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雑木林に三つの生き物の姿。
一つは、ドスドスと地面を強く踏みならし、明らかな怒りを顕わにする少女。
その少女は、後ろで甲高いかすれ声を上げる生き物に顔も合わせずに文句を言い続ける。

その後ろ、先の少女に文句を言われ続けてもめげずに奇声をあげる幻想的なウワーン。

さらにそのすぐ後ろでは、1人の男が先のウワーンと全く同じ声で奇声をあげていた。

『たすけてえええええん!!?』

「最後の『ん』!いらない!」

「やめてええええええん!!?」

「私!何もしてないから!」

『滅びるううううううう!!?』

「『ん』がない!やり直し!」

「さっきと言ってることがちがううううううん!!?」

「ウワーンのくせに何気に会話成立させないっ!!」

『しぬううううううん!!?』

「しなない!」

「生きるうううううう!!?」

「勝手になさい!何故に疑問系!!?」


どうせ背後で奇声をあげているのはウワーン一羽だけだと、ティアは思っている。
だからこそ、突然の攻撃にだけは意識を向けつつ、それ以外は全くのノーガード、振り向きすらしない。
しかしこれでは攻撃も出来ない。
一瞬でも殺気を漏らしてしまえばあっという間に察知され、逃げられてしまうだろう。

(・・・そろそろか。
そっと、そーっと・・・)

なのでユウは作戦を立てた。
自分を囮にして、タマに奇襲をしかけさせることにしたのだ。
ユウはティアにバレぬよう、そっとウワーンを元の姿に戻し、逃がす。
バレぬよう、奇声を上げながら、逃がす。

「ほれるうううううん!!?───ひそひそ、ほら、さっさと行け、お前はもう自由だ、ひそひそ───
ほられるうううううん!!?」

「ほりたくないっ!」

(よしいった!バレてねぇ!・・・こいつ、ほんと間抜けだな・・・。)

ティアは殺気にのみ注意を向けていた。
逆にいうと、殺気さえ感じ取れなければ、それ以外は後ろには無関心だ。
あれだけ巨大な気配が小さくなり、且つ離れていったというのに特に変わった様子も無くキレのないツッコミを入れ続けていた。
かくして、ユウはバレずにティアの背後をとることに成功した。
作戦は、次の段階へと移る。

「ティアああああああん!!?」

「勝手に名ま───えっ!!?」

ユウが、ティアの名前を叫び、驚いたティアは振り向き、再度驚く。
その先も、ユウの予想通り。

「っぬわああああ!?また奇襲だあああ!?」

ティアが叫んだ。
ユウはあらかじめタマに指示をだしておいたのだ。
ティアが自分の顔をみたらまず間違いなく叫ぶだろうから、その叫び声を合図にでてこい。と。
作戦は、最終段階へと移った。

「───殺気───!!」

ティアがその殺気に気づいて振り向いた時にはすでにタマが飛びかかっていた。
───勝負あり。
ユウはティアがタマに気をとられている隙をみて、ティアへとマジックロープを向ける。
前後からの奇襲、慌てたティアは為すすべもなく捕まるしかないだろう。
ユウも、タマもそう思っていた。
しかしそこはやはりティア、そう簡単には捕まらない。
ほんの一瞬驚いた様子をみせたものの、ティアは次の瞬間には剣をぬいており、振り抜いていた。
抜き際に右下から左上へと凪ぐような一閃。
タマがそれをもろに食らって吹き飛ぶ、ここまでも予想通り、そして、今まさにティアを捕まえようとしていたユウも───身体に切影轟槌を食らって吹き飛ぶ、ここからは予想外だ。
その攻撃は、ユウの左上から現れ、右下へと向かって振り下ろされていた。

───ティアが、奥義を放った───

「───切影轟槌鏡華剣!」

「───っくは・・・!?」

タマもユウもその破壊力に悶絶し、地面にひれ伏す。
油断していたその身にティアの奥義は重すぎる。

『鏡華剣』

ティアの剣技だ、この剣はユウとの手合わせではあまりメリットが無いため、ほとんどみる機会が無く、ユウもすぐにその存在を忘れる。
が、ユウのインチキ剣技ランキングの中でもかなりの上位に位置するインチキ剣だ。
この剣は、ティアがふった剣の軌跡の間逆の軌跡で斬撃が現れるというものだ。
ティアが剣を正面に真っ直ぐ振り下ろせば、ティアの背後に地面から上空へと真っ直ぐ切上げる形で斬撃が現れ、ティアが身体の正面から右側面を裂くように剣を振ると、ティアの背後から左側面に向かって新たな斬撃が現れるというものだ。

これに轟槌剣打を併用し、威力を数倍に跳ね上げ、さらに切影で手数も数倍にした上で、仕上げに鏡華剣で死角もつぶしつつさらに手数と攻撃範囲を倍にする。
今回は一度しか振らなかったが、この状態でティアが剣を振り続けるとティアの周囲にいわゆる『剣の結界』がいとも簡単に出来上がる。
その結界をティアは『奥義』と成した。

単純に使い勝手がよくて強いというのも奥義にした理由でもあるが、ティアがこれを『奥義』とし、滅多に使わないのにはもっと簡単な理由がある。

「───っ、あ、危なかった・・・っいたた。」

身体に負担がかかりすぎるのだ。
そもそも轟槌剣打のみでもかなり身体に負担がかかるのだ、それだけならティアも慣れっこだが、その轟槌剣打の数をさらに切影によって数倍に増やした上で、その数をさらに倍にするこの技、単純に使い慣れていないというのも大きいが、とにかくティアにとってはしんどいの一言である。

が、動けないほどではない。
ティアはすぐに剣をしまうとすぐにその場から逃げるように走り出す。

「逃げるが勝ち!」

「げほ、まちやがれ!フロント=アロー=ショット!!
───あ!?」

なけなしのユウの魔法は、なんと起き上がってティアを追いかけようとしていたタマを撃ち落とす。
突然のユウの魔法を全身にくらい、タマは再度地面にひれ伏し悶絶する。

「うわぁあああ!?タマ!?大丈───うげふっ!?
ごめ!俺が悪───うげふっ!?」

「作戦は悪くなかったけど、連携が足りてないわね!
やり直し!」

謝り倒すユウを鼻先でしばき倒すタマ。
そんな1人と1匹に少しどや笑顔をこぼしつつ、ティアはその場から離れていく。


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その後も、ユウはあれよこれよと手を変え品を変えでティアを追ったが一向に捕まえられる気配すらない。
発見から奇襲までのテンプレートに慣れてきたティアは驚くことを一旦止め、余裕すら持ち始め、なぜ二人に見つかってしまうのかを考え始めるようになる。

そして高台から監視されていたことに気づき、奇襲を振りきる際に高台からも発見できず、かつ地上を普通に歩いていたとしてもなかなか発見しにくい場所で考えをまとめることにした。
木の上である。
ユウとタマは奇襲の回数を重ねるごとに少しずつではあるものの、連携がとれ始めていた、どうも難しい所はユウのワンマンプレーでのごり押し感が強いというところは否めないが、わずかながらに振り切るのが難しくなってきている。
ティアは先ほどの襲撃を一度目のそれと比較してみる。

───捕まるのも、時間の問題かもしれない───

比較の結果、そう感じたティアはそのまま樹上で体力を温存することにする。



──数十分後──

山岳地帯、元ティアの拠点。
そこにあったのはユウとタマの姿だ。
2人は持ってきた自分たちのおやつを休憩がてらに頬張っていた。

「しかし・・・手詰まりだな・・・ぐふっ!?
ある程度やれることはやったつもりだったんだげっふ!?
・・・次にティアを見つけるためっふ!?に有効な手だてっふ!?

