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黒いハードカバーに手をかけて、適当なページを開いてみる。
俺は魔導書を読むときはいつだってこんな感じだ。
少しだけ中身に触れて、それがどんな魔法なのか、その魔法がどういう理論で創られているのかを想像しながら予想を立て、頭の中で完成させてから一ページ目から答え合わせをする。
一ページ目で著者の程度が知れちまったらつまらんからな…たまにあるんだよな…タマジローさんに見せてもらったような、一ページ目から『ふむ、こいつ、馬鹿だ』ってなるような魔導書。あれも中から読んどきゃもっと違った印象だったかもしれん。

紙の上に散らばったゴマ粒ないしは、縮れ毛のような文字に視線を落としてみる。

──ゆっくりした。
 色のない空気を久しぶりに感じた気がした。
 何かに追われながら、何かを追いかけながら飛び出した俺たちの絵本、次のページはいつだって白紙だった。
 今日、またページを紡いでいく。
 今背中に感じている安らかな体温が、頭の上から聞こえてくる騒がしい悲鳴が、新たなページを創っていくんだ──

……って、なんだこれ?
あ……これ、ティアの童話だ。

ぼーっとしてたから魔導書と間違えて持ってきたみたいだな……なんとも偶然、今まさに俺もこの童話の主人公のような状況に置かれている。
テキトーな吟味なんてこんなもんだ、よく選んでいるようで全くみていない、そもそもテキトーって時点で吟味からは程遠いというツッコミは心の内に秘めておく。ボケたのも俺だからな。
興味を露わにしたフリをして実は全く興味などない、よくあることだ。
ある意味中毒だ、俺は手元に本の形をしたものがあればそれだけで満足だ。中身についてはあまり気にしない、俺自身がよっぽど欲しい魔法じゃなければどんな価値の有る魔法も魔導書店で投げ売りされてる魔法と大差ない。それでも読むけどな、おかげで俺の部屋の中はあんなんだったわけだ。
そして今、読み始めたものが魔導書ではなかった時点でもう気にならない、けど、予想ぐらいは立ててみるか、そうだ、どうせいつも通り読むのなら、いつも通りによむのさ。

この物語はきっと、一匹の仔ウルウルフを連れた男女の物語だ。
男は魔法使いで、女は剣士で……小さい頃からずっと一緒だった。
ある日男は大した目標も目的もなく、盲目的に旅に出たがる、女はもちろん反対するがしぶしぶついて行くことにして……男は女との旅の中であらためて気づくんだ、女のすごいところに。自分の無力さ、放漫さに。
そして男は身勝手の末に力を失い、信じてもいない神に祈る。
そこで現れるのが──

「きゃあああああ!!みてみて!ティアっち!あれ!大魔導士様ですよー!!きゃぁぁぁあああ!!」

「キャー、ダイマドウシサマー、イヤーン……ウフ、ウフフフフフ……」

やっと登場かよ。ティアっちが手遅れじゃねえか、おせえんだよ、ダイマドウシサマー。
…それにしても──

「やぁ、モココ。
今日も元気そうじゃないか。
その大きなわんちゃんと、ぼっちゃんとおじょうちゃんは?」

──べっぴんさんだなぁ……
なんだこの人、ほんとに男か!?
なよっちょろくてティアっちやアイリさん顔負け……いや、それどころかリリーナレベルの女子力を感じるんだが……うーん、ドンマイ、タマジローさん、ランス、そして俺よ。
俺たちの前に姿を現したローブ……いや、そんなちっぽけな感じゃないな、完璧な魔導師服に身を包んだ赤毛のこの男……モココさん?シスターの言っていた生粋の魔法使い──大魔導士様──か。
少し響くけど、決して高くはない、柔らかい声…
見た目はタマジローさんより年下に見えるのに……この説得力のない若さはなんだ?

「キャーーー………
──え!?大魔導士様!?え!?どこ!?
えっ!?あなたが!?大魔導士様!!?」

ティアっちも正気に戻っ……いや、また混乱したか。
そりゃそうだよな、俺だってここまで美形だとは思わなかったよ。
目を白黒させながらモココさんとそれを指さし慌てるティアっちに、首の辺りまで伸びた後ろ髪を指ではじきつつ微笑みかけた大魔導士様。
なんだろう……この人、本当に男か……?
なんだか、仕草とか、表情から見た目以上に女を感じるんだけど……気のせいか?
サラサラな髪の毛から香る香水の匂いだって……とても男物の匂いとは思えないんだけど…香水とか詳しくないからわからないけど、この匂いなら俺よりもティアっちから薫るべき匂いだろう。

「やぁ、あんたら、旅の人かい?
自己紹介をしようか、わたしはこの街で…大魔導士…?
なんて呼ばれてる魔法使い『ライラ』という。
よろしくな。
……といっても、旅の人ならばそんなに長いつきあいにはなりそうもないね、忘れてくれても構わないよ」

「……あ、ユウ……です。
……そっちがティアっち……と、タマ……」

「ちょっとユウ、指さすの逆!
それじゃ私ががタマでタマがティアっちだよ……はじめまして、大魔導士様!
……え!?ティアっち!?」

驚いた……名前まで女の人っぽいんだな……

「ふっふふ、ライラでいいよ、ティアっち。
ユウ君もライラと呼びなよ、堅苦しいのは苦手だ」


そっと微笑んだその表情は、完璧だった。
それは黒いものでも白いものでも全てを覆っていて、隠していて、まるで柔らかな仮面のようで……

……俺は、この人の考えていることが読めない。

会って数分、この極端に短い時間の中で、俺はこの人に白旗をあげた。

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ふと、ライラの眉間にしわが寄ったように見えてからだ、いきなり俺の方まで歩いてきたかと思うと目の前で立ち止まる。
見上げる俺の眼前に170後半から頭が降りてきた、ぐにゃりと、柔らかく腰を曲げて猫のような眼球を俺の視界いっぱいにくれやがった。
本当に猫みたいな目だった、青緑で、光ってて、黒い爪痕が一本走っているかのようで……
思わず変な声が出た、緊張してんのか?俺は。
赤毛の猫目は、シャレた香水の香りを撒き散らしつつ、そのまま口を開くんだけど…近い…。
逃げられないと…逃がしてくれないと思った。

