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ため息が出た。
鬼気迫る様子でおっさんが船内から出てきたもんだからな、一言目に「おい!!海賊船だ!!ちくしょう!!」とか言ってやがるもんだからな、そりゃため息も出る。

「ユウ・・・」

やはりティアが心配そうな様子だ、そうだろうな。
海賊の狙いはどう考えても船の中身だ。
だから遠距離砲撃で船を沈められるといった可能性は低い・・・はず。
そうなると船の上での戦闘になる確率はほぼ100%、そして俺達からしたら海賊共があの遺跡の鎧より強いとは到底思えん、よくて海賊1人と鎧一体で互角ってところだろうな。
そして海賊は鎧のように復活はしない・・・生きているのだから当然だ。

そう、人間は、復活なんてしないんだ。

これが逆に、俺とティアの頭を悩ませる。

「昨日の夜、話しただろ。
ちゃんと聞いてたかわかんねえけどな。」

「聞いてたよ・・・殺らなきゃ、殺られる。」

「ああ、ためらうな、仕事なんだ!
ここで海賊を見逃してみろ!あいつらにまたひどいことをされる人間がでてくるぞ!
・・・あの船・・・沈めるぞ!ティア!!」

「・・・うん!!」

そんな話をしている間にも海賊船は大きくなっている。
俺たちの船はというと、慌てて方向転換中だ。
そして俺達の視界に数粒の黒い粒がはいってくる。
大砲を────撃ってきた!!

「うわぁぁ!おい!どうするお前らっ───ひいっ!!?」

船の少し後ろと少し横に粒から巨大な鉄球へと巨大化してきた砲弾が沈み、盛大な水しぶきをあげ、おっさんの話を中断させる。
やはり当てるというよりも、足止めが目的の威嚇射撃だ。
おっさんは気づいてねえか。

「落ち着け、おっさん!
あいつらの狙いはたぶん積み荷だ!だからそう簡単に積み荷ごと船を沈めようとはしねえよ!
ありゃただの威嚇だ!外すように撃ってきてる!下手に船を動かしたらかえって当たりかねねえ!ここは動かねえのが正解だ!
・・・俺たちがやるから、あいつらに船つけさせてくれ。」

「なんだと!?あいつらこの船に乗せて、ここでお前らと戦うって言うのか!?ふざけんな!俺たち以外の乗組員もいるんだぞ!?」

「ちがう!ある程度近づいたら先手を打つんだよ!
俺たちが海賊船内に攻め込むんだ!
海賊どもがこの船に乗り込んでこれない距離から俺たちはあの船に乗り込む!」

「そんなことっ───

「できる!この通り、俺は魔法使いだぜ?
やってみせますよ!」

おっさん、少しにやけてるな・・・信じてくれたか?
ティアも剣を抜いてる、やる気だな・・・!

「ユウが1人で乗り込む気!?」

「いや、一気に2人で乗り込んで一気に撹乱する!
俺は風魔法で、お前は強化したタマに乗って!」

「そんなことできるの!?すごいっ!!」

なんだよ、なんでこんな状況でそんなに目ぇ輝かせれるんだよ。
まあ、その方がこいつらしいか。

「できるさ!あのタマジローさんの魔法を、このタマにかけるんだぜ!?
・・・大丈夫・・・かな?」

「っえ・・・、そこ、私に聞くの・・・?」

いや、間違い無く大丈夫なはずだけど・・・タマジローさんの強化魔法が実質どこまでタマに有効かは俺もよくわからない。
ましてやかけられる側がまだ獣としても未熟すぎるタマなんだよな・・・自信なくなってきた・・・。
こんな時でもあくびをしているタマ・・・いや、ある意味大物なのかもしれない。

そうこうしている内に指示が通って貨物船は止まり、海賊がどんどん大きくなっていく。
依然として砲弾の雨は止まない。

「さぁ、そろそろだ。
タマ!ティアのこと頼んだぞ!」

「逆だよ!タマのことは私がまもるんだから!」

「はいはい、それじゃ、タマ、いくぞ!」

文字通りビーストウォーリアをタマにかけてやる。
めきめきとタマが成長するようなこの感じ、あまり気持ちのいいビジュアルではない・・・が、相変わらず変身後のタマは神々しい。

「・・・」

「・・・どうした?ティア?」

「も・・・もっとさ、魔法少女みたいな変身期待してたんだけど・・・なんか、あれだね、無理矢理感がすごい・・・ね。
しかも、あっさり・・・。」

「なんだよ、魔法少女って・・・
まぁ、俺も最初に見たときはちょっと焦ったけど。
さあ、乗ってやれ。」

タマは何を言われることもなく、身を伏せてティアが乗りやすいようにしてやってる。
本当に賢くなってるみたいだな、神々しい上に賢い、かっこいいな。タマ。

「───っ、お、あああ・・・きゃあああ!すごい!タマ!私のこと軽々と乗せてる!?
重くないの!?タマも女の子なのに!重くないの!?」

でも相変わらず瞳をウルウルさせるだけでタマの考えていることはよくわからんな。
っと、こうしてる内に海賊船が俺の射程距離に入ったな。
船の大きさはこの貨物船と同等程度か。
・・・やってやる!

「フレイム=アロー=レイン!!」

「っちょ!?ユウ!?」

クリティカル!あれだけデカい船だもんな!そりゃ雨魔法でも全弾あたるよな!
帆は燃えてるし、船の至る所の火消しに船内の海賊どもがでてきやがった!
これでもうあの船は修理しねえとつかえねえ!
それならあいつらはこの貨物船ごと奪おうと考えるはず・・・なら、俺たちが戦っている間にこの貨物船が沈められる心配もない。
ん?海賊船からなんか、飛んできた。
ああ、なるほど鎖か。

「わっ!ユウ!?なんかかぎ爪がついた鎖がいっぱい飛んできたよ!?」

そのかぎ爪は船の至る所に引っかかる。
鎖の先をみると海賊船の乗組員が必死でそいつを引っ張ってる・・・やっぱりな。

「ティア!いくぞ!あのかぎ爪引っ張ってる奴らから優先的にやっつけて、かぎ爪は海に捨てちまえ!
そうすりゃ船に
あいつらが乗ってくることはねえ!」

「あっ!ユウ!待ってよ!」

大丈夫だ、俺が風魔法でとべるくらいの距離なら、タマがなんとか・・・え!?

「ぬわああああん!!!?ユウーー!??
タマが!?いやああああっ!!!」

───マジかよ!?
先に船から飛び出した俺を軽々と追いこす神々しい獣とその上に乗るティア。
しかも変に、俺よりもずっと高めに跳ぶサービス付き。
こいつはちょっと予想外・・・いや、予想以上だ。

届くかどうかなんて心配いらなかった。
たぶんタマだけなら海賊船そのものを飛び越すぐらいもできたんじゃねえのか!?
タマが、音も立てずに海賊船に着地をする。
神々しい。

「なんだこいつら!?
狼と女だと!?生け捕りだ!狼は殺せ!女は生け捕りにしろお!」

おお、なんか、そのセリフ海賊っぽい。
続いて俺も着地っと。

「男も降ってきたぞ!?殺せええええ!」

ああ、そうかい。
ティアばっかりずるいぜ。
しかしこいつら───
───躊躇いねえな。
殺人も日常茶飯事か、かえってやりやすい。

「来いよ!ヘルフレイム!!」

「っぎゃあああ!あちい!?火だ!こいつ!魔法つかいだあああ!」

「魔法つかいだとう!?殺せええええ!」

見た目と跳んできた段階で気づけよ!!
つか、やっぱり「殺せええええ!」なのかよ!?
なんか・・・うん。
そういえばティアは───!?

「うおおおわああああ!?
狼を殺せええええ!」

「へぐっ!?狼をっ!うへぐ!?」

「ぬわああああ!タマ!降ろして!!やめてこわい!!やだっ!いやああああっ!!!」

・・・嗚呼、タマ無双。
なんか、ぐるぐる回るタマの周りの海賊達がピンポン玉みたいに飛んでいってやがる。
しかもタマ、口に人間くわえてねえか?
くわえられてる人間、変な方向に腕とか足が曲がってねえか?
・・・ティアは貨物船においてきた方が良かったのかもしれねえ。
───っと、ぼーっとしてる場合じゃねえな、ここはティ・・・タマに任せて俺はかぎ爪鎖軍団を片付けねえと!

