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「おーしおしおし、今夜はカレーだぞ!喜べ!兄弟!」

工房から全員リビングへと戻り、2人と2匹はユウの食事の準備を待つ。
撫でているつもりなのだろうか、タマジローは仔ウルウルフの頭にぽふぽふと肉球を押しつけている、仔ウルウルフはただただ瞳をウルウルさせるのみで、鳴くわけでも、泣くわけでもなく、黙ってタマジローにぽふぽふされている。
その様子をニコニコしながら眺めるティアと、食卓の上に取ってきたお使いの品々を並べて図鑑と見比べるアイリ。
各々がまったりとした時間を過ごす。

「まて、まてまて、ソイツはタマジローさんとは違うんだ、カレーなんか食べさせちゃダメだろ、きっと死ぬぜ?
それよりみんな、カレー温まったぞ!炊き忘れてたおかげでご飯も炊きたてだ!さっそく美味しく食べるとよろし。」

鍋つかみとニワトリエプロンを装備した料理の鉄人が、カレーでいっぱいの鍋を武器にリビングに攻め入ってきた。
悲願のカレーを奪わんと、元気いっぱいタマジローは応戦する。

「キター!!!カレーだぞ!アイリ!!ティア!!あれはカレーなんだぞ!!アイリィ!!ティアァ!!」

「うるさいよ、タマジロー、暴れるんじゃない!それにしてもすごいじゃない!本当にこれ、ユウとタマジローが作ったの?」

「おおう!そうだろう!?すごいだろう!?名づけて!『全米が黄金!ゴッドタマジローカ───

「おいおい、何勝手に名づけようとしてやがる。名前は『初めて触れた肉球・・・屈辱の野生カレー』だ。今決めた。異論は認めねえ。」

「・・・」

「わあ!初めての肉球が屈辱ゴッドの全米野生カレー美味しそう!!」

「・・・」

「名前なんてどうでも良いって事ね、さすがティア、綺麗にまとめたじゃない!」

「あれ?ちょっとまてよ、ユウ。何でこれ、光ってねえんだ?」

「・・・うん、俺もびっくりした。温めようとしたら普通のカレーなんだもん、うまそうで腰抜かしそうになったよ。」

ユウとタマジローが食卓にのせられた鍋の中を覗く。
そこには少し黄色が強い以外は特に変わったところもない、極々普通のカレーが入っている。
首を傾げて顔を見合わす1人と1匹をみてティアとアイリは当然不思議がる。

「なにさ、2人して変なにらめっこして、このカレーがどうかしたのかい?」

「え?タマジローさん?今『光ってない』って言いませんでした?」

「ああ、そうだ。出来立ての時は異常なほどに輝いてたんだよな、このカレー。黄金色に。」

「黄金色!!?」

「ちょっと、なんでカレーが光るのさ!?待って!料理ノートとってくる!」

「いや、待ってくれ、アイリさん!多分知らない方がいい!光るカレーなんて、実際にみるもんじゃねえ!」

「え!?なんで!?スッゴい美味しそうじゃない!光るカレーなんてさ!」

「そ!そうだよ!ユウ!光るカレーみせてよ!」

「ナナヒカリニジイロハッコウタケは、美味そうなキノコだったかい?それに、実際にはうまいんだったっけ?」

「「・・・」」

「そ、そうそう、タマジローさんの言うとおり!食べ物は光っちゃいけません!さぁ、冷める前に早く食べてくれよ!味もかなりおいしいんだぜ!?」

少々強引にユウとタマジローは話を終わらせる。
納得がいかなそうな表情をみせるティアとアイリにタマジローは「それに、いちいち光るカレーなんて見たら、おかわりする頃にはアイリも怒るだろ?『いちいち光らないでよ!』ってなかんじで。」と付け足す。
その言葉にティアは吹き出し、アイリがうつむいた、ユウは安心してカレーを皿に盛る。
満足気な様子でユウは綺麗に盛られたカレーを全員の前に置き、自信満々な声で勧める。
ユウは味見もしている、自信はタマジロー以上にあるのは当然で、ユウの様子を見るだけで、自然とタマジローも胸を張れた。
「俺はコイツのエサを用意する!」とだけ言い残し、ユウは仔ウルウルフの餌を用意しにリビングを離れる。
タマジローはユウの代わりにティアとアイリの反応をしっかりと目に焼き付けようと、ユウに代わって2人にカレーを勧める。

「ユウがああ言ってる!作って味見もしてたから間違いねぇぜ?さあ!食うがいい!」

「「いただきまーす!!」」

ティアとアイリもお腹がすいていたのであろう、いただきますと言い終わるが先か、美しい山に銀のスコップを突き立てるが先か、恐ろしい速さでカレーを頬張る。
この時が、タマジローの幸せのピークであった。

「・・・むがっ!!」

「ふむぅっ!!?」

「ああ!?どうした!?アイリ!?ティア!!?」

「「もぐ・・・も・・・ごくり」」

早送り再生から突然のスローモーション。
タマジローは慌ててユウを呼ぶ。

「ユウ!!ユーーーウ!!」

「どうした!!?タマジローさん!!?・・・なっ!!?」

ユウが仔ウルウルフのドッグフードを持ってリビングへ駆けつけると、食卓にはうつむいてプルプル震えるポニーテールとカッと見開いた目でカレーを指差す太陽光頭。
オロオロする獣。
ユウは心底青ざめる、ユウがここまで焦ったのはティアのリュックボールを見たとき以来であろうか、本人でもわからないくらいに頭が白くなった。

