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村に戻ってすぐに宴は始まった。
現段階ではユウの作戦にどこまで効果があったかは誰にもわからないが、良い人間が悪い人間を罰して追い返した、という事実だけでも妖精たちからすれば宴を開くに充分な出来事であった。

「わー!みて!ユウ!花火!!もぐもぐ!」

「えっ!?花火!?森火事やばくないのか!?ゴクゴク!」

「んっふっふ!あまいですよ!ユウさん!あれは妖精の村の伝統工芸品、『火気厳禁花火』なんですよ!?
火を使わずにあの美しさ!妖精たちの誇りです!」

「ふーん、じゃあ花火じゃなくて『花』なんだな。
うん、ものが変わってんじゃねーかよ。グビグビ」

騒ぎ、はしゃぎ回る妖精たちに紛れてユウとティアも宴に参加している。
ほろ酔いで酒を楽しむユウと満腹でデザートを楽しむティアの姿に、マコとコトも胸をなで下ろす。

「あなた達を信じて良かったよ。
確かに悪い人間もいるかもしれないけど、ユウさんとティアさんは違った。」

派手にうち上がる火気厳禁花火を優しい表情で眺めながら、マコは目元を指で拭う。

「マコちゃん・・・。
ふふ!それにしてもユウ!凄い露出度だったね!
・・・ぷく、わ、私・・・あれを見たときは本当にに・・・ぷくく・・・
あっはっはっはっは!!きゃああああ!!
何だったのよあの衣装は!!まさかあんなの妖精さんたちに作らせてたの!?
ふぐっ!どんだけお尻出したかったのよ!ちょっと自信あったつもりなの!?たしかにいいお尻だったけど!あはははははっ!!!」

ティアにとってはユウの衣装があまりにも衝撃的でツボだったらしく、宴が始まってからもう四回目の思い出し笑いである。
そんなティアの様子を眺め、マコはまた目元を指で拭う。

「お、おい、ティア、やめろよ。
その辺で勘弁───

「ティアさん・・・あの衣装、デザインしたの私なの・・・
そんなに・・・だめだったかな・・・」

「そらみろ、ばーか。」

マコが目元を拭っていた理由を聞かされたティアは一転して青ざめた。

「えっ!?マコちゃん・・・!?
・・・あ、その!ごめん!知らなかったの!あと、あとね!面白すぎたの!」

「いや、いいの。
私も・・・すこし違うとおもってた。」

マコはポケットから折り畳んであった紙を取り出し、開き、眺め、くしゃくしゃにして足元に捨てた。
丸まった紙の端っこから、色鉛筆でかかれた尻と思しきものが見て取れ、いたたまれなくなったティアは話を逸らす。


「ううー、あ、そういえばさ!さっきのかっこいい狼さんはどこに行ったの!?
騒ぎ初めてから姿が見えないんだけど・・・もしかして本当に森の神様だったとか・・・!?」

ユウはジョッキに口をつけつつ指を指した。
その先には、タマ用に用意されたご馳走の上で静かに寝息をたてる仔ウルウルフ。
ティアは訝しげな表情をみせる。

「えー・・・どこかな?
え!?もしかしてユウだけに見えてるとか!?え!?神様!?」

ユウはジョッキを煽りつつ左手をブンブン振る。
『違う違う』の手の動きだ。

「グビビ・・・ふいー、そうじゃねえよ、お前まさかほんとに気づいてねえのか?

ありゃあ、タマだよ。」

ティアは顎に人差し指を当てて首を傾げ、さらに表情を歪める。

「ユウ?ちょっと呑みすぎだよ、あれがタマなことぐらいみればわかるってば。
そうじゃなくて、さっきユウが半裸で乗ってた狼さんだよ!」

「いや、酔ってねえよ。
お前のいう『あれ』と俺が言いてえ『あれ』が噛み合ってねえ。
俺が言いてえのは、さっき乗ってた狼がタマだっつってんだよ。」

「わかってるよ、わかってる。
さっきユウが乗ってた狼さんが・・・

狼さんが・・・

・・・え?
・・・タマ?」

ティアはものすごい速さでユウを見る、そしてすぐにタマを見る、そしてまたものすごい速さでユウを見る。

「え?・・・はぁ!?なに言ってんのユウ!?
そうだよ!なに言ってんのさユウ!あれがタマなんだよ!?乗ってみなさいよ!乗れるの!?
えっ!?なに!?えっ!?あれタマだよ!?」

「お、おい、落ち着けよティア。
なに言ってんのかわからねえ。」

「わかってるよ!!私がなに言ってるのかぐらい!
説明してよ!タマが・・・」

ティアはチラリとタマの方を見る。
安らかな寝顔から小さなはなちょうちんを膨らませる可愛らしい姿に一瞬表情を和ませ、またユウへと向き直る。

「タマがあんなに神々しいわけないでしょ!?てか!現にはなちょうちんしてるじゃないのよ!
あの可愛らしさがさっきの狼さんにあったの!?違うでしょ!?
ユウ!もうお酒禁止!酔いすぎ!」

「あぁ、おう。
悪かった、間の説明をぶっ飛ばしたから混乱してるんだよな?
あれだ、さっきの狼は、タマジローさんからもらった魔法の一つでタマを強化した姿なんだよ。
『文字通りのビーストウォーリア』
タマジローさんのビーストウォーリアの研究の中で生まれた副産物だ。
獣専用の強化魔法なんだ、この魔法をかけられた獣はものすっごく強くなるんだ、あと知能も強化されるから普通に言うことも聞いてくれるし、時には自分で考えて最善の行動をとってくれるようになる。
応用して普通の肉体強化魔法を作れねえかと考えて、ついでにもらってきたんだよ。」

ティアは小難しい顔をして固まる。

「タマが魔法で強くなる。
強くなると狼さんになる。」

ティアは瞳を輝かせてブンブン頷いた。

「つっ!!つまり!タマが!タマが『変身』するんだね!!?ユウ!!」

「うん、そう。」

「す!すごい!すごい!!!みせて!
ねぇ!ユウ!私にもタマがおっきくなるところみせてよ!」

「タマ、寝てるのにかわいそうだろ?
今日はきっとタマもつかれてんだよ、寝かせといてやれよ。」

「うーん、そっか・・・」

残念そうな表情でティアはデザートをつまみ上げ、口にほおりこんだ。

「うーん、轟槌犬牙?いや、もっと・・・もぐもぐ」

「・・・なにかんがえてやがる・・・」

宴は夜遅くまで続いた。
人間と妖精、お互いに争うこともあるかもしれない、分かり合えないこともたくさんあるかもしれない。
でも、それはちょっとした思いやりを向けあうだけで乗り越えられるのがほとんどであろう。
思いやりなど捨てて、力だけで解決することができても、あえてそうしないことでより丸く収まることもある。

ティアは日記にその日の出来事を綴り、少しだけマリエッタの言葉の意味が理解出来たような気持ちになった。

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賑やかだった時間も過ぎ去り、世界は再び朝を迎える。
妖精の村も例外ではなく朝日に照らされ、昨日の終わりと今日のはじまりを住人へと知らせる。
昨夜の宴は妖精に憧れていたティアにとっては夢のような時間であった、しかし楽しい時間は永遠には続かない。
永遠などは、常に変化し続けるこの世においては有り得ないことなのだ。
永遠が無い以上、必ず別れの時も訪れる。

