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さんざんリリーナがタマを嫌っているみたいな話をしていた俺とティアだが、実際にリリーナがタマとどうのこうのしたなんていうのは初対面の時にリリーナがタマに驚いて蹴ってしまったという話だけだ。
ましてや俺はその場面を目撃していない。

昨日もホテルでリリーナとタマが一緒にいたはずだったけど・・・そういやリリーナがタマを嫌がってた素振りなんてみせてたか?

俺はティアとの話に違和感を覚えていた、リリーナはほんとうにタマを嫌ったりしているのかな?

「あちょっと!ユウ?どこいくの!?」

「・・・っえ!?お・・・あ、ホテルか、着いてたんだ・・・?」

くそが、早朝から叩き起こされた上にメシ抜きでタマトレだもんな・・・頭に血が回ってなかったらしい。
ティアの声でやっとホテルに着いてたことに気づかされた・・・

「・・・タマとリリーナのこと・・・考えてたの・・・?」

ははは、だよな。

「もちろん。
さすがにお見通しか。」

ティアと俺は長い付き合いだからな、お互いの考えてることぐらいある程度ならお見通し・・・
もしかしたらタマとリリーナの件も時が解決するのかな?
───そういえば・・・ティアがこの話を持ちかけてきたってことは・・・

「なぁ、ティア、俺さ、思ったんだけど・・・リリーナとタマって、そんなに仲悪そうにしてたか?」

「・・・!!?」

うわ、なんて顔してやがる・・・何か言いたげだな・・・つか、言うんだろ?

「信じられない!ユウ!気づかなかったの!?
タマもリリーナも嫌いあうどころか露骨にお互い避け合ってて摩擦どころか接触すらなかったんだよ!?あれ以来!!
もう好き嫌いの域じゃなくて、関わりたくないレベルの雰囲気だったのに!ほんとに気づかなかったの!?」

ほら・・・ボロクソ言われた。
それよりそんなことになってたのか!?
全然気づかなかった・・・よし、今日から少しリリーナとタマの様子をうかがってみるかな。

俺とティアは部屋に戻ることなく、手洗い場で手を洗ってから直接バイキングルームへと向かった。
大きな窓から朝日が差し込むでかいでかいバイキングルーム、長テーブル、沢山の人々。
その中に一組、知った顔の男女が優雅に朝食をとっていた、ランスとリリーナだ。
2人ともちゃんと寝坊せずに朝食バイキングを食べに来ていた様だ。

「おお!ティアさん!ユウ!帰ってきたのか!
あんな朝早くからどこいってたんだよ!?」

「はい、ティア。
預かってた部屋の鍵。」

二者二様の反応。
このクソランスが、白々しいぜ。
ティアから鍵預かってたってことはだ、リリーナだってちゃんと起きてたってことじゃねえかよ!
・・・こいつもあとで魔力で出来たタマサブローの刑に・・・───ん?これは───

無意識に───意識したのかもしれない。
見えた。

「ああ、ありがと、リリーナ達は今日はこれからどうするの?」

ティアから話を聞いたからだな、俺にも分かった。
いや、むしろなんで昨日まで気がつかなかった?
鍵を渡すリリーナ、鍵を受け取るティア・・・不自然すぎる!!
右腕にタマを抱き、左手で鍵を受け取るティア、普通ならティアもリリーナも前に手を出して鍵の受け渡しをするよな?
しかしいまの2人はどうだろうか・・・?

「そうね、ランスに任せるわ。」

「そう。3日後、ユウの足を引っ張らないようにね?」

やめろ。
その違和感丸出しの状態で違和感なく会話するな、不自然で不気味だ。
そうだ、なんで・・・なんでティアは鍵を受け取る左手を目一杯体から左に広げて受け取ってる!?
なんでリリーナは目一杯ティアの左側に向かって鍵を差し出す!?
・・・いや、わかってるよ、右手にタマを抱いてるからだろ?
わかってるよ・・・けど・・・いくらなんでも露骨すぎだろうよ。
タマもタマだ・・・すっげえ震えてウルウルウルウルしてハフハフしてやがる・・・そして・・・ティアの腕の中でじたばたしている・・・だと?
なんだよこれ・・・なんだよ・・・なんか・・・日常に潜んでた違和感的な不気味さが怖えよ・・・なんで気がつかなかったんだよ・・・

「ん?どうしたのよ?ユウ?青い顔して・・・?」

「ああ、気にすることはないわ、多分・・・私との話で『気づいた』だけよ?
あなたには・・・うーん・・・まぁ、ちょっとしか関係ないわ?」

「・・・そう。」

だからやめろよ気持ちわりい・・・寒気がしてきた・・・。
でもこれでわかった!はいわかった!くそ!
リリーナとタマの仲良し作戦は『絶望的』なんだな!?わかったよ!!
わかったからプルプル震えながらダイナミック鍵受け渡しをやめろ!
露骨な違和感の中で普通に過ごすのをやめろ!!

とにかく決まりだな・・・これは、考えなきゃいけねえな・・・

「じゃ、そういうことだから。
今更だけど私よりもブロンズランクになるの遅れた罰ゲームね。
この状況をなんとかしなさい・・・ユウ!」

「・・・おう。」


あさから・・・頭が痛い状況が続くな・・・

メロス、パペートさん、俺、頑張る。

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虎狩りの当日、朝。
街の貸し出し研究室で元気な男女の声が上がった。

「できたぜ!ティア!こいつを使えばタマとリリーナは絶対に仲良しだ!」

「わぁ!ほんと!?ユウ!何を作ってくれたの?!」

ユウとティアだ。
結局当日まで色々と案を練っていたものの、これといった作戦も思い浮かばず、しびれを切らしたユウが前日の夜に「あれをやるしかねぇ・・・」とティアに話を持ちかけて今にいたる。
一晩丸々使い切り、ユウは『あるもの』をつくっていたらしい。

「んっふっふ、タマジローさんとの努力の結晶・・・」

「ごくり・・・」

「『すごい惚れ薬』だ!」

「却下だよ!!!」

ため息を吐きつつ、今にも死に始めそうな様子で肩を落としたティアが残念節をつらつらと並べ始める。
徹夜でユウの薬づくりを見守っていて結果がこれではティアだって愚痴の一つや二つくらい口にしたくもなる。

「はぁ・・・なんで・・・なんでなの?ユウ。
あれだけ自分で惚れ薬の欠点を熱弁しておきながらどうして行き着く結果がそこだったの・・・?
私、あんまりにもユウが自信満々だったからさ、きっと『森の神伝説』みたいな手軽で嬉しくて楽しいような・・・とにかくそんなの期待してたのにさぁ・・・あんまりだよ・・・」

「仕方ねぇだろ?
これが一番手軽で確実だったんだよ。
あとはコイツにタマの毛を溶かしてリリーナに───

「だからだめだってば!!」

勢いよく立ち上がりつつ、ティアが机を叩くの見上げて申しわけなさそうに、しかし不満そうにユウも文句を並べる。
ユウだって本当はこんな方法は取りたくなかったが、他に方法も考えつかなかったのだからしぶしぶである。

「じゃあさ・・・お前はなんかもっといい案ないのかよ・・・ティア。
そうやって人のやることなすことにケチばっかりつけてたら口だけティアに成り下がるぜ?
俺は口だけのティアなんて嫌いだな。」

「・・・」

ふむふむ、と口を一文字に閉ざしつつティアは視線を中空へと泳がせる。
しばらくぶつぶつと呟きながら両手の指で人形劇のような動きを始め、眉間へとしわを寄せる。
ユウは黙ってティアの行動を伺い続け、その一文字が口の形に開くのを待ってみる。
いつも突拍子もない考えでとんでも理論を展開するティアだが、頭は決して悪くない、こいつはやれば出来る子なんだとユウは自分に言い聞かせ、ティアの案へと期待をふくらます。
とうとうティアが納得した様子でいつものどや顔を見せつけ、口を開いた。

「ふふ、そうね・・・これなら・・・」

「おお!ティア!何かいい案が!?」

「もちろん!この件で私はレベルアップしたよ!かしこさが3ぐらいあがったかも!!」

自信がありげなティアに、隈のできた目を大きく輝かせたユウ。
ティアは鼻息を荒くしつつ机の上の『すごい惚れ薬』を手に取る。
ユウも黙ってティア理論の展開を待ってみる。
ティアはどや顔を続けつつ、薬の入ったビンの蓋を空け、それを手洗い場まで持って行った。
ユウも黙ってティア操作の行き先を見守る。
そしてティアは水道の蛇口から水を吐かせ、謎のどや視線をユウへと投げつつ左手でVサインをつくる。