「え……ちょっと、ユウ?
なに固まってるの?」

「っえ!?あぁ…!おっ、あー、ライラ…さん?
ち、近い、近いですよ……」

「なに?緊張してんの?ランス相手には身を潜めていたホモの覚醒ね…!」

「はぁ!?え!?あなた!ホモなんですか!?
駄目ですよ!大魔導士様から離れなさい!
大魔導士様は私の!…ティアっちの…みんなのものなのですよ!?」

くすくす、ぎゃんぎゃんとそれぞれの反応を示す女性陣の声なんて耳に入ってるだけで意味も考えられない。
ライラは、不敵な笑みを口元に浮かべて目を細めた。
な、なんだ?この人さっき、なんて言ったんだ…?
不気味で、冷たくて、えらく作業的だと感じたのはきっとフル回転する俺の頭が叩き出した警戒心。
ずずいと近づいてきた美しい仮面は俺の頬のすぐ横をすり抜け、耳元にこそばゆい空気と不信感だけを残す。
ライラが俺の耳元で一言だけ呟いたんだ、その問いかけに…俺はイエスと答えるしかなかった…

「……は、はい。
……そ、そうです……捕まりました……」

なんだよ…『捕まったんだね』って……この人……知って…
アレについて?館について?
でも今の状況から答えるとしたらアレについてとしか考えられない……。

「やっぱりそうかい。
モココ、この教会、客間はあったかな?」

「え?……いいえ?
有りませんけど…」

「ふーん、ならいいや。
ユウ君、ティアっち、私の家に案内する……用件はわかるだろう?」

「「え?」」

またも不敵な笑みを浮かべる……なんだよこの人……全部知ってるみたいな、聞かなくてもわかるみたいな態度ばっかり…調子狂うな、話は早くていいけど。
ティアとモココさんはよく状況を飲み込めてないみたいだな、俺もよくわからねえけど……コイツ……知ってやがる……用件もそれについてのなにかとみて違いないだろうな……。
くるりと踵を返したライラは振り返ることもなく来た道、水上の道をすったすったと歩いてゆき、小さくなる。

「ティア、タマ、ほれ、行くぞ」

「え!?なに!?
ユウ!?ライラさんなんて言って──わぁ、タマ、急に起きあがらないでっ…とと」

「え!?なに!?
ティアっち!このホモさんと一緒に大魔導士様の家に!?
……し……シスターなんてやってる場合じゃない!
ほら!いくよティアっち!なにしてるの!?」

「はぁ!?え!?モココさん!?
仕事!仕事は!?」

「大魔導士様について調べるのが私の仕事なの!眺めるのが趣味なの!!声を聞くのが幸福なの!!!
寄り添うのが宗教なのっ!!!!
ティアっちもファンの1人ならホモさんに抜け駆けさせちゃだめよ!」

この人頭大丈夫か?
モココさん、ライラに誘われたわけでもないくせに頭の上のあれをぶんなげて、聖書をその上にぶっきらぼうに落っことして、スイスイ進んでいく。
その尻の匂いをかぐように、鼻を鳴らしながらタマがついて行き、上にはティアが乗ってる。

まぁ、タマがいれば道に迷うことはないか。

なんとなく、申し訳ない気がした俺はモココさんがぶんなげたシスターセットを拾い上げてその後に続いた。


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意気揚々と先を行くモココさんと、それに続いて優雅に歩くタマ。ティアの方はまだ若干の戸惑いを見せつつも、反対する気は無いようだ。
もう一時間近く歩いているような気になるのは俺の身体が弱まったせいか?つかれやすいのか?
喧騒が遠のいた。ライラは足を止めない。
ブロック舗装路の建物の谷を抜け、建物が次第に低くなり、少なくなり、反比例するかのように緑が増えていく。

さっき、間違えて持ってきたティアの童話を読んだせいか頭の中がメルヘンな世界に埋まっていく。
しばらく寝込んでいて新しい記憶が数日はいらなかったからか、次第に深さを増していく緑に対して、条件反射のごとく数日前の記憶が無駄に鮮明に頭を巡る。
小難しい顔でどでかい乾燥パンを千切るピカピカ頭、どんな話だったっけ?
両親に捨てられた兄弟が、森の奥でお菓子の家を見つける話。
わるーい魔女を、やっつける話。
だったっけか。

やがてはとうとう街を抜けまして、たどり着いたのは森ですね……マジかよ、ライラ、街の中に住んでるんじゃねえのか?

そうだな、例の兄弟がお菓子の家を見つけたのもきっとこんな森の中だったのかな?
きっとライラはわるーい魔女でな、そんなライラをかまどに入れてぼっこぼっこと……んなわけねえけどな。
あれ?そういえば……

「おーい!ライラさんよ!すっかり森の中に入っちまったけど大丈夫っすか?」

「え!?大丈夫って……あぁ!!!
だ!!大魔導士様!この森は……!!!」

「え?モココさんも知ってるんですか?」

「知ってるもなにも!この森は……って!え!?ティアっち!まさかあなた!この森に……?」

──一瞬ライラもこちらに顔をむけたけど、モココさんが話し始めたら少し笑ってまた前を向いちまった。
ティアからの質問に、喰い気味で両拳を胸の前に持ってきて、緊張の面もちをみせたモココさん。
それからしばらくモココさんの話は続いた、長かったけど、今回は重要そうだからちゃんと聞いてた。
つか、案の定この森は周辺の街の人間にとっては超がつくほど有名だったみたいだな。

『館の森』

周囲の街の人間は、この森をそんな風に呼ぶらしい。
普通にしてたら普通の森らしいけど、ふとしたときになぜか急に抜け出せなくなるらしい。
そして抜け出せなくなった人間の前には決まってあの館が姿を現すんだとか。
館の特徴は聞いたところ俺たちの見てきたものと全く同じ、そんな謎な現象が起きてしまうもんだから、周囲の街の人間はこの森に道を敷くことをあきらめて今の形になったんだってな。
で、もちろん森について調査をしようとした人間はたくさんいたようだ、でも、調査をしようと森に踏みいった時に限って全く館は姿を現さなかったようで。
けど、時々大人数で一斉調査とかを執り行うと……丸々1小隊が帰らなかったりすることもあったそうで…最近じゃ調査すらも忌避されてるんだとか。
そして俺たちみたいな人間も珍しくないみたいだ、モココさんが言うには月に数度のペースで森から逃げてくる旅人さんとかがいるみたいだ。
……でも館の中に入る人間はめったにいないみたいだし、モココさんの話に『アレ』がでなかったのは意外だったけど……

ライラが知っていたような素振りをみせた『アレ』ってなんなんだろうな……

……不自然だ、本当はモココさんも知ってるけど話さなかっただけなんじゃないのか?
おかしいだろ、それだけ館の話が浸透してるのに『アレ』の話題が出ないわけがない。
なにか秘密があって、モココさんはあえて『アレ』について語るのを避けたのかもしれない、俺たちはまだモココさんに『アレを見た』って話はしてないからな……
まぁ、ライラが一発で気づいた点からみるに、モココさんも気づいている可能性は十分にあるけどな……
『捕まった』……か。

