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ユウは、時々冗談が通じない。
もちろん私の鍛えたタマとは本気で戦ってもらうつもりだけど、私にはユウもタマも大事。
どちらかの命が危うくなるほどのやり取りなどをさせるはずがないのに、あの夜、タマが私のパペット人形をやっつけた日以来、ユウがタマにビクビクしているようにみえる。
もしかして、ユウは本当にタマに食べられちゃうとでも思ってるのかな?
それはそれで面白いけどね、もしかしたらユウはあの夜、いい歳こいて恐怖で枕を濡らしたのかもしれない。

私の冗談とユウとタマの手合わせはおいといて、問題はレースのほうね。
私、てっきりレースっていうから競馬みたいなの想像してたよ・・・
それがまさか、ルール無しの集団デスマッチだったなんて・・・
本当にユウとタマの身に危険を感じた私は、あのごちゃ混ぜコーヒー事件の後にユウにレースの方はやめておくことをすすめたのに、ユウったら

『どうせ死ぬなら何かを成してから!』

と言ってきかない。
本気でタマに食べられるつもりらしい。

でも、そんな勘違いも悪いことばかりだとは思わない。
それからのユウはここ一週間驚くほどの努力を見せ続けてるからね!
鬼コーチの私としても嬉しい限りだ!
とりあえずレースまではあと一週間!!

今のユウなら、本当にレースで勝っちゃうかもしれない!
私は、普段はひねくれてるくせに時々みせるひたむきでまっすぐなユウをみるのは嫌いじゃない。

本当に危険そうだったら参加を見送ってもらえばいいだけだ。
そう思うから、私は今日も大声を上げる。

「ユウ!一旦休憩!!
すごいよ!今日はまたタイムが縮まってたよ!!」

「ふん!余裕だぜ!
休憩前にもう一本いっとくか!?」

やる気満々!
私は褒めて伸ばすことも出来る名コーチ!
タマも尻尾振っちゃって、かわいい。

「だめだめ、休むときはちゃんと休まないとね。
はい、タマ。
ドッグスポーツドリンクだよー」

嬉しそうに飲むなぁ、かわいいなぁ、タマ。
最近の『ドッグ○○』シリーズには私も心底驚かされている。
なにがすごいって、ドッグ○○っていうぐらいなんだから犬用の品々なはずなのに、狼のタマが食べたりしてもなんともないんだよ!?
最近はそのせいでちょくちょくタマを犬だと勘違いしがちだ。

「おう、ティア、今日の残りのメニューは?」

「おお、すごい!ユウ!やる気じゃない!
じゃあ・・・」

考え始めた私の視界に映るのは空も砂浜も海も、全部をオレンジに染め上げる大きな柿みたいな夕日。
気がついたら今日ももうすぐ終わりだった。
最近のユウとタマの頑張りはすごいからね、今日も日が沈むまで頑張ったらオーバーワークかな。
今日はここで終わりにしよう。
そう、私はちゃんと選手の体調管理も出来る名コーチだから!

「・・・いや、今日はもう終わりにしましょう!
たまには夕日に向かって走るんじゃなくてさ、沈んでいく夕日を眺めるのもいいとおもわない?」

「まぁ、そうだな。
というか、この状況で夕日に向かってったら、夕日どころか俺たちも沈んでいくしな。」

ユウがタオルで汗をふきつつ隣に座った。
潮の匂いに混じって、男の子の匂いがする。
落ちきっていないシャンプーの匂いも混ざってて、なんか、懐かしい。
私たちが街を出る前、毎日感じていた匂いだ。
そして、今日の反省会。
これもいつも通り・・・場所が変わっただけで、私たちのする事は変わることがない。
変わったことをあげるとすれば、タマが一緒にいることかな?
タマは今日のトレーニングが終わったことを感じ取ったみたいでもうすでに仰向けで眠っている。
疲れてるんだ、やっぱ。

大方の反省会が終わる頃、辺りは既に暗い。
でも、大きな月が空を藍色に照らして、それに加えて海もキラキラ光ってる、お互いの顔を確認出来るぐらいには明るい。
波の音に混じって、ユウが話しかけてくる。
生ぬるい夜風も心地がいい。
私は、この一時を感じるためにユウについてきたのかもしれない、あの時と変わらないけど、変わらないからいいと思う。

「ふわあぁ、眠いな。
腹も減った。
そろそろ帰るか?」

「・・・ごめん、もう少し。」

「・・・そっか。」

ユウが、星空を見上げている。
思わず私も見上げる。
すごく、きれいだ。

「・・・ずいぶん・・・遠くまで来たよね。」

「距離の大半は船だけどな、遠くにはかわりねえか。
色々あったな。」

「色々あったねぇ・・・
ユウがさ、転んで血まみれになったり、タマサブローに掘られたり───

「ありゃ未遂だ。」

───どうでもいいでしょ?ふふふ。
アイリ・・・タマジローさん・・・2人には、本当にお世話になったね・・・
アイリはね!私の親友なんだよ?
それから、惚れ薬作ってみたり、飛竜におそわれたり・・・お姉さん。
あと、コトちゃんマコちゃん。
映画も楽しかったし、海賊は弱かった!
砂浜で遊ぶのも楽しかったし、私にもユウにも、ライバルが出来たね!
でも、全部『最近』の話。
すごいね!私たち、まだ街をでてきてそんなに経ってないのに色んな経験をしたんだね!」

「・・・八年。
それと比べて、どっちが濃かったと思う?」

暗闇の中に白い歯が光った。
ユウがニヤニヤしてる。
なんとなく、言わんとしていることもわかる。

「おんなじだよ。
私たち、変わらないもん。」

「そうだな・・・
変わらないかもしれねえな・・・でもさ、変わらないといけないこともあるんだぞ?」

「───!?」

これは・・・まさか・・・!!?

「強くならないとな・・・お姉さんに言われたこと、理解したいし。」

そうですね、はい。そうですよね!まったく。

「なんだよ、怒るようなこと言ったか?」

「いや、別に。
そうね、強くなってもらわなきゃね!
ただでさえ一週間後にはレースも控えてるわけだしね!
期待してるから!」

「・・・他人ごとだよなぁ・・・
俺よりもさ、ティアの方がよっぽど・・・」

「いいじゃないの、私、信じてるよ?
ユウならなんかやらかしてくれるってさ。
あはは!」

「『やらかす』ってなんだよ。
しかしなぁ、その根拠のねえ信用はどっからくるんだ?
俺はレースなんて初めてだぞ?」

そんなの、わかってる。
でも、そういうことじゃない。

「獣を人間に戻すのも森の神様になるのも初めてだったでしょ?
でも・・・やってくれた。」

「うはは、そうだな!
なんだよ、良いとこに気づくじゃん!」

「でしょー?
あの時だって信じてたもん!」

「褒めて伸ばすタイプか?
俺は褒められると伸びるぜ。」

「そうなの?
じゃあ『最高の褒め言葉』があるの。」

「最高?」

「そう!私がユウを信じる最大の理由でもあるよ!」

「ほう?伸ばしてもらおうじゃねえか・・・」

私の中で、ユウはもう『剣士』じゃない。
かといって『ただの魔法使い』でもない。

ユウに任せれば、本当に、文字通り『魔法』のように、全てがうまくいくような気がする。
これは主観だ。
でも、私にはこれ以上が思い浮かばない。


「じゃあ、期待してるからね!
『アリエスアイレス1の魔法使い』さん!」

「・・・なるほどな。」

平静装ってるつもりかしら?
顔がほころんでるよ。

「任せろ!
『アリエスアイレス1の剣士』さんよ!」
 
───っ!!

「・・・ニヤニヤすんなよ・・・」

───っ!?

「うるさいな!もう帰るよ!ほら!立った立った!」

いつまでも、こんな時間が・・・そう、私は変わらないという事に価値を見いだそうとしていた・・・けど。
───変わるのも、たまにはいいかもしれない。

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鬼コーチの朝は早い。
今の私は鬼コーチなのだから、私の朝は早い。

ここ最近はずっと目覚まし時計が四時半にセットしてあるしね・・・
昨日だって、ユウと話して帰ってきて、色々済ませて、日記を書いてってやってたら十一時すぎ・・・それからトレーニングのイメージをイメージトレーニング・・・
辛くないって言ったら嘘になるかな?
でも、ここで私が頑張ってユウとタマにはいい思いをしてもらいたい!
私だって青春の涙を流したい!
熱い日々を乗り越えたい!

・・・おかげで体も慣れたわよ・・・
ほらね、まだ四時十五分・・・ついに、私は目覚まし時計を超えた・・・!!

勝利の『あと十五分』だね・・・あと、十五分・・・あと・・・

・・・

・・・・・・・

───さっきは、こんなことを考えていたような気がする───

カーテンから日の光が射し込んでいる、外からは少しだけ人の声も聞こえる。

・・・なんで?なんでこんなに明るいの??
なんでもう時計が

 八 時 す ぎ に な っ て る の ?