「フロスト=ショット!」

鎖を引っ張っていた海賊達が、俺の不意打ちで次々に海へと落ちていく。
・・・死んだかな・・・俺、人を殺したのかな・・・
いや!今はそういうことは考えない!

殺らなきゃ───殺られるんだ!!

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っしと、これでかぎ爪鎖軍団は全滅、鎖も海に捨てたし、これで貨物船との接触は避けられるかな?

「っきゃあああ!!?」

なんだ!?何かが壊れる音とティアの悲鳴!?
くそっ!!

「ティア!?おい!!ティア!!どうしたんだ!?」

なにがあったんだ!?タマは!?
タマが一緒についていて、ティアがこいつら程度にどうこうされるわけがない!!
なにが・・・!?
タマが暴れていた場所へとすぐに戻った俺は言葉を失った。

そこには、壁に叩きつけられたのだろう、周囲の樽を破壊して尻餅をついてむにゃむにゃいうティアの姿。
申し訳無さそうにティアの前でお座りをしてウルウルしているタマ。
2人の目の前には苦しみ、うめき続ける海賊達。

「いたたたたた・・・す、すごいよタマ・・・!
海賊達が全滅だよ!」

「なんだ、よかった、吹き飛ばされただけか・・・」

「あっ!ユウ!タマが強すぎて私何もしてないんだけど・・・
うん、最後は人間弾丸として2人やっつけたかな・・・?
よいしょっと。」

服の汚れを払いつつ、剣を拾い上げつつティアが立ち上がった。
相変わらず丈夫だな、怪我ひとつねえ。
それともあれか?メイガスエッジの守りのルーンの力か?

「こっちも片付いたぜ、不意打ちで海に落とすだけでイージーモードだった。
つか、あいつらなんで気づかねえんだよ、こんだけタマが暴れてたってのに必死に鎖引きやがって、バカかよ?」

「さぁねえ?タマが強すぎて一刻も早く貨物船に逃げ出したかったとか?」

からからと笑いつつ、冗談までかましてる。
ざっと見回したかぎり、死人はいないみたいだな・・・かなり重傷者はでてるけど。
なるほど、ティアの不安を感じ取ったのか、単にこいつらがしぶとかっただけかは知らないけど、タマは人殺しはしてないようだ。
それでティアも安心してるわけだな!
・・・え、もしかしたら俺だけ人殺し・・・?なのかな・・・

「ん?どうしたの?ユウ?
どこか痛い───!?」

「なんだてめえら!?人の船でなに暴れてやがんだオラァ!!」

突然、ティアの話を遮って船の中から数人の海賊と、なんだか・・・ヤバそうな男が1人現れた。
びっくりしたー、完全に油断してたぜ・・・
ティアも・・・固まってるな。

「っぐ、、、船長!すんません!
ご・・・ごいづら・・・見た目以上にづよぐで・・・ぐっふ。」

倒れていた海賊がヤバそうな男に状況を説明している。
そのようすを眺めていたティアが緊張した面持ちで話しかけてきた。

「・・・ユウ、あの人今・・・船長って・・・!」

「あぁ、船長って言ってたな・・・」

唖然とする俺たちをよそに船長と呼ばれていたやけにデカい男は、船員たちを罵倒し続けている。

「なんだと!?よく見たら船から火まで出てるじゃねえか!?
こんなガキども相手にてめえら何やってやがるんだ!?」

「へぐっ!?すんません!!すんません!!」

「しかしお頭・・・!あいつらガキだと思って油断すると───

「あぁ!?」

「ひぃ!?」

もう1人の船員が話しかけてるな。
自分の船の船長相手になにそんなにビクビクしてるんだ?

「油断すると・・・どうなるって?」

「ああ、いえ、違うんですよお頭・・・」

お頭とも、船長とも呼ばれる大男は、腰からデカいサーベルを一本抜いた。
・・・あれ、ヤバいな・・・斬られたらたぶん滅茶苦茶いてえだろ・・・。

「違う?何が違うんだ?」

「いえっ!お頭!俺が弱かったから!」

「弱えヤツは俺の船には要らねえんだよ!!」

予想外だった・・・
ティアも、口元を抑えて目を皿のようにしている。
殺りやがった!
あの男、怪我をしていた自分の部下を抜いたサーベルで斬りやがった!
1人の船員の断末魔が船内に響き渡る。
俺たちの目の前、男の足下に血だまりが広がっていく。

「・・・ふん。
他にまだ弱えヤツはいるか!?まさか寝てる奴ら全員不要な部下ってわけじゃねえだろうなぁ!?」

その声に、倒れていた海賊たちは一瞬ビクつき、小さな悲鳴をあげた。
・・・しかも・・・立ち上がりやがった!?
ところどころ骨折も見られるヤツも、頭から血を流してるヤツも、無理やり膝に力を入れて立ち上がり、武器をかまえてやがる。
大男は震えながら立ち上がった船員に一瞥くれると、ゆっくりと俺らの方へと向かって話しかけてきた。
やけに低く、重い声。
他の船員とは、明らかに空気が違う。


「てめえら、何者だ?
ガキのクセに俺の可愛い部下どもをこんなんにしやがって・・・なぁ?」

「可愛い部下どもって・・・じっ!自分でさっき殺してたじゃないの!?」

「ああ?ちげぇよ、勘違いしてんじゃねえ。
あいつは・・・部下じゃねえよ。雑魚だ!
そんなことより俺の質問に答えやがれ!何者だと聞いている!!」

「あんたらが砲撃してた貨物船に雇われてた旅の人だよ!
護衛が依頼だったからな、仕事で返り討ちにしてやったまでだ!」

「ほう・・・旅の人・・・そうか、ガッハハハハハハ!!」

───!?
笑った!?

「なんだよ!なに笑ってんだよ!」

「俺の部下が、たかだか旅の人にやられただと?
しかも、こんなガキ2人と獣一匹に?
ふざけんなっ!!
ここいらの海での最高額の懸賞金がかかってるこの俺様の部下が!?
旅の人に返り討ち!?・・・決まりだな。
てめえら調子こいてんじゃねえぞ?死刑だ!」

男はサーベルを俺たちに向けてきた。

「ティア・・・!」

「・・・わかってる!!」

「殺らなきゃ」

「殺られる!」

こいつはちょっと手加減しながらだと手に余る。
殺すつもりで戦わないと・・・
一つ一つの動きから感じる、こいつ、手練れだ!

「ぶっ殺す!!」

男がサーベルを構えて向かってきた!

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来たな!

「ユウ!!」

「OK」

「・・・っ!?
てめえの杖、鋼鉄製か!?」

っ!重っ!?
やっぱり真っ先に俺の頭から割りにきたか・・・!
まあ、そうだよな、俺だって剣を構えて同じ状況ならそうするさ。
・・・容赦なく頭から潰しはしねえだろうけど・・・
剣士なら魔法使いは相手にしずらい、が、間合いに入ればやりやすい。
俺も剣で魔法使いを相手にした経験は少ないけど、ティアとの初めての一戦で学んだ。
攻撃の要にも補助にもなりやすい、あとあと厄介になりそうな魔法使い、強力な獣、一見普通の剣士・・・俺が真っ先に狙われるのは当然だな。

「普通の魔法使いは杖に魔力を込めて強化して戦うんだ!
そう簡単に折れるか・・・よっ!」

まぁ、当時、ティアの杖は簡単に折れたけどな!

「ちっ!クソガキが!」

凪払い。

「っ!?」

返し。

「っこの!」

振り下ろし。
・・・重要なことを忘れてた・・・
ティアも、かなりの手練れだってこと・・・そう、こいつ以上に。
そうだ、こいつ・・・力以外はティアよりずっと弱え!