『アレ』に捕まるってのは…そんなにやばいことなのかな……。

「さあ、ついたよ、私の家だ。
みんなつかれていないかい?」

さっと振り向いたライラの背後には、木造の、質素だけどお洒落で大きな家がそびえていた。
本当に不思議な森だ、だって、俺たちあんだけ森の中さまよったのに、ライラの家すらみつけられなかったってこったろ?こんなに目立つのにさ。
それにしても『つかれていないかい?』ねぇ……言の葉の上ではわからないけど『憑かれていないかい?』なんて意味で言ってたりな……ははは、笑えねえ。
俺の身体の手形……普通じゃねえよな……ひょっとして俺、本当にアレに憑かれてるんじゃないだろうな……

なんとなく、目の前の少し大きな簡素な家がお菓子の家だと思えてくるよ……なんか、不自然に都合が良すぎて不気味にすら感じてくる……

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まるでコテージだ。
四つ脚で器用におったてられて、入り口まで高さ一メートルくらいの小さな階段がついてる。
のぼりきったらのぼりきったで今度は入り口前に広がる屋外ティースペース、木造テーブルやイス、くっそコジャレたプランター。
プランターの頭からは小汚い木片がちょっと見えてる、そっから養分を吸収してぽこぽこ育つ可愛らしい青キノコがこんにちはしてるぜ、あれは……

「み!みて!ティアっち!!あの鉢植え!かわいいキノコはえてるよ!ねえ!ここ!大魔導師様の家だよ!!ねえ!カメラ!はやく!!!ティアっち!!カメラをば!!はやく!」

「わかった!わかったよ!わかりましたから!モココさん、ちょっと落ち着いてくださいってば!
そもそも許可ナシに写真撮るとか駄目ですよ!観光地じゃあるまいし……
あれ……『夜泣きダケ』ですね……」

そうそう、それだ、夜泣きダケだったな。
夜になるとしくしく泣き出す不気味キノコの王女様、食うと泣き出す副作用付き。
あれが泣き声の正体だとまだわからなかった時代、あのキノコが生えている場所は否応なく心霊スポット認定されてたんだとか……。
蓋をあけりゃあただのキノコでしたなんて、当時の人たちもびっくりしたろうな。
でも、あれ意外と魔法にゃ使えねえんだよな……ただのおもしろグッズ、なんであんなもん家の横に植えてやがるんだ、気味悪いぜ。
一回夜泣きダケを利用して、ティアに『疑似心霊スポットツアー』やられて心底びびってた俺はキノコのように可愛いえのき少年だったな、よくおぼえてるよ。
あんまりにも俺が逃げ腰でビビりすぎたせいで仕掛け人だったティア本人もなんだか恐くなってきて、泣きながらのネタばらしをされたんだっけ?

「おや、ティアっちは夜泣きダケを知ってるのかい?
あんな、文字通り毒にも薬にもならない謎キノコ」

「あ……もういいや、ティアっちで。
知ってますよ、いたずらに使った覚えがあるので……」

悪戯な視線がきしきしと口元を押さえながらこちらへ滑って来やがった。
このティアっち野郎、自分で仕掛けて泣いてたくせに悪戯とはふざけてくれるじゃねえかよ、その勝ち誇った顔やめやがれ。
あん時のお前の握力で俺の手首にゃ三日もあざが残ったんだぞ?
怖がって俺の手首離してくれなくて、あのときはティアがほんと何かに憑かれたのかと思ったよ、びびった。

「いたずら……か……」

「……?
……いたずら……です」

「……ふっふふ、そっか。
私とは違う目的で使ってたみたいだね」

「……違う……目的?」

思わず、引っかかった。
あれが肝試し以外に使えるのか?

「ユウ君…気になるのかい?」

「……ええ、魔法に……だとしたら特に……」

「魔法……?
ああ、そうか。
剣を持ってるから剣士かと思ったんだけど……そうか、あんた、魔法使いか。
そりゃそうか、『アレに捕まった』んだものね、魔法なんて使い物にならないよね
『とりあえず武器もっとけ』って…ところかな?」

「ぅぎ…は、はい…」

また近づいてきたかと思ったらまた顔がいちいち近ぇ!
それにしても……気圧されたな……この人、一瞬だけど今スイッチが切り替わったな…視線、足運び、腕、指……
警戒態勢に入ってた……隙がなかった……
なんだ?なんで……そんなに警戒したんだ?

「ってことは……本来は、その剣はティアっちのもので、ティアっちは剣士……なのかな?」

「えっ?あぁ、はい。そうです、私の剣…ですけど、どうしてわかったのでしょうか……?」

そうだな…魔法使いの俺が普段使わない剣を持っているからって、それがティアのものだと特定するのはちょっと考えが……

「急にこしらえたにしては、その剣はいささか出来が良すぎる……
それに、どうみてもその剣の造り…ユウ君…いや、そもそも男性向けではないだろうね。
……軽そうで、グリップも細め……なにより……デザインが私好みさ」

綺麗な笑顔だった。
裏しか含んでないような無垢な笑顔、矛盾した完成品。
笑顔のままに、ライラは言葉を続けた。

「すまない、夜泣きダケを栽培してる理由だったっけ?
……単なる趣味さ。
私は時々、夜泣きダケのすすり泣く声が無性に聴きたくなるとことがあってね……まぁ、昔を思い出すための導入剤だ
…それより…ティアっち、もう降りてもいいよ。
君、本当は足に怪我なんてないんだろう?
隠さなくてもいいよ、その子で街を混乱させないためのカモフラージュだろう?」

「「え!?」」

……初めて、ライラの表情に明確に『感情』が現れた気がした。
夜泣きダケを眺めたライラの表情…憂い、悲しみ?
なんともいえない悲壮感…
暖色ではない…それこそ、夜泣きダケのような…。

それより笑顔から吐き出された、なんとなく美味しくない話題に驚いた。
いや、思惑までわかってたんなら、悪気がなかったのはわかってくれてるだろうからいいんだけど……なんだ、ネタばらしをする前に指摘されると悪いことをしていた気分になるぜ。
…つか、ちょっとまて!この人!ティアが怪我なんてしてないこと気づいてたのか!?
それどころか俺たちの考えていた事まで全部読んでいたからあえて触れずにスルーしてたってのか!?
さっきからそうだったけど……この人……