完全に寝坊した。
・・・いや、嘘だ、鳴ってない、目覚まし時計はずっと沈黙してた。
そうだ!目覚まし時計が寝坊したんだ!私じゃない!
鬼が、鬼コーチは寝坊なんてしないもん!!

そうだ!私はちゃんと起きたのに目覚ましが寝坊した!

思わず、声がでる

「・・・ずるいよ!私も寝坊したい!」

わかってる、いや、わかってた。
私も寝坊したいという希望は既に叶っていた、私は寝坊したんだ。
ホテルの朝食バイキングが終わっていたのを確認した私は、そこで一緒にその事実も確認した。
慌ててユウの部屋にも駆け込んでみたけど、あったのは一枚の書き置き。

『目覚まし時計はわるくねぇ!』

のみ。
わかってる。うん。

私は急いで着替えて海岸へ向けて走った。
どうも頭がうまく回らないな、朝ご飯も食べれなかったしなぁ・・・しっかり寝過ぎたせいもあってか、なんか体も重いかも・・・

悲鳴をあげる体に鞭打ち、私は海岸へとたどり着く。
たくさんの人たちが今日も遊んでる。
そんな人々から離れた、どちらかというと岩っぽくて、ワカメっぽくて人があまり集まらない砂浜の端っこ。
海で遊ぶにはミスマッチすぎる真っ黒のローブがしゃがんでいた。

ユウだ、とりあえず第一関門の『合流』はできた!
ちょっとユウに隠れて見えないけど、タマもいるみたいね。
歩みを早めた私の耳に、ユウの声が聞こえてきた。
そして、足がとまった。

ユウの声とは別に、透き通る、よく響く高い声・・・?


・・・今、何かすごい声を聞いた気がする!!?
えっ!?うそ!?すごい!
私はそこら辺のワカメで身を隠しつつ、ユウに近づいてその声を聞くことにする。

───いいか?タマ、今度は、さっきより大きな声だぞー?
俺に続けよ?
せーの!」

「アオーン・・・」

!?!?
まって!!また!?
すごい!すごいよお父さんの教育!!
・・・タマが・・・タマが・・・

吠えた!!?

「・・・ふむ、強情だな。
よし、今度はさっきの続きだ!
いくぞー?」

「アオー!
ウオーン!
オーン
アーン
アオオン!
アオーン!アー!オーン!」

なに!?

『ドレミファソラシド』ですって!!?
ちょっ!ちょっと音痴だけど!ユウが!タマに『ドレミファソラシド』まで仕込んでる!!?嘘だ!!?
なによ!ユウばっかり!
私の時はタマは鳴いてくれなかったじゃない!
寝坊したのがそんなに悪いっていうの!?
だからって・・・だからってさ・・・私を仲間はずれにして遠吠えなんてあんまりだよ!
許さない!

「───っ!
ずるいよ!!私も発声トレーニングしたい!!」

「ん!?
・・・あ。やっときたか寝坊助・・・ん?
寝坊子?助ったら男だよな?」

あ、見つかった。
私はとりあえずユウにワカメを投げつけつつ、事の説明を求める。
どうやってタマを鳴かせたわけ!?
なにがあっても鳴かなかったあのタマを!どうやって鳴かせたの!?

「そんなの!どうでもいいわよ!なんなら明日からはティア助って名乗ってやってもいい!
それよりユウ!どうやってタマを鳴かせたの!?ずるいよ!!」

「わっ!ちょっ!?なんだこれ!?
・・・ワカメか。
え?それより何だって?タマが鳴いただと・・・?
お前まだ寝ぼけ・・・あぁ、そっか。なるほどな。」

なによ!悪そうな顔して!
まさか・・・鳴かすためにタマサブローをしたとかじゃ・・・!?

「すげぇだろ?もう一回聞かせてやるよ、タマの鳴き声!」

「え!?聞きたい!
次はドレミじゃなくて雪やこんこがいい!」

「おう!任せろ!
じゃああっちむいてろよ、まだタマをどうやって鳴かすかは見せられねえなぁ・・・」

「え!?なんで見せてくれないの!?」

「これはちょっと見せられねえなぁ・・・ふふふ・・・
とにかく、聞きたきゃあっちむいてろ。」

・・・え、なにこのゲス顔。
ほんとにタマサブローしてるんじゃないの!?
・・・背に腹は変えられない。
私は黙ってユウに背を向けて座る。
気配で何をしてるのか察知してやる・・・!!
そして、聞こえてくる。

───じゃ、タマ、次は雪やこんこを頼むぜ!
ボスのことを驚かしてやれよ!
・・・せーの!」

・・・───普通に───すごい!!?

またまたちょっと音痴だけど・・・これはまさに・・・

雪やこんこ・・・!!

ユウ、侮れない・・・私が、いや、私ですらできなかったことをいつの間に!?
しかも、ただ鳴かせるだけじゃない!
リクエストにまで応えられるようになんて───!!?
これは───タマをアイドルにするしかない!
そうだ!確か・・・レースの翌週には闘技場でミュージシャンライブもやってたはずだ・・・!!
そうだ!タマならきっとできる・・・!

とか私が思っていたときね、私の足元に見覚えのある生き物が寄ってきたのは。
なにこれ?

タマ・・・普通に舌出したままで私を見上げてるんだけど・・・

え・・・、まだ背中ごしにちょっと音痴な雪やこんこが聞こえてくるんだけど・・・

タマ、普通に首掻いてるんだけど・・・

私は、いけないとわかりつつ一気に振り返ってみせる。
見てしまう、ユウが・・・ひとりで喘いでいた。

「・・・ねぇ、ユウ?」

「アオーン♪アオーン♪アオーンアッーオーン♪」

ユウが、タマ語で雪やこんこを熱唱している。

「・・・」

「アアアーアーオーン♪あーられやアオーン!アオーン!」

一瞬、人語が混ざった。
私は聞き逃さない。

「・・・」

「アーオー・・・
・・・!?」

「・・・」

「・・・」

「「・・・」」

「・・・ユウ。」

「・・・」

「・・・変わったよね・・・」

「・・・違うんだ。やめてくれ、そんな目で見るなよ。
ちょっとからかってみただけじゃねえかよ・・・」

───それから数分後。
私はきっちりユウに事情を説明させた。

なんでも、私が寝坊してしまったから、とりあえずユウとタマはあまり体力を使わないトレーニングをしつつ私を待つことにしたらしい。
それで、ユウが目をつけたのはタマとの『連携』『意志疎通』『指示のやりとり』だったようだ、タマが大人しすぎるから、その辺のことがうまくいかないと感じたユウは取りあえずタマに『吠えること』を教えようとして、まずは自分が見本をみせていたらしい。
タマが『吠える』だけで全然意志疎通が楽になると思ったみたいね。

そこに到着した私、ユウの裏声をタマの鳴き声と勘違いしていたらしく、ユウもそのことに気がついた様で、結果的に悲劇が起きた。
らしい。
ほんと・・・しょうもない。

まぁ、でも確かに

「ふむ、そうね、着眼点は間違えてないね!
・・・やり方は別としてさ・・・」

「・・・やり方も、きっと悪かねえよ。
で、いいとこに気づいたろ?
ちゃんとタマと連携がとれるようになればさ、絶対俺たちはもう一歩先へ進めると思うんだよ。
・・・だから、そんな目をするな。」

いや、そうじゃない。
ユウは色々と勘違いをしていると、私はいいたいのだ。

「ちがう、『トレーニングのやり方』じゃないわよ。
私がいいたいのは『意志疎通のやり方』よ!」

「・・・あ?どういうこと・・・?」

うーん、これだからユウは時々頼りない。
これは、見せたほうが早いわね。

「意志疎通ならこうしなさいっていってるの!
さ、ユウ?タマをおっきくしてよ!」

「・・・?」

ユウが、首を傾げながらタマに魔法をかけてくれた。
タマが大きくなる。
よし、これで・・・

「見てなさいよ、ユウ!
私とタマだって、みんなが見てないのをいいことに遊んでたわけじゃないんだからね!」

タマと───目が合った。
タマも、ちゃんとわかってるようだ。
どうしてユウにはこれがわからないのかな?

「タマ!『轟槌犬牙』!!」

私が、タマと二人で特訓をしていた間に編み出した必殺技

『犬技』

だ。

これは、タマに『使わせる』のが大変なんじゃない。
『教える』のが大変だったのだ、私の『剣技』のコツを、言葉を無しに伝えなくてはならかったから。
つまり『犬技』は、私とタマの意志疎通の結果が産んだ賜だ!タマだけに!

やたら派手に横回転をしながらタマが前方の岩へと俊足で牙を突き立てる。

───人1人ぐらいの大きさの岩が粉々に砕ける────

成功!