・・・おい!タマ!確かに確認しなかった俺も悪かったけどお前だって喜んでサラミ食べてたんだろ!?諦めて我慢しろよ!ぶっふ!?」

不機嫌そうなのはタマだ。
おやつタイムが始まって以来、タマは隙あらばユウに濡れた鼻先をぶち込んでいた。
八つ当たりだ。
タマの世界は現在無味無臭、おやつの味がしないのだ。
完全にユウが悪いというわけではないのはタマだってわかってはいたが、タマはまだまだ幼い女の子、八つ当たりだってしたい時期である。
ましてやユウは普通に味覚があるのだ、タマからしたらこれほど理不尽なことはない。
よって

「おふっ!タマ!いい加げばふ!!?」

しばく、おやつを口へと入れる度にその都度ユウをしばくのだ。
左手におやつを持ちつつ、ユウは右手でタマの鼻先をあしらいながら思いふける、そう、まだ発動していない『最終兵器』についてだ。

「しかし・・・俺達がお菓子を食っているということはだ・・・そろそろか・・・
『アレ』には極力頼りたくはなかったんだが・・・まぁ、これも作戦の内か、引っかかったのだとしたらそれも俺たちの作戦通り、なんら悪いことはない!

・・・利用させてもらうか・・・」

不敵な笑みに、黒い鼻先が押し付けられた。

───────

「うーん、うまく逃げたし、あれ以来見つからないのはいいけど・・・
このままじゃ退屈かな?」

一方でティアは先ほどの樹上の枝の上で時間つぶしを続けていた。
自分がすぐ上にいるのにその下をキョロキョロしつつ三回も通過していったユウに笑いをこらえるのが必死で、その時はまだティアも楽しんでいたが、ユウとタマが山岳地帯の元拠点へと向かってしまってからはティアは暇だけを持て余していた。
あくびをひとつ、ついでに伸びもひとつ。
目元に涙を浮かべた少女は何かおもしろい物はないのかと、おもしろいものなど入っていないと分かり切っている自身のポケットを漁る。
───と、そこで

「あら、ユウからもらった豆大福があったじゃない。
まだ食べてなかったもんね、そういえば。」

ひとつの袋の存在を思い出して取り出す。
なんてことのない透明の袋、タマがサラミを食べて自滅したという節も思い出しつつ、念のためにその袋から中身まで、隅々に至ってチェックもしてみる。


「なによこれ、どこからどうみてもただの一口豆大福六個入りじゃないのよ。
張り合いないなぁ・・・」

ティアはその中から1つを取り出してにゅーっと伸ばして二つにちぎってみる。
中には豆が入っていることを考慮してか、なめらかなこしあんが入っていた。
普通のこしあんすぎることに再度拍子抜けしつつ、そのちぎった半分を口へと運んでみた。

「もぐもぐ・・・なにこれ、豆かった・・・
でも、味は、うん、もぐもぐ。
あ、こっちの豆は柔らかい。
品質管理がなってないわね、もぐもぐ。」

時折、豆がすこし固いことを除いては全てにおいて普通の大福だ。
味も悪くない。
とりあえず1つ1つに無難ないちゃもんをつけつつも、それらの大福は全てティアの胃に収まる。

「うん、満腹感すごいわね、大福。
ふぁー、ちょっと、寝るかな・・・?
むにゃむにゃ、早く私を捕まえてみなさいよ、ユウ・・・」

結局大福を全て平らげてしまうも全くティアに変化はなかった。
毒も、薬も入っていない。

ひょっとしたら、ユウは本当に私のことを思って豆大福を用意してくれたのかもしれない。

そんなありもしない妄想に、少し笑顔を漏らしつつ、少女はまどろみ、夢の世界へと歩みを進める。

かくしてユウの『最終兵器』が発動する事となる。


ティアが無防備をさらしつつ枝の上で昼寝に勤しんでいたころ、ユウのアンテナに魔力の反応が引っかかる。
一度ピクリと肩を弾ませ、菓子を食べる手が止まったユウ。
その様子にタマはなにが起こったのかをききたそうにユウの目をじっとみる。
その視線にすぐに気がついたユウ、明らかに初めよりもタマの気持ちがわかり初めている証拠だ。

「・・・ん、おう、そうだな、タマにはまだ詳しくは話してなかったっけか?
あいつが・・・大福を食ったぜ、タマ。」

ただただ気持ちの悪い笑みを浮かべるのみのユウ、しかしそれは明らかに勝利を確信したかのような誇らしさも含んでいた。
ますます混乱するタマ。
ティアが大福を食べたことで何が起きたのかをユウに説明させるべく、タマはなんとなくユウの膝に前脚を置いてみる。
これも、通じる。

「説明か?
アレだ、実はあの大福自体はただの大福だぜ、ちなみにそこそこいいとこの大福。
高いんだぞ?
それで、普通の大福がなぜ決戦兵器になるかと言うとだな──

──ユウの説明がはじまった。
それによると、ユウはティアの大福の豆に偽造し、ある魔法薬を入れていた。
見た目が豆大福の豆にそっくりな薬である上、そこまで固くもないから食べても豆と勘違いすると踏んだらしい。

そして重要なのはその薬の効果だ。
ユウが豆大福に仕込んだ薬は、あらかじめその薬に魔力を入れておき、その薬が他の生物の生体情報を得ると、薬の効果が切れるまで薬を摂取した生体の情報をリアルタイムで感じることが出来るという魔法アイテムだ。
簡単にいうと、ユウが魔力をこめた薬をティアが飲んだことで、ユウはティアの動向が手に取るようにわかるようになった、ということである。
現在のティアの位置はもちろん、残りのティアの魔力、ユウはそれを現在『マナ』としては認識していないが、ティアのマナ、怪我の有無、疲労度その他もろもろが筒抜けだという。

──つまり、ここからはティアを探し回る必要がねえ、それどころか簡単に奇襲を仕掛けることも出来るというわけだ・・・
ひひ、よし、タマ、腹は膨れたか?
──狩りの、始まりだ・・・!」

ユウとタマはティアの元拠点を抜け出し、山岳地帯の、雑木林が一望できる地点を目指した。

ティアの悪夢が始まる。

「すぴー、すぴー。
きゃー・・・コトちゃんのおしりがぁ・・・むにゃ。」

すっかり夢の中に落ち、幸せそうなティア。
さすがのティアも寝込みを襲われてはどうしようもない。
もちろん、それの接近にも気づいていなかった。

突然、ティアの乗っていた木の枝が根元から砕けた。
その際に盛大な音もあったため、ティアはその音で目を覚ましたものの、すでに遅かった、見事に地面に尻から落ちる。

「──っ!?
キャアッーーー!?お尻があ!!?
えっ!?なに!?奇襲!!?
じゃない!?ユウもタマもいないじゃない!!
なに!?何が───!?」

混乱状態で慌てふためくティアの視界に輝く線が入る、その線は、かなり遠くからそこらの木の枝をバキバキと折りつつ、真っ直ぐにティアの元へと向かってくる。
危機を感じ、蛙の様にその射線外へと飛び出る。

