく駆使して先頭集団のゴブリンを一掃しつつ、交戦を始める。

「アルマだ!アルマがなにかにやられた!まもれええぇええ!!!」

「……なっ!なんだあの狼は……!?
ご、ゴブリン共とやり合ってる……?」

「加勢しろおおお!!」

「魔物!?魔物なのか!?」

様々な箇所から、様々な声が挙がった。
アルマちゃんの安否を気遣う声。タマに驚き、畏怖する声。タマに加勢するように、ゴブリンへと向かう声。
一度落ち着くようにと、投げ回される声。

いまいち状況が飲めていなかった私達が放った第一手が、集落全体も混乱に陥れてしまったみたいね……でも!

──アルマちゃん!!」

「ティア!お前はアルマと状況説明を!!
俺はタマに加勢する!!」

「うん!!」

やることは一つだ。
アルマちゃん及び、集落の安全の確保。
うごめく人とゴブリンたちの群へと向かって、風の魔力を纏ったユウが割り入っていく、着地点で大地の花が開いたのが見えた。
………集落の人もいるんだから、あんまり派手に魔法使っちゃだめだよ、ユウ……!!

私は私で家の煙突に着地後、すぐさま屋根を蹴り、アルマちゃんの前へと降り立ちつつ剣を構える。

「……けほっけほっ!どうして……!?
ゴーレムが……!!」

土煙で様子はみえないけど、確かに私のすぐ後ろでアルマちゃんの声がする。
……無事でよかった……!

「──なっ!!あんたは!?」

「加勢します!アルマちゃんは私が守りますから!皆さんはユウとタ──っ!あの黒い男の子と白い狼と一緒にゴブリンを!!」

土煙が晴れ、私の目の前には青ざめながら駆けてきた集落の人たちがいた。
そして後ろには土煙でむせかえるアルマちゃん。
集落の人たちは、私とその後ろのアルマちゃんを見るなりほっとしたような、またはいぶかしむような様子を見せて、次いでまじまじとメイガスエッジを眺めてくる。


「あ……あんたらが……『アルマのゴーレム』を一撃で……!?」

「……へ?」

どういう意味だろうか。
『アルマのゴーレム』……?
振り返って、咳を飲み込んだアルマちゃんを見る、アルマちゃんの周囲には、少なくともユウを相手にするときも、リリーナやライラさんの時にも見たことのない形の魔法陣の反応痕がうっすらと残っていた。
やがて消え去ったその形に、脳裏に浮かんだのはタマジローさんの『どこでも魔法陣』、あれに近い雰囲気の魔法陣がアルマちゃんの周囲にあったようだ。

「けほっ!んぐっ!……はぇ!?てぃ!!ティアさん!?けっほ!!」

「アルマちゃん!大丈夫!?」

「あっ!ちょっと驚いて……えほっ!!
それよりも今は──!!」

アルマちゃんの視線の先に、私は状況を思い出した、そうだ、ユウとタマが戦ってる!

「みなさん!お願いします!!
風のエール!!」

「──なっ!」

『よしきた!狼と魔法使いに加勢しろお!!』

──嘘!?はやい!?

私は目を疑った!
アルマちゃんから不思議な魔力を感じたかと思うと、振り返った集落の人たちがすごい速さでユウとタマに加勢していく!?

見間違いじゃない!今、アルマちゃんから何かの魔力を受け取った人たちと、最初からユウたちと一緒に戦ってた人たちじゃ全然動きが違う!!

「暁のエール!!」

今度はアルマちゃんがなにか、ユウの周りの人たちに魔法を使った。
……嘘だ……!
アルマちゃんから魔力を受けた人が振った斧が!……ただの集落の人が振り下ろした斧が……ほんの少しだけど、地面を抉った……!?

よ……よくわからないけど、明らかに武器の振り方も立ち回りも素人な集落の人たちが、ただのごり押しでゴブリン達を圧してる……!?
これが……もしかしてアルマちゃんが言ってたゴブリンを追い払うお手伝い……!?
……お手伝いどころか……アルマちゃんが、まるでアルマちゃんが防衛の……──!

ぼけっとしてる場合じゃない!
逃げるように、でも、明らかにこっちを狙うように、何体かのゴブリン達が激戦区を抜けでて駆けてきた!
狂ったように斧や棍棒を掲げながら向かってくる!
──アルマちゃんには、指一本触れさせない!

「来たよ!アルマちゃん!下がっ──

「ティアさん!?だめ!でないで!!」

──えっ」

アルマちゃんの声を聞いて、私はあわててバックステップでアルマちゃんの隣へと戻った。
すると、私が立っていた辺りの地面が地鳴りと共に盛り上がり、組み上がり、大小様々な、数体の土人形や石人形が出来上がった。
これ──さっき私とユウが破壊した──!?

