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けたたましいなんかの金属音、事務的なアナウンス、男達のかけ声。
ウォーミングアップタイムが終わった。
さすがに緊張してきた・・・
半分ヤケだ!俺は死なねえ!軽装でも生き延びれるんだ!根拠はねえけど・・・
もう半分は神さまにまかせようか、俺の日頃の行いとビギナーズラックが試されるな。

隣で同じくして音とアナウンスを聞いていたであろうティアと、なんとなく顔を合わせてみる。

「・・・っ!」

「───!?」

背の低いティアがまっすぐ俺の目を見上げながら、右手で作った握りこぶしを胸に突き当ててきた。
力強い瞳、緊張は見て取れるけど、迷いはないか。
俺の胸元に当てられたこぶしも小さいものの確かな重みと期待を感じられる。
言わないし、言わなくてもわかるだろ?ってとこか・・・燃えてきた!
黙って頷いてやると、ティアは力強い瞳のまま、口元をほころばせた。
安心するどや顔だ。
そのまんまティアはタマの頭に一度だけ手を置き、静かにウォーミングアップスペースを後にする。
あの後ろ姿は、間違いなく鬼コーチのそれであると、俺は実感させられる。

了解したよ、精一杯頑張れってな。
ちょっと、いつもの口うるささがなかったのは意外だったけど、信頼されてることに悪い気はしない。

と、思っていたのだが・・・

「あ・・・!」

「お・・・?」

やけにゆっくり歩いていたティアが急に虚空に何かを見つけ、声を上げた。
そしてそのままふわりと振り返ると俺とタマの元へと帰ってくる。
この表情は・・・忘れ物だ。
でもなんだ?今さら。

「なんだよ?
爆竹やら煙玉だったら受け付け終了だけど?」

黙って首を横に振ると、ティアは自分の背中のあたりでカチャカチャと金属音を立て始める。
そして、すとっと音がする、メイガスエッジの先が地面に落ちた音だ。
ティアが───剣を外した?
つづけてティアはそのまま剣を俺に向けて差し出してくる。

「アイリが作ったから、すごく軽いの。
これなら持ってても絶対に邪魔にならないから・・・貸す!」

「・・・え?」

「持ってるだけでも丈夫になるタマジローさん特製ルーンも刻まれてるのよ!
アリエスアイレス1の剣士の、アリエスアイレス・・・いや、世界一の剣!
あとで『ちゃんとユウが』返して!約束してね!」

・・・こいつ・・・

「なにニヤニヤしてるのよ!それじゃ!私のお金!全額ユウとタマにかけるつもりだから絶対勝ってよね!」

「負けても無事だったらそれでいいんじゃなかったのか?」

「ダメ。
それ、アイリと私の『友剣』を貸すんだから負けなんて許されないよ!
ここで負けたらアイリとタマジローさんの、ついでに私の顔にも泥を塗ることになるんだから!
メイガスエッジ。その名の通りの活躍、期待してる・・・!!」

なるほどな・・・いい相方を持った。
言われなくとも───

「今日の飯はお前の奢りで決まりだな!」

「まぁ、ユウの稼ぎしだいね!
今夜は高級ディナーで決まり!」

それだけを言い残してティアは踵を返し、機嫌が良さそうに鼻歌を歌いつつ客席へと戻っていった。

今度はタマと顔を合わせてみる。
タマの鼻息も荒くなってきたな・・・

「タマ、どうしたい?」

鼻先が顔面に押しつけられた。
よろしい、艶々に濡れてて大変元気也。

───作戦変更!
逃げ回るなんてセコいことするかよ・・・レースの主役、一着、メイガスエッジ、高級ディナー!今夜だけは、全部俺のものだ。

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その時がきた。

血がつく度に塗り替えられ、生きた証のサビを隠し、見る者に清潔感と安らぎを感じさせる偽りの白を纏った大きなスタートゲート、その地獄への門の入り口へと向かっていく男達。
ユウとタマは様々な鎧や武装を纏った者達の中では明らかに浮いた軽装だ。
しかしその細身の純白の白シャツと、腰に携えた芸術的な宝剣、威厳と威圧という飾り付けを成された美しきウルウルフ。
全体的に白いそのシルエットは、他の出走タッグへとうまくは言い得ないアイロニーを投げかける。

そっと、ユウを背中に乗せたタマが、ゆっくりとそのスタートゲートへと身体をおさめる、ユウの魔法で巨大化したタマでさえ、そのゲートに入ることによりいささか小さく映る。
ゲートが広すぎるのだ。
タマ以上に鍛え上げられたさらに巨大な獣達が、その身体にさらに鎧や武装をぶら下げても入れるゲートだ、ほとんど丸腰の、増してやもとが細いユウとタマであればなおさらゲートは広い。

緊張した面もちで固唾を飲み込むユウの隣に、熊の様な獣にまたがった大男が入ってくる。
その大男も腰と胸部には丈夫そうな防具をつけていたが、それ以外はほとんど何もつけていない、武器こそ巨大な剣ではあるものの、その姿は軽装と言っても差し支えない。
そして、男はタマのつま先からユウの頭のてってぺんまで一瞥をくれて話し始める。

「・・・坊主、見ねえ顔だな、新入りか?」

低いガラガラ声。
酒の臭いも感じたユウは隣の存在感を感じつつ、正面を見据えたままぶっきらぼうに言葉を返す。
緊張を悟らせぬための見栄か、または自信か、その言葉は挑発的な色を滲ませる。

「新入り?まさか、旅の途中の暇つぶしさ。コイツのな。」

そして、タマの頭に手を置いた。

「ほう?洒落のわかる野郎だ。
それよりテメェ、出来るようだな・・・」

「あんたもな、前のレース、見てたよ。
あんた、一着だったよな?」

ここで初めてユウは男の方へと顔を向ける。
その口元にはうっすらと笑みが浮かんでいる。
男はそんなユウの様子に目を大きく見開いて嬉しそうに口元を歪ませる。

「その軽装といい、態度といい、お飾りみてえな剣といい・・・
気に入らねえな・・・俺はテメェみてえな気に入らねえ野郎が大好きだ・・・!」

「あんがとよ、けどわりいが俺はおっさんみてえなのは趣味じゃねえ。」

「はっ!テメェの興味なんざ知らねえな。
俺に付き合えよ・・・坊主!
なに、見返りにテメェにビギナーズラックをくれてやるぜ。」

「ふーん、そりゃどうも。
でも、あんたがどうやって俺に?」

「すぐに・・・思い知らせてやるよ。」

2人の会話を遮って、会場内にけたたましいベルの音が響き、ファンファーレが鳴り響く。
ティアは、ただただポップコーンをつまみつつレース場内を観客席から見守る。

「始まる・・・!
ユウ・・・タマ!無事に帰ってきて・・・!!」

そして──

──スタートゲートが開かれる。

「タマッ!!」

身軽さを生かしたユウとタマがロケットスタートで先頭に立った、当然トップに対しては激しい攻撃が飛んでくるだろうと見越し、すぐさまユウは振り返り、背後を確認する。
そして、言葉を失う。

「───なっ!?おっさん!?」

「うおおおおらあああ!坊主!!邪魔なヤツは減らしてやっから最後まで生き延びろよお!」

先ほどユウへと話しかけていた大男がスタートと同時に大剣を振り回し、一頭、二頭と獣達の数を減らしている。
必然的に大男へと周りの注意は集中し、自然とユウとタマは余裕を持ってペース調整が可能になった。