「え───ぬわぁ!?
れ!?・・・レーザー!?」

間一髪で跳び逃げたティアの足先をかすっていったまばゆい光、見覚えのあるそれは、間違いなくリリーナのレーザーであった。
その覚えが、さらにティアを混乱させる。

「うそ!?リリーナが!?
・・・いや!そんなわけない!リリーナにしては威力が強すぎる!それに!リリーナならばもっと正確に狙ってくるはず!
誰!?・・・一体───うわあ!?」

一呼吸をおき、また飛んでくるレーザー。
次のそれはティアの数メートル横に落ち、地面を焼く。
状況が飲み込めないものの、自分が狙われているのは明らかだと悟ったティアは、レーザーが飛んできた方向へと注意を向けつつ雑木林内を駈ける。

───

───っち、はずれか!でもまあ、形になっただけマシだな!
新魔法、

『ランスオブリリーナ』

完成だ!」

雑木林が一望できる高台から、一冊の魔導書を片手に杖を握る男の姿。

ユウだ。
先ほどからレーザーでティアを狙っていたのは紛れもなくユウである、ユウはリリーナの魔法を手本に、我流でレーザー魔法を完成させていたのだ。

「もうちょっと角度と自動補正の調整が必要かな・・・思ったよりも遠くの的を狙うのは難しいな。
よし、タマ、あとは俺のレーザーが落ちる地点を目安にティアを追え!
そして、さっき俺が指定した所にうまくおびきだせよ?」

ユウの隣でレーザーの行く先を眺めていた巨狼は、その声が終わるのと同時に山岳地帯を降りていく。
わずか数回のジャンプでタマはユウの視界から消えた。

「結局大福薬に頼っちまったが・・・この方がおもしろいだろ。
さぁ、ティア、せいぜい必死で逃げ回って、俺を楽しませてくれよな・・・?」

砂浜100往復を賭けた闘いが、徐々にユウとタマが有利な方へと傾き始める。


「はぁっ!はぁっ!───っつあっ!危ないっ!!」

走りながら頭をおさえて上半身を曲げたティアの背中をレーザーがかすめる。
何度かマジックキャンセリングを試みてはみたものの、先程からティアを狙うレーザー魔法は、来たと思ってからマジックキャンセリングを発動できるほど生半可な魔力ではない。
ティアはレーザーから逃げ回りつつ状況を整理する。
まずここでティアを狙うのに心当たりのある人物、ユウしかいない。
このレーザーの魔法もユウがリリーナの見様見真似で放っているとすれば威力の違いも精度の甘さも説明がつく。
ならば問題はどうやって自身を狙っているかだ。
ユウはティアが木の枝の上で休んでいた事には全く気づいていなかった、何らかの拍子でそれに気づかれたとしても、先ほどから雑木林内を縦横無尽に逃げ回るティアの誤差数メートル以内の精度で何度もレーザーが落ちてくるのには違和感がある。
位置がバレているに違いない、そこまでは結論が出た、しかしティアはそれを打開する術を持たない、原因に心当たりがないからだ。
もっとも、原因に心当たりがあったとしても今更解決出来るものでもないが。

逃げまどい、レーザーを避けつつティアが倒木を飛び越えた時、ティアの意表をついて巨大な獣が現れる。

「っ!?タマ!?」

ティアは焦る、レーザーは未だに飛びつつけていて、さらにタマにまで見つかってしまったのだ。
白くなりつつある頭でティアはさらに状況解析を進める。
タマは恐らくレーザーの照射点を目印にしていること、ならば位置がバレているのはユウにのみ。
問題の肝はどうやってタマを振り切り、且つユウの監視を逃れるかだ。
自身が鍛えた自慢のタマ、正直なところティアも手を抜けないと思っている。
発見と同時にタマはティアへと牙を向ける。

「返映剣!!」

ティアはその鼻先に跳ね返し専用の剣技を当てタマを弾き飛ばすのではなく、自身を跳ね飛ばした。
空中で体制を立て直したティアは、予想以上にティアが吹き飛んだことに驚き脚を止めているタマに向かって突っ込もうとタマに身体を向けて着地をし、足を出そうとする、が。

「っく!また!」

それを許さぬと言わんばかりにレーザーが降ってきた、ティアの前方、タマとの間に三本、それに驚いて無理やり足を止めたティアのわき腹にタマの突進が入る。
突然の行動選択のブレに隙が生まれていた。そしてティアが飛ばされながら見た上空、レーザーが自身の背後に向かっていた、精度は多少甘いものの、それは飛ばされたティアの着地点に落ちる角度だ。
慌ててティアは地面に剣を突き刺しブレーキをかけ、身体に自由が戻ると同時に横へと跳ぶ、直後、ティアが跳ぶ前より少し後ろの地点にレーザーが落ちた。
そのまま悠長に飛ばされていたら間違い無くそれに身体を貫かれていたであろう。


このままではジリ貧だ、明らかにユウとタマの連携も上がっていて、なおかつ位置もバレている、とにかくここでやりあっても不利だと考えたティアは背水の陣を張ることに決め、ここは撤退の選択をとる。
レーザーに邪魔されないちょうど良さそうなところへと逃げ込み、タマを戦闘不能に追いやった上で後で向かってくるであろうユウもサシで潰す。そう、結論を下した。

─────

「ふむ、逃げ始めたか、てことはタマもうまくやったみたいだな。
・・・タマの位置がうまくつかめないままレーザーを落とすのもややおっかねぇけど慣れてきたな、ティアの動きが見えれば何となくタマに何が起こってるのかもわかってきたぜ。」

ユウはレーザーを適当に落としつつ、移動の準備をはじめる。
タマが『その場所』へとティアをつれてくると信じて。


枝に時折剣士服を引っ掛けつつ、邪魔な木は一閃で真っ二つに裂きつつ、ひたすら雑木林内を逃げ回るティア。
小回りが効く分、細い道へと逃げていけば逃げていくほどにタマのスピードも落ちるがそれでも相手は優秀な魔法で強化された上に自身が戦闘術を叩き込んだウルウルフ、ましてやティアがどんなに細い道へと逃げ込もうともその道を通るレーザーが障害物も遠慮なく焼いてしまう。
なかなか振り払うことができない。

(レーザーが飛んでこなくてうまく1対1に持ち込める場所・・・山岳地帯!)

とにかくこのままでは捕まる、そう考えたティアが山岳地帯の方へと足を向けたとたん、タマがそれまでにない高さでジャンプをして先回りをする。
驚いてその足を止めたティアの正面にまたもレーザーが走る。
即座にティアの頭に浮かんだこと

(ユウもタマも山岳地帯に私を逃がすことを避けている・・・?)

