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「・・・こっ、これが・・・タマジローさんが秘密裏に作ったっていう・・・!?」

「そうだ。使い道ねえだろ?」

「ぷぐっ・・・!た、確かに!あはは!でもタマジローさんらしいじゃん!」

「別の魔法でもいいぜ?つか、専用魔法以外なら好きなだけ持って行ってくれてかまわねえよ。
お前さんに使いこなせるならな?はっはっは!」

「いや、ありがたくこいつをもらうよ。
ひょっとしてこれ、専用魔法?」

「そうだ。習得した段階でその魔法はお前のもの。
俺はその魔法に関しての知識を忘れる。
かつ、理解出来なくなる。」

「いいのか?だって、、、これ・・・」

「わかってんだろ?俺はアイリの全てを愛しているんだ、今にして思えばその魔法も無駄だったな!
そんなもんでわりいんだが、お前がそいつを成仏させてくれねえか?ユウ。」

ユウは無言で頷いた。
依頼の報酬である2人の武器がまもなく完成すると言うことで、タマジローは一足先にユウに報酬の魔法を与えていた。
タマジローが秘密裏に完成させた魔法ということもあり、ユウはなにか禁術の類なのではないのだろうかとも思ったが、蓋を開ければなんということもない。普通の便利魔法であった。
そしてそれは何よりもタマジローらしく、ユウはほっとしていた。

「さて、とうとうお別れか。
世話になったな、ユウ。
楽しかったぜ、お前との魔法研究・・・いや、お前とティアのいた生活!」

少し驚きつつ、はにかみつつ、ユウは言葉を選びながら応える。
素直すぎるタマジローの言葉に少しこそばゆい気持ちを感じたのかもしれない。

「いや、うん。
世話になったのはむしろ・・・俺達で・・・
お別れなんていうなよ、また会おうぜ、タマジローさん。」

カラカラと笑うタマジローとガッチリと握手を交わしたユウは、タマジローに続いて工房の様子を見に行く。

「出来た!
『友剣 メイガスエッジ!』」

「こっ!これは・・・すごい・・・げ、芸術作品だよ・・・!!」

「ふふ、でしょう?
そこの緑のところは翡翠晶を上手く入れてもらったの、タマジローに。
ガードの部分は自信作ね!リボンをイメージしてるんだ!
乙女でしょう?」

「こ!この!翡翠晶の部分にかかってるX字型の金属部分に掘られてる文字は!?」

「それもタマジローがね・・・なんかのルーンだとか言ってたかな?
持ってるだけで身体が丈夫になるんだって!」

「すっ!すすす!すごい!!
ふっ!振ってみてもいいかな!?」

「もちろん!感想を聞かせてほしいさね。」

ティアが剣を構え、振る。

「・・・なっ・・・」

「ど・・・どうなの?」

「きゃあああ!すごっ!すっ!すっ!
しっ!しっくり!腕に!うっ!腕が!剣に!!
こっ!これならユウも・・・一振りで真っ二つに───

「されてたまるかよ。」

ずっと2人の様子を見守っていたユウとタマジローだが、これには流石にユウも口を開いた。
ティアのにぎっている剣、メイガスエッジ。
それには正直ユウも驚かされた、ティアが言っていた通り、武器というよりは芸術作品に近い。

美しく、真っすぐ伸びる刃、先端の滑らかな曲線、輝き。
驚くことはそこだけではない、刃以外の部分は大きなスリットになっていて、そこには刃部分と同様の金属がX字に入っていて、守りのルーンが刻まれている、そしてX字の隙間を埋めるように宝石質の翡翠晶が入っていて、どう見ても鑑賞用の剣である。
ガードの部分は特徴的な形をしており、見るからにアイリのこだわりと腕が詰め込まれている。
グリップはティアの手によく馴染むように作られているのか、わずかにいびつな形をしているようにもみえる。

「お!ユウ!来たね!
アンタの杖も出来てるよ!」

「え!?ほんと!?アイリさん!?」

「本当だぜ、ユウ、杖の製作には俺の意匠も込められている。
名前は・・・アイリが頑なに譲らねえから俺の案は却下になった。」

「・・・」

カレーといい、技といい、タマジローのネーミングセンスにはユウも期待などしていなかった。
そのため、アイリの案が採用されたと聞いて、内心ほっとしている。

「これ!ユウの新しい杖!!」

アイリはユウに一本の杖を手渡した。
ユウの目が大きく見開き、この上ない輝きを見せる。

「お?・・・お・・・ぅ、うおおおおおおっ!!!
すげえ!!!カッコいい!!綺麗!!めっちゃ強そっ!!
えっ!?すっ!うおおおおおおっ!!!」

手渡されたその杖は白かった。
見事なまでに真っ白。その美しい白さゆえに際立つ緑の球。
ユウが見覚えのある、あの球。

「こっ!これはっ!」

「おお!気づいたか!ユウ!」

ユウは杖先の丸い球をつつく。
中に花びらの入った宝石質の緑の球。
杖の先に、花翡翠の魔力球がついていた。

「タ、タマジローさん、これは・・・」

「魔力を抜いたあとだな、そいつだけが残っていてな・・・ふふ、わかるだろ?ユウ?」

「・・・すげえ・・・すげえよタマジローさん!!」

「そうだ!魔力を抜いた後の魔法具!逆に言えば魔力の器にはもってこいってもんだ!
ユウ!早速魔力を込めてみろ!」

ユウはブンブン頷いて氷の魔力を杖に込める。
魔力球の中の花びらが、青色に輝いた。

「おっ、おお・・・おおおお・・・」

あまりに興奮しすぎてユウは今にも涙をこぼしそうなほどにウルウルしている。
ユウの足下にタマが寄ってきた。

「その杖はな?魔力を制御、操作するだけじゃなくて、発動の有無を問わずに魔力を溜めておけるんだ!
・・・簡単にいうと、その杖で魔法をつかうだけで、お前の魔法は以前よりもずっと強力になる・・・!!」

「ふおおおっ・・・」

とうとうユウの瞳から涙がこぼれ落ちた。
タマの頭頂部に雫がおちる。
気にせずタマはその場から動かない。

「すっ!すごい!ユウの杖もすごい!
アイリ!あの杖はなんていう名前なの!?」

ティアはブンブン剣ごと腕を振り回しながらアイリへと問う。
アイリは不敵な笑みを浮かべ、ティアを睨みつけつつ、言葉を落とす。

「さんご・・・」

「・・・え・・・?」

「美しいでしょう?白くて。
アンタが倒した魔獣の素材からつくったのよ?
その美しさ・・・まさに白い珊瑚のごとし!!

