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改めて妖精の村を目指し始めた三人と一匹の旅路は恐ろしく困難災難の連続であった。

底なし沼、人喰い花、毒鱗粉蝶、猛追猪、方向感覚の低下、草かぶれ。

慣れているコト、元が獣のタマはあまり問題ではなかったが、普段は普通に人間をしている2人にとっての森の中は地獄とそう大差ない。

「っああ!また刺されてる!痒い!!」

「ユウ!?」

「虫さされだ!!もう八カ所目だぞ!?」

ユウは首から腕から顔からいたるところをバリバリかきまわる。

「い、いっそ、俺のヘルフレイムで森ごと蚊の野郎どもを全滅・・・

「だ、だめです!!もう少しで着きますよ、いつの間にか見知った所に出てました、あとはもう迷わず案内できますよ。」

「み、見知ったって・・・すごいねコトちゃん・・・
さっきからずっと森の風景で変わらないのに場所がわかるの?」

ティアの質問にんふんふ鼻息を荒くして胸を叩くコト。
今回はネタではなく、本当に自信満々に見える。
そもそも妖精は悪戯好きな個体がおおく、人間を道に迷わせたりするのを楽しみにしている者も多い、そういった描写は童話などでもよく見られるし事実である。
そんな妖精自身が本来ならば道に迷うことなどないはずなのである、今回のように、無理やり知らない場所に連れてこられたりはしないかぎり。

それから2人はコトについて少し歩き、その後ろをタマがついて歩く。
楽しそうにキラキラ舞うコトをみるだけで2人の疲れは少し癒える。

「ん?霧?がでてきたな・・・」

辺りが白く霞んできている、遠くまで見渡せなくなり前方に数本のぼやけた木しか見えなくなった。

「大丈夫です、これは妖精が村を隠すためのトラップです!
決まったパターンで木の枝を一本ずつ折っていけば妖精の村にたどり着けて、間違えたら霧の入り口まで戻される仕組みです!」

「ほお、あの遺跡の通路トラップみたいなものかぁ」

「まぁ、あれはどうすれば抜けられるのかは最後まで不明だったけどな。」

コトが話し込む2人をよそにまず右手に見える太い木の一番低い所にある枝を折った。
次に真ん中に穴が空いている木のすぐ横に生えている細い木の枝、最後には門のごとく並んだ大きな二つの木の枝を一本ずつ折る。
突然霧が晴れ、大きな木の間に小さな家が立ち並ぶミニチュアグリーンヴィレッジが現れた。
しかし決定的にグリーンヴィレッジとは違うところがある、中にはたくさんの妖精が舞っていて、足元のみではなく、木の枝や、木の葉っぱに隠れるようにたくさんの小さな家などが見える。
その可愛らしい光景にティアは両手を胸の前で組んで涙目で震える。

「さあ!着きましたよ、お二人さん!
ようこそ!妖精の村へ!!」

「おお!すげえ!これが!妖精の・・・!!」

「あ・・・あわわ・・・シャ・・・シャシン・・・!!」

コトが入り口で大声で仲間を呼んだ。

「みんなぁー!!ただいまー!!」

「え!?今の声!」

「コトだ!コトが帰ってきたよ!」

「コト!?帰ったの!?昨日はどこへ行ってたの!?」

「みんな心配していたんだよー」

コトの声に反応した妖精たちがわらわらと三人の元へと集まってきた。
が、その妖精たちはユウとティアとタマの姿を確認し、青ざめる。
そしていっせいに逃げ出した。

「うわあああ!人間だあああ!」

「やだーー!殺されるうう!!」

その様子に、ティアは動揺を隠せない。

「え?え!?なに!?なんで?なんで逃げるの!?」

「あ、ち、違うんです!
みんな『マコ姉』のことで勘違いして、、、
待っててください、今、お父さんを呼んできます。」

そう言い残し、コトは村の奥へと消えていく。
あまりにも唐突な展開に、2人はただ呆然と入り口で立ち尽くすしかなかった。

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「な、なぁ、おい、ティ───!?

困ったユウは隣のティアへと視線を移し、言葉を失った。
一文字に口をつむんで歯を食いしばり、八の字眉毛、その下のやせ我慢が映る瞳からは一筋の涙。
理由は聞かない、ユウにはわかっていた。
そして想像する、ユウと出会った頃すでに孤独に慣れていたティアも、慣れるまではずっとこうして毎日、森の入り口の石の上で泣いていたのかもしれないと。
ふれ合いたくてもふれ合えない、無闇に力を振るったわけでもないのに恐れられ、避けられる。
ユウは黙って視線を逸らし、ぽんっと、ティアの頭に手を置いた。

「────っぐす!」

ただ、そうして2人はコトの帰りを待った。
そのまま待つこと数十分、コトが1人の妖精を連れて戻ってくる。
そのさらに後ろにはたくさんの妖精もついてきていた。
ティアは、なにも言わない。

「お待たせいたしました!ユウさん!ティアさん!
私のお父さんです!」

コトが笑顔で、連れてきた妖精の紹介をする、その妖精は明らかに老人で、コトと比較すると父というよりは祖父のようである。
口元はグリーンヴィレッジの宿のオーナーのように白いひげで覆われており、そのひげを動かしながら老妖精は2人へと話しかける。

「ほお、あなた達が!
本当に人間だったとは・・・!
ウチのコトが世話になりました、大したおもてなしは出来ませぬが、どうぞ、ごゆっくり村をみていってください。」

コトの父の言葉に、後ろにいた妖精たちは一気にどよめいた。
なかでも、木の鎧のようなものを着た青年妖精は身振り手振りを大きくしながら声を大きくする。

「正気ですか!?長老!!村に人間をいれるなんて!?
人間が!私達の仲間に!『マコ』に何をしたのかあなたはわかっているのでしょう!?
ましてやマコはあなたの娘ではありませんか!!」

長老こと、コトの父は髭を撫でながら応じる。

「確かに、マコの件は許されることじゃないの。
しかし、コトを助けてくれたのもまた人間じゃて。
聞いた話だと、コトは悪い商人に捕まり、売り飛ばされそうになっていたが、そこの赤い顔の女の子が自身の全財産を叩いて助けてくれたそうじゃないか。
そして今、コトはここにいる、また村に無事に戻ってこれている。
これ以上のことがあるかの?」

