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しばらくして、魔法の準備がおわる。
タマを除いて全員が全員、緊張した面もちで魔法発動の様子を見守る。
魔法陣の真ん中で、ダボダボの洋服を着たタマジローがユウへと声をかけた。

「泣いても笑ってもこれが最後だ、頼むぞ!ユウ!」

魔力球から魔力を抽出した魔導書を手に、ユウはタマジローの言葉に応える。

「ああ、最後だ!
笑いながら泣けるように演出してやるよ、任せとけ!」

アイリはしっかりと目を見開いて現実を見守る。
しかしやはり不安は拭い去れないようで、震える右手でティアの服の左袖を握っている。

「・・・心配ないよ、アイリ・・・ユウもタマジローさんももう迷ってない!
それに魔法は必ず成功する!
約束してたでしょ!」

今にもこぼれ落ちそうな程に目元に涙をためつつも、ガッチリと歯を食いしばって耐えるアイリ。
不安は拭い去れなくとも、覚悟は決めている様子だ。

ひとつ、ユウは深呼吸をし、魔導書より魔力を解放する。

「・・・っ!!」


魔法は予想以上の反応を見せた、魔法陣が恐ろしいほどに光を放ち、中心のタマジローの様子がうかがえない。
もともとは難なくタマジローの魔法に上書きをできる魔力であったが、状況が状況なだけにうまく行かない。
タマジローの理論、全身を人間に変える魔法が既にかかっているビーストウォーリアに勝ればいい、ただそれだけのことなのだが、単純にそれを力のみで押し進めようとするとタマジローの精神がもたない。
そうならないよう、ユウが魔力を調節しつつタマジローがひたすら自我を保つよう踏ん張る。

魔法が発動してから一分弱、ユウの頬を一筋の汗が伝う、タマジローのうめき声も小さくなっていく。

(頼む、耐えてくれ、タマジローさん・・・!!)

ひたすら光る魔法陣、魔力を加減しつつ送り続けるユウ。
ティアとアイリは2人の様子を見守ることしかできない。
アイリがこれほどまでに長く感じた一分はないだろう。

「・・・よしっ・・・!」

小さく声を漏らしたユウは、一瞬、強めに魔力を送った。
その瞬間、魔法陣から盛大な煙が上がり、魔法陣の反応が収まる。
三人は、ただ、煙がはけるのを待ち、魔法陣の方を見続けたが、その時───

「ニャッフ!!!」

一匹の獣が煙の中から飛び出した。
紛れもなくその姿は獣のタマジローである。
それが瞳に映ると同時にアイリは両手で顔を抑えてしゃがみこんでしまう。

「そんなっ・・・!!ユウ!?タマジローさんは・・・!??
魔法は・・・!?」

震える声でティアはユウへと問いかける。
ユウはうつむき、静かに話し始めた。

「・・・くそっ・・・魔法は・・・失敗だ・・・・」

「・・・う・・・そ・・・」

数歩後ずさりをして、ティアも泣き出してしまう。
しかし、ユウは不敵な笑みを浮かべて言葉を続ける。

「・・・けどまぁ、依頼の方はどうだい?
『タマジローさん』?」

「えっ・・・?」

ユウが言葉を締めたと同時に魔法陣から強い風が吹き出し、煙が一瞬で吹き飛ぶ。
そして、その場に、ユウでも、ティアでも、アイリでも、タマでも獣でもない声が響く。

「成功だ!!ユウっ!!」

そこに立っていたのは先ほど獣が着ていた服を着た人間。
ユウとティアが知らない人間。
アイリがよく知る人間。

アイリにとって、一番大事な人間。

「・・・へっ、へへ・・・風魔法で煙払って登場かよ・・・ずいぶん余裕そうじゃねえかよっ、かっこいいじゃん・・・」

苦笑いを浮かべ、ユウはその場に腰を抜かしたかのように尻餅をつき、ティアが慌ててユウの肩をささえる。
そのやりきった表情に、初めてティアも状況を理解する。

「アイリっ!やった!!アイリっ!!!」

聞き慣れたタマジローの声と、嬉しそうなティアの声を聞き、アイリは恐る恐る、そっと、そっと、顔から手を離し。
ゆっくりゆっくりと、魔法陣の中心に立つ足下へと視線を移す。
見慣れた・・・いや、ずっと見たかった足。
ゆっくりゆっくり視線を上げていく、膝枕をしてもらうのが好きだった腿。
意外と割れた腹筋が魅力な細マッチョなお腹。
眠れない夜、枕代わりによく借りた胸元。
キスマークをがっつりつけてちょっと怒られた首筋。
そして、あの日と変わらない全然好みじゃない顔。

「っう・・・あ、タマジロー・・・?
タマジロー!・・・う、うわあああああん!!タマジロー!!!」

しゃがんだまんまの状態からアイリはタマジローへと飛びついた。

「うげふっ!?いてえ!・・・はは、心配かけてすまなかった、アイリ!」

「ぅええ、ぐすっ、タマジロー、タマジロー・・・!!
会いたかったよ・・・!待ってたよ!タマジロー!」

ひたすらタマジローの胸元に顔をうずめて泣きじゃくるアイリ。
優しい表情で頭をなでるタマジロー。
ユウは満足だった。
ティアは嬉しかった。

「あれれ?ユウ?泣いてない?」

「・・・うん、感動じだ・・・えっく。」

「うん、ぐす、感動したね・・・。」

その日のティアの日記には、タマジローとアイリの幸せを願う旨と、ユウの意外な涙、
『タマサブロー』と名づけられた元タマジローだった獣、それに追っかけ回されるタマについてが綴られていた。

『悲しいことがないと、幸せは忘れ去られてしまう。
幸せを忘れないためにも、私は悲しみも大事にする!』

そのページのすみに小さく書かれていた言葉である。
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感動の依頼達成から一夜あけて、私は今、泣いている。
今日の朝食準備は私だ。
アイリから借りた卵の絵がついているエプロン・・・もとが白地なせいで地味な気がする。
かわいいけど。
そんなことより玉ねぎが強くてもう辛い、別の具材のお味噌汁にすればよかった!!