杖の名前は・・・『さんごの杖』」

ティアの表情が変わる。
絶望、緊張、混乱、そんな雰囲気が伝わってくるような表情。
ティアはアイリの言葉に対して自然と声が漏れる。

「・・・ったじゃない・・・っちも・・・しいって・・・

どっちもおいしいって・・・!結論はでたじゃないの!アイリ!!」

突然大声を上げて地団駄をふむティアにユウとタマジローは驚いた。

「知らないよ?
確かにどっちもおいしいかもしれないけど、さんごのほうがおいしいしね。
悪いけど、ユウはさんご派にかえしてもらうよ?ティア?」

ユウとタマジローは納得する。
さんごはまぐり戦争が2人の間にあったということを思い出したのだ。

「ずっ!ずるいよ!
それなら・・・この剣は今から『はまぐりの剣』に・・・!!」

「えっ、ま・・・まぁ、アタシは別にそれでもかまわないけど・・・それでいいの・・・?
間抜けな名前じゃない・・・?」

「私は・・・正しく、後悔しないように生きるんだ・・・!」

その後、色々と争いはあったものの、結局剣の名前に変更はなかった。
依頼の報酬も確かに受け取り、とうとう別れの時が訪れる。

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「よっし、準備OK。」

ユウはタマジローからもらったいくつかの魔導書も詰めたリュックを背負った。
流石のユウも別れが惜しいらしく、隣でリュックを叩き続けるティアを急かしたりはしなかった。

「ほんと、ありがとな、タマジローさん、アイリさん!
2人のおかげで旅の初めにいい思い出が出来たよ、また、会いに来るかもしれない。
その時には子供の顔みせてくれよな!」

「おう!任せとけ!
アイリにそっくりな可愛い女の子と、俺様そっくりな強くてカッコいい男の子とこいつらで幸せにしてまってるぜ!」

タマジローは大人しくお座りをしているタマサブローとタマを指す。
そして、隣で顔を押さえて震えるアイリの肩をさする。
困ったような呆れたような、しかし、仕方がないといった様子の優しい表情をしている。
本当はタマジローも寂しいようだ。

「ほら、アイリ、最後にそんなんじゃあとあと後悔するぞ。
きっとまた会えるんだ、笑ってみおくってやれ。」

「うえっぐ!ぐすっ!
ユウ!やくぞぐだからね!また会いに来るんだよ!?ディアど!一緒に!
うああああ・・・・えぐっ!」

ティアは歯を食いしばって泣かないように堪える、そして、そのことを誰にも悟らせないように聞こえない振りをしながらすでにホックの止まっているリュックを叩き続ける。
ティアは一度袖で目元を拭って立ち上がり、アイリと向き合う。

「アイリ・・・!!」

「ぐすっ・・・?」

ティアは腰から一本の木を取り出す。
アイリが修理した、ティアの手作りのブーメラン。
一応なんでも大切にするティアのなかでもなかなか大切な代物である。
それをアイリの目の前に差し出したティア。

ティアはそれの両端をがっちり握り

力を込めて真っ二つに折って見せた。

「えっ!?・・・ティア!?」

「ずずっ!・・・ぐす!
アイリ!わたしの大事なブーメラン!!
また!直してね!きっと・・・絶対!会いに来るから!その時、また友達だって・・・えぐっ!」

ティアはとうとうボロボロと涙を流し、折れたブーメランの片方を震える右手でアイリへと手渡した。
ティアは右腕の重みがなくなるよりも先に、身体に当たる衝撃を感じる。
アイリが、ブーメランを受け取るよりも先にティアへと抱きついた。

「うわあああん!ティアあああ!当たり前だよ!ずっと友達だよおおお!!」

「ぐす、ぶびええええん!!アイリいいいい!!
だのしがっだよおおお!ありがとおおお!!!」

やや、困ったような笑みを浮かべながら、ユウとタマジローはその様子を伺った。

「俺はお前と抱き合う気なんてねえからな?
勘違いして俺の胸に飛び込んできたりすんなよ?」

「ふざけんなよ、タマジローさん。
きもちわりーぜ。」

2人の様子を眺めながら、ふと思い出したかのようにタマジローは話を始めた。

「っと、そうだ、ユウ!
次の行き先は決まってんのか?」

「んあ?いや、とりあえず港までってことしか・・・」

「ふむ、そうか。
もし、特に行くあてもないならとりあえず王国を目指してみたらどうだ?」

「・・・?
まあ、大きい国や街には興味あるけどさ、なんで王国?」

この辺りで言うところの王国とは、大陸の真ん中あたりに位置する巨大な国のことを指す。
ユウは旅に目的をもっていない、逆に言うとなにか特別な理由でもない限りは目的地を定める必要もない。

「あそこはな、マナの研究が盛んだから───

「マナ?」

「一応お前たちの知識を────はぁん!?てめ!いま!マナって言葉聞き返したか!?」

「いや、そうだけど・・・」

「ははぁん!!?お前マナを知らないのか!?
おい!知らねえのかって聞いてるんだよ!?はぁん?!」

「いや、なんだよ・・・質問に答える時間くらいよこしてくれよ・・・そして知らん!」

「・・・じゃ、じゃあ・・・お前、マナ水がどうしてマナ水って呼ばれているのか・・・」

「知らねー。」

「・・・」

タマジローはため息をひとつついて呆れ顔で説明を始めた。

「お前なぁ・・・
まぁ、あれだよ。マナってのは簡単に言えば誰もが持ってる不思議パワーだよ。
マナが多けりゃ強い!少なきゃ弱い!
超簡単に言えばそんなとこだ。」

「ふーん、マナってすごい!」

「・・・はぁ。今はそんな認識でいいぜ、詳しくは王国で自分たちで調べやがれ、めんどくせえ。」

「そっか、ありがと。タマジローさん。
それならとりあえず王国目指すよ。」

「おう、達者でな!」

「ほれ、ティア・・・」

「ぬわああああーーーいりいいいーーー!!!」

「ティアああああん!!!」

「・・・」

その後、抱き合う2人をユウとタマジローは協力しあってやっとのことで引き剥がした。
2人からは『人でなし!』だの『このブーメランが二つに割れたのは・・・』云々云々、とにかく罵倒と説教の嵐であった。