「それは・・・」

「それにな、ワシにはどうしてもこの2人が悪人には見えん、そして事実、悪人ではなかったのじゃろう?コト。」

「うん!二人は悪人じゃないよ!」

ぎゅっと両手を握って胸の前に持ってきてコトは力強く答える。
その様子にまた、妖精達がざわめいた。

「きまりじゃ、今、この瞬間をもって2人を客人とする!!
村人よ!彼らをもてなせ!」

一瞬、間があいたが、長老の言葉に村の妖精が大声でわいた。
どうやらユウもティアもタマも客としてみなされたようで、ユウはほっと安堵の息をもらす。
ティアは少し恥ずかしそうにしながらも笑顔を取り戻した。
そこで長老は杖を取り出し、2人へと提案を持ちかけた。

「さて、さっそくじゃが、あなた方を村の中へと案内したい、ちょっとした魔法であなた方の身体を縮めてもよろしいかな?」

「もちろん!」と頷くユウをよそに、ティアは待ったを出した。

「え、へへ、私!
お菓子をいっぱい持ってきたんです!小さくなる前にお菓子を村の入り口にばらまいてもいいですか?」

最高の笑顔での提案だった。
長老は一つ頷き、ティアはリュックとショルダーバッグ、さらにはポケットからも大量のお菓子を出して村の入り口に積んだ。

「もうええかの?それではいくぞ?」

頷く2人を確認して、長老は杖を振る。

「フェアリートリック!
ビッグプラネット!!」

「おわっ!?なんだこれ!?」

「わぁ・・・すごい!!」

長老の魔法がかかった途端、2人の周りの世界がどんどんどんどん大きくなる。
草も、石も、妖精達も、大きくなっていく。
しかしそれらはあくまでもユウとティアの主観であり、客観的には2人が小さくなっていっている。
そしてついには妖精達が2人の肩くらいの背丈になった。

「ん?なんだ?俺達が小さくなってもまだ妖精さんたちの方がちいさいんだな。」

「きゃあああ!ユウ!みてみて!お菓子の山だよ!」

「ふむ、それでは村を案内・・・」

長老が言いかけたところで固まる。
村中の妖精たちが長老も2人もタマも無視してお菓子の山に群がっていた。

「仕方ないの、お二人さん、彼等にもお菓子を恵んでやってはくださらんかの?」

「もちろん!最初からそのつもりでしたから!!」

今まで見てきた中でもトップ10に入りそうな笑顔を見せるティアに対し、ユウは微笑みつつため息をついてみせ、妖精たちに負けじとお菓子の山に食いついた。

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大量のお菓子を前に妖精たちもテンションがあがる、そんな妖精たちをみて、ユウとティアも笑顔に輝きが増していく。
お菓子も三分の一ほど減り、一息ついたところで妖精達が2人とタマへ向けて隠し芸を披露する。
楽器を演奏して踊ってみせたり、妖精達が妖精役も含めて演じるシュールな演劇、火気厳禁妖精脱出ショーなどなど、ユウもティアも時間を忘れて楽しんだ。
妖精達のネタも切れ、そろそろ村の中を案内といったところでその場に1人の妖精が現れた。

「あっ、ユウ・・・あの子は・・・」

「・・・うん・・・」

ひどい姿をしていた。
羽根はボロボロ、片目には眼帯をしている、おそらくもう見えていないのであろう、眼帯から深い傷跡がはみ出している。
それ意外にも頬にも、腕にも、足も、至る所に傷跡が見て取れる。

「あ!マコ姉!!」

「帰りが遅いと思って見に来てみたら・・・さっき話していたことは本当だったんだ・・・」

呆然と立ち尽くすその妖精、マコと呼ばれている。
彼女の元へとコトはとてとてと駆けていき、笑顔で口を開く。

「あのね!マコ姉!あそこにいるお二人が私を助けてくれた───

弾け飛ぶような音が、村の入り口に響いた。
マコは尻餅をつき、赤くなった頬に手を添える。

「「!!?」」

「こっ!これっ!マコ!」

「お父様は黙っていて!」

ユウとティア、そして村の妖精達も動揺を隠せない、突然、マコがコト頬に張り手をかましたのだ。

「ま・・・マコね───

「あれほど人間には関わるなって言ったのに!!!
村の場所までバラして!!!この裏切り者!!!」

「・・・!?
ちっ!ちがうのマコ姉!ユウさんとティアさんは・・・」

「ユウ『さん』!?ティア『さん』!!?
あんた!まだ自分が騙されてると気がつかないの!?
人間なんて!最初はみんな仏のような顔で近づいてきて!腹の中ではなにを考えてるかわかったもんじゃないのよ!!?
こいつらだって!あんたを騙して村の場所を吐かせ───

「ちがう!!わっ・・・私はただ・・・」

マコの言葉を遮ったのはティア。
否定の言葉の力強さとは裏腹に、その後に続く言葉はか細く弱い。
ショックで目は泳ぎ、唇はかすかに震えていた。

「ふん!ほらみなさい!図星なんでしょう!?
その証拠に、何も反論できない!
人間なんてみんなそう!私達のことをゴミ以下のようにしか思ってなくて!腹黒で!凶暴で!嘘つき!」

「私は・・・!ただ・・・コトちゃんを・・・」

「『コトちゃん』?
お前らにコトの名前を呼ぶ資格なんてない!さっさと出て行って!」

ティアはうつむいて唇を噛み締め小さく肩を震わせている。
ずっと黙って様子を見ていたユウも、表情に怒りの色が現れる。
そして、静かに口を開いた。

「おい・・・妖精。
俺のことは別にどう思ってくれても構わねえ。
けどな・・・コイツは・・・!ティアはな!!コトのことを本気で想って助けたんだ!
お前が人間のことをどんなに嫌っていて!どんなに信用していないかは知らねえけどよ!だからってなんでティアが悪者扱いされんだよ!?
お前がティアの何を知ってやがるんだ!?言ってみやがれ!コイツはな!昔から───

「うるさい!お前らの言うことなんて・・・偽善者気取りの悪魔の言うことなん───

「マコ姉のバカぁ!!!
ユウさんとティアさんのことを悪くいうなぁ!!!」

ずっと涙を浮かべて震えていたコトが突然立ち上がり、マコと向き合った。
その姿に村の妖精達はざわめいた。

「・・・こ!コトが・・・マコに逆らった!?」

「う、嘘・・・コトが・・・?」

コトは、マコのことを尊敬していて、すべての基準がマコであった。
好きなことも、嫌いなことも、趣味も目標も全てがマコのお姉ちゃん大好きっ子。
村でもそのことは有名で、コトが初めに人間を異常に恐れていたのもマコの吹き込みによるものだったのだ。
そんなコトが我を通し、自分のルールであるマコに正面からぶつかっている。
その予想外の姿に流石のマコも一歩引き、表情を歪めている。

「そう・・・コト、あいつらに・・・」

きっ!とコトはマコを睨み続ける。
これはいくらコトが相手でも話しあいでは分かり合えない、マコはそう判断し、覚悟を決める。

「あいつらに・・・操られているのね。
私が・・・目を覚まさせてあげる!」

マコから感じる魔力、殺気を感じ取ったユウは慌ててティアへと声をかけた・・・が、遅い。

「フェアリートリック
ポイズンニードル!」

ティアの頭上に太い毒針が数本現れる。
ユウは魔法で防ごうと杖に手をかけるも間に合うかどうか際どい。

冷や汗をかきつつ魔力をためたユウ。
ティアへと向かって落ちる針。

(ぐっ!間に合───!?