という考えだ。
山岳地帯に向かわれると不都合なことがあるのかもしれないと踏んだティアは無理やりにでも山岳地帯を目指そうとするがやはりそれをタマが許さない。
ひょっとしたらまたユウがやっかいなことを企てているかもしれない、しかしここで足踏みをしていたらやはりレーザーとタマとの挟み撃ちでジリ貧、逃走前と状況が変わらなくなってしまう。
仕方がなくティアは踵を返して再度雑木林を逃げ回る、そこでティアはタマの動きに違和感を感じる、そう、攻撃が少ないのだ。
さらに先ほどのタマの先回り、あれを利用すれば少なくともティア自身の動きを封じることもできるのにあえてそうしない理由、不気味である。
逃げながらもタマの動き方にもティアは意識を配る、少し意識をするだけですぐに気づいたその露骨さ、タマはティアの逃走経路を読んでいる、いや、絞っていたのだ。
ティアの明らかな方向転換などには必死に対応するものの、ある方角への転換に関してのみは驚くほどに無関心である、そしてそのある方角へとティアが逃げている時はタマの足が極端に遅い、というよりも煽るように距離を縮めては速度を落として距離をとり、また速度を上げては距離を縮めをくりかえす。

(・・・なるほどねぇ・・・まずいかもしれない・・・)

タマは私を捕まえる気がない、追い込まれている。
さらにレーザーの発射点が地味に低い位置へと移動している。
そう感じたティアはとうとう状況打破を狙ってマジックアイテム入りのポケットを漁り、ポケット内でさり気なく要火気アイテムに魔法で点火し、次々とポケットからこぼしていく。

ティアが駆け抜けた後で煙が上がり、爆音がなり、地面がはぜ、突風が吹き荒れる。
とにかくティアは手当たり次第にマジックアイテムを炸裂させつつタマをひるませる。
土煙で様子は確認こそできないものの、背後のタマの気配が薄れたことを感じたティアは目の前の大きな木に向かって跳び、その木を蹴りつつタマへと向かって方向転換をする。
依然としてある程度の精度でティアを狙うレーザー、ティアはそのレーザーの行くさきが読めている。
ティアはひるんでその場で首をふるタマのすぐ前に生えていた木に着地をして急に止まってみせた。

「案の定・・・!!」

ティアの行くさきを遮るかのように凪ぐレーザー。
ウルウルフの悲痛な息づかいが響いた。

「ごめん!タマ!痛かったでしょうけど!恨むならユウを恨んで!」

土煙がはれる頃、痛々しくレーザーの痕が残ったタマの姿が確認できた。
タマはその場にひれ伏して傷口を舐めていた。

「自分で味方を戦闘不能にするなんてね・・・ユウ!」

ティアはそのままレーザーの発射点めがけて走り始めた、いつの間にかレーザーは雑木林内から現れるようになっている。
タマの姿もない、ティアは正面から飛んでくる真白い光の筋を身を屈め、腰をひねり、跳ね、見事に障害物までも利用しつつ避け続ける、数百メートルも走った頃だろうか、その姿がティアの視界へと映る。
雑木林内にてはよく目立つ、浮いた黒のローブ、ブカブカでちんちくりんなシルエット───ユウだ。

「──みつけた・・・私が狩る側に回るとはね・・・!」

黒い豆粒が徐々に大きくなる、レーザーは依然としてティアの行くさきを絞る様、まるで光の道を作るかのようにティアの左右、もしくは上を通る。
その時、ユウの背後に現れた影、響いた声。

「来たぜ!タマ!迎え撃て!!」

「───っ!?・・・さすが・・・!」

タマがすでに先回りをしていてユウの背後より跳び出てきた。
レーザーの傷跡は残しつつも、魔法で強化されたその姿は力強い、内心ティアもここまでは読めていた、そもそもあのタマが不慣れなレーザーの流れ弾一発で沈むはずがなかったのだ。
ティアは飛びかかってくるタマを迎え撃つべく、剣を構える。
願ってもいないチャンスだ、ユウが、ユウ自身が1対1で闘える状況を作ってきたのだ、ティアからしたらこれはユウの作戦ミス、正直ティアはなぜこのタイミングでユウが雑木林内に姿を現したのか理解できなかった。

───が、それがティアの今回の敗因の一つだ。


せまりくる巨体に剣を振りかぶったティア。
が、

「───っだ!?えっ!!ちょっ!?」

驚いてその剣をティアは止める、なんと、ティアへと飛びかかりながらタマが縮んだのだ。
ユウがここ一番のタイミングでタマの魔法を解いてきたのだ。
そしてそのまま地面にぽすっと着地と同時に、タマが───消えた。

「───!?落とし穴!?え!?タマが!?」

タマが消えた地点を凝視するティア、そこにあったのは粗雑な落とし穴、しかもハナからティアを沈める気などさらさらなさそうな、せいぜい縮んだタマが余裕を持って潜れる程度の申し訳なさの穴。

「っ!どこへ───

「後ろだ。」

ユウの声に慌てて振り返ったティアの背後、地面より突如現れた巨体。
再度魔法がかかったタマがティアの背後をとった、これには度肝を抜かれたティア、しかしティアは内心ほっとする。

───ユウとタマの連携がとれていない。

と。
タマのジャンプが明らかに高すぎる、これならティアも余裕を持って対処できるし、これだけ視認できたならタマの位置を覚えつつ、ユウの動きにも気を配ることができる。

その場しのぎへの筋道が立ったティアの口元に薄い笑み、そして、心に油断。
ユウとタマを見誤ったが故に生じる隙。
ティアは悠々と上空へと向かうタマに注意を配り、もちろんユウの魔力へも気を配っていた。
そして、自身を横切るレーザーへの意識は疎かになっていた。

「ばーか。
ミラージュライトクリスタル・・・!!」

「えっ・・・」

ティアの横を抜けたレーザーが、突然軌道を変えて戻ってきた。
タマはというと、飛びかかるふりをして、近くの木の枝を利用して方向を変えてユウの隣へと戻っていた。
混乱するティア、戻ってきたレーザーもティアの数十センチ横をかすめまた反射、さらに数十センチ横を抜けて反射。
混乱がとけ、ユウの意図にティアが気づいた時にはすでにすべてが終わっていた。

ティアが

レーザーでできた檻の中にいた。
その檻は細かなレーザーの反射によって、まるで水晶の結晶のように組み上がってティアの動きを封じる。
要所要所に見られる固定魔法反射壁、はじめからユウはこれを狙っていた。
リリーナの魔法を参考にしつつユウが自己開発した魔法だ。
見事にティアの動きを封じる位置でそれは出来上がっており、ティアの動きを止めるのがあと数コンマ早くとも遅くとも、ティアは組み上がった檻の外にいたであろう。
これはタマとユウの完璧な連携として認めざるを得ない。

ティアはすぐにこの魔法の弱点に気がついた、そう、反射の一点目の魔法反射壁を破壊すればこの魔法は一撃でパーにできる。
が、それにティアが気づくことをユウも読んでいたからこそ、中でティアが暴れるスペースすらないようにシビアな大きさにしたのだろう。

完全に、ティアの負けである。

「・・・は、はは・・・こ、降参、降参よ!」

顔の筋肉をひくつかせつつ、レーザーに触れぬように固まったティアが降参宣言をする。
その声を聞いたユウは笑顔でタマの頭を撫でおろし、レーザーの魔法とタマの魔法を解いた。
決着の瞬間である。
ティアは長い息を吐きつつ、その場にへなへなとへたり込んだ。