「ビギナーズラックっつうかな・・・はは・・・」

予想外の大男の行動に苦笑いを浮かべるユウ。
しかし、もちろんレースは大男が暴れるだけで勝敗が決まるほど甘くはない。
ユウの背後から、次々と足音が鳴る。

「───タマ、来たぞっ!」

背後からの風切り音、白銀の円盤───に見えるくの字の刃物。

「───っつおっ!?
・・・の!ブーメランか!?」

間一髪、ユウの頬に傷をつけていったそれは、刃物状に仕上がった鉄のブーメランであった。
それは上空で弧を描いて戻ってきて、ユウの横へと迫っていた出走者の太腿へと突き刺さる。
足にブーメランが刺さった出走者はおもむろにそれを抜き、背後へと無造作に投げ返す。
その様子にユウは常識を疑った。

そして、その男に気をとられていたユウは逆隣への意識が薄れていた。
それにいち早く気がついたタマが数メートル前へと急に跳んだ。
ユウはそれに驚きバランスを崩し、タマから落ちそうになり、上半身だけを仰向けにおいて行かれる。
そんなユウの眼前に迫る斧。

「ひゃいっ!?」

おかしな声を上げつつユウはそのままさらに上体をそらしてタマの尻に背中を密着させた。
鼻先を斧がかすめていく。

「っの!殺す気かっ!!!」

そのままの体勢でユウは指輪に魔力を込めて氷塊を放った。
氷塊は激しい金属音を立てて、先ほどユウへと斧を振り下ろした走者の鉄仮面に直撃し、氷塊をくらった走者は獣から落ちた。

逆さまのユウの世界に映る鉄仮面の走者。
それは、地面に落ちてバウンドをする余裕すら許されずに後ろを走る大量の獣の脚に消えていった。
ユウの顔から血の気が引く、もし、自分もタマから落ちたらと思ったのだ。
そして、それが結果だと知ってしまった。
慌ててユウは状態を起こしてタマにしがみつきなおす。

「・・・」

おとなしくしがみつき、少しだけ股間を震わすユウの振動を感じ取り、タマは長い鼻息を吐いた。
そんなタマの眼前には次は棍棒が差し迫る、いつの間にかほかの走者に追い抜かれていたようだ。
タマはその棍棒を身を低くしてかわす───が。

「わちょっ!?タ───

タマの頭スレスレの棍棒、それはもちろんユウからしたら直撃コースだ。
驚いたユウは状態を起こしつつ、棍棒を避けようとするも、避けきれるはずもない。

───やってしまった

と、タマは思う。
反射で避けたばっかりにユウを危険に晒してしまったタマは慌てて再度反射で賭けに出る。
タマは後ろ足で思い切り地面を蹴り

尻の勢いを使って


ユウをはるか上空へと跳ね飛ばした。


ユウの足先とタマの尻の間を見事に棍棒がすり抜ける。

「んはぁっ!?タマ・・・っ!?」

会場が

沸いた。

「・・・っちょ・・・はぁ!!?」

ティアが

ポップコーンをバラまいた。

ここぞとばかりに走者と観客の視線がユウへと釘付けになる。
そして、走者達のタマへの猛攻が始まった。

「っやべ!タマ!」

当然である、上に人間が乗っていない獣、ましてや丸腰。
走りながら起こせる行動などはそう多くない、潰すなど造作もない。
タマさえ潰してしまえば後は勝手に地面に落ちたユウは失格になる。

一斉にタマへと武器が向けられる。

「くっそ!タマ!そのまままっすぐ!」

タマを守るためにユウは魔力をためて放つ。

「秘技!穴無しバウムクーヘン!!」

タマの左右の地面から突然円柱形のブロックが現れ、タマと併走するように転がる。

「ついでのアース=ドルフィン=トラップ!」

ユウはさらに魔法をタマの前方へと仕掛ける。
と同時に、タマの左右を走っていた走者達が穴無しバウムクーヘンにタックルをかましてそれをタマへと向かって横倒す。
タマが、穴無しバウムクーヘンの下敷きになった

「そんな!!タマ?!」

かのように見えた。

「・・・!?え!?タマ!?」

客席のティアが二度驚ろかされた。
その視線の先、なんとタマが地面から飛び出し、ユウのことを空中キャッチしていたのだ。
ユウが仕掛けた魔法は地面にトンネルを作る魔法であった、ちょうど穴無しバウムクーヘンが倒れた地点に入り口が作られ、出口は飛び出すと同時にユウをキャッチ出来るように出来上がっていた。

悠々と大ジャンプを決め、且つ、ユウを空中で再度背中へと乗せるというユウとタマの曲芸じみたパフォーマンスに、会場は再度沸き、この日一番の盛り上がりを見せる。

「・・・っあっ!尻がっ・・・!!
───ふぅ、うまくいった!本気で焦ったぜ・・・!」


そのままタマは地面に着地を決め、ユウとタマのタッグは再度トップへと躍り出た。




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再度、トップに躍り出たユウの中に不思議な感情が芽生える。
わき上がる歓声、それが自分に向けられている。
はじめは、ただ怖くて、強がったり、無理に気合いを入れたりしていたよう自身が感じていた、そんなレースに実際に参加し、思う。

(ちょっと・・・楽しい!?)

ユウはいつの間にかレースに充実感と楽しさを見出していたのだ。
風を切るように場内を走り、周りを置き去りにし、背後からの野次や攻撃をすべて受け流し、また歓声をあびる。
闘う男の性とでもいうのか、自然と、笑みがこぼれる。
その時

「ひひっ!この新入り野郎!楽しそうにしやがって!」

ユウの隣に立派な角を持った獣に跨がった細身で長身の男が並んだ。
言うまでもなく参加者の一人だ。
その男は獣の角を軽くこずいて指示をだす。
するとその男の跨がっていた角の獣がタマの側面へと自身の胴を小競り合わせはじめる。
一瞬タマはよろつくも、どこか嬉しそうな様子でその獣に身体を当て返した。

「あんたは・・・?」

「ひひ、名乗るほどのもんでもねえ、ここの常連さ!
新入りのくせに暴れてるからな、てめえに興味をもったぜ!ひひ!」

「うわっ!おい!タマにその獣ぶつけるのやめてくれよ!あぶねえ!」

「なに言ってやがる、ここは闘技場なんだぜ?」

男は目元の隠れたヘルメットの下から鋭い八重歯をもつ歯を見せつつ笑う。
そのまま、さらに言葉を続ける。

「新入り!俺とやり合えよ!
こいつでな!」

男は獣に跨がったままシャドーボクシングの素振りを見せ、あろうことか両手に填めていたガントレットを外して背中のあたりの鞄にしまった。
男はユウに『拳による』決闘を申し立ててきたのだ。
ユウの瞳が大きく輝く、レースに楽しみを見出していたあたりでの男としては嬉しい提案、ユウはどや顔でタマの首から手を離して拳を握った。

「ふん!やる気か!?俺はガキの頃、街一番の腕っ節だったんだぜ!?
ボコボコにしてやるよ!」

ボボボボっと、ユウは無意味な素振りを見せつけ鼻息を荒くした。
ちなみにユウの言ったことは事実である、昔、ユウは街の子供の中では一番の剣士でありながらもある日突然魔法つかいになった。
そして、あろうことか毎日ティアと遊び始めた、それをみていれば茶化したくもなるのが子ども心、ユウとティアはちょくちょく街の子供たちに茶化されていたのだ。
そのたんびにユウは持ち前の反射神経と丈夫さで、街の悪ガキをやっつけていたのだ。
時にはティアがやりかえさないのをいいことにティアが泣き出すまで茶化すような悪ガキも少なくはなかった、そんな相手には後日ユウが直々に鉄拳制裁を加えていたりもした。
ユウは、事実上拳では無敗であったのだ。