「ど、どど、どうして……?ば、バレちゃったの!?
ゆ!ユウ!?」

「いや、どうしてって……」

「簡単なことだよ、揺られる時のティアっちの表情、足の動き、身体のバランスの取り方、どれをとっても、どうみてもティアっちは無傷だったよ。
足を気遣う様子が全くなかった。
ティアっちは、もう少し演技の練習が必要だね。
……ほらほら、モココ!キノコ抜かない!」

「「………」」

ティアと顔を合わせて、豆鉄砲を食らった鳩のようにして固まるしかなかった……
そりゃたしかにティアの演技力がなかったのは認めるけど、この人ティアのこと何回見ていた!?
何秒眺めた!?
そんな簡単にわかるもんなのか!?ちなみに言うと俺はまったくわからん!
だって、ティアが歩けなくなるほどの怪我を足になんてしたことなんてないし、足を気遣うティアなんて想像もつかねえからな…
伊達に医者紛いのこともしてねえってことか……

「靴が無いならつくってやるよ」なんて冗談を投げつつ、ライラは家の入り口に向かっていく。

二階はバルコニースペースもみてとれるし、寝室とおぼしき窓も見て取れた。
入り口はベルがついたネームプレート付きのドア……やっぱり女性的だ……

さっきからずっと思ってるけど、ここへきてさらに濃くなったな、ライラの女くささ。
建物の造りも、小物も、やっぱり動きや仕草なんかも、俺はライラから『女』を感じる。

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キノコを抜いていたことを注意されてもめげないモココさんを先頭に、ライラの後をついて木製の扉の奥へと。
広い玄関だった、ライラ含め、俺、ティア、モココさん、ビッグタマがみんなで立っていても少しも狭さを感じさせない靴置き場。
左手には巨大な鏡が……鏡が……あれ?

「うわあ!?なんだ!?うお!?なんだその鏡!!
おい!みろ!ティア!お前浮いて!タマが!!おお……流石……っつか、おお……」

これはびっくりした!
鏡に映るタマが、いつものタマに戻っている。
不思議そうに鏡の向こうからこちらを眺めるミニチュアタマ、こちらのタマは当然、大きな姿でそんな鏡の向こうのタマを不思議そうに眺めている。
鏡の向こうのティアはというとミニチュアタマの頭上で浮いているようなシュールな映り方をしている。

「う……わぁ……すごいなぁこれ……どうして……?
え?魔法?なの…?
ユウも知らないの…?」

「あれ?私は小さく映らないけど……?」

「モココはそれが本当の姿なのだから当然さ」

「…?」

「『真実の鏡』だ。
その者の本当の姿を映し出す……対侵入者用の……トラップみたいなもんさ。
それにしても恐ろしい魔法だな、ユウ君、君がかけた魔法なのかい?
元がそんなに小さい子犬なのに、そこまで強化できるなんてね……」

タマジローさんお手製の魔法だからな……
それにしても生粋の魔法使いのライラをもってしてここまで驚かすなんてな……タマジローさん、本人あんなんだっけど、なにげに本物だったんじゃねえのか?
失敗ビーストウォーリアを解く苦労を考えたら確かにありゃとんでもねえ魔法だったのはわかるけどさ。
異様に難解な術式と魔力の合わせ技で、タマジローさんが『戻ってきて』なけりゃあ今頃アイリさんの幸せは100%ありえなかったもんな、要は俺一人じゃ正解までたどり着くのなんて不可能だったってわけだ、ペールタウンなんて隣街だったのに、世界は広いもんだな。

「東の賢者からもらった魔法ですよ。
タマジローさんっていう嫁バカ」

ちょっと持ち上げておく、見直したぜ、タマジローさん!

「その剣のルーンや、杖の仕組みもその人が?」

……笑うしかなかった……

この人……一体どこまで俺たちを警戒してるんだ?
どこまで観察してやがるんだ?
単にタマジローさんの魔法が凄くて目立ってるだけなのか?
どっちにしても…全部見透かされてるようで気分はあまりよくないな。

「…そうですよ、はい。
タマジローさんの嫁になる人が、タマジローさんと一緒に作った世界最高の杖と剣だ」

「あっはは、そうか、君はよっぽどその『タマジローさん』って人を信頼しているみたいだね。
さっきからずっと警戒されてる私はすこし嫉妬してしまうよ」

はっとした。
なるほどな、やたらとこの人が俺たちに対して警戒していると思ってたら違ったか…警戒してたのは俺の方……だったのか?
それにしても本当に気持ち悪い人だ、最初にあって…なんか言われたと思った時からなんだかこの人には逆らえないような……
ひょっとして……なんかされたのか?俺は。

「まぁ、そう難しい顔すんなよ。
ほら、ユウ君、君も鏡に自分を映してみるといい。
君はきっと面白い映り方をするよ」

ライラに促されるままに、鏡の前に立ってみた。
女性陣から素っ頓狂な声があがり、タマは必死に俺の匂いをかいだり鏡を見たりと落ち着きを失い、俺はというとあわてて自分の掌を確認するしかできなかった。
このとき、小さくてうれしそうな声をあげたライラの様子が俺の頭の裏にしっかりと張り付いて離れなかった。

鏡の前にたった俺、そして、映し出されていた者。

驚いた様子のティア、小さなタマ。

慌てた様子で中空をつつくモココさん。

不気味に微笑むライラ。


映っていたのはそれで全てだった。

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俺の姿が鏡の中のどこにもなかった

「えっ!?…はっ!?……え!?」

掌、鏡、腕、鏡、右足、鏡、と視線をいったり来たりをさせるも装飾過剰な銀の板に映し出されるのは俺以外の者のみ。
一周して、かえって冷静になってしまった、現状にある疑問が湧く。

「え?なんで服まで消えてんの??」

「え!?いや!ユウ!!そこじゃないでしょ!?本体だよ!……いや、服もそうだけど!ユウ!どこにいったの!?」

どこにいったもなにも、俺はここにいるだろう。
まぁ、今の口振り、ここに連れてこられた目的から、なんとなくやるべきことはわかってるさ。

「ライラ……さん?」

聞いてみるしかねえよなぁ……。
俺からの視線を感じ、ライラは前髪を爽やかに指ではじきつつ、くるりと家の奥へと向かっていく。
まただ……この人、またうれしそうな様子だ……なにがそんなに楽しいんだよ……不気味だな。

「説明するからきなよ。
ほら、あがったあがった」

ライラの背中から抑揚のない、事務的な催促があがった。
またも鼻息をあらくしたモココさんを先頭にライラについて食卓へ。
促されるままに席へ。
入り口側の二つに俺とティアが、俺の正面にライラ、隣にモココさん。
タマはティアをおろすなりあくびを一つ、食卓の横で眠りについた。
モココさん、ライラに近すぎる。

