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ティアが…何かを叫んでいる。
必死の形相で、額に汗をにじませて。
右も左も、上も下も前も後ろも全部が真っ黒、視界の全てが黒。
唯一色を持ったティアが発光しているような錯覚を覚えるほどに光を許さぬ黒。真っ暗闇。
どこだ…ここは……
どうした、どうしたんだよ、何をそんなに慌ててる?
俺はここにいるから、見えてるから、わかってるから、そんなに急かすな、名前を連呼するな、こっちが不安になるから。

ふと前に出した手が、白く小さな手によって握られた。
握ったことはもちろんある、握られたこともある。
でも、握りなれている、または握られなれているかと問われると首を傾げてしまう。
俺の知っているティアの手は、剣を練習していたときの俺より剣ダコだらけで、皮が所々剥けてて、それを覆うようにまた固い皮膚がのってて……そう、ティア本人の見た目からは想像もつかないぐらいにごついんだよな……
でも、それとは真逆に手の甲は歳相応の女の子の手で、すべすべしてたりしっとりしてたり、とにかく白くて、爪の一つでもたててしまったらいとも簡単に裂けてしまいそうに柔らかくて………最近はタマジローさんからもらった魔法のおかげで手のひらも女の子のそれで……握られたときに俺は変な違和感感じて……

あー、そんな手に引かれて俺は、非常時だってのに隙だらけで、床に落ちてた色んなもんを食らって……

前方の闇へと振り返ったティアが、がっちりと俺の手を握ったまま走り出した。
それに、その柔らかい手に引かれて闇の中へ……奥へ……奥へ……

「……う……ティア……?」

声がうまく出ない。
俺の声は、声になっていただろうか……
聞きたいことがあるんだ、どこへ……どこへ向かってるんだ?
少しずつ、ティアの握力が増していく。
剣を嗜むんだ、このぐらいの握力は……

……痛い。

……痛い、いや、握りすぎだ、ティアの握力じゃない。
剣云々なんてレベルじゃねえぞ!?
なんだこれ!?いてえ!?

やめてくれ!そんなに握るな!
やめてくれ!そんなに引っ張るなよ!

痛いから!

「──や、やめ……」

また、声がでない、なんだよ、なんなんだよ。
のどの奥にふたをされたような、声を出そうとする度に空気の流れを止められるような……苦しくなって声が声にならない!

──!

俺の違和感に気づいてくれたか!?足が、止まった。
さすがティアだ、少しずつ駆け足を遅くし、早歩きになり、歩き、足を止めてくれた。
いまだに握られている手は痛いけど、少なくとも引っ張られまくる痛みはなくなった。

「……ティア……?」

よし、声も、少し出た。
おい、ティア、ここはどこなんだ?
声もうまく出ないし、暗いし、俺とおまえしか見えない。
タマはどうしたんだよ?荷物は?

剣士服姿の、小さな背中は動かない。
呼吸すらしていないのか、まるでティアの時間だけが止まったかのように固まってしまった。
なんだよ、どうしたんだ?

首が、少しだけ動いた。
柔らかそうな、綺麗な毛先が揺れたからきっと気のせいじゃないだろう。

相方相手にこんなことを思うのもあれだけど、なんか、今日のティアは変だ、というか、不気味……かも。
心なしかその小さな手首より先が青白さを増したような気がした。

また、首が動いた。
かくっと、少しだけ角度がついた、正面が0°なら、今はきっと15°ぐらい左を見ている。
揺れる煌髪から感じた匂いは、いつものシャンプーの匂い、少しだけ安心する。

そこから先だ、また、かくかくっ!と首が角度をつけた。
30°、45°、いつもよりも白くて、すこし硬そうにみえる頬がみえた……こいつ、こんなに血色わるかったっけ?

──と、思ったそのときだ、少しずつかくかくと回っていた首が、急に弾かれたかのようにスパァン!と俺と向き合った。

…普通に腰を抜かした。
首が……180°まで回転して、背中の上からこっちを『視て』いた。

全てを思い出す。
真っ白で、黒くて、三つあって。

まるで、背後の闇へと貫通しているかのような穴が、目と口にあたる位置にある、奴だ……そうだ、俺達は館でこいつに遭遇して……

叫びたい!でも、声が!……ティア!おい!ティア!
どこにいったんだよ!こいつ!やばい!立てな…っ!
助けてくれ

怖い

助けてくれ、助けてくれ、ティ──


『あ──────────────
 ───────────────
 ───────────────
 ───────────────
 ───────────────』

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「うわあああああっ!!!?」

声が出──はっ!?

目を覚ました俺の目の前にあったのは、よくよく見知った顔面。
気づいたときにはもう遅く、気づかれたときにも遅かった、超絶至近距離にその瞳。
勢いで起きあがった俺の額に、その見た目とは裏腹に異様な硬度を誇る額が激突する。
ピンボールのようにティアの首が跳ね上がり、俺はというと……寝ぼけているせいか、じわじわと響く痛みに吐き気を催す。
いや、確かにさ、呼んだけどよ……こんなのってさぁ……
耳をつんざく「ぬわああああああっ!?」に安心してしまったのは少し恥だ、けど、夢でよかった……
やかましい悲鳴、額をおさえながら床を転がり回る滑稽なティア。
鈍く残る額の痛みに、徐々に意識が覚醒していく感覚を覚えた。
あの後、結局どうなったんだ?
そう、俺の靴が脱げて、引きずられるだけひきずられ、ぶつけられ、擦られ、見上げたスパッツに色気は無く、ただただ苦痛だったのを覚えている。

……でも、夢の中でもそうだっけど、確かにティアに握られていた手は…心なしか脈打っていたのを覚えている……なんとなく、恥じだ。

「……おい、ティア…?」

額の違和感を手のひらで覆いつつ、声をかけてみる。

「いだいいい!ばかぁああああ!!!ぬわあああっ!!」

声量が足りなかったな。
大げさな、ただの頭の交通事故一つで……
真っ赤な顔でひたすら顔を隠しながらのたうち回ってる。

ははっ、さぞかし間抜けな面してんだろうな。

「ティア!おい!ティ…──!?
……ティア……」

「なによもう!起きるなら起きるって言ってから起きてよ!」

「………
 ……
 …それなら、おまえは目の前にいるならそう言えよな」

「うるさい!何回話しかけても眠りこけてたくせによくいうよ!!ずっとうなされてるくらいならさっさと起きなさいよね!
ずるいよ!私も過眠症でドリームカーニバルしたい!
ぶびえええええんっ!!!」

「ああ、最高だったよ……すまんかった」


……わざと、気づいてないフリをしてやった。

心配かけちまったんだな……
口ではあんな風に言ってるけど、隈で下瞼ぶよぶよ。
目玉も真っ赤に充血しちまって……ずっと泣いてたのかもしれない、寝不足で何度もこすってたのかもしれない。
そして、少なくとも、のたうち回ってたさっきからは泣いていた…か。