「ふぁー・・・おはよう、昨日はたのしかったねぇ、ユウ。」

「代わりに今現在地獄をみてるけどな・・・うぇ。」

「あ!ユウさん!ティアさん!おはようございます!」

「2人とも、おはよ。」

旅の支度を済ませて部屋から出てきたユウとティアにコトとマコは挨拶をする。
少し目の下に隅ができているが、満足げなティアとは対照的に、ユウは今にも倒れそうな様子で元気がない、二日酔いだ。

「おはよう、コトちゃん!マコちゃん!」

「おはよー・・・」

「おやおや、二日酔いですかね、どれ、妖精の村に伝わる二日酔いの薬を用意してあげましょう。」

「ありがとうございます・・・長老さん・・・。」

マコとコトは2人で朝食の準備をしている最中なので、ユウとティアは食卓で長老と話しつつ時間を潰す。

「ほれ、お飲みなさい、二日酔いの薬です。」

「ありがとうございます・・・」

木のコップに入った液体を飲むユウを眺めつつ、長老は話を始めた。
その声は、とても嬉しそうで満足げである。
「お二方にはとってもお世話になりました。
コトは無事に村に戻り、悪い商人は懲らしめ、かつ、うまくいけば妖精狩りをなくすことができる、お二方のおかげです、本当にありがとうございました。」

ユウとティアは深々と頭を下げる長老をみて顔を見合わせる。
2人とも困ったような様子で顔をしかめているのだ。

「いえ、とんでもない。
しかし・・・マコの笑顔の件については・・・結局・・・」

「マコちゃん・・・宴でも笑ってなかったもんね・・・」

しゅんと、テーブルとにらめっこを始める2人に長老も残念そうな声で言う。

「マコは・・・あなたがたを信用してはいますけど、まだ人間のことは苦手だと感じているのでしょうな。
しかし今回は大きく前進したと言えるでしょう、あとは時が解決するのを待つしか・・・」

「でも、長老さんは『人間の手で』って・・・私たち、結局・・・」

「なに、今後マコが笑うことがあれば、それは間違いなくあなたがたのおかげですじゃ。
ですからそんな顔をしないでください、あなたがたには、本当に感謝しているのですから・・・。」

小さく2人が頷くと、マコとコトが朝食を食卓へと運んでくる。
笑顔のコトと、いつものマコ。
ユウとティアは胸が締め付けられるような思いだった。

朝食が終わった後、2人は妖精の村を後にしようと最後の支度に入る。

「マコちゃん・・・どうすれば・・・」

「笑わせてやりたかったな。なんか、不憫だ。」

暗い雰囲気が2人の間に流れる。
そこでユウが思い出したかのように話を変える。

「・・・ぁ、そうだ。
ほれ、ティア。」

「ん?なに?」

ユウがティアへと四角い布袋を投げた。
あかくて、薄くて、そんなに大きくはない、中には紙がたくさん入っているような手触りだが、ティアはそれに見覚えなどない。

「・・・?
なにこれ?」

「金より大事なものもあるって言ったけどな、やっぱり金も大事だろ?
あけて見ろよ、俺もまだ中は見てねえ。」

にひっ、と笑うユウに勧められるがままにティアはそれを開けると、口を開けて目を丸くする。

「・・・ユウ!?これ!?」

「んー?どれどれ?おお!なかなか!
へへ、汚い金だけどまあ、正しく使えば文句もねえだろ。」

「いや!どうしたの!?これ!?」

ティアが開く布袋のなかには大量のお金が入っている、ざっと見積もっても500000Fは入っているようにみえる。
ティアの質問にユウは得意げに胸を張って答える。

「どうしたって・・・『盗った』んだよ、いや、正確には『とりかえした』と、思いたい!」

「え!?盗った!?とりかえした!?
どういうこと!?」

「ゲス商人だよ、お前は横で爆笑してたから気づかなかったかもしれねえけど、つまみ上げた時に腰からそいつをぶら下げてたからプチっとな。
案の定財布だったみたいで良かった。」

「・・・そ!そうだったんだ・・・ユウが一番ゲスだったってオチか・・・」

ティアは袋からお金を取り出し、二十七万だけを自分の財布にしまうと、残りはユウへと手渡した。

「・・・うーん、よくないことなんだろうけど・・・ありがとう!」

「んあ?いらねーよ、全部お前にやる。
俺はあんなゲスの金なんて自分の財布に入れたかねえ。
もう無駄遣いするなよ?
・・・いや悪い、間違えた、次もちゃんと有意義に使えよ?」

ユウは微笑みつつ、ティアへと握り拳を突き出す。

「ありがと!今日の晩御飯は私がおごるね!」

ティアも拳を突き出し、ユウの拳と突き合わせて笑う。
そこで突然ティアは声を上げた。

「あっ!そうだ!」

「ん?どうした?」

「ユウ、このお金!早速有意義に使いたい!」

「ん?おう、勝手にしろよ。
でも何に使うんだ?」

「裏切り者には教えません!」

嬉しそうにティアは自分のパンパンになったリュックをひっくり返し、中身を空にする。そして、なかから髪ゴムを取り出して髪型を変え、リュックから出た荷物に紛れていたマスクと伊達眼鏡を装着する。

「裏切り者ってなんだ・・・って、なにしてんだよ・・・?」

「グリーンヴィレッジに用事ができちゃったの!商人と顔合わせたら面倒なことになるから変装!!
すぐもどるから待ってて!」

ティアは空っぽのリュックを背負って部屋を出て行く。
部屋の外から
「長老さーん、グリーンヴィレッジにいきたいからおおきくしてくださーい!」
という声が聞こえる。
部屋にはティアのリュックから出てきた大量の荷物とさり気なくティアの膝でジャーキーを食べていたタマだけが残された。

「・・・タマ、うまいか?」

何も語らぬ小さな2つの湖を眺めつつ、ユウはティアの荷物を片付けはじめる。

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「あー、ティアのヤツ、なかなか帰ってこねえな。」

「なんか、鼻息を荒くしてでていきましたよ?ティアさん。」

「しかもどや顔してたよね、痩せたリュック背負って。」

妖精の村の入り口にはたくさんの妖精だかりができている、みんなユウとティアの見送りのために集まっているようだ。
その中でユウは二人分のまとめた荷物を持って、グリーンヴィレッジへと消えたティアを待っている。