「さあ、改めてよくきたね。
ユウ君、ティアっち…モココ」

今更感があふれる社交辞令。
鼻息を荒くふんふんうなずくティア、鼻息を荒くすんすん空気を吸うモココさん、俺は、ため息が漏れたな。
黙っていると徐々に顔を寄せてくるモココさんを笑顔のまま右手で押し返しつつ、ライラが一つ指を鳴らした。
突如俺たちの目の前に空のティーカップがことりと音を立てて現れ、モココさんから驚嘆の声があがる。
別に驚くことでもない、リリーナも爆薬を取り出すのにやってみせたなんてことない転移魔法。
驚くモココさんをライラは満足げに見つめ、不敵な笑みを浮かべたかと思うと今度は食卓の真ん中に手を置く、続けてその手をゆっくりと持ち上げると、食卓に光る魔法陣が現れ、ライラの手に引き寄せられるようにティーポットが生えてきた。なんとなく予測はできてたよ。

健気だな、モココさん、そんなに食い入るようにみたって種も仕掛けもねえよ、ただの魔法だからな。

生えたてのティーポットを持ち上げて「ふっ…」とか言い出しそうな爽やかさで、瞼を落としつつ、四人分の茶を注いでいく。
純白の円底に一本の黒液が柱を立てた、あたりに湿気った空気と独特の薫りが広がる。

「コーヒーだ。
ブラックで大丈夫か?」

緊張した面もちでティアが頷く、遠慮したんだな、コイツ。

「すんません、俺、ミルク多めと角砂糖二つ」

「あ……わ、私もそれで、お願いします……」

俺とモココさんからの注文に笑顔で一つ頷いたライラは、転移魔法で角砂糖を四つ用意する。
からから、と受け皿に現れた角砂糖が音を立てた。
ぱたぱたと静かに両手を合わせて喜ぶモココさんへとまた微笑みかけたライラは俺とティアの間、キッチンの方を指さす。かちゃりと音がしてあわてて振り返る、振り返った先には、ぷるぷると真っ白な液体が宙に浮いている。
ピンポン球サイズのそのぷるぷる、ライラが指をくるりと返してちょいちょいと引き寄せる動作をするとこちらへと向かってくる。
液体の操作が完璧か……となると、この人は必然的に基本魔法は全部修得してることになるかな…まぁ、当たり前か。

ふと、タマが起きあがり、二つのうちのミルク玉の一つをぱくっと飲み込んでしまった。

苦笑いを一つ、ライラが人差し指を親指にひっかけて弾くと、残りのミルク玉が綺麗に二つになって俺とモココさんのティーカップの中へとホールインワン。

「私としたことが、もう一人の客人に飲み物を出し忘れてたね…
すまない、ユウ君、モココ、ミルクは通常量で我慢してくれ」

もごもご、はふはふと口元を噛んだタマはそのまままた眠りについた。
苦笑いを浮かべ、俺も一つ頷いて返してやって、ミルク入りコーヒーに角砂糖を二つぶんなげてティアの前へと置いてやる。
次いでティアからブラックコーヒーをとりあげた俺を見、ライラはまたひとつ苦笑い。

一瞬、なんともいえない空気が食卓を包んだ。

一つ、鼻から漏らすようにため息をもらしたライラが、ゆっくりと口を開く。

「……ユウ君、単刀直入に言うか。
……君は間もなくして死ぬ……」

静かな音を立てて、ティースプーンが地に落ちた。

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ティアの落としたそれはまるで、必死にその場の空気を壊そうとしているかのように静寂を許さない。
突然のライラの発言。
正直またかと思う、いくらなんでも最近俺は死にかけすぎている…気がする。
とはいっても、今回は今までとは全く違う、まず原因がわからねえ、なんで俺が死ぬんだ?怪我?殺人?病気?
囮でも、転倒でも、でかいタマとの決闘でも、人生初の獣レースでもない、俺は突然心当たりの無い刃を首筋に向けられたのだ。
たぶんなぁ…今みたいな状況を人は本当の意味での『混乱』っていうんだろうな…
いつものことだけど、なんだかこういうのって本人の問題であれば本人の問題であるほどに他人ごとに感じるよな、現実逃避っつうのかな?
タマの件のときみたいな迫る恐怖が感じられねえ、一種の諦めに近いんだろ、たぶん。

隣ではイスに座ったまんまで上体を降ろして床に落ちたスプーンを不器用につまもうとする背中。
その小さな背中がかすかに震えているのを見たとき、なんともいえない罪悪感に襲われる。

「なんて…いいました?ライラ…さん。
ユウが……ユウ……が?」

震える声が鼓膜を鋭くつつく。
やめてくれ、俺はお前のそんな声が苦手だ。

「死ぬと言っている。
それも長くはない、もってあと数日だよ」

「なに…言ってるんですか、なんで…?
ほら、ユウ、ピンピンしてるじゃないですか……?
死ぬ訳なんて……ない……!」

ゆがんだ笑顔が震えるスプーンを眺めつつ起き上がってきた、スプーンに映る歪んだ瞳はゆらゆらと揺れ動きつつ、時折ちらちらと俺の方へと視線をくれる。

不気味なほどに、俺は俺自身のことが他人事だと思えてくる。

「落ち着けよ、ティア。
どうせいつもの死ぬ死ぬ詐欺だよ、ライラさん、ちゃんと説明してくださいよ、バカ正直なコイツが気の毒だ」

こんなセリフですら、なにも考えずともでてきてしまう。
どうしちまったんだろうな、俺は。
どうもライラの言うとおりにしとくべきな気がしてならねぇ。
……藁にもすがる思いっていうのか?