窓の外に目をやってみる、もう真っ暗だった。
空にはいくつもの星々が光っていて、それが現在の時刻を時計以上に生々しくもの語る。
そういや、ここはどこだ?
ふと気がつくと、俺は真新しい男物のパジャマに着替えさせられていて……つか、なんだよこれ、なんで俺の隣でテディベアが寝てやがる、でかくてなかなか邪魔じゃねえかよ。
俺の横で寝ていたテディベアは、ティアのものよりもふたまわりほどサイズの小さな剣士服を纏い、無機質な瞳で天井を仰いでいた。
ひょっとしてこいつが……原因?いやな夢だったな……

「……なぁ、ティア?」

「えっぐ!なによ!ご飯なんてもう冷めちゃったんだから!さっさと温めてくるわよ!うるさいわね!」

「さんきゅ。
おまえも食え、どうせ食ってないんだろ?」

「え!?じゃあ!私がハンバーグたべる!」

「おう、1000000Fな」


そっか、飯はハンバーグか。
……いや、待てよ?
『私が』?
ということは、選択肢があるのか……

つまり、考えられることは、俺は数食分の食事を用意されるぐらいの間は最低でも寝てたってわけか?

しかしこいつはやっぱり何も食べてなかったかのか……
状況から考えて、ティアは風呂とトイレと料理以外は俺の横から動かなかったんだろうな。
……本当に悪いことをしたな……ハンバーグだろうと何だろうとくれてやる、ただでさえもやしみてえに細いんだから今日ぐらい俺の分まで食ってもらいたいもんだ。

で、問題はそこじゃない。
状況から考えるに、ここは貸し出し住宅か。
自由に飯を作ったり風呂に入ったりベッドを使ってたりしてたらしいからな。

鼻歌をうたいながらパタパタと部屋から出ていったティア、その背中を見送る。
ドアは開けっ放し。
部屋の外はすぐに廊下のT字路か、ドアからそう遠くはない距離に壁がある。

そういえば……俺が気を失った時にはタマは……

そうだ、まだ魔法を解いていなかったから……

と、考えていたら、部屋の外のT字の左から巨大なままのタマがのそのそと現れた。
部屋の外で番をしていてくれてたのか……そっか、俺はタマにも迷惑をかけちまったのか……

「……来いよ、タマ」

狭苦しそうに、巨大すぎる体でひょこひょことドアの隙間を抜けてきた。
元の姿に戻してやればいいんだけど、その前に伝えときたいことと聞いておきたいことがあるからな、もう少し我慢してくれ。
そのままゆっくりとベッドへと近づいてきたタマは、ベッドの上で上半身を起こす俺の膝に顎を乗せてきた。
……うん、ちょっと思ったよりも重くて声が漏れちまった…。
それにしてもでかくても甘えん坊だな、まだリリーナのことが恋しかったりするのかな?
ちょっとでかすぎるその頭に手のひらを乗せてやると、その先ででかすぎる尻尾が一度起きあがり、脱力していた。

「悪かった、ありがと──むがっ!?」

この状況で鼻先を顔面に入れてくるとは……
あれか、
『気にすんな』
ってか。男だぜ。タマ。

それじゃ、鼻先に甘えさせてもらって、本題だな。

「ここはどこだ?」

……ふむ、首を傾げられてしまった、わからんのか。
とにかく人の匂いを追って森を抜け出したのかな?
……でも、そんなんで出られるなら、なんで最初はあんなに道に迷ったんだ?
まぁいい、次だ。

「そっか、おまえはウルウルフだもんな、俺たちだってこの辺の街の事なんて知らねえのにお前が知ってるわけねえよな?

じゃあ、もうひとつ聞かせてくれ。

俺は、何日間寝てたんだ?」


数秒ほど、間が空いた後、俺の頭のてっぺんにデカい肉球が三回押しつけられた。

──そうか、三日も寝てたのか、俺は。

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でも、おかしくねえか?
俺が気を失った原因って、ティアに振り回されすぎたからだろ?いつもの俺ならそんなことで気を失ったりなんかするはずねえんだけど……なんで?
うーん、疲れてただけかもな……

ま、いっか。
きっと打ち所が悪かったんだろ。
それより早くタマを元に戻してやらねえとやばいな…この魔法がまるまる三日かかりっぱなしだったってことはだ、単純に考えてもタマの身体には相当な『副作用』がかかっているだろう。
まぁ、別に副作用ってもな、しばらく成長が止まっちまうだけだから…そんなに問題もないけど。むしろその分長生きできる。
そういえばまだティアには話してなかったよな、あいつはいつになったらタマが全く成長してないことに気づくのやら。

「タマ、わるいな、戻してやるからそこの杖、とってくれないか?」

威圧感のある、大きな、潤んだ瞳が俺を見上げた。
やっぱりあの館でみた『あれ』の目は異常だ……あれに比べたら、タマの威圧感なんて赤ちゃんだ。
いや、実際に赤ちゃんなんだろうけど…

タマはめんどくさそうに俺の膝上で鼻息をふかすと、のそのそと部屋の隅にある杖を拾いに向かった。
本当に申し訳ない!
つか、もう、タマはこのままでいいんじゃねえのか?
このままの方が話しも通じるし、丈夫だし、ちゃんと考えて行動できるいい子だし、感情や考えの表現もずっと伝わるからな!
──なんて考えていたら、タマがさんごの杖を俺の顔面に向かって首を振ってぶん投げてくる。
……なんとかとっさに出した手に収まったからよかったものの、危うく貸し出し食堂のランス状態だったぜ、あの、俺の杖くらってたときの。うん、やっぱりタマは小さい方がいいな、強すぎて、機嫌を損ねちまうのが恐い。

ハグハグと空を噛みつつ不機嫌そうに戻ってきたタマは、さも当然のようにまたも俺の膝に顎を乗せた。
また声が漏れた。

「ありがとな、ほら、いくぞ。
その体勢のままじゃ小さくなったときに舌噛むからちょっと離れてくれ」

危うく『俺の膝にちゃんと乗ってくれ』というところだった、今のタマに体重預けられたらつぶれちまうだろうよ、しっかりしろ俺。
普段のタマに話しかけるつもりで話しかけるとこういう簡単なミスで命取りだかからな……気をつけるか……
もっとも、タマは賢くていい子だからな、乗っていいぞと言われても自分の体重を気にして遠慮してくれるだろうしだいじょうぶ……だよな……うん、気をつけるか……。
膝元からタマが離れたことを確認して……杖に魔力をためて…それと、タマから余りでてる俺の魔力を混ぜて……吸い取っ………ん?

──あれ?

「ユウー、ご飯温まったよー!
私!ハンバーグ!ユウ!おかゆ!!海苔たまだよ!タマは玉ハム!!それでね……私はハンバーグ!!
──って、あれ?まだタマのこと戻してあげてなかったの?」

ティアが戻ってきた、自分のハンバーグはちゃっかり熱々の鉄板にのせてて、じゅうじゅういってておいしそうだ……せめて俺のは焼き鮭のおかゆがよかったな……

───じゃない!それどころじゃねえ!