どうしてこうも女は綺麗に別れられないのか、語らぬ美学が足りないのだろうか、背中は語らぬのかとユウとタマジローは呆れ果てたが、お互いの相方に、深い友情が芽生えたことに対しては悪い気はしていなかった。

出発後、お互いが見えなくなるまで手をふり続け、少しだけ賑やかだった日常を惜しみつつもユウとティアはペールタウンに別れを告げた。

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2人は木々に挟まれた小道を歩いていた、ペールタウンを出てしばらく経ち、すでに次の街の手前の森まで来ていたのだ。
途中、中途半端な強さの魔物に襲われたり、ユウがお弁当のおにぎりを目を離した隙に1つ無くしたりなど、トラブルはあったものの、無事である。

「はぁ、お姉さん、最後まで笑ってたね。」

「笑ってたというより、こらえてたよな。笑い。」

ユウとティアはペールタウンを抜ける前、命の恩人であるということでマリエッタのもとにも挨拶へと向かっていた。
2人が依頼所に入ってすぐ、やはりマリエッタは出迎えてくれたがいつもと少し様子が違った。
一瞬2人の足下に視線を落とし、訝しげな表情を見せたのである。

それに対してユウが『どうかしたのか?』と問うと、二秒ほど黙った後、マリエッタは噴き出した。
それからはずっとマリエッタはユウとティアの足下に視線を向け、2人と目をあわせようとしなかった、どうも笑いをこらえていたようで、2人は顔になにかついていたのではないかと仮説を立て、ペールタウンを出た後もしばらくお互いの顔を注意深く見合っていた。

「結局顔にもなにもついてなかったもんね、何がそんなにおもしろかったのかな?」

「まぁ、いいや、お姉さんは最後までそういう人だったってことでさ。
ほらお姉さんの笑いのツボ、面白いだろ?
不思議な人だ。」

「アイリもタマジローさんも不思議な人だったもんねー?タマー?
タマサブローと会えなくなるの寂しくない?」

ティアがふと視線を落とした先、口元に海苔とお米をつけたタマがいた。

「獣仲間だもんな・・・つか、タマサブローは生物学上何に分類されるんだ?
お前はウルウルフだけどな、タマ。」

いつになく誇らしげにウルウルしているタマの頭をユウが撫でつけた。
最高の笑顔である。
そして、タマの頭を撫でつけるユウの手が止まる。
表情がみるみるうちに焦りと恐怖に染まっていった。

「「え?・・・タマ?」」

ユウは悲鳴を上げながら飛び退き、ティアは慌ててタマの顔を覗き込む。

「ひぐうううわあああっ!!!タマ!?タ!タマァ!?どうしてこんな所に・・・わぁあああ!!ティアああ!!
コイツきっと!タマの皮を被ったタマサブローだ!!きっ!きっと!!俺の尻を狙って・・・やだーーー!!」

「ちょ!そんな訳ないでしょ!?
え、それにしてもいつから・・・あ!ユウ!
さっきユウが無くしたおにぎり!この子が食べちゃったんじゃないの!?
口にミニチュアおにぎりがついてる!!」

「はぁ!?ふざけんな!そんなわけあるかよ!気づくだろ!普通は!
どう考えてもそいつは急に背後に・・・
・・・ふむ。」

ユウは手足をバタバタさせていたが、突然ピタリと止まり、無表情に次の街の方へと歩き出した。

「え!?なに!?ユウ!?
なに急に納得した風に平常心取り戻してるわけ!?」

苦笑いをうかべつつ、ユウが振り向いた。

「そりゃな・・・そうだろ。
気づくんだよ、『普通なら』な。」

「あっ・・・」

ティアもタマを抱きかかえて歩き始める、小難しい顔をしつつもしっかりと納得した上、少し恥ずかしそうな様子である。

「・・・そりゃそうだよね。
笑うよ、足下にタマがくっついて来てるのに気づかずお別れの挨拶なんてされてたらね・・・」

2人は新たに一匹を加え、次の街の入り口に立った。

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「ほわあああ・・・っ!!
すごい!・・・童話に出てきそうな・・・!」

「っへえええ・・・、グリーンヴィレッジ。
森の中の集落か。
『ヴィレッジ』って名前のクセにずいぶん広そうじゃん・・・!!」

きゃあきゃあパタパタとティアが村の入り口でカメラを振り回している。
太めの杭が刺さっていたの見つけ、緑の風呂敷をタマの首に巻いて、そこにタマを乗せて写真を撮ったりもしている。
タマはただただプルプルしながらお座りをしている。
自然の空気を胸一杯に吸い込んで、吐き出したユウはティアへと声をかけた。

「・・・っし!宿の確保をして、とりあえずこの村の依頼所だな!
行こうぜティア!」

「うん!」

2人は足を踏み入れる、その中は全てが木や自然をそのまま利用したり、雰囲気を壊さぬよう加工して森の中に溶け込んでいるかのような造りになっている。
ティアは相変わらず走り回り、意味もなく広場に用意されていた切り株の椅子に腰掛けてみたり、そこらじゅうの木から吊り下げられた魔導ランプをカメラに収めたりしている。
その都度ユウは声をかけ、少しずつ村を回っていく。
そして発見した宿に、2人は唖然とする。

「・・・す、すげえ・・・」

「・・・っ!・・・っ!」

目を見開いて驚くユウと、両手を胸の前で組んで、プルプルウルウルとタマのように固まるティア。
その足元でタマのようなタマ。
徐々に視線を持ち上げてゆく。
高い。
太い。
なんと、宿が大木をそのまま利用した形で作られていた。
異様に大きな木の内部を宿状とでも言えばストレートであろうか、宿としての機能を持たせられるように掘ってあるのだ。

感動のあまり、涙を流しそうなティアを連れ、ユウは宿の受付へと向かう。

「こ、こんにちは!
あの、大人2部屋!空いていますか?」

「ああ、空いとる、空いとるよ。
五メートル以降の高さの部屋は少し割高になるが、どうする?」

白いひげで口元が見えない老人、宿のオーナーのようだ。

「い!いっちばん上!いっちばーん上で!おねがいします!」

ゴン!
と、ティアは受付テーブルに頭をぶつける勢いで・・・
頭をぶつけながらもオーナーに頭を下げた、せっかくメルヘンな村のメルヘンな宿に泊まるのだ、ティアからしたら最高の条件で泊まりたかったのであろう。