「フレイム=ランス!!」

「ぬぐっ!?っの野郎・・・!!」

直撃!が、さすがみた目通りしぶとそうだな、この程度じゃ沈まねえか。
片膝はついてるけどな。


「ユウ!?」

「いや!大丈夫!お前はタマと他の船員を片付けてくれ!」

「・・・わかった!すぐ加勢するから!
タマ!お願い!」

「女が狼に乗ってねえぞ!!
いまだ!やれえ!!生け捕りにしろおおおお!!!」

立ち上がった奴ら含め、一気に海賊どもがティアとタマに群がる。
・・・バカだな、あいつら。

「タマ!跳んで!飛爪風陣!!」

「っぎゃあああ!」

そらみろ。

「なっ!?今!あの女の剣!?」

「余所見してる場合かよ!
フロスト=アロー=レイン!!」

氷の矢の雨も直撃!
ティアはタマに指示を出しつつ回避。
ついでに邪魔な海賊どももある程度一掃。
完璧!
海賊どもの船長はうめき声をあげながらひれ伏してる。

「ぐあっ!こんな・・・ガキどもに・・・!?」

「勝負あったな。
拍子抜けだぜ、あんたの懸賞金はあんたの実力でついたもんじゃねえよ。
単に凶悪だからついた金額だろ?」

「なめやがって!食らえ!」

「っ!?」

・・・煙玉・・・!?
けど、こんなの!

「ウィンド=ブレス!」

「っ!?」

「あきらめろよ、あんたらじゃ俺達には勝てねえ。」

煙が晴れ、俺の目の前には大きくサーベルを構えた船長。
その喉元にはすでに俺の杖が向けられている。
そして、ティアとタマの方も片づいているみたいだ。
詰みだな。

───数十分後───

「・・・おまえら・・・本当に2人と一匹だけでこいつらを・・・!?」

「まあな!おっさん、残りの船旅がどうなるかはまだわからねえけど報酬の方はよろしく頼むぜ!」

「・・・あ、あぁ。」

今、船に戻った俺達の前にはロープでグルグル巻きにされた海賊達がいる。
怪我人も、一度海に落ちた奴らも含めてな。
あのまま燃える船に放置してきもよかったけど、そうなったら死んじまう。
どうせ政府にこいつらを渡せばあとは政府の方です適当に処理してくれる、それならここであえて殺さなきゃいけない理由もない。
俺達が、ただの旅の人が殺人を犯す必要はないんだ。

「・・・ふぅ、みんな無事・・・って言い方も、海賊相手には変だけど・・・
私たち!人を殺さないで済んだんだね!ユウ!」

「そうだな!重傷者にはマナ水もぶっかけておいたし、たぶん大丈夫だろ!」

生殺与奪の選択権、気まぐれ、その後に起こり得る状況の予測。
すべてをひっくるめて、正しいと思う選択・・・。
強くなれば見えてくることもある・・・か。
今回、俺達は海賊の船長相手に本気で戦うつもりだった。
けど、予想以上に弱かったから生かして捕らえることができた。
お姉さんなら、ここでどうしていただろうか、飛竜の時みたいに問答無用で海賊を全滅させてたのかな?
それとも、俺達がそうしたように、後の処理は政府に任せて最小限の撃退で済ませていたのだろうか・・・わからない。

ただ、一つ言えることは・・・
今回もただの気まぐれだ、本当の意味での選択をしたわけじゃない。
仮に海賊達が手を抜けないほどに強かったら、結果はどうなっていたかわからない。

・・・でも今回は殺人を犯さなかったっていう事実だけで充分か。

「みて!ユウ!あそこにでっかい魚!」

「ほんとか!?よし!釣るぞ!」

「無理だよ!やめなって!釣り竿ごと海に引きずり込まれるよ!?」

「・・・やめとくか。」

それとついでに、この笑顔を守り切れたって事実もふくめて。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

貨物船内には海賊達の罵声が響き渡り、2人の初めての船旅は、出航時より一層賑やかなものとなる。
報酬、海賊達の懸賞金、2人はまだ見ぬお金とまだ見ぬ目的地に期待を膨らませ、残りの船旅を満喫する。

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海賊の襲撃以来特に変わったこともなく、2人の船旅はそれはそれは快適で優雅なものとなった。
相変わらず空は晴れ渡り、また釣りに興じていた2人は同時にあくびをもらす。

「「ふわぁーーあ。」」

「平和」

「ワッフル」

「んー、ルビー」

「ビール」

「むっ、ルーレット!」

「トライアル」

「やーもう!瑠璃色!」

「ロール」

「だっ!?ずるいよ!さっきからユウばっかり『る』で終わりすぎだよ!」

「あ、また釣れた!」

「ぬあああ!ずるい!私も釣りたい!」

もうすぐ船の目的地、『サウスパラダイス』に到着する。
その段階で2人は初のブロンズランクの依頼を達成したことになる。

「おーい、お前ら、港が見えてきたぞー、ほら、こっちだー」

「「ほんとですか!?」」

船旅の終わりを告げる声が、二人へとかかった。
2人は釣り竿を投げて船乗りの声の方へと駆け出し、驚嘆の声をあげる。
大きな木製看板の下にのびる木で出来た道、その先で直角方向に現れるどこまでも続く砂浜、見渡す限りの白い砂浜。
海岸は多くの海水浴客で賑わいをみせていて、その様子に2人は船の端から身を乗り出してきゃいきゃいとはしゃぎはじめた。

「すっげえ!港が海に浮いてるみたいになってる!
あれ!どうやってできてんだ!?」

「・・・ふっふっふ・・・ふっふふふふ、水着、私のナイスなボデー・・・ふふふ・・・」


程なくして船は港へと到着する。
それと同時に2人は急いで船から降りようと支度を始めた。
もはや2人にとって海賊の懸賞金やブロンズランクの初成功、報酬なんかはどうでもよかった。
早く遊びたい。海で泳ぎたい。そんな気持ちで胸が一杯である。

「おーい、お前ら、まてまて。
ほれ、報酬だ。あと、海賊───

「「結構です!!」」

「・・・あっ、そう・・・」

2人は船から駆け下りるなりすぐさま港を抜け、ホテルの手配と依頼終了の報告へと向かった。
ロープでグルグル巻きの海賊たちと、唖然と立ち尽くす船乗りを置いて。
どうせ二人はお金には困っていない、妖精の村の一件もふくめて小金持ち状態だ。
今夜もきっと、高い食事と高い寝床を確保することであろう。

───二時間後───

青と白のグラデーションで人々を魅了して止まない海岸沿いに、一組の男女と一匹の仔ウルウルフが現れた。
男はクーラーボックスを肩からさげ、海水パンツと上半身裸の上に黒のローブというミスマッチな組み合わせ。
そして右手にもった一本のストローがささったレモンの輪切りつきのなめらかなグラスから青い液体を吸っている。
一方で女は、麦藁帽子を深くかぶり、顔の大きさとはどう考えても釣り合わない巨大なサングラスをかけている。
Tシャツ、デニムのミニスカート、ヘソ出し、派手な浮き輪、そして男と同じ飲み物を片手にどや顔を決め込んでいるのがサングラス越にも見て取れる。
小さな仔ウルウルフは水色とオレンジストライプのゴムで出来た犬用の水着を装着して震えている。

「ティア・・・ここは、どこだ・・・?」

「ふふ、海よ。ユウ。」

「・・・違うぜ、ここは・・・パラダイ───

「あ、そういうのいらない。」

「・・・」

二人は服を太陽に向かって投げ捨て、水着姿で水着姿のタマを抱えて海へと駆け出す、そして一気に海へと飛び込んだ。
盛大な水しぶきをあげ、2人の人間と一匹の獣が青の中へと消える。

「ぷはっ!きゃあああっ!すごい!海だぁ!これが!あはははっ!」

「がっ!はっ!しょっぱっ!ティっ!浮き輪!助けっ!がばっは!」

2人の跳躍力は並の人間の比ではない。
2人は足の届かない深さになっているところまでひとっ飛びで跳ぶ。
結果、ティアとタマは浮き輪で浮き、ユウは溺れる。
その後すぐ、ティアの救助で事なきを得たが、ユウは海で遊ぶことをやめた。