くっそ!?なんでだ!?おかしい!絶対おかしい!
今思うとそうだ!俺がちょっと振り回されただけで気を失ったりしてた時点でおかしい!
そして今おかしい!!なんだよこれ!?

「お!おい!ティア!どうしたんだよ俺!?館で!?その後か!?何あったんだよ!!?おかしいぞ俺!!」

「はっ!?え!?なな!なに!?何いきなり騒いでるの!?
おかしいよ!」

「そうだよ!おかしいんだよ!!」

「うん。おかしいから、さっさとおかゆ食べなよ、ふーふーしてあげてもいいよ?
それでね、ふーふーしたあとは、結局私が食べちゃうの!」

……いや、結局お前が食うのかよ……
じゃなくて!そうじゃない!ふざけんな!

「じゃあ、いくよ?」

ティアが俺のベッドの横に椅子と簡易テーブルを用意して、スプーンで一口分のおかゆをすくってやがる、それどころじゃねえのに…!

「いや、まて、ティア、おかゆじゃないんだよ、俺の話を聞いてくれよ!」

「なによー、フーフーしてる間に済ませてよね?」

済む!けど!ちょっとそんな簡単に済む問題じゃねえ!
たこ口でこもった声で話すな!緊張感がうすれんだよ!

「魔法が!!つかえねえ!!」

「……?」

「タマが!!戻せねえんだよ!!」

「………??」

「つか!なんか身体弱くなってる!!お前に振り回されたぐらいで気絶するし、タマ重いし!杖に魔力入らねえし!!なんだよこれ!?」


数秒の間が空いたんだ。
そう、妖怪たこ口剣士ティアは俺の顔を見て固まって、おかゆをふーふーしようとして口元に持っていったまんまだったんだ。
その時点で気づいて布団でバリケードを張っておくべきだったんだ。

その後、俺がどうなったのかということは多くは語る必要もないだろう。


俺は、妖怪海苔たまおかゆ男になった。

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「くらいなさい!『ホーリーロンリーナイトセイバー百式』!!」

「うぐわあああああ!!!!」

もう、何度目だったろうか

「必殺!!『フローラルフレグランスティアバースト』!!」

「ぬわああああああ!!!!」

また、もう一度。
こいつは……俺に

「これでおわりよおおお!!!『メテオストライクアルノーティスサンダー』!!!」

「うっ……かっは……!?」

こいつは俺に、なんの恨みがあるってんだよ

「やっぱ勝負はこれらよ!!『ローリングサンシャインヘアースタイル』!」

「──っ!?」

なぜ

「とみせかけて『フラッシュドラグーンインパクト』おおおぅあ!!」

「ちくしょおおおああああ!」

なぜこいつは弱くなった俺を延々といたぶり続けているのだろうか
もう……つかれた……

「かーらーのっ!『フルムーン満月』っ!!
てぃぁぁぁあああい!!」

「てぃぁぁぁあああい!?」

ふざけんなよ。
そもそもなんで俺がこんな目にあってんだよ、よく思い出せ、俺、おかしいだろ、なにかみえない力が働いてるだろこれ。

どっからおかしくなった?
森?
館?
化け物?
貸し出し住宅?
パジャマ?
おかゆ?
ハンバーグ?
タマ?

そうだ、思い出したぞ。
俺の話を聞いたティアはいきなり吹き出して、スプーンの上のおかゆを問答無用で俺の顔面にぶっとばしてきたんだ。これ、記念すべき本日一発目のボコボコだ。
それからティアは俺の胸元につかみかかってまだまだ病み上がりの俺の頭をぐわんぐわん振り回してたな。これ、ボコボコ二発目。

『えっ!?タマが!?もとに戻せない!?
どういうことよユウ!?説明しなさい!!』

というティアの言葉を聞いたときのタマが心なしかうれしそうだったのも覚えてる。
こいつは、ティアは、あわてると人の話をきかないから、俺はできるかぎり優しく、わかりやすく、言い聞かせるよう事情を説明してやったんだ。

なにかが、おかしいと。

そしたらこいつはどうだろうか、突然俺から杖を取り上げたかと思うと、いきなりそれを俺の脳天に落として来やがった、油断してたのもあって無茶苦茶痛かった。これはボコボコ三発目だったか。

「『アイアムレジェンドナックルブローシューティングスタースタイリッシュアローバルカンガトリングボンバー!!』」

「………うげっほ………」

わかった、わかったからもう、やめて。

そうだ。そしたらこいつ頭を押さえてうなってた俺にいきなり
『嘘だよ!本当はこんなのじゃ痛くもかゆくもないんでしょう!?
そんな痛がったフリしたって!私そんなのに騙されないんだからね!ユウ!冗談はそのパステルグリーンのチェックのパジャマだけになさい!
そして表へでなさい!
私が!私がその腐ったギャグセンスを叩き直してやるんだから!』
とか怒り始めて……パジャマ姿でおかゆだらけの俺を街の外に連れ出してリンチを始めたんだったか……

「……ちょ、ちょっと……ユウ、嘘でしょう……どうして……?なんで、やり返さないの……?」

そして今、やっと轟槌剣打の雨が止んだ。
技の名前はよくわからなかったけど、間違いなく全部轟槌剣打だった……痛かった。
ははは、なんだよ今更そんな心配そうにしやがって……
のぞき込んできたその表情は困惑と焦りだ。
ちょっと洒落にならないくらいに傷が痛んできた

「……ま……マナ…水を……」

「え……!?
……いや、ねえ、まってよ……ユウ、気づいてないの……?
私……ずっとずっとすっごく手抜いてたんだけど……」

「うそつけ……!
あんなにあんな轟槌剣打ばっかり……

「いや、確かに轟槌はつかってたけど……それはユウが血を出さないように……ごめん、でちゃってるね。
でも…!すごく力抜いて叩いてたんだよ!?嘘でしょう!?てか、え!?なんでそんなに傷だらけなの!?いつものユウならあんなのきかないでしょう!?おかしいよ!」

マナ水が、慌てたティアからぶっかけられた。
知ってる、だからおかしいんだと言ってただろうが、なぜこいつは話を聞かない。

──?
あれ?また──

「っ!?……お、おい、ティア?
これ、マナ水……?」

「もちろんだよ!部屋にはマナ水のボトルしか置いてなかったからとりまちがえることだってないはずだよ!?
疑ってるの!?もう冗談はおわり!すぐに手当するからそこ、座ってよ!」

そうだよな、そうだ、ティアがそんなくだらない嘘をつくわけない、これはきっとれっきとしたマナ水だろうな。間違いなく。

……でも、なんで……じゃあ、なんで……

「傷が……治らねえ……」

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──次から次ぎへと右から左へと、問題ばかりが立て続けに起きる。
ほら、今だってそうだ、おかゆはスプーンが突き立てられっぱなしでただベチャベチャの冷や飯。
ハンバーグは鉄板に裏面だけがしっかりと焦げ付いていた。
タマは巨大な身体をベッドの隣に横たえてすやすやと寝息を立てていた。
ベッドではティアがもにゃもにゃいってる。
パジャマはもう使い物にならないし、時刻はもうすぐ深夜と呼べるほどに更けたのにも関わらず、さっきまで寝ていた俺はもう眠気なんてこれっぽっちも無かった。