「・・・っな!?・・・」

うふふ、ユウ、なんて顔してるのかしら?
初めて私が『剣技』を御披露目した時みたいな顔になってるじゃないの!
まぁ、私もまさか岩が砕けるとは思ってなかったけど・・・

「どう?タマが吠えなかったとしても、タマにこれだけ頑張ってもらえるのよ!!
まだまだね!ユウ!」

ユウが、悔しさと驚きを混ぜたような表情をしている・・・
そうだ、最近はトレーニングもマンネリ気味だったところだ、今日はコレをきっかけに少し面白いトレーニングをしてみようかな?
・・・いいこと考えた!

「そうね、ユウの言うことも正しいし、確かにタマとユウも意志疎通がうまくいくようになったら成長が望めるわ!
今日のトレーニングメニューが決まったね!」

「・・・そのトレーニングで・・・俺もタマとばっちり?」

「うふふ・・・もちろんよ!
このトレーニングには私も参加するわ・・・楽しみね・・・うふふふふ」

「・・・ごくり・・・」

さぁ!早速説明に移ろうかな!
これは・・・いい汗をかけそうだ・・・
ユウとタマの

『結束力』

みせてもらおうじゃない!

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鬱蒼とした雑木林。
なるべくユウとタマからは見えないように木陰を利用して身を隠す。
残り時間は・・・まだ数時間はあるわね。

「いたぞ!!タマ!回り込め!!」

───っ!
また見つかった!?
どうやって・・・タマの嗅覚は潰したはずなのに・・・!!

「でも・・・」

ふん、まだまだね・・・単に回り込めとだけ指示をしたところでタマは理解しきれていない!
大事なのは視線を───っ!?


「っく!」

氷の壁。
絶妙に邪魔ね・・・連携がままならない部分はユウのワンマンプレイ・・・!
タマは───!

見上げた視線の先、牙と爪を剥き出しにして私に被さらんとその巨体を飛翔させるウルウルフ───

───隙だらけ!!


「ごめん!タマ!
飛爪砲剣撃!!」

「───っな!?」

おおよそ、二十五メートル、グッバイユウ。
私は煙玉を地面に一発、ついでに私に吹き飛ばされたタマに玉突きで吹き飛ばされていくユウに向けてももう一発、煙玉を投げつける。
名付けて『タマ玉突きまた玉コンボ!』
そして、ユウのフロスト=ウォールを借りて近くの木に登る。
枝の上から気配を消しつつユウとタマの様子を伺ってみる。

「う・・・ぐ、くそ・・・また逃げられたか・・・
わりい、タマ、ちょっとどいてくれ・・・」

申しわけなさそうにしちゃって、やっぱり大きくてもタマはタマね。
うん、まだまだ連携はとれてはいない・・・けど、一度目の襲撃とは雲泥の差か・・・

捕まるのも、時間の問題かもね・・・。

「っだあー!またいねえ!
タマ!探すぞ!まだそう遠くへは行ってねえはずだ!
俺は木陰を中心に!タマは高台からもう一度だ!
見つけたら遠慮なく奇襲をかけろ、気がつき次第俺も参加する。」

ふーん、なるほどね、タマを高台からの監視に使ってるのね・・・
鼻が利かないのならまぁ、悪くはないかもね・・・
でも、それじゃあね、こうやって木の枝の上にいる私を見つけたりは出来るのかしら?

ユウも下ばっかり探して、上と下を制してもここは三次元、中だってあるのよ!(?)
───ちょっと疲れたわね。
ユウもタマも離れたみたいだし、私はちょっとここでこのまま休ませてもらおうかしら。

・・・ふふ、面白いわね。


───四時間前───

「はあ!?鬼ごっこ!?」

「そうよ!ユウ!タマと協力して私を捕まえてみせなさい!!」

私の考えた新トレ、そう、ユウとタマで協力させて私を捕まえさせるのだ。
かといって、ここですぐに始めたところではさすがの私もすぐに捕まってしまう。
だから・・・

「ルールはね・・・確か、山岳地帯の近辺にはかなり広い雑木林もあったじゃない?
そこを丸々使ってサバイバルよ!
もちろん、お互いに攻撃はOK!道具も罠もOK!
私に逃げ切るのを諦めさせるか、日が沈むかでトレーニング終了、その際の勝ち負けは言わなくてもわかるでしょ?」

「・・・なるほどねぇ・・・でも、いくらお前でも俺とタマを相手に逃げ回ろうなんて無謀じゃねえか?
きっとすぐに捕まるぜ?」

・・・言うじゃないの。
私だって何の考えも無しにこんな無謀な勝負をふっかけやしない。
ちゃんと勝算はあるのよね!
私は鬼コーチなんですもの、鬼畜なブービーや消耗戦をやりきって逃げ切る!
要は悪知恵と根性よ!これで!勝つ!

「言ったわね!ユウ!
それだけ啖呵を切ったんだからね!
そうね・・・負けたら罰ゲームでもしてもらおうかしら?
砂浜100往復なんてどう?」

うふふ、我ながら



のような罰ゲームね!

「・・・ほう?」

ふむ、ユウも悪い顔をしてるわね。
やる気か。
おおよそ・・・

「聞いたか?タマ。
普段俺たちをやたらと走らす鬼に仕返しをするチャンスみたいだぜ?」

・・・ってとこだったわね、やっぱ。
まぁ、砂浜100往復程度のリスクでやる気を出してもらえるなら好都合ね。
それでも走るのは

私 じ ゃ  な い け ど ね !

ひさしぶりのユウとの遊びらしい遊びね!
この手の遊びで私はユウに───

───・・・戦績は五分だったっけ?

まあいい、どうせやるなら徹底して・・・ね。
準備が必要だ。

「楽しそうね?ユウ。
まさか、本当に私を捕まえることが出来るとでも?」

「余裕だ、お前はタマの恐ろしさを知らねえだろ!」

お生憎様、あなたの数倍は理解しているつもりですけど?
そう、私はタマも、もちろんユウについても理解している、対してユウのタマに対する理解は薄い。
この問題を解消してもらうための遊び───もといトレーニングなのだからそれでいいのだけど、悪いけど私はその点を120%利用させてもらうわよ!

「なんとでもいいなさいな?
楽しみにしてるね?
暗くなった海岸で、暗い顔をして走るユウ。
さ、私は準備があるわ!
二時間後!ゲームはスタート!
私は先に現地で準備をしているから、あと二時間後に山岳地帯および付近の雑木林で私を探すといいわ!」

「ふっへへ、みてろよ・・・
砂浜100往復の辛さ・・・思い知れ!」

私は1つ頷いて、準備のためにホテルへと荷物を取りに戻る。
二時間の余裕があるのだ、ルールの関係上、私が勝つには長期戦が大前提になってるから、もちろん山岳地帯か雑木林内に拠点が必要になるからね、二時間以内につくる!
お菓子とかいっぱいもってかないとね!

さぁ、私の新トレーニング・・・
勝っても負けても楽しそうじゃない・・・

寝坊のメリットを身体で感じつつ、私はホテルへと戻る足取りを少しだけ早めてみる。

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・・・ふむ、これでよし・・・かな?
長期戦になる、それはわかっている。
けどね、私だってバカじゃないのよ!荷物が重いと拠点に行くまででも相当体力を消耗してしまう・・・だから、あえて荷物を少なめに・・・した!

───はずなんだけどなぁ・・・

どうしよう、ホテルの部屋のからも出られないや、リュックが大きすぎて・・・つっかかって。
・・・ユウめ、やるじゃないの!
あらかじめこうなることを予測していたのね!
こうやって私から作戦を聞き出そうと───ああ、いや、もういい。
なにやってんだろ、私。

「・・・ユウ・・・!」

「ユーーーウ!!!」

私は手ぶらで街へと駆け出し、ユウとタマの姿を探した。

──────────

「まったく・・・なんでこれから敵になるお前の荷物を俺がまとめてやってるんだ?」

結論から言うと、ユウは無事に魔法具店で見つけた。
そして私は・・・プライドを捨ててユウへと頭を下げたのだ。
『荷物!まとめて!』
・・・と。
屈辱的だった、これから壮大なサバイバルゲームをしようというのに私ときたら・・・
こんなの、かくれんぼする前に
『ここに隠れたいからこのおっきな木をどかすの手伝ってよ!』
と言っているようなもんだよね・・・


「・・・は!ハンデよ!!
手の内をさらしても私は勝てるの!」

そうだ!私は勝つためには手段を選ばない!じゃない!
手段を選ばない相手にも勝てるの!
だからユウに荷物を───あ!