「っぐ・・・!っく!切影!!」

玉ねぎが見事に一回でたくさん斬れる。
ふむ、素晴らしい、私の剣技の半分は料理から出来てるからね!
チャーハンのときの動きとか!
その逆もまた然り!剣技が料理に役立つし!

「おお、凄い、またやったね、ティア。
今度アタシにも剣技教えてよ、料理にも使えるならさ!」

「っ!びっくりしたぁ・・・アイリ、見てたんだ・・・」

アイリが後ろから私の料理をみていたらしい。
基本オフの時は気を抜いているとはいえ、オンの時は暗闇の中ウルウルフの接近すら見抜く私の背後をとるとは・・・油断ならない。

「で?今日の予定は?ティア?」

ああ、そうだ。
もう依頼は終わっちゃったんだもんね、あとは報酬待ちか・・・なんだか寂しいな。

「うーん、特にやることもないよね・・・依頼も達成したし・・・」

「そうか、アタシはこれからあんたの剣とユウの杖を作るけど・・・みててもつまらないよね。」

いや、みたい!実際凄い気になる!武器づくり!
でも・・・

「いや、みたいけど、作ってるところをみちゃったら完成品へのわくわくが・・・」

私はプレゼントの中身は聞かない派だ、それに、もらう物は自分であんまり決めたくない派だ。
楽しみ半減しちゃうしね。

「だよねえ!?アタシも見られてるとサプライズ用意側としてちょっとねぇ・・・」

そんな今朝のやり取りから数時間後、私とユウはとりあえず依頼所へと達成報告へと向かっていた。
結局武器づくりは見ないことにした。
アイリからサイン入りの達成証明書ももらったし、報酬のお金も受け取ったし、あとは今後どうするかだ!
それにしても、達成証明書なんてあったんだ・・・知らなかった。

「ねえ、ユウ?
依頼所への報告が済んだらどうする?」

「・・・ん?ああ、そうだな。
タマジローさんとアイリさんからは自由にしててもいいって言われたしなぁ・・・」

「他の依頼、うけてみよっか?簡単そうなの。」

「うーん、それでもいいな。」

依頼には色んな種類がある。
けど、私とユウが簡単にこなせる依頼ってなんだろう・・・討伐?
依頼所についてから考えないとな。

「ティアは、なんか受けてみたい依頼とかあるのか?」

「っえ!?私っ!?」

依頼所についてから考えようとした矢先のユウからの質問、ちょっと焦った。

「・・・うーと、ああ、・・・依頼所についてから考えない?」

思ってたことそのまま言っちゃったね・・・うん。

「それもそうか、どんな依頼があるかわからないもんな・・・」

と、話している間に依頼所が見えてきた。
あの優しい受けつけのお姉さんにオススメを聞きたいかも。
うん、それが確実っぽい!

「どうもー」

「どうもー」

あ、ユウにつられた。

「おおっ!若いの!アイリさんからの依頼はどうだい!?
お姉さんちょっと心配してたのよ!」

出迎えてくれたのは例のお姉さん。
相変わらず綺麗で元気。
私たちのことを『若いの』って呼ぶけど、この人もずいぶん若いと思うの。私。
見たところアイリは24、お姉さんは・・・20
・・・いや、21・・・かな?
ちょっと自信ない。

「んっふっふっふ、聞いて驚くなよ?お姉さん!
依頼は成功だ!タマジローさん!人間に戻ったぜ!!」

「まあ!いきなりブラックランクを潰したかっ!
いやぁ、若いのたちの受付をしたお姉さんも鼻がたかいねー!」

「そうなんです!ユウがめずらしく格好良かったんですよ!?


「おお!やったじゃないか!男の子の若いの!
格好良かったってさ!めずらしく!」

「いや、めずらしくを強調しないでくれよ・・・それよりも結局ティアの世話になっちまったよ、コイツがいなかったら依頼の成功は有り得なかった。」

「・・・ほんと?」

うん、なんか、嬉しいよ、頑張ったもん。

「おい、ティア、タマみたいな顔になってるぞ?」

え!?タマ!?
ああ、ちょっとうるっときてたかも・・・
は、話を逸らそう!

「そ!それよりお姉さん!
私たち!次の依頼を受けようと思うの!
なにか!オススメはありません!?」

「ふうん。オススメ。オススメかぁ、やる気ね?若いの。
お姉さんのオススメは甘く切なく美しいわよ?」

「は、はぁ、そうなんですか?
凄いです。」

「おい、ティア、適当に相づちうつのやめろよ」

ユウが苦笑いを浮かべている。
いや、だって、甘く切なく美しいオススメの依頼って・・・どんなの?

「ふむ、いい!いいわよ若いの、悪くないわっ!!
お姉さんのオススメを受けてみなさい!」

そう言うとお姉さんが一枚の依頼書をもってきた。
うーん、なんか、依頼よりもお姉さんのテンションの方が気になる。

「どれどれ?」

早速ユウが依頼書に視線を落としている。
私も見せてもらおう。

「ユウー、私にもみせてー。
・・・えっ!?なに!?なにこの依頼!
甘く切なく美しい!」

依頼『惚れ薬づくり』!?
すごい!すごいよお姉さん!私!この依頼気になる!!・・・けど、ユウはこういうのって・・・

「ふーん、ふむ。
なるほどねぇ・・・やるか。うん。やってみよう・・・。」

「え!?受けるの!?ユウ!?」

「ううーん!!受けるのね!?若いの!!いいわよ!来なさい!こっちに!
面白いわね若いの!!アイリさんとタマジローさんの依頼もそうだったろうけど、若いうちに色恋沙汰には首を突っ込んでおくことね!
お姉さんとの約束よ?」

す、すごい!!!
ゆ!!ユウが色恋沙汰に興味をもった!!!・・・のかな!?
それにしても・・・なんだろう、さっきのユウの反応・・・
興味をもったというか、気になることがあったような、なにかいいたげな感じだったな。

「ありがとう、お姉さん。
あと、先に言っておく、この依頼なら速攻で片づくよ。」

「そうかい、期待してるよ!若いの!
さっさと惚れ薬!作ってらっしゃい!」

「うん。
ほれ、ティア、行くぞ。」

「え?あぁ、うん・・・」

なんだろう。
なんか、惚れ薬の依頼を見てからユウの様子がちょっと変かも・・・。
てか、、、うん、依頼所でたけど・・・絶対アイリの依頼の完了の手続き忘れてるよね・・・ユウ・・・お姉さん・・・。

「・・・で、ユウ?
すぐに終わるっていってたけど、惚れ薬に心当たりとかあるの?」

「えっ!?・・・あ、あぁ、まあなっ!多分!
いや、しらねーけど絶対!!」

「ああーん?なに?さっきからちょっと変よ?ユウ。
私になにか隠したりしてない?」

「ああ、してるよ。たくさんな。
時効だからいうけど、昔お前の服にこっそり毛虫を乗せたのは俺だ。びっくりしただろ?」

え!?あの毛虫!落ちてきたやつじゃなかったの!?!?