「フォフォ、お嬢ちゃん、一泊36000Fじゃが、だいじょうぶかえ?」

「もちろん!!おねがいします!!」

旅に出てくるとき、ユウとティアは多目にお金を持ってきていた、さらにアイリの依頼の成功報酬はなかなかの金額をもらっていた。
ティア個人で気持ち程度に稼いだお金もある、2人は今、お金には困っていない。

「じゃあ、俺は真ん中ぐらいの高さの部屋で。」

「フォフォ、僕ちゃんは18000Fじゃな、ありがとの。
おっと、そのペットちゃんは預かりで3000Fじゃな、しめて21000Fじゃ。」

「そっか、タマは預かってくれるんだな?
ありがとうございます。はい、料金。
また、後で戻ってきます、取りあえず部屋のキープだけおねがいしますよ?」

「ええぞ、代金は確かに頂戴した。
いつでも戻りなさい。」

ティアとユウはオーナーに頭を下げてタマを連れて依頼所へ向かった。

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2人は依頼所にたどりつくも、驚いたのは外観、内装のみであった。
働いている人間もマリエッタのような強烈なキャラもおらず、依頼も特に面白そうなものも発見できず、結局何もせずに依頼所をあとにした。
2人は少し早めの夕食ということで貸し出し食堂で食事をしていた。
メニューは貸し出し厨房でティアが作ったチャーハン、熱々のそれを頬張りつつ、タマにはドッグフードを与えつつ、今後について語らう。
貸し出しシリーズは、言ってしまえばコインランドリーや銭湯のようなもので、他にも貸し出し研究室や、貸し出し工房なんかもある。
旅の人たちのライフラインだ。

「ふむ、じゃあ港から大陸の逆側へ行って、そこから王国を目指すんだね、はふはふ。

んぐ、

それで?マナさん?についてのお勉強?誰?マナさんって。」

「んぐ?違う違う、もぐもぐ、マナさんじゃなくてマナ。」

「呼び捨てる程の仲・・・知り合い?」

「いや、だから、人じゃねーんだよ、もぐもぐ。」

チャーハンをすくうティアの手が止まる。

「あ、そういえばさ、ユウがタマジローさんにもらった魔法って、どんな魔法だったの?」

「むぐ、んぐ。
ああ、後で見せてやるよ、きっと一回驚いて、後で納得して笑うぜ?」

「ほふほふ、むぐ。楽しみ!」

「ちなみにお前が実験台な、ティア!」

「え・・・。」

また、ティアの手が止まった。

「それより次の依頼だな・・・どうする?
個人的には『害獣討伐 一頭あたり報酬6000F』あたりがよさげだと思ったんだけど。
・・・もぐもぐもぐもぐ、んぐっ!?」

「はい、水。
討伐かぁ、気が乗らないなぁ。」

「ざ・・・ざんぎゅー・・・ぐび。
・・・ふう。やっぱり、飛竜の件が・・・?」

「狩られる方にも、事情があるのよ・・・
どっちが正しいのかは置いといて。」

「・・・もぐもぐ。」

食後、ユウが食器を洗って2人は貸し出し食堂を後にした。
外へ出てすぐに2人の目を引く光景があった。
夕方の森、薄暗い中で一カ所、異様に明るくライトアップされている場所があり、人だかりが出来ていた。

ユウとティアはタマを連れて様子を見に向かう。

「なんか、声も聞こえるね。」

「ああ、マイクで喋ってんな。」

人ごみを押しのけ、2人は明るさの中心へとたどり着き、ティアの顔色が変わった。

「さあさあ!みていきなよ!
妖精だ!珍しいだろう!?さっき俺が捕まえたんだ!ほーら!ほしい奴は手を上げろ!金額を言え!せっかくだからこの場でオークションだあ!100000から!」

ガラの悪い行商人が、自分の屋台風の店をライトアップしていた。
様々な商品が並ぶ中、一際ライトアップされている小さな籠。
中には怯えて泣きそうな様子で震える小さな小さな女の子、その背中には、蝶のような形の透明な羽が生えている。

「うっわ・・・可哀想に・・・
嫌なもん見ちまったな・・・ティア・・・
ってか、妖精ってほんとにいたんだな。
都市伝説だと思ってた・・・」

「・・・」

生唾を飲み込み、妖精の存在に驚くユウをよそ目に、ティアは黙って妖精を見つめていた。
ティアも妖精の存在に驚いているようにはみえるが、そんなことよりもユウからみるとティアは何か怒っているようにも見えた。

「ティア・・・?」

辺りからは『十二万!』だの、『十四万!』だのと声が上がっている。
そして『十五万五千!』の声を最後に、周りが静かになった。
行商人は煽る。

「いいのかぁ?マニアにはたまらない妖精さんだぜぇ!?
買わないときっと後悔するぞ!?
食通のたしなみにも!ペットにも!雑用にも!!標本にもけんきゅ───

「にじゅうななまん!さんぜんよんひゃくさんじゅうご!!!!」

「おお!一気に値段があがったな・・・可哀想だから助けてあげたいけど、俺達の持ってる金じゃな・・・それ以上は───

言いかけてユウは気づく。
あれ?金額細かすぎねえか?
あれ?今の声、ティアじゃねえか?
と。
おそるおそるユウは隣へと視線をスライドさせる。
やたらと目立つ髪色をした、知った顔の少女が、左腕に仔ウルウルフ抱きながら右腕を高々と上げていた。
聞き間違いだと思いたいユウは、視線を籠の中の妖精へと戻す。

「に!にじゅうななまん!!さんぜんよんひゃくさんじゅうご!!!!!」

ユウは、声の主について考えるのをやめた。

その後、行商人の店から人だかりはいなくなっていた。
ティアは空っぽのお財布を小難しい顔でひっくり返していた。
ユウはそっと、小さな籠を持ってティアの後ろを歩いていた。

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宿に着くなり2人はティアの部屋へと入る。
先ほどの出来事のせいで、いちいち内装に驚くほどの余裕も2人にはなかった。
が、部屋は素晴らしく美しいもので、まるで女の子用の玩具の木のお家をそのまま大きくしたようなものであった。