不気味な異変が起きたもんだ。

傷のことじゃあない、治らない傷はその後ティアとともにヒール屋へと駆け込んで治療をすませたからな。
深夜料金ってことでがっつりふんだくられたけど、なんかティアが申し訳なさそうに『全部、私が出すから』なんて財布を漁り始めたから俺は先に治療費をヒール屋に手渡した。
実際あんなに怪我を負ったのはティアのせいとは言い難い。
俺が弱くなったから、ティアが目一杯手を抜いてくれていたにも関わらずあんな失態を曝したんだ。

問題が起きたのはやはり俺の身、治療を済ませてさぁ飯だと帰ってきた俺とティアは順番にシャワーを浴びることにした。
さっさとティアをシャワールームへとぶち込んで、俺は散らかった米粒を拾う作業に勤しんでいたんだ。
まもなくティアは戻ってきて、交代で俺がシャワールームへ向かって、シャワーを浴びながら俺は身体を洗っていた。
頭を洗って上から下へと…そこで変なことに気づいたんだ。

ふともものあたりに、見覚えの無いあざが残っていた。はじめはヒール屋が手を抜いたと思ったんだ、かなりしっかり残ってたからな。
でも、痛くない、不思議に思った俺は、そのあざをよーく見てみた。

それは
小さな手形
だったんだ。

ぞっとしたぜ、まさに若い女の子のそれ。
はじめはティアのものかと思ったけど、どうもティアの手よりも小さかったように思う、つか、ティアのわけがない。ティアは俺の足になんて着替えさせる時以外さわってないだろうし、あいつがこんなあざを残す意味がないしな。
記憶の塵を探っていってたどり着いた一つの心当たり、それがあった方の足は、紛れもなく『ヤツ』に掴まれた方の足だった。
掴まれた場所は全く違ってたけど、それ以外に心当たりもなかったからな。

すぐにシャワーを済ませた俺は念のためにティアのもとへと確認に向かった。
その時は確か、こんな会話をしていた気がする……

………

「ティア!みろよ!これ!」

「えっ!?……ちょっ!?なに!?お色気サービスのつもり!?もぐもぐ!」

すぐさま部屋へと戻った俺の前にはさめたハンバーグをおかずにベチャベチャのおかゆを咀嚼するティアの背中があった。
その間抜けな、どこかあいらしい猫の顔がたくさん印刷されたもこもこパジャマ姿の背中が上半身ごと振り返って俺の姿に驚嘆している。
首が180度回らなくてよかった……
……つか、おれのおかゆ……

「違うって!お前が俺のこと着替えさせたときこんなあざあったか?ってのをだな…」

俺は、自分の膝上あたりを指さしてティアへと確認をとらせた。

ぱたぱたもぐもぐと、口を押さえつつかけてきてまじまじと俺の足を見つめていたティアは突然声をあげたかと思うと、今度は俺の足首のあたりを確認し始めたんだ。
落としたコインを探すようにしゃがんで、息と一緒に口の中のものを飲み込み、緊張した声で空気をふるわせた。

「あれ……?
……消えてる……」

なに?何だって?

「消えてる?何が?」

「いや、私が着替えさせたときはそのあざ、というかそれにそっくりなあざがユウが足を掴まれた部分にあったはずなんだけど……」

「はずなんだけど?」

「……見ての通りだって言ってるのよ……
見間違え……?
いや、そんなはずは……」

人差し指を顎に当てつつ中空へと視線を泳がせるティアの様子、どうもふともものあざにはこいつも心当たりなんかなくて、むしろ心当たりがあったあざが消えているらしい。

「……移動した?この三日で?」

「や、やめろよ、気持ち悪いこと言うなって……」

ずっとうなされていたみたいだからな、ヤツに。
少しでもヤツとこのあざは関係立てないで欲しいな、不気味なことこの上ないし。
そして的確すぎんだよ、不安をあおるのにさ。
確かにそのあざは見ればみるほどに不気味だった、指が全部俺の首の方を向いていて、のこったあざは左手の形をしていたんだ。
……ヤツは確か右手で俺の足をつかんでいた、そしてこの左手のあざ。
ティアの言うとおり、掴まれた箇所にそのあざがあったなら、だ、そのあざはなんとなく、俺の身体を這い上がってきているような印象を受ける配置だった。

──そこから先は無言が流れたり、いろんなこじつけをお互いに立てあって安心感を得たりで結局あざについては様子見という案でまとまった。
結果として俺もティアもなんとなく館のあれを思い出して食欲をなくし、食器を片づけることも、むしろ食事を片づけることもせずに床についた。
ティアはなぜか俺のベッドで寝息を立てている。
ずっとつきっきりで俺のこと看ててくれてたらしいし、きっと色んなことがあったのと重ねてつかれたんだろう、お疲れさん。

明日の朝食は俺が用意しとくか、ハニートーストみたいなのなら俺でも作れるだろうし…


それよりな、問題は……俺の弱体化だ。
明日からの旅、どうなっちまうのかな………


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思えば俺は取り柄がない。
剣……は得意かもしれないけど今となったらティアとどっこいどっこいかもしれない、魔法だって戦えばティアとどっこいかもしれないけど、アイツは初めてみた強力な結界を平気で破ったり、素手でリリーナをボコしたり、今の俺でも出来ないようなようなことを平気でやってのける。
リリーナなら俺も素手で勝てるかもしれないけど、あいつみたいに素手で強力な魔法を連発したり、ましてや全方位からの魔法を顔色一つ変えずに全てマジックキャンセリングなんて俺には出来ないよな…

……昔からそうだ、あいつは……なんでも……
いや、才能だけじゃない、努力家なのは知っている。
けど、あいつは俺が努力じゃ追いつけないようなところまで突き抜けている。

あいつを守る。

おこがましいかもしれないけど、俺の頭に芽生えたそれは、ただのくだらないプライドだったのかもしれない。
ティアは俺よりすごいヤツだ、なんでも俺より上手にこなすし、ほんとうなら喧嘩をしても俺と互角だ。
だから昔、あいつをいじめる悪ガキとか、雑魚な悪ガキに泣かされるティアが許せなかった。
ティアは優しいから、恐れられるのを極端に怖がるから……やりかえさないんだよな、勝てるのに。
タチの悪いことに、あいつ自身もそれに気づいているから何もできない悔しさで泣いていた、そうだ、その気になれば悪ガキどもの冷やかしなんて素手から放つ魔法でも、当時は未熟だった剣でも、いつものあいつの笑顔でも、なんだって使って黙らせることができたんだ。
……けど、あいつはそういうとき、決まって泣いていた。
魔法をガキにみせたのだってたぶん独りになるきっかけをつくった一回だけだったんだろう、俺がみせろっつった時は怒られたからな。