「ずるいよ!今爆竹抜いたでしょ!?」

「いや、だってお前・・・こんなにたくさんの爆竹・・・転んだら衝撃で自爆するぜ?
危ないからこんくらいにしとけよな・・・。」

・・・なんか、私、心配されてる!?
・・・精神攻撃か・・・やるじゃない!
それより───

「ところでユウは魔法具店なんかで何を買ってたの?
新しい魔導書?」

そうだ、ユウが私との決戦前に魔法具なんかを買っていたのだ・・・ここは警戒しておくべきだと思う。

「ハンデくれるんだろ?秘密。」

秘密ですって・・・?
そんなことよりもユウが私のリュックからたくさんのお菓子を取り除いてる・・・
狡いことするわねぇほんとに、兵糧責めなんてさ!
後で非常食も足しとかないと!
ユウが何を買ってたのかはもうどうでもいいや。
今は作戦でも考えとかなきゃね・・・

「つか、お前だってなんか買ってたろ?魔法具店でさ。
たぶん・・・同じ様なこと考えてんだろ?
ちなみに俺はお前の考えなんてお見通しだ、それを見越した対抗策を買ってたんだよ。
この勝負、もらった!」

・・・対抗策?
まさか、先を読まれてたのかな?
ちなみに私が買ったのは対タマ用兵器だ。
私はタマのなにが恐ろしいのかをよく知っている。
そう、妖精の村でも見せたタマの神出鬼没の秘密。
今回はルールの特性上、私が逃げ切る上では『いかに身を隠すか』が最も重要になる、そこで一番の壁になるのがタマの『嗅覚』だ。
おそらくユウの魔法で強化されたタマの嗅覚の前において、雑木林、及び山岳地帯での私のフローラルはかなりの命取りになるでしょう。
そう、私のフローラル、昨日からシャンプーとボディソープが変わってるけど、それでもバレるでしょう。
私のフローラル。

それを阻止するための魔法具を私も買ったのだ。
ユウの言う対抗策がそれを見越したものならば、おそらく用意するのはタマの嗅覚を最大限利用するための激臭薬・・・
バカなユウはおそらく私が自身のフローラルを消すと考えてるのでしょうね・・・そこまでさらに見越した私は自分のフローラルを隠そうとは思わないわよ、私が隠すのは───

「なににやにやしてんだよ。
ほれ、おやつはこの『豆大福』だけにしとけよ。
腹持ちもよくて糖分もたっぷり、おまけに手軽に食えて・・・ふふ、おそらくお前の心配している『匂い』もでねえぜ?
餞別だ!」

「ふふ、ありがとね?ユウ・・・」

またまた悪そうな顔をしたユウ、それで私を読み切ったつもりかしらねえ?
・・・私は別に匂いがでる食べ物でも構わないんだから・・・ふふふ、バカねぇ・・・うふふふふ。

「さぁ、出来たぜ、お前の要望どおりの物は一通りいれておいたからな!
・・・これで、全力だせるだろ?負け惜しみは聞かねえからな?
特に『ユウが準備をしたから』云々なんて言って見ろ?お前もタマサブロー・・・いや、今回はタマの餌食にしてやる・・・ケケケ・・・」

ふん、IQが違いすぎて会話が成り立ちそうもないわね・・・
それより、やっぱりユウが準備してくれてもこのサイズの荷物になっちゃったか・・・まぁ、いい、備えがあれば、憂いもないのだ。

「一応、礼は言うわ。
あと私からも一言ね、負けてから『俺が準備をしてやったから』云々とかは禁止で!
じゃ、あと1時間後か・・・まってるわよ?」

「安心しろ、そいつは『絶対に』あり得ねえからな・・・
あ、それと、ちゃんと『豆大福』は食うんだぞ?俺からの餞別だからな・・・『腹が減ったから』云々は───

「はいはいはい、わかってるわよ、ありがたくいただくわよ。
まったく、さっきもそうだったけど私は敵から心配されるほど間抜けてないわ。」

「ふふ、そうかい。
あ、それと───

もう!しつこいなぁ!なんなのよ!
───と、言おうとしたときだ。
私は急に後ろに引っ張られる力を身体に感じ、歩みを進めようとしていた足は宙を歩いてお尻に衝撃を感じる。
・・・リュックが、ドアに引っかかった。