「だっ!ちょっ!信じられない!!
本当に焦ったんだよ!?あれから毛虫嫌いになったんだよ!?
最低だよ!!」

そう、毛虫のエピソードなんていったらあれしかない。
早めに手合わせを切り上げて草原でまったりユウとお昼寝をしていたときのはなし。
ユウが悲鳴を上げて私を指さすから慌てて起きてユウが指差す先、私のお腹の辺りを見たら毛虫が三匹も乗っていた話。
しかもあれ、すっごいカラフルで血の気が引いた。
まさか、ユウが驚いていたのは演技だったなんて・・・許さん・・・!!
っと、話を逸らそうとしたな!ユウ!
てか、ショックを受けてる私をみて笑ってるんじゃないっ!!

「・・・いや!まあいいやその話は、で!?
惚れ薬の心当たりって!?」

「ッチ!
あれだよ!・・・ああ、なんていうか。
昔魔導書でみたんだよ!それっぽいの!それだけだ!」

なぜ舌打ちをした。
しかしあれだけ自信ありげにお姉さんに大見得切っておいて心当たりがそれだけ!?
・・・いや、ユウに限ってそんなはずはない・・・きっと、まだ何か隠しているに違いない。

「っちょ、なんだよ、ティア・・・睨むなよ、恐いって・・・」

「・・・ふん、何年一緒にいると思ってんの?
それで私を騙せているつもりかしら?ユウ!」

「・・・ほら。さり気なく依頼書に依頼主の家までの地図がついてるだろ?
お姉さんに感謝して依頼主に話通しにいくぞ!」

「・・・うわぁ・・・誤魔化すつもりもなしに堂々と逃げたわね・・・」

「お姉さんの地図、すごいんだぜ?
ほら、みろよティア。」

「そんなことより何を隠し・・・っうわあ!?すごい!!何これ!?わかりやっすい!?」

「な?すごいだろ?とにかくわかりやすいんだよ!」

どうみてもフリーハンドじゃこんなの描けっこないじゃない!?
何よこの手書き地図!?あの人は受付嬢型ロボットかなんかなんじゃないの!?

「で、でも、この目的地の星のせいで全部台無しじゃない!可愛らしすぎるよ!」

「いや、それは俺も思ったけど、お姉さんいわくこれがmiracle perfectな地図らしいぞ?」

───それから私が、地図の話題でまんまとユウに話をそらされていたことに気づいたのは、依頼主の家についた頃だった。

「ユウが昔描いてた宝の地図ってさあ・・・」

「まて、その話はやめてくれ。
ほら、ここだ、ついたぞ?」

「またすぐ話を・・・って!ユウ!さっきの話!まだ終わってないよ!」

「ごめんくださーい」

「うわっ!?無視した!?」

ユウが玄関についてる鈴を鳴らした。
この玄関の鈴、風が強いと勝手に鳴っちゃったりしないのかな?大丈夫なのかな?

「はーい、どちらさま?」

普通の主婦が現れた!

「突然すみません。
俺達、旅の人です、今回あなた様のお家の方が依頼所に依頼を出していたようなので、依頼を受けようと伺いました。
お心当たりはございませんか?」

なに?ユウ、めずらしく礼儀正しい!?
アイリとタマジローさんの時はすぐタメ口だったのに・・・
単にアイリとタマジローさんがフレンドリーだったから打ち解けやすかっただけかな?
緊張してるんだね。

「依頼・・・?
ちょっと私は・・・あ、少々お待ちくださいね?」

そう言うと主婦さんは家の中へと戻っていった。
家の奥から声が聞こえる。

「コウター、旅の人がお見えになってるけど、依頼を出したのはあなた?」

「なんだよー、今それどころ・・・え!?ほんと!?母ちゃん!?
俺だ!その依頼したの俺だよ!」

「わかったから早くなさい!待たせたら悪いでしょ!?」

ドタドタと足音が響く。
うらやましいなあ、こういうやりとり。
私、お母さんいないし。

「はい!ごめんなさい!
俺!コウタっていいます!よろしくお願いします!」

「はい、よろしくお願いします。
お兄さんはユウ、こっちのお姉さんはティアだ。
今回、惚れ薬を作ってくれとの依頼をくれたのは君かい?
なんか、報酬のとこが面白いことになってるけど。」

え?面白いこと?
そう言えば報酬みてなかった、どれどれ?

「なっ、なんと!?
『お小遣い三ヶ月分で買えるもの、なんでも。』!?」

「はい、なんでも。
とにかく依頼の品が欲しいんです!お願いします!」

「まあ、話はわかったけど・・・どうして惚れ薬なんて、けったいなもんを・・・」

「そ、それは・・・」

「そんなの決まってるじゃないの、ユウ。
あんまり野暮ったい質問をするものじゃないわ。」

「そんなことはわかってるよ。
わかった上でどうしてそんな物が欲しいのかを、俺は聞いている。」

「・・・?」

「お!幼なじみのリーデルが!!その!
さ、最近気になる男の子がいるって・・・
それで・・・」

「それで?」

「これで、理由には、ならないんですか・・・?」

なんか、ユウが聞きたいのはそこじゃないらしい。
つまり、あれだ。
どうしてそんなものを使うのかがききたいんだね、きっと。
まあ、伝わってないみたいだけど。

「うーん、、、そっか、いいや、わりいな、なんでもない。
惚れ薬は作るのは簡単だ、明日の昼下がりにでも、街の広場で落ち合いましょう。
そこで依頼の品をわたすよ。」

「「えっ!?」」

「ほんとですか!?明日!?」

「ちょっ!ユウ!?いくらなんでも無理じゃないの!?
そんなにすぐに惚れ薬なんて作れるの!?」

タマジローさんを元に戻すのにどれだけユウとタマジローさんが苦労していたのかを私は知っている。
おそらく惚れ薬も魔法の元になるものだろう、それならそんなに早く出来上がるなんて私には信じられない。

