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──────

帰り道、俺はずっと考え事をしていた。
言い訳というか、なんだ、あいつとどんな顔を合わせればいいのかわからなかったんだ。

青紫と黒だった月夜の森は緑や黄色の目立った朝焼けの姿を現し、生を実感させる。
心地の良い小鳥のさえずりや、昼型の獣や魔物の鳴き声も、澄み切った面白味もない空気には立派な飾り付けだ。

結局というか、やはりというべきか、俺は死ななかった。
そりゃそうだよな、魔法はむしろ呪われる前より調子いいし、通りすがりのハンターのおっちゃんに見てもらった結果、首のあざは綺麗に消えてるみたいだし……おっちゃんからもらったマナ水もよく効いたしな。
しかし愉快なおっちゃんだったな、それにあの魔導弓、普通の仕様じゃなかったけど使いにくくないのかな?
てか、なんであのおっちゃん魔導弓使いのくせにあんなにムキムキだったんだよ、引くのだって魔力が大きいウェイト占めるのに、あんな筋肉要らねえだろ。
そういやおっちゃんに魔物の最後の一匹を横取りされたよな…。
あの魔法……術式変だった。
でも、術式云々以前にやっぱり媒体って大事だよな……今までは杖か指輪か魔導書以外を媒体にする奴なんてみんな変態だと思ってたけど、おっちゃんの弓魔法の威力は凄まじかった。考え改めさせられる。
遠距離に関しては多分俺の魔法とは比べものにならない破壊力だったもんな、おっちゃんの魔法。
……それだけにな、やっぱり剣使ってたタマジローさんはわりと変態だったと思うけどな。あれははっきりいってあんまり必要ねえだろ。
タマジローさんは剣より杖をアイリさんにつくってもらうべきだよな、そうしたらきっともっと強力な、直接攻撃に使えるような風魔法使えるだろ、あの人。
なんだよ、あの見た目で踊り子って。
風で補助してたのはわかるし、たしかに速くて強かったけど……わかるけど。うん、そんなスタイル選ぶからビーストウォーリアなんて変な発想でてきてあげくは獣になんてなるんだよ。

おっちゃんの屈託無い笑顔を思い出しながら青空と葉っぱの下を歩いていると、気がついたときにはすでに街の目の前だった。
こんなときに限って道に迷うことはないんだよな、結局おっちゃんとタマジローさんへの考察が深まっただけでティアに用意すべき顔と言葉を考えることは出来なかった。
一瞬時間稼ぎと検証、説明係にと、ライラさんの家に向かってみるって案も浮かんだけど、あの小憎たらしい微笑みを思い出すにすぐさま薄ら寒さが背中を抜けきり、俺の足先を貸しだし住宅の方角へと向けた。
モココさんが調子に乗ってまだライラさんのとこに泊まってたらまたややこしい話になりそうだしな。
『ホッ…!ホモさんの亡霊!?大魔導師様には指一本触れさせません!実際触れることができるかはわかりませんけど!!アァアメェエエン!』ってな。知らんけど。
案外あの人、聖職者のくせにお化けとか怖がるかもしれねえしな。聖職者にあるまじきモココさんだし。
……つーか、そもそもティアに殴られた時に呪いが解けましたー、なんて、憶測であってもそんな話をあの人にしたら、次はどんな『実験』を用意されるかわかったもんじゃねえ。
メイプリルクールキャンディーやらメイガスエッジやら、今回はたまたまティアの気遣いが味方してくれただけでおそらく次はもうねーぜ。ふざけんな。

……考えはまとまらない。
一歩一歩、止まらない足は確実に貸しだし住宅へと向かう。
どうせわかってるんだ、あいつと─ティアと会うのに作った顔や考えた言葉なんて意味がないのは。
あいつは気にしないだろうし、見抜くしな。
きっと言うんだ、生きてたんなら何だっていいって。

………

……それでもやっぱり申し訳ねえよ。

朝支度でせわしい街を右へ左へと、朝っぱらからきゃいきゃいやかましい子供をみると、なんだか昔を思い出してほほえましく感じる。
今までなら俺たちも朝になったらああやって森の入り口に向かって…手合わせして……喧嘩して、バカやって。
それがあんなに大きくたくましくなってな……まさか俺のために数百年ものの生粋の魔法使い相手に魔法勝負挑むなんてな……ほんとバカだよ。
成長したんだか、変わらないんだか…。

慣れっていうのは怖いよな、俺は結局あいつにとれるべく態度を見つけることもできてなくて、なんか、顔合わせるのも申し訳ないはずなのに“堂々と帰って来ちまった”んだから。

ドアを開け、居間をのぞき込んでみると、そこには肩を震わせて食卓に突っ伏してるティアがいた。
いつもの元気なアホ毛は見る影もなく、やる気のなさそうに食卓へと垂れ落ちていた。

時々聞こえてくる嗚咽に、俺はやはりかける言葉を見つけることが出来なくて、そのまま動けなくなる。

そっとこちらへと向かって来たタマに、胸元に鼻先を押しつけられた。
やっぱりタマはなんだかんだいってもしっかりしてる。

ティアの隣へと戻ったタマは、そっとその肩に前足を置き、鼻先で、ふるえるピカピカ頭をつついた。
鬱陶しそうに起きあがった相棒に、ほっとしたような、訝しむような不思議な喜びが見えた。


──ユウが死ぬ夢をみた──


だっさい顔から放たれた、いっちょ前に洒落てる『お帰り』。

また、後で振り返るべき『今まで』が増える。
俺は生涯、この日のティアを忘れることはないだろう。


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彼の騒動から10と7日。
もちろん、俺の容態に悪化や変化が見られることもなく、ティアもタマもにっこにこだ。
……タマは、ウルウルしてるだけでにこにこはしてなかったかもしれない。
ニコニコする獣なんてなんか不気味だしな。
……まぁ、あれだ。タマだけににっこにこだ。

水の都、肉の街でお祭りがあったり、魔法学館がある街なんかも越えた。
水の都では、二人揃ってブラックランクの依頼を放棄した。たしか、獰猛な主を釣り上げろとかいう依頼だったと思うけど全くでかい魚はかからねえし、どころかそんな魚の影も見あたらねえしで、ティアが轟槌剣打で水面を叩いて小魚を逃がつつ主を挑発するとか、俺が魔法で水温を上げ下げしたりだとか、色々試してみたけどダメだった。
おかげで数日魚料理を喰らう結果となって、魚に飽きた俺たちの次の目的地は、晴れて肉の街に決まったんだ。もちろん、王国に向かいつつな。
……俺の魔法で死んじまったんだよな、たくさんの魚が。やっちまった。

肉の街ではちょうど肉追い祭りなんてのをやってた。
街の近くの野に放たれた家畜を町中の人間で追っかけて捕まえて、喰らう祭りだったんだけど、なにがすごかったってさ、放たれる家畜が強えの何のって……。
屈強なおっさんたちが牛の魔物や豚の魔物、食用グリフォンやなんかをバリバリと料理に変えてく中、俺とティアとタマは、束になって1羽の筋肉ニワトリを狩るのがやっとだった。
野に放たれた数ある家畜の中でも群を抜いて弱そうな、ただ単にムキムキなニワトリだった。
体高はせいぜい80センチ?くらい?だったんだけど、堅えし、やたら力あるし、足早いしで、あんなニワトリ俺は認めねえ。でも、味は最高の鶏だった。ティアの焼き方がうまかったってのもあるかもしれないけど、生きていた時の堅さが信じられないほど柔らかくて、普通のニワトリを何倍もニワトリにしたような味で、塩胡椒でも飽きなかったな。
むしろ、鶏には飽きないけど、塩と胡椒に飽きてくるぐらいに旨い鶏だった。
タマはナマで食ってた。
祭りの後のヒール代金、高くついたよな……。