「威勢がいいな!こいよ!お前から先に撃たせてやるぜ!ひひ!」

「後悔するぜ?
・・・おりゃ!!」

観客席が沸いた。
この細身の長身男、実はこのレース競技では有名な新人潰しだったのだ。
観客にとって威勢のいい新人はいいパフォーマーなのである、よくも、わるくもだ。
そして大概の新人は調子に乗ったあげく、この細身の男に潰される、そのテンプレートはこのレースの醍醐味でもあった。
それを知っている他の出走者たちも、この細身の男の新人潰しが始まると傍観に入り、横槍などの無粋なことはしなくなる。

そして、ユウの右ストレートは見事に空を切った。

「へぶ!?」

カウンターのおまけ付きだ。
いくらユウがもともと街一番の腕っ節であろうとも、相手は闘技場でそのようなテンプレートを作る男だ、拳で闘ってユウより弱いわけがない。

観客席でその様子を眺めていたティアは、突然トップでならばれたと思った相手へ謎の右ストレートを放つユウに首を傾げた。

「・・・なにやってるのかしら?ユウ。
レース中なのにパンチなんて・・・」

少し考えたティアは納得する。

「・・・あ、そっか、今日のユウは指輪をつけてるんだもんね!
杖で殴るのと同じ要領か!」

的は、外れているが。
そして納得の末、立ち上がったティアは客席からユウにむかってジャブだのストレートだのと叫ぶ。
もちろん、その声はユウへと届きはしない。

「ひひ!新入り!キレがねえよ!パンチってのは・・・こう!」

「ぶはっ!?・・・ってー、のやろっ!うりゃ!がは!?」

「おい・・・おま・・・ほれ!」

「いだっ!やめっ!」

「お前めちゃくちゃ殴り合い弱えじゃねえかよ!?」

「うるせっ!ばぶっ!?
やめっ!やめろ!はぶ!」

ユウの拳はひたすら空を切り、細身の男の拳は的確にユウの顔面をとらえる。
ユウの顔が、晴れ上がっていく。

「ちょ!ユウ!ばか!そこはクロスカウンターで・・・こう!」

熱くなり、思わず飛び出たティアの拳が前の席に座っていた観客の後頭部をとらえる。
必死で謝り倒すティアをよそ目に、ユウはひたすらボコられ続けている。

「この!てめ!やめろってばはっ!
言ってるだっがは!」

「ほれ!ほれ!ひひひ!しっかりしろよ!ひひ!」

期待通りのテンプレートに会場も沸く。
ユウに対する冷やかしもとびはじめる。
ユウのイライラもつのっていく。

「とどめだ!つまらなかったぜ、新入り野郎!」

男はユウへと捨て台詞を吐いて右ストレートをユウへと放つ。
そして、その捨て台詞がユウをキレさせる。

「ふんっ!」

「っあ!?」

腫れ上がった顔面を歪ませながら、ユウはその右ストレートに自身の左ストレートを突き当て返す。
二人で拳を押し合いつつ、ユウが醜い顔面で怒りを漏らす。

「このやろう・・・ちょっと腕っ節が強いからっていい気になるなよこのゴボウ人間!」

もはや、顔面が潰れたユウにプライドという文字はなかった。
要所要所で平気で『男』を捨てるユウは、ある意味誰よりも男らしい潔さをもつのかもしれない。

「俺は、アリエスアイレス1の『魔法使い』なんだよ!殴り合いなんて知るか!!
食らえ!!!」

「ちょっ!てめ!ま───

「秘技!!『アリエスアイレス1の魔法!!!』」

決着がついた。
ユウの目の前で細身の男は火に焼かれ、冷気で身体の自由を奪われ、岩石で気を失い、風でとばされた。

会場からは大ブーイングが巻き起こり、後ろを走っていた他の走者たちもユウを潰しにかかる。

「この新入り野郎!てめえにゃ恥ってもんがねえのか!」

ハンマーを振りかぶる走者に

「うるせえ!」

フロスト=アロー=ショットが突き刺さる。

「これだから最近のわけえのには男気が!くらいやがれ!」

槍を振り払う走者に

「知ったこっちゃねえ!!」

アース=スフィアが降り注ぐ。

「てめえに!」

「出走資格はねえ!!」

左右から剣を振りかぶる走者たちに

「資格なんてそもそも必要ねえ!!」

ウインド=カッターが襲いかかる。

開き直ったユウが暴れ始めた。
そこへと迫る巨大な影。
低くて酒臭い、ガラガラ声。

「うっははは!待たせたな!坊主!やるじゃねえか!」

「待ってねえ!」

反射的に向けられた男へのフロスト=スフィアが───

───真っ二つに斬り分けられる。

「っ!?
あ!!あんた!さっきの!」

ユウの魔法を叩き落とした大剣、それを構える大男。

出走前にユウに話しかけていた男が、ユウとタマに追いついてきた。




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「先頭付近がやたらと騒がしいと思えば・・・やっぱりてめえか坊主!
ボコボコとはいえ初めてでここまで残るたあな!期待して良かったぜ。」

ならんできた男は嬉しそうにその顔を歪めた。
───やる気だ。
ユウは直感で感じ取る。
前回男が一着をとったレース、スタート直後の暴れっぷり、それを知るユウの額に否応なしに脂汗が滲む。

「ビギナーズラックでな、なぐりあっていた男がいきなり燃えたり凍ったり気絶したり吹っ飛んだりしたのさ。
おまけに後から続いて来た奴らも勝手に脱落したよ。」

わざとらしく鼻で笑いつつユウは大男をおちょくる。
素直なところ、ハッタリである。
無理やり余裕のありそうな受け答えをし、男に警戒心を持たせて隙を探る作戦である。

「ほう?そりゃあレースが荒れるわけだな。
危うく俺もビギナーズラックにやられるところだったわけだ。
しかし残念だったな、坊主!よりにもよって俺のところでビギナーズラックが切れちまうなんてな!
詫びに同情と洗礼ぐらいは送ってやるよ」

しかし、効果は薄い。
男は大剣を構えてためらいなくそれを振り抜いた。
ユウに向けたものではない、大男の、ユウとは逆隣に迫っていた走者がその一撃で脱落させられた。
見紛うことなく手練れだ。
ユウは緊張を高めつつ指輪に魔力をためる。

「俺はレース信者になる気はねえからな・・・
洗礼なら───いらねえよ!!」

爆発音。
ユウの手から魔法が放たれ、男の顔で炸裂した。
男の顔から煙が上がり、表情は確認できなくなるが、少なくとも首から下はピンピンしている。
そしてその首から下が何事もなかったかの様に動き出し、タマが横へと跳んだ、その位置には大剣が振り下ろされている。
軽い舌打ちをするユウの視線の先、歪んだ笑顔。

無傷の、大男の顔だ。

「くっははははは!燃えたりなんだりったらそういうことかよ!魔法使い!
てめえ・・・その剣は本当にお飾りだったらしいじゃねえか!」

「まあな。
俺が知る中で最強の剣士の、世界最高の剣さ。
俺のじゃねえんだよ。」

「ほう・・・」

男が獣ごとユウに寄り、立て続けにもう一振り、剣を振ってくる。
ユウは魔法障壁を手のひらに展開し、剣の軌道を逸らす。
お互いににらみ合い───笑みを浮かべる。

「ならば、今夜でそいつの天下も終わりだな・・・今日から俺がお前にとっての最凶の剣士だ。
潰れていいぜ、坊主・・・!」

「あいつを天下から引きずりおろそうってんなら、まずは俺を倒してみやがれよ!
タマ!!やるぞ!」

ユウの合図でタマが再度大男から距離をとってユウを飛ばす。
その軌道は大男の頭上を通っての逆側へと向かう。
そのまま空中からユウがアース=二ードルを放った。
地面から土の針が突き出し