「あははっ!ユウもきなよー!ここなら足もとどくから楽しいって!」

「やだ、俺、砂浜で焼く。
日焼けして黒魔導師になる。」

その後、仕方なくティアもユウのために砂浜で遊ぶことにした。
砂のお城を作り、破壊。
砂のお城を作り、その上にスイカを置いてスイカ割りで破壊。
砂のお城を作って、ビーチバレーで対決し、アタックで破壊。
お互いを砂のお城に埋めたり、ビーチフラッグで旗を砂のお城にたてて破壊して遊んだりした。
初めてということもあり、それだけで2人は十分に楽しめた。
あっという間に時間は過ぎ去り、時刻は夕方になる。

「ふぅ・・・楽しかったな砂浜。」

「うん・・・また、遊びたいね、砂浜。」

「夕日、綺麗だな。」

「うん・・・。帰ろうか・・・。」

「そうだな・・・。」

海で遊んだ後特有の虚しさに襲われた2人は、パッパと帰り支度を済ませて帰路につく。
サウスパラダイスは海以外にも観光できる場所はたくさんある、2人はホテルに帰るついでに少し街を見てまわることにした。
海岸沿いがたくさんの人々で賑わっていたこともあり、街の中はそれ以上の賑わいをみせている。
観光客向けの屋台なんかも出ており、2人は海での遊び疲れを忘れてなおも遊び続けた、が、やはり空腹には耐えきれず、食事をするためにホテルへと戻ろうとしたときである。

「・・・?」

「どうした?ティア?」

「なんか、獣くさい。」

「ああ?獣?」

苦い顔をして言うティアの様子を見て、ユウもその事実に気がついた。
辺りに立ち込める獣の臭い、そして、その臭いにタマが反応を見せる。

「わっ!あっ!タマ!?どこいくの!?」

ティアに抱かれていたタマが、突然ティアの腕を抜け出して勝手に歩き始めた、しかし逃げ出すわけでもなく、2人の見える位置で足を止める。
ユウは、このタマの様子には見覚えがあった。

「あ、これ・・・」

「え!?なに!?ユウ!早くタマを追っかけないと!」

「・・・いや、たぶん大丈夫だ。
これ、『案内』だ、タマの。」

「案内??」

「ほら、妖精の村でタマが広場にいたお前のところに向かっただろ?
あの時と同じだな。」

「そうなんだ・・・でも、どこに?」

「さあ・・・?」

珍しく唐突なタマの『意志のある行動』に2人は疑念を抱きつつも、その後を追うことにする。

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タマのあとを追い続けて十数分、辺りの獣の臭いは強くなっていく。
日もほとんど沈んで、一度街はくらくなったが、暗くなったのちに灯りを灯すことで、街は再度明るさを取り戻した。
夜の始まりである。
タマはひたすら歩き続ける。
2人はトコトコ動き続けるクリーム色に近い茶色のそれを眺めつつ、雑談にふけっていた。

「ねえ!ユウ!みてみて、かわいいー!」

「はは、ほんとだ、なんか今日のタマはやたらと尻が動くな、機嫌がいいんじゃないのか?」

きゃあああと拳を振り回すティア。
ユウも察したとおり、今日のタマはいつもと様子が違う。
普段よりも足取りが軽くリズミカルだ、機嫌が良さそうといえば確かにしっくり来るような歩き方である。

「それより、やっぱりすごく獣臭いね。」

「そうだな、ついでにおっさん臭くもなってきたきがする・・・」

依然、謎の獣臭さはおさまらない。
そんな中、タマはとうとうある場所で足を止めた。
その場所は屋台が立ち並んでいた商業地から少し離れた開けた場所、そしてそこにはやたらとライトアップされた大きな円形、且つ石造りの建物。
2人は目を丸くする。

「これは・・・!」

「ここだな、獣臭いのは。」

「何だろう、ここ?」

「うーん、よくわからないけど・・・」

ユウは目の前の建物を見上げる。
中からはやたらと熱気が溢れており、人々の歓声なんかも聞こえてくる。
古代遺跡のようにも見えるそれを誇らしげに見上げるタマをしかめっ面で見下ろしたユウは、そこで自分の考えをのべる。

「闘技場・・・かな?」

「闘技場?」

心なしかウルウルを通り越してキラキラしているようにも見えるタマの熱視線に負けて、2人はタマを連れてその建物内に入って見ることにした。

入口の受け付けらしきところで一枚のチラシを受け取った2人はそのすぐ横の階段を上がっていく。
暗い階段で、足元もよく見えない中、2人は光が射す階段の先をみあげた。
五月蝿いぐらいの歓声と獣臭さ、加えての人臭さに2人は眉間にシワをよせつつも階段を登りきり、その光景を目の当たりにする。

「「っ!!」」

2人が到着したのは広い広い円形の外周、そして、その円の中心部ではなにやら二頭の獣が闘っている。
そして、獣達が動くたびに、がっ!と盛り上がる2人の周りの沢山の人々。
状況が飲み込めない2人。
ユウは先ほど受付で貰ってきたチラシに視線を落として読み上げる。

「なんだ・・・これ・・・?
そうだ、チラシ!
なになに・・・?

『本日、月に一度の獣祭り!
毎度お馴染みの賭けも含んだ獣同士のトーナメントバトルになります。
賭けを希望する方々は受付まで。
翌日からは通常営業で、一週目は対人戦、二週目は人対獣のショー、三週目は獣レース祭り、四週目はミュージシャンライブとなります。
次回の獣祭りは~~~』

ふむ、やっぱりここ、闘技場だな。」

「ふーん、そっか、それじゃあ今日は月に一度の・・・で?なんでタマがこんな所に?」

「・・・さあな?
タマ?どうなんだ?」

タマがユウの質問に答えるはずがない、が、目は口ほどにモノを言う。
タマは鼻息を荒げつつ、いつになく瞳をウルウルキラキラ輝かせて、闘技場の中心部で闘い続ける獣達を眺めていた。

「あ!わかったよ!ユウ!」

突然ティアが声を上げた。

「タマだって女の子なんだよ!
きっと、ここで闘う『オスの匂い』に惑わされてこれから連れ添うパートナーを・・・きゃあああっ!」

「ああ!なるほど!タマもそういうお年頃かぁ・・・なんか、俺、ちょっと寂しい。」

「仕方ないよねー!タマだってカッコいい獣さんとラブラブしたいもんねー!」

「うーん、仕方ない・・・のか?
まぁいいや、帰るか・・・」

「あら?なぁに?ユウ?落ち込んでるの?」

唐突なティアの予想になんとなく納得してしまったユウは、特に闘技場には用も興味も無かったので帰ろうとする。
そこでティアもタマを抱き上げて帰ろうとした瞬間である。

「じゃあ、タマも旦那さん探そうか、でも今日は帰ろうねー、ユウお父さんも残念がって───わっ!なに!?タマ?!」

タマがティアから逃げるように飛び降りた。
そしてタマは再度、闘う獣達を眺め始めた。

「んー?なにやってんだ?」

「ユウ!タマが!」

「もー何やってんだよー。ほれ、タマ、帰るぞ!」

ユウがタマを持ち上げる。
が、結果はティアと同じであった。

「うおっ!?なんだ!?タマ!反抗期か!?」

「ねー?タマがちょっと変だよ、ユウ・・・」

首を傾げつつ、2人はタマの様子を見守り続けた。
それから数分後、一頭の獣の攻撃がもう一頭に綺麗に決まり、勝敗がついた。
タマもそれを満足気に眺めていた、そしてその様子を見届けた2人は今度こそ帰ろうとタマへと声をかける。

「よーし、気になる決着もついたみたいだし帰ろうぜ。」

「おいでー、タマー」

しかし、タマは動こうとしない。
困り果てた2人は顔を合わせて首を傾げる。

「ユウ、どうする?タマが・・・」

「珍しいな、タマがこんな───うわっ!?」

「ユウ!?」

唐突であった。
タマが突然ユウの足に頭突きをいれたのだ。

「いやっ、大丈夫!びっくりしただけだ!
それより───」

なおも、タマはポスポスとユウの足に頭突きを入れ続けている。

「───どうしたんだよ?タマ・・・」

ユウがしゃがみこんでタマの顔をのぞき込むと、タマは誇らしげに輝く瞳でユウの顔を見上げ返した。
そして今度はユウの袖に向かって引っ掻く素振りを見せる。
そのまま甘噛みで袖に噛みついて引っ張って見せる。
また、ユウの顔を見上げる。