当時からバカだった俺は、そんなことにも気づかないで悪ガキどもを懲らしめてたっけ。
というか、あいつが悪ガキに冷やかしを受けるようになったのも俺のせいだった。
俺は別に街のガキから恐がられてたりはしなかったからな、単に『剣がすごいやつ』って認識しかされてなかったんだ、そんな俺がティアと遊ぶようになったから『森の魔女っ娘』も実は大したことないんじゃないかってナメられるようになったんだ、今にして思えばだけどな。
それで、悪ガキどもを力で黙らせてティアを守った気になっていた。
あいつの言う『ありがとう』に浮かれて何も気にしちゃいなかった。

度々涙を流すあいつを笑わすのが俺のつとめだと勝手に思っていた。

俺がティアに与えたものはなんだったんだろうか。

ふと気になり、ベッドに視線をうつしてやる。
あの緊張感のない寝顔は、俺をどう思ってんのかな、今、力をなくしてしまった俺をどう感じているのかな。

今の俺には、こいつを守ってやることすらできない。

そうなったとき、俺はこいつに誇れるものなど何一つ無い。

──あの夜、俺はあいつを泣かせたな──

俺がいなくなることがそんなにつらかったのか…?
ははっ、冗談……

………でも、俺も……な。

ペールタウンで惚れ薬を作ったときに納得したはずなのになぁ……タマジローさん、教えてくれよ。なんだよこれ。なぁ。
劣等感?嫉妬?わからねぇ、でも、虚しい。

正直俺には自信がない……ランスの言っていた『俺とティアとの今後』って…なんだったんだろうか。
ランスとリリーナの今後ってなんだよ。

『アリエスアイレス1の魔法使い』……か、あれが文字通りの意味だったとしたら、あいつにとって俺はもうそれですらねぇ。

……

…………

………………

明るくなってきたな。
こいつは早起きだ、そろそろハニートーストのレシピをまとめねえと……。


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「……なんだこれ、食べ物いっぱいあるな」

思わず独り言が漏れちまった。
だって……なぁ……

ティアが起きる前にこっそり部屋を抜け出して、早速ハニートーストの調理に取りかかろうと思って作業を始めた俺を待っていたもの………

あけてみた戸棚、冷蔵庫、お買い物バッグに詰まりに詰まった食い物、食い物、食い物、調味料、お菓子、食い物、ドッグサラミ、食い物、食い物、飲み物、飲み物食い物、ドッグジャーキー。

食卓の上の冷めた飯、冷蔵庫の中の冷めた飯、冷凍庫の中で冷めた飯。

何週間寝泊まるつもりだったんだよ…もとい、俺に何食食わせるつもりだったんだよ…
俺のダウンがここまでティアを狂わせてしまうとは思ってもみなかったぜ……
思えばそうだ、過去に俺が囮をやって死にかけた時もあいつは異常なほどにお見舞い品を毎朝もってきてたっけ……かわらねぇな。

とりあえず食卓の上に置きっぱなしだったチャーハンは食っておく。
悪くなっちまうしな、つか、それ以前にずっと寝っぱなしだったせいかお腹が背中でハングリーハートだ。
栄養不足で頭もうまく回らないけど、舌に乗ったその米粒はやはりティアの作ったそれで、頭で考えなくても身体でわかる。
うまい。
冷めてしまったのは残念だけどその分がっつけるし、味だってはっきりわかる、腹が減ってた分、余計にうまい。
そうだ、ティアはずるいぜ、料理をさせてもこれだ……張り合っても仕方ないけどな、努力の味にケチをつけれるほど、俺はチャーハンを作ったことはない。

しかしそこら中に袋の空いた菓子があるな…ストレス?
あいつが菓子好きなのは知ってるけどちょっと異常だ。
──ゴミ箱は丸まったティッシュでいっぱい、泣いてたんだろうな……いや、泣いてたんだろ。
泣きながら菓子を貪ってたんだろう。

……あっという間にチャーハンがなくなった。
腹八分、しこたま大盛りに作りやがって、バカ。ちょっと足りなかったよ、らしくねえ。
ごちそうさま。

チャーハンを平らげた俺は、テキトーにハニートーストを仕上げて食卓についてティアとタマを待った。
できあがってからものの五分もしないうちに、右手で歯ブラシをうごかしつつ左手をタマの頭においたアホ毛が現れる、起こしちまったか?
つか、そんなに狭そうにすんなら横にならんで廊下歩くなよな。
ぼーっとしやがって、なんだよその腫れぼったいまぶたは。
昨日は俺もバタバタしてて気づかなかったけど、よくよくみたらやつれてんじゃねえかよ、あんだけ手ぇつけてた菓子はどこに消えちまったんだか…バカヤロー、お前がもっと飯食っときゃ、こんなに部屋が食い物だらけになることもなかったんだぞ?

「………」

「………」

「……あ、ユウ」

「……え、なんだよその反応」

寝ぼけてるのか、まだぼーっとしてやがる。

「……怖い夢見たの……」

「ふーん?どんなの?
ハニートースト作っといたからよ、さっさと顔洗ってこいよ、食いながら聞かせろ。
あとチャーハン、ごちそうさん。
うまかったよ」

「……うん、そっか。
しゃかしゃか……」


顔を洗って戻ってきたティアの目は、どことなく赤かった。
顔色も心なしか悪くみえるけど……笑顔はいつも通りだ。
正面の席にハニートーストを置いてやると、のろのろと歩いてきて、のろのろと席に着いた。
コップにオレンジジュースを注いでやると、にへらーってして、『ありがとう』だと。
礼を言うのはこっちの方だ。
ティアは軽くオレンジジュースの入ったコップを口元で煽り、俺の方へと視線を寄越してコップを置き、緊張した面もちで人差し指を立てた。

「ユウが!死ぬ夢をみた!」

ふーん。

「それが、怖い夢?」

「うん!!」

……バカだな。
自然と笑える。

「うはは、馬鹿かよ!
夢なんかじゃなくて現実でも何回か死にかけてるだろ?」

「……そだね」

笑った。
いつものティアだ。
俺が死ぬのを怖がってくれるたぁな、ちょっとは可愛いところあるよな。
これは謝らなきゃいけない、俺の状況がこいつの安眠を妨害したらしいし。

……それより…こいつの第六感は異常に鋭いんだよな……正夢になったりは……しないよな、まさか。

「悪かった。今回も多分死にかけたな、あと、昨日もな!
でもあのときも、昨日も、色々ありがとな!」

「う…昨日はごめん……本当に信じられなくて…。
それはそうと!今日からどうするの!?
昨日のユウの弱さじゃ迂闊に街の外にもでれないよ!?」

言われて思い出した。
そうだった、問題があったんだった。
原因はおそらくヤツと踏んで間違いないであろう俺の弱体化、これをなんとかしないと旅どころじゃねえよな。
きっとここは森のすぐ近くの街だろう、だとすると、街の人間の誰かしらはあの森や館の秘密を知っているはず。
タマに乗れば俺も一応身の安全を確保しつつ街の外にも出れそうだけれど、わざわざそんなリスクをおかす必要もないしな。
てことで