「君は肝が据わっているな、ユウ君……他人の心配なんてしている場合かい?
くっ、くふっ!これから、自分が死ぬというのに……くっ!はははは!」

「なにがおかしいんですか!!」

「──きゃあ!!」

ティアが食卓を叩きつつ立ち上がったと同時、ティアのティーカップとライラのティーカップが弾け飛んだ、モココさんが本気でビビってる。
コイツ、怒りにまかせて魔力を暴走させやがった!
いや、たかだか怒りの感情を持ったくらいでティーカップを割るほどに溢れ出す魔力ってのも異常だが……
そんなティアを嘲笑うかのように、ライラは自分のブラックコーヒーとティアのコーヒーを球体にして宙に持ち上げていた。
結局ティーカップの破片だけが辺りに散らばり、コーヒーの茶色や黒はどこにも落ちていない。
口元に指を持って行き、喉の奥になにかが引っかかったような笑いを延々と続けるライラにティアが握り拳を固める、がっちり握られた小さな拳からは見るからに高温な青い炎が立ち上る。
……ったく、コイツは……。

「──っ!?ティアっち!?」

「……だからおちつけって、ティア……。
ライラさん、冗談だとしたらふざけがすぎる、さっさとネタばらしすませて全員笑わせてくれよ……一人で笑ってないでさ…」

「へえ、ティアっち、あんた、いい魔力を持ってるな……そうカリカリすんなよ、納得いくように説明するからさ。
ほら、座りな。
ユウ君がそう言ってるんだからね」

渋々と席に着くティアに胸をなで下ろした、ちょくちょく急にキレるからな…コイツが笑えない冗談を好まないのは知ってるけど。
さぁ、ようやく本題だな、どうせあれだろ?話の流れから察するに『君には、館の少女の呪いがかかっている』とか言うんだろ?早くしろよ。
ふわふわ、ぷるぷると浮かぶ球体を愛おしげに見つめる不自然に綺麗な微笑、長年欲していた宝石を目の前にしたような恍惚とした猫目が中空の茶色と黒を遊ばせる。
女みたいな指先が空気をかき混ぜるように孤を描き、薄い笑みが音を発した。

「そうだなぁ……ユウ君。
君は憑かれている、呪われているんだよ、悲劇の中の無念の化身に。
黒の館乙女に……」

思ってたよりずっとめんどくせぇ言い回しだったけど、要はそういうことなんだろ。
めんどくせぇ。

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「せっかくだ、話してみるか。
黒の館乙女、おそらく君たちも館で見たであろうアレだ」

「「──っ!」」

「や、やっぱり……ティアっち……見たのね……館。
……それに……アレって……会ったの……?
私は噂でしか聞いたことないけど……両手で館内を這いずり回るっていう女の子に……」

やっぱり知ってたのか…モココさん……。
会ったなんてレベルの話じゃない、俺たちはおそらくアレのものと思われる血痕や争いの痕、日記、SOSの紙飛行機まで見つけた上に追いかけ回され、挙げ句に一度捕まってるんだ。
思い出すだけで息苦しくなる、あの壊れた音声発生器みたいな声、不気味な三つ穴、全身から放たれる違和感……全身の毛が逆立つ感覚に両肩を抱く。

「…ぇ、ええ…確かに会ったけど……あれが!なんでユウが死ぬ理由に──

「手形」

言葉を遮る冷たい一言に、びくっとティアの肩が持ち上がってみえた。
これも、心当たりがあるよな……しかし……あれが……。

「今、ユウ君の身体のどこかに移動する手形があるんだろう?ティアっち。
それが呪われている者の証だよ」

かたかたと音が聞こえてきた、隣でティアが青い顔をして虚ろな視線を割れたティーカップへと向けていた。
ゆらゆらと、拒絶を意味する形で首をゆっくり左右に振って歯を打ち鳴らしている、コイツは…本当に素直なヤツだからきっと今の段階でもうライラの話を信じてやまないんだろう。
「ちがう…そんなわけない……うそ……」
そんな呟きが動きを見せないティアの唇から漏れている。
出しゃばるしかねえな。

「すんませんけど、俺はまだ今の話……それ以前にあなたの事を信じ切ってませんよ。
さっき自分で言ってたように、納得がいくように説明してくれよ」

──まただ、なにがそんなにおかしいんだ?
くっくくっくといちいち鼻につく、人を小馬鹿にするような笑いを一人で延々と……

「っ、ふふ、わるいね、くははっ!
そうだな、1から説明しようか、私はね、あの館について研究してるのさ。
さっきモココが話してたように、あんたらみたいなのもそんなに珍しいもんじゃないんだよ。だから一目でわかった、捕まったんだってね。
まぁ、あんたらみたいに実際に館に入った上で、しっかり生存してくる人間なんてほんの一握りだけどね!」

「館についての……研究?
なるほどね、どうりでさっきからやたらと嬉しそうだったわけだ。
『実験体』……ってとこでしょう?ライラさんよ」

またまた一つ笑い声をあげてブラックコーヒーの水球から一滴を取り出したライラはそれを口へと運んだ。
一呼吸おいての「ご名答」
流石にちょっと頭にきたぜ。

「よくみてるじゃないか、ユウ君、実は最初に会ったときから厄介なもんが厄介なもんを連れてる思うと楽しくてね、笑いをこらえるのに必死だったよ」

「……へっ、厄介なもんねぇ……
俺は…俺たちは、あんたの実験に身体を差し出す気なんてねえぞ……!」

「そう嫌そうな顔すんなよ、ユウ君。
なにも私はあんたらをオモチャにしようってんじゃないよ」

「……そのおちゃらけた態度、もうちょっと改めてくれりゃあ話ぐらいは聞いてもいいすけどね。
この状況で誰があんたを信用するっていうんだよ」

「……しかし、君は私に逆らえない……わかってるんだろう?ユウ君…」

「っ!!」

野郎……!
くそが、そうだ…どんなに気にくわなくても、どんなに意地をはってみても、どうせ館やアレについてこの人以上に詳しい人間はいないんだろう。
わかってる……この人の言うことが万が一真実だった場合、時間もない。
ここで一つでも多く情報がほしい…
…しかもコイツは未知数、力ずくでどうにかしようにも、力を失った俺は元より…ティアだってかなうのかどうかがまったく不明だ。
打つ手が従う以外にないんだ。

「……その無言は、肯定と受け取ってかまわないかい?
勘違いすんなよ、私はあんたらを助けたいとも思ってるんだ、この致死率100%の呪い、今まで私はたくさんの人間を助けることができずに最期を看取ってきた。
あんたらみたいなのが来る度に私は思うんだよ、この人を、最初の生存者にしたいってな」

澄まし顔で両の掌を天井に向け、肩の位置までもってきてのそんなセリフ……
信じてくれなくても結構、どうせそっちから頭をさげるんだろう?
とでも言いたげに見えてムカつくな……。

ティアの方を見てやる。

潤んだ上目遣いで、今にも涙がこぼれ落ちそうな顔で頷いている。
……仕方ないな。

──コイツがそうだと言うなら、それが正解だ──

「……わかったよ。
大丈夫だ、ろう。たぶん!
……ライラさん、打つ手は一応あるにはあるんですよね。
そうでなくても、ヒントの一つや二つは掴んでいるのでしょう。
そうじゃなきゃ、そんな顔できねえよな。
よろしく、頼みます、俺よりも……コイツのためにも」