「みててね!ユウ!」

「・・・!!」

「これを・・・っ!」

「・・・!?」

「こうっ!!」

「っぬああああ!?俺の一晩の努力があああ!?」

ユウの絶叫が手洗い場にこだまする。
なんとティアは突然
すごい惚れ薬を水で薄め始めたのだ。

ティアは「それでね、それでね・・・」と謎の呟きを続けつつビンの中に水道水を流し続ける、ユウは手足をバタバタさせながら止めに入る。
ティアはそんなユウの腕やら足やらをひらひらとかわし、受け流し、はたき落とし、満足げに水道のコックを締めた。
ユウは終わってしまった惚れ薬を虚ろな目で追いかけつつ、乾いた涙を一筋ながす。

「できた!『すごい〔薄い〕惚れ薬』!!
はーい、タマー?その可愛らしいお毛けをもらうよー?我慢してねー?」

「そんな・・・俺の・・・一晩が・・・」

どこか眠たそうなタマから一本だけ毛を抜いたティア、ドキドキしながらその毛を惚れ薬のビンの口へと近づけていく。
ティアがプルプル震える手つきでつまんでいたタマの毛が、惚れ薬に着く直前

それは突然炎を上げて燃え尽きてしまった。

「・・・」

「・・・」

「・・・ユウ?」

「・・・」

「・・・毛を、溶かすはずだったんだけどね・・・燃えちゃった」

「異常反応だ。爆発しなかっただけマシだが、もうそれは惚れ薬じゃねえ。」

「薄いのに、毛が燃えるほどに熱い『恋』・・・あ、『濃い』とかけてね。」

「・・・うるせーよ。」

「どうして!?効果が強すぎるなら水で薄めればいいんでしょ!?
意味わからないよ!ユウ!」

「ふざけんな!そんなお手軽理論で魔法が出来るならタマジローさんだってお手軽ビーストウォーリアじゃねえか!
・・・くそぅ・・・もう行かねえとランス達との待ち合わせに間に合わねえ・・・」

「そっかぁ・・・ごめんね・・・ユウ。」


なんともいえない空気の中、2人はランスとリリーナとの待ち合わせ場所である街の外へとむかった。
その間、ティアはユウから魔法の知識の基礎を説教混じりで叩き込まれ、皮肉にもかしこさが3ほど上がった。
2人が待ち合わせ場所につくなり口を開いたのはリリーナ。

「んなっ!あなたたち!?なんて不健康そうな顔してるの!?」

徹夜で作った惚れ薬が謎の火炎瓶になってしまったユウ。
それに一晩付き合って得た物がかしこさ3のみのティア。
2人の顔は絶望色に染まっており、ただの寝不足以上の不健康さを露わにしている。

「え・・・ユウ、ほんとにそんな見た目で狩りなんて行って大丈夫なのかよ・・・なんでそんなだるそうなんだ・・・?」

「ああ、ちょっとな、徹夜で作った秘薬が今し方火炎瓶になっちまって・・・水道水ってこわいぜ・・・」

「ごめんね、薄い恋が・・・あんなに熱いなんて・・・」

「「???」」

事情を知らないランスとリリーナからすれば、今の2人の話は支離滅裂で意味不明だ。

「いや、なんでもないの・・・
ユウ、タマトレに行ってくる。
今日はちょっとタマを強化して?もう少し実戦的なトレーニングがしたいから・・・」

「・・・」

無言でユウはタマに魔法をかける。
タマが突然巨大化する。
その様子にランスが反射的に剣を構え、リリーナが腰を抜かしてしまったが、ユウが事情を説明し、その場は事なきを得る。

ティアは巨大化したタマとともにどこかへ走り去ってしまい、その場に残されたユウとランスとリリーナの三人はタマについて語らう。

「・・・怖かった・・・」

「リリーナ・・・大丈夫か?」

「あれでも中身はちゃんとタマだよ・・・かわいそうだからそう怖がってやるなよ。」

ランスは無言で頷くも、リリーナは潤んだ瞳を泳がせていた。
そんなリリーナにユウは胸に油っこさを感じつつ、タマとリリーナの件に関しては一旦忘れることにした。
数日考えても解決策がでなかったのだ、これはきっと、何かきっかけが必要だと、そう思った結果だ。

「・・さて!俺たちもさっさと依頼済ませようぜ!
ランス、リリーナ!よろしくな!」

「おう!」

「うん!」


初パーティでの初依頼、少しの油断が命取りになりかねない。
ましてやティアと同じようには動けない、動いてくれない2人、ユウは若干の緊張を覚える。
晴れた朝の日差しの下、三人は有翼虎の目撃情報があった山岳地帯を目指して歩みを進める。

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緑が少なくなってくる。
道も、砂利っぽくなってくる。
視線が徐々に上へと登ってくる。

そして、到着する。

三人は有翼虎の目撃例が発生した山岳地帯を眺めて言葉をこぼす。

「ここが・・・なるほど・・・
虎要素ゼロじゃねえかよ!
ほんとにこんなとこに虎なんか出るのか!?
虎ったらジャングルだろうよ!!ふざけんなよ!こんなとこに虎がいてたまるか?!
虎さんなめんな!」

ユウが怒るのも無理はない。
極端に緑が少ないだだっ広い砂礫の海、見渡す限りの黄土、岩壁、山。
虎のイメージもへったくれもない、ユウはイメージから入る人間なのだ、早くもやる気を削がれる。

「な・・・なに急に怒ってんだよ・・・ユウ・・・
なんでも、ジャングルで生息してなかったがために山岳地帯でも生きていけるように翼が生えたのが有翼虎らしいぜ?
なんか、間抜けな生き物だよな、有翼虎。
羽根生やす前に気づいてジャングルに移動しろよって話だよな。
俺達が初めて有翼虎を相手にしたのだって荒野だったし・・・」

「2人とも、油断しちゃだめよ!
前回私達は荒野で相手にしたから翼のメリットはあまりなかったけど、今回は山岳地帯。
翼の有無は勝敗を分ける大きな要因になるわ!」

リリーナの言うことは正しい。
平らな土地ならば地形で行動が制限されることはないから相手が空を飛ぼうが障害物に隠れようが対した問題にはならない、が、ここは足場も見通しも悪い山岳地帯。
上空を移動できるかできないか、地に足をつけて戦うかそうでないかは戦略上重要視する必要がある。

「まぁ、確かにリリーナの言うとおりだが・・・」

ユウは少し緊張はしつつも油断気味であることは否定できない。
リリーナの実力を見て、ランスの話を聞き、辛勝とはいえ2人で狩れる程度の獲物だと聞いた。
これはユウ一人でも楽勝といっても過言ではない要因である。
ユウは正直ティアとリリーナの戦いを見たかぎりではランスとリリーナを五人ずつ相手にしても勝てる自信があった。

「・・・どうとでもなるだろう、ランスとリリーナだって、前に虎を倒した時よりは強くなってるんだろう?
虎の一匹や二匹ぐらい、ちょちょいのちょいだな。」

「大口叩くわね、ユウ。
確かにティアはすごく強かったけど、あなたは実際どうなのかしら?」

リリーナが不満そうだ。
負けを認めさせたとはいえ、ティアとの圧倒的な実力差は身にしみてわかっている分、リリーナの中でティアは比喩でもなんでもなく鬼のような女であった。
その鬼女のパートナーとはいえ、普段のユウからはそんな鬼のようなオーラなどは全く感じない、早い話、リリーナはまだユウを認めていない。

「悲しいな、タマジローさんは一目で俺の実力に気づいたんだけどな・・・
今思うとタマジローさんって相当・・・
ま、とりあえず虎を見つけりゃわかるこった。
で、虎ってのはどこにいるんだよ、こんな枯れ果てた山岳地帯でよ。」

「虎穴に入らねえと虎の子は得られねえんだよな!俺!知ってるぜ!
穴を探しゃあいい!!」

「いや、私たちは虎の子が欲しいわけじゃないから穴に入る必要はないんじゃないの・・・ランス・・・?」


三人はとりあえず目の前に見える山々を縫うように続く道を歩き始める。
観光客が襲われるくらいである、適当に歩いていれば出てくるに違いないだろうとその時三人は信じていた。
しかし歩けども歩けども、あるのは岩、砂、岩壁、ペンペン草。
有翼虎どころかおもしろい物も一つもなく、数時間も歩いたところで三人はすでに遊び始めていた。

「ここで、俺が・・・こう!」

「そしたら私が・・・こう!」

「・・・で俺が・・・こう?」

「「違う!」」

「なんでだよ!こうだって言ってただろ!?」

「だから違げえよ!ユウ!俺がこうするから、リリーナのあれに続いて・・・こう!
何回言えばわかんだよセンスねえなぁ!!」

ランスが大きく剣を振り下ろす。
どうやら三人は有翼虎が出てきた時にどうするかをシミュレートしていたらしい。
案の定、ユウだけ息があわない。
ユウは焦りを覚えていた、ティアとならば完璧なのにと心に言い聞かせ、初めてのパーティメンバー達との連携に四苦八苦する。
すでに総シミュレーション回数は30を超え、暑さとうまくいかなさに全員がイライラし始める。
そんなあたりで