魔法学館があった街での出来事は意外だった。
魔法学館に見学に行くってったときにはティアはブーブー鳴き始めたけど、いざ見学に入ると俺よりあいつの方がよっぽど楽しんでたからな。
整形魔法体験で自分の顔変えてきゃーきゃー騒いだり、宙に浮く光るプレートみたいな本?を夢中になって小難しい顔で小一時間いじってたり……。
そういやあいつ、魔法学館で新しい日記帳買ってたな。
『減らない日記帳』だそうだ。
『長旅に、人生に備えて!』とか、なんか熱っぽいことほざきながら、毎晩毎晩忙しそうに、何冊も持ってきてた歴代日記帳を減らない日記帳に詰め込む作業をやってたな……ティアは。
日記の魔力による書き写しは、魔法の素人でも簡単にできる『作業』とする販売者の都合の仕様上、さすがにティアのインチキも利かず、地道に詰めてくしかなかったみたいだ。
でも日記のロックだけはその日記帳についてる機能を使わないでちゃんと自分で1からロックしてたな。
相変わらず頑丈すぎるロックで、術式、封式、魔力、どれをとっても俺ですらさっぱりだった。
ロック後の日記はガチガチに固まった真空圧縮パックみたいになってて、投げても殴っても燃やしても凍らせても……つまるとこ俺の持てる全力の全てを注いでも傷一つつかなかった。
そんなことを毎晩やってたらやっぱりティアに怒られた。

そんな愉快な日々のせいか、おかげか、しょっちゅう上がっていた『館の考察』や『モココさんの年齢予想』の話題が少しずつなくなり、主な話題の種が『タマの楽園』へと移り変わっていたころだ。
俺たちは、意外な出来事により話題の時を戻される。

─────

「え?……手紙……ですか?」

「ええ、名前はティアッチ・アルノーティス様宛とあるけど、情報照会によるとこれ、あなた宛のものですよ。
ティア…?アルノーティスさん」

不敵な笑みを浮かべつつ、メガネの端を持ち上げた受付嬢が言う。

俺たちは新たな街へと到着して、新しい依頼を受けようと依頼所へ足を運んでいた。
腕の中で眠るタマを揺さぶりつつ起こし、ティアが受付嬢へと依頼の受注をお願いしようとしていた時だ。
受付嬢はティアの顔を見るなり、名前を見るなり、書類とにらめっこを始めた。
そして一声。ティアから旅の人のペンダントを受け取り、カウンターの奥へとしばらく消えたんだ。
戻ってきた受付嬢の手には、Mをかたどったクッキーの様な様相のシールによって封をされた一通の手紙。
パンパンの封筒より、手紙の差出人がいかに話し好きな人間なのかということが、封を切らずとも伺える。

手紙を受付嬢よりうけとるなり、ティアは俺にタマを預けて小首を傾げた。

うん…てか、タマ……よだれすごくね……?

「……手紙なんてねぇ……アイリ?お父さん?」

「アイリさんもおじさんも『ティアッチ』なんて書かねえだろ……。
なんか、胃が痛くなってきた。二人ぐらいいたよな、おまえのことティアっちって呼ぶ人たち……」

一瞬、傾げられた小首の上の小難しい顔が、難しい顔へとレベルアップを果たしたのが見えた。
と思ったのもつかの間、ぱあっと明るい笑顔が見え、とてもそんな笑顔を見せる乙女とは思えない粗雑さで手紙の封が切られる。というより、封筒の頭が千切られた。
雑だけど、中の便箋を破かないように封筒の頭を千切ったこいつはわりと職人だと思う。
役目を果たし終えても散ることを許されぬMのクッキーに、俺は妙に感傷的になる。

「モココさん!!」

「正解」

「なんだろ。忘れ物かな?」

「リュックの破片かな?たしか、爆発したんだろ?」

「……破片はいらない……」

『たはは…』と、苦笑いを浮かべたティアが、何枚も重ね押し込められた便箋を取り出し、その一枚目の端を丸い目で捉えつつ音読を始めた。


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「えー、なになに?
『拝啓、ティアっち』
なにこれ、敬われてるの?」

「手紙ったらそういうもんだろ?
ほとんど書いたことも貰ったこともないからよくわからないけど」

「そっか」と納得した様子でティアの視線は緩く流れ、その流れを聞き慣れた声が読みとっていく。
あの時のかすれた声、治ってよかったな。

「『今、あなたの手にこの手紙が収まっているということは、ティアっちはまだ旅をつづけているのですね。
ホモさんのことは非常に残念だったけど』……って、ユウ!やっぱりユウはモココさんやライラさんの中では死んだことになってる!」

「化けてでてやろうか?旅の帰りにでもさ」

きゃあああと、手紙を指さし笑い始めたティアを見て、本当に笑い話で済んでよかったと思う。

「そうだね、せっかくだからモココさんたちともまた会いたいね」

「ライラさんとは勘弁な。
あの人苦手だ。俺。
で?続きは?」

「あ、まってね、ここじゃ邪魔になるからそっちのテーブル席にね」

カウンターの受付嬢のお姉さんに一度会釈をして、依頼の受付を一時中断してもらった。
依頼所の依頼書ファイル置き場の近くのテーブル付き座席へとパタパタと向かったティアの後ろについて、向かい合って腰を下ろす。
タマはそのままテーブルの上に寝かせた。
よだれで溺れて起きるタマを想像して、なんだか和んだ。
魔法がなければやっぱりただの子犬だ。タマは。


「ハンカチ、タマの下にしいてあげたら?
で、続きね!
『ホモさんのことは非常に残念だったけど、あなたが旅を止めなくて、ううん、止めてしまうほどに傷つかなかったようで少しほっとしました。
こんなこと書いたら、私にホモさんのなにが解るのかとティアっちは怒っちゃうかもしれないけど、私がホモさんの立場だったら、自分の死を理由にあなたに旅を止めてほしくはないわ。』
……ユウ……?」

「……モココさんの考えだろ……。
俺に、聞くなよ……」

手紙からそらされたまっすぐな視線を感じて言葉を濁した。
まさか俺がモココさんと同じ考えを持っていたとは思わなかった。
思わずごまかしちまったけど、俺が出て行った晩に残した書き置きもティアは読んでいる、俺の気持ちも伝わってる。
でも、ティアは聞いてきたんだ、こいつは少し鈍いからな、うまく想像がつかなかったのかな?
……というか、瀕死になったのは俺とモココさんだけだし、そういう状況に立たなきゃわからない気持ちなのかもな……。
なら、それならさ

「お前がもし死んだとして……俺に旅を止めてほしいと思うか?」

「……だめ」

「……だろ?」

納得してくれたようだ。

が、少し物足りないらしい。
珍しい程に眉間にしわを寄せたティアは、少し考えた様子を見せた後、もう少し言葉を続けた。

「確かに、私が死んでもユウには旅を止めてほしくない。
それなら、ユウやモココさんもそう思ってるのはわかったよ!
じゃあ……もし、もしもだよ?逆の観点で、私が……私に、旅を続けられないような出来事が起きたときに……」

「……?
旅を続けられないような出来事……?」

あくまでも仮定の話だろう。
でも、そんな仮定の話でもティアはいつだって真面目だ。
きっと今回も杞憂だとはわかっていながらも、コイツは無駄に深く考えて、頭を抱えてるんだろう。

「た、たとえば、怪我とか、病気とか……知らない街の知らない法を犯して捕まったりだとか……」

「……?」

「……そうやってさ、やむを得なくなったとき、私が旅のドロップアウトを宣言したら……ユウは、納得してくれる……?」

「………ふむ」

ないだろうけど……そういうことか?
例えば、縁起でもないけど、ティアの腕がなくなった、足がなくなった、目が見えなくなったとかがあったとしたら、コイツは俺の枷になると思ってるんだろう。
枷になるぐらいなら旅を止める。
でも、それでも旅を続けて欲しいとき……要は、死ぬとかそういうどうしようもない問題以外で、ティアが自ら旅をやめることを、俺が許してくれるのか。
ってことか。