「うおっ!?」

一瞬大男が獣ごとよろめく。
そして、逃さない。

「轟槌犬牙!!」

ユウの指示と同時、タマが大男の乗る獣の横っ腹へと轟槌犬牙でぶつかった。
獣から呼吸が詰まったかの様な声があがり、そのまま吹き飛ぶ。

タマが立ち止まると同時にその背中にユウが着地、そのまま吹き飛んでいった大男タッグにユウのフレイム=ジャベリンが追撃を成す。
地面を滑りつつ、踏ん張っていた大男とその獣にフレイム=ジャベリンが全撃はいった。しかしそれによりユウとタマには一瞬の隙ができ、後ろから迫っていた走者たちから数撃の攻撃を受けてしまう。

「いっで!?」

「ユウ!タマ!?大丈夫!?」

客席のティアが立ち上がって声を上げる。
もちろんティアの声はユウとタマには届かないし、ティアからではユウとタマの被害状況も確認できない。
タマのわき腹に赤い線が二本と、ユウの左肩に矢が一本。
確認できたのはそれだけである。
ティアの中に不安が現れる。

「っぐ!タマ!やれるか!?」

そんな不安を余所にユウもタマもまだまだ終わりはしない、すぐさま体勢を立て直して自分たち抜いて行ったタッグを追う。

「っくっそ!待ちやがれ!坊主!!」

怒りに目玉を大きくする大男がさらにその後を追った。
残りのタッグは全部で8組、レース自体は中盤を過ぎている。
ここまで残ったタッグメンバーは大男も含めて一筋縄ではいかない連中ばかりである。

ユウとタマが全力で先頭集団を追うも、他のタッグからの妨害をうけてなかなか捕まえることができない。
そして、もっとも厄介な妨害が再度ユウとタマに立ちはだかる。

「タマ!ちょい右に───!?」

「うえあ!!」

殺気を感じ取ったユウが攻撃を避けようとしたが、ギリギリ避けきれずにわき腹を大剣がかすめた。

「っぐ!いて!」

「待てよ・・・てめえ、あれだけ調子に乗ってただで済むとでも思ってたのか?」

「くっは・・・しつけえ・・・んだよ。
フロスト=ストーム!!」

「っ!?」

明らかな冷気がユウと大男の間にのみ流れ始めた。
体温を急激に奪われた大男とその獣、もちろんタマの体温も奪われる。
ユウが指輪に最大限に魔力を込める。

「・・・タマ!我慢してくれよ・・・!!」

そして───放った。

「アイシクルヘルフォーミング!!」

会場がざわつく。
ティアが拳を握って震えた。
大男が、うめき声を上げる。
そして、ユウの指輪が魔力に耐えきれなくなって魔法の発動中に砕けた。

「───っち!これだから安もんは・・・
タマ、わりい、こっから先は魔法は多用できねえ・・・頼むぜ!!」

不完全燃焼気味のユウ、走り去ったその後。
そこには年中暖かいサウスパラダイスではまずお目にかかることのできない光景が広がっていた。

広範囲に渡り凍り付く地面、無数の氷柱、それらへ向けて上空からも氷冷弾が降り注いだ痕跡。
そして、その氷柱に貫かれる者、氷冷弾を食らい、体の一部を凍りづけにされた者、地面に足を凍らされて身動きがとれなくなる者。

ユウの、たった一撃の魔法で大男を含めた三組の出走タッグがその場で動かなくなっていた。

「───なによ・・・私もあんなの初めてみた・・・!!」

鬼コーチは、先ほどとは別の不安に駆り立てられた。


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顔は腫れ膨れ、体の至る所に傷を作り、ボロボロになりながらもユウとタマは先頭集団へと飛び込む。
最早魔法に頼りきりで押し切ることは叶わない。
指輪が砕けてしまったユウに関してはある意味戦闘不能と言っても過言ではないが、ユウもタマも諦めない。
いや、諦めなどという考えがそもそも消え去っている、一人と一匹は今

ただただレースを楽しんでいる。

その様子はまさに闘技場のそれに相応しく、且つ不相応に若々しく、見る者達を熱くする。
もちろんティアもその一人である、ティアは汗をタオルで拭いつつ、声を枯らしつつ、聞こえもしない大声を教え子達へとぶつけ続ける。

実際に聞こえていなくとも、それはしっかり伝わっているということを、ティアは肌で感じて疑わない。

一つ、また一つとユウとタマから血しぶきがあがり、よろめき、立ち直る。

そしてついに

再び先頭へと昇りきる。

「はぁ・・・はぁ・・・いてぇ・・・視界が・・・
・・・タマ・・・大丈夫か・・・?」

ユウの問いかけには自信のありそうな鼻息が一つ。
荒い息に混ざりきりで力はなくとも、力強さを感じさせる。
ラストスパートだ。
意気込んで空気抵抗を減らすために身を低く屈めたユウ。
依然として周りからの猛攻は続く。
ここまで残っているというだけでも、現在攻撃を続ける走者たちがかなりの実力であるの察することができる。

周りから飛んでくる魔法やマジックアイテム、武器を頼りない魔法障壁で相殺しつつ、押し切られつつ、ユウは息を荒げながらタマへと言い聞かせる。

「・・・ごめん!タマ!
俺、今・・・乗ってるだけで荷物かもしれねえけど、頼りねえかもしれねえけど・・・
言わせてくれ、指示を・・・出させてくれ!

───逃げ切れ!!タマ!!」

加速

ユウの声を聞いて、タマの脚に力強さが戻る、両脇から距離を縮めつつあった走者たちから一メートル、二メートルと、少しずつ、しかし、確実に距離を空けていく。
ユウの限界を察知し、避ける、あえて跳んで受ける。

ユウへの攻撃や負担も、タマが一身に請け負う。
ユウの視界が歪む、鼻っ柱と目頭が熱を帯び、喉が痛む。
海岸で涙したティアの気持ちを、わずかだが実感する。

「───ずっ!タマ!無理すんなよ!?
俺には、俺にだって、まだ───

───っ!?

ユウの言葉を遮ったのは見覚えのある大剣。
視界に入ったそれは、すでに避けるには間に合わぬ位置まで迫っていた。

大男が───再再度追いついてきたのだ。

振り下ろされた剣に、ユウの思考が働く。
不敵な笑みが浮かぶ

───ちょうどよかった───

と。
ユウはタマに、自身がまだ戦う意志をみせようと、鬼コーチからの贈り物に手をかけていたのだ。
そこへ振り下ろされてきた大剣、選択は一つ。

───盛大な金属音が、レースの先頭で鳴り響く───

「っ!?なんだと!?このガキ・・・!!」

「よう!おっさん!ひさしぶりだな!俺の魔法で頭の方は冷えたかい!?」

メイガスエッジ。
アリエスアイレス1の剣士の、世界最高の剣がアリエスアイレス2の剣士の手によって振り抜かれていた。

『お飾り』という言葉が最高のほめ言葉である『芸術的』見た目と
『お飾り』という言葉が最高の侮辱にもなりうる『剣』としての性能。
翡翠晶の宝石質の輝きが、闘技場のライトに当たり、それ以上の輝きを放つ。