「じゃ、もう一回だ!
こう!」

「こう!」

「・・・っ!こう!」

「「・・・」」

「・・・」

「「・・・」」

「・・・」

「「・・・」」

「・・・う・・・」

「「・・・」」

「うるおおおおあああああっ!!!
っざけんなよおおおお!!?
こおすりゃいいんだろこおすりゃあああああ!!!
そんな目で俺をみるんじゃねええええええああああああああ!!!!!」

「「うわぁ!?」」

とうとう

 ユ ウ が キ レ た 。

突然ユウはフリだけではなく実際に杖を取り出して前方の大きめの岩付近にフレイム、フロスト、アース、ウインドのオールスターメテオール祭りを開催する。
上空からカラフルで巨大な魔法球がこれでもかというほど降りはじめ、ランスとリリーナは本気で肩をすくませてそれらを凝視する。
そしてその時だ、突然岩影から一頭の巨大生物があくびをしながらすったすったと歩き出てきた。
それは黒と黄色のしましま模様で、大きな虎柄の翼までもっていた。

そう、ユウが怒り、無茶苦茶に魔法を放った着弾地点に偶然

 有 翼 虎 が 現 れ た の だ 。

「「「あ」」」

三人がその存在に気づいたとほぼ同時に、それの上に十数発はあろうかというカラフルな魔法の隕石が着弾する。
なんとも形容しがたい轟音、中から獣の断末魔らしきものが聞こえたような気もするが、そんなか細いものなどまるでもともと無いかのようにかき消す轟音、轟音、超轟音。

「「「・・・」」」

三人はただただ落ち続けるユウの魔法を眺めていた。
何も考えていなかった。
いや、考えなくとも事故にあった有翼虎の末路は目に見えていたのだ。
一通り魔法の発動がおわり、辺りの土煙がはけた頃である、三人の目の前にはジハードかラグナロクの終焉を彷彿とさせるクレーターが出来上がっており、その真ん中で一頭の巨大な有翼虎が横たわっていた。
そしてそれはすでに息をしていなかった。
これにはユウもとんでもない罪悪感を覚え、そっとそっとそれに向かって近づいてしゃがみ、声をかける。
ランスとリリーナは目をまん丸く見開き、何もできずにただただそんなユウを見守る。

「・・・お、おい、しっかり・・・しろよ・・・なぁ・・・大丈夫か・・・?」

ユウが軽く揺すりながら声をかけるも、それからは返事どころか呼吸音すらない。

やってしまった。
そう心の中で、ユウは思う。

いや、そもそもは有翼虎を狩るのが目的だったのだから何一つ問題などはないはずなのだが、あれは狩りなんかではなく明らかにただの事故である。
ユウは自分の身勝手な怒りによって犯してしまった過ちに、顔面を青くする。
ランスとリリーナは視線をそらして知らんぷりをしていた。

「・・・埋めて・・・やるか。」

ユウのつぶやきに、ランスとリリーナは黙って頷き、うつむく。

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「・・・うーん」

唸りつつ首を捻ったのはユウだ。
額には油か冷やか、よくわからない汗が滲んでいる。

「おい・・・ユウ・・・」

「ちょっと・・・ユウ・・・」

逃げ腰で震える剣を握りしめるランスと、ロッドをガッチリ握って内股で怯えるリリーナ。
三人は三角形に立ち会い、互いに背を向け合い、360度の視界に活路を見いだそうと視線をあちらこちらへと移し、また絶望する。

三人が作る三角形の中心には息絶えた翼の生えた虎、そして三人の視界を動き続けるものも

紛れもなく翼の生えた虎。

ただの数頭では済まない、陸、空、360度の視界とは別に、半球状の180度にもカラフルな虎柄。
十数、否、二十数頭の有翼虎が三人を包囲していたのだ。
それらの獣たちは、一瞬のユウ達の隙も逃すまいと威嚇を繰り返しながら周囲を回り続ける。
対して三人は一瞬の隙も見せまいと緊張の面持ちでそれらの威嚇を三身に受ける。

「・・・まいった!」

「「おいこら、ユウ」」

───ことの発端は十数分前だ、ユウが誤って一頭の有翼虎を殺めてしまったことに事態は動いた。

ユウが有翼虎を埋めてやろうと提案した後、ランスとリリーナはそれをその場に埋めてやろうと近づいた。
しかしその時ユウが一言

「・・・わかったよ、パペートさん、セリヌンティウス」

とだけつぶやき、突然
「お星様に一番近いところに埋めてやろうか」
と宣った。

ランスとリリーナは一度苦虫を噛み潰したような表情で顔を合わせたが、なんとなくユウの心中を察してしぶしぶ頷き、三人でその巨体を持ち上げてえっちらおっちらと登山を始めた。
険しいだけで周囲に何もない山道、三人、虎柄の巨体、空から見下ろすとどうだろうか。

もっと言うと、仮にそれを空を飛ぶ虎が見かけたらどう思うだろうか?
弱そうな三人の餌が、仲間の亡骸をえっちらおっちらひいこらひいこらと運んでいる。
ただ、運んでいる。

ここまでくれば説明も要らない、今に至る。

───「ごめんな!ランス!リリーナ!」

「開き直るのやめろよな!ふざけんなよ!?」

「うっ・・・ぐす・・・ランス・・・」

「んなこと言ったってよ・・・」

ユウだって盲点であったとは反省している。
そう、山岳地帯は広いのだ。
依頼の内容によるとこの広い山岳地帯で有翼虎が『幾度となく』目撃されていたという。
たまたま三人はなかなか見つけることができなかっただけで
『幾度となく目撃されていた』のだ。
一頭しかいないはずがなかった、最初から沢山いることなどは容易に想像がついたはずだ。
反省しつつ、ユウは心底後悔していた。
ランスとリリーナを連れてきてしまったことについてだ。
悪いとは思いつつ、ユウは心の中で思っていた
「俺一人なら別にどうってこともなかった」
と。

自分の街の周辺の強力な魔物たちを一人で、且つ一晩で殲滅するユウだ、たかだか羽根の生えた虎程度、文字通り羽根の生えた虎程度である。
だからユウがここで暴れれば簡単に虎は片付くが、良くも悪くも三人いる、問題が発生する。
ユウが大魔法で暴れたときの同士討ちはもちろんのこと、2人を守るような立ち回り方でちまちま魔法を放っていたのでは簡単に虎は落とせない、かといって虎を落とすことに力を入れすぎると簡単に隙を突かれてランスとリリーナがやられてしまうのは想像にするに難くない。

(クソが・・・かといってこいつらを見殺しにもできねえだろうがよ・・・どうすれば・・・)

───「っきたぞ!?ユウ!!」

「───っ!?」

「きゃあああ!!?」

ランスの言葉でユウは「はっ」とする、作戦を練っていたユウ本人に隙が生じたのだ。
上空から鋭い爪と牙を剥き出しにした虎が襲いかかってきた。
まずはただの一匹だったため、カウンターの要領でユウは難なく落とす。

「っ!ユウ!?一撃で!?」

「あほ!!油断すんな!!」

「うわぁ!?」

「ランス!!?」

「───っの!!」

ユウのカウンターに一瞬気を抜いたランスに次の虎が襲いかかる、間一髪でユウのアース=ポールがそれを上空へと突き戻した。
それを合図に虎の猛攻が始まる───

「寄れ!!!
フロスト=ニードル=リジェクト!!!」

ユウは即座にランスとリリーナを自身の隣に引き寄せて巨大な氷の針による砦を組む。
そう長くは保たないとわかりつつも時間を稼いだ。

「くそっ!!どうすりゃ!どうすりゃ!?」

「いやああああああ!!!!」

(ランスはともかく・・・)

リリーナは戦闘不能だ、獣に対する恐怖、トラウマ、一瞬ランスにちらついた死の臭い、すでに正気を保てていない。
氷の針の隙間を縫って攻撃に参加してくる虎を魔法で落としつつ、ユウは声を荒げて早口に指示を出す。

「リリーナだ!守りきれ!!お前はそれに専念!お前は俺が守る!!」

緊張した面もちで身を低く落とし、リリーナをかばうようにランスは剣を構え、力強く頷いた。
ユウはその姿を確認し、なるべく隙のできるような魔法は撃たないように意識しつつ、確実にランスの護衛に当たった。