……また、ティアに聞き返そうかとも思ったけど、真剣でまっすぐな視線に向き合ったとき、それは野暮でずるいと思った。
でも、答えが出ない。杞憂だろったらそれまでだけど、逆にいつまでも『今』が続くなんて思いこめるのは頭の中がお花畑だ。
ティアが言うほど極端ではないにしろ、いつか俺たちの旅には『選択』を迫られる時がくるだろう。
さっき、俺が何気なく放った『旅の帰り』という言葉もそうだ。
無意識でもそういう言葉がでてくるってことは、俺の中では少なくともこの旅に『終わり』があることを悟っていて、終わりがある以上、形がどうであれ、それをとる『選択』があるわけで……。

初めは一人で旅をするつもりだった、けど、こいつがついてきた。
俺が、こいつの合意の元に無理強いをしたわけじゃない。
だから、俺にはこいつの選択を阻む権利はない。
けど、もしこいつが今、こいつの意志で旅を止めると言ったとしても……俺は……そうだな……そうかもな……

「納得いかねぇかもな」

「……!」

「でも、それがお前の意志なら……俺にはどうすることも出来ないから……そのときは……

「──そのときは!?」

身を乗り出して聞いてくる相方に、タマの耳が迷惑そうに動いた。
なにをそんなに真剣になってるのか……ペールタウンで惚れ薬を作ったときもそうだったけど、こいつは時々変になる。
そのときに俺がすることなんて聞かなくたって決まってるだろうに。

「──そのときは、俺は好きなように動いてみるさ」

「……わかってた」

ほっとしたような、納得したような笑みを浮かべたティアは、黙ってまた席に着いて手紙の続きに目を落とした。
そして、何事もなかったかのように、また声を出す。

「『それと、もし、ホモさんのお墓があったら伝えて欲しいこともあるの。』
よかったわね、ユウ。そのまま生きて伝わって。
『あなたの最期に遺した言葉は、今も私の中で生きていますよ。って。
大魔導──間違えた。
ライラ様は、独りで抱え込んでいて、壊れてしまっていたようです。
でも、あなたたちに会って、別れて、得た。と仰っていました。
妹様は還らない、だから、それ以上に、今守るべきものを守ると仰ってくれて、怪しげな力に研究を注ぐことも止めてくれました。
それから私はライラ様と一緒です。
一緒になって、ライラ様を見ていれば見ているほどに、ホモさんに貰った言葉が大切になり、輝きを増しています。
私がライラ様を欲していただけではなく、ライラ様にとっても私は必要だったのです。
もちろん、改心したからといって、ライラ様の罪が消えることはないでしょう。
ですから、今は一人でも多くの命をということで、ライラ様は万能薬の精製に心血を注いでおられます。
私もそんなライラ様に微力ながらも尽くし、添い遂げることを決めました。

ティアっち、ホモさん、ありがとう。
あなたたちのおかげで、今の私たち二人があります。
もし、また会えたらお互いに笑っていられますように。 敬具』
だって……さ。
ライラさん、もう怪しくないんだって」

くすくす、と笑ったティアに、俺も肩をすくめて笑って見せた。

「それなら、ライラさんのとこにも化けてでてやるかな」

少し笑って、ティアが残りのたくさんの便箋を取り出すと、そこに書いてあったのは『死後の神への100作法』とかかれた100にも及ぶ箇条書き。
実質、手紙としてティアに宛てられたのは最初の一枚のみで、残りは全てが彼女なりの俺へのプレゼントだったらしい。

ティアから渡されたそれらを受け取り、ざっと流して読んでみると
『・食事は無生物
・睡眠時は枕は二つ
・頭を下げるときは腰から45°』
などなど、しょうもないことが丸っこい字でひたすらに書き出されていてげんなりした。

最後にティアが手紙の封筒の裏へと目を通して、その瞳を丸くする。
封筒の端を凝視しつつパタパタとおいでおいでをするティアに負け、俺も身を乗り出してティアの持つ封筒の裏を見てみた。

丸っこい文字で、小さく書かれたイニシャルは、岩壁内でみたタオルと同じ『M.L』ではなく、『M.H』と書かれている。
確認をとるように、ティアの驚きの視線が俺へと向けられ、声を上げた。

「こ!こここここ!これ!」

「……なんだよ?」

「けっ!二人ともけっ!けけけっこん!!!」

「そうだな」

「そうだなって!ユウ!ユウは知らないかもしれないけどライラさん!元々──


彼の騒動の閉幕に俺は一番度肝を抜かれた。

その後、俺たちは二つの依頼を受けて依頼所を後にした。

世界って広いよな。
これだから旅は止められない、面白い。
『魔女の血』は、この結婚により絶えないみたいでよかったけど、ホモさんホモさん言ってるモココさんが、潜在的に同性愛者なのはなかなかどうかと思ったぜ。

平和だな。

明日も、これからもずっと世界が平和で、俺たちの旅路も平和でありますように。


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赤地の端っこに走っている白い線を摘まんで引っ張る。

「……よし!」

私のお気に入りのリボンだ。

夜に入る布団の暖かさと、明け方の冷気の惨たらしさが直に身体に感じられる季節が来た!

いつも通りの今日がはじまったけど、今日の私は少し違う。
遠くにそびえる山々は、赤くなったり黄色くなったり。
街を歩いていても、街路樹から落ちた葉っぱが目立つようになった。
そして、鏡に映る私は秋用の剣士服。少しオレンジがかったコーヒーブラウンは、窓の外で世界の色味を奪う枯れ葉っぽいし、胸元のリボンは紅葉のようだ、私の頭は黄葉。私も、秋。

今日から衣替え。
衣替えの初日は、私は必ずリボンをリボン結びではなくて、ネクタイ結びにする。
そうすると、なんだか気が引き締まるし、季節の終わりと始まりを感じるからだ。
最近では特に夜はめっきり寒くなってきたから、いくら長袖だとはいってもワイシャツが剥き出しのタイプの剣士服だと心許ない。

夏の終わり。

重ね着で少しごわつく袖はまだまだ違和感があるけど、すぐ慣れる。これも、八年前に初めて剣士服を買ったときからずっと同じ。
そして今日も、私は年がら年中黒ローブのそばかす面を冷やかしに向かう。

重たいリュックを一旦部屋の外へと出し、私も部屋の外に出て、入り口からぐるっと、忘れ物が無いかを見回し、ホテル入り口のフリースペースでくつろぐユウのもとへ。

リュックのせいで狭くなった赤床の廊下を端まで行き、七段ずつの階段を八セット。一階へ。

フリースペースの端っこの窓際のテーブル席に、いつもの姿を見つけた。
やっぱりユウはくつろいでいた。
黒い背中を丸ーく丸めて、つきだした下顎を向かいのテーブルの端に乗せ、なぜかタマのジャーキーの端っこを前歯ではみはみしている。
その顔の隣でタマも、ユウと同じようにテーブルの上に伸び、向かいのティッシュ箱に下顎を乗せて誇らしげにふるえている。

「………」

「………」

「……あの、ユウ……?」

「……あ?」

「………おはよう」

「………」

「………」

「………おう……もぐもぐ」

何だろう、嫌にユウのテンションが低い。
声をかけてしまっていいのか迷っちゃうぐらい、ユウの視線は虚ろでやる気が感じられない。
なんだか不安と不気味な気分に襲われたけど、なにも気にしていないような素振りを見せながら、私もユウの向かいに腰掛ける。