それが、大男の奇襲を難なくはねのけた。

大歓声があがり、会場が揺れる。
逆に、ティアは言葉を失った。

───最高の舞台で、最高の剣による、最高の剣技。
応援どころではなかった。
ティアの1ファンとしての感動が、言葉を生唾ごと喉の奥へと押し込んだ。
熱気とは関係のない汗、声援の疲れとも関係のない震え。
ティアは胸元へと握り拳を持ってきて心臓の鼓動を自身で感じ取る。

そして、やはりティアが認めた『魔法使い』は期待を裏切らない

「・・・かっこいいじゃない・・・ユウ・・・!」

始まる

沸く

震える

他を置き去りに、レースのラストスパートでみせられた先頭の二組で始まった目にも止まらぬ剣閃の嵐。
タマと、大男の獣も目まぐるしく動き回り、場所が入れ替わったと思えばまた大きく跳ね、ぶつかり合い、また入れ替わる。

「おおおおらあああ!!沈みやがれええええ!!!」

「・・・っ!!
汚え・・・
剣っつうのはこうやって振るんだよ!!!」

振る

刻む

弾く

ユウも大男も、斬られようとも血がでようともものともしない、ただただ振り続ける。
己の腕と、プライドをかけて

ゴールまで残り400メートルを切った。

独走状態でユウと大男は剣をぶつけ合う、順位はこの段階で一位と二位は決まっていた、後は、どちらが折れるかのみにかかる。

「消えやがれぇぇぇえええ!!!」

「うぉぉおおおああああっ!!!」

異様な程に鳴り響く金属音、2人の男の声。
ゴールまで残り200メートル。

───メイガスエッジが宙を舞った。

「っつ!───くっ!?」

「終わりだああああ!!!」

丸腰のユウに今まさに剣を振り下ろそうと大きく剣を構える男。
ティアが声を上げる刹那───

───タマ!!!」

ユウも声を上げた。

指示と言うほどのものでもない、しかし、意図はしっかりとタマへと伝わった。

声を上げると同時にユウは素手のまま、大男に向かって跳んだ。
同時にタマはメイガスエッジの落下点へと向かってメイガスエッジを拾いに走る。

そしてハナから制御する気などさらさらないような魔力を両手に込め、大男の顔面に向けて放つ。

「秘技!!『タマの大爆薬』!!」

ユウの魔法は案の定暴走し───

───大爆発が起こった。


「ユウ!?!?」

ティアが慌てふためき先頭で起こった爆発の煙の中に視線を送る。
ユウの姿は───煙の外にあった。

ユウは自身の魔法の暴発を利用して大男の顔面を踏み台に、というよりも爆発を起点とした発射台にしたのだ。

「っが!・・・てめ・・・わざと・・・!?」

「・・・っくは・・・っはは・・・ざまぁ・・・みやがれ・・・」

遠のく意識の中。
ユウはメイガスエッジをくわえたタマを確認し、最後の指示を出す。

───タマ・・・轟槌『剣』牙・・・!」

自身の魔法の暴発で吹き飛びつつ、力無く、とてもカッコいいと言えるような指示の出し方ではない。
しかしそれが今のユウにできる精一杯。

ユウはタマに指示を出し切ったところで満足げに気を失った。

そして、ここに『剣技を扱う獣』が誕生する。

タマが、メイガスエッジをくわえたままに、大男とその獣のタッグに向かって轟槌犬牙を放った。
ユウのヤケの暴発魔法を食らった大男は視界と身体の自由を奪われており、なすすべなくそれをその身体にくらう。

大男の身体が、地に落ちた。

その後、ユウの身体がタマの背中の上に落ちた。

タマが、ユウを背負ったままにゴールを通過する。

「───った・・・!
ユウと・・・タマが───!」

ティアが口元をおさえて瞳を潤ませる。

「───勝ったあ!!!」

レース自体は大荒れだ、ブーイングから声援から様々な声が響きわたる。
しかし、誰しもが納得せざるを得ない確固たる『結果』がアナウンスによって伝えられ、魔光掲示板の1stの隣にユウとタマの名前が光る。


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会場は荒れに荒れた。
新入りが強敵を押しのけて一着、しかも人気も低かったために倍率も馬鹿みたいな数字になっていた。
そんなタッグに有り金を全てかけたティアは一夜にして大金持ちになったのだ。
それを他の会場の人間にバレたらよからぬことが起きそうだと察してティアは元に戻れぬタマと気を失ったユウをつれてこっそり会場を抜け出し、ヒール屋へと連れて行った。

ユウとタマの合計治療費、860000F。

一人分ではないといえ、あっさりとあのリリーナの治療費を上回る額にティアは目を回したものの、紙幣や金貨の山で溢れて閉まらない財布どころか、ポケットからもお金をはみ出させていた自身に気がついて再度目を回す。
ティアは隠れるようにきっちり治療費を払いきり、ユウとタマの治療が終わるのをヒール屋の外にて待つ。

今夜のディナーの内容に胸を踊らせつつ。

しばらくするとヒール屋ののれんを大きな狼がくぐってきた。
背中にはボロボロの服を着た、無傷の魔法使いを乗せて。
タマはくわえていたメイガスエッジをティアへと渡そうとするが、ティアはそっと首を横に振る。
不思議そうに首を傾げるタマに、優しく言葉をかけながら。

「『それ』は私がユウに貸したものだからね。
ちゃんとユウの手から返してもらわないと・・・ふふ。
タマ、お疲れ様!格好良かったよ!
ふばっ!?」

ティアの笑顔には元気の証の濡れた鼻先が押しつけられる。
タマなりの照れ隠しなのだろう。
照れ隠しのついでと言わんばかりにタマは背中のユウを地面へと放りおとし、顔面へと鼻先をぶつけ続ける。

「あっ、わっ!ちょっと!?タマ!?
今日ぐらいは・・・あ・・・起きちゃったね・・・」

そして、ユウが目を覚ました。
頭を掻きつつ首を振り、タマの鼻先に首を振らされ、状況の確認を進める。

「・・・あれ?ティア?
・・・あぁ、そうか、レース・・・終わっちまったのか・・・
え?で?なに?結局どうなったん?」

軽い!軽すぎる!
ティアはそう思い、心配しすぎたことにも少し後悔する。
キョロキョロするユウの頭の上に、ティアはため息をもらしながら札束をばすっと落とす。
それを手に取り目にするユウの表情がみるみる驚き、夜のサウスパラダイスに元気な声が上がった。

────勝った!!!」

そして現在、ユウとティアは高級ディナーを食べに、高級料理店へと足を運んでいた。
乾杯はワイングラスの先っちょを軽く当てるだけにしておいた方が良さそうな程にお洒落な雰囲気の店だ。
純白のテーブルクロスのかかった小さな丸テーブル、そこにならんだリリーナレベルの盛りつけの料理達。
小さくなったタマはユウと交代と言わんばかりに眠ってしまい、今はナイフとフォークを器用に操るティアの膝の上だ。
膝の横には、ちゃんとユウの手から返されたメイガスエッジが輝いていた。
首を傾げながらナイフとフォークを眺めるユウが口を開く。

「おい、ティア・・・すげぇよ・・・」

「うん・・・高級だね!!」

「これさ、どこまで食べていいんだ!?
この葉っぱは食べていいのか!?」

「えっ・・・気にしてなかったよ・・・私それ、一緒のお肉に巻いて食べちゃったよ・・・?」

2人は若干後悔していた、雰囲気と約束で高級ディナーに足を運んでしまったものの、本当はもっとガヤガヤしたお店でバカさわぎをしたかったのだろう。
味は確かなものだが、緊張してそれどころではない。
なにせ一回ボロボロの服で訪れたユウが入店拒否されたくらいである。
よって、2人は今、何時になく堅い服を着ている、その事実が緊張を助長していた。
タマに関しては他の飲食店同様、ペットOKであったことに油断していた2人だが、他の席にいるペット達は異様な美しさで品があり、タマを元に戻す必要がなかったかのように思わされるほどである。