その時、ユウの視線の先のティアが吹き飛んでいた。
代わりに毒針の下には女の子、コトの姿。
コトが、身を挺してティアをかばった。
直後、毒針はコトの背に刺さり、紫の光と共に消滅した。
村の妖精達からも驚きの声があがる。

「うっっっぐ!!?」

「っ!?・・・コト!?」

「ぁ・・・コトちゃん!!?」

ティアは、すぐに立ち上がってコトへと駆け寄る。
マコは、驚いた表情で固まっていた。

「コトちゃん!コトちゃん!?しっかりして!!
どうして・・・どうして私をかばったりなんか・・・っ!!」

「・・・ぅ、ティアさん・・・お怪我はありませんでしたか・・・?」

「っ・・・コト・・・?
コト・・・!?
どうして・・・?に、人間なんか・・・」

固まるマコを動かしたのはユウの声、それは怒りでも、混乱でもなく、ただコトを想うが故の最善の声。

「おい!毒針妖精!!何ぼさっとしてやがる!!
お前は毒を扱うくせに解毒魔法もつかえねえのか!?」

「・・・!!・・・そっ!そう、げっ!解どっ・・・!」

「落ち着け!代わりに俺がやる!今のお前じゃ失敗しかねねえ!
毒を操ったのか!?魔力から毒を作ったのか!?
後者なら術式を教えろ!早くしやがれ!!」

「こっ!後者だ・・・!術式は・・・」


あまりに突然の騒動に、その場の妖精たちは長老の声によりひとまず解散になった。
コトはすぐさまユウから応急処置をうけ、長老宅へと運ばれる。
ユウは必死で解毒魔法をその場の即席で作り、コトへとかける。
それでも目を覚まさないコトに付きっきりでユウは看病を続けた。
ずっと、ティアと共に。

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「・・・これで、毒は大丈夫・・・だと思う。
抜けきったはずだ。
あとは背中の傷が・・・。」

「ほっ・・・背中の傷は私がみるよ。
コトちゃんの服脱がすから・・・一旦ユウは・・・」

静かに頷いたユウはコトの部屋を後にする。
ユウがドアを開いて廊下にでた瞬間である、顔色を変えたマコが走ってユウの横を抜け、部屋へと飛び込んだ。
その後、部屋の中から声が聞こえる。

「だっ!?ユウ!!ダメだってい・・・じゃない!ユウじゃない!?
・・・な・・・なによ・・・
ちょっ!?
え!?なっ!
わあ!」

最後の声と共に、ティアが部屋から飛び出してくる。
と同時に、大きな音をたてて扉が閉まった。

「ティア?なにやってんだ?」

不思議に思ったユウは振り向いて訪ねた。
ちょっとだけ膨れた顔でティアが答える。

「・・・追い出されちゃった・・・。」

コトの容態について報告をしようと2人はリビングへと向かった。
木の食器でうまった食卓テーブル、中にはスープや果物のサラダ、何かの獣肉などが入っている。
その場にいた長老が2人を見るなり声をかけた。

「ほお、すまんかったの、人間さん。
コトが、世話になったのう。」

2人は軽く会釈をして長老の元へと向かった。

「コトの毒は抜けきったはずです。
多分もう大丈夫、あとは目を覚ますまで待つだけです。」

「ありがとう、あとの、マコの件についてはワシから謝りましょう。
すまなかった。」

「いや、いいんです。
さっきは俺もカッとなって・・・
それに、大体想像はつきます、彼女、昔人間に・・・?」

話を聞いていたティアが生唾をのんだ。
人間と妖精の関係、マコの過去、色々と想像した上で、自分の持つ妖精像と比べているようだ。
長老は一つ髭をなでて渋い表情をみせる。

「・・・その話は、ワシの口からは・・・
気になるならばマコから直接頼みます。
マコが・・・話すかはわかりませぬが・・・」

2人は小さく頷いた、が、実際はあまり聞きたいとは思っていなかった。
マコの傷跡はどうみても虐待の痕、且つ、マコが人間を恨んでいるという点から見ても聞くまでもないことであり、あえて彼女の心の傷跡までえぐる必要などないと感じていたからだ。

「ささ、お二人とも、もう夕飯の時間ですじゃ。
ワシの作ったもので申し訳ないが、よかったら召し上がってください。
あと、今夜はウチに泊まっていくとよい。」

「「ありがとうございます。」」

長老に進められるがまま、2人は席に着く、そこでティアが2人分の食事が余っていることに気づいて指を指した。

「ああ、それは、コトが目を覚ますと思って・・・それとそちらはマコの分、マコは『コトが起きたら一緒に食べる』といって頑なに手をつけなかったのです。
気にせず、召し上がってください。」

静かな食事だった。

しばらく後、食事も入浴も済ませたユウは、借りた部屋へと戻って毒の魔法の研究もかねて適当な魔導書を開きつつ、ベッドに仰向けに転がっていた。
コトは未だに目を覚まさず、マコもコトの部屋から出てこない。

「解毒後の処理・・・?
ふーん・・・知らんかった。コトが起きたらここからだな。

・・・ん?」

ふと、腹部に違和感を感じたユウはそっと魔導書をおろしてみる。
魔導書の上に小さな二つの湖が、大きく現れる。
一度、似たようなことがあったはずだが一度で慣れるものでもない。

「ふんぬっ!?っおああ!?タマ!!?
・・・お、おどかすんじゃねえよ・・・」

タマがいた。
ユウがタマの存在に気づいたということを確認したかのように、タマは鼻息を一つふいて、ユウのお腹から降りた。

「・・・ほんっとに獣は何を考えているんだか・・・」

いいかけてユウは気づく、いつもとタマの様子が違う。
タマはそそくさとベッドから降りるなり、部屋の入り口に立ってドアを凝視し続けている。

「・・・タマ?」

ユウはタマのもとへと歩き、タマを抱き上げてベッドに連れ戻した。

「ほれ、どうしたんだ?ドッグサラミ食べるか?」

ベッドに座ってユウはタマと向き合った。
しかしタマはすぐにベッドを降りて、また同じようにドアの前で固まってしまう。

「どうしたんだよ、ほれ。」

同じように連れ戻す。
また、ドアの入り口へ。
連れ戻す。
入り口へ。

何度かやりとりをしたところでユウはふと思い出す。

(・・・そういえば、ウルウルフみたいに群をなして生活する獣は、仲間を一カ所に集めようとする習性が・・・あったんだっけ?)