「タマ・・・本当に反抗期?」

心配そうなティアを余所に、鼻息を荒げたタマはひたすらユウにちょっかいをかけ続ける。
ひとつ、ユウの頭に予想が浮かんだ。

「あ!・・・・まさか・・・」

「え!?なに!?わかったの!?ユウ!」

「まさかとは思うけど・・・タマも参加したいんじゃねえか?・・・トーナメントに・・・。」

「あ・・・。」

2人は、とりあえずその日は無理やりタマを連れて帰ることにし、ホテルに戻った後で、今後のタマについて話し合うことにした。

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「だめだよ!!そんなの絶対にだめ!!」

ホテルの一室で少女の大きな 声が響きわたる。


「タマを来月の獣祭りに参加させてみようですって!?
ユウ!そこに座りなさい!私と徹底的に話し合うつもりなのね!!
お母さん絶対にそんなの許さないんだから!」

地団駄を踏みつつ眉毛をつり上げるティアの声だ。
右手のパペット人形でタマをあしらいつつ、ベッドの上でお菓子をつまむユウを指差し、怒りをあらわにする。
甘いお菓子を苦い表情で口元へと運びつつ、ティアとは対照的な弱々しさでユウも反論する。

「お母さんってなんだよ・・・それにもう座ってるっての。
うん、ま、俺もティアの言いたいことはわかるしできればそんなことはしたくないんだけど・・・」

ちらりとユウはよだれまみれのパペット人形へと視線をそらした、その先に鼻息を荒くしたタマがひたすら食らいついている。
闘技場を後にしてからというもの、タマの様子はずっとこうである。
ホテルについても、食事中にも、あげく風呂場までユウを追いかけてはちょっかいをかけ続けていた、見かねたティアが遊び相手にと用意したパペット人形もすでにボロボロで原型をとどめていない。

「・・・当の本人・・・本タマ?がこんな様子なんだし・・・
一旦タマの気の済むまでやらせてやったらどうだ?
ほら、タマだって群れにいたらそろそろ狩りの練習を始める時期なのかもしれないだろ・・・?」

はぐはぐとパペット人形に噛みつき続けるタマの嬉しそうな姿、ユウの言うことはティアだって本当は分かっている。
しかし認めたくないのだ、かわいいかわいいこのタマが、他の生き物の血を求めているということを。
わかっていても認めたくないからあえて意地を張ってユウとぶつかってみせる、ティアのユウより子供な部分が出るところだ。

「なによもう!お父さんまでそんなこと言って!」

「いや、だからお父さんって───

「いいから貸しなさい!!」

ティアは半ば強引にユウの右手からヌトヌトになったパペット人形を取り上げ、それを自分の手にはめた。
そして目の笑っていない最高の笑顔で人形を動かしつつタマへと声をかける。

「ほーら、タマちゃーん!遊びましょー?
タマちゃんは女の子だから狩りなんてしないもんね?喧嘩なんて、男の子同士でやればいいんだもんね?
ほら、ほら、パペートさんと一緒にお花摘みごっこをしてみないかしら?うふ?うふふふふ?」

ゆらゆら、ぱたぱたと目の前で動くパペット人形にタマはさらに本能をむき出しにする。
ヌトヌトのパペートさんの喉元めがけてタマは一気に飛びかかり、噛みつく。

「ぬあだっ!?っタマ!?なにしてるの!?私だよ!?ティアだよ!!どうして噛んだりするの!?」

ショックで固まるティアの右手からタマはそのままパペット人形を奪い取り、足元にそれを吐き出し執拗にぐにぐにと前足で踏み潰す。
子供というものは、時に残酷である。
唐突なその行動に、一気に視界が潤んだティアは、口元をおさえつつタマへと問いかける。

「なんで!?どうしてそんなことするの!?ひどいよタマ!パペートさん痛がってるでしょ!?」

しかし、その言葉はタマには通じない。
むしろタマは誇らしげにティアを見上げ、獲物をやっつけたことをほめてくれと言わんばかりに鼻息を荒くしつつ、瞳を潤ませる。

「・・・な?今、タマはそういう時期で・・・その・・・ティア?」

ユウはティアの様子に違和感を覚えた。
ティアは額を右手でおさえつつうなだれ、肩をひくつかせている、泣いているというより

笑っている。

「お・・・おい・・・」

「くふっ・・・うふ、うふふふふ、そう、そうなのね、タマ。
あなたは、そういう道を選ぶと言うのね?
・・・それがあなたの・・・正義なのね・・・?
うふふふふ・・・・・・」

「マズい、ティアが壊れた」

ティアはひょいとタマを抱き上げて、最高に恐ろしい笑顔でタマの頭を撫で回した。
その様子にユウはありもしない寒気を感じて震える。

「んーーー!すごいねー!タマー!パペートさんを簡単に!うふっ!うふふふふ!
そうだねー!タマは狩りの名人だもんねー!
そうだ!次は・・・!」

「っひっ・・・!」

次は。の言葉に続き、ギギギギという音が聞こえてきそうな動きでティアはユウのことを見つめた。
その生気のない笑顔にユウは情けないほどに怯える。

「・・・そうだ、ユウ。
私、明日から1ヶ月、タマに戦闘・・・いや、『狩り』のイロハを叩き込もうと思うの、もちろん、次の獣祭りに向けてね。
それで、調整の最終日、ユウがタマと手合わせをしてくれないかな?
そう、『私のタマ』と・・・!」

ただただ恐ろしかった。
ユウは抜けた腰から崩れ落ちぬよう、上半身を支える右手にぐっと力を込めてブンブンブンブン頷いてみせた。
それを確認したティアはこの世の者とは思えぬゲスな笑顔で二度、ゆっくりと頷き返し、タマを連れてユウの部屋を出て行った。
ユウの部屋には無惨にもボロボロにされたパペートさんと、静寂だけが残された。

「・・・俺も・・・1ヶ月後に・・・」

パペートさんの何も語らぬ瞳が、じっとユウを見上げている。

「・・・うぇっく・・・ぐすっ。」


『まさかこんな歳にもなって、恐怖で枕を濡らすことになるとは思わなかった。』
その夜について、後のユウは語る。

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△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

「それじゃ、ユウ、これからしばらくは別行動になるね!」

「・・・おう。」

「ユウの魔法が必要になったら声掛けるから!協力してよね!」

「・・・おう。」

それだけを言い残してティアとタマは去っていく。
白いジャージ姿で剣をこさえたティアと、小さなはちまきを頭に着けたタマは朝一でランニングをする事にしたようだ。

「ふー、ティアは切り替えは早いからな・・・もう怖くなくてよかった・・・
けど、やる気になったのは間違いないんだよな・・・ティアのタマトレがうまくいったら俺、タマに殺されるのかな・・・」

俺は1人の男の話を思い出した。
殺されるために走りつづけた男の話、名は・・・『メロス』とかいったかな?
なんか、いきなり激怒して王様殺そうとして、親友身代わりに置いて・・・はは、まぁ、とりあえず今はあいつが他人とは思えねえな。
俺は激怒もしないし親友を身代わりにもしねえし、盗賊も・・・あ、海賊は最近やっつけたな、どうでもいい。
結局は俺も殺されるために走ってるようなもんだよな・・・
タマに殺されるためにタマのトレーニングを手伝うんだからな・・・。

ため息が出る。

「俺も・・・鍛えるか・・・」

最近ブロンズランクに昇格したし、せっかくだからブロンズランクの依頼をもう少し潰そうかと思う。
素の力だけでもあれだけ驚異的な暴れっぷりのタマだ、ティアが戦闘指導なんてした日には・・・きっと俺もパペートさんみたいに・・・どうしようか。
とりあえず先のことを考えても仕方がないし、俺は依頼所へと向かう。

依頼所に着くなり俺はすぐにブロンズランクのファイルを開いた、もちろん討伐関係の依頼が狙いだ。

「『有翼虎の討伐』?
なになに?
『最近街の東の山岳地帯で、翼の生えた虎が幾度となく目撃されています。
観光客が危険にさらされたという報告もされており、とにかく危険が危ないです。
手続き関連は全て依頼所の受付で済ませることが出来るようにお願いしてありますので、依頼人の所への報連相は要りません。』」

ふむ。
いや、相談ぐらいはさせろよ!