「なぁ・・・これ、いくら?」

ユウが極細の春巻きにチョコレートのようなソースのかかった料理をフォークで持ち上げて問う。

「え、単品の値段はしらないけど・・・コースで100000F・・・」

「は!?十ま────

「しっーーー!!静かに!ひそひそ!」

値段を聞いたユウが、本音をこぼした。

「これっぽっちの量の料理があと数皿出てくるぐらいで十万・・・
俺は・・・今日もお前のチャーハンかホテルのバイキングで良かったよ・・・」

2人とも、眉間を歪ませ、眉を八の字に吊り上げて黙々と高級ディナーを消化していく。

「そうね、私とタマの獣祭りの日にはご飯は酒場にしましょうか・・・ごめん。」

なんとも言えない高級ディナーになってしまい、2人は勝利の余韻に浸ることすら出来なかった。
最も幸せそうだったのは結局ティアの膝の上ではなちょうちんを膨らますタマである。

いや、今夜だけではない、そもそも、闘技場の競技への参加もタマのわがまま、サウスパラダイスに来てからというもの、最も幸せなのは常にタマだ。
なんとなく、同時にそんなことが頭に浮かんだ2人はちらりと目があってため息混じりの微笑みがこぼれた。

残すわがままは本命の獣祭り。

期間は一週間とちょっと。

2人の受難とタマの幸福はもう少しだけ続く。


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光陰矢のごとし、ユウとティアがサウスパラダイスに到着してから早一ヶ月が経とうとしている。
一月まえ、この街で闘技場の虜となったタマは今日も元気にユウを張っ倒す、ユウは相手がタマということもあって本気で戦うことができないようだ。
しかし手を抜いても大怪我を負わないだけ、この一月でユウも成長したのかもしれない。
獣レース祭りの後、一時だけ優しくなった鬼コーチは本命を前にしてまたもや鬼と化している、この一ヶ月の間で、海岸で暴れる若い男女と大きな獣の姿は一種の名物にもなっていた。
タマの最終調整の相手と聞いて一時は命の危機をも感じたユウだがなんてことはない、ティアもタマもその辺の分別はしっかり持っていたようだ。

「よし!今日もユウを三回倒したね!タマ!
ユウもありがとう!これだけ仕上がれば獣祭りでも充分タマは通用するよ!」

きゃあああとはしゃぎながらティアはタマの口に高級ドッグサラミを投げ込む。
ひれ伏し、口の中の砂を吐き出しながら満足げにその様子を眺めたユウはティアからマナ水をぶっかけられて起きあがる。

「どういたしまして、全く、いざこうして自分がサンドバッグになってみるとよくよく分かるよ。
お前、この間は無理しすぎだ。」

「・・・はは・・・まぁね、でも、その甲斐あってレース祭りはいい結果に終われたわけだし・・・ね?」

「ああ、おかげさまだな。
お礼に今夜は高級ディナーでも───

「いやいい。」

「冗談だよ。
そこまではっきり否定されるとはな・・・」

苦笑いを浮かべつつ、懐中時計を確認したユウはティアに用事の件を伝える。
数日前、獣レース祭りのあと、いつものように海岸でトレーニングをしていた2人の前にランスとリリーナが姿を現したのである。
用があったのはリリーナの方だったらしく、ランスはただの付き添いであった。
内容はリリーナから2人へ『渡したいものがある』とのことで、その日から数日後の今日、2人はリリーナに昼食に誘われていたのだ。
そして時刻は昼食前、ユウとティアははしゃぎながらホテルへと戻り、シャワーと着替えを済ませる。

「お待たせ!ユウ!」

「待ったぜ!ティア!
なにいっちょ前に女の子してんだよ?お洒落さんじゃねえか。
ほ、ほら、早くいくぞ!」

あの夜のようなお洒落な姿で現れたティアに、少しだけユウはぎこちなくなる。
いまだにユウはティアの乙女な一面に慣れていない節がある。

───悪くない。

感想は、あの夜と同じだ。
いつもよりすこし赤い顔をしたユウと、いつもよりすこし白い顔をしたティアは早速ホテルを抜け出してランスとリリーナとの待ち合わせ場所へと向かう。
そして飲食街の高級とまではいかないものの見た目お洒落な店の前にて、2人の姿を見つけた。
相変わらず小綺麗にまとまったリリーナと、それに対を成すようにこだわりを感じさせない姿のランス。
ランスとリリーナもユウとティアの姿を確認し、これまた対を成すような反応を見せる。
腕を組み、そっぽを向いてあくまでも気づいてない振りをしつつチラチラと横目で2人を確認するリリーナ。
大声をあげつつ、大きく手を振るランス。
そんな2人に少しだけ笑みをこぼしつつ、ユウとティアは合流を果たした。

「おっす!ユウ!ティアさん!
獣祭りまであと少しだな!調子はどうだ?」

「上々だ、期待してくれていいぜ!」

男同士の再会はあっさりとしている。
ランスとユウは謎のハイタッチをしつつ、一言目以降はすぐに話題を切り替えて馬鹿話を始めていた。
その一方で

「ふー・・・ん。
『お似合い』ね?ティア?」

「まぁね、私は『身の丈に合った服』が好きなのよ。
似合いすぎてごめんねぇ?」

女同士の再会はえらく醜いものだった。
リリーナはティアの着ている服がさほど高価なものではないことを一瞬で見抜いて皮肉を投げ、それを一瞬で皮肉と判断した ティアもすぐさま皮肉を投げ返した。
ブランドや服などにさほど興味のないユウとランスはそんなことに気がつくはずもなく、ただただ邪悪な笑顔を作り続ける女性陣に得体のしれない恐怖を感じていた。

それぞれの挨拶もそこそこに、四人と一匹は店の中へと入ることにする。

四人掛けの丸テーブルに座った四人。
適当な料理と飲み物を注文したのち、それらが運ばれてくるまでの時間を適当に潰す。
料理が運ばれてきて、四人は無言でそれを貪り、食後の余韻に浸る頃に、ユウがふと、今日の目的を思い出した。

「あ、そうそう、リリーナが言ってた『渡したいもの』って・・・?」

爪楊枝をくわえながらユウが身を乗り出した。

「・・・あ。
そう!ユウ!やっと思い出したのね!私も今思い出したわ!
ティア!みなさい!」

どうやらリリーナも目的を忘れかけていたらしい。
口元をハンカチで拭いつつ、リリーナは自身の席のよこに置いておいた紙袋へと手を伸ばす。



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悪い顔をしながらリリーナが持ち上げた紙袋。
ユウとティアの顔色が変わる。
閃き、驚愕、それらを一瞥し、リリーナの顔が極悪人のそれになる。

声を上げたのはティアだ。
焦りとも感動とも取れるその声色に、ユウの閃きは納得へと移り変わる。

「リッ!リリーナ・・・っ!
それっ・・・!