「ふぅ~・・・びっくりしたわよ、連携も完璧だし、まさかリリーナの魔法を真似るだけでは飽きたらずにアレンジまでするなんてさ・・・」

「うはは、自信作だよ。
ま、それ以上に今回はタマの頑張りだな!よくやった!タマ!」

誇らしげにその小さな体を震わせるタマ、勝利への喜びだろうか。
その様子に2人とも短い鼻笑いを鳴らし、ユウが手を引っ張り、腰の抜けたティアを起き上がらせる。
そして、悪い笑みを浮かべている。

───数時間後───

サウスパラダイスの海岸線では、元気に走り回る男女と獣の姿があった。
ただし、今回はユウが鬼コーチとして。

「はぁ、はぁ!はい!あと110往復!
百獣の王だけに!!」

「っだ!?ちょ!はぁ!はぁ!10往復おおいよ!っ!百獣の王は百獣なんだよ!?
というより!もう100往復終わったじゃないの!」

「はあっ!はぁん!?しらねえよ!俺だって一緒に走ってやってんだからよ!したがいやがれよ!今日は俺がコーチなんだよ!ぜえ!ぜえ!」

「ぬわああああ!鬼いいいいい!!!」


獣レース祭り開催まで残りわずか。
ユウとタマ、もちろんティアの中でも何かに火がつく。



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「今日のトレーニングは、見学にしようと思います!」

最早おなじみになったホテルのバイキングルーム、窓際の席で朝日を浴びた太陽光頭が誇らしげな様子で宣言した。
宣言と同時にテーブルについた手、勢いで倒れたコップ。
ユウは向いに座ってそれから流れる野菜ジュースを無言で拭き取る。
テーブルの端からこぼれた数滴がタマの頭頂に垂れるもタマは全く気にする様子も無く、玉ハムを貪る。
玉ハムとは、玉状のハムである。

「あ・・・ごめん、勢い余った。」

「いや、いいよ。
もう拭いたからな。それより何だよ急に見学って。
体調悪いのか?ほら、俺が盛ってきたサラダで栄養とれよ、ジュースばっか飲んでないでさ。」

ユウがぶっきらぼうにそっぽを向きつつ、火の魔法で汚れ布巾を灰にして灰皿へと突っ込む。
それについで、ティアの前に置かれる皿。
ユウが差し出したサラダ、美しい、あまりにも毎日バイキングが続いていたため、ユウの盛り付けスキルもリリーナの足元程度には追いついていた。
ティアはそのサラダにすかさず塩と胡椒とエキストラバージンオリーブオイルをかけ、謎のどや顔で話を続ける。

「ありがと!でも私元気だよ!
私だけじゃなくて、みんなで見学するの!
わしゃわしゃ。」

どや顔のままサラダで頬を膨らましたティアの様子に、ユウはサラダを譲ったことを少しだけ後悔する。
かっこよくキメてみたはいいものの、ティアは自分用にもサラダを盛ってきていたことに気づいたからだ。
ユウはティアの盛ってきたサラダを奪いつつ、自分用に持ってきていたドレッシングをかけて緑の森に銀のトライデントを突き刺す。
プチトマトがはじけて転がり落ち、それがタマの玉ハムに混じるが、タマは気にせずプチトマトをほおばる。

「わしわし。んぐ、見学だぁ?」

「ごくり。んっふっふ、ユウ?今日が何の日か覚えてないのかしら?わしわし。」

「あぁ、タマの誕生日だろ?ちゃんと覚えてるぜ。」

ティアがリス顔のまま固まる。



「・・・?
・・・ご・・・くり。」

「今日でタマも11歳かぁ、人間換算で。
大きくなったな、タマ!」

「むがっ!うそ・・・!?
そっ!そうなの!?タマ!今日が裸で現れた日なの!?」

「まぁ、未だに産まれたままの姿だけどな。
それでプレゼントにプチトマトをだな・・・」

「え!?いつ!?いつから知ってたの!?
てか!どうやって知ったの!?
ずるいよ!私も目出度いタマを愛でたい!」

「かわいそうに、ティアはお誕生日会で呼ばれないタイプなんだな、駄洒落が寒すぎるせいだ。
仕方ないから今日は参加させてやろうな、タマ?ほんとに仕方ないからあとで貸し出し厨房でケーキ作らせてやろうぜ?」

「よし!やるよ!私!
でもタマの身体に悪いから味付けはナシね!
素材の味をそのまま生かすんだから!
ユウもちゃんと一緒に食べてね!」

ユウもリス顔のまま一瞬固まった。

「・・・むぐ。
ごめん・・・嘘だ。
タマの誕生日は俺も知らない・・・。
歳も知らないし、素材感たっぷりケーキは見送らせてくれ・・・。」

「・・・うわぁ。ただのケーキ食べたさにタマの誕生日をねつ造するとかね・・・
はい、これ、デザートに盛ってきたやつだけどあげるよ・・・しょうもない。」

「さんきゅ。
で?実際のところ、今日はなんの日なんだ?」

ティアの表情がひどい歪みを見せた、どうやらティアはユウが今日が何の日なのかちゃんと理解した上でふざけたのだとおもっていたようだ。
呆れた様子でため息を一つつきつつ、ティアはユウに譲ったケーキ皿から一口ショートを没収しつつ説明を始める。

「・・・ユウ?
あなた、なんのために今日まで青春の汗を流してきたわけ?」

「はぁ?そりゃ獣レース祭りのためだろ?」

「なによ、ちゃんとわかってるじゃないの。
今日が月の日でしょう?次の太陽の日までの7日間がレース祭りの週じゃないのよ!
あ、たしか土の日は休みだったはずだけど・・・」

「え・・・ほんと?」

「うん、ほんと。
だから、とりあえず今日はレース祭りを見に行ってみましょうよって話よ。
それからタマとユウとの参加の日もみましょうよって話。」

固まったユウのシルバートライデントから玉ケーキが転がり落ちる。
それはタマの玉ハムに混ざるが、タマは気にせず玉ケーキをほおばる。

その後、朝食を終えた2人が向かった先はいつもの練習場ではなく、歓声湧き上がる闘技場であった。

月の日の午前中ということもあり、観覧席のチケットは難なく手に入る。
ユウとティアは暴れるタマをあしらいつつその席に着き、レースが始まるのを待つのであった。



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闘技場内に巨大な音声がながれる。
間抜けなお知らせ音と、その後に続く美しい女声、内容は本日の第一レースについてだ。

その声が説明する場内でのマナー、出走獣の紹介、倍率、人気。
初めての雰囲気にユウとティアもそわそわしながら顔を合わせてほほえんだり、場内を歩き回る獣を指さしてみたり闘技場入り口で購入したやたらと高い飲食物に舌鼓をうったりとせわしない。
タマは出走を前にしていきり立つ獣達を誇らしげに眺めて鼻息を荒くしていた。
時折ユウの足に頭突きをいれたり、ティアの食べようとしていたお菓子に突然飛びついてみたりと明らかにはしゃいでいる。