しかし翼の生えた虎か・・・変身後のタマを相手にするならまさにそんな感じの相手になりそうかな?
どうしようか、この依頼をとりあえず潰してみようか。

「ん?お前、その依頼を受ける気なのか?
有翼虎は危険だぜ?」

「あなた、すっごい弱そうだけど、そんな依頼受けても大丈夫なのかしら?」

「えっ?」

急に誰かが話しかけてきた!
誰だ!?
椅子に座りつつたじろぐ俺の向かいの席に、一組の男女が座った。
タマみたいな髪色のボサボサ頭の男、歳はきっと俺と大差ない。
この服、そして背中の剣・・・こいつ、剣士か。
女の方は金髪三つ編みのメガネ。
見るからに魔女、魔女、ぜーってー魔女!ロッドから三角帽子からマントから絶対に魔女!
で・・・誰だ?

「あの・・・どちらさん?」

「俺か!?それともこいつか!?」

「私なの!?」

「いや、どっちも。」

「失礼ね、普通はあんたから先に名乗るもんでしょ!?」

いや、おかしい!
俺は1人で依頼を探していた、そこで知らないくせに急に、しかも勝手に話しかけてきておきながらこちらからの紹介を待つなんておかしすぎる!
少なくとも俺のお袋はそんな教育はしなかった!

「まぁまぁ、おちつけよ、リリーナ。
この俺から名乗ってやるよ!高くつくぜ!」

えー、なにが?高いのはその熱血少年くせえ鼻につく声だけにしてほしいんだけど。

「俺の名前は『ランス』!『ランス・ベルハルト』だ!」

「ふーん、で、ランスさん?は、俺に何の用なんだ?」

「いいわ!私も名乗ってあげるわ!」

「おう!実は俺たち、旅のパーティメンバーを探しててな!
どうせ1人なら俺たちの仲間になってくれねえかなって!
有翼虎を狩りに行こうとするあたり、かなりの実力者なんだろ?」

「私の名前は!そう!知る人ぞ知る!」

「なるほど、わりいがそいつはお断り。
一応相方がいるんだ、今は別件で席を外してるがな。」

「っ!・・・んりっ!───リッリーナァァァア!!───

「なんだって!?じゃあよ!その相方も一緒に俺たちの仲間になってくれねえか!?」

「まぁ、聞いてみねえとわからねえな。
アイツのことだから反対しそうだけどな。
あとリリーナさんさっきからうるせえ。」

「んなっ!?何ですってえええ!!?それよりどうしてこの私の名前を!あんたまさか!知る人ぞ知る!」

「しかしよ、ランスさんはなんでそんなに仲間を集めたがってるんだ?」

「あ、ランスって呼び捨てでいいぜ!
仲間集めの理由は・・・っと、まてよ、その前にお前の名前を聞いてない!」

「ユウ・ラングレル、好きなように呼んでくれよ。
で、本題。」

「ユウ・・・?あんたまさか!知る人ぞ知る!?───

「そっか!じゃあ、ユウな!
仲間集めの理由は秘密だ!
で、だ、ユウよ、俺の話、乗るのも蹴るのも自由だけどよ、どうせなら『仮契約』してみないか!?」

結局秘密かよ!?
・・・怪しいぜ。仮に仲間になったとして、すぐに裏切るつもりなんじゃねえのか?
いや、それより

「・・・?
『仮契約』?」

「そう!・・・ユウ!聞いたことがある!確か大陸の東の街でガキのくせに剣がどうとか・・・!
あの!ユ───

「うっせーぞリリーナ!今ユウと話してんだから静かにしろ!」

「ういっ!?ごめん!?」

やっと大人しくなったか、ティアより大人っぽい見た目のくせに、ティアの方がよっぽど大人っぽいぜ。
で、仮契約だと?怪しい匂いしかしねえな。

「俺とリリーナと組んで、『三人で』その依頼を潰してみねえか?
あ、そうそう、もしお前の相方も一緒になれるなら、四人でさ!
それから、仲間になるかどうかを見極めてほしいっていうか。」

ふむ、なるほどな。
ちょうど良かったぜ、こいつらなんか有翼虎について知ってるみてえだし調べる手間が省けた!

「乗ったぜ!いい案だ!
でも結局仲間になるかどうかは俺たちで決めてもいいんだろ?」

「もちろん!よろしくな!ユウ!」

俺とランスとリリーナは熱い握手を交わした!
俺の右手にランスの右手、俺の左手にはリリーナの左手、そして、ランスの左手にリリーナの右手・・・なんだこれ、何でどや顔こいつらまで握手してんの?ばかじゃねえの?
きっと端からみたらいまの俺たちは物凄くシュールだ。

それよりティアだな、とりあえずティアを探してこの話だけでも伝えとかねえとな。

俺はランスとリリーナに事情を説明し、三人でティアを探すことにした。

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しかしティアだとどこにいる可能性がたかいのだろうか・・・
ランニングにでていったわけだから・・・
依頼所を出て思考をめぐらす俺の視界に遠くからかけてくる少女が映る。

その少女は非常にまぶしく、美しい髪色をしており真っ白なジャージで子犬のような生き物を連れ───
ってあれ、ティアじゃねーかよ・・・
度肝を抜かれたというか・・・拍子抜けしてしまったというか・・・うん。

「あっ!ユウ!どうしたのこんな所で!
・・・そっか!依頼受けることにしたんだね!」

タッタッタと俺の元へとかけてきたティアの後ろをテッテッテとタマがついてくる。
タマは珍しく苦しそうにしていた。
こいつ、涼しい顔して一体どれだけの距離を走ってきてたんだか・・・

「おう、ブロンズランクの依頼を潰そうと思ってな!
それにしてもちょうどよかった!」

「ちょうどよかった?」

首を傾げるティアを横目に、俺は依頼所から出てくるランスとリリーナを確認する。

「おーい、ユウ、ティアさんって人の向かったところに心当たり───はっ!・・・」

「ん?ランス!?どうしたのよ急に固まっちゃって!?」

「あれ?ユウ?この人達誰?」

ティアのことを見つめたまま固まり続けるランスと、そんなランスにオロオロし始めるリリーナ。
俺はティアに事情を説明する事にした。

「ああ、この人達、さっき依頼所で声をかけられてな。
旅の仲間を探しているだとかで、俺がスカウトされたんだ、で、ティアにそのことについて相談しようと思ってティアを探しに依頼所をでたら、お前が向こうから走ってきたから───

「ちょうどよかったと。なるほどねー。」

「そうだ。相変わらず話が早くて助かる。」

その時だ、突然俺は右手に引っ張られる感覚を覚え、依頼所内に引き戻される。
ランスが、赤い顔をして俺の右手をがっちりと握っていた。

外にはティアとリリーナだけが残された。

「おっ!おおおおい!ユッ!ユウ!?
あ!ああああれがティっ!ティアさささ!!?」

あわてた素振りでランスが壊れた魔動音声装置のような声をあげる。
なんだこいつ、急に。

「そうだよ、あれがティアだ。
言った通りの見た目だっただろ?」

「言った通りって!おまっ!?あんなに・・・あ!ああああんなにかわっ!そのっ!」

「かわ?」

「かわいいなんて言ってたかよ!?ふざけんな!!」

「はぁ・・・?」

かわいいって・・・あ、なるほど、こいつティアに一目惚れか。
まあたしかにティアはかわいいだろうな、客観的にみれば、そこは俺も認めるが、俺はあいつと一緒に長くいすぎたせいでそれが当たり前になってたからな・・・改めてかわいいという表現でアイツを語るのは不思議な気分だ。