「フレイム=スフィア・・・トラップ」


周りを意識しつつ、舞い続ける虎を睨みつつ、ランスとリリーナをかばいつつ、ユウは火炎爆弾を至る所に設置して様子を見る。
十数発のそれは陸にも空にも配置され、空に配置されたものには時々虎が当たる。
虎が火炎爆弾に当たるとそれは巨大な煙を上げつつ爆発するも、あまりダメージにはならない、せいぜい羽根に食らった虎が地面に落ちる程度である。

(撃ち落とすか、陸の奴らから片付けるか・・・)

「うわっ!!この!!」

「やるじゃん、ランス!」

意外にも、ユウがなにもせずともランスは氷の針を抜けてくる虎を確実に叩き落としている。
その腰にえぐつくリリーナをぶら下げている割には上出来だ。

「ぐすっ・・・う、ランス・・・!ランス・・・!」

「俺が・・・守るから・・・泣くな!」

言うわりにはランスも声と切っ先が震えていた。
目は死んでいないランスに一つ、ユウは安心する。
しかしこの状況下においては安心すらも油断と同義

「っと!やばい!」

また、アース=ポール。
ユウは一瞬とはいえまた油断した自分に腹をたてつつ、次の奇襲攻撃に対して備える。
発動が早く、且つ物理的で即効果の出る魔法に攻撃が絞られ、なかなか虎の一頭に致命傷を与えることすら難しい。
このままではジリ貧だ。

「あぶねぇ・・・くそ・・・このままじゃ・・・何か策を・・・」

ユウが汗をかきながら最善策を練っているそんな最中、リリーナが壊れたかのように独り言をつぶやき始めた。

「・・・きる・・・だって・・・」

「・・・リリーナ・・・?」

「できたんだ・・・私にだって・・・ティアと・・・」

「おい・・・リリーナ・・・」

一見壊れたかのように見えるリリーナに、ランスは動揺を隠せない。
動揺が、隙を生んだ。

「───っ!避けろ!!」

ユウが気づいてフォローに入ろうにも間に合わない。

「───やべっ!?」

ランスの眼前に三頭の爪、牙。
上、右、左。
逃げ場などない。
ユウが無理やり庇おうとランスの方へと体を向けた時───

───上空からの無数のレーザーが虎を焼く。

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「サテライト・イレイズ!!」

「「っ!?」」

リリーナの魔法だ。
真白く輝く槍の如く、荒ぶる虎を貫いたそれは、右から左へ、左から右へ、縦横無尽に焼き尽くす。
ゆうに十は超えているであろう美しい光の筋、それはまるで巨大な魔法陣を描くかのように大地を走り、破壊し、ユウとランスに何者も寄せ付けない。
それだけではない、リリーナのレーザーは実際にその軌跡を利用して魔法陣を描いており、レーザーの雨が止むと同時に大地が激しく光を放つ。

「リバースライトセプテット!!!」

「やばい!?ランス!逃げろ!!」

「え・・・?」

強力な魔力を感じ取ったユウは、風魔法で上空へと飛び逃げて地面に向かって多重魔法障壁を張り巡らす。
魔法陣からの反応が収まった瞬間地面から上空に向けて七本のレーザー光線、あっという間にランスとリリーナは光の中へと埋まっていった。
輝く七本の光は虹をイメージしたのであろう、赤、 橙、黄、緑、青、藍、紫と、それぞれの輝きを放ち、空へと消えてゆく。


一通り光がおさまった後、多重魔法障壁を解いたユウは地面を眺めて唖然とする。
破壊されたユウの魔法の砦
焦った様子で辺りをきょろきょろとするランスと、ランスの隣で片膝をついて息を荒げるリリーナ
その周辺に描かれたレーザーの軌跡は見事にランスとリリーナの立っている所のみを避け、十数頭の虎を瀕死の状態へと追い込んでいた。
これほどまでの『やればできる子』を見たことなどなかったユウは生唾を飲み込みつつリリーナを見下ろす。

「ランスー!無事か!!?───よっと。」

ランスへと声をかけつつユウは地に足をつける、ランスもリリーナも無傷な様で、一旦はユウも胸をなで下ろしたがまだ油断するわけにはいかない、虎が沢山残っている。
虎達も先ほどのリリーナの魔法に本能的恐怖を感じたのであろうか、後ずさりをするもの、唸り威嚇するもの、ただただ呆然と立ち尽くすものと、とりあえず猛攻は収まったようだ。

「ああ、俺は・・・それより・・・」

「ぜぇ、ぜえ・・・ふぅ、まだ、大丈夫・・」

問題はリリーナである。
自身の許容範囲を超える魔力を一気に放出したのだ、奇跡的に魔法が暴走しなかったのはよしとしても、一気に体力を消耗してしまっていた。
苦しそうに肩を上下させ、今にも倒れてしまいそうだが───

「ランス・・・ユウ・・・私も・・・やれるわ・・・!
自分の身は・・・自分で守るから!2人は残りの有翼虎の殲滅を!!」

「リリーナ・・・」

「・・・反撃開始だ!
ランス、できる限りリリーナをフォローして弱った虎を片付けてくれ!
俺は、それ以外をやる!いくぞ!」

───頼もしい。
ランスも、ユウでさえもがリリーナの姿にそう強く感じさせられた。
迷いのない力強い瞳、落ち着いた、澄んだ声
自然とユウの頭は『虎から2人を守る』から『三人で虎を片付ける』という考えへとシフトしていた。
ランスの切っ先からも震えがなくなっている。
三人は一気に攻撃へと移る

ユウは未だに飛び回る元気のある有翼虎を中心に魔法で落とし、落ちてきたものはランスが剣でとどめをさし、そんなランスを狙う他の弱ったものに関してはリリーナがランスの周囲に砲台を置いて対処する。
リリーナを狙うものは、ユウとランスの2人で潰す。

あれほどいたはずの虎も気がつけば十に届くかそうでないかの数までその姿を減らしていた。

───やれる!

三人が三人ともそう思っていた

そして、勝利に向かって焦りが生じる。

ユウも、ランスも、ただの一瞬、ほんの一度だけ、隙をみせてしまった。

そしてその悲鳴に気づいたとき、2人は頭が真っ白になり、行動に出るのが遅れた。

虎に襲われ、魔力不足によってロッドがただの木片の様に折られ

防御の手段がなくなったただの少女

リリーナの肩に、深く刺さった牙。

「リリーナぁ!!!!」

「あぐっ!・・・ランス・・・!」

「っちくしょおおおおお!!!!」

ランスが、乱れた。
ランスは己の目の前の敵すらも無視し、鮮血をまき散らすリリーナの元へと駆け出す。

「───っぐは!!?」

「ランス!?」

ユウがリリーナから目を離し、ランスへと視線を移した時、そこにあったのは虎の大きな爪痕が刻まれた背中。

やけにスローに見える世界。

ユウは、この二つの事象に妙に冷静になった。

冷静に───落ち着いているはずなのに、何も考えられない。

うつぶせに倒れたランスを前脚で抑えつけ、今まさに首筋に突き立てようと唾液で牙を光らせる有翼虎。

やらなきゃいけない。

けれど、どちらを

選んでる暇なんてない

間に合わない

皮肉にも冷静な頭に浮かんだものはどちらを助けるのかの決定でも、最善の打開策でもなかった。
何一つ守ることすらできない己の非力、無力さ。
その一瞬のマイナス思考が、魔法も、行動も遅らせて、諦めさせる。

震えていた。
ユウはガチガチと歯を鳴らし、視界を潤ませる。
格下の相手だったはずの虎相手に絶望する自分に混乱したユウは、杖を構えるも何もできない───

「っ・・・くそ・・・リリーナ・・・」

「っは・・・ランス!!・・・」

───2人の声だけが生々しく、鮮明にユウの耳へと届き、叫ぶ。

「っうあああああああ!!!」

それが、今のユウにできた精一杯の抵抗。
もうユウは何も考えれていなかった。
ただランスとリリーナの死を待つのみだった。

───砲剣撃!!!」

「!?」

突然、涙で濡れたユウの視界に入ったもの

何かの液体が入ったビン、それはランスをおさえていた有翼虎の頭で砕け、激しい炎を上げた。

「ユウ!!ぼさっとしない!!
リリーナを!!」

「───っ!
アース=ニードル!!!」

ユウの体が動いた。
リリーナに噛みついていた虎は突然地面から現れた土の針によって串刺しになる。
その口からリリーナがずり落ち、悶えた。
生きている。

「まったく!沢山のメテオール魔法が落ちたと思ったら虹色のレーザー魔法!!
なにかと思ってみにきてみたら・・・しっかりしなさいよ!ユウ!!!」

「ティア・・・ぐすっ・・・ティア・・・!!」

涙でぼやけてよく見えない視界に映る美しい巨狼、その上に跨がる少女。
聞き慣れた、一番信頼している声。

「ふぅ!・・・ババが揃った!!