そして、とうとうレースへの準備が始まる。

「しかし、魔法や武装で強化OKとはいえ・・・ああなるのかよ・・・」

「そ、そうだね・・・もし、ユウがタマジローさんにもらった魔法があんなに強力じゃなかったらタマは出場どころかウォーミングアップにすら混ざれなかっただろうね・・・」

2人が見下ろす獣達と、その騎手。
やる気、いや、殺る気満々である。
それもそのはず、出場者達はこの道のプロばかりだ、レースで稼いで生計をたてているのだ。
今回のタマのように、獣の一時のわがままを満たすための娯楽ではないのだ。
どの獣も、それこそつい最近ユウとティアが相手にした有翼虎ぐらいならワンパンで首をへし折りかねぬほどの貫禄と筋肉にみちみちている。

タマジローは優秀な魔法研究家だ、ユウとティアが思っている以上にだ。
おそらくユウの獣強化魔法がタマジロー製のものでなければ、タマではあの獣達には前脚も後ろ脚も出ないだろう。
逆にいうと、闘技場内の獣達にタマジロー製の強化魔法をかけたらそれこそ『魔物』と呼べるような生き物が出来上がるであろう、そう、容易に思わせるほどの威圧感が、それらにはあった。

「あ、見ろよ、あの、確か七番人気だった奴!
今前脚から刃物がでたぞ!」

「うわっ!ユっ・・・!ちょっ!
みて!あの騎手の人!私の剣の三倍ぐらいの大きさの剣持ってるよ!?」

「おい、待てよこれ、こんな奴らがレースってさ、完走できる奴らの方がすくねえんじゃないのか?
・・・あいつら、走ることより潰すことに特化してそうだぞ・・・?」

「うん・・・もしかしたら、レースで勝つんじゃなくて、潰して勝ち取るのが基本スタンスなんじゃないのかな・・・」

ユウとティアは徐々に不安を感じ始める、彼らの様子をみていると、とてもではないが『レースをしにきている者』には見えないからだ。
異様に殺伐とした空気の中、出走獣達がスタートゲートに収まる、それと同時にあることが起こり、ユウとティアは度肝を抜かれる。

「わっ、魔法障壁!?」

「す!すごい強力な魔法障壁じゃないの!
私が本気で壊そうとしてもこれは難しいかもしれない!!」

なんと観客席に強力な多重魔法障壁が張られたのだ。
おそらくこれほどの障壁であれば、ユウとティアの本気の攻撃ですら容易に弾くだろう。
そして、それの意味するところは

「流れ弾ですら危険なレベルで暴れる気なのかよ・・・あいつら・・・!」

「ちょ、ユウ・・・これ、ひょっとして死人がでない日の方が珍しいんじゃないの・・・?」

命の危険だ。
もちろん観客の安全保証はし過ぎるに越したことはないということで、開催側も考慮した結果の魔法障壁なのかもしれないが、逆にいうと客席ですら安全保証をするためにそれだけの設備が必要になるということになる。
ユウとティアは息をのみつつ、その周長1キロちょっとの戦場を見下ろす。

その後、心配する2人を余所に盛大なファンファーレが場内へと鳴り響き───ゲートが開かれた───


「っ!・・・はじまった!」

「えっ!?は!?・・・うそ・・・」

スタートと同時に場内に実況と声援が響く、会場の人間にとってはそれが日常であるのかもしれないが、ユウとティアにとって、そこに広がる光景は常軌を逸脱している。

「あ!あぶねえ!
あのヤロ!今本気で騎手の首狩りにいかなかったか!?」

「あー!いま!あの子!前脚折れたんじゃ・・・!?」

戦場。
地獄。
処刑場。
公開拷問。
闇レース。

キーワードを入れていこうとすると、そんなイメージばかりが浮かぶ。
一頭、二人、三組。
場内をたった三周回るだけのレースで、次々に脱落者が現れる。
結局、レースが終わる頃には20組出場していたはずの出走者達が、6組しか残っていなかった。
そして、ゴールしたのはたったの4組。

大量の赤い液体と、大量の白い長方形をレース中に見た。

───甘かった───

二人の頭に、共通の一言。
結局二人は1レースを見たのみで闘技場をあとにしていた。
一冊の、出走者用パンフレットを手に持って。


「ティア、出走日は・・・!」

「木の日!あと、三日ある!
で、でも、ユウ・・・」

「・・・ああ、わかってるよ。
でも、お前だってわかってるだろ?
俺たち、何のために今日まで青春の汗を流して来たんだ?」

──大きく、頷く──

「ごめんっ!私が・・・『鬼コーチ』が弱気じゃ示しがつかないよね!
行こう!ユウ!今日は、私が『剣で』ユウとタマを相手にする!」

「おう!手!抜くなよ!殺す気できやがれ!」

その日も夜は長い。
諦めが悪いのは二人の共通点だ、正直、レースを見ただけで既に敗北感に包まれていた二人であったが、まだ実際に負けてしまったわけではない。

その日のティアの日記は

『私はコーチなんだから、選手を信じるだけだ。』

という文字で締めくくられていた。



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さざ波の音が響く夜の海岸線。
とっくに夕陽は沈みきり、空には優しく輝く月と、飾り付けに控えめな星々。
月は、星をどう思うのか。
星は、月をどう思うのか。
互いに同じく光を放ち、互いに色を添え合う、寄り添う。
しかしそれらは決して一つにはならない、時に、月のひかりが星を隠す。
星の成す形に人々は無限の意味を持たせるが、月の形は有限だ。

どちらが、夜の主役なのだろうか

夜空はなにも語らない、常に意味を追うのはそれを眺める人。

月も、星も、夜空という舞台に立っている己を意識しない。

ただ今日もお互いを際だたせ、打ち消し合い、一つになることもなくそっと寄り添う。

そんな星と月が、砂の舞台にももう一組。


「きゃあ!!」

「っと、大丈夫か?」

レース出場までに残された時間はあとわずか、2日後だ。
前日は軽めの調整のみ、よって今日、この夜のトレーニングが本格的な最後のトレーニングになる。
闘技場でレースを見た日、その翌日、2人とタマは朝から晩まで必死でぶつかり合った。
ユウとタマの連携も上々、たったの2日間だということを考慮すると、ユウとタマはあり得ないほどの成長を見せた。
もちろん、代償は軽くはないが。

「っぐ、だ、大丈夫だよ・・・!
もう・・・一度・・・!!」

「あ!ティア!!」

ティアが、ボロボロだ。
ユウとタマが強くなっていく一方で、攻撃こそはするものの、その実状はほぼサンドバックになっていっていたティアの身体が限界に達していた。
不安定な砂浜、よろつく身体に鞭を打ち続けてきたティアは、とうとうここで倒れてしまう。
ユウはすぐさまタマから降り、ティアのもとへと駆け寄り、タオルにマナ水を含ませて傷口に当てる。
タマも心配そうにティアの隣で伏せてその顔を潤んだ瞳に映し続ける。

「・・・ごめん、ちょっとだけ、あと少しだけ休んだら動けるから・・・」

「だめだ!もう終わりだ!昨日からほとんどずっとぶっ続けでもうボロボロじゃねえかよ!」

「でも、ユウとタマはまだまだ・・・動けるなら・・・私、足引っ張りたくないよ・・・」

痛々しい傷口、ユウは自分にできる精一杯の施しをする。
自分とタマのために体を張ってくれたティアに何もしてやれないことにユウはひどい苛立ちを覚える。
ユウはティアの手をとってみる、剣でできたマメは完全に擦りつぶれて血まみれになっている、もう剣を握れていたことだって不思議なくらいだ。