「おねがい!!ゴーレム!やっつけて!!」

私は背筋に薄ら寒いものを覚える。
アルマちゃんの声に反応して、確かに土人形達は唸りのような、響きの様な音を上げ、腕を上げ、それを向かってくるゴブリン達へと振り下ろした!!

間違いない!
──意思をもってる!?……石だけに!?
じゃあ!なに!?さっき私とユウが壊したのって……まさか!!

あわてて私はアルマちゃんをみた!

──確かに人形にはアルマちゃんの魔力が宿っている。
アルマちゃんの周りにはみたこともない魔法陣──いや、正確にはさっき初めてみた──が展開されていて、それはただただ青白い光を放ちつつ、目の前の人形達に力を与えていた。

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やった!アルマちゃんの出した人形の繰り出した大振りな攻撃を避けることもいなすこともままならないままに、かけてきたゴブリンたちがいとも簡単に激戦区へ弾き返される。

「……すごい!あれ!アルマちゃんの言うことを!?」

「はい…ゴーレムたちが守ってくれる内は安心です……。
あ!それよりティアさん!どうしてここへ!?
さっき降ってきた人影は……ユウさんでしたよね…?」

依然として、集落の人たちとユウ達は暴れ回るゴブリンたちを片づけようと暴れ回っている。
どう見ても優勢。タマとユウもいるんだ、心配する必要はないとはおもうけど、アルマちゃんは苦いような、困ったような顔で激戦区をちらちらと見ている。

「そ、さっきの黒いのと氷の魔法はユウ!
それから、あの白い狼はタマだよ!」

「え!?タ!タマちゃん!?うそ!?」

至極素直でふつうな反応だね、私もあのタマを初めて見たときは森の神様の類のなにかと勘違いしたぐらいだし……ね。
相変わらずタマはぐるぐると激戦区のなかで暴れ回っている。
海賊退治の時のように、不思議なほどにゴブリンだけが弾き飛ばされている。
ユウはというと、集落の人が急に動けるようになったことに困惑しているのか、魔力をためては杖を降ろし、キョロキョロしてはまた杖に魔力をためたりと、全く役に立っていない。
私といえば言うまでもない、もう突っ立ってるだけだ。

「うん、かっこいいでしょ?タマ!
なんでここにいるか…だっけ?
そう、遊びに来たよ、アルマちゃん!」

「え…?遊びに……?って、こんなところまで!?朝、街まで降りたのにすぐに!?
はやい!」

きらきらとしたまん丸な目が大きく、私へと向けられる。
相変わらず素直な反応が可愛らしいわね……連れ去っちゃいたい……と、いいたいところだけども……ね。
現状、アルマちゃんの魔法とゴーレムでもって守られている集落。
さっきのゴーレムをだしたタイミングの完璧さ、それから、今こうして私と普通に話していられるほどの余裕。

「なにもないけど……ぜひゆっくりしていってくださいね!」

そう、この余裕。
合点がいったね、長老がアルマちゃんを集落から放したがらなかった理由はさっき私が感じたものと同じ。
それから武器の様子と集落の人たちの様子からしてもやっぱり──そうだ。
ゴブリンの襲撃は日常茶飯事。そして、その集落の要塞になっているのがこのちいさなちいさな魔法使い──アルマちゃん──ってことね。
現に私たちが街まで降りてから戻ってくるまでの短い間にでも集落はゴブリンに襲われている、私たちが今朝アルマちゃんを街まで降ろしていたら、きっといま集落はこのゴブリンたちに苦戦を強いられていたでしょうね。

なんて考えている内に、またもゴーレムが全て破壊された。
慌てた様子で声を上げてバタバタと魔力をためはじめたアルマちゃんを制した。
この状況でああも簡単にゴーレムを破壊できるのなんて……決まってる。

ほら。
ゴーレムの破片の中から巨大なタマが顔を出した。
背中にはユウが乗っかっている、その様子は焦ったような、あわてたような、食器を落として割ってしまった時の様な顔で激戦区を見つつ、ゴーレムの破片を払っている。
そして突っ立っている私とアルマちゃんを一瞥しつつ声を上げた。

「──っおい!なんだよこれ!てかティア!なんだよこれ!?おっさんたち強えぞ!?」

「はい。お疲れさま」

戻ってきたユウにも事情と考察を説明した。
相変わらず集落の人たちはゴブリンたちと交戦中だけど、日常茶飯事ならば特別私たちが助太刀しなくてもどうにでもなりそうだ。
私たちはアルマちゃんに会いにきただけだし、ここで無理に力を振るってもかえって邪魔になりかねないしね、見守ることにしよう。
私の話を聞くなり、ユウは納得したような、驚く様子も見せずにただ生唾を飲み込んでいた。

「……そっか……強化魔法はともかく……あのゴーレムたちもアルマが…な……」

ユウがここまで神妙な様子で声を漏らすなんて珍しいほどだね……どうしたのかな?