「君もすぐに出発できるように大きくなって待つかね?ユウくん。」

長老の問いに、ユウは「あー」だの、「えー」だのと言いつつ地図をひらいた。
地図に定規をあてて、指を折りつつ数を数え、地図をしまって言う。

「妖精サイズを楽しめるのも今日だけかもしれないからもう少しこのままで待ちますよ。
そんなに焦らなくても、次の目的地には余裕を持って着けますし。」

ユウは低くなったお菓子の山の中から大きな飴を一つ砕いて、破片を口へとほおりこむ。

「もごっ!ほのはめああふあっはらもほひへふははい。」

「え、ユウさんなんて!?」

「たぶん、『このあめがなくなったら戻してください』じゃない?」

「あー、なるほど、マコ姉すごい!」

───数十分後───

「アメが・・・普通のサイズになったぜ。」

ティアは一向に戻ってくる気配が無く、ユウはアメを噛み砕いて長老へと告げる。

「さて、アメもなくなったしそろそろ大きくしてもらうか、長老さん、お願いします。」

長老が頷いて魔法を解こうとしたときである。
ガサガサと言う音と、かける足音、少女の荒い息が村の入り口へと近づいてきた。

妖精達が身構えて村の入り口へと視線をむけた。

「はぁはぁ、ふいー、おまたせっ」

「あ!ティアさん!おかえりなさい!」

コトが話しかける先、巨大な少女がさらに巨大なリュックを背負って現れ、膝に手をついて息をあらげている。
ティアが戻ってきたのだ。

「はいはい、おまたされ!」

「おまた!?ちょっ!ユウ!あんまり見上げないでよ!!」

怒った様子でティアは剣士服のスカートを押さえた。
スパッツをはいていてもやはり露骨にスカートの中を覗かれるのは抵抗があるらしい。

「そんなに見られたくないならズボンはけ!
それよりなんだよ結局リュック太らせてきやがって、旅用の荷物入れる気あるのか?」

「あるよ!これ、私の荷物じゃないから!」

「ティアさんの荷物じゃない・・・?」

首を傾げて顔を歪めるマコ。
そんなマコの様子を見下ろしながら、ティアは笑顔でリュックをおろした。

「んふふふー、マコちゃん!妖精のみんなへのプレゼントだよ!
楽しませてもらったお礼だよ!」

ティアがリュックの口をあけ、勢いよく中身をばらまいた。
そして、そこに集まる全ての者が驚き、言葉を失う。

「・・・は?これが、有意義・・・?」

「・・・ティアさん、これは・・・?」

「あ・・・これ、ティアさんがくれた・・・でも・・・なんで?」

ユウと妖精達が黙って眺めるリュックの中身、それはあるお菓子の箱の山。
ユウもよく知る人気お菓子。
大量の『はまぐりの浜』であった。

「・・・あぁ、裏切り者ってそういう!」

「裏切り者?ユウさん、それってどういう・・・?」

困惑気味のマコに、ユウは簡単に説明する。

「人間がな、このお菓子と、そのライバルのお菓子とでどっちが美味しいかでよく派閥を作って争ってるんだ。
で、ティアはこっちが好きで、俺もこっちに寝返った口なんだけど・・・結局俺からすればどうでもいいというか・・・今、どちらの派閥にもつかない中立にいるんだが、ティアはどうもそれが気にくわないらしいんだ。」

「・・・ふーん、ユウさんの言うとおりだね、どうでもいい。」

興味がないのか、マコはお菓子に群がる妖精達をぼーっと眺めつつ、長い息を吐く。
しかし、マコの中では疑問が残る。
コトもはまぐりの浜の山へと飛んでいったのを見送り、マコは再度ユウへと問う。

「・・・でも、なんであのお菓子ばっかり・・・?」

「・・・うーん、なんでだろうな?
裏切り者と、有意義な使い道ねぇ・・・」

にやにやと笑みを浮かべながらユウはマコへと問い返した、どうやらユウにはすでにティアの意図がわかっているようだ。
困った顔で首を傾げ続けるマコを見かね、ユウは笑顔ではまぐりの浜を配るティアを眺めつつ自分の考えを述べる。

「俺やマコにはどうでもいいことかもしれないけどな、あいつにとってはあのお菓子が好きなのか嫌いなのかはすげえ重要なことなんだよ。」

「重要?」

「そうだ、重要だ。
あのお菓子の好き嫌いで敵も味方もつくれるんだよ。
つまり、きっとあいつは妖精達と・・・いや、お前や、コトと・・・仲間になりたかったんだよ。」

驚いた様子だ、マコの目がみるみるうちに大きくなる。

「仲間・・・私と、ティアさんが?」

「そ、仲間。」

「妖精と・・・人間なのに?」

「でも、信じてるんだろ?」

ティアが笑顔でマコにも声をかける。

「マコちゃん!マコちゃん!はやくこっちにきなよ!ユウなんかさんごの海でも食べさせておけばいいんだよ!
ほら!マコちゃんにはプレミアムタイプも用意したんだよ!?」

「仲間・・・」

マコの中から、何かがこみ上げてくる。
不思議な気持ちがあふれて、こぼれる。
おかしくなる。

「・・・ふっふふっ!
あははははは!今更そんなお菓子なんか用意しなくたってもう充分2人は仲間じゃないの!
ふふっ!それに!別にユウさんがお菓子に興味なくてもあなたたち仲良くしてるじゃないの!あはは!変だよ!ティアさん!」

一瞬、時間がとまった。

「あっ・・・マコ・・・!!」

「・・・マコちゃんが・・・!?」

「マっ!マコ姉!?」

「うふっ!ふふふっ!・・・え?みんな?どうしたの・・・?」

沈黙が続く、そして、沈黙を作った張本人がはっとした様子で沈黙を破る。

「・・・あ、あれ・・・?私・・・今」

マコは肩を震わせ、オロオロと何もない中空に手を泳がせて声を漏らす。

「私・・・今、笑ったよ・・・!」

ポロポロと涙をこぼし、訴える。
コトも顔を押さえて肩を震わせ、長老はただただ満足げに目元を拭い、頷く。
妖精達が沸いた。

「ティアさん!ありがとう!私!ティアさんも!ユウさんも!タマちゃんも!はまぐりのお菓子も大好きだよ!!」

泣きながら駆け寄るマコ、ただ、笑顔で、大きな指で小さな頭をなでるティア。
晴れてはまぐり派が1人増えた瞬間である。

「今宵も宴じゃあ!!村の者!準備をせい!!」

鼻水を啜りながら長老は宴の開会を宣言した。
そして長老は最後の最後までユウとティア、タマにも礼を言い続け、宴にも誘うが、2人はやんわり断って村を後にする事にした。
今夜も宴に参加したら、今度はユウも飲み過ぎ、ティアも食べ過ぎてしまうに違いないと思ったからだ。
それだけ今回の出来事には2人も満足だったのだ。

嬉しさと名残惜しさを半々に、2人は妖精の村を後にする。

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「その夜、波打ち際を歩く男の足に絡みつくなにかが・・・!!」

「なにか!?」

「まぁまぁ、落ちつきなよ、ユウ。
話はこれからなんだから・・・」

「うんっ!」

「それは真っ赤な・・・」

「タコ!?」

「いやいや、違うから・・・ユウ?
話はこれからだから落ち着いて聞いてね?」

「俺たちは・・・これからそんな魔境に向かうって言うのか・・・大丈夫なのかな・・・」

「あ、私の話終わらされちゃった・・・」

妖精の村を抜けてから、2人はグリーンヴィレッジを通らないルートで港街を目指す。
ティアの海にまつわる怪談話もそこそこに、2人は軽快に足を進めていく。
お弁当も食べ終えて、あとは峠を下れば港町である。

「タマー?港についたらタマも新鮮なお魚たべたいよねー?」

ティアは笑顔でタマを抱き上げ頭をなでる。
相変わらず鳴きもせず、黙って震えつつ瞳を潤わせるタマ。
ユウの魔法で強化され、知能と力が増しても大人しく、ただの一鳴きもしなかった点から考えると、タマはもともと大人しくて物静かな性格なのだろう。

「タマって、魚介類食べても大丈夫なのか?」

「基本的には雑食だからね!きっとその気になればユウでも食べれるよ!?」

「タマサブローに本気で食われかけた俺からすればその話笑えない、やめてくれよ。」

「・・・それちょっとちがう・・・」

ある程度峠を下って、開けた道にでた。
そこでユウはとティアは大興奮を覚える。

「・・・あ!!!ティア!!みろ!海だ!アレ絶対海だよ!」

「えっ!?見えるっ!?・・・あっ!!すごい・・・!
あれが・・・海・・・青いね!!」

「ああ!でかいな!!」

ユウがとびはねながら指を指した先にはとうとう海岸線が見え、真っ青な海が顔を出していた。
2人とも実際の海を見るのは初めてなこともあり、大人げなくきゃあぎゃあ騒ぐ。