「……それ、おいしい?」

「……味しねえ……」

「………そう……」

けだるそーうにテーブルの下から左手を出したユウは、タマの頭を撫でくり回したついでに箱の中からティッシュを一枚取り出し、めんどくさそうにそれを自分の目の前に広げると

「……ぷぺっ……」

ジャーキーを吐き出した。

「……どうしたのよ、ユウ、具合悪いの?」

私が聞いてみるも虚しく、ユウからもタマからも反応が返ってこない。
端っこにだけ歯形の残ったジャーキーを持ち上げて、私はそれをすかさずタマの口に押し込んだ。タマもどや顔でぷぺって吐いた。
とうとう落下地点に紙切れの一つも敷いてもらえない悲壮感漂う赤肉の成れの果てを眺めながら、黙ってユウの言葉を待つ。
ユウが何かを言いたげな雰囲気を醸し出していたこともあったし、なによりユウが荷物を持っていないことに違和感を感じたからだ。
だって、今日の朝、この街を出発するって言ってたのに、ユウが荷物をもってきてないなんておかしいでしょ?
そうすること約八秒、ユウがようやく口をきいてくれた。

「……なぁ、ティア?
この街に来て、俺たちがしたこと……一つ!」

「マナ水、おやつ、その他諸々消耗品の買い足し」

やっと口をきいてくれたと思ったらそんなこと?

「おっけー、二つ!」

「簡単な依頼を私が四つ、ユウが六つ。
さらに、二人で三つ」

「あ、ちょっと、ジャーキーとってくれ」

すかさず私はユウの口にジャーキーを押し込んだ。

「はい、ありがと。
そうだな…三つ!……もぐもぐ」

「二人と一頭の、ワクワクドキドキビンゴナイト。
景品はこの街の名産品『コーヒー味の○○シリーズ』」

「おう、四つ目は?」

「……もうないでしょ……?」

そうだ。ユウがなにをいいたいのかはわからないけど、この街に来てからやったことの確認ならそれだけだ。
この街でも、特に事件や事故などが起きることもなく出発の日を迎えてしまったのだ。
平和なのはいいことだと思うけど……なんだかユウの様子をみてるとそれがよろしくない事のように感じてるように見える。
多分私は困った顔をしていたのだろう、ユウの眉毛がみるみる角度をつけていき、瞳に生気が戻っていく。
これはきっと、次に急にテンションが上がって、突然意味の分からないことを言う予兆だ……

「……ティア、やり直し!」

ほら、意味がわからない。

「……タマもジャーキー食べるー?」

私はリュックの横ポケットからドッグジャーキーを取り出して、タマの口に押し込んだ。
二、三回ぐらいもぐもぐした後、やっぱり、ぷぺって吐いた。

「……無視すんなよ……」

「いや、だってさぁ……。
とにかく、なにがしたいのかだけでいいからぱっと教えて?
詳しくは、興味がわいたらその後で聞くからさ」

タマが吐いたジャーキーもすかさずユウの口に押し込みつつ、一応話は聞いてみることにする。

「……もが!……もぐもぐ……。
……あれだよ、なんかさ、最近旅がマンネリ化してねぇか?」

「んー。確かに、言われてみればそうねぇ……でも、楽しかったでしょう?鶏と闘ったり、魚釣ったり。
あと、もっと最近だと、崖の洞窟でお宝だって発見したじゃない!」

「……ありゃ空の宝箱だよ。振っても音しなかったろ?」

「で、どうしたの?
私はなにがしたいのかを聞いたんだけども……」

そう、私が聞きたいのはそこじゃない。
マンネリ化してきたと言った上でこの様子、荷物も持ってきていないとあれば、きっとユウはなにか面白いことを提案しようとしているんだ。
もう一本ジャーキーを取り出して、それもやる気のなさそうな口へと押し込む。

「…おえっ…ぷぺっ!
よくぞ聞いてくれたな!ティア!!」

三本ともジャーキーを吐いて、突然上体を起こして声を大きくしたユウに、タマが驚いてティッシュ箱から顎を落とした。
不満そうにタマもユウを見つめて、偶然だけど、ユウへと私たちの視線があつまった。
一大発表の予感……!!

──そうして、その後にユウが発した言葉に、私は荷物を部屋に置いてくることとなる。

「イベントを開催します!」

「……イベント……?」

「秋の味覚が盛りだくさん!
近くの山でウハウハ食材探し!!」

「……おぉ……!」

「……俺、栗ご飯食べたい」

───

──これが、事の発端ね。
意外と悪くないユウの提案にまんまと乗せられた私だったけど、偶然とはいえ、ユウが山登りを提案してくれて本当に良かったと思う。
私も、そこで反対しなくて心底良かったと思う。

もし、この偶然が少しでもずれてしまっていたら、私たちが知ることなく、ひっそりと、理不尽に、幼く可愛い命が確実に失われていたのだから。

当時の私たちはまだ、ユウのこの何気ない提案が、一人の女の子─アルマ─の命を救うことになるなんて思いもしなかったのだから。

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そうして用意した背負い籠は、街の雑貨屋さんで一番大きなサイズのもの。
私のリュックと同じぐらいに大きくて、それを背負ってお店を出ようとしたとき、すれ違ったおじさんが大笑いしていて、そのおじさんの顔をみたユウも大笑いしていた。失礼だ。
かくいうユウは手さげタイプの籠にしてた、ユウのくせにいちいち女々しい。
そのくせいっちょ前に白いタオルをバンダナなんかにしてて男らしい。
小憎らしい。
ちなみに私は三つ編みに布のサンバイザー。軍手もちゃんと用意したし、服だってサウスパラダイス時の鬼コーチスタイル。完璧だ。

で、肝心の籠の背負い心地はというと、竹をこう、ぐるっとあやめに編んでて、ぎっちりっていうよりすけすけになってるから、見た目通りすごく軽い。
その上、口もリュックより大きいし、蓋チャックもなくて、物の出し入れが容易。
ユウのはちゃっかり蓋がついてた。
小賢しい。
柔軟性こそリュックには劣るものの、ひょっとしたら普通の依頼に向かうときはリュックよりも、この竹籠の方がいいのかもしれないわね!

……って、思って、ユウに相談してみたら大笑いしてた。

なんか、突然の山登りってことでユウもテンションが上がっているみたいだ。
さっきから私の籠にタマを投げ入れたりしてきゃいきゃいはしゃいでいる。
私も山登りは好きだ……と、思う。あんまり山登りなんてしたことはないからよくわからないけど、この澄んだ空気の中、高い高い青空の下をこうしてあるいているだけで楽しい気持ちになってくるのだから、あながち間違いではないかな。
時々私たちの間を抜ける風も、寒いというよりも冷たくて心地いい。
伸びきった綿あめみたいな雲がいつもよりもコントラストの強い青を飾っていて、風情を感じさせる。

しばらく、まだまだ日が白い午前の街を散歩する。

「栗ったら、栗ご飯はもちろんの事さ……」

街の大通りにさしかかった辺りで、ユウが私をちらちらと見ながら話を始めた。
もちろんの事って、栗ご飯意外にも栗の定番があるってこと?