『ラブハートブレイド』の紙袋・・・!?」

「ああ!どっかで見たことあるマークだと思ったら!」

「違うわよ、ティア!
ラヴハートブレイドよ!ラ!・・・ヴっ・・・!」


リリーナが下唇を噛んで優しく美しく、えっちな声で発声する。

『ラヴハートブレイド』
以前、ユウとティアとランスがリリーナの美貌の秘密に迫った時に話題にあがったブランドだ。
戦うかわいい女の子達の間で人気の名品。
ブランド名もかわいさの内、こだわる人間は『ブ』と『ヴ』の発音の差にはこだわる。

しかしティアはそんなことは気にしない。
猫じゃらしを追う猫の如く、視線を紙袋へと向けてそらさない。

「そう!知ってるよ!ラッ・・・ブ!
え!?それ!?渡したいものってそれなのラブリーナ!?」

「ちょ、誰よラブリーナって!
そうじゃなくて!ラ!・・・ヴっ・・・!」

「「いや、誰だよラヴリーナって。」」

男たちの無関心を横目に嬉しそうな笑顔で紙袋を手渡すリリーナ。
このときばかりはリリーナの笑顔からも邪気が消え去っており、純粋にセンスを共有し合える女同士の顔をしている、ティアはタマの様に瞳をうるうると輝かせ、両手を胸の前で組んで震える。

「それより早くあけてちょうだい!ティア!
私が直々にポイントを消費して特注で作ってもらった品なのよ!」

「ええええ!?本当!?うそ!?嬉しい!!
ありがとおおお!!!

・・・では・・・早速・・・!!」

緊張感あふれるどや顔でティアはそれを膝の上に置き、紙袋の縁についているテープへと震える指先をかける。
ティアとリリーナの間に緊張が走る。
リリーナも飲み物に口をつけたまま、全神経を集中させてその指先を暖かな眼差しで見守った、ストローの半分まで上がったまま止まったアイスティーがその緊張を物語る。

「その時さ、俺がそのゲス商人の尻にさぁ・・・うはは!」

「ひはは!おまっ!それ!ホモ!!」

「「男性陣!うるさい!」」

「「はひっ!?」」

その場の空気に任せて男性陣を黙らせた女性陣が一つ息を漏らす。
リリーナのアイスティーがボコボコボコっと沸く。
その緊張を感じ取ってか、驚いて黙りきった男性陣もティアの指先へと視線を向けた。

そして

ティアが───

───勢いよくテープを剥がした。

「「「「───・・・・っ!!!」」」」

全員が身を乗り出して袋の中を覗く。
が、その袋の中には今度はブランド名が入った布袋が入っており、それがなんなのかは特定できない。

「「「───ふぅ。」」」

ティアを除いた全員が息を吹き、肩の力を抜いて一瞬の緊張を解いた刹那───

「なによ!このマトリョーシカ!!」

───ティアが、その場の全員の意表を突いて布袋を瞬殺する。
あまりの突然さと、気を抜いていた刹那の出来事故、ユウは驚き椅子ごとひっくり返りかけ、ランスはむせかえり、リリーナのアイスティーは噴水と化す。

しかしティアはブレずに場の混乱に乗じてその中身を店内の照明にどや顔で照らし出す。
斜め45度の椅子から、むせかえりの立ち直り際から、アイスティーの噴水の隙間から、それに向かって視線が集まる。

そして、それを手にしたものが一言───

「えっ・・・?
・・・なにこれ?」

また、ティアを除いた全員から肩の力が抜け落ちる。
この声に最も肩すかしを食らったのはリリーナである。
あれだけの緊迫した開封からのこの一言、ましてや自身がそれを贈ったのだ、期待はずれもいいところである。

「なにこれってあなた・・・
アクセサリーよ。アクセサリー。
『百獣王のたてがみ』よ。」

はっとしたように表情を明るくしたティアはブンブン首を縦に振った。
ティアが手にしているもの、クリーム色のもふもふした輪っか。
言われてみればたてがみに見えないこともない。
ティアはまぶしい笑顔でリリーナに再度礼を言い、そのままのまぶしい笑顔で───

───それを、自身の首へとかけた。


「えへ、えへへ・・・どう、かな?
変・・・かな?うふふ!」

うれしそうにたてがみを首に巻く少女、感想を求めている。
リリーナはもちろん、さすがのユウとランスも言葉を失った。

「うふふ、あったかーい!
ありがとう!リリーナ!気に入ったよ!」

まぶしすぎる笑顔。
嬉しそうな声。
リリーナは迷った、こんなにも、自分の贈り物を喜んでくれた少女、真実を、話すべきか否か。
よくよくみれば似合っていないこともない、が、一つ、たった一つだけ、致命的な問題があった。
ランスも、ユウもそれに気がついている。
ランスはひそひそと、ティアを指さしつつリリーナへと耳打ちする、その声に一度リリーナは眉を歪ませ、ユウからの視線にも一つ頷いて重い口を開くことにする。
ティアのまぶしい笑顔を見ればみるほどに、リリーナの心は罪悪感で潰されそうだった。
しかし、物には用途があるのだ、似合っていればいいというものではない、伝えなくてはならない。
世の理に悔しさすら感じたリリーナはティアをまっすぐ見ることもできない、リリーナはティアから視線をそらし、食いしばった歯の間から絞り出すように伝える。

「えへへー、あれ?みんな?どうし───

「・・・のよ・・・」

「え?・・・なに?リリーナ?」

「それ・・・その子の・・・アクセサリーなのよ・・・っ!」

「え?その子!?え?」

混乱したティアの視線の先、リリーナの震える人差し指・・・いや、今回は『獣差し指』と言うべきか。
物には用途があるのだ。
その獣差し指の延長上。

「・・・そっか・・・」

「・・・ごめんね、ティア・・・」

「いえ、いいのよ、リリーナ。
ありがとう、私、嬉しいよ?」

「ぐすっ・・・優しいのね。」

そこには、元気にドッグメニューを頬張るクリーム色の仔ウルウルフの姿があった。



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ティアはどや顔を崩さない。
そこに彼女はアイデンティティを感じているから。
ティアはどや顔を崩さない。
その頬がリンゴの様に染まり、筋肉がふるふるとふるえようとも。
どや顔で、ティアはそっと自身の首にあったたてがみを外す。
いっそのこと笑い飛ばしてくれればいいものの、その場のユウも、ランスも、リリーナでさえも困った様子で眺める。

しかし、ただ一人、いや、ただの一匹だけはティアを見放さずに明るい反応を見せてくれる。
ほっぺにたくさんの食べかすをつけたタマが、ティアの手元のそれに気がついて興味を示している。
ティアの脚に前脚をついて、輝くうるうるで鼻息を荒くして尻尾を振ったその様子はどことなく誇らしげでたくましい、タマもたてがみには強い憧れを抱いているようだ。
どうしようもない空気の流れていたその場でのその姿はその場の全員をほっとさせる。

「と、とりあえずその子にもつけてあげなさいよ。ティア。」

「そ、そうだね!ありがとう!リリーナ!
ほーら、タマ!リリーナお姉ちゃんからのプレゼントだよー!」

そもそもタマへのプレゼントであったのに、とりあえずだの、その子にもというのもおかしな話だが、この場の雰囲気においてはそんなことはどうでもよかった。
慌て、取り繕うようにティアが先ほどのまぶしい笑顔を取り戻してタマの首へとそっとたてがみをかける。

そして同時に

その場にいた全員が固まった。

「かっ!」

「かっ!」

「かっ!」

「・・・かわいいっ!!・・・あ、ちが!私はやっぱりその子のことは苦手よ!?」

ぽんっと、タマの首もとが美しいたてがみで広がる、誇らしげに震えるその自信がありげな小さな身体にぴったりなそれは、まさにタマを小さな百獣の王へと昇華させた。
一瞬、リリーナから素の感動の声すらあがった。
リリーナはなぜか意味もなく否定して頬を染めていたが、誰もその様子について突っ込むような無粋な真似はしない。
それだけ、そこにいたタマは愛らしさにあふれていたのだ。