「すごいよ!あんなに・・・あんなに青くて大きい海から・・・無数の白い手が伸びるなんて・・・」

「えっ!?なんだよそれ!?白い手!?」

「知らないの?ユウ・・・私が聞いた話だと・・・海っていうのはね・・・」

ティアの怪談話が第二部へと進み、2人の足取りもより軽くなる。

───しばらく後───

「そこに現れた幽霊船がね・・・」

「うんっ!」

「不気味に・・・あっ!!ユウ!港町の入り口!あれじゃないっ!?」

「っなんっだよっ!幽霊船が不気味になんなんだよ!じらすなよ!」

怪談話も第四部まで続いていたが、ティアはその流れを自らぶった切り、初めての港町にはしゃぐ。
タマを抱えて話を聞いていたユウもそこで港町の存在に気づき、突然の怪談終了にブーブー言いつつも港町を眺める。
程なくして2人は旅開始以来の最初の目的地であった港町へと到着した。

「ほお!・・・港になってて海沿いにあるってこと以外はペールタウンと大差ねえな。」

「・・・うん、なんか、白っぽくて綺麗だけど普通だね。」

街の入り口からは海が見えるわけでもない、海がみえなければ海沿いの街だろうとなんだろうとただの街である。
しかし海沿いにあるのは確かで、2人の目的は暗黙に決まっている。

「じゃあ・・・」

「早速・・・」

「「海見にいこうか!!」」

2人は海に興味など無さそうにおすわりをするタマを取り合いながら、街の中へと駆け出した。

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二人は海までの道など知らない。
初めての街であるから当然である、しかし海までの方角はわかるため、とにかく海の方角へと向かって障害物や別れ道をのけてゆく。
順調に街の中をかけていたが、途中でティアが突然足を止める。

「あ・・・」

「おおっと、どうした?ティア?」

首を横の建物に向けて止まっていたティアは、ユウの呼びかけにも答えず、身体も首の方向へと向ける。
なにかに興味を惹かれた様子で口を開けて固まったその表情、ユウは自然とティアの視線の先を注視する。

「・・・映画・・・?」

映画のポスター、そして、受付と思しきテーブルと、そこに座る男性。
映画館であるらしい。

「ユウ・・・私・・・映画みたい!!」

「んあ?!映画!?・・・海は?」

「・・・うーん、ユウは・・・海がみたい?」

ひとつ、ユウは首を傾げてティアへと問う。

「なに遠慮してんだよ、らしくねえな。
いつものお前ならコレだろ?」

そう言うとユウは右手を握って前へ出した。

───数分後───

そこには映画の席に着き仏頂面でポップコーンを摘んでいるユウがいた。
タマも大人しくティアの膝の上でジャーキーを噛んでいる。
ティアはというとすでに泣きそうな様子でまだ何も映っていないスクリーンをながめていた。
じゃんけんは、ティアに軍配が上がったようだ。

「ごめんね・・・ユウ・・・この映画、どうしてもみたかったの・・・
旅に出てくる前から楽しみにしてたんだけど・・・みる機会もなかったから・・・」

「・・・で、俺が原因で旅にでたから見れなかったと、そしてそれを言うと俺に気を遣わせそうだから遠慮気味だったと。
バカだな、映画ぐらいいつでもかまわねえよ。
俺は寝るけどな。」

ユウはティアの創作物好きは知っている、童話も演劇も映画も好きなのを知っているのだ。
今日は移動日で時刻もすでに夕方、依頼を受ける予定もないし、後は食事と宿取りを残すのみだ、海なら明日でも見に行けるし、お金に困っているということもない。
ユウには、断る理由がなかった。
しかしあえてじゃんけんにしたのはティアが予定を曲げた事を本人に気負わせないためである。
仮にユウが勝っても、映画のポスターに食いつく振りをして結局映画にするつもりだった。

「ありがとう~!
お礼に今日のおごりは奮発するからね!」

「じゃあそのお礼に映画は俺のおごりだ、楽しめよ、お休み。」

口ではそういいつつも実はユウも映画が気になる、どうせ数時間も続くのなら、つまらなくなってから寝ればいい。
最初の数十分は見ても損はないと、ユウも起きているつもりだった。
2人は光り始めるスクリーンへと目を移して会話を止めた。

物語が始まる。
内容は王道の恋愛もの、ある1人の騎士の男と、騎士に守られる姫の話。
姫の国と隣の国は戦争中である、ある戦いで騎士は罠にはめられて敵国に捕まってしまう。
騎士と恋仲であった姫はその事実に痛く悲しむ。
そこで姫は騎士を助けるために自ら敵国の王と結婚する事を約束し、結婚が成立したら戦争は終わらせ、全ての者の身の安全を約束する様、敵国の王へと話を持ちかける、自分を犠牲にして騎士を助ける道を選んだのだ。
姫は敵国の王の監視下に収まり、一旦は騎士も解放される。

しかし、敵国の王は嘘をついていて、結婚成立後、姫との約束を破るつもりであった。
その話を偶然聞いた騎士は、ある中立国に住む友人にその話を持ち込み、助けを求める。
その友人も中立国の騎士であったため、姫の国の危機を中立国の王へと報告し、姫の国への加勢をお願いする。
結果、姫の国と中立国の前に敵国は破れ、取り返された姫と騎士は結婚してずっと幸せに暮らすというものであった。

物語序盤、興味など無さそうにしていたユウが敵国の王に本気で怒る。
「映画だから」とティアになだめられ、一度立ち上がるもちゃんと座る。
それからはユウも物語に釘付けであった。
タマはウルウルしていた。

いやに生々しいベッドシーンでは2人とも固まったまま目を皿にしていた。
ユウはポップコーンを摘んだまま生唾を飲み込み、ティアはなぜか膝の上のタマの目を覆っていた。
その手の下でタマはウルウルしていた。

姫を取り返すために敵国の軍相手に剣一本で無双する騎士とその友人騎士にユウは大興奮で鼻息を荒くしていた。
ティアは眉間にシワをよせながら
「あそこでごうつい、そこからきりかげ・・・」などとつぶやいていた。
タマはウルウルしていた。


そして騎士と敵国王の一騎打ち。

『姫、君を───さらいにきた!』

この台詞にティアはブンブン拳をふって興奮し、ユウは一つ、鼻で笑った。
タマはウルウルしていた。

ラストシーンには2人でティアのハンカチを取り合いながら止まらぬ涙を拭っていた。
タマもまだジャーキーを食べながらウルウルしていた。

2人とも有意義な時間を過ごせたようだ。
映画館をでて、レストランで食事を始めても興奮冷め止まない2人は映画の話で盛り上がる。

「いやぁ、ほんとにあの騎士さんの台詞!!
『姫、君を───さらいにきた!』

きゃあああああ!しびれたねぇ!」

「いやいや、あれは流石に臭かっただろ。」

「まあねー!ユウには絶対無縁な台詞だもんねー!はいはい!
じゃあユウならあそこでなんて言うのよ?」

「姫さまをかえせー!!」

「・・・」

「かえせー!!」

「・・・」

「フロスト=スープ!」

「えっ!?何!?
・・・ああーーー!!!私の
『じっくりぐつぐつ煮込めばにっこり!新鮮魚介のダシが生きる!生きがいいから生きている!黄金色のエビカニホタテミックスデラックスープ』
が氷漬けにいいいいぃ!!!?
せっかくちゃんと名前を覚えて注文したのにいいいい!!!?」