「今夜は貸し出し厨房だな……たのむぜ!ティア!」

パツン!と両手を合わせて、タマの様な瞳を広げたユウ。
その瞳の輝きに、私は心当たりがない。
もちろん私は今夜、秋の味覚で腕を振るう予定だけど……

「頼むって、なにを?」

そんなに定番で楽しみみたいな反応をされると、少し私も献立てには自信がないかな。
……だから、聞くよね。
するとユウは愕然とした表情で手足をバタバタさせながら説明を始めた。
私はこの説明で二秒で理解する。

「ほら!あれだよ!あれ!!栗のクリームがぶりぶりしたケーキ!!」

「……あぁ、モンブランか!!
私も食べたい!!作ろっか!」

ぶりぶりって表現はどうかと思うけど、ナイスアイディアね!
献立てにモンブランはなかった!
自慢じゃないけど、私の自慢はチャーハンだけじゃない!
そういうと、ユウはあきれた様子で「……頼むぜ、今の俺はお前だけが頼りなんだから…」なんて、料理ができない自分を嘆きつつ、調子のいいことを言っててちょっと可愛かった。
子供のころから、食べることには必死なんだよね、ユウ。
その後、ユウがせっかくだからと『ケーキを題材にしたクイズ』を出してきた。
たしか、三個のホールケーキと、四切れのケーキを、A、B、C、の三人の子供たちで平等に分けるにはどうすればいいか?
なんてクイズだったっけ?

答えは簡単だった。

Aが、ケーキをおなか一杯たべる!
Bも、ケーキをおなか一杯たべる!!
Cも、ケーキをおなか一杯たべる!!!

と、私は答えた。
ユウはポカーンと大口を開けて「……なんでそうなんの……?」
って聞いてきたけど、私からしたらそんなこともわからないからユウは三流なのよね!
そもそも、子供が三人で三個以上ものホールケーキを食べきれるわけがない!このクイズはケーキが余るのが前提!
もっというと、子供一人一人の満腹量は決まってる、だから、一人一人が満腹までたべて、みんなが平等に満腹感を得られれば、それでみんな平等に幸せだ。
みんなが平等にケーキをおなか一杯にたべること、平等に幸せを分けること、それが、三人で平等にケーキをわけることだ。
って答えたら、しばらく悩んだ様子で「なるほどなるほど」つぶやきながら、最後に一人で笑ってた。
意味がわからない。
最後の最後に「たぶん、正解でいいよ。もう、それがさ」と、ユウが言ったとき、私たちは街のゲートへと着いていた。

この街のゲートも、アリエスアイレスのゲートみたいに衛兵さんが常にいて、ゲートの規模もアリエスアイレスみたいに大きくて頑丈そうだ。
街にたどり着く前の高原にはそんなに物騒な魔物や獣はいない様子だったけど……そんなに護る必要があるのかな?

これから山に登るというのに、飽きもせずに黒いローブ姿のユウの後ろについて、二人でゲートをくぐろうとしたき

「おう、お嬢さん?
その格好、まさか、ポポラマ山脈へ?
しかもそのおっきい籠!……まさか山菜狩りに?
ポポラマ山脈へ!?」

衛兵さんに話しかけられた。
気持ち程度の椅子に座って、少し早めのストーブにあたった30歳ぐらいのその顔は、私がユウにモンブランについて聞いた時の様に愕然としていた。
ポポラマ山脈?……っていうのかな?あの紅葉の山。
二回も聞かれたけど、ポポラマ山脈がどうかしたのかな?

「……ん?えぇ、そうですよ……えー、と。
はい、このまま東に七キロぐらい行ったところにある山脈ですよね?」

私が驚いてぶんぶんうなずいていると、ユウは自分のリュックのよこに刺していた地図を取り出し、開いて、衛兵さんに確認をとっていた。
そして、衛兵さんはユウから確認をとるなり、ユウの言う山がポポラマ山脈であることをまた確認してユウと私の身なりを確認し始めた。

「ふむ、少年は杖…お嬢さんは……宝剣?少年の杖もずいぶん綺麗で飾りっぽいけど……闘えるかい?
あぶないよ?」

「あぶない……んですか?」

訝しげなユウの問いに、衛兵さんは納得した様子で声を大きくする。

「あぁ、君たちは旅の人か……それなら俺には説明する義務があるな。
言ってしまえばポポラマ山脈は特定危険区域だよ、ある程度腕に自信が無いなら、あまり深くは入らない方がいい」

「何か出るんですか?
俺もコイツもこんなんですけど、一応戦闘の心得はありますよ!」

「ほぉう、なら、そのやたらと綺麗な武器はちゃんとした武器なんだな!
それなら……大丈夫か。
君らの死体がこの街に運ばれてこないように祈るよ。……といっても、ゴブリンに殺されちまったらな、ちゃんと死体が残るだけでも幸運だけどな。
なにか出るもなにも、あのポポラマ山脈の一帯はゴブリン族の縄張りなんだ。
下手に足を踏み入れればそれだけでゴブリンどもに敵とみなされちまう!
腕に自信があるなら山菜狩りまでは止めようとはおもわないけど、あまり深くは入らないようにな」

そういって腕を広げて、その腕の間を渋い顔つきで衛兵さんは睨んだ。
その動き、表情が死体を表しているようにもみえる。
半分冗談みたいに話してるけど、衛兵さんの様子からすると、死体が山から出てくるのは珍しいことじゃないのかも……!
ゴブリン……か。
亜人種ね、人間とはなにかと相性が悪いから争いがちな種族の。
でも、人語を扱う個体もいるし、アリエスアイレスにもゴブリンの料理屋さんもあったから、必ずしも悪いのばっかりじゃないんだけどねぇ……。

「はぁー、なるほど。
だから、そんなに強い魔物が出たりもしないのに、こんなにおっきいゲートを置いてるんですね?」

「察しがいいな、お嬢さん。
ひょっとして、お嬢さんがたの故郷にもこんなゲートが?」

その通り、アリエスアイレスの片側のゲートの外は強い魔物でいっぱいだからね!
ということは、このゲートから察すると、ゴブリン族も束になるとアリエスアイレス周辺の魔物ぐらいの脅威になるってことかな?

「はい、アリエスアイレスっていう街に住んでたのですけど、アリエスアイレスにも同じぐらいのゲートがありましたよ!」

私のその言葉を聞くなり、衛兵さんは少し考えた様子で首を傾げて、安心した様子で微笑みながらマナ水を一本取り出し、投げてくれた。

「そうかそうか!君ら、アリエスアイレスに住んでたのか!!
それでいて戦闘の心得があるということは相当だろう?
よし、それならあまり心配はいらないか!少年!男ならお嬢さんをしっかり護ってやるんだぞ!」

「あ、マナ水じゃん、それ。
いいんですか?衛兵さん!このマナ水いただいても…!」

「おう、いいぞ!少年!
かわりに俺はタケノコが欲しいな!」

「わかりました、衛兵さんの分もとってくるぞ!ティア!」

「うん!」

衛兵さんと言葉をかわして、ユウと私は笑って礼を言ってその場を後にした。
衛兵さん、アリエスアイレスについて知ってたんだ……。
あの辺の魔物、やけに強いとは思ってたけど、もしかしたら知ってる人たちの間では結構有名なのかな?

ゲートをくぐると、秋空の高原にススキが揺れている。
その様子がなんとも不思議なほどに『秋』を感じさせてくれて、私の中で、秋の味覚狩りと、自慢のモンブランケーキを食べたときのユウの反応に期待が膨らんだ。

せっかく大きい籠を用意したんだし、たくさん、たくさんの『秋』を拾わないとね!

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普段から超長距離を歩いて旅する私たちにとっては、街から山までなんて散歩道の延長程度でしかない。ので、そんなに疲れないで到着っと。
今現在、私たちの眼前に広がる、草木が雑然と生い茂る坂道は秋の食料庫。
その入り口に私たちはいる。ここまで来たらもう、あとは駆る、苅る、狩る!
松茸椎茸ぶなしめじ!なめこにタケノコ銀杏も!柿梨に獣も山菜も!全ては私の籠の中へ!……おっと、栗も忘れちゃいけない。あと、川魚もきっとおいしい!……塩焼きね……!!
……でも、籠に魚入れるのってどうなんだろう……鮮度を保ちたかったら、ユウの魔法で即冷凍がいいかもしれないね。

で、冷凍要員の女々しき買い物かご、ユウはというと、私の隣で軍手とタオルバンダナを装着しなおしている。
普段は前髪に隠れがちな無駄に凛々しい眉毛がもこもこ動いてて、なんだかギャグだ。
いつにないどや顔で腰に手をあてたと思いきや、最高の笑顔で声を張り上げる。

……テンション、上がってきた……!