───リュックは横にして先に廊下に出さねえとでれねえんだよ。
アホ。」

~~~~~!!!!

「先にいいなさいよ!」

「こりゃ負けたら末代までの恥だぜ。」

小憎たらしい捨て台詞をリュックで防ぎつつ、私は振り向きもせずに部屋を後にする。
絶対に負けるもんですか!!!末代まで恥じさせてやるわよ!


その後、私はおやつを買い足しに向かったお店の入り口でまた尻餅をついた。

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~サウスパラダイス外東、山岳地帯~

「さて、拠点はこれで完成!
・・・でも、このままじゃまず拠点にある物の匂いを辿られて拠点を掘り当てられちゃうから・・・」

殺伐とした岩と山々の世界、その世界内においてはいささか浮き立つ少女がいた。

───名を『ティア・アルノーティス』という。

ティアはじめじめしていて虫が多く、拠点を張ったときに違和感が出やすい雑木林ではなく、乾燥していて生き物も少ない山岳地帯に拠点を置くことにした。
おおよそ30ほどの大小様々な穴が空いた岩壁を見つけたティアはその内の一つに入って荷物を広げていた。
涼しい穴の中、ゴツゴツとした天井へと視線を這わせ、崩れてはこないのだろうかと不要な心配をしつつ、ティアは思考をめぐらす。
ユウとの状況開始まで、残り十数分。

「・・・とりあえず、移動するのが先決ね・・・!」

ティアはスカートの汚れ越しに膝をぱしぱしと払いつつ、穴の外へと飛び出す。
今回の勝負はティアが考えていた通り
『いかに身を隠して時間を稼ぐか』が重要になる、それを実行する上での最大の壁
『タマの嗅覚』
これを、ティアは自分の匂いを消すのでは無く、タマの嗅覚を『奪う』ことで克服しようと考えた。
自身の匂いを消せても拠点にある自然外の物の匂いで拠点がバレてしまう可能性があったからだ。
それに、いかに完璧に消臭しきれたとしても、ティアが警戒していたように
ユウに再度『強烈な匂い』をつけられたらお手上げだ。
臭いものに蓋をする、そんな面倒なことをするくらいなら鼻をつまんでしまった方が手っ取り早いのだ。

ただし、この方法には問題がある。
そう、タマに拠点を嗅ぎつけられる前にタマの嗅覚を奪わなくてはならないのだ。
それにどうせ嗅覚を奪うのならば拠点の方角すらもバレない内、言うなればできる限り早く手を打っておきたいのがティアの考えだ。
お菓子、トラップ器具、その他諸々便利アイテムの宝庫と化しているティアの拠点、ここの位置バレは即ち長期戦継続の不可能を意味する、なんとしてもそれだけは避けたい。

ティアは匂いを拡散させ、特定を難しくするべくなるべくわざと色んな道を通りつつ、街の方まで向かう、作戦失敗の保険である。
街の方から現れたユウとタマの前に自ら姿を現し、すぐに嗅覚を潰して逃げ隠れるヒットアンドアウェイ作戦を決め込むからだ。

「・・・まず、すぐにタマは私の匂いに気づくでしょう・・・そしたら私は・・・」

ティアは高速で山岳地帯を駆け抜け、雑木林を縫い回りつつ作戦をイメージでシミュレートする。
失敗したときの次善策も立てておく。

なにせ相手はユウとタマだ、生半可な戦い方ではかえって裏を掻かれて足元を救われてしまう。
ティアは見つかった後の撤退は考えていない、タマの嗅覚を奪わない限りは撤退すらもままならないからだ。

そのまま雑木林を抜け、街に近い林の入り口にたどり着いたティアは、逃げも隠れもってせずにただその時をまつ。

───一方そのころ。

~サウスパラダイス東出口~

「いいか、タマ、よく聞け。
アイツは『バカ』だ、おそらく俺達が自分に匂いをつけようとしていると決めつけたティアは間違いなくお前の鼻を潰しにくるだろう。」

遠くに山岳地帯と雑木林を見据えた草原。
その草原を巨大な美しい狼に跨がり風のように駆け抜ける少年がいた。

───名を『ユウ・ラングレル』という。

ユウはティアの考えを全て読んだ上で、ティアが裏をかいたと思ったさらに裏をかく気で準備を進めていた。

「それでな、アイツはもっとバカだぜ、タマ。
おそらくティアの奴はタマの鼻を潰すことばっかり考えて完全に『自分の匂いを消す』って考えも消してるはずだ。
バカだよな、同じ鼻を潰すにしても、一時的にでも自分の匂いを消しときゃ奇襲攻撃だってしかけられるだろうに。
しかし悲しきかな、アイツは極端にそういうところに頭が回らねえ、つまり、十中八九最初はアイツから仕掛けてくる!
しかも奇襲攻撃でくる可能性は著しく低い!アイツはティア臭をプンプン撒き散らしながらお前の鼻を狙うだろう。」

ユウの言うとおりだ。
少なくともタマの鼻を潰すまでは自分の匂いを消しておくにはこしたことがないのに、ティアはもう開き直って逆にその匂いを使って攪乱臭を雑木林に撒いている。
無意味である。

「だから、俺たちは逆にティアが匂いをプンプン臭わせてるのを逆手にとるぞ!
最初はなるべくティアに近づくなよ、タマ!拠点を押さえにいこう!
どうせアイツのことだ、作戦の宝庫みてえな拠点作ってホクホク顔だぜ?
そして、拠点を見つけてからあえて鼻を潰されてやろう・・・
さらに、踊らす。
そうすりゃアイツは安心して疲れて勝手に拠点へと戻るだろう。
そこを・・・叩く!
それでだめでも俺たちには『豆大福』があるからな・・・始めっから勝負は『三時のおやつ』で決まってたんだよ!
ふふ・・・みてやがれよ・・・砂浜で太股パンパンにするといい!!」

ユウの話を黙って聞きつつ走り続けていたタマは、その話を聞き終えた途端に雑木林へと向かっていた身体を大きくうねらせて方向転換をした。
そしてその脚は真っ直ぐ山岳地帯の方へと向かっていく。

「・・・バカだな、ほんと。」

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無事、雑木林入り口でのティアの監視を余裕でくぐり抜けたユウとタマは、早速颯爽とティアの秘密基地を目指す。
うねる山道、飛び越える大岩、回る視界、変わらぬ景色。

ユウは徐々にタマ酔いを覚える。
タマに一旦降ろしてもらうべく、ユウは気持ち悪さからくる震えのせいなのかタマの動きせいなのか、ガタガタと歯をならしつつ声をかけた。

「───うっぶ!?
・・・た、・・・タマ、頼むから・・・うえ・・・あで!?」

また、回る視界。
しかし今度は例えではなく、文字通りユウの視界が1080°ほど右回りする。

言い切る前にユウはタマから硬い地面へと落とされ転がったのだ。
うぶうぶ吐き気をこらえるユウの元へとタマはのしのしと歩みを進め、その潤んだ瞳でユウを一瞥すると

「うがふっ!?」

その顔面に濡れた鼻先をお見舞いする。
柔らかいわりにはなかなか重い一撃だったようで、ユウはそのままタマに乗って登ってきた山道を下るように二、三転がる。
突然のタマの暴挙

「・・・なっ・・・え?タマ!?
反抗期か!?お父さんのこと嫌いになったのか!?」

ショックだ。当然である、ユウだってティアに負けないぐらいにタマが大好きなのだ。
ユウはパペートさんを壊されたティアの心内を察しつつ、鈍い痛みを発する右頬に手を添えながらタマへと問う。
タマは
『ここまで運んできてやったのに礼の一つもないのか』
とでも言いたげに鼻息を荒くし、ユウのローブのフードを噛み引き上げて立ち上がらせた。
タマはユウの魔法がかかると身体能力はもちろん、知能も飛躍的に上がる、それを知っているユウはなおさらそれがタマの反抗期に感じられ、視界が潤んだ。
父親というものは、娘に嫌われる宿命を背負っているのだ。

「うぐっ!くそ!ティアのやつ!絶対タマに変なこと吹き込みやがったな!
『お父さんは足がくさい』とか、『お父さんはお金もってないとか』・・・許さねえ!
アイツの拠点についたらあいつが自分で持ってきた罠をそのまま仕掛けてやる!
お菓子も差し押さえだ!
お父さんなめんな!
タマ!すまん!頼む!お母さんの秘密基地へ!」

ありもしないティアの犯行に怒りをあらわにしたユウは、娘に自分の下着だけ洗濯を別にされた父親のような表情で再度タマに跨がって指示を出す。

そして───再々度視界が1800°ほど回転する。

ジャリジャリの地面にひれ伏し、またまたその姿を見上げることになったユウ。
なんとか起きあがるも、ほんとのほんとうにタマに嫌われたのではないかと絶望するその背中はもう目も当てられないほどに小さかった。
慰めなのだろうか、はたまた別の意志表示か、タマがその小さな背中に突然鼻を押し付けた。
ユウがその鼻に押されて身体を避けても、またつつかれる。

「・・・ん?なんだ?タマ、どうした?」

執拗に鼻を背中に押し付けるタマ。
何か言いたげな瞳。
ユウは首を傾げつつ、タマにその真意を問う。

「え?臭い?」

タマは首を横に振る。
知能がかなり上がっているのだ、このくらいのコミュニケーションは余裕でとれるらしい。

「おお、すげえな、タマジローさんの魔法!
ほんとにタマが賢くなってる!
・・・で?どうした?」

自分が何か言いたげなことにユウが気づいてくれたということに気づいたタマは、さらにユウへと意志表示を続ける。
タマはユウから数メートル離れてから突然走り出し、ユウの背中にまた鼻先を押し付ける。

「わっ!?なんだよ!?・・・あ、体当たり?」

タマは首を右へと振る。

「・・・む、突進?」

左へと振る。

「・・・あぁ・・・猛追?!」

ゆっくりと首を縦にふり、今度は脚を地面に突いて音を出した。

「正解か!
・・・で?猛追・・・?」

また、タマが脚を地面に突く。

「お?猛追───

またまた、突く。

「・・・ふむ・・・
猛追・・・トン。
猛追・・・スタ。
・・・あ!
『もうついた』!!?」