「へっ、姫さまをかえせーを馬鹿にするからだよ。
それに結局名前覚えたところで店員さんは
『はい、魚介スープ一つですね』って言ってたじゃねえか。」

「うるさい!てやっ!」

「わっ!あぶねっ!
・・・うおわあああーーー!!!俺の
『まさかの厚みが8㎝!中まで火なんか通さない!むしろ赤さがうまさの秘密!塩と胡椒で食べなきゃ出禁の高級しもふりレアレアステーキハイパー』
がただの細切れ肉にいいいぃ!!!?
ふざけんな!!」

「なによ!ユウだってしっかり名前覚えてるじゃないのよ!!
そのくせメニューの写真を指差し注文なんてずるいよ!」

「うるせえ!こんな長ったらしくてこっぱずかしいメニュー声に出して注文なんてできるかよ!?」

映画の話もそこそこに、喧嘩の末に高級レストランからつまみ出された2人は、今夜も仲良く貸し出し厨房でティアのチャーハンを食べた。
そこで2人は翌日からの予定を話し合い、宿へと入ってその日を終える。
地元だろうと海辺だろうと結局2人は変わらない。
変わらないから、楽しく旅を続けられるのかもしれない。

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予定会議から一夜あけ、2人は予定通りに事を進めようと宿をでる。

「よーし、昨日の話どおり!
今日は依頼所で『海に関する依頼』を探して一石二鳥ってことだったよね!」

「そうそう、早速依頼所いってみようか。」

2人は難なく依頼所にたどり着き、難なくランクフリーの依頼を探す。
しかし、その様子はどこか面白くなさそうである。

「海岸掃除、魚釣り、屋台開き・・・なによこれ、便利屋以下じゃないの。」

「海底洞窟への入り口の発見・・・1000000F
これどう考えてもブラックだろ。」

「「はぁ・・・」」

ティアがファイルをたたんでユウへと話かける。
その表情はいかにも「面白くない!」といった感情が見え隠れし、ユウも同じことを思っていた。

「ユウ!せっかく港町まできたのに、海に関する依頼がひどいのしかないよ!」

「海底洞窟、探しにいくか?」

ティアは困った表情で首を傾げてすぐに断った。

「やめとく。つい最近そのノリで死にかけた。」

「だよなー・・・」

ふと、ユウは思いついたかのようにブロンズランクの依頼を探し始めた。
ティアはさらに困った様子でユウへと問いかける。

「ユウ、それブロンズランクだよ?
私達まだノーランクだからその辺は受けられないよ。」

「まぁまぁ、ちょっとな。
もしかしてノーランクの依頼しか探さないから面白くないんじゃないのか?」

パラパラとファイルのページをめくりつつ、ユウは依頼を読み上げていく。

「クラゲ鮫の捕獲、危険海域調査、大マグロ一本釣り補佐・・・なるほど!面白そうかも!!
ティア!やっぱり俺たちがノーランクだから依頼が面白くないんだよ!
もしかしたらグリーンヴィレッジの依頼にもブロンズランク以上なら面白いのがあったのかもしれない!」

笑顔で目を輝かせつつ、ユウはティアへと向き直った。
その様子にティアも両手を合わせて同意する。

「なるほど!それだ!
じゃ!じゃあさ!まずは適当な依頼をポコポコやっつけて、ブロンズランク入りを目指せばいいんだね!?」

無言でユウは頷いてランクフリーのファイルを再度開く。

「決まりだ!

『どっちが先にブロンズランクになれるか』

競争だ!」

「望ところ!私の方がアドバンテージあること忘れないでよね!」

ティアはユウがタマジローと魔法研究に明け暮れていた時にもいくつかの依頼をこなしていた、そして、得意分野が多い分、ユウよりもティアの方が受けられる依頼の幅も広い。
ユウはすぐさま討伐の依頼を引き受け街の外へと出て行ったが、ティアは悠々とランクフリーファイルから
『手芸教室補佐、荷物配達、施設の臨時子守、パーティー料理作りの手伝い』
など、はば広く、且つ、街の中で受けられる依頼を引き受ける。

「この競争、私の勝ちね。
さーて、なに奢ってもらおうかな?」

2人の競争開始宣言から数日後の話である。
いつもの依頼所には笑顔でブロンズランクのペンダントを受け取るティアと、頭をかきながら必死にランクフリーのファイルをめくり漁るユウの姿があった。
目の下には隈まで出来ている。

「さて、競争は私の勝ちだね、ユウ?
それじゃあ、私はそこの喫茶店でタマとお茶してるから、さっさとブロンズランクに上がってきてね?」

「ちくしょう!なんでだ!なんでだよ!俺は1日三つぐらいしか依頼受けれねえのに、なんであいつは倍ぐらいの数こなせんだよ、ふざけんなよぅ・・・」

ユウもブロンズランクにあがるまでにはさらに数日かかった。
暇をもて余したティアが一度妖精の村まで遊びに行った位である。
そこで笑顔を見せてくれたマコとコトの話をされたときは、ユウは悔しそうに目元を拭っていた。
しかし、ようやく二人ともブロンズランクへと昇格した。
ブロンズランクは別に珍しいこともない、むしろ、旅の人として生活しているものならばブロンズランク以上でなくてはおかしいぐらいだ。
ユウとティアは、ようやくそのランクまでこぎつけた。

「じゃあ、負けた方にデメリット無しっていうのもあれだもんね、罰ゲームはユウが考えてよ。
自身が・・・納得いくようにね?むふふっ!」

「くそう・・・ちくしょう・・・!
俺だって本気になれば討伐以外の依頼だって・・・!」

「受けた結果、失敗して怒られた上に罰金までとられてたよねー、あははっ!」

「・・・」

ユウの罰ゲームについて話し合いつつ、二人はブロンズランクのファイルを開く。
始めてのブロンズランクの依頼。
少し状況が特殊すぎたということもあるが、シルバーランクの跡継ぎで死にかけた節もあるため、2人は若干の緊張を覚える。

そして、2人はある依頼を受けることにして依頼所を後にする。

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2人が街の人間に話を聞きつつ向かった先は港である。
街はそれほど広くもなく、ほどなくして目的地へとたどり着く。

ほのぼのとした晴れた港、静かな波の音、どこまでもどこまでも広がり、空との境界を混ぜあう海、ミャーミャーと変わった鳴き声で鳴くカモメ、巨大な船。
初めての光景とその素晴らしさに、2人ははしゃぐことも忘れて海を眺めた。