「いよぉーし!ついたな!ティア!ちゃんと全員いるか!?おら!点呼だ!
番号!いち!!」

「に!!」

「………」

「………」

「「……………」」

……まぁ、そりゃ全員いるよね…。
タマはまだ籠から出れないみたいだし、迷子になりようがないもんね……かわいそうに、さっきからカリカリカリカリ籠の内側を掻いてる。

「……で、どうする?ティア?」

隣で腕を組んで、山のてっぺんの方を睨んだまま、ユウが動かない。
心なしか、その表情には開き直りの色が見える。
ユウの得意技……かな?
ユウって、なんか問題起きるとまず最初に開き直る癖があるからなぁ……。
嫌な予感に、顔に力が入った。
あんまり聞きたくないけど…聞いてみよう。

「……どうするって、なにが?」

「……俺、山で秋の味覚狩りなんてしたことないんだけど…」

「え!?自信満々で準備してたくせに!ユウも初心者なの!?」

案の定、ユウはもう開き直ってたみたい。

──てか、いや、言い出しっぺがそれはないでしょ!!
そしたらなに!?キノコや山菜の判別もできなければ、タケノコの掘りかたも…それどころかどこに食べ物があるかも知らないってこと!?……そんなの…そんなんだからそんな女々しい籠を用意するようなことになるんだよ!?

「か!籠は関係ねえだろ!?」

「あっいや、籠はどうでもいいけどさぁ……」

声に出てた。
うん…早速出鼻を挫かれたわけだけど、打つ手が無いわけではない。ユウが気づいてるかはわからないけど……。

よくよく思い返してみれば当たり前か、そもそもアリエスアイレスの近くに秋の味覚を気軽に狩れるような山がなかったよね……ユウも同じ街に住んでたんだし、ましてや毎日のように顔を合わせてたけど、そんな遊びもした覚えはない。
あったのかもしれないけど、結果はこれ。それはそれ。
だから、こうなったら

「……まぁでも、私たちには心強い秘密兵器がいるでしょう?」

「秘密兵器……?」

ここで用意するべき作戦1。
そう、今、私の背中でカリカリしてる鼻の女王。

タマ。

この子なら、食べ物の匂いを見つけて案内してくれそうだ。

「……タマよ……!」

「………ん?
……おお!なるほど!」

やっと気づいたんだね。
全く、ほんとうに鋭いんだか鈍いんだか……

「さ!それじゃあさっそく行きますか!
タマを強化して!!ユウ!
賢いタマの『ここ掘れわんわん!』
さっそくお願い!!」

「おう!任せろ!!
……てか、タマ、吠えねえけどな……」

「いや、そこはさ『タマ、人語は話さねえけどな』じゃない?」

「……どっちにしても大人しすぎるよな……」


その後、無事にタマは強化され、私は無事に尻餅をついた。
そりゃそうだよね。タマ、ずっと籠の中にいたのにさ、籠の中で急に大きくなられちゃそうなるよね……。
幸い、籠は壊れなかったけど、籠の口から申し訳なさそうに頭を出した大きなタマに、私はユウと苦い笑みを合わせた。

私たちが、山にきて一番最初に感じた秋の味覚だった。


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あまり深い考えもなし、大きな不安もなしに私たちは籠と足取りを軽く、山へと足を踏み入れてみる。
草木を軽く飛爪刃で払って、右足、左足、前足が一歩ずつ。

境界を越える

居場所が『山の入り口』から『山中』へと変わる

息をのむ

──明らかに、空気が変わった……!──

……なんてこともなく、気持ちいいぐらいに普通に山だね。気分は全然『おじゃましまーす』の類だ。
足下で赤や黄色がわさわさと鳴っている、落ち葉の絨毯だ。
心なしか空気も乾燥しているような気がするし、何か魔法を使う機会があっても火炎魔法はあまり派手にぶっ放さないように、ユウには口を酸っぱくして言っておいた。
味覚狩りのついでに逃げまどうほどのキャンプファイヤーなんてごめんだからね!
まして、旅に出てわずか数ヶ月にして山火事起こして協会指定のブラックリスト入りも勘弁だ。私はいずれ、プラチナランクの旅の人になるのだから……。
と、思ってはみたものの、特にそんな予定も野望も私にはない、私はブロンズランクだろうとプラチナランクだろうとやることは今と変わらないだろうし、きっと、私の旅の終着点はもっとシンプルで、並のものに収まるものだと思っている。
そう、こんな風に、ユウと、タマと、仲間と、時間の共有を喜ぶだけ。それで満足だと、旅に出てから思えるようになったし、そう思えることはきっと幸せなこと。

そう、私は今が幸せだ。
お姉さんがくれたヒントと、そこから導き出された答えは揺るぎのないものになりつつある。

だから、今日も今日とて私はこうして深く考えることなく味覚狩りをする。
ユウについて歩く。
隣で早速足を止めて、枝の上の栗鼠とにらめっこをしているバカな姿に笑いかける。

「リスじゃないの、可愛いね!
……あ、タマ。むやみに小動物を食べ尽くしたりしちゃだめだよ?」

ユウと同様、隣で早速臨戦態勢に入ってるタマの鼻先も押さえる。
……すっごいぬれてる……。
たかだかリス相手になにをそんなに真剣な顔をしてるのかな?ユウは。

「おい、ティア……!」

「うん?」

「あのリス野郎、ドングリ食ってねえか?」

いわれてみて、私もリスを注視してみた。
ちょっと高めの木の枝の上で器用に後ろ足で立ち上がったその愛らしい栗鼠は、これまた器用に前足でドングリを持ってもぐもぐしている。
うん。ユウが疑問を感じるまでもないほどに、ドングリを食べてる。

「うん、食べてるね、どんぐり。可愛いね」

「いや、お前、そうじゃないだろ!
あいつがドングリを食ってるってことはだ!あいつを使えばドングリを沢山とれるってことじゃねえのか?」

「使うって?」

「……強化してタマ化」

「やめなよ、そういうのさ……」

「ウワーンの時はうまくいったんだけど……」

失敗して強い獣になって早速襲われたりしたら嫌だし、なにより私たちにはタマがいる。
そんな意味もなくブレーメンの音楽隊ごっこみたいなことはする必要がない。
なんてことを考えてる内に、タマの鼻息に驚いた栗鼠は足早に逃げ去ってしまった。
これを契機に、私たちの味覚狩りが本格的に始まった。
私たちは、別に栗鼠を追うこともなく、しかし栗鼠の逃げ去った方角へと足を向けて森に鋏を入れていく。
早速見つかる栗、悪臭を放つ銀杏、案の定どんぐり。徐々に笑顔と会話と籠の中身も増えていく。
食材探しの鼻の女王、タマは本当に優秀で、その嗅覚、聴覚、強化された頭脳を遺憾なく発揮して、次々に食材を見つけてくれる。裾の端を引っ張られたかと思ってついて行くと、突然近くの木に体当たり、驚いていると、背中の籠に果物が落ちてきたり、河では直接犬掻きで泳ぎに入って魚をくわえてあがってきたり、私がボーッと立っているだけでも、前足で籠の中にキノコを弾き飛ばしてきたりする。
ユウも土とか虫とか落ち葉まみれになりながら芋掘りやタケノコ掘りなんかをしていた。

本当に、ユウの即興なんかで始まったのが信じられないほどに楽しくて、充実した味覚狩りを味わった。
この、味覚狩りを楽しんだという結果が、実は今回の味覚狩りでの一番の収穫だったのかもしれない。

そんな風に思い始めて数時間、私の背中の大きな籠の中身も半分ぐらい埋まった頃の話だ。
私はおやつに落ち葉で焼き芋をしようとして、穫れたての柿を食べながら落ち葉を集めていた。
雑多に層を成す、暖色のモザイクを撫でて集め、引っ剥がしては山にして、また撫でる。
剥き出しの地面もついでにちょっと掘ってみる、なんてことをして遊んでいた。

それで、シャベルで二、三十センチほど地面を掘り進めたんだけど、穴の底で何かが光ったように見えたのね、もちろん、私はすかさずその箇所を軍手をした左手でバシバシ撫でたの。

──そして、驚いて柿を落とした──

光った物の端っこが土の中から顔を出した!