皮肉だ。
こんな状況下に置かれて今更気づいたよ、自分の価値に。
俺のためにこんな顔をしてくれる相棒がいるんだ、無碍にできねえよ。

薄っぺらい信頼を顔面に浮かべた赤毛が頷いた。
陰湿な品定めが見え隠れする猫目が細めいた。
ただ、綺麗で、それだけの声が自信を口にした。


相棒が、袖で目元を拭ってくれた。
今の俺にはそれだけで充分だった。

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「結論から言うと、今から足掻いてもどうしようもないんだ。
チャンスがある、それを逃せば死、うまくいけば生存。
それまでは待つしかない……のだろう。正直なところ、生存例がないから憶測で語るしかないんだ。
なにも難しいことはないだろう?」

「……そうですか。
では、その話は後回しでもかまいませんね。
館について、知ってることを教えてくれませんか?」

「…ユウ…?」

きょとんとした泣き顔が不思議そうに見上げてくる。
どうしようもないならどうしても仕方ないからな。
逆に言うと、時間を無駄にできるのはいまだけなんだろ。
その間にこの人の信用材料を揃えようと考えるのは自然だろう。
……といった思考をぶち込んで泣き顔に頷いてやるけどどれほど伝わってるんだろうか…。
俺が死ぬとかどうとか、そんなのは今は忘れとけよ。
最終的には今回もお前に頼むことになりそうなんだ、今はしっかり準備しておいてくれ。

「ふっ…うふふ……君は本当に面白いよ、ユウ君……
価値観が他の人間とずれている……君はもう少し自分を大切にしたほうがいい。
いつだってティアっちを最優先している節があるんじゃないか?
そういうヤツは嫌いじゃないけどね」

「余計なお世話ですよ。
俺は、ちゃんと自分の思うことを優先させてます、結果として相棒に迷惑をかけてることが多いから反省してるだけだ」

「口先だけならなんとでも言える。
いつかティアっちから…大切な人間からしっぺ返しを食らって私のようにならないようにするべきだ……
……もっとも、君はもう手遅れかもしれないけどね、いざというときのためにティアっちには釘を刺しておくことをオススメするよ、後悔をしても遅いんだ……」

「……?
俺には、なんのことだか……」

「今はそうだろうね。
見捨ててもらえる幸せもあるということだ、大切に思えば思うほどにね。
……気にしないでくれ。いつか思い出し、役にたてばいい」

「……」

会ってそんなに経ってないけど、ライラがかなり秘密主義者で八方美人なのはよくわかる。
それだけにな、この時々見せる憂いというか…異様に裏のなさそうな様子はなんなんだろうな。
……夜泣きダケの時にも見せたこれは…完全に他を意識していない、素直な自身への慰めみたいな……過去になにかあったんだろう……それも、かなり大事な人間との間にだ、夜泣きダケを『昔を思い出すための導入剤』って言ってたしな。
……嫌だな、寂しそうな顔しやがって、同情で信用させようったってそうはいかねえぞ!……だから、あんまりその手の話をするのはやめようと思う……そういう様子を見せるのもだ。
別に同情してるわけじゃねえけどな!

「……話を逸らして悪かった」

「……いいえ。どうせ時間はあるみたいなので……」

「……大魔導師様……?」

「そんな顔すんなよ、モココ。
怖い話は好きだろう?今から館の話をしてやるから心して聞きなよ」

そうしてモココさんに笑いかけるライラの笑顔は本当に優しいものだった。
よくよく考えると、モココさんとは毎日のように顔を会わせてるんだろうな、、ライラは。
いつも教会の入り口で待つモココさんに、今日もそうしていたように声をかけているんだろう…ライラからしたらモココさんは特別に可愛らしい人間なのかもな……。
不思議な人だ、見ればみるほどよくわからん。

「結論から言うとな、私も館についてはほとんどなにも知らないんだ」

「……無理もないですよね」

モココさんに向けられたまんまの笑顔で語ったライラに、皮肉っぽい返答をしてしまった。
でもまあ、当たり前だ。
モココさんが言ってた事が本当なら、館をみたことだって結構貴重かもしれないし、中に入ってもあんな……あんな状況だ。
調べようがないし、調べることそのものにリスクを伴うのだろうからな、ましてや入って出てくる人間が少ないとなると、さらに情報は絞られてくる。
わかっちゃいたけど……思った以上に事態は深刻かもしれない。

「無理もないだろう?ふははっ!
そう、あの館がいつからあるのか、過去になにがあったのか、なぜあんな状態で、なぜあんなものが這いずり回っているのか、アレがなんなのか、わからんことだらけだ。
お手上げさ」

「では、先ほどの自信はどこから?」

「あぁ、呪いの治療の話かい?
その方面の研究はある程度すすんでいるからね……たくさんの犠牲の上に……ね?」

仕返しと言わんばかりに皮肉っぽく返して来やがったな。
悪いけど、俺はその犠牲の山の塵の一つになる気はねえよ。

「チャンスがどうとか仰っていましたが……?
そこまでわかっていながら、犠牲の山がね……。
きな臭い」

「ちょっと…ユウ…!
ごめんなさい、ライラさん……気を悪くしないでください。
話を……詳しくお願いします……」

「いいんだ、ティアっち、ユウ君は会話の綱渡りがうまいな。
ついつい風を吹かせたくなるんだ、すまない。
チャンスってのはあれだよ、呪いが強まるタイミングじゃないと破壊できないんだ。
君も魔法に精通してるならわかるだろう?」

なるほどな。
マジックキャンセリングと同じ原理か、タイミングが重要とな。
でもこの呪いは術式がどうとかそんなレベルの話じゃねえだろ?本当にこの人の言いなりで大丈夫なのかな……。
頼りがライラしかいないのはわかってるけど、肝心の成功率が0ときちゃあ眉唾ものだ。

「そんな顔をされるのも仕方がないよな。
生存者が0なんて話をされてたらな、私だって信用なんてしないさ」

ドキッとした。
……この人……俺の心の中まで読んでやがるのか?