「ったく、宿代は先に払ってたから良かったものの・・・」

ちらりとユウは籠の中へと視線を落とす。

「・・・」

目があってしまった。
タマのような突き刺さる妖精の視線に負け、ユウは視線を逸らす。

「まあ、うん、今回はなんとかなったからいいけどよ・・・」

ユウは部屋の奥の木の机の上に妖精入りの籠を置く。

「では、早速・・・」

ティアは行商人から受け取った籠の鍵を構えて、じりじりと距離を詰める。
妖精が小さく悲鳴を漏らした。
鍵は難なく開き、ティアは籠の扉を開ける。

「ひぃっ!!な!なんでも!なんでもしますから!命だけは!!
・・・こ、ころさ・・・殺さないで・・・!!」

妖精は籠の隅で頭を抱えて小さくなり、ガクガクと震えている。
ティアは籠の中へとそっと人差し指を立てて手を入れ、その人差し指でそっと、そっと妖精の頭を撫でる。

「大丈夫、大丈夫。
怖がらないで、今日はもう遅いから、明日、日が昇ったらお逃げなさい?
もう、あんな人に捕まっちゃだめよ?」

ティアの言葉と笑顔に、妖精は肩をビクつかせながら、そっと質問をした。

「ど・・・どうして、そんな・・・?
だって・・・あなたは私を買って・・・」

「助けたかったのよ、ただ、それだけだから・・・」

「まあそれにしてもな、いきなり自分の手持ちの金全額出すなんて・・・ははっ、馬鹿だよな!
オークションなんだから最小限の金額狙えばいいのによ。」

「・・・う、それは・・・ごめんなさい。」

ティアは素直にユウに謝る。
勢いだけで暴挙に出たことを反省しているようだ。

「金は、いいよ。もっと大事なこともたくさんあるからな。
ティアの財布が潤うまでは俺の財布が寂しくなりそうだぜ。
罰として、しばらくはお前が食器洗い係な!」

ユウはカラカラと笑いながら木でできた椅子へと腰掛ける。

「ははっ、ちょっとやだなー」

申しわけなさそうに、しかしほっとした様子である。
2人の様子を眺めていた妖精はそっと籠から抜け出し、上目遣いで控えめにティアを見る。

「・・・あの、あ、ありがとう・・・ございます。」

ぺこっと頭を下げる妖精に、ティアは笑顔で右手を差し出した。

「いいのよ。おいで、せっかく一晩だけの仲なんだから、妖精の世界のお話、聞かせてよ!」

なおもティアの顔をまじまじと見つめ続けていた妖精は、どうしても気になっていたことを聞いた。

「なぜ、私を助けてくれたのですか・・・?」

ティアは眉をひそめた。
最近似たような質問をされた気がしたからだ。
あーだの、うーだの、いいつつティアは答えを探す。

「それは・・・その。
私、昔から童話が好きでさ・・・童話と一緒に育ってというか・・・
ほら!童話によく妖精さんがでてくるでしょう!?
だから、私の中では妖精さんはお友達みたいな、姉妹みたいな、憧れというか・・・」

椅子に座って後頭部で手を組んでぐーたらしていたユウはティアへと視線を移しつつ、ニヤリと笑う。
自信がありげなユウは、一言ティアへと問う。

「・・・気まぐれだろ?」

はっ!とした様子で一瞬驚いたティアも、ニヤリと笑い返し、妖精の方へと向き直り笑顔で答えた。

「そうね!気まぐれ!気まぐれで助けたの!」

「だとさ、相方のただの気まぐれだ。
気まぐれで自分の財産投げ出すような奴なのさ、ティアは。すげえだろ?
だから変にお礼とか考えなくてもいいし、変に気を使ったりしなくてもいいぜ、妖精さん。」

ユウはまた天井へと視線を飛ばし、ぐーたらし始める。
ティアはまた、妖精へと右手を差し出す。
しかし妖精はティアの手を見るなり、おずおずと後ずさりをする。
その表情には戸惑いの色が見える。

「あ、・・・あの、乗ったら・・・痛くないんですか・・・?」

ティアはあわてて右手を引っ込めた。
アイリには認めてもらえても、ボロボロの手はやはりティアにとってはコンプレックスであった。
うつむいて自分の手を眺めるティア、地雷を踏んでしまったのかとおろおろする妖精。
それらを目にしたユウはティアとの約束を思い出した。

「あー!そうそう、ティア、タマジローさんからもらった魔法の実験台!」

笑顔で立ち上がったユウにティアは緊張した面持ちで肩をすくめた。

「え・・・あれ冗談じゃなかったの?!」

「当たり前だろ?お前もタマサブローにしてやるぜ!」

魔導書を取り出すためにユウはリュックを漁っている。
いくつかの魔導書のうちの一つを取り出すと、ユウはそれを左手の上に乗せて、表紙に右手を添える、直後、魔導書は赤紫の炎を上げ、一瞬で消えてしまった。

「は!?え!?ユウ!?今何したの!?」

「専用魔法だからな。使い回されないように、習得の段階で内容がかかれた魔導書は消滅するようにできている。
且つ、知識や使い方、魔力は俺に焼き付けられる、そういうもんだ。」

興味深げに妖精はユウの魔法を注視していた、ギャラリーが2人になり、ユウは少し得意気だ。

「以上、これでこの魔法は俺のもの。
さあ!実験だ!ティア!両手出せ!」

ビクッとティアは口をつむんだ。
たとえ相手がユウでも、あまり人にはじっくりと見せたくはないようだ。

「・・・ぅ、・・・ほら・・・。」

両手をユウに向けて、ティアは不満げに視線を逸らしてしまう。
ニヤニヤしながらユウはティアの手に自分の手を重ねる。
そして、ぼんやりと2人の手が光った。
目を逸らしていたティアも驚いて自分とユウの手を注視する、妖精は身を乗り出してその様子を眺める。
そして、光が収まり、ユウはそっとティアの手の上から自分の手を離す。

「・・・あ・・・」

ティアの瞳が一瞬潤んだ。
例のごとく、タマが寄ってくる。

「な!?タマジローさんらしいだろ!?最初聞いたときは俺もちょっと笑ったぜ。
『花嫁の手』って魔法らしい。
手専用の完全回復魔法、どんな傷痕だろうと、菌だろうと、疲れだろうとなんでも、全部!きれいさっぱりに出来るんだってな。
手だけだけど。」

「・・・これ・・・」

「そう、タマジローさんが、アイリさんのためだけに作った魔法だってな。
結婚式でさりげなく使おうと企んでたらしいけど、アイリさんは自分の手のことはそんなに気にしてなかったから没になったそうだ。
秘密裏っていうからどんな魔法かと思えば・・・アイリさんにだけ、秘密裏だったらしい。
笑えるよな。」