その声を聞いたタマが嬉しそうにユウに前脚を預けて顔を嘗める、どうやらお父さんはまだ嫌われてはいなかったようだ。


「うはは!そうか!やったぜ!偉いぞタマ!
賢い!あはは!

・・・はは・・・はぁ・・・けどさぁ・・・
・・・鳴いてくれよ、そうすりゃ今回は一発だったろ・・・。」

肩を落としつつユウが見上げる先、かなりの高さの岩壁がそびえていた。
そこはまさにティアの拠点、穴だらけの岩壁だ、ユウとタマは無事にティアに見つかるよりも先に拠点を掘り当てたのだ。

「ふーん、なるほどね・・・
なんの捻りもなく、ドストレートな拠点だな。」

ひねくれ者のユウは思う

『自分なら、絶対にこんな所に拠点をおいたりなんかしない』

と。
それもそうだ、たくさんの穴、目立つ岩壁、ティアからしたらたくさん穴があいているのがカモフラージュになるだろうと思ったのかもしれないが、ユウからしたらそんなのはカマキリが自分の卵をあわあわにして隠そうとしているかのごとく滑稽であった。
こんな拠点にもってこいな所を拠点にすればすぐに発見されてすぐに調べられるなんてことはタマでもわかる。
ユウがカマキリだとしたら、自分の卵を隠すためには目立つあわなどを使ったりはしない、いうなれば、ユウが拠点をつくるとしたらもっと意外性があり、かつ、目立たず見落としがちなところに拠点をおくだろう。

こんないかにも『拠点にピッタリだからバレるかもしれないけど、似たような穴がいっぱいあるから大丈夫!』
なんて自らが言ってるようなところを拠点にするなど自殺行為だ。

案の定ユウはすぐにその穴の中からティアの拠点を見つけ出す。
大きなリュックと、その周りに転がる便利グッズ、あまりにもバカ正直すぎて、ユウは思わずため息をもらした。

「・・・ふーん、これが俺の『相方』な。
ちゃんと面倒みてやらねえとな・・・」

昔からバカ正直で、変なところで抜けているティアを少しだけ可愛らしく思いつつ、なんだか優しい気持ちになったユウは拠点を荒らすのはやめることにした。

───が、しかし。

「おお!みろよ!タマ!アイツ菓子買い足してるぜ!?」

ユウは気がついてしまった。
ティアのリュックが、自分の入れた覚えの無いお菓子で溢れかえっていることに。
そう、ティアがユウに準備をしてもらった後に買い足したものだ。
そして、優しくなったユウの心に『悪』が芽生える。

「───拠点を荒らすのはよくないけどよ、せっかく拠点を見つけたんだ、菓子を少し頂戴するぐらい・・・罰は当たらねえよな?タマ?」

タマが───ゆっくりと首を縦に振った。
タマはお父さんのことを少し好きになったかもしれない。

「よっしゃあ!タマも共犯だぞ!?
そりゃ!」

タマからの許しが出たのを良いことに、ユウは罪悪感の欠片もなくティアのリュックを転がして中の菓子を頂戴する。
はまぐりの浜、チョコレート、あめちゃん、フルーツグミetcetc.

拠点は小さなお菓子屋さんになっていた。

「うはは!すげ!宝の山だぞ!タマ!
・・・ん?」

その菓子の山の中に、ユウはあるものを見つけた。

「・・・ぷ、ぷふっ!
タマ、みてみろよ。
ティアのやつ、案外可愛いところあるよな?
なんか知らねえけど、拠点にお前用の菓子も置いてあるぜ?
優しさだな、きっと『ユウとタマも食べなよ!』ってことだぞ?
あとでティアに御礼しないとな?うはは!」

ユウが取り出しタマに見せたもの。
なんと菓子に混じってタマの好物の『ドッグサラミ』まで入っていたのだ。
ユウとタマは喜び合い、ティアに感謝しつつ、そのお菓子の数々を1人と1匹で心ゆくまで堪能した。

結果、戦況が───大きく動いた───

ちょうどユウとタマがティアの拠点でお菓子パーティーを開いていた頃だ、ティアが『最大の失敗』に気がついたのは。


~雑木林の入り口~

ティアは、自分のポケットを漁って一つの袋を取り出し青ざめる。

「・・・うふふ、そうね、この『嗅覚殺しサラミ』をうまくタマの口にねじ込めば───

・・・?

・・・あれ?

・・・あ・・・

ぬわああああああ!!?なによこれ!?豆大福じゃない!
バカ!私!サラミと間違えて大福持って来ちゃった!!
っ!!はっ!早く!拠点に戻ってサラミをとってこないと!!」

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ティアは
ユウが『ティアは自分の匂いを消すだけで満足している、だからティアに別の匂いをつけよう。』と認識していると読んでそこで満足して、裏をかいたつもりでタマの嗅覚を潰すことに全力を尽くす。
そこでティアは一旦拠点を捨て、自らユウとタマに接触しようと雑木林入り口で待ち尽くしていた、先手でタマの嗅覚を潰して優位に立とうとしたのだ。
が、その際にタマに使うはずだった
『嗅覚殺しサラミ』をティアは見事にユウからもらった豆大福と間違えてしまい、結局『嗅覚殺しサラミ』は拠点に置きっぱなしであった。

一方でユウは
ティアが『ユウは私が匂いを消すことで満足していると思ってるはずだから、その裏をかいて、別の匂いをつけられても平気なようにタマの嗅覚を潰そう。
どうせ嗅覚を潰すなら私の匂いは消す必要がないから、そのまま自身の匂いを囮として先手を打つ!』とまで考えていることまでさらに読んで、案の定雑木林入り口で待ち受けていたティアを華麗にスルーして一直線に拠点へと向かった。
そしてそこで拠点にあったお菓子類を全て食べてしまったのだ。
そう
『嗅覚殺しサラミ』
も含めて。

結果、お互いの意図の外で
タマの嗅覚が潰れたのだ。


~山岳地帯─ティアの拠点~

「さって!菓子もいただいたし、早速ティアの罠に『填められて』やろうぜ?タマ!
とりあえずティアのところへ案内してくれ!」

拠点にてティアのお菓子を平らげ、あとはティアに拠点を見つけたことを悟られぬようにしつつタマの嗅覚をわざと潰されることでティアを油断させようとしたユウ。
その異変に、ティアよりも先に気がつく。

「・・・ん?どうした?タマ。
ほれ、ティアのところに頼むぜ。」

タマが

動いてくれない。
鼻をすんすんと鳴らし、首を傾げるばかりだ。
それもそのはず、すでに平らげたサラミの効果は著しく発揮されており、タマは無味無臭の世界に投げ出されていた、もはやユウより鼻が効かないタマが、雑木林入り口から慌てて拠点に向かっているティアの匂いになど気がつくはずもない。

「・・・匂わない?
ティアのやつ、今更自分の匂い消したのか?
・・・いや・・・」

一度は考えるも、その線は薄い。
あえてユウとタマを遠ざけてから身を隠すためにそういった手法をとるにしても、わざわざ拠点を空けさらすメリットが薄い。
変なところで頭が回ってしまうユウに考えられるのは───

「───っ!?
くそ!?まさか!!あのヤロっ!!?」

ユウは慌てて先ほどタマが平らげたサラミの袋に入っていた紙を取り出す。
それは、サラミに関する説明書、間抜けな顔をした犬のイラストと、商品解説、注意点が事細かに記載されていて、それを読み進めていく。

「これが・・・!?
『本日は、特製!嗅覚殺しサラミ!
をお買い上げいただきまして、誠にありがとうございます。
本製品は素材から製法にこだわ───

───ちくしょう!そんなのどうでもいい!効果だ!!」

ユウは怒り狂うように説明書の前半をぶっ飛ばし、またまた間抜けな顔をした、苦しそうな犬のイラストの下の文を読み進める。

「『食いしん坊なわんちゃんの躾用の魔法のサラミになります。
効果はサラミ100グラムあたり一時間程度、わんちゃんの嗅覚をなくしてくれます。
これにより、食事中にわんちゃんが暴れるのを────

───ぬああ!!だからそんなのどうでもいい!!タマは何グラム食ったかが知りてえんだよ!内容量だ!」

ユウは、説明書を破り捨てつつ、サラミが入っていた袋裏のシールを凝視し、絶望した。
シールに書いている『内容量』の欄、先ほどの説明とは単位が違っていた。

「・・・ま・・・さか・・・マジかよ・・・
・・・いち・・・キロ・・・!?」

その量、1000グラム。
おおよそ、効果時間からみるに十時間。
日が暮れるなんて生半可な時間ではない、下手したらタマは今夜のディナータイムで涙を流すかもしれないレベルで効果が続く。
よくよく頭が回るユウのたどり着いた結論は、思いのほか、ティアへの評価を持ち上げるような結論だった。
あらかじめ断っておくが、もちろんティアはそこまで考えてはいない。
単にユウに120%作戦を読まれたあげく、その作戦の肝であるマジックアイテムを拠点に忘れただけである。


「あいつ!!・・・・罠だ!タマ!
この拠点はダミーだ!あのやろう!あらかじめバレバレ状態で雑木林入り口で待ち伏せてたのも!拠点と思しきとこに荷物をおいておいたのも!雑木林に匂いを拡散させてたのも全部俺達の作戦を読んだ上での罠だったんだ!!
本当の拠点は雑木林においてやがった!隠すためにわざと目立たせたんだちくしょう!
菓子を買いためてたのも!俺達が見つけたら食うことまで考えてやがったんだ!!
ちくしょう!それを見越してタマの嗅覚殺しの肝まで混ぜてやがったんだ!
・・・だからこんなにわかりやすいところに・・・!
・・・油断した!!」

合っているのは、最後の『油断した!』のみである。
再度断るが、ティアはもちろんそこまで考えていない、ユウの考えすぎだ。

そして、考えすぎるユウが考えすぎた結果、ティアを見くびり、油断し、勝手に勝ったつもりで菓子を平らげた。
少しでもユウがティアの頭をもっと評価していれば、あっさり拠点を発見出来た時点で違和感ぐらいは感じることが出来たのかもしれないが、それはティアへの過大評価であるし、ましてやもう後の祭りだ。
タマの嗅覚が潰れたという事実は動きようがない。

「───ぐ、やべぇ、タマの嗅覚がなかったらティアを捕まえるどころか、捜すことすら困難だ・・・!