「できるよ。
まあ、万が一出来上がらなくてもその時報告する。
それでいいだろ?」

「は・・・はい、待ってます・・・」

そらみなさい!
目の前の10とちょっとくらいの少年が困惑してるじゃないの!
ユウの魔法を知ってる私でも信じられないんだから当然よね。
でも、依頼をうけたときもそうだったけど、今回のユウの自信はどこからくるものなのかな・・・
これは、裏がある。


コウタ君のお母さんとの挨拶もそこそこに、私とユウはその場を後にした。

帰り道ユウはいくつかのお店で変な色の薬とか、花とかキノコとかいろいろ買っていた。
私にはそれが何なのかは全くわからないけど、何一つ迷うことなく作業的に買い物を進めるユウには違和感を覚えた。
だって、昔にすこし目を通したぐらいの魔法でしょ?
そんなに覚えてるのって変じゃない!?

「なにさっきから難しい顔してんだよ、ほれ、ついたぞ?」

「えっ!?ああ、うん。」

ガキーン!ガキーン!って音がする。
音の方を見るとシャッターの開いた工房の奥でアイリが何かをすごい勢いで叩き潰している。
もちろん、私にはそれが何なのかは全くわからない。

「ただいまー!」

「アイリさん、戻ったよ。」

「おう!お帰りなさい!どこ行ってたの?」

「新しい依頼だよ!
依頼所のお姉さんのオススメ!」

「ほう!受付ちゃんのオススメ!?
どれどれ?どんな内容なんだい?」

ユウがアイリに依頼書のコピーを見せている。
アイリの顔が驚いた様子へと変わっていく。
でも、多分その驚きってさ・・・

「はぁ!?惚れ薬!?
よくユウがそんな依頼を受けようと思ったね!?
なんかユウってそういうの興味なさそうだったじゃない!?意外だよ!!」

ほらね?普通に依頼の内容よりそこにおどろくよね?

「そうなんだよアイリ!
しかもさ、ユウったら依頼書見た瞬間二つ返事で依頼を受けたんだよ!?」

「っは~、なるほど、そうか。
ティア?ユウから食べ物もらったり飲み物もらったり、あんたが寝てる時とかは充分気をつけなよ?
『盛られる』かもよ?」

「っなわけねーだろアイリさん!!やめてくれよ!!」

「あっはっは!ごめん冗談だよ、怒るなって!それより、きっとタマジローに用があるんでしょ?その依頼の内容だとさ。
タマジローなら部屋にいるよ、いっといで。」

「ああ、ありがとう、行ってみる。」

そういうとユウは家の中へと消えていった。
なんか、あんなに否定されるとすこしショックかも・・・
いや、うん、気持ちはわからんでもないけどさ。

「はぁー、それにしてもあんな依頼。
依頼人の顔がみてみたいね、どんな顔だったんだい?
きっと金持ちの豚ちゃんだったりするんじゃないの?」

「さ、さすがにそれは偏見だよ・・・アイリ。」

苦笑いが出てしまった。
まあ、私も初めはそんなの想像してたから人のことはいえない。
普通の主婦さんが出てきたときはびっくりしたもん。

「意外にも10歳ちょっとぐらいのかわいい男の子だったよ、なんでも、幼なじみのリーデルちゃんに最近気になる男の子が出来たんだって。
それで焦って依頼を出したらしいんだけどさ・・・」

「え?なにそれ!かわいい!
だってさ、それって・・・」

「うん・・・そうだよね、絶対・・・」

「「きゃああああ」」

思わずハイタッチをしてしまった。
だってさ!男の子って鈍いっていうか!ユウも全くそんな発想なかったと思うけど、そのリーデルちゃんの気になる男の子って十中八九コウタ君のことじゃない!?
普通に考えて!!
アイリならわかってくれるだろうと思っていたらこの結果!
ハイタッチが出ない方がおかしいよね!!

「ほんとに男ってのはさぁ、タマジローもね、実は・・・」

「え!?なになに!?タマジローさんもそんなことが!?」

「よし、すこし武器づくりは休憩だ。
聞いてよティアー、タマジローが獣になる前にさあ・・・」

ガールズトークに花が咲き、気がつけば外は夕方になっていた。
そのことに気づいて慌ててアイリはシャワーを浴びに行き、夕飯の準備をはじめる。
女の子は大変なのだ。

「ユウ~、ご飯よー。」

「ん?おお、そうか。」

アイリが夕食を作り終える頃、私はユウを呼びにいく。
惚れ薬をつくっていたのだからおそらくなかなか出てこないのではないかと思っていたが、意外にもユウはすぐに出てきた。
テキトーな話しをしながら私とユウはリビングへと向かう。

「惚れ薬、どう?」

「ん?ああ、できたよ。」

「ええ!?うそ!?もう!?」

なんと!?まだ私とユウが帰ってきてから数時間しか経ってないのに!?
てっきり今夜もユウは遅くまで薬作りに励むと思ってた!