「……そうだな、森について情報集めようぜ?
あんな状態だ、きっとあの館…有名だと思う。
そんな館のある森の近くの街だ、俺達みたいな目にあった奴も少なからず居ると思うし、テキトーに聞き込みだ、情報がでないわけがない!」

「そうだね!」

頷きつつ、ハニートーストに笑顔でかぶりついたティアの笑顔がゆがんだ。
うん……不味かったのな、わかってたよ、でも、ちょっと張り合ってみたかったんだ、俺も料理で『あっ!』と言わせたかったんだ、許せ。

「ユウ……これ……」

「メイプリルクール」

「それだ」

隠し味が隠れきらなかったみたいだな……
朝だし、さっぱりしてもらおうと思ってすりつぶしてハチミツに混ぜてみたんだけど……やっぱりハニートーストにスースーする葉っぱは合わねえか……

「なんでそんなの入れたの……?
甘くて辛くて冷たくて温かくて気持ち悪いよ!」

「悪かった!」

「でた!
……まぁいいや、それより、あざのほうはどうなってるの?
ちゃんと昨晩と同じ位置にあるの?
もし寝込んでた三日の間に足首にあったのが移動してたんだとしたら、きっとあざは少なからず昨日の位置よりずれてるはずでしょ?」


──また言われて思い出した!
そうだ!あざだ!あの手形!
ティアの言うとおりだったとしたらきっと変化があるはずだ!
渋い顔でハニークールを口へと運ぶティアにアイコンタクトを送り、俺は期待と不安を半々にしながらバスルームへと向かった。

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どうだろうか、この鍛え抜かれた裸体ボデーは。

鏡に映る自分の腹筋、たくましい尻を目にした俺は意味もなくポーズをとってみて遊んでいる、うん、いい、上腕二頭筋がマッシヴ。
俺は想像する、いつしか俺の身体は三倍の太さまで膨れ上がり、身長は2メートルを超え、日常生活に支障きたすのだ、世界は俺にバリアフリーではない。
辛いぜ、強いヤツにはいつだって障害が立ちふさがるのさ。

「ゆーうー!どうだったのー?!あざ!」

「あ……」

「あ……もぐもぐ……おえ」

「あ、いや……」

「………ごくり、おえ。ごめんね!私、ハニークール片づけてこなきゃ!おえ」

ティアにとってはバリアフリーだったようだ。
ハニークールをくわえた間抜けパジャマは、なんの抵抗もなくバスルームのドアを開けることに成功していた。
背後から突然ドアを開けられ、俺の裸体はその瞳に焼きつけられてはしまったんだ。

後悔した、いや、公開した!!


────────


「で?どうだったの?あざは」

居間に戻った俺の方を見ようともせず、食器を洗いながらアホ毛が淡々と問う。裸体についてはあえてスルーされたようだ、居心地がわりぃぜ。

「ノック……」

「した。しかも、呼んだ。
もう、馬鹿ね、ユウ、実はそんなに良い身体してないからね?別に。
お尻以外」

黙って聞いてりゃ、ちょっとばかし胸が出てきたからって調子にのんなよ。

「お前、俺の尻に勝てんの?その胸からぶら下げてる脂肪の塊でよ」

「あざは?」

「……移動してました」

「……やっぱり……」

そう、結果としてあざは移動していた。
そんなことより俺は裸体ボデーで遊んでいるところを幼なじみに冷ややかな目で見られてしまってそれどころではなかったけどな、もう驚く元気もなかったよ。
あざは腰につかみかかるかのような形でくっきり残っていた、ちなみに今度は右手だった、やっぱり身体を這い上がってきているように感じる。
はっきりいっておっかねえ、気が狂いそうだ。
だって異常だろ!?あざが移動するなんて!
そもそも移動することになんの意味がある!?えっちらおっちら俺の身体をペタペタ登って何がしてえんだよ!?おかしいだろ!!
……考えても仕方ねえから、とりあえず今日、情報を集めようとしてるわけだけどよ……

「今朝の夢といい、あざといい、ハニークールといい……いい予感がしないなぁ……」

「あぁ、こいつは間違いなく面倒事だろうな。
まったく、なんなんだよ、あの建物、あのあーってヤツ。
あれがでるから全部の道が森を避けてたってのか?ふざけんな」

「でも、そうだろうね、絶対。
曰く付きだとか、神聖だとか、生きて帰らないだとかであの森を通る道をつくらなかったにちがいないよ、だって──

「あんなんだもんな?」

両手を手招きの形で胸の前にもってくる。おばけのポーズだ、マッシヴだろう?

そのまま席についた俺に合わせるかのようにティアも食器を洗い終わり、紅茶をテーブルに置きつつ俺の正面へと腰掛けた。

「そ、あんなん。ずず……
でも、それだけにユウの言うとおり!きっと街の人はアレについて何かしら知ってるはずよ!」

あ、紅茶がスースーする。

「気づいた?仕返しよ。
じゃ!どこから攻めようか!!
ユウが眠ってる間に街の下見は済ませてたけど、ここ、ペールタウンぐらいの広さがあるから思いつくものは大体あるよ!」

メイプリルクールティーか、悪くない。

「……妥当なのは、ヒール屋。
この症状を治す手だてを知ってるかもしれないからな、次点で宗教施設か、ヤツの禍々しさから考えるに聖職関係者なら何かしら情報を持ってるだろうよ。
とりあえず片っ端から人の集まるところ目指してこうぜ!」

一気に紅茶を飲み干し、横でまだ飯を食ってるタマに声をかけてやった。
どうもデカいと燃費が悪いらしい、いずれ巨大化する俺に、世界はバリアフリーではない。

立ち上がって杖を握った俺の杖を、立ち上がったティアが握った。

「なにやってるのよ、ユウ。
あなたはこっち!」

そのまま杖を取り上げられた俺の手に、どや顔で差し出されたもの

メイガスエッジ。

「どうせ魔法がつかえないならそっちの方がなにかと都合がいいでしょ?ただでさえ身体も弱まってるんだから、メイガスエッジで丈夫になさい!」

「……そっか、そうだな」

護身用か。
確かに今の俺にさんごの杖は無用の長物か。

時刻はまだ朝。

昼頃にそれっぽいところを狙えりゃいいし、それまでは観光だな。

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タマがデカい。

街に出かけようとしていた俺たちの前に立ちはだかった問題はまずそれだった。
どう考えてもタマが威圧的すぎる、たとえ暴れなかったとしてもこんな巨大な獣が街道を練り歩いていたら俺たちだって警戒する。
それに対抗する武器や力を持たない一般市民なら尚更だ、俺とティアは頭を抱えた。
一瞬、タマはお留守番という案も出たにはでたが、その時タマがものすごく寂しそうに頷いたことに気づいてしまった俺はすぐにその案を取り下げた。
リリーナの件でも我慢させてしまったし、そもそもタマが戻れないのも俺のせいだ、俺のためにタマを悲しませてしまうのがやりきれなかったんだ、だってタマだぜ?賢くなったタマだぜ?しっかり言葉も通じるし、自身で考えるし、感情だって豊かな幼い女の子なんだぜ?タマ。
……タマ。