「とっ!とにかく自己紹介させてくれ!
あと!俺たちの仲間になってくれるようにお前も説得してくれ!ユウ!」

「まぁ、考えとくよ。」

ランス、なんてまぶしい顔してやがる・・・リリーナに嫉妬されるんじゃねえのか?ティアのやつ。
そんな俺の予感が当たったのか、または別の力が働いたのかはわからないけど、依頼所から出た俺とランスを待ち受けていたのは女同士の修羅場だった。
ランスの願いは誠に残念なことに、よりにもよって相方のリリーナによって打ち砕かれる。
外で待ち受けていたのは睨み合うティアとリリーナ、ここで俺はティアの方がリリーナより少し背が高いことに気づいた。
まぁ、どうでもいいけどな。

そして、ティアとリリーナは俺とランスが出てきたのを確認するなりすぐさまお互いの相方に声をかけてきた。

「ちょっと!ユウ!」

「ねぇ、ランス・・・!」

「「私!この人と仲間になるなんて、ぜっーたいに反対だから!!」」

「「・・・は?」」

唐突だった。
事情聴取をまず始めたのはランス。
驚いたようすでがっくりと肩を落とし、リリーナへと状況説明を求める。

「お・・・おい、リリーナ・・・どうしてそんな・・・」

「どうしてそんなっ!?気にいらないからに決まってるでしょ!?」

ティアが気にいらないだって・・・?
俺が知る限り、ティアは人あたりがいい、出会って数分で初対面の人間に嫌われるなんてことはまずありえねえ。
・・・なにが起こった?

「おい、ティア、なにがあったんだ?
自己紹介より先にガンのくれあいなんてらしくねえな。
説明してくれよ・・・」

「聞いてよユウ!この人さっきタマのこと蹴り飛ばしたのよ!?
こんな人!仲間になんて出来るわけないでしょ!?」

なんだと!?タマを蹴り飛ばしただと!?
リリーナ!見損なったぞ!!
いや!まだ見込んですらいねえけど。

「おい!リリーナ!説明しやがれ!タマを蹴り飛ばしただと!?
ことの次第によっちゃあ俺だって黙ってねえぞ!!」

「ちっ!ちがっ!私!」

「おい!ユウ!待ってくれ!リリーナは!」

───・・・

それぞれ全員の主張が終わり、状況が理解できた。
俺の見解からすると誰も悪くはねえな。

ことの次第はこうである。
初め、ティアとリリーナが話始めたときだ。
おそらく初めて見る人間がティアに話しかけていたことと、最近のことで血の気が多くなっていたのが原因だろうか、タマがリリーナの足に威嚇程度にコツコツと頭突きをし始めたようだ。
もちろんタマも本気ではないし、そんなの昨日から俺に向かってやっていたのを知っていたティアからすればタマの頭突きなんて挨拶程度だ。
しかしここで予想し得ない事態になる。
ランスの話によると、昔リリーナの父親は狩りの出先で強力な獣に襲われて命を落としたそうで、リリーナにとって獣はトラウマ的存在であり、獣に対してリリーナは異常に攻撃的になってしまうらしい。
それで、驚いたリリーナは反射的にタマを蹴飛ばしてしまい、タマを蹴られたことでティアも頭に血が上り、お互いに牙を向け合う結果になったようだ。
俺とランスの誤解は溶けたものの、それが引き金でティアとリリーナはタマとは関係のない方向で喧嘩を始めてしまっていて2人の人間関係の修復は不可能そうだな。

「いきなりわんちゃんを蹴っちゃったことは謝るけど!私はこんな女と旅なんてごめんよ!!」

「タマに怪我がなかったのはよかったけど!この人それ以前に人として変だよ!
仲良くなんてなれない!」

「あー、どうする?ランス。」

「おっ!オレはっ!ティアさんと旅がしたいっ!」

「・・・だめだな、こいつ。」

「ちょっとランス!?なに言ってるのよ!?
あんた!こんな女の───

「だってティアさん、お前よりかわいいし」

なにかが、切れる音がした。
俺は女の気持ちとかそういうのはよくわからないけど・・・なんとなく本能が訴えかけてくる。
ランスが間違いなく地雷を踏んだということを。
うつむき肩を落として震えるリリーナ、なんか、彼女があんまりにも不憫だ。
仮に俺がランスと同じ状況に立ったとしても、俺はティアに対してはそんなことは言わない。
さすがの俺でもそんなことを言われる女の気持ちは考える。

「おっ・・・おい、ランス・・・ちょっとそれは・・・」

「・・・けんじゃ・・・ないわよ・・・」

寒気がした。
リリーナから、昨夜壊れた時のティアと同じ空気が感じられる。
タマを除いた三人の間に、緊張が走った。

リリーナを敵視していたティアも、こればっかりはあわれむ目でリリーナを見ている。
そんな目で見てやるなよ・・・ティア。
その時、突然リリーナが顔を上げて大声を出した!

「許さない・・・!!
ティアとかいったわね!あんた!!

私と・・・私と闘いなさい!!ティアッ!!」

あまりの剣幕に俺とランスは黙り込み、ティアはおずおずとゆっくり首を縦に振った。

面倒なことになったかも。

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女の嫉妬は怖い。
俺は素直にそう思う。

だって、ろくに交流も交わしていない2人が嫉妬の一つで現にこうしてむかいあっているんだもんさ、ものすごい剣幕でさ。

俺たちは街の外の原っぱに移動した。
理由は簡単、リリーナがやる気すぎるからだ。
移動中、意気込み先頭を歩き続けるリリーナの後ろで俺はティアに心境をたずねてみたが
『あの子の気持ちはわからないでもない。
それに、喧嘩を売られてしまったのだから買わないわけにもいかない。』

と言われるばかりだった、ティアもやる気だ。

風が吹き続ける緑の真ん中、2人の女がプライドをかけて向き合っている。
ロッドの先をティアへと突きつけてリリーナは声をあげた。

「ティア!あなたに決闘を申し込むわ!
構えなさい!」

「・・・」

ただの喧嘩だろ、決闘ってほどでもないんじゃねえのか?
それよりティアが剣を構えないことが気になる、まさか丸腰でやり合うわけでもないだろうに。
ひょっとして、まだ闘うことに対して躊躇しているのか?

「ルールは?」

「ないわ!どちらかが戦闘不能になった段階で勝負は終わり!」

「・・・そう。
ユウ!かけ声を!」

はっ!?何言ってんだあいつ!?
剣に手もかけないで始めて、先手でやられたらどうするつもりだ!?

「おい!ティア!やるならやるで構えろよ!
お前丸腰で闘う気か!?」

「えぇ、そうよ?なにか問題でも?」

なんだと!?なにケロッと大層なこと宣ってやがるんだ!?

「はぁ!?ちょっとまてよ!なんでだよ!?」

「なんでって・・・。
リリーナ・・・あなた魔法使いでしょう?」

黙ってリリーナは頷く。
その様子を確認したティアはやれやれというような素振りで軽く首を振りつつ澄まし顔で理由を述べた。

「だったら当然よ。あとになって『剣を使われたから負けた』とか『あんたも魔法で正々堂々』とか言われたら面倒でしょう?
・・・合わせてあげるって言ってるの。
それでも、勝つのは私だから。」

・・・やる気だな。
ティアがぶちのめしモードに入った、
その言葉にランスとリリーナは激しく動揺してみせた。
そりゃそうだろうな、俺だって驚いた・・・どうやらティアは精神的にも徹底的にリリーナを潰すつもりらしい。

「お、おい、ユウ!ティアさん、あんな事言ってるけど、彼女は剣士なんじゃないのかよ!?
それって・・・」

「ああ、ハンデだろうな。」

「ハンデって!いくらなんでも丸腰でリリーナを相手にするなんて!?」

「人のことなめ腐って!!
大怪我しても知らないからね!ユウ!始めなさい!」

あー、あーあ。
大丈夫かよ、リリーナの奴すっげぇ怒ってるぞ?
まぁ、ティアのことだ、なんとかするんだろう。

俺は右手を上げ、リリーナの催促に従ってその手を一気に下ろした。

「始め!」

先手を打ったのは当然リリーナだ。
リリーナはすぐさまロッドに魔力を集中し、魔法を発動させた。

「防げるもんなら防いでみなさい!
ラピッドファイア!!」

火球だ。
本気なのか、威嚇なのかはしらねーけど、数、質、魔力の込め具合からみるにそこそこの破壊力はありそうだな。
しかしティアは全く微動だにしない、このままだと直撃だぞ!?