それは、金色に光る、何かとがったもののさきっちょだった!
その時は、私は噂の『黄金タケノコ』を掘り当ててしまったのだと思ってえらく興奮したのを憶えている。

でも、そのさきっちょは結果としては黄金タケノコじゃなかった。
少なくとも、それは味覚狩りをしにきた私にとってはとてもじゃないけど面白みもなくて、なんの興味もわかないつまらないものだった。

あんなつまらないもののために、人はつまらない選択をとることがあるということを、私たちは後から思い知らされることになる。

──ゆっ!ゆゆっ!ユウ!?ちょ!ちょっと来て!!みて!!これを!!」

──この、大はしゃぎでユウを呼んでいた時が、おそらく私の味覚狩りでの最高の一コマだった。
このあと、私たちの味覚狩りは予定とは少しずれた形で終わりを迎えることとなったからだ。

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私がユウを慌てて呼んでから、事態は動き始めた──

──んお?どうした?マツタケか?」

不思議そうな顔をして、ローブのポケットに手を突っ込みながら暢気に歩み寄ってくるユウの様子に、私は眉間に力がこもった。
味覚狩りのために、ツノ無しとはいえども鬼コーチスタイルにまで身を包んでいる私に対する挑戦だ。
しかしとりあえず今はそんなことはどうでもいい、地面から生えるこの小さな金のツノは間違いなく黄金タケノコに違いない!

「ユウ!マツタケなんてくだらないよ!これ!きっと『黄金タケノコ』だよ!!」

「……はぁ?黄金タケノコ……?」

黄金タケノコも知らないユウに、私はほとほとあきれ果てる。

そう──
──……秋、だけに!!」

「ん?今なんか言ったか?」

「別に、なにも」

………。

黄金タケノコと言えば、季節の四味覚の『秋』を担当する超超S級超高級超食材だ。
S級食材とはいうけど、その存在は幻。実際にそれを喉に通した人間なんて、この世界の創世から考えても10000人もいるかどうかなんだとか。
なかなか見つからないから詳しくは解明されてはいないけど、その珍しさ故に、自然に生えるのは五十年に一個、または百年にも一個とまで言われている。
その姿はまるで黄金がタケノコの姿をなしているがごとく輝いていて、味に関しては『全ての秋を内包している』とまで言い伝えられ、とある国の王はこのタケノコを食べた途端にその美味しさによって全身から力が抜け、二日寝込んだという伝説すら残されている。
売れば八桁Fはくだらないし、これを掘り当てる為だけにその人生を棒に振る美食家たち、または旅の人もごまんといるのだ。
という説明の全てを横で立って下顎を撫でているタオルバンダナに力説したけど、帰ってきた態度と返答は実に暢気なものだった。

「……あのな、カレーもそうだったけどさ、金色に光る食い物なんてろくなもんじゃねえんだぞ?
あの不味そうなカレーを思い出すだけで食欲が失せるよ」

そうだった、ユウはタマジローさんと……なんだっけ?
なんか、黄金獣の神様肉球初めてカレー?みたいなシチューをつくってたんだっけ?
私もみてみたかったけど私とアイリが食べる頃には光ってなかったやつ。
と、私が固まって、色んな意味でもって輝かしい日々の思い出に思考を巡らせていると、ユウはそんな私からシャベルを取り上げ、しゃがみ込んだ。

「ふーん、どれどれ?そんな珍しいタケノコがそんな簡単に見つかりゃ苦労なんてしねえけどな。掘るか」

「え…ちょっと、ユウ?あなた、タケノコ掘ったこと……。
いや、いやいやいや!待ちなさい!ユウ!なに!?なにそんなに振りかぶって──!!」

「そりゃ!」

───終わった。
ユウがシャベルを突き立てた地点から、『カッ!』って音が鳴った。
終わった。タケノコが『カッ!』ってなった。
ユウがシャベルを突き立てた場所が、タケノコが埋まっているのに『カッ!』された。

「……あ」

「……あ」じゃないよ!なんでタケノコ相手にそんなに近いところに……しかもまあそんなにタケノコに向けてシャベルを振り下ろしたの!?
今の一撃で間違いなくタケノコに傷がついちゃったじゃない!!
ふざけないでよ!!

「そ、そんなに怒るなよ……ほら、腹に入ればみんな同じだろ……?
……しかし、え?なに?黄金タケノコってこんなに硬いのか?」

…また、声に出てたみたいだ。けど、これに関しては厳しく怒らないといけなかったのは間違いない!
これで売るという選択肢はなくなってしまったものの、食べることは確定……タケノコご飯だね。
これ以上ユウに掘るのを任せるのは愚そのものだし、私はユウからシャベルを取り上げ返して、自ら慎重に慎重に辺りを掘り返すことにする。
見てなさいよ……タケノコの本当の掘り方……教えてあげる……!!
まず、私は近くに落ちてる食べかけの柿をのける。
そして、シャベルを斜め45度に構え、狙い目を黄金タケノコの頭と思しき地点の下30センチに定める。
あとは簡単、そのまま狙った位置へと向けて、シャベルの頭を滑らせれば──

──……あ」

「……おい」

『カッ!』ってなった。
手元にはやたらと硬い感触が伝わりきり、世界が秋の雰囲気を醸し出す。

間違いなく、私のシャベルの先も土の中のタケノコを貫いていた。

もう、どうでもいいや。

「あっ!ちょっ!ティア!いきなりテキトーに掘りすぎだろって!
タケノコが微塵切りになっちまうじゃねえか!」

あきらめがついた私は、今更慌て始めてるユウを横目にガツガツとタケノコ周りを掘り進めた。
もう、どうせ、おなかに入ればいっしょだ。

このときはまだ、埋まってるものはタケノコだと思ってたし、楽しみには違いなかった。けど、次第に金のツノの周りの金色が広がっていって、それを確認していくたびに、私のテンションは下っていく。
そうだ、当たり前だけど、そんな貴重な食材が、偶然とはいえそんな簡単に見つかるわけが無かったのだ。

「あぁ…なんだ。
タケノコじゃなかったじゃないの……」

「おおおおおお!!!ティア!!!おまっ!!これ!!!
いや!おまっ!!?でかしたぞ!!
すげえ!!!」

──掘りきって、出てきた物はただの金塊。
片手で持ってちょうどいいくらい。未練がましい言い方をすると、小さめなタケノコぐらいの金塊。
なんで山にこんな剥き出しの金塊が埋まっているのはわからないし、そもそも普通の金がこんな形で出土する物なのかもわからないけど、食べれない金塊なんて、ただの金塊だ。
すくなくとも、タケノコではなかった。

シャベルでできたクレーターの底で横たわる金塊。

見ていると、なんだかイライラしてくる。

「なによ!こんな金の塊!!よくも紛らわしく──

「おああああ!!!おい!!やめろやめろ!!!!なに急にぶん投げようとしてんだよ!!?
金だぞ!?金!!純金だぞ!?」

「ゴールドランクの旅の人になれば、金のペンダントぐらいもらえるでしょ!?
それともなに!?ユウは今晩金塊ご飯でも食べようっていうの!?やだよ!歯が欠けちゃうじゃない!!」