「……アルマ……?
あのゴーレムたちって、今、アルマが『操っていた』のか?」

「……?
いいえ?ゴーレムたちは一度お願いしたら自分たちでがんばってくれますよ!」

「……ははっ……マジかよ……」

一瞬、ユウの顔から余裕の色が抜けた笑いが漏れる。
困ったような、信じられないと言った様子で私とアルマちゃんを交互に見やり、タマから降りた。
ついでタマの魔法も解いて、杖をしまいつつ、まずそうな顔ででこに指を置いて語る。

「……そっか……。
まさかな……。
結論から言うと、あの程度のゴーレムなら俺だって召還できる。しかももっと強い奴をな」

「なぁに?ユウ?負け惜しみ?」

いつになく抜けた様子のユウを、私は茶化して笑ってしまった。
でも、いつものユウなら呆れて首を振るなり反論するなりしてくるけど、今日のユウは違った。
ため息を一つと、首を振りつつ吐き出された言葉は惜しみのない賞賛。私も驚いた。

「……けど、俺の『出来ること』とは根本が違う。
俺が出来るのは、魔力で作った人形を操るだけだ。
けど、アルマのゴーレムは全く次元が違う……なにせ、一時とはいえど無機物を生き物に変える魔法だ……単なる人形劇じゃねえ。
魔力から生命を生み出すなんて……並みの魔法使いじゃ……ましてやその幼さで出来るわけがねえ……」

「……え!?なに?……どういうこと……?」

「………アルマは……『本物』だって言ってんだよ……下手したら、お前以上のな……」

「……まさか……!?」

きょとんとした様子でユウの顔を見上げて首を傾げたアルマちゃんに、今度こそユウは本当に小さな笑い声を上げた。
……ユウが……焦ってる……!めずらしい!
……嘘じゃないって……ことだね……。
私とて、昔は天才と呼べる魔法使いだったみたいだけど、それは特別魔法の知識やなんかがなかった人たちがすごいすごい言ってただけで、私もピンと来てなかった。
でも……アルマちゃんについては、この魔法バカなユウが……ちゃんとした知識と根拠をもった観点から吐き出した『天才』。
なるほど……なんか、すごそうだ……!

「……勘違いしてるかもしれねえけど、お前も相当あり得ねえけどな、ティア。
お前以上かもってのはあくまで可能性さ、俺だってお前以上に魔法を扱える人間の存在なんてお姉さん以外には認めたくねえよ」

付け足されたその言葉は今度は自信がなさげだった。

私たちが到着してからしばらく経つ。
もうすぐゴブリン達が折れそうだと感じた時だ──

──ゲヒガギャギゲギャギゲー!!!

みたいな、一際大きな声があがった!
いや、ほんとに。

弾かれるようにして、私もユウもアルマちゃんも、声が上がった方を見た。
その方向は激戦区だった方向だ。声が上がった直後から、急速に戦乱は勢いを無くし、武器がぶつかり合う音や大声が次第になくなる。
肩や手を互いに貸し合い、パタパタと退いて行くゴブリンたち。
集落の人たちは、そんなゴブリンたちを追うことも、駆逐する事もなく、ただ武器を構えたままその様子を眺めていた。

退きはじめたゴブリンたちは、十メートルほどで撤退を止め、またも武器を構えたままで集落に向き合った。
……まだやるつもりなのかな?

立ち止まったゴブリンたちの奥からは、なんだか怒ったような、喋るようなゲヒャゲヒャが聞こえてくる。
そのゲヒャゲヒャの主にヘルメットを叩かれたゴブリンが頭をこくこくと下げてもう一歩下がる。

怒鳴り散らすようにゲヒャゲヒャ言いながらゴブリン達の先頭にたった、一際頭の大きなゴブリンは、ほかのゴブリン達よりも見るからに良い武器や兜を装備していて、それが醸し出す様子からしても、どうやらゴブリン達の中でも上位の存在らしい。

──隊長?
イメージとしてはそれがしっくりくる。

集落の人たちの表情や、所々からあがる困惑の声から察しても……これは日常茶飯事ではないようだ。

一つ、風が吹き抜け、山の落ち葉が流れぬけたとき、それは確かに『喋り』はじめた。

「……ヒッヘヘ、すんませんね……!
今日はアンタらと争いに来たわけじゃなかったんすが、勘違いしたウチのヤツが……ヒッヒ!」

ゴブリン特有の甲高い声が耳に障ったけど……間違いない、あのちょっと偉そうなゴブリン、人語も扱えるゴブリンだ……!!

「今日あっしらがここにきたのは……『再契約』をしようと思って来ただけっしてね!
……契約内容は……言わんでもわかりますよねっ!」

『契約』という言葉に私が意外性を感じたのと同時に、明らかに集落がざわつきはじめた。


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