「おい!ティ───!!?


全く攻撃を避けようとしないティア、火球が当たる直前───
俺は、嫌なことを思い出した。

「「!!?」」

やっぱりな・・・やったか。やりやがったか。
ランスとリリーナ、それぞれ物凄く驚いてるな・・・そうだよな、あんなのインチキだよな。ちくしょうめ。

ティアの目の前で全ての火球が跡形もなく突然消え去った。
俺のトラウマ。

マジックキャンセリング───か。

かなりの魔法のセンスが必要とされる高等技術・・・
位置付けとしてはこの間の封印破壊に近いな。
対峙する魔力と自分の持つ魔力に著しい差と、相手の術式を完璧に解く技量、それを発動させるタイミング・・・要は才能と努力無しにはうまく行かないもの。
あいつはそれを才能だけでやってのける。

ティアのマジックキャンセリング、あれが俺が魔法を使えるようになってからの最初の壁だった。
どんな魔法を使おうとも、どんな術式を用意しようとも、魔力が足りない内は俺の魔法はことごとくあいつのあれでかき消されてた・・・
結局俺があれを破るには魔力を鍛えるしかなかったんだよな、まぁ、おかげで魔力には自信あるけど。

あいつは案外性格が悪いのかもしれないな、よりによって決闘を仕掛けてきた魔法使いにハンデを与えるかのごとく魔法で闘うように合わせ、初見の魔法を一発目からマジックキャンセリング・・・しかも、予備動作補助動作杖なしに。
これでティアはリリーナに否応なしに『格の違い』を見せつけたわけだ、剣が本職の人間に手加減の丸腰で決闘に応じられた挙げ句、本職の魔法が一切通用しない魔法能力の差・・・俺なら立ち直れない。


しかし、悪いがこれで確定したな。

リリーナは俺たちよりもずっと弱い

ってことが。
さて、これからどうするつもりなんだか。

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「なっ・・・!?リリーナの魔法が・・・!?」

「おう、見たことねえのか?マジックキャンセリング。」

「マジックキャンセリング・・・?」

「魔法に関してかなりの実力差がある時しか使えない離れ業だ。
この説明だけで、今の状況が意味することがわかるだろ」

ランスは目を皿のようにして2人の動きを見つめていた。
動きといっても、今は2人とも止まってるけどな。

「わっ・・・私の・・・魔法が!?」

「そう、あなたの魔法が私には効かないの。
さぁ?どうする?続ける?」

・・・そうだ、そうだよな。
ティアは初めからリリーナとの実力差に気づいていたのかもしれないな。
それでお互いの・・・いや、リリーナの被害を最小限に食い止めつつ決着をつけるためにこうも露骨に力の差を見せつけているのかもしれない。
ティアが本気を出したら・・・リリーナも只じゃすまねえだろ。

「・・・っぐ!!
ふざけないで!ちょっと威嚇攻撃を防いだからって・・・!!
喰らいなさい!
マジカルスタールーム!」

まだやる気か・・・うまく手加減しろよ、ティア。
正直他人の魔法は参考になるから少しは続けて欲しい節は俺にもあるしな。
ほら、始まった。
リリーナのロッドから大きな六つの火球が飛び出し、そのうち四つはティアの周りを衛星のように廻り始め、二つはリリーナの周りについた。

「ファイア!」

リリーナの声と同時に火球からさらに小さめな火球が次々と飛び出す。
なるほど!砲台か!そういう魔法の使い方もあるとはな、早速参考になったじゃねえか!
今度真似してみよう!
で・・・威力の程は・・・

・・・

また、ティアに火球が当たる直前でことごとくかき消されてるな・・・
つか、全方位からランダムで飛んでくる火球を顔色一つ変えずに全て消すなんて・・・あいつほんとに人間か・・・?

「私の番か・・・」

「っ!?」

決闘開始から初めて、ティアが動いた。
ティアは相変わらず飛び交う火球をまるで無いもののように普通に無視して、スタスタとリリーナに向かって歩いていく。

「ひっ?!うわあああ?!!来るなあああ!!!」

リリーナが盛大にビビってるじゃねえかよ・・・まぁ、それもそうだよな、あの状況で無表情で歩み寄られたら誰だって怖えもんな。
俺だって逃げ出すぜ。

「パワーライトレイっっ!!!」

慌ててリリーナは自分の近くの火球砲台から魔力のレーザーを吐き出させた。
・・・うん、さらりとやりやがったけどあれどうなってんだ!?
あの火球、見た目はまんま火だけどほんとは全部の魔力に対応してるのか!?
しかもレーザーの魔法なんて初めて見た!やっぱりおもしれえな、初めて見る魔法は!
あれもあとで練習してみよう、レーザーかっこいい!
・・・で、威力の程は・・・

・・・

レーザーがティアの身体に当たる直前で見えない壁に当たってるみたいに光り続けてる。
なんだよ・・・なんだよあれ・・・さすがに反則すぎるだろうよ!
その後ティアは難なくリリーナの元へとたどり着き、素手で魔力を溜め始めた。
そう・・・素手でな。
もちろん俺もできるけど、あそこまで安定させる自信はない・・・ずるいぜ。

「痛いわよ・・・?
降参してくれる?」

ここでティアが表情を変えた。
すっげえ嫌そうな顔してやがるな、やっぱり本当は闘いたくねえんじゃねえか。
そうだよな・・・ただの、弱いものいじめだもんな・・・
リリーナなんかもうびびりすぎて尻餅ついてるじゃねえか・・・
降参、するのかな・・・

「べっ・・・べぇー・・・だ・・・!」

あんなにも力のないあっかんべえ、産まれて初めてみた。
精一杯強がってみたんだろうな。

「おいっ!?リリーナ!やめろ!ティアさんにはお前じゃ勝てねえ!!
怪我じゃすまねえぞ!?」

ランスの言うとおりだ・・・!
手加減してるとはいえティアもなるべく早く決着をつけたがってるだろう、生半可な魔法で脅したりなんかはしねえはずだぞ!?

「ぅっ!うるさい!私は・・・!
コイツには絶対───

「そう・・・」

ティアは魔力のこもった右手を上げ、それをリリーナへむけて振り下ろした。
数メートルはあろうかというほどの高さの火柱がリリーナを飲み込んだ。
・・・杖なしで安定させてあの威力・・・
あいつ・・・今でも剣より魔法で闘った方が強いんじゃねえのか・・・?

「リリーーーナあっ!!」

勝負ありか。
火柱が消えた後、その場には焦げたリリーナだけが横たわっていた。
やりすぎな気もするが、一撃で終わらせたかったらああするしかねえよな・・・
気分が悪そうな表情をしたティアが、ゆっくりとこっちを向いて歩いてくる。

「ユウ、終わったよ。
ランス・・・さん・・・?でしたか?
早く、手当てを・・・」

「リリーナ!おい!しっかりしろ!」

ランスが、こっちに向かってくるティアの横を走り抜けて動かないリリーナの元へと走っていった。
これで終わり。
俺もそう思っていたが、その時だ。

「うげっほ!!がほっ!!まっまぢなさい!」

リリーナが、ランスにつかまって起き上がった!
いや───それより

「まだ勝負はついてない!・・・けほっ!」

まだあきらめてねえのか!?
足元フラフラじゃねえかよ!?

「やめろリリーナ!お前の負けだ!このままじゃお前!本当に───

「ランスは黙ってて!!
───はぁっ、───はぁっ!!さぁ・・・おかげでっ・・・!体が暖まったわ!
来なさいよ・・・ティア!」

「リリーナ・・・」

なんで・・・どうしてそこまで・・・?
理解に苦しむぜ、どう考えてもリリーナに勝ち目はないだろ?
なんでわざわざ自分から痛い目を見るような選択を・・・

「・・・ティア・・・?」

「・・・うん、なるべくね、早く折れてもらう予定だったんだけどね・・・
あれは・・・気絶させないと・・・」

やっぱりな・・・ティアも本当はあまり乗り気じゃなかったらしいな・・・
・・・面倒なこと・・・か、嫌な予感ばっかり当たりやがる。

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