「薄く延ばせば金箔だろ!?黙って食えよ!!」

慌てて私の腕をつかんだユウに、私はひどく疑問を感じる。
人一倍食べるのには真面目なくせに、なにをそんなに金塊ごときに。

──その後私は、ユウの提案によって興味もない金塊掘りを手伝わされる事となる。
しかし、それ以降金塊なんかが見つかる事などなく、私たちは夕焼け空を見上げることとなった。
そこで金塊の代わりに見つけたのが白い煙、夕焼け空へと向かって立ち上る『人の気配』。

──特定危険区域であるはずのポポラマ山脈に、集落の気配──

私とユウは、金塊に期待を裏切られた腹いせも込め、その煙の方角へと足を向けた。


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──あの煙、どう見ても山火事じゃあないよな……」

「そうだね、山火事なら、もっともっと燃え広がるだろうし、山全体がもっと騒々しくなるんじゃないかな?」

瓶詰めのサラダドレッシングの表面の油膜のように、赤い空の上には星空が乗っかっている。
結局こんな時間まで私たちは山の中。せっかく用意した籠の中身も三分の二止まりだ。
サンバイザーを外して、背中の籠の中へと放る。もう要らないでしょう、サンバイザーは。
おでこからの陰がなくなって、少し視界が明るくなったように思ったのもつかの間、私はすぐに足下の、そして、森全体の薄暗さに気づかされる。
それでも進んでいく。それすらも薄くなり、見えにくくなっていく煙の筋だけを頼りに。

時刻は六時をまわった頃かな?……さすがにこの時季のこの時間帯ともなると、鬼コーチスタイルだと肌寒さを感じずにはいられない。

「ユウ…今日はもう帰ることにしてさ、煙の正体は明日突き止めることにしない?」

「また明日もここまで足を運ぶのは億劫だし、今日の内に済ませちゃおうぜ。
それに気になるもんを放っておくとストレスだ」

探索は続行だね。
右手で金塊を弄んでいる隣の黒い魔法使いは、闇にとけ込んでさらに黒くなってる。
少し考えた様子で虚空を一瞬見つめた後、ユウはおもむろにローブを脱ぎ始めた。
ローブだけじゃなくて、中に着ているワイシャツまでいつも通り。ユウは服装には無頓着だから、まだ夏服でしょう。
この寒いのに、なにしてるのかな。

「──あっ」

「気になるもんを放っておくとストレスだ」

「……ありがと、さむくないの?」

「……中に着込んでる」

「……そっか」

それでも『寒くない』とは言わないんだね。
そのまま、ローブが私の肩に掛けられた……。
あったかい。
着込んでいるとは言ったけど、脱いですぐから鼻啜ってるし、本当はやっぱり寒いんじゃないのかな?
またユウは私に対して負い目を感じてるのかもしれない、私を山菜狩りに誘ったのはユウだし……気を使わせちゃったか……。

『無理しなくてもいいよ』

という言葉が、喉まで出てきてつっかかる。
なんだか、こういうことは私の立場だからこそ言うべき言葉なのかもしれないけど、今は…少し野暮ったい気がする。
せっかく甘やかせてくれてるんだから、そういうときぐらいもう少し甘えたい。
せっかくカッコいいところをみせてくれるんだから、そういうときぐらい水をささない。
それが、良い幼なじみ、良い関係だ。
多くの言葉は要らない、その分多くの思考でやりとりするから。

あの時も、あの時も、ユウはこんな感じ。
それなら、私は今もこうでありたい。

会話が途切れた。
でも、それは気まずい沈黙じゃない。
互いに思考を読みあって、読ませあって、理解しあうための沈黙だ……と、私は考えてる。

そのままおし黙って歩くこと数千里。
……盛った、たぶん数キロ。
私たちの目の前には、木造の家が数十件ほど立ち並ぶ、小さな小さな集落が広がっていた。

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その集落の入り口は、本当に山の一部をそのまま利用してみたかのように、木々との境目が曖昧で、木々の中の開けた場所に不規則に家々を並べた結果、それがたまたま集落になったみたいな印象だった。
言ってみると、雰囲気は妖精の村やグリーンヴィレッジをぎゅーーっと地味にした感じかな?
山の中でも、この辺りの一帯はなだらかなみたいだね。ライラさんの家みたいな少し凝った木造住宅もしっかりまっすぐ建ってる。
そしてそんなまっすぐ建った家々の窓は、内側からの灯りで白黄色に光っていて、すでに日の落ちきった山中の中では際だって明るい。
間違いなく人が住んでいるみたい。……いや、人とは断言は出来ないのかな、まだ……。

「うっわぁ……まさかねぇ……こんなところが特定危険区域に……」

断言できない理由はもう一つ。うん……誰もいない……。
時間が時間だし、みんなご飯でもたべてるのかな?
とにかく集落は静まり返っていて、不気味とも、幻想的とも言える雰囲気でひっそりとたたずんでいる。
夜の暗さでそろそろ顔の判別もつかなくなりつつあるユウの方を見てみる。
ユウも驚いてるみたいだ、無意識にタマの頭に左手を置いたまんまで固まっている。

「おぉ、びっくりしたなー…普通に住んでんじゃん、人。
あの煙があがってたのは……あれは……え?武器屋……か?いや、鍛冶屋か?」

「え?武器屋さん……って、こんな特定危険区域の山奥に……?」

ユウの視線の先を追ってみると、そこには少し大きめの建物。
造りは入り口が異様に大きくなっいて、その入り口近くの壁や、窓の横なんかに大きめの剣や斧、弓、鈍器などか雑然と立てかけられている。
それから、建物の頭についてる大きな煙突がもこもこもこもこと煙を吐き続けていた。
なんとなくその様子からアイリの武器工房を思い出す。
想像されるのも、考えられるのも武器工房。でも、そんなのはどう考えても不自然だ、だってこんな山奥でしょう?
衛兵さんの話を聞いた限りでも、ここまで足を運ぶ人間なんてほとんどいないんでしょう?
商売は需要のあるところに成り立つ。需要のあるところには人がいる。人がいないと商売は成り立たない。
つまり、この集落に武器工房なんて置いたところであんまり意味はない。
わからないことがあったら、恥ずかしがらずにちゃんと人に聞く。これは大事なこと。
だから、私たちがこれからやることは──

「ユウ?なんか、この集落についての話ならあの武器工房?で話を聞くのがいいんじゃない?
あの建物だけ不自然だし、きっとあそこに住んでる人はここのこと詳しく知ってるよ」

別に私たちは集落について調べなくてはならないことなんてない。けど、せっかくこんな時間まで歩き回って見つけたんだし、好奇心を満たすぐらいのご褒美は欲しい。

だって、ねぇ……今、私とユウがなにより一番恐れているものは

「……そうだな、このまま帰ったらくたびれ儲けだしな。骨折り損。
よし、さっさと気になることは片づけて貸し出し厨房いこうぜ!」

そ!骨折り損のくたびれ儲け。それそれ。
だから、ここでくたびれ以外の、そうね、衛兵さん辺りへのお土産話ぐらいは儲けて帰って、気持ちよく秋味祭りだ!
煙の正体が秘湯だったりしたら嬉しかったのになぁなんて内心思ったのは内緒……!
秘湯じゃなかったのはちょっと残念だけど、集落ともあれば、多分秘湯よりも面白い話の一つや二つはあるよね!

「うん!魚の鮮度が落ちない内に済ませちゃおうね!」

歩き出したユウの白い背中と、タマの白いお尻を追って、集落の奥へと進んでいく。



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