どうする・・・?
どうすれば・・・ここがダミーなら、もう絶対にアイツはここに姿を現さねえ・・・
ならば、もう一つの雑木林の本物の拠点を・・・でも、どうやって・・・!」

そう、ユウの考えは正しい。
ここがダミーの拠点ならば、勝負が終わるまではティアがここに姿を見せるメリットがない。
いや、ユウがここをダミーだと認識しているとティア自身も認識しているなら裏をかく意味では話も別かもしれないが、少なくとも現状はそうではない。

そして

少なくとも、現状はそうではないのだ。


「───えっ!?ユウ!?タマ!!?」

「「!?」」

ティアが

サラミを取りに帰ってきた。

「・・・あ、え?」

「「・・・」」

「ぅぬわぁぁぁあああっ!??!
きっ!『奇襲』だあああああ!!?」

「はあ!?」


お互いが状況を読み合えないままに

最初の接触が始まる。

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この世の終わりのような表情で震えながら剣を構えるティア。
恐怖や緊張というよりは、単に武者震いというか、なんとなくこうなるのを楽しみにしていたというか、ゲームのそれっぽい雰囲気を味わえたことによる興奮であろう。
『大爆発=死』のような単純な思考回路のティアにとっては『ゲームっぽい突然の奇襲=楽しい!』といったところか。
実際ティアはなぜすでにユウとタマが自分の拠点に居座っているのかについては深く考えなかった。
しかし、ユウとタマからしたら奇襲を仕掛けてきたのはむしろティア自身の方だ、そしてその意味不明の叫びにすら意味を求めるのがユウ、頭がよく回るが故に目を回す、結果、見落とし、遅れる。

ユウの一瞬の思考回路の覚醒をついてティアが先手を打つ、ここまでくると本当にティアが奇襲を仕掛けている側にいるようだ。
ティアはポケットから様々なアイテムをこぼしつつ、指先にその一つを引っ掛けつつ取り出し、同時にほおる。

「けど!拠点をおさえたぐらいで!
砲剣撃!!」

そこに剣を打ち当てる───が、ユウはそれどころではない、ティアの謎行動に頭が回る。

(ティアが!?帰ってきた!?ダミーじゃねえのか!?
いや・・・

───っ!?)

ユウの思考が一瞬とまり、目の前に迫るそれに気がついた。
ティアがぶっ飛ばし剣技でとばして来たもの、それが何なのかにユウが気がつくより早く、強烈な力がユウのフードを引っ張る。
タマだ。
タマがユウの眼前に迫っていた四連爆竹に気がついてユウをその射線外へと引きずり出した。

間一髪でユウの顔面を掠めていったそれは、ユウとタマのすぐ真後ろの壁に衝突し破裂、凄まじく高らかな炸裂音を拠点内へと響かせる。

「───っタ───!?
っうああ!?!?うるせえ!!?」

ティアの意味不明の叫び、視界に迫っていた謎の物体、何故かフードを引きちぎろうとするタマ、爆音。
あまりに突然に出来事が起こりすぎた、心臓を何度跳ね上げてもキリがない。
反射的にユウは炸裂音の方へと視線を向けていてしまっていてティアへの反応が遅れていた。
タマもあまりの炸裂音に頭を振りつつ態勢を立て直していた、ここでユウの思考がようやく追いつく。

「・・・爆竹か!?
───っくそ!こんなこどもだましに・・・!!」

口ではそう吐きつつもユウは内心驚きと感心の気持ちで胸がいっぱいである。
毎度毎度ティアはやたらと荷物に爆竹を詰めようとするが、それが役に立った瞬間を初めて目の当たりにしたことと、それに自分があっさり驚かされていること───

───そして、煙玉ですら役立ててくるティアの戦術に。

ユウが爆竹が炸裂した場所からティアのいた地点へと視線を移した時、すでにそこには赤やら緑、青やらの派手な煙が上がっていてティアの存在が全く確認出来なかった。

「っ!?どこへ行った!?
・・・タマ!捜すぞ!もうお前は鼻が利かねえんだ!逃がしたら厄介だ───

「───ふぅん?食べたんだね!?
・・・作戦通り!」

「───っな!?」

ユウとタマが煙の中にティアを捜そうと意識を集中していた時だ、ユウの言葉を遮って聞こえるティアの声、その声はユウの背後から現れた。
ティアはユウとタマが爆竹の音に驚いて後ろを向いていた時点で既に煙玉が発する煙を抜けだし、ユウの死角を利用するように壁で三角跳びを決めて背後へと回っていた。
その声に驚いたときには既に時遅し、もはやユウもタマもティアのなすがまま。

「轟槌!砲剣撃っ!!」

「うわああああっ!?」

ユウとタマの視界が恐ろしい勢いで逃げて行く、気がついた時には既に青空しか見えていなかった。
遠ざかるティアの拠点穴、その中から聞こえる声。

「ああああ!!?私のお菓子が!!?
でもやっぱり!サラミもなくなってる!
それなら・・・!!」

ユウとタマが背中に大きな衝撃を感じた時である、大きなリュックを背負いつつ穴から抜け出し、雑木林の方へとかけてゆく少女の姿をみたのは。

ユウとタマはあっさりティアに出し抜かれ、拠点から数十メートル離れた地点まで剣技でぶっ飛ばされ、まんまと拠点の荷物まで持ち逃げされてしまったのだ。
菓子を全部平らげ、ティアのリュックを皮肉にも軽くするおまけつきで。

「・・・くは・・・痛ってぇ・・・げっほ!!かほっ!」

急激な背中への衝撃にユウはむせかえる。
タマですら、痛そうに擦り傷をなめていた。

「・・・っへへ、でも・・・ざまぁみやがれ・・・あいつ、豆大福しかもう食い物もないんだろうな・・・
けほっ、どうやら『まだ食ってない』ようだが、いずれ食うんだろう・・・目には・・・目だ。」

苦しそうではあるものの、不敵な笑みである。
ユウはリュックに豆大福が入っていなかった時点で何となく気がついていた、ティアが豆大福だけはキープしていたことを。
自分の『餞別』という言葉を信じて。

実際は単にサラミと大福を間違えていただけだが、ユウはそんなことを知る由もない。

ユウは確信していた、このままなにもしなくてもティアが大福を食べるのを待てばまず八割方は勝てると。
しかしそれでは一度出し抜かれた側としては面子がない、プライドが許さなかった。

「・・・でも・・・
やられっぱなしってのはストレスだな・・・!
タマ、やれるか!
あいつを────ティアを、捕まえるぞ!できるだけ早くだ!」

大福を食べてしまってからでは仮にユウが勝ったとしてもそれは引き分けと大差なかった、それだけ、今回の大福は秘密兵器なのだ。

ティアがそれを食べれば勝てる自信はユウにもあったが、それでは意味がない。
このトレーニングの本当の意味はただティアを捕まえればいいというわけではないのだ、ユウとタマが『協力して』ティアを捕まえなくてはならないのだ。

痛む背中と、プライドを庇いつつ、復讐のタッグがティアを追う。

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「んっふ~ふ♪んーふーふ♪るーるーるーるーるぅ♪」

雑木林、湖のほとり。
膨れた戦利品のリュックを身体の横に置いて、鼻歌を歌いつつ作業をする少女の姿がある。
少女は器用に紐やらその辺の石やらを合わせて、その紐を木にくくりつけたり、火薬の入った袋を地面に埋めたりしている。
トラップだ、ユウとタマの体力と精神力を削るためにティアは雑木林の至る所にトラップを仕掛けていた。

トラップの内容は流石ユウとタマをターゲットにしているだけの事があり、なかなかエグいものが多い。
そんなこともあってか

『うわああああ!!?』

ティアの通ってきた道では先ほどから生き物の悲鳴が多い。
その都度ティアは引き返し、声の主を確認していたのだ、なんとも効率が悪い。

「───!?今の声は!?かかったかな!?」

期待と予想を半々に立てつつ、ティアはまたまた声の主の元へとかける。

「・・・って、なによもう。
また『ウワーン』じゃないのよ!ほら!しっかりしなさい!
ユウじゃあるまいし、もうこんな罠にかかっちゃだめだからね!?
ほら!お帰り。
まったく、物真似で本気で助けを求めるなんて・・・」

ティアがたどり着いた声の主の元、そこにあったのは異様に頭が大きく、翼が手羽先ほどしかない丸々と太った鳥であった。
予想通りの期待はずれだ。
ティアはこの鳥を見るのにうんざりしていた、どうもこの鳥は知能が低いらしく、先ほどから罠にかかる生物のなかでも断トツで数が多かったのだ。
ティアの仕掛けたマジックロープに全身を巻かれてじたばたしており、それを見たティアは呆れ顔でロープを解いてやる。
ウワーンと呼ばれたその鳥はその短い羽根をパタパタとはためかせつつ、雑木林の奥へと走り去っていってしまった。
ティアは簡単に逃がしてしまったがこの鳥、れっきとした『害獣』である。
その間抜けな体型のせいで空を飛ぶことはおろか、まともに狩りをすることもできないため、この鳥は他の生き物が『助けを求める声』を真似て獲物をおびき寄せて捕食するのだ。
なにげにクオリティの高い物真似をするため、人間に対する加害数もなかなかのものである。

ため息を吐き、ロープの罠を元通りに設置し直したティアは、気を取り直しつつ、また鼻歌を歌いながら雑木林の奥へと歩みを進める。

「・・・だって、ユウの鳴き声とウワーンの鳴き声そっくりなんだもん・・・ずるいよ・・・」

ウワーンと大差ないユウへの不満も時々混ぜつつ。

───奥へと、進む。

おそらくもう、ティアが雑木林に入ってから最初に仕掛けた罠に生き物がかかったとしても、その声はティアへと届くことはないだろう。

───ティアは決して頭が悪いわけではない、ただ、少しだけ抜けているところがあるだけなのだ───

~雑木林と山岳地帯の境目~

「・・・なぁ、タマ・・・」

右頬を人差し指でかきつつ、困惑するユウ。