ユウは、そっと部屋のドアを開けた。
タマはよてよてと部屋を出て行き、突き当たりのユウが見える位置でまた立ち止まって突き当たりの先をみている。

(・・・なるほど。
ティアのところへ・・・。
でも今タマがみてんのは玄関の方だよな。)

ユウはそのままタマへとついて行く、案の定タマは突き当たりを抜け、玄関も抜け、さらに村の奥へと進んで行った。

(ん・・・?ティアのやつ、どこへ行きやがったんだ?)

ユウは、ティアのもとへと案内するタマを抱き上げ、一旦村の入り口へと向かった。
そこで積まれている巨大なお菓子の山の中から一粒の大きな『はまぐりの浜』を手にし、再びタマを地面へと下ろした。

「わりいな、タマ。
ボスのとこへ案内してくれようとしてたんだろ?
ボスに対して手ぶらじゃ示しがつかねえからな、こいつはボスへの手土産だ。
手間をとらせたな、ティアのところへ案内してくれ。」

大きなお菓子を一粒抱えた男と、小さな下っ端狼が、月明かりで照らされた夜の村をかけてゆく。

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初めての村であるにもかかわらず、タマは迷うことなく右へ左へとユウを案内し続ける。
ユウがタマを見失うことはなかった、タマが必ずユウの見える位置で待つからである。

「ふう・・・まさかはまぐりの浜をこんなに重いと感じる時がくるとは・・・
・・・ん?」

ユウの耳に綺麗な歌声がきこえる、そしてユウはこの歌声に聞き覚えがあった。
過去にユウが、ティアに知らせ無く待ち合わせに遅れたとき、1人で石の上に座って待っていたティアが泣きながら歌っていた民謡だ。
「もう!遅いよ!来ないのかと思ったじゃない!」とティアは怒っていたが、怒りに混じってほっとした様子を見せていたのが、当時のユウには印象的だった。

歌声は徐々に大きく、はっきりと聞こえるようになり、タマも足を止める。
たどり着いたのは村の広場。
真ん中が穴になっている切り株に澄んだ水がたまっていて、その切り株を取り囲むように家が建っている。
切り株が、まるでユウとティアの街の噴水広場の噴水のような役割を果たしているようだ。
そしてその切り株の縁に腰掛け、月明かりに太陽のような輝きの髪を光らせる少女。

そのあまりにも幻想的な光景に、一瞬別の世界に迷い込んだのではないのだろうかと錯覚を覚えたユウは、背を向けて歌い続けるティアに声をかけるのも忘れて、ただただ立ち尽くす。
そんなユウを差し置いて、タマはティアの方へと歩いて行く。
歌声が止まった。

「えっ!?タマ!?どうしたのこんな所で!?
ほんとに神出鬼没なんだから・・・。」

後ろ姿でも、ティアがタマを抱き上げたのはわかった。
タマに続いてユウは後ろから声をかけた。

「今の歌・・・」

「ぬあっ!?びっくりしたぁ・・・ユウまで・・!」

「ん?ああ、タマがな、なんかしらねーけど案内してくれたんだ。
ほれ差し入れだ。」

ユウはティアに巨大なはまぐりの浜を手渡し、その隣に腰掛けた。
右手にはまぐり、左手にタマ、ティアは小さく礼を言い、黙り込む。
ユウはティアに対して違和感を覚える、どこか恥ずかしそうで、どこか悲しそうなティア。

「なにしてたんだよ、こんな時間に、こんな所でさ。」

「・・・うーん、探検。」

「・・・そっか。」

「昔のことをね・・・思い出したの。」

「・・・?」

「・・・ユウとあう前。
私は、独りだったの。」

「・・・知ってる。」

ティアはなんでも器用にこなす、ユウがそこに嫉妬すら覚えるほどに。
絵も上手、料理も上手、歌も上手、人形劇も上手、裁縫もお手のもの、人形劇の人形もブーメランやけん玉、竹蜻蛉なんかも手造りで作ってみせる。
そして、本が好き。

ティアがなぜそんなに色々なことを、特に、1人遊びに通ずることがよくこなせるのか。
その理由に気づいたとき、ユウは嫉妬していた自分を恥ずかしく感じた。

「あのときもさ、ちょっと魔法を見せただけで怖がられて・・・」

「自惚れんなよ、俺はお前なんざ怖くねえよ。」

「・・・ふふ。
そうだよねー、バカだったよねー、いきなり出てきて『魔法みせろー、決闘しろー』って。」

「でも、それからは1人じゃないだろ?」

「たしかにねー。うん、でも・・・1人も、好きだよ?」

「・・・そっか。」

「2人はもっと好き。」

「・・・そっか。」

ユウは杖に風の魔力を込め、ティアからはまぐりの浜をとりあげ、綺麗に二つに切った。

「2人も好きなら、二つも好きだろ?半分分けてくれよ。」

「あはは、それじゃあ二つじゃなくて二分の一個。
まあ、いいけどね、1人じゃそのはまぐりの浜は大きすぎるよ。」

ユウはティアに半分になったはまぐりの浜を渡して、自分の分にかぶりついた。

「・・・ついてきて良かった。」

「もぐもぐ。そっか。
連れてきて良かったぜ。」

そんな2人を広場の陰から監視する影。
月明かりに照らされたそのシルエットは、ボロボロになった羽根が特徴的だった。

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2人と一匹、月夜の広場、切り株の水たまりに映る月。
ティアは今ここでユウと話している時間を貴重に感じていた。
これからだってきっとずっと一緒に旅を続けられる、しかしこの時間は今、このときだけ。

「やっぱりはまぐりの浜に限るでしょ?」

「むぐ、、、しかし俺には『さんごの杖の持ち主』という立ち位置が・・・察してくれ。」

「そうだね・・・まさか杖にさんごの海を取り入れてくるなんて・・・
最後まで抜け目なかったなぁ・・・アイリ。
また、アイリに会いたいな、ふふ、別れたばっかりなのにね。」