いや、ジョーカーね、最強よ!」

ついでのどや顔。

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「う・・・はぁ・・・ティ・・・ア?」

左肩を押さえ、うつ伏せのまま首だけを持ち上げたリリーナがその姿を見上げる。
リリーナが知っている中で最強の人間、ティア・アルノーティス。
彼女が自称する通りの『ジョーカー』がそこにはいた。
ほっとしたリリーナから、思わず笑みと涙がこぼれ落ちた。

「う・・・ぐ、リリーナ・・・大丈夫・・・か?」

燃える頭で暴れまわり、明後日の方向へと走ったり転がったりする虎へと一瞥くれつつ、ランスはよたよたとリリーナのもとへと歩み寄った。

「はぁ・・・はぁ、大丈夫よ・・・ランス・・・」

その場の様子を確認するティア。
深い傷を負ったランスとリリーナ、折れたロッド、未だに飛び回ったり走り回ったりする十弱の翼の生えた虎。
そして・・・顔を真っ青にしつつ、膝から崩れ落ちるユウ。

「タマ・・・チャンスよ!!
特訓その8!
虎を相手に生き延びなさい!!」

ティアはタマから飛び降りつつ、タマへと指示を出す。
『待ってました!』といわんばかりにタマは虎達を相手に存分に暴れ始め、楽しそうにじゃれあう、引っ掻かれようと噛みつかれようと、突進されようともタマはびくともせずに虎達にジャブという名の引っ掻き攻撃で応戦していた。
その様子にランスもリリーナも顔を青くして怯える。
とりあえず場はタマに任され、四人は話をする機会を得た。

「やっぱりジョーカーは二枚揃ってないとね!ユウ!」

「ばがやろー!ぐるのがっ・・・ぐすっ!遅いんだよ・・・!
・・・っぐす、もう・・・だめかと・・・本当に、ランスとリリーナが・・・えぐっ!
ごめん!俺が弱がっだがら!!2人を・・・!」

「ユウ・・・
いや、俺たちがユウの足を引っ張った・・・くそっ!ユウ一人なら・・・どうってことなかったんだ・・・!」

「ユウは・・・弱くなんかなかったよ・・・
そんなに・・・自分を責めちゃだめよ・・・」

ティアは会話の流れですぐに察知した。

悪い癖だ、ユウはすぐに自分を追い込んで背負い込もうとする。
過去に自分と協力して魔物討伐をしたときと一緒だ、また一人で全てを守ろうとしたのだろう、と。

結果として大怪我を負い、自分を心配させたことをティアはわりとまだ怒っている。
しかし今回のティアのカンは、珍しくズレを生じていた。
今回ユウは別に一人で全てを守ろうとしたわけではない、三人で協力して虎を片づけようとしていた、その上で仲間の危機になにも出来なかったことにユウは自責の念を感じていたのだ。
一人で戦おうとして何も出来なかったことと、三人で戦っていて仲間の危機に動くことが出来なかったこととでは大きく意味も違う。

ここで言うユウの『弱い』は、単なる力の弱さではないのだろう。

しかし今、ティアにとってそんなことはどうでも良かった。
ただ、一言言ってやりたかった。
ティアの頭の中はそれだけだ。

「『らしくない』わね、ユウ。」

ティアは言ってやりたかった一言だけをこぼし、すぐに作戦の話に移った。

「ユウ、2人はタマに任せて、虎は私達で片づけるわよ!
あと、そのさんごの杖はユウの魔力をこめてあげてリリーナとランスの護身用に!2人はもうまともに動けないでしょ?でも、ちゃんと魔力のこもった杖があればなんとかできるでしょ!
・・・そこでランスにお願いがあるの。」

「お願い・・・?」

「あなたの『剣』を・・・ユウに貸してあげてほしいの・・・!」

「剣を・・・?
まぁ、いいけど・・・」

「ユウは・・・剣を使えるの?
ティア・・・?」

ティアの提案にランスとリリーナは首を傾げる、ランスとリリーナの中ではユウは魔法使いのイメージしかないのだから当然と言えば当然だ。
ティアはランスから剣を受け取り、『らしくない』ユウにその剣を手渡した。

「まぁ、揃ったまでは良かったの、ババ抜きだったからね。
でね?ユウ、私が、揃ったジョーカーをどうしたか覚えてる・・・?」

「・・・ぐず?
一枚だけ・・・捨てた・・・?」

涙を拭いつつ立ち上がったらしくないユウは、ティアから剣を受け取りつつ質問に答えた。
そのユウの答えに、ティアは薄い笑みを浮かべて言葉を続ける。

「そう・・・捨てたの。
これが、何を意味しているのかわかる?」

「・・・?」

「・・・にぶいわね。
『最強』は2人も要らないって言ってるのよ!
ここで私があなたを越えて、アリエスアイレス1の剣士になるって言ってるの!

さぁ!ユウ!構えなさい!
どっちが虎を沢山狩れるか勝負よ!!」

唐突なティアの宣戦布告。
リリーナの頭には疑問符が浮かぶ。

首を傾げるリリーナをよそに、ランスは生唾を飲み込んだ。
ティアが言う、聞き覚えのある響きの街の名前、その町1の剣士。
名前が『ユウ』

一瞬はユウも驚いた反応を見せたが、ティアからの宣戦布告、ユウが乗らないはずもない。
ユウはティアから受け取った剣を構え、小さく笑った。

「・・・面白れえ!
やってやるよ!魔法じゃ確かにお前にはかなわねえけど、剣なら俺だってお前にゃ負けねえよ!」

(これでいい・・・)

剣士だろうと、魔法使いだろうと、ユウはこうでなくてはならないとティアは思う。
どんな勝負だろうと自分と全力でぶつかってくれる、自信の塊のような男。
出会った時と同じ───あの時のユウ。

「タマ!戻って!
ランスとリリーナをお願い!」

ティアはタマへと声をかけてランスとリリーナの護衛に当たらせる。
しぶしぶだが、ひとっ飛びで戻ってきたタマにリリーナは小さく悲鳴を漏らす。
───ランスは、ただ、ユウを見つめる。

「そう、見せて───ランスが・・・いいえ、私が憧れた、あの時の───

「・・・?
なんか言ったか?ティア?」

「・・・なんでもないわよ。
さぁ!いくよ!絶対に負けないからね!!」

2人の剣士が、虎の群へと剣を構えて飛び込んだ。

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「「一匹目・・・」」

同時に併走した2人の前にまず一匹目の有翼虎が立ちはだかる。
向かって左側の爪を振ってきたため、左側を走っていたティアがその爪を剣でさばいてみせる、そしてユウはその隙を見逃さない。

「もらった!!」

「───あっ!!」

「「・・・!!?」」

ティアの剣で右前足を弾かれた有翼虎、ティアがそのまま攻撃に移ろうとしたとき───既に事は済んでいた。

ユウだ。
ユウが本当に力を込めたのかどうかわからない様な軽やかな連撃を虎の左側面に回り込んで決めていた。
ティアは「ずるい!」などと余裕を見せるような大声をあげつつも焦りを覚える。
ユウは剣技を使えるわけではない、にもかかわらずその軽やかな連撃はまるで切影を使ったかのように数本の裂傷をつくり、喉元への一太刀に関しては煌閃を使ったかのような鋭さ。
ティアが『剣技によって補う』部分を、ユウは剣を振るときの体重移動、力を込めるタイミング、斬り込む角度、速度、その他諸々の『己の技量』のみでやってのける。
ランスとリリーナが間抜けな声をあげて驚くのもそのはず、ユウが初めて握ったはずの剣を突然使いこなしただけではなく、2人からしたらランスの剣の切れ味が突然上がったようにすら見えたのだ、あれだけ苦戦していた虎を、一瞬の隙から作った一瞬のみで沈めてしまった。

思い当たる節のあるランスは、リリーナ以上に混乱した。

「・・・まさか・・・本当にあいつが・・・!?」

「え!?ランス!?どういうこと!?」

(・・・流石ね・・・ちょっと悔しいじゃないの!
でも、宣戦布告した以上は・・・!!)