「ティア・・・ごめんな、こんなにボロボロになるまで・・・今治すからな。
安心しろ、お前は足を引っ張ったりなんかしてねえよ、お前が頑張ってくれたからここまで仕上がったんだ、鬼コーチとして胸はれよ・・・」

『花嫁の手』をティアの手にかけ、ユウは再度タオルにマナ水を染み込ませる。
ユウにできる回復魔法はそれだけだ、そのことにユウはまた歯を食いしばって眉を歪める。


「ありがとう・・・これでまた私・・・───

「だからダメだって言ってるだろ!!ほら、ヒール屋に向かうぞ!
おぶるから乗れよ。」

「でも・・・!」

「でもじゃねえ!」

「私はユウとタマに・・・」

「・・・信じろよ、ちゃんと勝つか───

「ちがうよ!」

ティアの強い否定がユウの声を遮った。
はっとして固まるユウにティアは言葉を続けていく。

「私は、ユウとタマに勝って欲しいんじゃない!
ただ、ユウとタマが・・・無事に、無事でいてくれれば!
だから!・・・うっ、ぐすっ!
私がこんなどころで足を引っ張っちゃったら・・・えぐっ!」

「・・・ティア・・・」

ユウの頭に『棄権』の文字が浮かぶ、今、自分がそうするとティアに相談したらどうだろうか。
そうだ、レース自体は別に強制でもなんでもない、あぶないなら出なければいいだけだ。
レースをみた直後はティアもきっとそう思っていたのだろうとユウは考える。

しかし、つっかかるのだ。

ティアは自分たちのためにこんなに頑張ってくれたが、ここでもし自分が棄権という言葉を出しても喜んで頷くだろう。


───でも、そうしたら、そうしてしまったら、ここで流れたティアの血はどうなるのだろうか、なんのための涙なのだろうか。
心配はかけさせないに越したことはないし、もう充分にレベルアップもした、それならレースをここで棄権しても全てが無駄になるわけではない。
でも、それはユウにとってのティアへの裏切りに当たるのだ。
いや、仮にその裏切り行為を起こしても誰もユウを咎めたりはしないだろう、ティア本人でさえもだ。
それでもユウは自分自身にティアを裏切らせたくなかった、そう、少なくともティアはこの2日間、壊れてしまいそうな不安の中で葛藤しつつもユウとタマを信じ、自分を犠牲にしてまで導いてくれたのだ。
自分を信じてくれた相方を裏切るなんて、ユウには出来なかった。

「・・・」

「───っ!?」

言葉は見つからなかったが、そうするのが一番に思えたのだろう、ユウはそっとティアの頬へと指をあて、涙を拭ってやる、不安をかき消してやるように、言葉に出来ない感情をなんとか伝えようとするように。
そして頭に二度、軽く手のひらを置き、撫でる。

やっと、言葉が見つかったユウは、夜空を眺めながら小さく呟いた。
照れていたわけではない、格好良く決めたかったわけでもない。
ただ、直視できなかった。
時々、ユウにはティアが眩しく映るのだ、いつも真っ直ぐで、明るくて、自分に無いモノをもっていながら、時には自分を映す鏡にもなる。
ユウは、そんなティアに憧れのような感情を抱くことだってある。
そんなティアが、一緒にいてくれる、笑ってくれる、涙をながしてくれる。

その言葉には、ユウがティアに対して抱く全てが詰まっていた。

驚いた様子でティアは目を丸くし、また、大粒の雫で頬を濡らした。


その日のトレーニングはそこで終わり、ユウはティアを背負って帰った。
泣き疲れた、幼さの残るその寝顔。

ヒール屋は翌日に向かうことにし、ホテルにてユウはティアを起こす。

少し話し、2人は互いの部屋へと戻る。
シャワーを浴び、ベッドへと潜った暗い部屋。
カーテンが揺らぐ開いた窓の外、ユウの視界に広がる月と星が輝く夜空。

「・・・俺が・・・」

今までにはなかった感情が、ユウの心に芽生える。

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▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

昨日はあっという間に終わった、俺とティアはきつめのトレーニングをしないなりにとランニングを昼からはじめ、体力の続く限り、作戦会議の続く限り走りつづけていたら、結局夕日に向かって走る羽目になっていた。

でもまぁ、それほど疲れてはいない。

さて、俺とタマはこれから死地へと乗り込むわけだが・・・
こいつ、デカいときは頼りになるんだけどなぁ・・・

「ユウ・・・?
まだタマは起きないの?」

また小難しそうな顔をしやがって。
不安そうに訊ねてきたのは丸くなった鬼コーチ。
訪ねられた理由は小さくなった百獣の王。
タマは会場に向かってる最中だってのにまだ俺の腕の中ではなちょうちんを膨らましてやがる。
レースが夕方からだったからよかったものの見事な寝坊だな、珍しい。

「そうだな、起きないな。」

「そんな・・・ウォーミングアップとかは・・・?」

「大丈夫だろ、レースまであと何時間あると思ってんだよ?
それより先に昼飯と三時のおやつが控えてるっての。」

「・・・うん、そっか・・・」

そんな顔するなよな・・・らしくない。
こいつ、時々異様に心配性だもんな、あれ以来・・・。

懐かしいな、ちょっと強かったかもしれないけど、あんな魔物に苦戦してたなんて。
今だったら、あんな魔物の一つ、ティアの轟槌剣打で一撃だろうな。
で、当時の俺ならおそらく今のティアの轟槌剣打で即死だろうか・・・強くなったもんだな。
衛兵長と衛兵さん、元気にしてるかな・・・

あ、───そうだ

「なぁ、ティア?
どうせタマは起きないんだし、時間もあるし、この街にはヒール屋だってあるんだ。
・・・俺と一回、手合わせでもしねえか?」

「・・・うん。
・・・じゃない!
っっっは!?え!?手合わせ!?だめだよ!これからレースなんだから温存しないと!
何言ってるの!?
ダメ!手合わせなんかしてる暇があったら作戦会議!甘いもの!」

そう言うだろうと思ってたけどな、でも、こいつを安心させるならこれが一番な気がするんだよなぁ・・・押すか。

「軽くでいいんだよ、誰が本気でなんて言った?
ウォーミングアップと感覚の確認も兼ねてさ。」

「感覚って、だって、実際のレースはタマと出るんだよ?
それじゃあ意味が───

「ある!」

「っ!」

そうだ、意味はあるんだ。
こないだのリリーナの自爆の時も思ったけど、ティアは俺が、もちろん自身もどれたけ成長したかに気がついてないんだよな。
それに気づけばきっと、多少は不安もマシになるだろう。

そもそも心配なんかされなくたって、俺はレースなんかじゃ死にはしない自信がある!
根拠はねえ!

俺はなかば強引に踵を返し、海岸へと足を向けた。
後ろからはぎゃんぎゃん騒ぐ声が聞こえるけど気にしない、不安の裏返しだろ。

海岸にたどりついたあとも、ティアはまだ騒いでる。
でも、そんなの関係ない。

「じゃ、はじめるか。
ルールは、俺は下級魔法しか使わない、お前は剣技を使わない!だ!
構えろ!」

「え、だからダメだよ!なんで急にそんな───

「マジックボム!」

「わぎゃ!?」

ぎゃあぎゃあうるさいティアの顔面に俺は一撃をくれてやる。
俺が初めて成功させたときは線香花火みたいだった魔法、今じゃわめきちらすティアを黙らせることだってできるほどの魔法になった!