ティアは折れたブーメランを取り出し、夜空の月にそれをかざす。

「約束しただろ?また会いにいけばいい。
俺らは旅の人だからな、どこへだっていける。」

「じゃあ次の目的地はペールタウ───

「脚下。」

「口だけのユウなんて、私きらいだよ!」

「ほら、感動の再開したいだろ?
もう少し待てよ。とにかく次は港だ、海だ、砂浜だ!」

「はまぐりの浜だね!」

「いやきっとさんごの海だ。」

2人は一通り談笑し、立ち上がった。
月も星も、位置を変えていた、ティアも様子が変わっていた。

「さて、そろそろ戻ろうぜ。
コトも心配だし、時間も遅い。」

「そうだね、戻った時にコトちゃん起きてればいいね・・・。」

広場をでようとした2人の耳にその場にはいないはずの少女の声が聞こえた。

「まっ!まって!」

「「!?」」

広場の陰からよたよたとマコが現れた。
予想外の出来事にユウもティアも目を丸くして立ち止まった。

「コトは・・・お父様がみているんだ・・・そ、その、心配・・・ないの・・・」

マコがそこにいる、そして、話しかけてきている。
その事実だけで2人は足を止めるのには充分すぎた。
ユウもティアも言葉も発することも出来ず、ただ、近づいてくるマコを注視する。

「・・・その・・・話したい・・・じゃなくて。
言いたいことがあって・・・

さっきは、ごめんなさい。
コトのことを心配してくれて・・・ありがとう。」

「お・・・お、おう。」

やっとのことでユウから声がでた。
しかし表情は依然として戸惑っている。

「で!でも!誤解するなよ!私はまだ!お前たちのことを・・・。」

もじもじと指遊びを始めるマコに、ティアから笑みがこぼれた。
そして結局手をつけなかったはまぐりの浜をマコへと差し出す。

「話そうよ、コトちゃんは長老さんに任せてあるんでしょう?
あとこれあげる!人間のお菓子でね、はまぐりの浜っていうんだよ!美味しいから食べてごらん?」

「・・・!!
私は!人間から食べ物なんか!」

マコのお腹から、低い音が響いた。
結局食事には手をつけずに2人を追ってきていたようだ。

「半分しか・・・いらないんだから・・・」

「ふふ、心配しなくてもこれで半分だよ、もう半分はさっきユウが食べちゃったの。」

三人は再び切り株の縁へと座り込む。

「・・・かぷ、もぐもぐ・・・おいしい・・・!?」

「そうでしょう?!これで今日からあなたもはまぐり派の仲間入りだね!
『マコちゃん』!」

「・・・!」

「まてよティア、まだマコはさんごの海は食ったことないんだぞ?早まるなよ。」

「・・・!!」

「でった!ユウの裏切り!ユウはもうはまぐり派なんでしょ!?」

「いや、そんなことより」

「なによ!そんなことって!!」

「・・・あの・・・」

「「??」」

「おま・・・あなたちは・・・本当に悪い人間なの・・・?
私・・・さっきから・・・いいえ、コトの手当てをしてくれていたときからずっとみていたけど・・・とても悪い人間には・・・
私・・・わからないよ。」

「私は良い人だよ!ユウは極悪人だけどね!」

「まぁ、それでもいいけどよ・・・なんでだよ・・・。」

「寝てる人のお腹に毛虫乗せる。」

「まだ根に持ってたのかよ・・・」

マイペースな2人を余所に、マコはうつむいてぽつぽつと話を始めた。
その声にユウとティアは耳を傾け、黙って息をのむ。

「あの人もそうだったんだ・・・はじめは・・・優しくて、面白くて・・・
だから・・・だからね、私はあなたちみたいな人でも、どうしても心の底から信用できないの・・・。」

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小さな肩を抱いてマコが震え始めた。
肩には爪が食い込んだかのような傷跡が見え隠れし、マコが肩を抱いたとき、ちょうどそこにマコの指が被さる。
肩の傷はマコが自分自身でつけた傷だった。
思い出す度に強く肩を抱き、その都度傷になってしまってたのだろう、その傷は、他のどの傷よりも跡が濃く、小さい。

「・・・でも、今回あなたちにコトを救ってもらったのは紛れもない事実。
コトも売られていたらきっと私と同じ目に遭っていたんだ・・・
コトが、あなたたちのことを信じていたのもなんだか納得してしまったし、羨ましかった・・・」

マコはそっと顔をあげ、両隣に座るユウとティアの顔を見る。
困ったようなその視線はやがて行き場を失って、星空へとのぼっていく。

「・・・私、もう一度人間を信じてもいいの・・・かな・・・」

「信じるのも、信じないのも・・・あなたの自由だよ。
人間には色んな人がいるから、なかには信じられないような酷いことをする人もいる。
ふふ、でも、少なくともそこのユウは、そんな酷いことはしない・・・いや、毛虫乗せるけど、せいぜいそんなもん。
極悪人だけどね!信じて良いと思う!
八年一緒にいた私が保証するよ。」

「俺は・・・わからねえぜ?ひひっ!
まぁ、そういってるティア本人が一番人畜無害だ。
正義感がやたらと強いせいで悪人には容赦なさすぎるけどな・・・ゲス商人に剣を抜きかけた時には肝を冷やしたぜ。
でも、悪い奴じゃない・・・むしろ良い奴さ。
八年一緒にいた俺が言うんだ、多分間違いない。」

「・・・」

マコが目を丸くして2人の話を聞いている。
マコの中では人間なんて誰もが自身を一番可愛がり、周りのことなど切り捨てごめん、疑われたら自身の潔白を主張するものばかり。
どんなに表面上では仲良くしててもすぐ裏切るし、正しいのは常に自分のみ。
そんな風におもっていた。
しかし、2人は違った。
そしてマコは話の中で一つ気がついたことがあった。
人間を信用しなくなって以来、皮肉なことにマコ自身が一番汚い人間に近づいていてしまっていたことだ。
周りを信用せず、人間が相手だからという偏見だけで傷つけ、また、自身を正当化させようとしていた。
気がついた時にはマコの目からは大粒の涙がこぼれ落ちる。

「私・・・・私は・・・ぐすっ。
私は人間に・・・だから・・・えっく、違うの・・・私は・・・人間みたく汚くなんか・・・
うっ、わからないよ・・・でも本当は私が一番・・・汚いんだ・・・
私が・・・」

「まっ!マコちゃん!?
ごめんね!私!そんなつもりじゃ!・・・いや!なんで泣いてるのかはわからないけど・・・違うの!」

「・・・」

すぐにハンカチを取り出してオロオロするティアと、ただ顔をおさえて震えるマコをみて、ユウはふとあることを思い出した。

「・・・村について、目的を忘れるところだった。
・・・そうだな、俺が・・・

妖精狩りをやめさせてやる・・・!