「み!みせてね!?ご飯!食べたら見せてよね!?ユウ!!」

「ん、おお、いいけど、完成品みて面白いのか?」

いや、面白くはなさそうだけど惚れ薬とやらが私はみてみたい。
リビングにつくとアイリとタマジローさんがいちゃいちゃしていた。
・・・ちょっとうらやましい・・・かも。

「あっ、ほらー、タマジロー。
ユウとティアが見てるじゃないのよんっ、あとあと!」

「くそっ、いいところだったのになあ?アイリ!」

「なんだよ。タマジローさん。
まだ全然獣じゃねえか。」

冷ややかなユウの突っ込み。
あぶない、ちょっと吹き出しそうだった。

「男はいつでもワイルドじゃねえとな。
ところでユウ?薬の研究はどうだ?」

「惚れ薬な。
もう出来たぜ。」

「はぁん!?てめっ!やれば出来る子か!?
俺を元に戻すときは本気じゃなかったんじゃねえのか!?早すぎるだろうよ!!」

やっぱり、タマジローさんからみても今回のユウの仕事は早すぎるらしい。
私がタマジローさんの立場なら、きっと同じ感想だ。

食事中、ユウはひたすらタマジローさんに質問責めをされていた。
その質問にぶつくさと適当に、しかし時折言葉を選ぶように考えつつ、ユウは答え続けていた。
その言葉を選んでいたときのユウの様子・・・さっきも見たような気がする・・・

食事が終わった後、私とタマジローさんはユウに例の薬を見せてもらおうとタマジローさんの部屋へと向かった。
アイリは後片付け中だ。

「ほら、これ。
厳密に言うとまだ完成はしてねえけどな。」

「ん??これが?惚れ薬なの?ユウ」

見た目はなんと無色透明。
普通の水である。いや、惚れ薬なんだろうけどさ。

「ほぉう、これが。
まあ、俺とアイリには無縁だな。
しかし、あれだろ?未完成ってのは、おそらく惚れさせる側の情報が必要なんだろ?仕上げに。」

「さすがだな、タマジローさん!
そう、最後にコイツに依頼者の髪の毛を溶かせば完成だ!
っても、髪の毛溶かしたところで見た目も変わりゃあしないけどな。
作ってる時、俺の髪の毛が入らないようにずいぶん気をつかったよ。」

髪の毛がない人は・・・どうするんだろう・・・?

「なんだよ、ティア、また考え事か?」

「えっ!?いや、なんでもないよ!
ただ、飲まされた人はどうなっちゃうのかな?なんて!」

あ!焦ってなんか全然考えてもいなかったこときいちゃった!
まぁ、うん、飲まされた人がどうなるのかも気になるから別にいいんだけど。

「・・・」

「?・・・ユウ?」

「飲まされた人か・・・なぁ、タマジローさん?」

「あ?なんだよ、ユウ?」

なんだろう、ユウが真面目な話をしようとしている。
こんなユウはわりとめずらしい・・・気がする。

「もし、もしもだけど。
もし仮に、アイリさんがある日突然タマジローさんのことを嫌いになったとして、タマジローさんがどんなに頑張っても一向にアイリさんが相手にしてくれなかったとしてだ。
・・・そこに、髪の毛を溶かして飲ませるだけでアイリさんを自分の思うがままに出来る薬があったとしたら・・・どうする?」

は!?
なに!?ユウはいきなりなにを言い出してるの!?
人一倍色恋沙汰には興味ないんじゃなかったの!!?
やっぱり今日のユウは変だよ!!

「はあ?・・・なんだよ、そんなこと聞いて、どうするつもりだ?


「そうだよ!ユウ、なんか、変だよ?」

「そうか?・・・まあ、確かに、変と言えば変なのかもな・・・でも、タマジローさんの意見を俺は聞きたい。
アイリさんと幸せそうにしているからこそ、あえて知りたいんだ。
タマジローさんの惚れ薬に対する意見をさ!!」

「ふむ・・・まあ、強いて言うなら・・・」

あ、タマジローさん、ちゃんと答えてくれるんだ!!
私もちょっと聞きたい!


「そんなもん!叩き割ってポイだな!!
アイリもきっと、いや!絶対に俺と同じ考えだ!!」

「「・・・!!」」

「理由は・・・まあ、あれだ。
お前らだってさ、一応長く一緒に居るわけだろ?
俺とアイリの関係とはベクトルは違うだろうけどよ。
それなら、あえて聞かなくてもわかるはずだ。」

・・・あれ?
やばい、私が考えてた展開と真逆かも・・・!!
どうして!?タマジローさん!そこにある惚れ薬を飲ませるだけで、またアイリと幸せになれるんだよ!?
飲ませない理由なんてあるの!?
それと、ユウは・・・どう思ってるのかな・・・

「・・・っふふ、あははは!
そっか!やっぱりな!タマジローさんの答え聞いて安心したよ!!
そうだよな!たぶん、俺と同じ事思ったよな!?」

「へっ・・・芋野郎が!
俺とアイリの関係なめんじゃねえよ!」

「・・・?・・・!?」

わからない・・・私には・・・わからない!!
寝る前にアイリにも聞いてみよう!そうしよう!
これでアイリも同じ答だったら・・・うん、ヒントだけもらおうっと・・・

「ねーえー、たーまー。
私わからないよー、どうして惚れ薬なんてすごいものがあるのにあえて幸せをすてるのー?」

私をまっすぐ見つめる小さな目。
相変わらずウルウルしちゃってかわいいなぁ。
でもかわいいかわいいこの眼差しは私の疑問を解いてはくれないんだよなぁ・・・何やってんだろ、自分。

「ティア、お風呂あいたよ、はいっといで」

バスタオルで頭をわしわししながらアイリがリビングに入ってきた。
それにしてもアイリって・・・髪おろすと幼いなあ・・・お姉さん要素抜けきって逆に妹みたいだよ。
タマジローさんは実はロリロリしい人がすきなのかな?
でもアイリ、背たかいしなぁ・・・いいよなぁ、ユウより高いんだもんなぁ・・・私なんてユウより10センチぐらい低いのに。

「・・・え?なにそれ、ティア、敬礼?
了解ってこと?」

「っえ!?いやっ!・・・うん!そう!!そうだよ!」

「はははっ、もー、あんたはほんと面白いね。」

恥ずかしい、身長のことを考えていたせいか自分の頭の上に手を置いていた、あー、身長ほしい。
ていうか、ユウも男の子にしてはちんまりだ、タマジローさんなんて人間になったとたん180センチくらいあるんだもん、ユウが子供みたいだったよね、並ぶと。