「ふふ・・・うん、綺麗な手だね。」

ティアは少しだけ目元を指で拭って、三度めの正直に出る。

「ごめんね、おいで!」

ちょっと赤い笑顔と綺麗な綺麗な右手に魅せられ、妖精はそっとティアの言うとおりにする。

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妖精の座った右手をそっと持ち上げ、ティアは部屋の真ん中のテーブルまで彼女を連れて行く、ユウは2人分の椅子をテーブルに用意してその一つに座り、タマを膝へと乗せた。
ティアは妖精をそっとテーブルへと乗せ、ユウの用意した椅子へと腰掛ける。


「さぁ、自己紹介といくか。
俺はユウ、つい最近飛竜に襲われて死にかけた猛者だ!」

「私はティア、ユウと一緒に飛竜に襲われて死にかけた猛者よ!」

どやっ!と2人は鼻息を荒くする。

「最近人間に捕まった猛者!『コト』です。」

んふんふ!とがんばって鼻息を荒くしようとするコトの可愛らしさにティアは目眩を覚える。
猛者の集会が始まった。

「かわいー!
ね、ね、ね、写真!写真とっていい!?」

「ダメです、恥ずかしいです!」

「じゃああとで隠し撮りだな!
で?なんでそんなに人間を恐がってたんだ?
そりゃあ捕まった挙げ句売りに出されてその文句に食通の嗜みだの、標本だの研究だのと不吉な言葉を並べられたら恐がるのもわかるけどさ、あの恐がりかたは他に理由があるんだろ?」

「・・・それは・・・」

「ユウの顔でしょう?
目つき悪いし仏頂面だし。」

「馬鹿言えよ、恐がられてたのはお前の笑顔の方だろ?
威圧感がちげーよ。」

「私には・・・お姉ちゃんがいて・・・」

「え!?なによそれ!?怒るわよ!?」

「もう怒ってんじゃん。
ひぎぃっ!?こわいー!!」

「んぬ!またふざけて!表へ出なさい!アイリの剣の切れ味試させてもらうわ!」

「お姉ちゃん、昔人間につかまっちゃって・・・」

「そっちだけがアイリさんの武器持ちだと思うなよ?
さんごの杖!はまぐり派に海の裁きを!」

「っな!?ユウもはまぐり派に改心したでしょ!?
これは裏切りよ!!」

「そこでお姉ちゃん・・・」

「それに、俺にはタマジローさんにもらった魔法もあるからな!」

「ずるいよ!私だって悪夢のナイトメアしたい!」

「あの、お二人、聞いてます?」

「お前はフルムーン満月でもやってろよ。」

「っの!!またフルムーン満月バカにして!
もう許さない!」

「君、大変なんだね。」

妖精はタマと会話を始めた。
それから一時間も経とうかという頃。

「んっふーふ、んっふーふ、んーふーふーふーふー」

ティアは鼻歌をうたいながらリュックにお菓子を詰めていた。
やっぱりなにかお礼がしたいということと、コトの姉と人間との間にあった話の説明、ティアの憧れも踏まえて翌日にコトが妖精の村を案内してくれることになったのである。
ユウはキラキラと瞳を輝かせて自室に準備にもどったあとだ。
曰わく妖精は不思議な力を持っているらしく、それに関する話も聞きたいから楽しみだという。
コトはタマの前脚に腰かけて大きな大きなビスケットをかじっていた、もちろん、ティアからしたら普通のサイズのビスケットである。

その晩、ユウもティアも中々寝付けぬ夜を過ごした。
2人とも、遠足の前の日には目が冴えるタイプである。

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「コトちゃん・・・」

「むにゃむにゃむ・・・もうそんなにビスケット・・・」

「ほーら、コトコトコトコトー」

ティアはコトが中で眠っているビスケットの箱をコトコト揺らす。

「んひゃあ!?地震!?」

「残念、私。
ビスケットの箱をも揺らす猛者こと、ティアよ。」

「ティ・・・ティアさん?」

コトはビスケットの箱から飛び出してまじまじとティアをみつめる。
頭のてっぺんからつま先までばっちり外出準備OKのティア、寝坊してしまったのではないかとあわててコトは謝り倒した。

「わあああ!ごめんなさい!ごめんなさい!すぐに準備しますから!ごめんなさい!」

「なにあわててるの?そんなに焦らなくてもいいよ?」

「へ?」

「だって・・・」

ティアは目覚まし時計をコトの眼前へと向け、にっこりと微笑んだ。

「まだ五時半だから。ね?」

「・・・」

ならばなぜ起こした。
と、コトは内心思うが口には出さない、鼻歌をうたいながらモーニングティーの準備をするティアをみて納得したからである。
とても嬉しそうで、妖精の村へ遊びに行くのが楽しみで楽しみで仕方がないといった様子である。
焦らなくてもいいとは言いつつも、一秒でも早く宿を出たがっているのは目に見えてわかる。

(この宿も、すっごくかわいらしいんだけどなー、もうティアさんの頭は私達の村のことでいっぱいいっぱいなんだろうなー。
あ、あれ?)

「あの・・・」

「なあに?」

「昨日ユウさんの膝の上にいたわんちゃ───

言いかけたところでコトは躊躇った。
コトはタマの居場所を聞こうと思った、実はもっとタマと遊びたかったからだ。
しかし名前がわからない、どうみてもタマは犬っぽい姿をしているからわんちゃんと呼ぼうとしたが、それはあくまで鳴き声の連想からくる呼び方である。
あんななりをしていても実は「にゃん」と鳴くのかもしれない、実は、犬じゃないのかもしれない・・・
そう考え始めると、安易にティアに「わんちゃん」という表現は使えない。
コトは頭を抱えた。

「・・・どうしたの?」

「あの、ウルウルしてて、プルプルしてて、もふもふしたクリーム色の・・・」

「ああ、タマのこと?
かわいいでしょー?あの仔、ウルウルフなんだよ!」

「あ!そう!あのわんちゃん!タマちゃんって名前なんですね!」

ティアが驚いた表情でコトの顔をみた。

「え!?タマ!わんって鳴くの!?わんちゃんだったの!?」

「あぁしまった、結局わんちゃんってよんじゃった。」

コトは再度頭を抱えた。

「いっ!いつ!?いつ鳴いたの!?タマ!
まって!私もタマの鳴き声聞きたい!」

「えっ、あの、その、え!?
ティアさんもタマちゃんの鳴き声をご存知ない!?」

「うん!あの仔ぜんぜん鳴かないの!」

「う、うーん。そうなんですか・・・
ごめんなさい、鳴き声をきいたわけではないんです、見た目で判断しちゃいました。
わんって鳴きそうじゃないですか、タマちゃん・・・」