もうマコのようなつらい思いをする妖精を見るのはごめんだ、こんな理不尽なことがあってたまるか!」

「・・・!
・・・ユウ・・・さん・・・ぐすっ。」

「・・・さすが!
でも、大見得切ったからにはなにか案はあるんでしょうね?ふふっ、楽しみにしてるよ?ユウの作戦!」

「ああ、作戦はある!
前にも言ったように、妖精狩りをする人間を俺とティアがボコってもいいんだが・・・それじゃあ根本的な解決にならねえからな!
自主的に止めさせる案を思いついた、任せろ!」

「マコちゃん!ユウがやる気を出したからにはもう安心だよ!
ユウは・・・最後までやり遂げてくれるからね・・・保証する!」

「・・・うぐ、ぐすっ、私、もう一度人間を・・・
あなたたちを信じる!」

三人とタマは作戦会議を進めつつ、長老宅へと帰宅する。
マコは1人、部屋へと戻ってしまい、長老と2人とタマのみリビングにのこる。
長老が、2人へと話を始めた。

「・・・なんと!マコがあなたがたと一緒に・・・!?
マコが!過去について話されたのですか!?」

「いんや、昔のことは詳しくは・・・。」

「そうですか・・・しかし、あなたがたにならお願いできるかもしれませんの。」

「お願い?」

ティアのキョトンとした表情に、長老は優しい声で旨を述べる。

「あの子を・・・マコを、笑わせてやってはくれませんかの。
あなたがた、人間の手で・・・。」

「「・・・」」

「あの子はあれ以来おそらく本気で笑ったことがないのじゃ、ワシはあの子の笑顔がもう一度みたいのです、お願いできんかの?」

ユウとティアは顔を見合わせて頷いた。

「「やってみます!」」

ふたりの大きな返事はマコの部屋まで響いた。
また、マコは少しだけ涙をこぼした。

2人は作戦の内容を長老にも話し、翌日からすぐに準備の手伝いをお願いする。

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窓から差し込む自然光、暖かい何かが絡みついているような息苦しい心地よさ。

「ん・・・ここは・・・私の部屋・・・?」

コトはぱちっと目を開き、状況確認を進める。

「そうだ、私、マコ姉の毒を受けて・・・」

コトは自分の身体に絡みつく違和感の正体を確認しようと暖さの方へと視線を送る。
ティアが、コトの身体の至る所に四肢を絡みつけ、すやすやと眠っていた。

「ひっ!ひああああ!ティアさん!?」

「むがっ!?・・・あ!コトちゃんが!!」

ティアはすぐさま起き上がり、ものすごい早さでベッドから抜け出しリュックを漁り、ものすごい早さで部屋から出ていく。
何が起きたのか理解も出来ずにコトはただボーッと部屋の入り口を眺め続ける。
しばらくするとたくさんの足音がコトの部屋へと向かってきて、突然勢いよくドアが開け放たれる。

「きゃあ!なっ!なんですか!?」

コトは焦って布団で身を守った。
入り口にはタオルで顔を拭くティアと、歯ブラシをくわえるユウ、フライパンを振りながら涙を浮かべるマコ、数枚のお皿を手に乗せた長老が集まっていた。
そして、謎の沈黙。

「・・・あ、あの・・・お父さん?マコ姉・・・?」

入り口が一気に沸いた。

「おお!!コトが本当に目を覚ましてる!!良かった!毒はちゃんと抜けてたんだな!!シャカシャカ!」

「本当にって何よユウ!疑ってたの!?」

「ぅ・・・うえええ!コトおおお!良かったああ!!」

「ふむふむ、よしよし、1つ、問題は片付いたの。」

その後、コトは食事のついでに 昨日の出来事を聞かされる。
作戦会議兼朝食は速やかに片付けられ、長老が村の妖精達を広場に集めて作戦を伝える。妖精達はすぐさま作戦実行の準備にとりかかる。
と、事はトントン拍子にすすんでいく。

「───で?今せっせと妖精さん達は何を作ってるの?ユウ。」

「秘密だよ。
作戦は伝えた通りだ、お前はコトと一緒にグリーンヴィレッジに向かってあのゲス商人を地図の場所に連れてくるんだ。
ちゃんと言った通りにゲスティアのフリをしろよ?コトもゲスになったティアに怯える演技をな。
そこから先は俺と長老の仕事だ、任せとけ!」

ユウはマジックで地図に赤い×印を書き足し、ティアとコトへと手渡した。

「わかりました!ユウさん!私頑張ります!」

「病み上がりで無理しちゃダメよ?コトちゃん。
・・・さて、この宝の地図もどき・・・期待してるわよ、ユウ。
最高に笑える『イタズラ作戦』にしてくれるんでしょうね?」

「んあ?確かに作戦はイタズラだけど、お前が笑ったらダメだぞ?
あくまで仕掛け人は終わるまで仕掛け人さ、ギャラリーは村の妖精達とマコだけだ。」

「・・・ちょっ、ダメだよ、そんなこと言われたら私絶対わらっちゃうよ・・・」

最早すでに笑いだしそうなティアの背中を仏頂面でぼすっと押し出し、ユウは村の外へと2人を見送る。

「・・・よし、見てろよゲス商人め・・・お前は今日、森の神伝説の第一の目撃者となるのだ・・・」

ニヤニヤと下品な笑みを浮かべるユウに、村の妖精達は若干の嫌悪感を覚える。
妖精達の未来をかけたイタズラ作戦が、静かに幕を上げる。

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村の外れ、妖精1人、少女1人。
妖精には首輪がつけられ、少女はその首輪から繋がるヒモを握っている。

「ひっひっひ、どやあ・・・ゲスやろぅ?なぁ、ゲスやろぅ?
ぬっひっひ!
・・・よし、演技は完璧ね!」

「ティアさん・・・たぶんそれちょっと違います・・・」

ティアとコトは無事に森を抜け、グリーンヴィレッジまでたどり着いていた。
2人は早速ゲス商人を連れ出すため、ユウの指示に従いつつ打ち合わせをする。

「うーん・・・コトちゃん。お手本みせてよ!」

「ひゃっ!私がですか・・・?