「これが・・・海か・・・!」

「これが・・・海だよ・・・ユウ!」

「そうか・・・海だな・・・ティア!」

「うん!・・・海だね・・・ユウ!」

「ほら!・・・タマ!・・・海だ!」

「あそこに見えるのが海だよ!タマ!」

腕をくんで大海原を眺める二人。
今からこの海を越えて、まだ見ぬ世界へと乗り出す不安と期待に、2人は感慨深さを覚える。

「俺達の冒険はこれからも続く!」

「長い間、ご愛読ありがとうございました!ユウ・ラングレル先生の次回作にご期待ください!」

「・・・終わらねーよ。
さっきからノリだけで会話するのやめてくれよ。」

「それで!それでね!次週からは私の新連載がはじ───

「まらない!だめだ!」

「ちょっ!?ずるいよ!私もペンでブレイクしたい!」

「今の終わり方だとブレイクどころかどう考えても打ち切りだけどな。
ちなみにどんな新連載だ?評価してやるよ。」

「タマが主役のハードボイルド。」

「よし買った。」

「ほんと?予約者特典つけないとね!」

「よし、10冊買った!
特典内容は?」

「タマのウルウルストラップ。
『ウルウル』と『売る売る』をかけてるの、縁起がいいでしょ?
これで私のお財布も潤潤なの!」

「・・・古本屋に売られてなければいいけどな・・・売る売る。」

他愛もないいつもの雑談を投げ合いつつ、2人は依頼主の元へと向かう。
港の端にたどり着いた2人は、たくさんの木箱が乗せられた大きな船の横で足をとめた。

「コンテナーノセール号・・・これだ・・・!」

ティアは震える声でその巨大な船を見上げる、あまりの巨大さ故に見上げているのに足がすくむ。

「でっ・・・けぇ・・・マジかよ・・・」

固まる2人に対して船の上からバンダナをした男が声をかけた。
どうやら乗組員のひとりらしい。

「おーい、おまえらー、なにやってるんだ?
そんなとこにいたら荷物の積み込みのじゃまだぞ?
観光船はあっちだ。」

「ああ!いえ!違います!俺達ブロンズランクの旅の人で、その、今回は依頼を受けさせて頂こうと参りました!!」

「ほら!ちゃんとブロンズランクのペンダントももってますよ!」

ユウの説明と、ティアの掲げるペンダントを目にし、乗組員は怪訝な顔をみせる。
どうも信用してない表情だ。
しかし乗組員のその様子にも無理はない、依頼の内容から考えるとどう考えても船の下の見える少年少女は役不足に見えたからだ。

「いや、依頼って・・・『貨物船護衛の依頼』のことだろ・・・?
確かにブロンズランク以上の募集だったらしいけど・・・お前らにほんとにこの船の護衛なんてできるのかよ?
最近ここいらでは『海賊被害』が頻繁に起きてるんだ、遊びじゃないんだぞ?」

2人が受けることにした依頼とは、乗組員の男の言うとおり
『貨物船の護衛』
である。
この依頼なら前回のシルバーランクの依頼の様な変な危険もない上、船で海を渡った上にお金までもらえる。
目的地は船の行く先に固定されてしまうが2人が目指すのは大陸の中心部にある王国である、
別の大陸に流される心配さえなければ別に行き先はどこでも構わなかったため、この依頼を選んだのだ。

「ああ!それなら大丈夫ですよ!俺達最近飛竜と戦ってきましたから!」

「いや、まって!ユウ、あれ一方的にやられてただけじゃ・・・?」

しかし、ユウの言葉は逆効果となる。

「飛竜!?飛竜だと!?嘘つけ!そんなもん相手にして生きて帰れるわけないだろ!?
子供の遊びに付き合ってるヒマはないんだ、高くついちまうから避けたかったが今回は妥協して護衛団に依頼するよ!
帰った帰った!」

諦めかけるティアを余所に、ユウは流石に頭にきた様子で乗組員の男に食ってかかった。

「なんだと!?降りてきやがれおっさんよう!!
あんたのことボコボコにすりゃあ文句ねえだろ!?
相手の実力も見誤るようなヤツにガキ扱いされたかねーよ!
少しはタマジローさんみならいやがれ!
なんなら呼んできた護衛団もまとめて相手してやるよ!」

「ちょっ!ユウ!やめなよ!
ごめんなさい!乗組員さん!ユウはちょっと頭に血がのぼると・・・」

あわててその場を取り繕おうとするティアの耳に入った声は呆れた様子の笑い声。
その声は紛れもなくその乗組員の男によるものだった。

「あっははは!言うじゃねえか坊主!気に入ったよ。
俺は威勢のいいガキは大好きだ!よし、ブロンズランクであることは間違いなさそうだし、この船の護衛はおまえらに任せよう!
だが大人相手に喧嘩売ったんだ、ちゃんとこの船目的地まで守り抜けよ?!」

「えっ!?いいんですか!?」

「いや、お嬢さん、むしろこちらからお願いする!
さぁ!もうすぐ荷物も積み終わるから早くのんな!」

2人は顔を見合わせ笑顔で頷き、乗組員の男に頭を下げつつ船へと乗り込む。

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「まったく、この間は私が怒ったのを見て止めてくれてたのに、なんで立場が入れ替わってるのよ?」

「・・・ごめんなさい。
あの時はティアの予想外の行動に俺も焦ったんだ・・・。」

「結果的に丸く収まったからいいけどねー。」

船が出航してからすでに数十分は経過した。
最初こそはしゃいでいたものの、そこは2人も大人と子供の中間。
ワクワクの海原への冒険は、落ち着いた船旅へと姿を変えていた。
2人はどこまでも続く海を眺め、無駄話にふけっている。
空は快晴、風は優しく生ぬるい。
思っていた以上に快適な船旅に、2人はブロンズランク取得のために働き詰だった日々の疲れを癒やす。

「おう!ここにいたのか2人とも!」

後ろから突然声をかけられ、2人は肩をすくめた。
先ほどの乗組員の男が背後に立っていた。

「あ!おっさん!さっきはすみません!俺も悪かったよ。」

「なあに、お前は悪くねえよ。
そんなことを謝るより、俺をおっさん呼ばわりしたことを謝ってくれ、こう見えても俺はまだ32だ!」

「そうなんですか!?
・・・それなら結局おっさんじゃん・・・?」

「なんだと!?やる気かこのクソガキ!」

「いえ、遠慮しておきます。
おっさんの返り血は浴びたくねえ。」

「ユウ・・・さっきは謝ってたくせに本当に反省してるの・・・?」

男はよってたかるとめんどくさい。
と思いつつ、ティアは気になっていたことを男に問う。

「そういえばさっき、『海賊被害が頻繁に起きてる』って仰っていましたが・・・どういうことですか?」

「文字通りだぜ、お嬢さん!最近になってこの辺りを縄張りにし始めた海賊どもに商船やこいつみてえな貨物船が襲われる事件が多発してるんだ!
仕事内容もそのままさ、お嬢さん達は海賊どもからこの船を守ってくれれば依頼達成だ!
報酬ももちろんやるが、もし余裕があるなら海賊船からお宝奪ってきてもかまわねえぜ?はっはっは!」

「なるほど、でも、そんなに重要な仕事・・・私達、もといテキトーな旅の人に任せちゃって大丈夫なんですか?」

「・・・ん、まぁ、本当は正規の護衛団を雇うべきなんだろうけど・・・アイツらたけえんだよ・・・
それに海賊被害の頻発って言ってもだ、仮に月に十件の被害がでたとしたら、それは頻発と呼んでもいいだろう。
事実そのぐらいの被害数は出ている。
でもな、実質この辺の海域を月に船が何十、いや、何百通ってると思う?
被害に遭うのはその何割だとおもう?
・・・そうかんがえれば、海賊に当たっちまったら運がなかっただけ、護衛だって念のためのお飾り程度で済ますに越したことはねえんだ。」

「でも、そんな護衛ならいてもいなくても・・・」

「おっと坊主、痛えとこ突くんじゃねえ!
『だったらなんで一回断った』って顔にかいてる。
単純だ、さっきまではお前らには金を払いたくねえと思っただけだよ、見た目貧弱すぎてな!」