ティアも負けてはいられない、ティアにとってこの勝負はそもそも自分が有利な点が多い状態から始まっていたからだ。

まず一つ、メイガスエッジを使っているという時点でティアの方が圧倒的有利である、そこらのナマクラとは比べものにならないほどの武器を作るティアの親友、アイリが『とっておき』を使って自信を持って作ってくれた名剣なのだ。
ましてやティア専用に作ってもらったティアにとっての最高の剣、初めて握ったランスの剣を使うユウなどには絶対に負けられない、ティアにとってこの勝負は自分のみではなく、アイリの名誉も賭けた闘いである。
これは、ティアにとっては今回一番のプレッシャーだ。

二つ目は剣技。
いわずもがな、ティアの代名詞。
言ってしまえば『インチキ』である、いくら自分が努力で手にした力とはいえ、ユウからしたらまず間違いなく『インチキ』
本当は純粋にユウと剣の勝負をするときぐらい、ティアだって剣技は使いたくはなかった、しかしリリーナの時とは状況が違う、ユウと同じ土俵ではユウに勝てないことを認めるようで悔しいが、やはり負けたくない以上ティアは本気で剣技も使うことにした。
それだけ本気をだしているのだから、この勝負はティアにとっては本当に後がない。

三つ目、ここにきた時点での体力、ブランク。
ユウ達はティアが助けにくる前から虎達と闘っていたのだ、当然タフなユウでも万全とはいかない。
そしてブランクにしても、ずっと剣を握っていなかったユウ、最近遺跡で鎧を相手に剣で立ち回ったがあんなのはブランク解消の足しにもならない。
そのことはティアも重々承知だ。

(・・・ふふ、楽しいわね!
・・・絶対的に有利な私に張り合ってくるなんて・・・生意気よ!ユウ!)


2人は倒れゆく一頭目の虎からすぐさま目を離してそのまま直進、左右二手に別れる。
ユウが右側の虎の集団へ、ティアが左側の虎の集団へと駆け込む。

「おおおりゃああああ!!!」

「てやあっ!!!」

タマ以上の2人の暴れっぷりにランスとリリーナはただ息をのんだ、飛び散る虎の毛、血、2人も傷を負っていくがなぜかびくともしない。
それどころか2人とも3~4頭ずつの虎を同時に相手にしつつ押している。

「・・・アリエスアイレス1の剣士・・・ユウ・・・間違い・・・ない・・・!」

「ランス・・・?」

「あいつだ、あいつだったんだ・・・リリーナ・・・
あの『ユウ』が・・・お前の言ってた『ユウ』だよ!!
俺の・・・憧れの・・・!」

「・・・っな!?ほんと!?ランス!!?」

口には出したがリリーナも疑ってはいない、あの化物ティアと並んで剣を振る男、本来魔法使いのはずのユウが、化物剣士のティアと張り合っている、初めて握ったランスの剣で。
リリーナの中でジョーカーが2人に増えた。

「っつ!!」

「うわっ!?」

2人が同時に虎からの攻撃を食らって2、3歩ほどよろめき下がった。
───2人が、背中を合わせた───

「───!?
なんだよ情けねえな、よろついたのか?」

「───!?
冗談!攻撃を避けたついでよ!避けきれなかったけど!」

2人は背中に互いの体温を感じつつ、威嚇を続ける虎を見回し話す。
2人には不安も恐怖もなかった、そこに有るのはただの幼い意地とプライド。
意味の無いことだとは自覚している、理由だってただ喧嘩を売っただけと、買っただけのこと。
しかし、それだけのことが、それ以上になく2人を熱くする。

───お互いを

ライバルだと意識している故に───


「ふう!一度やってみたかったのよね!これ!
でも・・・共闘なんかしないわよ?
少なくとも私はまだまだ余裕だし、勝ちを譲るつもりもない!!」

「言うじゃねえか。
ハンデまでいっぱいあるんだから精々頑張ってくれよ?
ま、俺が勝つけど・・・な!!」

ユウは一旦ティアから背中を離し、その背中を押すように自分の背中をぶつけ、反動で虎の群へと再度切りかかる。
ユウの背中に押し出され、ティアの中の何かに火がつく。

「悪いわね・・・ユウ、ハンデ───もらうわよ!!

切影飛爪轟槌刃!!!」

大技。
遠慮無しの大剣技。
ユウがちまちまと真面目に虎に切りかかる後ろで、盛大な虎の断末魔が響く。
つくづくインチキすぎると思いつつ、苦笑いを浮かべたユウも、本気を出して虎狩りに入った。

「ふふ・・・今ので二頭は戦闘不の───っ!?」

「っだりゃああああ!!!」

ユウは自身を狙う虎達に突然背を向け、背中から攻撃を受けつつもそれをものともせずにティアが仕留め損ねた虎を狩りにいく。
さすがの反則じみたごり押しに怒りをあらわにするティアも

「うわ!?ユウ!あ!それ私の!!───っの!!食らえ!!」

反則で仕返しをする。

「───ぐはっ!?てめえ!!味方に対して切りかかりやがったな!!
許さねえ!
つか!虎!うるせえ!!」

ティアからの攻撃にのみ明確なダメージを受けたユウは、ちゃっちゃと自身を狙う虎を片付けてティアへと切りかかった。
ランスとリリーナは豆鉄砲を食らった鳩の様な表情で言葉を失った。

「───っちょっ!?なに!?私を狩ろうっていうの!?
これだからさんご派は油断ならないのよ!
成敗してやる!!」

「うるせえ!先に攻撃したのはお前だ!!
そもそもスタートがめんどくせえんだよ!最強の剣士になりたきゃ最初から俺を倒してみやがれ!!」

「虎!うるさい!タマ!残りの虎を片付けて!!
私はユウを殺るわ!!
やってやるわよ!私にかかれば魔導師かぶれの邪道剣士───

「それはおまえだ!食らえ!」

「なによ!剣技は立派な剣技よ!
そんなのずるいよ!!」

ティアの指示通りに、タマはランスとリリーナを無視して残りの数少ない虎とじゃれあい始めた。
新しいおもちゃを与えてもらった子供のようにはしゃぐタマに、ランスとリリーナはまた青ざめる。

もうここまでくればランスとリリーナが危機にさらされることもない。
とりあえず、ランスとリリーナはほっと一息つき、喧嘩する2人の様子をずっと眺めていた。
ひたすら眺めて、リリーナが呟く。

「・・・ふふふ、ねぇ、ランス。
私、あの2人が強いの、なんとなく納得したよ・・・ふふ!」

「・・・そうだな・・・
なぁ、リリーナ───


2人とタマががやついていたせいで、ランスの声はリリーナにしか届かない。
ランスの話に、リリーナは一度目を丸くして驚いたが、次の瞬間には笑顔で頷いていた。
ランスとリリーナは、今後の『2人』の予定を立てつつ、ユウとティアの喧嘩を見守っていた。

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「あっはっはっはっは!
うは!うははははははは!」

「うふふ、うふふふふふ!
きゃあああああ!!」

「「・・・」」

「・・・ふぅ、すまねぇ、ランス・・・俺が悪かったよ・・・。」

「いや、ごめんね。
私もちょっとムキになりすぎたと反省してるの、弁償するよ・・・。」

「・・・いやそれはいいんだけどさ・・・なんで笑ってたんだ?おい。」

2人の喧嘩は十数分の激闘の末に決着が付いた。
いや、正確にはユウもティアも不完全燃焼だ、最後の一撃でティアが轟槌剣打を振り、負けじとユウも渾身の力で剣を振り当てた結果、ランスの剣が見事に折れた。
ちなみにメイガスエッジに関しては刃こぼれの一つもなく最終的に今回の話は虎に大怪我を負わされたあげくに剣まで折れたランスが踏んだり蹴ったりな結果となる。

「いや、やっちまったときってさ・・・笑えるだろ?」

「ちょっと・・・ユウ・・・」

「とりあえずユウが反省してねえのはわかったよ。
・・・まぁ、憧れだった剣士の腕を持ってしても折れちまったんだしな、ナマクラだったってのを認めるしかねえよ、別に怒っちゃいない。」

「そうね・・・まさかユウが本当にあのアリエスアイレス1の剣士だったなんて・・・」

驚き、呆れ、ランスもリリーナもただただ2人に視線をいったりきたりさせるだけであった。
ランスもリリーナももうすべてがどうでもよくなっていたが、ユウはまだ勝負の結果に納得がいっていない、すかさずリリーナの言葉に激しく反応する。

「聞いたか!?ティア!今リリーナが俺のこと『アリエスアイレス1の剣士』だって!ほら!俺の勝ちだ!やったぜ!」

「違うよ!リリーナはユウのことを『アリエスアイレス1の剣士だった』って言ったじゃない!過去形なの!私の勝ちなの!塗り替えられたの!!」

「「・・・」」

不毛だ。
そう感じ取ったリリーナが少々強引に話をずらす、ランスが先ほど提案したことを、二人にも伝えるために。

「・・・ランスが私にとっての一番の剣士に決まってるでしょ!?二人ともお黙りなさい!
・・・ところでさ・・・『仮契約』の話なんだけどさ・・・」

リリーナの話にユウとティアがどや顔を浮かべる。
正直なところ、2人の間でなんとなく答えはでていた、ユウもティアもこれからは4人と一匹の旅も悪くないと思っていて、あとはタマとリリーナの関係改善のためにこれからはタマにテコ入れするつもりであったのだ。
タマの可愛らしさを持ってして堕ちない人間などいないことを、2人はわかっていた、手始めにまずはタマの特訓風景をリリーナにも見せてやることから始めようとティアが口を開こうとしたときだ。
ランスが、話を始めた。