・・・な、なんなら私が嬢ちゃんを買うぜ?んっふっふっふ・・・

ごめんなさい。」

「うっわ、コトちゃんゲッスい!?」

「え!?」

「ねっ!ねね!もっかい!もう一回やって!お手本にするから!」

「んふふふ、んっふっふっふ!!
炭酸は振ってから渡すぜ?!
こうですか!?」

「きゃあああ!ゲスい!最高にゲスいよコトちゃん!!
それだけゲスかったらコトちゃんもきっとタマサブローしてもらえるよ!完璧だよ!」

「や、やめてくださいよ!ほめてもなにもでませんからねっ!」

「じゃ!じゃあさっ!せっかくだからユウにタマサブローしてもらったときの練習もしとこうよ!ねえ!」

「やだー、恥ずかしいですよー・・・」

「一回だけ!お願いコトちゃん!一回だけでいいの!私を幸せにさせて!!」

「・・・もう、仕方ないですね、他ならぬティアさんの頼みとあれば・・・でも、一回だけですよ?」

「きゃああ!ありがとうコトちゃん!!
最っ高にゲスいのでお願い!」

「じゃあ・・・いきますよ?」

「わくわく・・・」

ひとつ、咳払いをし、得意げにぽんぽんと服の裾を払ったコトは、お尻を抑えて息を吸う。

『キャアッーーー!!!お尻があああああ!!!』

予想以上に迫真であった。
あまりの名演技にティアも言葉を失い拍手を送る。
てれてれとうつむきながら頭をかくコト、今の演技がいかにゲスかったかを力説するティア。
最早2人の間でそもそもゲスという言葉が本来どのような意味の言葉であったかとうことも忘れられ、単なるほめ言葉となっていた。
結果、2人はティアの演技の完成度という問題の根底をすっかりと忘れ、満足げに村の中へと向かおうとしていた、が、その時。

「おおぅ?村の外れから元気な妖精の悲鳴が聞こえると思って来てみたら嬢ちゃんじゃねえかっ!
調教中かい?首輪までつけさせて、なかなか板についてきたんじゃねえの?ひひっ。」

「あっ・・・あわわ・・・」

「・・・!
相変わらず・・・」

本物のゲスが現れた。
ゲスを呼び込むための予行演習でまさかの本人ご登場、2人はなす術なく固まる。

「しかし嬉しいなぁ、結局は嬢ちゃんもこっち側だったわけだ!
たけえ買い物だったんだろ?必死になるのもわからねえこともねえなぁ!ふっひひっ!」

心底ティアはこの商人に嫌悪感を覚えるらしい。
両手を強く握りしめ歯をがっちりと食いしばりながら商人を睨みつける。
商人の言葉のひとつひとつがティアの神経の一本一本を丁寧に逆なでするようだ。
また、ここでティアが怒っては作戦が台無しになる、そう思ったコトはティアにひそひそと耳打ちをする。

「・・・ティアさん、逆にチャンスです、私、これから演技しますから・・・!
アドリブで乗ってください・・・!!」

その声を聞いたティアは「はっ」としてコトのアクションに注意を配った。

「ぅ・・・ぐす、もう、お尻叩かないでください・・・なんでも言うこと聞きますから・・・殺さないで・・・」

なおもあまりの名演技に、ティアはチクチクと良心を痛めつつも、下手な演技で乗っかってみせる。

「う、うへへ、そうね!
・・・そ!そう!これ以上タマサブローされたくなかったらあんたの村の場所を教えろー!」

「っ!そ!そんなことできません!だってあなたは・・・村にきて妖精達を捕まえるつもりなんでしょう!?」

「ちっ!ちがっ!・・・じゃない!そうだ!あんたら妖精たちを全部捕まえて私も億万長者だ!ひゃーはーいっ!!」

「(そこ、肯定されちゃうと次の演技が厳しくなるんですけど・・・ティアさん・・・)

そっ!そんなことはさせません!

・・・ひそひそ、ティアさん、タマサブローで脅してください・・・ひそひそ。」

「あっ!うん!じゃない!
あ!あんた!もう一発タマサブローされたいの!?
ほら!お尻出しなさいっ!」

「ひぐっ!やっ!やめっ!わかりました!わかりました!すぐに案内しますから、もうやめてください!」

「そ、それでよーし。」

2人の一流演技と三文芝居のやりとりを黙ってみていた商人はいやらしい笑みを浮かべてティアへと声をかけた。

「おお・・・やるじゃねえか嬢ちゃん・・・へ、へへ、あれだ、嬢ちゃんきっと、妖精の捕まえ方、あんまり詳しくねえだろ?
俺がついていって教えてやるからよぉ、2人で妖精山分けしねえか?え?
丁寧に捕まえ方を教えてやるからよぉ、な?」

(よし!釣れた!)

(この人・・・本当に・・・!!)


相変わらずゲスさ満点の商人の提案にコトは小さくガッツポーズ、ティアは目が笑っていない営業スマイル。
本当はティアは商人と同行などはしたくなかったがこれも作戦。
しぶしぶ頷いて、コトに地図とマジックを渡すと、コトは地図にしるしを書き入れる演技をする。
準備は整った。

「この、印の場所が私たち妖精の村です・・・殺さないで・・・」

「ね、念のため、地図は私が持っていますからね、持ち逃げされたら・・・嫌ですし。」

「なんだよ嬢ちゃん、信用してねえのか?
俺は商人だぜ?金の絡んだことに関しては誰よりも誠実さ、ひひっ」

(・・・っ!どの口が・・・!!)

「ひそひそ・・・ティアさん、顔!顔!・・・ひそひそ。」

見事商人を釣ったティアとコトは、ユウの作戦に期待しつつ、早くしるしの場所へとたどり着くのを祈りつつ、グリーンヴィレッジを後にする。

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森を歩き続ける三人、ティアは商人が変なことをしないかずっと気を張り続け、行きとは明らかに違う疲労の色を顔に浮かべる。

「んん?どうしたんだ嬢ちゃん?顔色がわりいな。
俺がお医者さんゴッコで看病してやろうか?まずは脱いでもらうとこから始めようか?ひひっ。」

(いちいちいちいちセクハラ発言・・・もう、聞き飽きた。
私を商人釣りの餌にするなんてユウもなかなか人でなしだよ・・・うぅ。)

(やめてくださいよ!!セクハラ魔人!!・・・って、怒鳴りたい。
でも・・・ごめんなさい、ティアさん、ここで私が怒鳴っちゃったらユウさんの作戦が台無しに・・・うぅ。)

無言の足音が続く。

(もうすこし、もうすこしで地図の場所!
頑張れ私!負けるな私!
ユウのやつ、覚えてなさいよ!)