「そっか・・・そうだよね・・・タマ鳴かないもんね・・・」

なぜか意味もなく2人は落ち込む。

「・・・あ、そうそう、タマはね、オーナーさんが預かってくれてるのよ、昨日はコトちゃん寝るの早かったから預けに行くところはみてないもんね。
連れてくるか。」

「はぁ、そうだったんですか。
お、お願いします・・・」

朝のやりとりからしばらくしてのことである。
いよいよ妖精の村へと出発を目前にして、ユウとティアは荷物の最終確認にとりかかっていた。

「んー、そうだな、タマって鳴いたことねえよな。
それよりティア、菓子詰めすぎ。」

「遠足のお菓子は30000F分まで持って行ってもいいんだよ!」

タマの首にしがみついてきゃあきゃあはしゃぐコトを横目に、ティアは自分の服のポケットにまでパンパンにお菓子を詰めていた。
相変わらずリュックもパンパンで、呆れたユウは提案する。

「流石にそんなにあったら邪魔だろう?なにせ普通の百倍だしな。
ちょっと俺が持って行ってやるよ。」


「え!?ほんと!?ユウのリュックにも詰めていいの!?」

「冗談じゃねえよ、やめてくれ。
いくつか俺の胃袋にしまっていってやるって意味、そのチョコレートくれよ、うまそう!!
・・・つか、どこにそんなに大量の菓子隠し持ってたんだよ・・・」

「っ!だめー!ユウのお菓子はこっち!
お菓子も隠し持てないようじゃ女の子なんてやってられないわよ!」

ティアは柿の種とするめが入った袋をユウに投げつけた。
不満げな表情をみせつつも、ユウはおもむろに袋をあけてするめを噛み始める。

「もぐもぐ、それで?
コトの村はどこにあるんだ?」

「この村から森の中を南へ進んだところです、多分!」

「多分?もぐもぐ。」

「あの、昨日捕まって無理やり連れてこられちゃったから、正直ここがどこなのかよくわからなくて・・・」

「あー、なるほど、それもそうか。
ティア、荷物あんまり重くしすぎんなよ?歩くかもしれん。
もしあれならまたリュック禁止にしてショルダーバッグの刑にするぞ。」

「・・・」

ティアはそっとユウへとチョコレートを投げつける。

「ふむ、今回は特別だぞ?
リュックとショルダーバッグを一緒に持って行ってもよし!
チョコレート分多めで。もぐもぐ。」

ちいさくガッツポーズを決め、ティアはショルダーバッグにもお菓子を詰め始めた。

(この2人、森の中に入って大丈夫なのかな・・・森は危険がいっぱいなのに・・・)

コトは少し2人に対して不安を感じたが、それを直接言葉にはしなかった。
が、間接的には言葉にした。

「タマちゃん、大変そうだね。」

三人と一匹は、お菓子をくわえながら宿を後にする。

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宿を出てすぐのことであった。
珍しげに周りの様子をキョロキョロと伺っていたコトが突然悲鳴をあげてティアのお菓子入りポケットに飛び込んだ。
がさがさと音を立ててお菓子をかきわけて頭だけを隠したコトは、ポケットから下半身だけを出してじたばたしている。

「むぐっ!どうしたの?!コトちゃん!?もぐもぐ!」

「もぐもぐ、はあー、なるほどな。」

ユウが納得して視線を向けた先、昨夜ティアにコトを売った商人が歩いてくる。
ティアのポケットで暴れる二本足を見つけ、ついで、ティアの顔も見つけた商人はやらしい笑みを浮かべながら話しかけてきた。

「おお、昨晩の嬢ちゃん!昨日はありがとな、おかげでうめえ酒が飲めたぜ。
しかしもう籠から出したのか、ちゃーんと調教してからじゃねえと逃げられるぜ?
そうなりゃまた俺が捕まえて売ってやるけどなぁ!ふひっひひ!」

「・・・いこ、ユウ!
もぐもぐ。」

「おいおい、連れねえなぁ!
それよりよ、嬢ちゃん、お前、昨晩は薄暗くてよくわからなかったが、なかなかのべっぴんじゃねえの!?
うへ、金に困ってんなら俺が嬢ちゃんを買うぜ!?それこそ二十七万ちょっとでなぁ!
昨晩嬢ちゃんがそうしたように!ひひ!
ちょうど宿へ向かって寝ようと思ってたんだ、一番上の部屋で可愛がってやるぜ?」

ティアの目つきが変わる。
鋭く、睨む。
侮蔑と明らかな怒りを含めたその目つきにユウは少し驚いた。

「っの!!!どこまで周りをコケにすれば・・・!」

一瞬剣に手をかけたティアに驚きながらもユウはティアをなだめる、もちろんユウも気分はよくはなかったが、村の真ん中で騒ぎを起こすわけにはいかない。
ティアが妖精好きなのもわかっているし、おまけに不可抗力とはいえティアが妖精を買ったという皮肉な事実を嘲笑の材料として向けてきたのだ。
ユウだって内心は殴り飛ばしたかった。

「っぐ!抑えろ、ティア・・・。
商人さんも、あんまりこいつのことからかわないでくれよ、素直で正直なんだ、怒って当然だろ?
・・・いこうぜ。」

ティアはユウの言葉にしぶしぶ頷いて剣から手を離す。
悔しそうなティアを見かねたユウはあることを思いついた。
商人とすれ違ったのち、すぐにユウは行動を起こす。

「ひやあああ!しょ!商人さん!し!尻に毒ムカデがぁ!!」

「なに!?ほんとか!?坊主!」

「ほんとだ!商人さん!動かないでくれ!俺が今助ける!」

ユウは商人の尻を指差し、バタバタと手足を動かしている。
しかしムカデなどついていない、ティアはユウの行動に眉をひそめた。
ティアはこのユウの驚き方には見覚えがあった、ユウがティアのお腹に毛虫をのせたときと同じ驚き方である。

(なに?ユウ・・・なにをするつもり・・・?)