「そうだな、簡単に『黒の魔力』について説明してやるよ。
説明っても、私の独自の解釈だし、呼び方も私が勝手に決めたものだ。
そんなものでも、なにもヒントがないよりかはマシだろう?」

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「黒の……まりょく……?」

小難しい顔つきで呟いたかと思うと、すかさずペンとメモ帳を取り出して構えてみせる相棒に半分本気で感心と尊敬を覚えた。
勉強熱心……なのか?
今回は俺の今後にも関わることだろうからな、俺もちゃんと聞いておかないとな。
ライラはというと、今度は空中のコーヒー玉を魔法で加熱している、そしてまた…一粒を取り出して口へと運んだ。
衛生面が気になる俺は少々潔癖なのだろうか。
つか、ライラ、今のんだコーヒー玉、ティアのやつじゃねえの?
いや、そしてなんなんだよそのまぶしい笑顔は。

「はっはは、ティアっちは勉強家だね。
これについて学んだところで使い道なんてないだろう?」

「ヒントには!なるんですよね!?」

「不正解ではないな……じゃあ、私の講義を心待ちにしてくれている生徒もいるので、語らせてもらおうか……」

「わっ!私も!ちゃんと聞いてますよ!」

「……それこそモココが聞いてもなににもならないと思うんだけど……」

「いいんです!お願いします!!」

「……そう……」

ライラが、こちらをひとめ見、顔をほころばせた。
さっきから見てると、モココさんだけじゃなくて、ライラもモココさんには特別な感情を持ってるように見えるな…
モココさんにだけはライラも裏の無い優しい顔を見せる。

「……黒の魔力っていうのは…あんたらも見てきただろうからわかると思うけど、あの少女が放つ禍々しいあれだ」

……ふむ……
あれは単なる雰囲気じゃなくて、何らかのエネルギーだというのか?
それがわかっただけでも大前進だ。
どんなものでも、エネルギーである以上は何らかの消去方や枯渇はあり得る。
問題はその方法がわかってるかどうかなんだけど……

「あの力は強大だ、触れるもの皆に害をまき散らし、破壊し、存在を奪う」

「存在を奪う?」

存在を奪うもなにも、俺は今こうしてここにいる。
どういうことだ?

「あれはな、触れたもののマナ、魔力、果てや体力までにも徐々に同期をはじめ、最終的にはその生命そのものを飲み込み、増長するんだ」

「その過程が……呪い……か」

「そうだ」

いまいち胡散臭えな。
モココさんはふむふむと鼻息を荒く頷いてるだけだし、ティアもちょこちょことペン先を動かしているだけで特に変わった反応はない。
この2人、本当に意味を理解しているのだろうか……?

「ユウ君、今君の体はその魔力に飲み込まれまいと、持てる全てをもってそれに抵抗している、マナも、魔力も、体力もつかってね。
結果として君の体は弱体化し、魔法も使えなくなってるってわけさ。
なかなか大したもんだ、そこまで呪いが進行していてもケロっとしているんだからね、普通の人間ならもうとっくに寝込んでいるくらいにまで呪いは強くなっているよ」

「ほう、ということは、さっき話してたチャンスってのは、同期が完了して、その魔力が俺の命をまさに飲み込もうとする頃ってことでいいんすか?」

「さすがに魔法に精通しているだけのことがある、話が早いな」

隣から『んふー…』と鼻息が聞こえてきた。
なんでティアのやつがどや顔してるんだ?

「なるほど、ヒントは…ここまでになりますか?」

「いや、もう少しわかっていることがあるよ……というよりも、私は答えを知っている。
黒の魔力から話したからややこしくなったけど、答えは簡単だよ」

「ほう……」

「答えは『最大まで達した黒の魔力を、それ以上の魔力で叩き割る』だ。
結局黒の魔力は私らの既知の魔力では語れない、それに、黒の魔力自体、術式がどうとか、解呪法がどうとかがよくわからないんだよ。
強いのが正義、魔法だろうと何だろうと結局落ち着く真理はそこにある」

……いや。
うん………。

満面の笑みで述べられた答え……意味がわからないぜ。
魔法っていうのは賢さのある種の頂点であって…なんだ、そんな、野蛮?な?原始的?な?方法で…その、攻略できるなら俺もはじめっから畜生に成り下がったタマジローさんをマジックロッドインパクトしてたわけであって……

「……いや……あの……」

隣でメモ帳が閉じられた音がした。
一際大きなどや鼻息も聞こえてくる……これは、ダメなパターンだと思う……

「そうですか!!なるほど!!
つまり!『正々堂々、ぶっ飛ばせばいい』んですね!?ライラさん!!」

ほら見たことか、ティアのやつが納得しちまった。
魔法に関してティアに納得させたら負けだぜ。

「そういうことだ!ティアっち!
私は賢い生徒が好きさ!」

「わ!私だって正々堂々ぶっ飛ばします!」

「モココは可愛いなぁ」

「うへへぇ……」

……終わった。
俺にはもう『死』しか残されてねえ……なんだよこれ……ふざけんな…
どこまでライラの話が本当かはしらねえけどよ…この流れがおふざけじゃなかったとしたらなんだ?俺はこの呪い以上の魔力のこもった一撃を受けなきゃならねえってのか?
ティアの手加減に手加減を加えた剣で死にかけた俺の体に、数百年ものの魔導師が『強大だ』っつう魔力以上の一撃を浴びせようってのか?
そんなもん、絹ごしの豆腐に向かって魔導破滅弓の雨を降らすのと同じだ、考えるより先に結果が目に浮かぶぜ。

「まぁ、口で言うのは簡単だが、実際に実行したとしたら、九割九分九厘、ユウ君は死ぬ。
可哀想だね」

安心したぜ。
そうだよな、死ぬよな、普通は……それならさ……

「……コツがあるんだよ……」

ふざけんな。

「いや、その、ライラさん?
どうしても俺はその一撃をくらわにゃいけないんですか?
俺だって自分の限界ぐらい知ってるつもりですよ、死ぬぜ」

「だから生存率が無いってんだろ。
簡単に生き延びれると思うなよ」

「そうっすか……」

「これをうまくやってのけるにはな、黒の魔力の特性を利用しなきゃならないんだ。
正攻法じゃ無理だし、この特性を利用するって時点で私にも不可能なんだよ」

「へぇ……そうっすか……」

「魔法の事に関するコツなら!私が!!」

「いいえ!私が!ティアっちには負けられません!」

ティアはともかく、モココさんはやめてくれ。
つか、いちいちティアに対抗せんでいい。
特性だと?ライラに解呪を不可能にさせる特性って……なんだ?

「聞きたそうな顔だな、ユウ君……。
こら、モココ、ティアっちと喧嘩しない!
そうだ、黒の魔力の特性。
あの力はな、人の発する『強い感情』に磁石のごとく引き寄せられる性質があるんだ……
心当たりがあるだろう?」

「…強い感情…」

いわれてはっとした。
そうだ、館の上からあれの声が聞こえてきて、俺たちは不安を煽られて、そこへきてのあれへの手がかりによって俺たちの『不安』や『恐怖』、『緊張感』が爆発したんだよな、そういえば……。
それだけじゃない、『後悔』や『好奇心』その他もろもろの感情もあのときがピークだったと思う。


そんなときだったよな、アレが、まるで俺たちの居場所がわかっていたかのように窓から覗いていたのは……

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