首輪をはめた妖精少女が先頭を飛び、その首輪から伸びる紐を剣をこさえた少女が握り、その後ろにガラの悪い中年男が続く。
晴れ渡り、木漏れ日が美しい森の中を歩くにはいささか怪しすぎる集団である。
森に神がいたとして、もしこの集団を見つけたらどんな声をあげるのだろうか。
その答えは、案外シンプルなものなのかもしれない。

「そこの怪しい貴様等!なにをしておる!!」

せいぜいこんなところである。
ちょっと低い声でゆっくりと話す声が、三人を引き止めた。
突然の出来事にティアは剣を構え、コトは慌てふためき、商人は煙玉を用意する。
三人が声のした方へと視線を流すと、一頭の神々しい姿の巨大な狼が姿を現した。
その上には上半身の一割、下半身の三割ほどしか隠れていない葉っぱの服を着て、木板に穴を開けただけのような仮面、花冠とを身につけた、いわば露出狂が乗っている。
潤んだ瞳で大人しく歩く神々しい巨狼とは裏腹に、謎の衣装の露出狂。
ティアは当然の質問を投げる。

「・・・だれ?」

「おいおい、嬢ちゃんも知らねえのかよ・・・
早くどっかいけよ!ぶっ殺すぞこのクソ露出狂!」

「てめっ!露出きょ・・・あ。
・・・我を侮辱するつもりか!我はこの森の神であるのだぞ!!」

突然現れた露出狂は自身を神だと言う、彼は背中から杖を取り出して腕をひろげた。
ティアの中で一瞬時間が止まる、一言こぼれた聞き覚えのある地声、そして、所有者が1人しかいない美しい、白い杖。
よくよく見ると仮面からはみ出す黒髪、おおよその身長、体型───

───ティアの時間が動き出す。

「っちょぶっ!!?」

ティアは気づいて吹き出してしまう。
そう、目の前の露出狂が、よく知るユウの成れの果てであるということに。
言葉を失い顔を青くするコトと罵声を浴びせ続ける商人をよそに、笑いをこらえるのに必死なティアは腹を抑えてうずくまる。

「ぇっ!?・・・ティ・・・ア、さん・・・?」

「ああ!?おい!?嬢ちゃん!?どうしたんだいきなり!?」

(・・・っの、バカティア・・・なに吹き出してやがる!予定が狂っちまったじゃねえかよ!)

ユウの作戦、それはユウ自身が森の神のフリをし、そこへ現れたゲス商人とゲスティアに人為的天罰を与え、妖精を神の使いだということにしたてあげた上で神格化させるとういものであった。
妖精が神の使いとなり、且つ実在する森の神より天罰をうけるとあらば、自然と妖精狩りなどはなくなるであろうと踏んだ結果である。
が、ユウの筋書きはここで書き換えられる、仕掛け人が、天罰を受ける予定の者が吹き出してしまったのだ。


「・・・貴様等、妖精狩りをしに来たのだろう?
神の使いである妖精を捕まえようなどとは笑止千万!
すぐさまその妖精の首輪をはずせ!」

「・・・ぁ!
そ!そうなんです!神様!この人達!妖精を捕まえようとして・・・!」

ユウのセリフから状況を察したコトも演技に乗っかる。
なんとか2人で元の路線へと戻そうと努力するも、ティアが足を引っ張る。

「ぷぐーっ!っくっくっく!ふぬぬぬぬ!!」

「おい!?嬢ちゃん!?嬢ちゃん!!」

ユウとコトの掛け合いなどには全く目もくれず、ひたすら笑い声を押し殺すティアと、それに呼びかける商人。
困ったユウはこの状況を打破しようと思考をめぐらせ、なんとか修正方向を定める。

「そ!そう!
その娘はもう助からん!森に伝わる死の呪いをかけたからな。
そのまま苦しみ続けた挙げ句、死ぬ。」

「なっ!?死ぬだと!?嬢ちゃんが!?」

商人がユウの話に食いつきやっと状況が動く、しかし、なおもティアは足を引っ張る。
ユウがゆっくりと狼から降り、腰に手をあててほぼ全裸な背を向けた。
嫌にきれいでたくましい尻がティアの視界にはいる、そして我慢は限界を超えた。

「ちょっ!ぶは!おしっ!ユ!おしっ!だしすぎ!ひきゃあああああ!」

とうとうティアは笑い転げる。
足をバタバタさせ、ゲラゲラ笑う。
さすがのユウも思考が止まった、これ以上の修正はどう考えても不可能である。
しかし幸いにも、その姿は事情を知らない商人の恐怖心を煽ることに成功する。

「じょっ!嬢ちゃん!おい・・・なんだよ・・・どうしちまったんだよ・・・」

謎の露出狂、呪い、死、狂ったように笑う女。
神の存在を商人に信じさせるにはそれらのキーワードだけで充分であった。
商人はガタガタと震えながら膝をついて、隣で笑い続けるティアを眺める。
コトも少し、笑いそうになる。

「うっ!うわああ!!あひいいい!!」

恐怖に耐えきれなくなった商人は四つん這いでその場から逃げ出そうとするが、ユウはすかさずアース=ウォールで商人の逃げ道を7方塞ぐ。
そして、残りの1方に立ちふさがった。

「ひいい!俺は!俺は悪くないんだ!
そこで笑ってる嬢ちゃんがその妖精を脅して!俺は!ちがうんだ!助けてくれえ!!」

「貴様・・・この期におよんでまだそのようなことを・・・!」

ここまでくればユウも安心である、ユウは長老へと合図を送り、商人にたいして『ビッグプラネット』をかけてもらう。
するとどうだろうか、7方を塞がれ、周りの様子が伺えない商人は、自分が小さくなっていっているにもかかわらず、ユウが巨大化していくような錯覚を覚える。
そして、巨大化していくユウに恐怖し、とうとう失禁する。

「うわああ!!コイツ!でかくなって!!?
わあああっ!!たすっ!助けてくれ!!死にたくない!!」

壁の外から聞こえるティアの笑い声が商人の恐怖心を煽りに煽って効果は抜群、結果オーライである。
ユウは商人をつまみ上げ、眼前へと持ってきて声を荒げる。

「今回はそこの笑い娘を生け贄ということで貴様は生かしてやろう!
だがひとつ約束しろ!貴様はこのあと村へ戻り、妖精狩りの禁止を村中に伝えるのだ!
もし、今後も妖精狩りをしようものならば、そこの娘と同じ目に遭うということも併せて伝えろ!!」

「わかりました!!わかりました!!ごめんなさいいい!!」

泣きわめく商人をユウは草むらへとぶん投げ、同時に長老が商人を元の大きさへと戻す。
商人はトカゲのごとくカサカサと四つん這いで草むらの中を逃げ帰っていった。
一瞬の静寂が森に戻る。


「・・・ぷっ!ぎゃははははっ!!やってやったぜこの野郎!!
みたかよあの商人の逃げ方!
みんな出てきていいぞ!」

ユウの声で、木の上から長老、マコ、草むらから妖精の村人たちがわらわらとてできた。
「わっ!お父さん!?マコ姉!みんな!みてたの!?」

「みてたよ、ティアさんが笑い出したときはどうなるかと思った。
というか、まだ笑ってるし。」

ため息を交えつつ、マコが言う。
その後、妖精の村で露出狂のような姿の神の像が作られたり、グリーンヴィレッジ周辺で森の神の伝説が広がったり、実際に妖精狩りに罰則が設けられたりしたことを、ユウとティアは知らない。

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