「ああ、そう。
仮契約の話・・・だな。」

「「・・・?」」

頭をかきつつ、少し迷った様子で苦笑いを浮かべるランスにユウもティアもまゆをひそめる。
その後、予想していなかったランスの言葉を聞いて、2人は間抜けな声をあげた。

「俺たちからさそっておいて悪いんだけど・・・なかったことにしよう!!」

「「はぁん!?」」

「・・・あ、あの・・・私からも謝るわ。
ごめんなさい、話は・・・ランスが・・・」

「どうして?私たち、きっと仲良くなれるよ・・・?
みんな一緒のほうが楽しいでしょ・・・?」

「ま・・・まぁ、そ、その、あれよ!私はランスの意向に従うつもりだし、そもそも私は獣・・・その子が苦手よ!だめなの!!」

無理矢理だ。
リリーナは合理的な性格らしく、実はランスの意向にはまだリリーナも少し納得がいっていなかったらしい。
これらの理由はリリーナが自身を納得させるために無理矢理今考えた理由であるのだろう。
そのことにすぐさま気づいた2人は、リリーナの言葉は参考にならないと感じて黙ってランスの言葉を待った。

「すまねぇな。
リリーナまで巻き込んじゃって・・・
理由は俺の勝手さ、俺たちは、お前たちとは旅をできない!」

「・・・なんで?」

「・・・お前だよ・・・ユウ!」

「・・・なんで俺?」

「それはな・・・俺は・・・悔しかったんだ!」

「・・・は?」

「俺よりもずっとすげえ剣の才能を持ってるくせに魔法使いになんてやりやがって!
それでいて剣でも魔法でも俺はお前の足元にも及ばない!
・・・悔しかった・・・俺も!強くなりてえんだ!」

「・・・ふん、で?
それがなんで一緒に旅をできない理由に?」

ユウは性格が悪い。
ティアはそう思った、微妙に笑いを堪えたかのような、全てを悟ったようなユウの表情から考えを全て読み取ったからだ。
ユウはもちろんランスの言いたいことに気づいている、しかしあえてそれを言わせるために聞く。
もしかしたらティアは気づいてないかもしれないと思ったユウの気遣いなのかもしれないが、ティアだってもうユウの顔をみてわかっている。
しかし、ティアはここで水をさしたりはしない、男同士に割って入ろうなんて『いい女』のすることでないとわかっているからだ。
ティアもニコニコしながらランスの言葉を待つ。

「俺たちは、お前たちと一緒にいたら絶対に強くはなれないんだ・・・
またこういう事があったときに頼ってしまうだろうし、そもそも俺はお前たちを抜きにして強くなりたい!

ユウ!ここに宣言する!!
お前は今日から俺の『ライバル』だ!!
今は全然届かねえかもしれねえ!
けど・・・約束する!
俺はいつか必ずお前を超える!!
そして約束しろ!
次にあったときには俺と戦え!
剣だろうと魔法だろうと、俺はお前になんかぜってえ負けないからな!」

ユウの表情が期待と高揚感に染まる。
あの夜、これに近い表情を見せていたユウをティアは思い出す。
少し、笑いがこぼれた。

「・・・ははっ!聞いたかよ!ティア!
ランスの野郎が俺を超えるだとよ!」

「こら、ユウ!茶化さないの!男の子でしょ!?」

「そうだな・・・
おもしれえ、ランス!望むところだ!
次だろうと、その次だろうと、俺は剣でも魔法でもお前を圧倒してやるよ!
覚悟しやがれ!!」

ユウがランスの元へと歩み寄り、右拳を突き出す。
その拳に、ランスの拳が突き当たった。
そして振り返り、一言だけランスは言った。

「いくぞ!リリーナ!」

「えっ!?ちょ!まってよ!ランス!」

ランスの最後の一言は別れの言葉ではなく、リリーナとの旅立ちの言葉であった。
小さくなっていく二人を見送って、いたずらな笑みを浮かべてユウの顔を覗き込んだティア。

「ふふ・・・いいね、私はランスみたいにはなれないわ。
男の子同士にしか、わからないこともあるんだろうしね?」

「うん!そうだ!男同士にしかわからんことだってあるんだ!」

「・・・ホモ。
・・・さ、私たちもがんばらないとね!
ユウとランスだけじゃない!
私とリリーナだってライバルなんだから!」

2人も、談笑しつつ帰路についた。

この時は、まだユウもティアも、ランスもリリーナも知らなかった───

───このあと、たまたま入ったレストランにて再び全員が顔を合わせることになることを。

しかし、そのときに顔を合わせたユウとランスはもう『仮契約中の仲間』ではなく、立派な『ライバル同士』になっていた。
その日、そのレストランではある賭け事が店内を賑わせる、

2人の少年の大食い対決だ。


呆れたティアとリリーナは2人で話を始め、そのなかでリリーナがティアにお礼も込めて獣祭りの日に渡したいものがあると切り出した。

なんだかんだでその日の晩にも合流した4人でトランプ大会をし、翌朝を迎える。

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ホテルの入り口に四人の男女と一匹の仔ウルウルフの姿があった。
仔ウルウルフを除く全員が全員、寝不足な様子で目の下に隈を作っていた。
トランプ大会については調子に乗ったティアがババを四枚混ぜていたために収集のつかない内容になってしまい、決着がつくことはなかった、それ以外にもダウトやUNOなんかで遊んでいたらすでに外が白み始めていて今に至る。
ユウの髪はボサボサで、もともと不健康そうな顔をさらに不健康そうに見せる、もちろん当人も元気がない。
ティアは忘れているのかわざとなのかは不明だが、顔を洗うときに使ったピンがつきっぱなしでおでこを出しっぱなしだ、もう前髪に癖がついてしまっていて、おそらくピンを外したところで前髪が立ち上がってしまうのだろう、だからつけているのかもしれない。
ランスはでこに魔導冷湿布を貼っている。
昨夜はユウがいたずらに魔力を込めて急激に冷やしてみたりして二人で喧嘩を始めたりもしていたが、少なくとも今はユウにもランスにもそんな元気はない。
リリーナは不健康そうな顔を隠すためにメイクに力が入っていた。
真っ白に粉ふく顔、やけに太くなった眉、不自然にピンクの頬、プリンプリンに膨れ上がって毒々しい赤に染まった大きな大きな唇、リリーナの女子力も眠気には勝てなかったらしく、メイクに関しては完全に失敗していた。
リリーナがぷぱぷぱと音を立てながらそのプリンプリンの唇で会話をはじめる。

「それじゃ、昨日話した通りよ!
獣祭り、楽しみにしてるわよ!ティア!」

「うん!絶対応援にきてね!タマも頑張るからね!
リリーナ!あと唇プルプルしすぎ!」

「いいのよ!プルプルしててかわいいでしょ!?
それと・・・私は別にその獣を応援する気なんて・・・その、義理よ!!」

「ほんとだ・・・お前少しプリプリしすぎだぞ?リリーナ・・・
まぁ、そんなことよりだ!ユウ!死ぬなよ!お前を倒すのはこの俺だけなんだからな!
これからもお前も成長すること!楽しみにしてるからな!」

「ああ!それより先に俺はタマに喰われるかもしれねえけどな!笑えねえぜ!
リリーナはプリンプリンで笑えるな!たらこなんてレベルじゃねえな、うはは!」

「うるさい!
ランス!いこ!今日は私たちも手合わせするんでしょ!?
早く新しい剣とロッドを買いにいきましょ!?」

「おう!それじゃな、ユウ、ティアさん!また会おう!」

ランスの右手にユウの右手、左手にはティアの左手がつながれた。
ユウは自分の左手を捕まえようとするティアの右手を必死に避ける、ランスとリリーナの二の舞になるのをおそれたのだ。
別れの挨拶もそこそこに、先にホテルを出たランスとリリーナを見送り、残った二人と一匹は今日の予定を立てていく。

「目標を!ティア!」

「アリエスアイレス2の剣士をタマが撃破!!」

「ふざけんな!よし!行くぞ!!」

タマはひたすらユウの足に頭突きを続けていた。
ユウはもうタマを相手にしている元気もなく、とりあえずタマトレにつきあうことにする。

「なぁ、昨日のタマの様子をみて思ったんだけどよ、タマは完全に実践トレーニング向きな性格なんじゃねえか?」

内心もう砂浜を走らされたりはしたくなかったユウは栄養補助食品をかじりつつ、ティアへと提案した。
ユウから余った一本を受け取りつつ、でこを光らせたティアはすぐにユウの考えを見抜いて反論する。