鼻息を荒立てながら腕まくりを始めるユウをティアはあわてて抑えた。

「へ、まあいいや、実際に海賊に襲われたらわかるこった。」

「「縁起でもないこといわない!」」

また面倒な流れになるのではないかと危惧したティアは話題を変えることにする。

「はぁ、それで、この船の行き先の『大陸南端の貿易港』ってどこなんですか?」

「は!?お前らそんなことも知らねえで船に乗りやがったのか!?」

「えぇ、まあ、大陸の外に出されなければどこでも良かったので。」

「だからって・・・片道切符の依頼に賭けるなんて・・・お嬢さん、お嬢さんだけど男だな・・・!!」

「いえ、絶対に女ですから。」

「じゃあちょっと確認───

「させませんから。」

「冗談だよ、俺の半分も生きてなさそーなしょんべんくせえガキなんざ興味ねえよ。
どうせ胸だって俺の胸を柔らかくしたようなもんなんだろ?」

鼻息を荒立てながら服を脱ぎ始めようとするティアをユウはあわてて抑えた。

「話がそれて悪かったな。お嬢さんの身体なんてどうでもよかった。
船の行き先の話だったっけ?」

悔しそうな表情で頷くティアを鼻であしらいつつ男は目的地の話を始めた。

「行き先は説明どおり大陸南端の貿易港、街の名前は
『サウスパラダイス』
砂浜が美しくて年中あったけえところでな、そりゃあもう水着美女、ああ、そうだな、水着美女!
強いて言うなら水着美女の街だ!」

「おお!楽しそうだな!ティア!砂浜で水着美女だってよ!」

「ふふふ・・・見てなさいよ男ども・・・着痩せする私のナイスなバデーはアイリの三ツ星評価つきなんだからね・・・ふふふふふふふ・・・」

「な・・・なにブツブツ言ってんだよ・・・」

その後も続いた男の話によると、目的地までは3日もあればたどり着くようだ。
依頼条件では食事つき、風呂つき、部屋つきだったため、2人は快適な船旅になりそうだと期待を膨らませた。
ただ、海賊に襲われないことを祈りつつ。

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出航からの初めての夜、まだ海賊が絶対に襲ってこないという保証はないものの、昼間よりは安心である。
ユウは部屋についていたシャワーを浴び終えて一息つく。

▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

しかしすごいな、最近の船はみんなこうなのか?
普通に個室にシャワーがついてるなんて、宿やホテルと大差ねえな。
依頼進行中だけど、このまま何事もなく港についてくれればいいよな・・・

ん?誰かが・・・いや、ティアがドアをノックしてやがる、気配でタマも感じる。
開けるか。

───やっぱり。

「やっほ、ユウ、遊びにきたよ!」

「ちょうどよかった、今シャワーから出たとこだよ。」

ちょっと髪が濡れてるな、風呂上がりか。
それになんか歯磨き粉の匂いもすこしするし、多分寝る準備万端で来たんだな。
・・・いくら俺の部屋だからって、歳の近い男の部屋に寝る前に一人きりで入ってくるのはどうかと思うんだけど・・・
つか、寝間着・・・胸が・・・
さっきおっさんはあんなこといってたけど、ガキの頃に何回かティアと一緒に風呂に入ったことのある俺からしたらおっさんは頭おかしいぜ。
コイツは紛れもなく女だ、一番長く2人でいる俺がそう思うんだから間違いねえ、色々と成長しすぎだ。
それだけに、さっきみたくちょっと煽られたぐらいで脱ごうとするのはマジで勘弁してほしいんだけど・・・公然猥褻だ。

「な・・・なによ、ジロジロと・・・」

「いや、別に。
単に寝る準備万全だなって・・・」

「そりゃそうよ、もう何時だと思ってるのさ、てことでここはいただき!」

あ!俺のベッド!
・・・いや、だから、歳の近い男の部屋の・・・まぁ、いいや、コイツはどうも俺の事を男だと思ってねえみてえだしな。
タマもベッドにだらーんと寝そべりやがって・・・可愛いじゃねえか・・・!
俺はタマが好きだ。
いや、あれだ、この前勘違いされたみたいなloveではなく、likeの方の好きだ。
時々俺の死角から心底驚かしてくれるが、そんなお茶目な一面も憎めなくて好きだ。
タマジローさんにもらった魔法で変身した姿もなんか・・・自分のかけた魔法ででかくなってるんだと思うと感無量だし、でかくなっても控えめなタマが大好きだ。
いや、大likeだ。やはり、大loveではない。

「寝るときにはどけよ。
お前は自分の部屋で寝ろな。」

「当たり前じゃない。」

「・・・で?今日は?」

「ふふっ!これだよ!」

ふむ、そうか。
ティアがポケットから出したもの───トランプか!
ティアはよく寝る前に俺のところに遊びにくる、適当なゲームをもって。
オセロの時は惨敗、チェスでは俺の圧勝だったな。
雑談中に手元が寂しくなるからゲームでごまかすのは今も昔も変わらない。
でも、ベッドでうつぶせでこっちを向かないでほしい、潰れて変形した胸とか・・・視界にはいるとどうすりゃいいか困るんだが・・・。
あれか、コイツ、俺のことからかってやがるのか?
この間アイリさんと一緒に俺のことウブとか言ってやがったからな・・・からかってやがるのか!?

「ん?どうしたの?
トランプ嫌だった?」

「いや、トランプなら自信あるぜ、2500F!」

「ふん、どうかしら?私は今夜は攻めるわよ!5500F!」

「ルールは?」

「ババ抜き!」

「よしきた!やっぱり7000Fだ!」

「いいの?始めちゃうよ?その条件で始めちゃうよ?」

金をかけるようになったのは旅を始めてからだが。

「いいさ、始めようぜ。」

テーブルテーブルっと・・・この辺においとくか、ちょうどいい高さだ。
どうせ負けても何戦か挑み直して取り返せばいい。
それにコイツはこういう心理戦要素を含むゲームは弱い。
こういうゲームで大事なのは頭の良さでも先を読む力でもない、単純なハッタリだ。
つまりティアはハッタリに弱い!
ティアがカードを配り始めた。
そういえばコイツは自分の成長のことどう思ってんだ?

「なぁ。」

「なぁに?」

「その、さっきさ、悔しかったのはわかるけど、それやめてくんねーか?」

「悔しかった?それ?」

「胸。
パジャマでうつ伏せだと目立つ、目のやり場に困る!」

「・・・は?」

コイツ・・・本当にからかってんのか?

「いや、だから。
もっと女の子らしく恥じらえっつってんだよ、一応俺も男なんだぞ?」

トランプが配りおわったか、ババは俺の手元だな。
つか!「は?」じゃねえよ!!

「えっと・・・ああ!なるほど!」

なるほどって・・・
・・・というより。

「なにニヤニヤしてんだよ・・・!」

「いやぁ、さすがは『ウブ』なユウくんだなぁって思ってねえ?ふふふふ
なによいまさら、昔一緒にお風呂入った時なんて見せ合いっこしてたぐらいの仲じゃないのよ!
くっふふっ、それがっ!今になって胸元ちょっとみたぐらいでさぁ・・・ぷふっ!きゃあああ!」

当時は胸元っつーより胸板だったじゃねえかよ、ふざけんな!