「うん!色も!毛質も!大きさもぴったりね!
うふふ!さすが私の特注!
その子もよく似合って・・・あ!いや、よく着こなせてるじゃないの、ほめてあげるわ!」

「タマ・・・しゃ!写真そ!ユ!写真だよ!早く!かっ!カメラ!カメラ用意して!!」

「すげえ・・・すげえよリリーナ!ティア!・・・買う!買うよ!俺もラヴハートブレイドのドラゴンヘルムほしい!」

「ちょっ!ずるいよ!私もラヴハートブレイドのヴァルキリーヘッドドレスでドヤウルプルしたい!」

「え、いや、ティアさん、ドヤウルプルって・・・
つか、なんで2人ともそんなに頭ばっかり固めんだよ・・・?
しかし栄えるなぁ・・・ふふ、コイツもなんか誇らしげじゃん、ふふ。」

ティアが震えるタマを抱き上げてきゃあきゃあ騒ぐのを確認し、リリーナが満足げな様子でティアへと声をかける。

「・・・じゃ!そういうことよ!ティア!
私もランスも、あなたとその子の活躍、期待しちゃってるんだからね!
今からその子は百獣の王よ!
もし他の獣に簡単に負けちゃうようなことがあったらそれ、没収しちゃうからね!」

「・・・リリーナ・・・」

リリーナの言葉を聞いたティアはそっとタマを降ろし、リリーナの手を握った。

「───うん!ありがとう!
約束するよ!私!絶対にランスとリリーナを感動させれるような戦いをタマと一緒に作る!」

大きく頷く
眩しく輝く
プルプル震える

全員が全員大満足で終わった食事会。
そして、帰路につく。



───獣祭り当日───



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いつものバイキングルームの端、すぐにメニューを取りにいける位置に座った一組の男女、そして立派なたてがみを持つ仔ウルウルフ。
潤んだ震える瞳に映し出されるは、ピンクや白や赤や茶色の山。
言い換えると

『様々な肉料理の山』

苦しそうにも誇らしそうにも見える表情でその仔ウルウルフは鼻息を荒くしながら口に次々と肉を詰めていく、その隣では少女が仔ウルウルフに熱い声援を送る。
その光景の異様さに、肉料理を運んできた男も声を落とす。

「おい、ティア・・・流石に食べさせすぎなんじゃねえのか・・・?
タマ、腹が・・・」

ユウが指先を向けたタマのおなかはまるで幼児のようにポンポンと膨らんでいた、横から押し出したらコロコロと転がっていってしまいそうなほどにだ。
これから本番の獣祭りを控えているのに、こんなに食べてはおそらく動けないだろう、心配するのも無理はない。
しかし、肝心のティアはというと。

「玉だけに!?」

ふざける。
食べ続けるタマを応援し続ける。

「・・・」

「・・・いや、私も食べ過ぎだと思ってるよ・・・?
でも、なんか、タマが持ってきたら持ってきただけ食べちゃうから・・・あ、ユウ、また紅白サラミがなくなっちゃった!
と!とにかく!タマがこれだけ食べてるんだからね!きっとタマも必要だと思って食べてるんだよ!!」

「・・・へいへい、紅白サラミな?とってくるよ。
どうなっても知らねえぞ?」

なんとなく嫌な予感を感じつつも、ユウは肉の追加に向かった。
タマは今、いつものタマなのだ、魔法で強化されているわけではない。
先のことまで考えているはずなどないのだ。

「どうせタマのことだからな・・・
『そこに肉があるから食う』ってだけなんだろうな・・・」

一言、独り言をもらし、苦笑いを浮かべてまたお皿に肉を盛っていく。
盛り方なんて気にしない。手当たり次第に、目に付く次第に、白い皿を肉色に塗りたくる。
そんな食事風景が3セットも続いたあたりだろうか、ユウが食事盛りに一段落をつけたあたり。
獣祭りのパンフレットを広げてコーヒーに口をつけていたユウの耳に、ティアの声が入る。
その声は困惑と恐怖と焦りを混ぜた様な響きを含んでいた。

「え?ちょっ・・・あれ!?え!?タマ!タマ!?
ユ!ユウ!タマが・・・!タマが!!」

「あ?どうした!?・・・あ?
・・・え・・・どうしたんだよ・・・」

ユウが青ざめる。
あわててタマの様子を確認したユウの視界に映った生物は、既にタマではなかったのだ。
その小さな体にバスケットボールを詰め込んだかのような丸み。
文字通りの『タマ』がそこには転がっていた。
その玉のようなタマは、横になって前足後ろ足をじたばたさせて右へ左へと揺れている。
状況を確認して固まるユウをもう一人のタマのような視線が見上げる。

「ユウ!タマが!・・・どうしよう!苦しそうだよ・・・!早くマナ水を!!」

「お!落ち着け!・・・こ、これは、その、一端吐き出させるぞ!
ちょ、どけ!ティア!」

「うん!」

タマの横でオロオロするティアをどけて、ユウが暴れるタマを持ち上げる。
中身の詰まった果物のような重さにユウは表情を歪ませるが、タマは対照的だ、ユウに持ち上げられた途端にケロッと大人しくなり、いつものようにふるふるとふるえ始めた。

「え?あれ?」

「どうしたの!?ユウ!?早く!!」

「あ、あぁ・・・あれ?」

「ユウ!!?」

「お、落ち着けよ、ティア。
ほら、みてみろよ、タマ、苦しそうか?」

「なにいってるさ!タマがそんなに苦しそうに!・・・あれ?してない・・・?」

「うん、してねえ。」

困惑した様子でタマを見るティア。
とりあえずユウはタマを下ろす。
おろされたタマはすっくとその場にしっかりと立ち、重そうなお腹をぶら下げつつ震えている。

「えぇ?あれ?なんで?さっきのはなんだったの!?
え!?ユウ!?なにをしたの!?」

「えっ、いや、俺は何もしてないけど・・・」

困惑し、首を傾げる二人を余所に、タマはまたその足で料理皿をめざしはじめる。
一歩一歩、バイキングルームの赤絨毯に小さなくぼみを残しつつ進む。
一瞬ホッとして顔を見合わせた2人が、そろそろ食べるのをやめさせようとしてタマへと声をかけたとき──

「あっ───!」

「えっ!?タマ!!?」

──タマが倒れる。
青ざめて、あわててタマへと駆け寄る二人。
タマはまた前足後ろ足をバタバタさせて苦しそうにする。
心配してまたユウがタマを持ち上げると

「あっ・・・?」

「あれ・・・?」

また平気そうにする。
訝しげな表情をみせ、ユウは再度タマを床へと下ろす。

───倒れ、暴れる。

また起こす。

───倒れる。

「え・・・なに?
ユウ・・・タマ、どうしちゃったの・・・?」

顎に手を当て、その様子を見守るユウが見解を述べた。

「・・・なぁ、ティア?
空を飛ぶ昆虫って、何で死ぬときは仰向けになると思う?」

そして、納得する。

「え!?なんでって・・・足が縮こまって、バランスが悪くなって、背中の方がおもいから・・・
・・・あ・・・なるほど・・・
・・・あぁ、じゃあ、早く治してあげてよ!可哀相だよ!」

「・・・まあ、今回は自業自得だけどな。」

「いや、そうかもしれないけどさ・・・」

2人はスイカの様なタマを持ち上げ、ホテルを後にして闘技場へと足を向ける。

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