「・・・ティア、敬礼はわかったから、早くお風呂はいらないとぬるくなっちゃうよ?」

あっ、また。

「は、はい!いってきます!!
タマ!おいで!一緒にお風呂!」

「あっ、まって!ティア!タマは置いていって!!
タマジローもユウもまた魔法の研究はじめちゃったし、寂しいじゃないの!」

「だーめ!タマもキレイキレイしないと獣くさくなっちゃうでしょ?」

「あぁ・・・タマぁ・・・」

タマは大人しい。
暴れない、せいぜいぶるぶるするくらいだ。
何でふるえるのかは知らないけど、単に緊張しているだけかな、一応私、タマの目の前で群のボスやっつけてるし、もしかしたらタマは私に敬意を示しているのかもしれない。
人間も敬意を示すときは敬礼してぴっ!って真っ直ぐ立つし、その要領でタマもぴっ!ってして、筋肉に力が入りすぎてプルプルブルブルするのかもしれない。
うん、そうに違いない。

「緊張しなくてもいいんだよー?タマー?」

「・・・」

やっぱり、まっすぐな瞳は何も語らない。
でも、どことなく誇らしげなのは何でなんだろう?
敬礼ぴっ!説は正しいのかもしれない。
うん、そうに違いない。

───お風呂でタマを洗ったら驚くほどにげっそりした。
驚くほどにげっそりしたものだから、私は驚いた、今度アイリにも見せてあげたい、げっそりタマ。
お風呂でのお土産話を頭に、ちょっと湿ったタマを両手に、私はリビングへと戻った。

「あ、おかえりー、タマかえしてよ、ティア・・・」

「タマは誰の物でもありません!ただいま。」

ソファーでアイリがぐでーっとしてる。
タマジローさんがせっかくもとに戻ったのに、相手にしてくれなくて寂しいのかな。

「ティアー、タマジローが冷たいよー、ユウばっかりかまってさぁ・・・」

予想が当たった。

「ごめんねー、ユウがホモなせいでタマジローさんが・・・」

「許さん、あの浮気者!
アタシのこのナイスなバディーよりもユウのグッドなダディーのがいいってのかしら!?」

「ごめんねー。」

何をいっているのかわからない。
とりあえず謝っておいた。
あ、そういえば・・・!

「ねぇ、アイリー?」

「何?クールなレディー?」

「ごめんねー。
それよりさ、今回ユウが作ってる薬についてなんだけど・・・」

「ああ、依頼の惚れ薬ってやつかい?
タマジローが飲まされてなければいいけど。」

お、この流れ、聞ける!!

「そうだねー、仮にさ、タマジローさんが、ユウに惚れちゃって、アイリのこと見向きもしなくなっちゃったらさ───

「あっはっは、ないない、悪いけどタマジローはノーマルだよ、ユウはホモかもしれないけど。」

あ、失敗。
作戦変更だ!

「じゃあ、ユウじゃなくてもいいや。
もしタマジローさんがナイスなバディーのクールなレディーにグッドなダディーしちゃったらさ、アイリはどうするの?」

なんか、テキトーに聞いちゃったけど、伝わるよね・・・たぶん。

「殴るに決まってるじゃない。アタシは浮気なんて許さない。」

伝わってた。びっくり。
でも、そうじゃなくて・・・

「で、でも、それで、タマジローさんが、アイリのこと見向きもしなくなっちゃったとしたら?」

「・・・?
まあ、そんときはそん時だ。考えるよ。」

ふむ、なるほど、攻めよう。

「そ!そこにさ!そんなときにさ!もし、miracle perfectな惚れ薬がさ、あったら・・・アイリ、使う・・・?」

これ聞くだけなのにずいぶん遠回りした。

「あー、なるほど。その手があったね。
でも、アタシはいいかな、そういうのは。」

「・・・っ!?」

「なに驚いてんのさ、当然でしょ?」

「・・・」

「っ、あーらら、ティア、アンタまた・・・ブーメランの時も思ったけどアンタは難しく考えるからね・・・
それに頭もいい。頭がいいけど、そのせいで単純なことに気づかないよねー」

からからとアイリが笑っている。
ほめられた・・・のかな?
しかしアイリも惚れ薬は使わない派かぁ・・・

「わからないって顔してるね、ティア。
どうせアンタのことだ、惚れ薬を使ったら幸せになれるって考えで頭が決まっちゃってるんでしょ?」

「!?」

「図ー星っ。
アタシの勘も捨てたもんじゃないねぇ。」

「・・・」

頷いてしまった。

「あっははははは!ダメダメ!ティア!やりなおーし!あははは!」

「なっ!なんで!?
好きな人に惚れ薬を飲ませたらアイリとタマジローさんみたいに幸せになれるんじゃないの!?違うの!?」

「ふふっ、まだまだだねぇ、ティア。
ユウと長くいたみたいだからとっくにそんなこと気づいてると思ってたけど、
かえってユウと長くいたせいで気づけないのかもね。」

「・・・?・・・?」

「また難しく考えるー、それじゃあ、あえて言わせてもらおうかな?

アタシとタマジローの関係なめんじゃないよ!」

「・・・!」

すごい・・・ちょっと感動した。
わからないけど、なんとなくわかった気がする。
きっと、アイリとタマジローさんの関係は、惚れ薬じゃ作れない、これは間違いない。
でも、それがどうしてなのか、よくわからない・・・

「ま、『ヒント』にはなったかな?
お茶いれるよ、何が飲みたい?」

「・・・コ、ココア・・・」

「はいはい、待ってな。
ココアが入るまで、少し頭冷やしなさい。」

髪を下ろした幼いアイリが

すごく大人びて見えた

私とアイリがまったりとガールズトークを再開していたときだ。
部屋に二つの足音が迫る。

「・・・あ」

「ん?どした?ティ───

次の瞬間にはリビングのドアが開け放たれていた。
うん、タマジローさんとユウか。
ユウはタマサブローを抱いている。
タマジローさんは両手に瓶詰めの薬品を一本ずつもっている。
どうしたのかな?