「あれあれー?ユウー?耳が赤いよー?
もう、しょうがないなぁ、ユウになら特別に触らせてあげてもいいんだよー?」

っこのっ!!

「だれがお前みてえな色気の・・・ないって言ったら嘘になるか・・・くそっ!
別に触りたかねーよ!!」

「もう、素直じゃないなぁ。
そこは素直に『ウブな僕は触る勇気なんかありませーん』って言いなさいよ!」

「言わねーよ、ふざけんなっ!
さっさとはじめるぞ。」

そうこうしてるうちにカードは捨て終わったな・・・いざ勝負!

「ふう、じゃ、私からね。」

───こんなはずじゃなかった・・・こんな───

「っきゃあああ!ユウババ抜きよっわ!?
えっ!?なに!?私7連勝中じゃない!
被害総額23000Fって!もうユウはギャンブル禁止!
あっははは!!」

「だぁーっ!うるせえ!やめるぞ!」

「えっー、つまんなーい、私今夜だけで100000Fユウから巻き上げたい!」

ババ抜きごときでそんなにもってかれてたまるかよ・・・!

「ふっー、まぁいいや。
ほら見なさい、ユウが弱すぎるせいでタマも退屈して寝ちゃってるじゃないのよ!」

あ、ほんとだ、タマが寝てる。
またはなちょうちんか・・・憎めない・・・っ!!

「タマも寝てるならお開きだな・・・ほれ、寝るぞ、どけよ。」

「っえー、やだやだー、もっと遊ぶー」

「いい歳してだだこねてんじゃねえよ。」

ま、いいや、座るか。

「っちょ、なに勝手に座ってんのよ!」

「俺のベッドだろ、ふざけんな。」

「今は私とタマのベッドだったもん!」

そんなことはないっ!
この部屋は俺が借りた部屋であり、この部屋の物も俺の借り物だ!
・・・でももう、反論するのもめんどくせー。

「・・・」

なに黙ってんだ?

「ねぇ、ユウ。」

「なんだ?」

「本当は今回の依頼・・・の話しにきたの、私。」

そうだったのか、てっきりいつも通り遊びたいだけかと思ったんだが。
でも、依頼の話って・・・?

「なんだよ?」

「あのね、今回の依頼はこの船の護衛じゃない?
そして、護衛としてつかなきゃいけない理由はさ、海賊から船を守るためだって・・・」

「そうだな・・・で、それが?」

「海賊が相手ってことは・・・私達は人間を相手に戦わなきゃいけないってことだよね・・・」

盲点だった、目から鱗だ。

「確かに、言われてみればそうだな。
でもそれがなんだよ?いつも俺と手合わせしてただろ?そう簡単に負けたりしねえよ、もっと自信もてよ。」

「そうじゃなくて!」

えっ?違う?

「もしかしたら・・・私達、人を殺さなきゃいけないかもしれないよって・・・言ってるの・・・。」

なるほど・・・そうか、そっちか。
確かにティアの言うとおりだ・・・下手をすれば、今回の依頼で俺たちは人殺しの仲間入りか・・・
さすがにちょっと抵抗あるな・・・
ティアにしても、この間は俺とタマジローさんのことを「人殺しー」とか煽ってたし、やたらと行方不明者の生存を押してたし・・・コイツは、人の死に慣れてないのかもしれない。
かくいう俺も慣れてない。
でも、俺達は旅の人で、今回はそれが依頼であって・・・そうだな。

「お姉さんの言葉、忘れるなよ。」

「・・・うん。」

「それに、殺らなきゃ、殺られるんだ。」

「・・・うん。」

「ここでもし俺達が海賊に好き放題させたら、そのせいで要らない血が流れるかもしれないんだ・・・」

「・・・」

「何が正しいのかは自分で判断しないと・・・」

「・・・すー・・・」

「・・・?
ティア・・・?」

なんだ、寝たのか?

「・・・おい。」

「すー」

「俺のベッド・・・」

まぁ、いいや、今日はそこの椅子で寝るか。
俺も眠くなってきたし。
俺は別に、海賊相手に情け容赦をかけるつもりはない・・・仕事だからな。
でも・・・わかってるけど、割り切ってしまうとなにか大切なものを失う気がする。

大切なものを失う・・・

ティアの寝顔が気になった。
殺らなきゃ、殺られる。
・・・そうだ、お姉さんも言っていたんだ、気まぐれだ。
仮にここで海賊に情けをかけたとしよう、それで救われる命もあるかもしれない・・・でも、そうすることで本来失われることのなかった命が失われることがあるかもしれない・・・

この寝顔を、二度と見れなくなるかもしれない・・・

意識が持たなくなってきた。
寝るか。

「・・・お休み、ティア、タマ。
また明日、もちろん明後日も、ちゃんと会おうな。」

今日は、ベッドは譲ってやる。
だから、明日は朝一で顔みせやがれ。

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「ふわぁーぁ、平和だねーユウ。」

「あぁ、平和だなぁ・・・ほーら、タマ、魚釣れたぞー、食うか?」

「えっ!?また釣れたの!?ずるいよ!」

おっさんの言っていたことは正しかったのかもな。
こーんだけひろーい海で、せいぜいこの大きさの船が行き来していたところで他の船、しかもよりによって海賊船に会うなんてよっぽど運がねえんだろうな。
海賊船に会うだけでも運がないのに、その船にたまたま自分が乗り込んでるなんて悪い奇跡はそうそうおきるもんじゃないんだよ、きっと。
ましてや俺達は船に乗るような仕事をしているわけじゃねえんだ。
今回だって初めて船に乗ったんだし、もしかしたら二度と乗ることもないかもしれない、そんな人生で一度きりかもしれない状況で、さらに奇跡的な状況なんて重なるわけねーな。
心配して損したな。

「もう船旅も1日にして飽きたな。
昨日みたくゲームで遊ぶかこうして釣りをして時間を潰すくらいしかないんだもんな。」

「私はゲームも釣りも楽しいからいいけどねー。」

「へー、そう、じゃ、俺はもう一眠りするよ。
昨夜は誰かさんのせいでよく眠れなくてな。」

釣り竿をぶん投げて部屋にもどろうとする俺を、ティアが呼び止めた。
なんだか慌ててるな。

「ユウ・・・みて!」

「なんだ?またリュックでもかかったのか?」

寄ってティアの釣り糸の先をみたけど、そこにはなにもかかってなかった。

「なんだ?なんもかかってないじゃん」

「ちがうちがう、あれ!」

真正面を指さしてるな・・・なんだ?

「おおー、船だな!大きい!」

「いや、そうなんだけどさ、ユウ?
私の目がおかしくなければさ、あの船・・・」

「どうかしたのか?」

「いや、ちょっと遠すぎて自信ないんだけど、、、帆にドクロのマークがついてない・・・?」

なんだって!?

「えっ!?ほんとか!?」

「・・・うん。」

「・・・」

「・・・」

「「・・・」」

神は、無情だ。
人生でたった一度きりになるかもしれない船旅。
そうでないにしても、俺たちにとっては初めての船旅。
楽しい楽しい思い出になると約束されてると思っていたけど、どうも・・・人間は自分にとって都合のいいように考える生き物らしい。
俺も含めて。

だからこそ、そうならないと決まったときの落胆ぶりと来たら・・・。

俺達の視線の先には、確かに帆にデカデカとドクロマークが描かれた船が見えている。
そしてそれは少しずつ、少しずつだけども確実に大きくなっていた。

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