ティアはあえてなにも行動を起こさずにユウを見守る。
ユウは商人の尻に向かってかけて行き、しゃがんだ。

「こ!こら!逃げるなムカデ!俺がやっつけてやる!」

ユウは商人の尻に手を這わせてムカデを捕まえる動きを表現しつつ、商人の尻に術式を書いている、ティアはそれがすぐにわかった。
しかし、それがなんの術式なのかはわからない。

「お!おい!坊主!まだか!?」

「もうちょ、もうちょ・・・えい!」

ユウはなにも持っていない右手からわざとらしく炎の魔法を出す。
そしてわざとらしい丁寧語。

「ふー、みてください!塵のひとつも残さず燃やしてやりましたよ!」

「ほぉ、そうか、坊主は魔法使いだったんだな?ありがとよ。」

「いえいえ!当然です!しかし・・・」

「しかし?」

「あのムカデは遅効性の毒を持っているのです、もし咬まれていたら・・・後でズキュンとくるかも・・・」

「あ?ほんとか!?
・・・まぁ、痛くはなかったから大丈夫だろ。
坊主も毒ムカデには気をつけろよ。じゃあな。」

商人はひらひらと手をふりながら宿へと消えていった。
宿の入り口から
「おい!じじい!一番上の一番高え部屋だ!」
などと声が聞こえた。
ここで初めてティアがユウへと質問をする。

「なんだったの?さっきの三文芝居。」

「いや、だって、あいつムカつくからさ。
ほら、コト、出てきてよく聞いとけ、お前を捕まえて売った商人さんが元気な悲鳴を聞かせてくれるぜ?」

「むご!?ほんとですか!?」

コトがティアのポケットからキラキラした眼差しで出てくる、その様子にユウは頷き、ニヤニヤしながら杖に魔力を溜めた、魔力球が白く光る。

「ふ、ふふふ、そろそろかな?食らえゲス商人!!
マジック=ニードル!!!」

ユウが宿の最上部屋の窓に向かって杖を振ると、とても人があげたとは思えないような悲鳴が宿の窓からユウたちのもとまで届いた。

「アッーーー!!!尻があああああ!!!」

「暗殺秘術『魔力で出来たタマサブロー』

へっ、これで終わったと思うなよ、さっきの言葉は俺に対する宣戦布告と受け取ったぜ。」

「さっきの・・・言葉?」

コトが興味深そうにユウの顔を見上げた。

「あいつ、さっき『また俺が捕まえて』って言ってやがったんだ。
まだ妖精狩りを続ける気があるみてえだからな、止めさせてやる!」

「もぐもぐ・・・あははっ!
やるじゃん!ユウ!ちょっとかっこいいよ!
・・・その、技は・・・ホモっぽいけど・・・もぐもぐ」

鼻息を荒くして杖をしまうユウと、お菓子を食べながら笑って手をパチパチと鳴らすティア。
なぜか誇らしげなタマ。

(この人たち・・・すごい・・・!)

コトの不安は、わずかながらも希望へと色を変える。

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村をでてからティアはずっとご機嫌であった、先ほどの商人とのやりとりが嘘のようである。
これから妖精の村へ向かうという期待と、商人に対するユウの逆襲、そして、妖精に肩入れしてくれたユウ。
一つ一つ要因を拾っていくとティアの機嫌が良いのも自然なことなのかもしれない。

「あ、コトちゃん、ほっぺにお煎餅ついてるよ?」

コトはタマの上に跨がって煎餅を頬張っている、ティアはコトの頬から煎餅かすをつまんで自分の口へと運んだ。

「あわあ!?ごめっ!すみません!・・・あ、ありがとうござぃます・・・」

「ふふ、なに照れてるの?女の子同士でしょう?
それとね、タマも女の子なんだよー」

きゃああとはしゃぎながらティアはタマの口にドッグサラミを放り込んだ。

「しかしお前らよく食うな・・・菓子ばっかり食ってて飽きねえのか?もぐもぐ。」

ユウは最後のスルメを口へと運んだ、柿の種はすでになくなっている。

「お菓子は別腹なの!はい。」

「さんきゅ。さっきから俺の菓子だけ渋くねえか?」

チータラ入りの袋がユウへと手渡された。

「気のせい気のせい、それよりさ、ユウ?あの人の妖精狩りをやめさせるって言ってたけど・・・
どうするつもり?」

「もぐもぐ、ん。
そうだな、まだノープラン。
村出たところをひっとらえてボコボコでもいいけどそれじゃあアイツも反省しないだろ?」

話を聞いていたコトが申しわけなさそうにユウへと話しかける。

「あの、私たちのことを思ってくれるのは嬉しいんですけど・・・その、やり方によってはユウさんたちがただの悪人に・・・」

「・・・ん、まあ、そうだな。
けど俺たちはただの旅の人だ、正義の味方でも、人並み外れた善人ってわけでもない。
利益のためには手段を選ばないことだってあるさ。」

「そんな・・・」

「はは、でもさ、もし俺が悪を許さぬ正義の味方だったら、昨晩コトが売りに出されていた時点で商人をボコッてたかもしれないぜ?
それも一見立派に見えるかもしれないけど、結果だけみたらただの暴力だろ?
もしそうなったらコトは俺たちのことを善人だと思えるか?」

「うん、それに、悔しいけど極端な話あの商人だって妖精を狩るのを正義だと思っているかもしれないの。
一見悪いことをしていたように見えたかもしれないけど、事情によってはそれが正しいことだったのかもしれないしね。」

ティアも話に割り込んできた。

「私には・・・難しいです・・・」

「あら?私たちにだって難しいんだよ?」

「ああ、さっきの話はな、つい最近滅茶苦茶つよいお姉さんに言われたことを噛み砕いたもんだ。
実際は俺らもまだ完全に納得できていない。」

コトは難しい表情で首を傾げた。

「うーん、てつがく?なんですか?」

ユウとティアは顔を合わせて微笑んだ。

「そして、お二人さんはどこへ向かっているのですか?」

ユウとティアは顔を合わせて青ざめた。
タマは、ユウとティアの後ろをひたすらついていくことしかできない、ユウとティアは妖精の村の場所を知らない。
そして、コトはタマに跨がっている。

「「・・・」」

「いえ、あの、そんなかおされても・・・
ごめんなさい、私がちゃんと案内しなかったから・・・ですよね・・・」

2人は首をぶんぶん左右に振って否定し、回れ右をする。

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