「アイリー!見てくれ!ユウとの研究の結果!『すごい惚れ薬』が完成したぞお!さあ!飲め!」

「ああ、ユウ、ごめんね、言いにいくの忘れてた、お風呂あいたみたいよ?」

あ、私も言いにいくのわすれてた。
あ!それと

「そうそう、ユウ?
タマサブローもお風呂に入れてもらっていいかな?
タマは私が入れておいたよ」

「ん!了解だ、アイリさん、お風呂いただくぜ。」

「はいよ。」

「・・・おい、みんな、なぜ俺を無視する・・・」

ユウはパタパタとタマサブローをつれてお風呂へと向かった。
取り残されたタマジローさんはひたすら薬と私たちを交互にみている。
・・・すごい惚れ薬って・・・なんだろう。

「で、タマジローさん?すごい惚れ薬って・・・?」

「おお!ティア!お前は俺を見捨てないでくれるんだな!?
アイリ!やり直し!」

「うるさいよ、タマジロー。
そもそも、なんでアタシがそんな得体の知れないもんのまにゃあかん!」

「得体がしれなくなんかねえ!
この薬はなあ!人間同士だけじゃなくて!人間と獣の種族を超えた愛を───

「ぬわぁぁぁあああ!
ティア!ティアああああ!!」

「「あ、忘れてた。」」

お風呂場からユウの断末魔がきこえる。
惚れ薬なんかなくても、タマサブローはユウのことを掘るんだね!
・・・じゃなくて

「た!タマジローさん!ユウを助けてあげて!!」

さすがに全裸で獣に掘られるユウを見に行く勇気はない、アイリもきっと

「なにやってんのさタマジロー!
薬なんていいから早くユウを!!」

そんな勇気ないよねー。

「え!?ああ!!?
なに!?ユウ!!どうした!?ユウーーー!!!」

タマジローさんがテーブルに薬を置いてお風呂場へと向かった。
お風呂場から声が聞こえてくる。

「うわあっ!!?タマサブロー!!てめえ仮にも元俺の姿のクセになにやってやがる!!」

「だっ!ダマジローざっ!!はっ!うぐっ!早く!うっうっ」

「ぬおお?!てめっ!ほら!やめっ!
うるおおおおあああっ!人間なめんな!!」

「ニャイン!!?」

「・・・」

「・・・」

「ほら、ユウ、風邪引くぜ?
お前はもうさっさと身体だけ洗って出やがれ、あとは俺に任せろ・・・」

「うん、ありがど、ダマジローざ・・・」

ふむ、やだタマジローさん、男前!
無事に解決したみたいね。

しばらくすると、寝間着姿のユウが死にそうな顔でリビングの入り口に現れた。
やっぱりなんかいたたまれないなぁ。

「ティア、アイリさん、ごめん、俺、ねる。
お休みなさい。」

「・・・う、うん、お、お大事にね・・・
た、タマジローには伝えておくよ。」

「ユウ・・・自殺はダメよ?」

「うん、おやずみなざ・・・うっく。」

私は寝るとき、ぬいぐるみや抱き枕があると落ち着くけど、ユウはダメね、
きっとそれらに襲われる夢をみるんだろうなぁ。可哀想に。

さらにしばらくすると、タマサブローをがっしりと抱えたタマジローさんがリビングの入り口に現れた。

「こいつ、油断ならねぇ。
背中を見せたら襲おうとしやがる、おかげで三回も返り討ちにしちまったぜ。」

「は!?なに!?タマジロー!アンタタマサブローのこと掘ったわけ!?」

「はぁん!?ちげえよ!!何勘違いしてやがるこのやろー!
誰が獣に突っ込んで喜ぶってんだよ!?
・・・まぁ、とにかく疲れた。
ユウは?」

「ああ、ユウならもう寝ましたよ?
タマジローさんの部屋だと思います。」

「ふむ、そうかい、今日はもう研究も終わりか。
それなら俺は寝室で寝る。
お休み。」

寝室・・・?
ああ、アイリもタマジローさんも自分の部屋とは別に寝室を持ってるのか。

「え?タマジロー!寝室で寝るの!?
まってー、アタシもねるー」

「ははっ、おいおい、勘弁してくれよアイリ、ティアが見てるぜ?」

「ごめんね?ティア、アタシは今日はタマジローと寝室で寝るよ。
お休み!!」

「え!?・・・ああ、うん、お休みなさい・・・」

アイリがタマジローさんの腕に絡みついて、2人で廊下の奥へと消えてしまった。
まあ、実際私もタマジローさんにはもっとアイリとの時間を大事にして欲しいと思っていたし、止める理由もない・・・

「さあ、私も寝るか!」

・・・あれ?そういえば・・・机の上・・・
うわぁ、惚れ薬・・・置きっぱなし・・・しかも、二本!!
さらに!一本はすごい惚れ薬!!!

えっと、そう、惚れ薬!って・・・

「えっ、ちょっとまって?」

うん?まて!
落ち着け!落ち着いて考えろ!私!
おそらくまだどちらの惚れ薬も髪の毛は入っていない新品・・・!!
そっ!それで、今日は・・・なんだ、その、みんなが別々に寝ている・・・わけだ!

「タ・・・タマー?いるー?」

声をかけると小さな獣が私の足に寄ってきた。

「ねえ、タマ?もし、もしもだよ?
私がいまから惚れ薬に髪の毛を溶かして・・・誰かに・・・そう、アイリとタマジローさん以外の誰かに!!
た!例えば!例えばだよ!!?
ユウとか・・・そう!し、仕方なく!ユウ・・・に、さ、のまっ・・・のま・・・

きゃあああああああ!!!

何考えてるんだ私!!
落ち着け!おちつけばわかるんだそんなことしなくてもほれぐすりのしんかなんてわたしにはわかるんだむりにそんなことをするひつようはないないんだおちつけてぃあああ!!

・・・っふ・・・

・・・で、でもさ、タマ・・・
私の疑問はきっと、今・・・
ユウに惚れ薬を飲ませてみたら解けるんじゃないかと思うの、ねえ、そうでしょう?」

「・・・」

タマは、ウルウルしながらプルプルするだけだ・・・。

「・・・はぁ~、ごめんね、タマ。
そうだよね?タマには・・・わからないよね。
私にも・・・わからないよ・・・。」

寝よう。
変な気が起きない内に、自分を無意識の底へと沈めよう。

「タマー?電気切るよー?おやすみ。」




寝れるか、こんな状況で。


月明かりがリビングへと少し入ってきた。
その光へ向かって手をかざしてみる。

───あの夜を、思い出す───


「・・・私は、幸せになれるのかな・・・」


寝不足だ。
その上このぽかぽか陽気だ、眠たい。
昼下がりの街の広場、ベンチの上、ユウと2人で依頼主を待つ。

「ふわぁー、うふ、むぐむぐ。」

「なんだよティア、朝から眠そうだな。
ちゃんと寝たのか?」

「ええ、ちゃんと寝れませんでしたよ。
誰かさんのおかげでね。」

結局答えも出なかったし、眠いし、もうだめだぁ。
気を紛らわすために適当に話すかな。

「ねえ、ユウ?
昨日なんでタマジローさんにあんなこと聞いたの?
それに、何かに納得したみたいだったけど・・・そう、ユウもタマジローさんと同じこと思ったって・・・」