「っ~~~!ちょっと!いきなりなんのよ!?
乙女の顔を爆破だなんて!冗談にしたってこんな───

「あっはっは!だせえな!そんな魔法気合いだけではじいてみせやがれよ!うははっ!
ほれ!次だ!
ファイアボール!」

「ちょっ!ふざけないでよ!これからレースなっ───うわっ!
・・・う・・・あ!おろしたての剣士服が!!
もうしらない!やってやるわよ!ヒール屋代はユウが払ってよね!」

「やっとやる気か?
ボコボコにしてやるよ!」

それでいい。
成長した俺の力、見せてやるぜ!

───30分後───

背中、あったかい。
やばい、普通に立てねえ・・・え?

あれ?予定がちが・・・うそだろ?
ここで余裕でティアを征して、俺の強さを再認識させて・・・安心・・・あれ?

え?

普通に───負けた!?

「えっ・・・勝っちゃった!?
・・・ちょっ!ユウ!?大丈夫!?」

「げほっ!大丈夫じゃねえよ!ふざけんな!これからレース控えてるってのに手加減ナシか!?ああ!?」

「ぷっ・・・きゃああああ!!
あはははははは!なにやってんのよ!急に喧嘩売ってきたと思ったらあっさり倒れちゃって!きゃああーーーっ!
しかもっ!逆ギレって!うふ、うふふふ!なっさけない!」


いわれて気がついた、今、俺、すげえ情けねえ・・・。

「うるせーよ。もう知らん!さっさとヒール屋行くぞ!
勝ったんだからお前が奢れ!」

「ぷぐっ、な、なにそれ、別に私はヒール屋必要なほど怪我してないからいいけどさ・・・あははっ!
じゃ、ヒール屋行ってお昼ご飯食べようか!そっちは奢ってね!」

「・・・おう。」

可愛げねえよな。
珍しく不安そうにしてたからせっかく俺が安心させてやろうと思ってたのに勝手に元気になりやがって。
でも、結果オーライか。

これで俺も心おきなくレースで暴れられる。
観客席で相方に湿っぽい顔されてちゃやりにくいんだよ!

そうだな、この機会に前に考えてたパフェでも奢ってやるか、その店一番の奴。
それでこいつがもっと元気になるなら安いもんだ。

俺は、震える膝に力を入れてヒール屋へと歩みを進め始める。
隣で聞こえる笑い声。
やっぱりこうじゃないとやる気がでない!

どうせやるなら───

───てっぺんをとる!


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「それにしてもユウ?結局それっぽい作戦は出なかったけど・・・今回、私を捕まえた時みたいな勝機はあるの?もぐもぐ。
あ!このパフェ美味しい!大きさ以外は完璧だよ!綺麗だし!
ありがとう!もぐもぐもぐもぐ!」

ティアが、とても細長いおたまを使ってパフェを頬張っている。
そのグラスの細長さ故に、普通の形状のスプーンでは中身をすくいにくいと店側が考えた結果なんだろうな。
予想外だった。
俺だってまさかこの店一番のパフェがこんなにでかいだなんておもいもよらなかった。
直径10㎝、高さが50㎝ぐらいはありそうな美しそうなグラスに詰め込まれたパフェのもとの数々。
グラスの外まであふれるチョコレートソースといちごソース、丸々一本のバナナ、なんかしらんけど、よくパフェに入ってる茶色のざくざく、ぷりんぷりんプリン、八段ソフトクリーム並みに巻き巻きされた生クリーム、その下のソフトボールを真っ二つにしたようなバニラアイス、メロンの入った緑のゼリーやマシュマロ、はまぐりの浜までトッピングされてやがる。
甘かった・・・パフェだけに!
軽い気持ちで店員に『この店一番のパフェを』と注文した結果がこれだ。

「おう。うまいか?
少なくとも俺はそんなの食いたくねえ、みてるだけで胃がもたれるよ。
で、作戦か?」

正直、俺は作戦なんて全く考えていなかった。
どうせ初めてのレースなんだ、やりきるだけでも精一杯なはずなのに、そんなとこまでレース中に頭が回るとは思えない。
作戦らしい作戦といえば・・・

「ひたすら逃げ回って、他の奴らの同士討ちを傍観するくらいかな・・・」

「いいとおもう!」

そうだな、同意を頂けて光栄だね。
残念ながら今の俺とタマじゃそれが精一杯になりそうだ。
よほど余裕でもできない限りは攻撃には移れなさそうだ、ティアとの練習内容は俺たちばっかり攻撃をするような内容になりがちだったけれど、それが吉とでるか・・・あるいは

「でもな、それでもいいんだけど、それだけじゃ足りないと思うんだ。
お前ならどうするよ、ティア。」

「む・・・そうだなぁ・・・
私ならやっぱり・・・」

右手のお玉を天井へ向けてクルクル回す仕草、頭の中で考えを練ってるイメージなのか?

「爆竹と煙玉、その他のアイテムを有効活用!」

パクッ!とどや顔でおたまをくわえた!
本人は名案だと思っているのかもしれない。
そして、悔しいけど名案だ。

だが、問題がある。

「重くなるだろ。
それに、俺はお前ほどアイテムの扱いに長けてねえよ。」

「そっかぁ・・・」

そうだ、あくまでもこれはレース。
ウエイトはなるべく軽くすることで体力の温存と機動力を残したい。
重みがあった方が競り合いでは有利に思えるかもしれないけど、少なくとも俺もタマもパワータイプではない。
よし、見えてきたな!

「あ!わかったかも!じゃあさ!」

「うん!うん!」

「レース開始と同時に邪魔なアイテムはばらまけば───

「アホ。」

賢いティアがまた変な暴走を始めやがった。
名案すぎて突っ込みが雑になっちまったぜ、アイテムを取っ払うってトコまでは順調なのになんでそこでコケるんだか・・・

「いや、普通ならさ───

数時間後、俺とティアはレース開始前のウォーミングアップスペースでタマのウォーミングアップを始めていた。
そして、周りの視線が刺さる。

俺とタマのタッグは、会場内の他のどのタッグよりも浮いていた。
客席からはもちろん、近くのタッグからもコソコソと疑問の声が聞こえる。

俺はローブを捨て、魔法発動具には指輪を用意した。
もちろんタマも丸腰。

さんごの杖を握って不安そうな表情を見せるティア。

「ユウ・・・本当にそれで大丈夫なの・・・?
私・・・」

「んあ?大丈夫もなにも、俺にはこれ以外に勝機が見えねえよ。
問題ねえ、回避力なら出走タッグ1だよ!」

「・・・まぁ、うん・・・ユウとタマの重装備っていうのも想像つかないからあんまり違和感はないけどさ・・・。」

まぁ、なんとかなるだろう。
根拠はねえ!

───超軽量化、回避特化型装備───

どうせ力じゃ他の出走タッグにはかなわねえしな、ハイリスクハイリターン。
ここに───勝機を見いだす!!


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