「何言ってるのよ、お父さんが走りたくないだけでしょ?
お見通しよ。
基礎戦術も身についてない時点で実戦なんてまだ早いわ。もぐもぐ。」

「・・・ちっ。」

「でも、そうね、確かに今日は疲れたよね。
よし!今日はタマトレも休みにして、遊んでみましょうか!ユウ!」

「・・・!
お母さん、これもう一個やるよ!もぐもぐ!」

ユウからさらにもう一本の栄養補助食品を受け取り、得意げに鼻息を荒くして頷いたティアはタマの口にも栄養補助サラミをほおり込みつつ笑顔を見せる。
がふがふとサラミにかぶりついては再度ユウへと頭突きを始めるタマ。
その様子にユウは何気なく思ったことを口にしてみる。

「なぁ、確かさ、獣祭りの2週前に───

引き金は軽く、何気なく放たれた弾丸は、ユウ自身に命中する。
数十分後、そこには巨狼にまたがり砂浜を駆け抜ける黒服白杖の魔法使いがいた。

「はい!!まだユウの魔法のタイミングがあまい!!
あと3秒は縮まるわ!!
風に・・・なりなさい!!」

「っちくしょー・・・なんでこんなことに・・・」

先ほどまではでこを出して優しかったお母さんは、前髪をゴムで結んで角のように立たせた白ジャージの鬼になっていた。
ユウが何気なく気になって口にしたこと、獣祭りの2週前には『獣レース祭り』が開催されているということ。
思い出させてしまった、ユウの口から『獣レース祭り』という単語を聞いた途端にティアはユウの手を握り、タマを抱え上げてホテルの中へと駆け戻った。
すぐさま特訓の準備を始めたティアが叫んだ一言

「ユウ!!風になるのよ!!」

ユウは絶望した。
自らの言葉で己の死へのマラソンの速度を加速させてしまった。
ティアは、獣祭りに向けての特訓も兼ねて、ユウとタマのタッグでタマを獣レース祭りに参加させることにしたのだ。

しかし、純粋な戦闘特訓をさせるよりは自分の生存率もあがる、ユウは自分にそう言い聞かせながらしぶしぶティアの意見に乗っかった。
それにユウは多少楽しみでもあった、勝負事に自身が参加するのである、やるからには───負けたくない。

「いくぞ!タマ!
ウインド=タマ!!」

タマの尻に向かっての突風、コントロールがままならないせいでタマにはなにも作用せず、自身の背中に突風を受けたユウはバランスを崩してタマから落狼し、砂浜を転がり回った。

「うぐ・・・くそ・・・もう一回だ!タマ!俺と世界をとるぞ!!
ティア!タイミングの指示を!!」

「やる気になったわね・・・ユウ!
あと10往復!
やっぱり獣王だけに!!」

「おう!やったる!」

「ちょ!ユウ!?なにタマに乗ろうとしてるの!?」

「え!?」

「ユウも走るの!私も走るから!ほらいくよ!」

「・・・」

獣レース祭りまで残り二週弱。
ユウとタマのプライドを賭けた努力が始まる。

「もう10往復!!!猛獣だけに!!!」

「っちっくしょおおおおお!!!」

その日、日が沈む頃には夕日に向かって走る二人と一匹の姿があった。

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ユウとタマのタッグトレーニングが始まった悪夢の初日の翌日、ティアが持ってきた一枚の紙。

中には獣レース祭りの概要が記されていた。

さすがに精神論だけで闇雲にトレーニングを続けても効果が薄いと感じたティアが朝一で闘技場に出向いてとってきたものだ。

朝からティアが居なかったため、仕方なく1人でホテルの朝食バイキングをとっていたユウは、食後のコーヒーを啜りつつティアの持ってきたそれへと視線を落とした。

「お前、昨日あれだけ走ったくせに元気だなぁ・・・
朝っぱらからこんな紙切れ一枚のために・・・感心するぜ。」

呆れ顔のユウの向かいに座り、ハムエッグをフォークで拾いあげるティアは、ついでに向かいでコーヒーにミルクを足している男に対しての不満もあげる。

「どうして参加する本人のユウがそうも他人事なの?
だめよ、タマだってこんなに頑張ってるのに負けちゃったら可哀想でしょう?
───あっ、ほらぁ、ユウのせいでハムエッグが目玉焼きと焼きハムに分かれちゃったじゃない!
罰として今日は砂浜86往復!ハムだけに!」

ティアは小難しい顔をしながら目玉焼きから剥がれたハムをフォークで折り畳んでいる。
その隣の席の椅子の上ではタマがすやすやとはなちょうちんを膨らませていた、どうやらまだ昨日の疲れがとれていないらしい。
ティアの言いたいことはユウもわかっている、ユウだってタマが好きだ、疲れで寝坊しちゃうほどに頑張っているタマを全力で応援したいとも思っている。
そう、応援したいと思っているだけなのだ、自らが砂浜を86往復もしたいとなんて一ミリも思っていない。
ある意味ただの被害者であるユウは、他人ごとだと思っていても仕方がないのかもしれない。

「お前の気分と朝食のメニューだけでトレーニング内容まで変えられてたまるかよ。
なんだよ・・・ハムだけにって・・・」

「苦!このサラダゴーヤが入ってる!?
58往復追加ね!
それよりさ、ユウ、せっかく取ってきたんだからちゃんとその紙みてよ、多分大事なこととかも書いてるよ?」

「はいはい、ゴーヤゴーヤ。
なになに・・・?
『獣レース祭り!について』
ふーん、『獣レース祭り』じゃなくて、正式には『獣レース祭り!』なんだな。
すげえじゃん。
『ルール説明

○一番最初に闘技場を三周した獣が優勝です。

○搭乗者が、乗っている獣から落ちたら失格です。

○武器、魔法、薬品、その他諸々なんでもOK!ライバルを蹴散らせ!』・・・ん?

おい、ティア・・・これ。」

なにか、不吉な文字を見たような気がしたユウは、ティアに確認をとらせつつコーヒーに砂糖を加える。
ティアはバラバラになったハムと目玉焼きを再び一つにまとめつつ、ユウが見せてきた部分と、その下の文も読んでいく。
二人の顔色が変わる。

「・・・え?

『なお、レース中に起きた事故による怪我などの責任は全て自己責任でよろしくお願いいたします。』・・・事故だけに!『我々運営側は仮に死亡事故が起きたとしても・・・
え!?死亡事故!?ユウ!?タマと一緒に死んじゃうの!?」

再度、ハムエッグをバラバラにしつつ、ティアが慌てふためく。
あろうことか、ティアが持ってきた獣レース祭り!の公式ガイドには赤字ででかでかと『死亡事故』の文字が書かれていた。
頻度は不明だが、公式ガイドにそう書かれているのだ、間違いなく、過去に一件以上の死亡事故がレース中にあったということをそれは証明していた。


「おいおい、勝手に付け足すなよ。
『事故だけに!』なんて書いて・・・え?

 死 ぬ ? 

だって??
ちょ!?なに!?みせろっ!!!ティア!!!」

「わぁ!?ユウ!?
・・・ペッ!ペッ!!ちょっと・・・なによー・・・」

ユウは砂糖を撒き散らしながら身を乗り出し、ティアの手元を凝視する。
気のせいではない、ティアから奪い返した紙、落とした視線、確かにユウの視線の先には『死亡事故』の文字が。

ユウの死亡率が、単純に二倍に跳ね上がった。

しかも、あらかじめ入っていた予定を無視して割って入ってきたのだ。
まだまだ先のある若者に突きつけられる現実、二つの死。
まだまだ先があるということは、逆にいうとまだまだ経験が浅いことを意味する、その経験不足の浅い器に、人生の最後を意味する死。
それも二つ。


ユウの思考が停止する。

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・ちょ・・・ユウ・・・?」

「・・・愛してるぜ・・・」

「・・・ん?・・・ちょ!?ユウ!?なに!?なにしてるの!?
え!?やめなよ!そんなことしたらコーヒーが・・・!!?」

しばし、遠い目をして固まっていたユウが突然ゆっくりと動き出し、ティアの皿からハムとゴーヤと目玉焼きをつまんでそれを無造作にコーヒーへと沈め始めた。
しかしその視線は上の空、コーヒーなどは視界に入っていないようにもみえる。
その瞳には光がなく、ティアの作ったパペット人形のような悲しい色をしている。
そしてユウはそのままカップを持ち上げ───

───口へと運ぶ。

「・・・ずず・・・」

「の・・・飲んじゃった・・・!!」

「なぁ、ティア?」

「っ!?・・・な、なに・・・?」

「コーヒー、おいしい。」

「・・・」

『あの時、気がついたら私は謝っていたの。
別に悪いことをしたわけじゃないんだけど、私には謝ることしかできなかったの。
・・・涙が、止まらなかった・・・』

その時の状況について、後のティアは語る。

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