「・・・まぁ、あれだ。
惚れ薬は良くないよなって話だ。
深く考えるなよ。」

あ、逃げられちゃった。
顔までそむけられちゃった。
どうもユウはあまり私と惚れ薬の話をしたがらない、なにか理由がありそうだ。

「あ、ほら、来たぜ。」

「?」

ユウの指差す先、広場の端。
キョロキョロと周りを見渡しながら、依頼主の少年が現れる。
少年は私たちに気づくと手を振ってきた。

「なに嬉しそうに手ぇ振ってんだよ、ティア。」

「え?」

どうやら私が原因だったようだ。
寝不足でうまく頭が回っていないらしい。
それでも、私が手を振ったから彼もこちらに気づいたわけだ。結果オーライ!

「はぁ、はぁ、ごめんなさい、遅くなりました・・・えほっ」

「いや、構わない。
時間は指定しなかったし。」

「お疲れさま~。」

走ってきたらしい、汗だくだ。

「・・・ふう、く、薬の方は、どうですか?」

「ふむ、そうですね、依頼の件に移りましょう。」

ん?丁寧語?
ユウが少年に?なぜ?
ユウが丁寧語をつかうなんて、気を使っているか、皮肉かのどちらかだ。

「結論から申しますと依頼の薬は無事に完成します、あとは、あなたの髪の毛をこの薬に溶かせば完成です。」

「ほ!本当ですか?!」

「ええ、ただ一つ、注意点があります。
これから私の言うことについて、一度よく考えてからご使用ください。
そこから先は自己責任、私たちはでは一切責任を取りかねます。」

緊張してるなぁ、少年!
それよりも注意点ってなにかな?
昨日はそんな話あったっけ?
黙って聞いててみるか。

「この薬の使用の注意点、それは・・・
使用した段階で、相手はあなたの虜になります。
そして、効果は

『それだけだ』

ということ。
このことを忘れないでください。

以上、依頼はこれにて完了ですね。
こちらの書類にサインを。」

「えっ!?
・・・は、はい、さ、サインですね・・・?」

「えっ!!?ちょっと!ユウ!なによそれ!?
何に注意しろって言うの!?」

少年がサインをしちゃった!
え?これで終わりなの!?
なんか変だよ!ユウが変だ!!

「ありがとうございます。
はい。確かに薬は渡しました。
それでは、ごきげんよう。
ほれ、行くぞ。ティア。」

「はっ!?ちょっ!ユウ!?」

あ、歩き出して、そんな!
少年がきょとんとしてるじゃないの!?
そのままユウは広場の外へと出て行ってしまった。

わけがわからない。

「ユウ!どこへ行くのよ!?」

し、仕方ない!追いかけるか!
ごめんね、コウタ君!頑張るんだぞ!

「それじゃあ!コウタ君!
必ずリーデルちゃんを幸せにするんだよ!
あと、あと!ユウの言ってた注意?をよくよく考えてね!
私も考えるから!じゃあね!!元気で!!

ユウ!!まちなさい!!」

「ほーらつかまえた!全く!
何やってんよ!」

ユウのローブの端っこをつまんだ。

「きゃーたすけてーおそわれるー」

「ふざけない!
ちゃんと説明しなさい!コウタ君可哀想だったじゃないの!
混乱してたわよ!?」

「ちゃんと薬も渡したし、注意もしただろ?
何がいけなかったんだよ?」

「それだけなのがいけないの!
私でも理解に苦しむのに、彼に解るわけないじゃないのよ!
なにがしたかったの!?
あと、大した問題じゃないけど、報酬もらい忘れてない!?」

「あ、ほんと。
報酬忘れてたな!」

笑い事じゃない!
いや、報酬については別にかまわないけど、問題はソコと違うって!

「それよりも注意!あれ!何だったのよ?!」

「あんまり大声あげんなよ。
ほら、おばちゃんが笑ってるだろ?
痴話喧嘩と勘違いされてるよ。たぶん。」

「ぐぬぬ、ひらりひらりと小癪なぁ・・・!
とにかく質問に答えて!」


「あーもう、あれだよ。
ちゃんとああいう風に説明しないと、勘違いされて後々クレーム入れられても面倒だろ?」

「勘違い?」

「ほら、惚れ薬なんだから、飲ませたら幸せが約束されるとか勘違いするかもしれないだろ?」

なによ・・・アイリみたいなこと言って・・・
ユウは、アイリが言いたかったことがわかっているのかな?
それに・・・

「でも、それだけならなんであんな去り方したの?
別に急いで別れる必要なんてなかったじゃないの。」

「それは・・・
あれだ!単に自分で考えて欲しかったからさ、薬の効果・・・いや、副作用についてさ。
だからあれこれ質問される前に逃げたわけだ。
皮肉っぽい丁寧語もわざと引っ掛かるように印象づけるためにやったんだ。」

「副作用なんてあるっていってたっけ?」

「それは・・・考え方次第だな、人によっては、それを副作用とは思わないかもしれない。
さらには、それに気づきすらしないかもしれない。」

「・・・?」

なんか、ユウがそれっぽいことを言っている。
なにが言いたいの?

「というよりも、そんなことを気にしているのは自分だけだったのかもしれない。
そういう不安があったから依頼も受けてみたし、タマジローさんにも聞いてみたんだ。

もういいだろ?ほら、依頼所がみえてきた。」

全部・・・話してくれたのかな・・・

それにしても、さっきの言い方・・・
なんだろう、ユウはこの依頼の話が出てくるよりももっと前からそういうことを考えていたような・・・
今回の依頼とタマジローさんへの質問が、ユウの不安に対する答え合わせであったような・・・不自然な言い回しだったな・・・