仕方がないからタマの魔法の解除をティアにお願いしてみてもみたけど、結果はひどいことになった。
急にタマが苦しみ始めたり、ムキムキとさらに巨大化してみせたり、ボロボロと涙を流し始めたりで収拾がつかなくなって結局没。

俺たちは、ティアを足に怪我を負った子という設定に仕立て上げ、タマはそのための足だということにして出発をする事にした。
現在、俺たちの眼前に広がっているのは道の狭い商業区だ、四階建てくらいの白レンガと赤屋根の建物が幅十メートルくらいの道の左右にずらりと並びきり、視界の果てまで人と建物の道だ。
それぞれの建物の入り口にはカラフルな雨よけ、その下に店、道の真ん中に転々と立っている黒い魔法灯の周りに黒い金属製の椅子とテーブルをたくさん並べたようなお洒落なカフェなんかも点在していて情報集めにはうってつけの街道だった。

「わぁー!やっぱりすごい!
ユウが寝てる間に何度か見に来たけどね!」

裸足に包帯のティアはタマの上で眉毛にそろえた指を置いて街道を見通している。
のんきなもんだよな、これからこのでっけえタマを人混みに突っ込むってのにさ。
意外と街の人たちはタマのこと気にしてねえみたいだけど、恐くないのかな?

「広いな、道はせまいけど。
で?俺が寝てる間にどんなとこ寄ったんだ?参考にする!」

「お洋服屋さん、お菓子屋さん、お肉屋さん、八百屋さん、お魚屋さん、魔法薬店、魔法具屋さん、酒屋さん、それから、それからね…武器屋さん、防具屋さん、ラブハートブレイドショップに……

「お前、普通に観光楽しんでたんだな……」

泣いていたのかもしれない。

なんてかっこよく憂いていた自分を殴りてぇ、恥ずかしい。
まぁ、ティアなりに楽しめてたんならいいけどな、俺のために落ち込まれると気分悪いし。

「そう!すっごく楽しかったよ!…でも、今はユウもタマもいるからきっともっと楽しいよ!」

……はいはい。

「……そもそもの目的忘れんなよ、館についてと、俺の弱体化の原因探りだからな?
まったく、さっさと終わらせてカフェにでも行って、その後新しい剣士服やらローブやら漁って!その魔法薬店やら魔法具店いくぞ!よし!魔導書!漁る!!」

「……はいはい。
……ユウこそそもそもの目的忘れてない?原因見つけるだけで終わりじゃないでしょ?
治すのよ」

そうだった。

「…よし、いくか」

「うん!」

歩き始めたところで右も左も目を惹くものばっかりだった。

『カフェゲルマニウム 本日のオススメ、大王タコの女王焼き』

『あなたの武器、高く買います、安く売ります、悪く思うな』

『あなたの防具、マニアに高く売れちゃいます、汗がしみてるとなお良し』

『新魔法 ビッグバーン 店内での試発禁止』

みればみるほどにおもしろそうなものばかりだ、ここを歩いているだけで、本当に目的を忘れてしまいそうだ……
そもそも俺の旅の目的って……

「ね!?たのしいでしょ!?
……もうさ、ここで暮らしちゃう?私と、ユウと、タマで!
あははっ!」

いろんな看板に目を奪われる俺にティアも気づいた様だ、そんな冗談を言うほど、俺は楽しそうに映ったのかな?
……今は、そんな冗談が冗談に聞こえなくなってくるから困る。
悪くない、そんな風に思ってしまったのは力を失ってしまった俺の自信のなさの現れなのだろうか……
旅の目的…これといったものがない…どうせそんな旅ならコイツの言うようにここで……

「そうか……そうだな、もう、このままここで──

「でも、世界にはもっと楽しいところもいっぱいあるんだろうね!
まだ私たち、旅にでてからそんなに経ってないしねー。
楽しみだなぁ……王国とか!
そうだ!王国の博物館行きたい!私あそこ一回しか行ったことないし!」

「──!
……うはは、そうだな。
そうだったな……!」

驚いた。
まさかティアに…ティアから旅の理由を再確認させられるなんてな……はは、どんな皮肉だよ、コイツ、俺が旅に出るの猛反対してたくせにさ。
そうだ、理由なんていらない、楽しめればいいんだ!
もともとそういう理由だったんだ、もっと世界が見たい、知らない世界を知りたい!
そんな好奇心だけで、今日まで、ここまできたんだよな…
獣になった人間や、そんな獣も愛する武器職人、強力な飛竜、それすらをも一撃で沈める依頼所の受付嬢さん、妖精の村、海、船!また海!
獣祭りに向けてティアと努力したり、馬鹿なランスにちょっと感動させられたり、リリーナが化粧厚かったり……全部、全部楽しかった!



……そうだ、これで、よかったんだ。
なら──


「ユウ!あれ!とりあえず教会だよ!早速入って情報集めようね!!」

「おう!そうだな!
さっさと用事済ませてよ、早くこんな街出ようぜ!!」

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タマの背中に揺られながら、ティアが指さす先、商業区の建物の谷がすっぱりと切れてなくなり、突如人の数が減った。
四角い池、いや、湖?浅く綺麗な水が張られた水路、その周りに等間隔に植えられた控えめな大きさの木々の緑が空と教会とで様々な色を魅せる、白かったり、どことなく青く感じたり、優しい緑だったり。

そして、真四角な用水路の真ん中に教会が浮いている……様に見える。
実際は教会正面から真っ直ぐのびる真っ白な道で街道とつながっていた。
教会そのものはというと、巨大な円錐なのか、四角錐なのか、八角錐なのかしらんけどそんな屋根がたくさんついている真っ白なお城みたいな外観、円錐のさきっちょに玉がついてて、そこから十字架なんかが生えててイッツ・ア・ベリーメルヘン。
うん、、、これは……

「綺麗だな……」

「ねー、私も最初見たときはたくさん写真撮っちゃったよ!
日記に挟まりきらなかったもん!」

真っ白な外観を彩るステンドグラスの輝き、色合い……神聖だな……タマにステンドグラス柄の服とか着せて、頭の上に十字架さしたら教会みたいな雰囲気になるかも。

「でっかい鐘だなぁ……どんな音すんだろうな……」

「お昼になるけど、普通にガンゴーンガラーンシャラララララアー!って鳴ってたよ?」

「……おい、たぶんそれ普通じゃねえ」

俺たちが出てきた商業区からの道だと正面に見えるのは教会の左側面だ。
左折、右折、改めて教会を正面に捉えてみた……でかい……
なんというか、実際のサイズ以上にでかい……
ここまで教会に力が入ってるってことは、この町は宗教信仰が盛んなのかな?
俺たちの町の教会なんて武器屋より小さかったから圧巻だな。
意味もなく緊張しつつ、教会への水上に浮かぶ道へと一歩、また一歩と踏み出す。
タマはわりかしすったすったと歩いているけど、その上でティアも無意味に緊張に眉をつり上げていた、あいつ、真剣なときとかすぐ顔にでるからわかりやすいよな。