さすがのタマもユウと眺める雑木林内の光景に鼻息を大きく漏らす、タマの知能は伊達に上がっていない、少なくともティアの『抜け目』と、それに対する自身の評価を下すことが出来るくらいには賢くなっているようで、その鼻息は人間で言うところのため息のようなものであるのだろう。

ユウとタマの瞳に映るのは非常に珍しい光景であった、雑木林内の獣たちが、まるでユウとタマをティアのもとへと案内するかのごとくことごとく罠にかかっていたのだ。
それらは十数メートルごとにじたばたしており、加えて一本道で連なっている、そして恨めしそうな視線を全く無関係であるユウとタマへと送っていた。
どう考えてもティアの仕業だ、あまりにもあからさますぎてかえってユウはその状況に警戒する、ユウは未だに先ほどはティアに出し抜かれたと勘違いしているのだ。
くどいようだが、当のティア本人は全くそんなことまでは考えていないが

「・・・どうする・・・タマ・・・?
これは・・・釣ってるよな・・・」

ユウはそう考える。
ご丁寧にそれらの罠の横には小さめの人間の足跡と、なにか重くて丸いものを一度置いたような形跡すらハッキリ残っていた、例えるなら『中にたくさんのサバイバルグッズと罠、マジックアイテムなんかが入ったリュック』を置いたような跡とでも言ってしまえばしっくりくるだろうか。
まさにあえて残したかのようなティアの残像にユウは視界いっぱいの青空と背中への強い衝撃を思い出してまゆをひそめる。

「・・・うー・・・ん・・・」

自身の顎を親指と人差し指で支えつつ唸るユウ。
罠かもしれない、そうじゃないかもしれない、普段のユウなら嬉々としてそれらのティアへの痕跡を辿るが、一度まぐれとはいえあそこまで綺麗に填められたとなると強気な行動には出れない。
そんなユウの袖をタマが噛んで引っ張る。

「うお、なんだ?タマ?」

タマに引っ張られるままに向かった先、ユウの足元では、全身をマジックロープで巻かれた鳥がじたばたしていた。
紛れもなく、ウワーンである。

「うわ、ウワーンじゃねえか・・・!
相変わらず間抜けな───

タマと、ユウの目が合った。
トレーニング開始以来、初めて心が通じ合った瞬間である。

───・・・なるほどな・・・
お前もまだまだ赤ちゃんのくせに腹黒いな・・・タマ!
でも、いいと思うぜ、俺は評価する!」

ユウの腰に、タマが軽く頭をぶつけた。
タマなりの返事なのだろう、そして、ユウがマジックロープごとウワーンを持ち上げる。

「・・・くっくっく・・・
こいつはタマより上手に吠えてくれそうだな・・・頼むぜ?ウワーンよぅ、俺の中に潜む乙女の叫び、うまく真似てくれよな?
ひひひ・・・」

タッグではうまくいかないときだってあるのだ、二つで足りないなら、三つにすればいい。

今ここに、人間とウルウルフとウワーンによる、前代未聞のトリオが生まれる。


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ユウがタマジローからもらった魔法

『ビーストウォーリア(獣用)』

は、獣の体をユウの魔力によって強化・補助するものだ。
みんなのアイドルのタマも、まだまだ仔狼の身でありながらもこの魔法のおかげでナイスなボデーを手に入れ、クールなレディでどや鼻息を吐くことが出来る。
そしてこの魔法は基本的に人間以外の獣であれば難なく使用できる、もちろん、さきほど捕まえたウワーンも例外ではない。
とりあえずユウとタマはウワーンを有効利用するため、試しに魔法をかけることにしてみたが

「・・・なんてこった。
こいつもうウワーンですらねえぞ、タマ。」

タマジローが優秀すぎた。
現在、ユウとタマの見上げるその姿、紛れもなくウワーン。
だが、それはまるで神話に出てくる神の遣いである。
よくよく考えると当然である、あのタマでさえああなるのだ、ナイスなボデーでクールなレディ、すでに成体化していた野生の獣にそれをかけたとあればむしろこうでなくてはおかしい。
鋭くなった巨大なくちばし、屈強そうな太い脚、ナイフのように鋭く強化された手羽先ほどしかなかった翼。
1200%美化。ユウの頭にそんな言葉がうかんだ。
とりあえず協力してもらわなくてはならないので、ユウはおずおずと1200%ウワーンへと声をかけてみる。

「・・・お、おう。こ、こんにちは・・・」

『こんにちは・・・』

「マジかよ・・・聞いたかよ、タマ・・・
こいつ、お姉さんみたいな綺麗な声だぞ・・・
つか・・・普通に会話しなかったか?今?
それと、こいつも女の子?女性・・・?」

あまりにも自然すぎる美しい『こんにちは』
実際は上がった知能でユウの物まねを即座に完成させただけであろう、しかしその落ち着いた、そう『マリエッタ』を彷彿とさせるようなその美声、厳かさはとても物まねとは思えない。
さらに、タマジローの細かな魔法の微調整も効いているようで、ユウの『こいつも女の子?』という声にはその巨大なくちばしを少し下げていた、頷いていたのだ。
一応、ユウの言うことはしっかりと理解しているらしい。

「えっと、そ、その、アレです、助けたお礼に、俺達の手伝いを・・・し、してくれません?」

黙って、再度ウワーンは頷いた。
ユウはそのあまりの厳かさに無意識に丁寧語で話してしまっていたようだ。
ユウとタマは生唾を飲み込みつつ、その神々しいウワーンに作戦を説明する。

───それから十数分後───

ユウとタマは作戦通りにウワーンを配置し、その時を待つ。
ユウは申し訳ないと思いつつもお人好しなティアの良心を利用して彼女をおびき寄せようとしたのだ。
作戦は簡単である、ティアに聞こえるようにウワーンに物まねをしてもらうのだ。
そしておびき出されたティアはそれもウワーンの声だったということに落胆し、声に対する関心を下げる。
あとはユウが『助けを求める人間の物まねをするウワーンの物まね』をしつつ、ティアに警戒されないように近づくのみである。
ユウがティアへの接近に成功し次第、ウワーンは無傷で解放する約束だ。
この作戦に捕らわれのウワーンも納得して状況が始まった。

ティアをおびき出すため、ウワーンがユウのやったとおりの人間の物まねをする。

『うふうううううん!!?たすけてえええええん!!?』

「マジかよ・・・聞いたかよ・・・タマ。
あいつ、声まで俺にそっくり似せてきやがった・・・
かすれた裏声でさけんでるぜ?ひそひそ。」

ウワーンが見える位置で隠れて様子を眺めていたユウとタマはその物まねのあまりのクオリティの高さにドン引く。
作戦的にはこれで正しいのかもしれないが、あそこまでそっくりに似せられ、且つ叫ばれるとなると流石のユウも赤面である。
マリエッタの声で鳴いてもらうように指示をすれば良かったと少し後悔するユウを余所に、ウワーンはその神々しい姿で間抜けな叫びを上げ続ける。

───一方で───

「ん!?今・・・人っぽい声が・・・?」

その声は、罠を使い切ってしまいそこいらの植物で新しく罠を作る作業に入っていたティアの耳へも届いた。
ティアは一旦タンポポの根っこを掘り返す作業を中断し、耳をすませる。

『あはあああああん!!?産まれるうううううん!!?』

確信する。

「間違いない!人の声だ!女の人が叫んでる!?
も、もう!声がかすれてるじゃないの!!早く助けにいかないと!!」

釣られる。
ティアはあわてて武器と魔法具、マナ水を用意しつつ声のもとへと転がるようにかけていく。

「こんな雑木林に・・・女性?
まさか・・・誘拐事件!!?
・・・っ!!許さない・・・!!!」

ありもしない妄想も膨らませつつ、ティアは痩せたリュックをガシャガシャいわせつつ風のように雑木林を走る、跳ぶ、かき分ける。
その表情には確かな怒りと焦りを見せつつ。

しばらく走ったティアの耳に入る声は次第に大きくなっていき、ティアからも応答を求める声が上がった。
相手はもちろん、ウワーンだ。

「はぁ、はぁ、大丈夫ですかぁーーー!?」

その声はもちろんユウとタマの耳にも入り、あまりのバカ正直にユウは笑いをこらえるのに必死であった。
隣で吹き出しそうなユウを不安に思ったタマは『我慢しろ』と言わんばかりに尻尾を使ってその背中をてしてしとたたき続けていた。
そしてついに、ターゲットが姿を顕わにする。

『ぬわあああん!!?ずるいいいい!!?』

「今すぐ助けま───!?
って!なによ!またウワーンじゃないのよ!?いい加減になさい!!」

木陰からかけてきた少女は身体の横でガッチリと握りこぶしを握り、地団駄を踏んで怒っている。
とうとうユウが吹き出すのではないかと心配したタマをよそにユウは1人でぼそぼそとつぶやいている。

「・・・おい、なんで?
なんであいつ、あれがウワーンだって一発で気づいたんだ?
あれをどうやってみたらウワーンに見えるんだよ・・・」

2人とも、間抜けだ。

タマは幼いながらもそう思う。
鼻息を深く漏らしたタマの視線の先ではプンすかプンすか鼻息を荒くする少女が雑木林の奥へと向かっていた、その後ろを物真似を続けるウワーンがついていく。

タマは、隣でぶつくさ言うユウの頬に鼻先を一撃くれて正気に戻し、遠ざかるティアとウワーンへと鼻先を向けてみせた。

「お、そっか、そうだな、追いかけねえとな・・・」

そっと、ユウとタマは隠れていた草むらから抜け出す。

『キャアッーーー!!!おしりがあああ!!!』

「うるさい!それやっていいのはゲスコトちゃんだけ!!」


ティアは振り向きもせずに自身の背後で叫び続けるウワーンに突っ込み続ける。

チャンスだ。

ユウはタマへと作戦の続きを指示し、その時へのタイミングを伺いつつ、ティアとウワーンのコントの声を追う。


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