「なにそんなに緊張してんだよ、おまえは前にも来たんだろ?」

「いや、この道に入るのは初めて……周りから写真撮っただけだったから……」

「そっか…まぁ、なんか…な、綺麗なのに入りにくさはあるよな、確かに」

おおよそ、二百メートルくらいあったような気がする。
とにかく長い水上の道を歩ききった先にあったのは申し訳程度の門前広場だ、申し訳程度っても、教会の規模から考えたらって意味であってこの広場だって文字通り広場だ、貸し出し食堂の長テーブルを連想させるような花壇がぽつぽつとあって、その真ん中に無駄におしゃれな噴水。
あの館も廃れる前はこんな雰囲気だったのだろうかと考えると、急に目の前のメルヘンな光景が不気味なドス黒さを滲ませる。
よほど俺自身の中でアレがトラウマになってるみてえだな……はは。

「あらぁ、神々しいわんちゃんですね?うふふ、こんにちは」

「あ、こんにちはー。
タマです!あ、いや、私はティアだけど、この子のはタマです!」

「ちわー」

巨大な柱が四本、俺たちの眼前に姿を現した。
教会の入り口だ、真っ白な直径数メートルは、見上げども見上げども首が痛くなるばかりで上が見えない。
そんな直径数メートルの根本に、一人の若いシスターがたっていて、俺たちに声をかけてきた。
『魔法哲学応用新書』に負けず劣らずのくっそ分厚い聖書を小脇に抱えていて、栗色のショートカットは肩の辺りでくるんとカールしている、まん丸の鼻にかけるだけの眼鏡なんかかけてて『いかにも』な雰囲気を醸し出している。
しかし気になってはいたけどさ、このシスターも……

「あの、唐突で申し訳ないんすけど、タマが恐くないんですか?
こんなでっかくて強そうなのにさ」

「ちょっ……ユウ……いきなりなに聞いてるの…?
私も気になるけど……」

「あはは、確かにそうかもしれませんね。しかし──

俺の唐突な質問にも笑顔を一切崩さないシスターは、やっぱりそんなふわふわした雰囲気で穏やかに語り始めた。
正直、最初の五分くらいしかまじめに話きいてなかったけど、結果としては別にこわくはない様だ。
なんでこの人、タマについての感想述べるだけで20分近くも語ってたんだ?

──ということです、つまり──」

「大魔導士様が強いから大丈夫!ですよね!?」

流石だぜ、ティアのヤツは最初から最後まで真面目に聞いてたらしいな。
飽きたのかドヤりたかったのかは知らんけど、シスターの話をティアが切ってくれたおかげでやっとこっちからも質問が出来る。

「うふふ、そうです。
この街の治安は大魔導士様によって守られているので市民は皆笑顔で、平和に毎日を過ごすことが出来るのですよ?
大魔導士様はとてもお優しい方ですが、ならず者に対してはご容赦をしませんので、間違ってもその剣や、杖や、わんちゃんで暴れようなんて考えないことです!」

「……ふむ、その、大魔導士様って人は、一体何者なんですか?
俺、今は剣を持ってるんですけど本当は魔法使いなんだ、急に魔法が使えなくなっちゃって、聖職者の方に診てもらおうとおもって訪ねたんすけど、大魔導士様って正解の人?」

「ユウ、その『正解の人』って聞き方ちょっと失礼じゃない?
ごめんなさい、この人、滅多に丁寧語とか敬語とか使わないから……不正解の人なんです、許してあげてください」

「なんだよ不正解の人って……早速盗るなよな」

「あはは、面白い方々ですね!
そうですか…それなら、大魔導士様は正解の人です!
彼はとても優秀な魔法使い…いや、ハイウィザードでして──

この人はきっと、分厚い聖書を読み過ぎたんだ。
だから、語るときは長く、丁寧にを心がけているのだろう。
そうでなかったら俺の質問に対する答えだけで1時間も話せるわけがねえよ、さすがのティアもさりげなくポケットから懐中時計を取り出してたぐらいだしな。
メモ帳だって書きながらやたらとめくってたからな、勤勉だよな、ティア。

シスターの話をまとめると、大魔導士様って人はこの街の長というか、この街を作り上げた人間の一人だそうだ。
生粋の魔法使いで、地味に数百年は生きているらしい、それ故に魔法の知識は人の十倍、魔力は人の百倍もあるとか、ないとか……うそつけ。
で、その知識と魔力にかかれば魔法に関しての異常で治せないものなんてほぼ無いに等しいらしい、普段は街を練り歩きつつ、治安を守りつつ、医者みたいなこともしているようだ。
こっから先はあんまり興味なかったけど、シスターはこっから火がついた。
大魔導士様は、優しくて、イケメンで、強くて、かっこよくて、悪を許さぬ正義で、ファンクラブが街に七つもあって、シスターはそのファンクラブの中の一つの、最も古参なクラブのなかで最も古参で…実は教会の外で立ってるのだって受付とか、インフォメーションとかでもなくて単に練り歩く大魔導士様をみたいだけだとかで……
で、そっから先は聞いてねえ。

──彼の好きな食べ物はイービルベリーで、そんなどことなくダークなものが好きな一面もなんだか可愛らしくて、ウニが嫌いだって聞いたときは私もう大魔導士様に抱きついちゃいたくて、でも、できなくて──

「──はい!ふむ!なるほど!ええ!すごい!楽しい!かっこいい! ユウ!この人! へぇ!そうなんですか! なんとかしなさい! それはたのもしい! 全然!話が終わらないよ! ほうほう!!きゃあああ!」

タマも参ってしまって、腰を下ろして眠ってしまった。
ターゲットにされたティアはひたすら大魔導士様について聞かされ続け、時折額の汗を拭いながら時折俺に助けを求めてやがる。
メモ帳なんか用意してやる気みせるからだよ、自業自得だ。


しかし、シスターの話が本当なら早くも有力だな。
しかもシスターの言うとおり本当に大魔導士様とやらがここにも姿を現すのならここでもう少しティアに踏ん張ってもらえば事はうまく回りそうだ。

俺は眠ったタマのお腹の辺りを背もたれにして座り込み、テキトーに吟味して持ってきた魔導書を開いた。

頭の上から「ちょっ!ずるいよ!」だの「私もシスターの魔の手から逃れたい!」だの「ぬあああ!洗脳されるううう!!?」だのと聞こえるけど知らん。

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