「一体・・・なにが・・・?」

ユウが食卓へ近づこうとした瞬間───

「あっはっはっはっははは!!!きゃーーー!!!」

ポニーテールが顔を上げて狂ったように笑い始める。

「あ!っあんたらっ!!どれだけふふっ!アタシを笑わせればっ・・・あっはっは!!いっ!いかめしさんウインナーよりっ!!出来がいいじゃないのよ!!うふふ!!」

「ユウ!何よこれ!!?カレーさんシチューじゃない!!」

「ちょっ!ティっ!その言い方は反則っ!!あはははははっ!!」

「え?カレーさん?え?シチュー??」

「お。おい、ユウ、、、何・・・したんだ?カレーに・・・」

ユウは慌てて自分の席においてあるスプーンを手にとり、皿の上のカレーを口に突っ込む。
緊張で染まったその顔は、カレーを口に入れた後に徐々に難しい顔へと変わる。

「・・・うん、シチューだ。これ。」

「・・・っ!!?」

タマジローが食卓に前足をついて椅子の上に立ち上がった。
その様子はまるで野生に生きる獣がハンターに発見されたが如く、緊張に満ちていた。

「・・・まてよ、ユウ。信じねえ!俺はお前を信じてたから信じねえぞ!!俺は!俺を信じるからな!ユウ!」

「あっ!ちょっ!!タマ───

「ニャイン!!??」

「あー、ほら、いわんこっちゃない、猫舌のくせにがっつくから・・・」

鼻と口に火傷を負ったタマジローは、その時初めて自分が獣の姿で良かったと思う。
そう、もし、自分が人間の姿でこんな辛い現実を突きつけられていたら、きっとみっともなく涙を流していたのであろうから。
同時にタマジローはプルプル震える仔ウルウルフをみて思う。

獣だって、泣きたいときもあるよな。

と。
そして全てを悟った上で、タマジローは今の気持ちを言葉にする。
獣であるにもかかわらず、言葉をもって、食事の味がわかることへと感謝の念すらも抱きながら。

「・・・うん、シチューだ。これ。」

「あっはっはっはっ!ほんと騙されたよ!だからタマジローはずっとずっとカレーカレー言ってたんだね?うるさいとか言ってごめんね?楽しませてくれようとしてたんでしょ?」

「・・・そうだ。」

(・・・っく!無理しやがって・・・タマジローさんっ!)

ユウはごまかすように仔ウルウルフの餌皿にドッグフードを詰める。
その時、仔ウルウルフはユウのことを仲間だと勘違いした。

「大変!タマジローさん!待ってて!今!マナ水用意しますからね!」

ティアが慌ててリュックからマナ水を取り出して、タマジローの飲み物皿へと注ぐ。
その時タマジローは見てしまう、そして、マナ水を飲んではいけないと強く思う。
むしろそれを全身に塗りたくりたいと思ったのはきっと、反省したからなのであろう。

ティアが用意したマナ水のボトルにはデカデカと

『バカにつける薬』

と書いてあった。
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ティアは剣技を修得している。
剣技は剣を使った技だ、文字通り。
ならばティアは素手だと剣技を使えるのだろうか?

使って見なきゃわからない。
ティアは試してみることにする。

「剣・・・あぁ、いや。『拳技』・・・!!」

ティアは腰を落として右手を構える。
辺りに緊張感が走り、ティア自身も緊張する。
プルプルと震える全身と、眉をひそめたその表情が、初めての行為への不安と恐怖を物語っている。

「轟槌拳打っっっ!!!」

ゴンッ
という音がユウとタマジローの部屋へと響き渡る。
1人と1匹の表情はそれは安らかなものであり。
開かずの密室が開かれることはなく、ドアの向こうでため息と少女の声だけ響く。

「アイリー、開かないよー、友達の家のドア蹴破るなんてとてもじゃないけどできないよー。」

とてとてと、ユウとタマジローの居る部屋のドアの向こうから足音が離れていく。
しばらくすると足音は2人と1匹になり、再びドアの向こうへと帰ってくる。
依然として部屋の中の静寂は静かな寝息で保たれている。

「あー、昨日ティアがやってたみたいにやると開くよ?『ごっついけんだー!』って。」

「なんかね?剣がないとうまくいかないの。あ!君!犬技とか使えない?きっと状況を察してついてきてくれたんでしょ!?こう、『轟槌犬打!』って!」

「・・・無理に決まってるでしょ?ティア?・・・いいや、なんかついて来ちゃったけど、危ないからその子抱いて下がってて、ティア?・・・あ、またお玉持ちっぱなしだった・・・お玉も持ってて。」

1人の足音がとてとてと、部屋の入り口から離れる。
続いてもう1人の足音が数歩部屋から離れて───静寂が破られる。

「せいやぁ!!」

部屋の封印は轟音と共に解かれ、白地にフライドチキン柄のエプロンをまとった女性が部屋の中で華麗な着地を決めた。

「・・・まあ、わかっちゃいたけどさ。」

「うん・・・ご飯の準備に戻ろうか。」

魔法使いと青い獣は相変わらずの爆睡状態、例の如くティアとアイリはこれらを無視して朝食の支度をしようとする。
しかし今日、ティアの胸には秘密兵器が抱かれていた。
それに気づいたティアは、ユウの朝に革命を起こす。

「あ!まって!アイリ!・・・これでよし!!じゃ、行こうか!」

「あー、あはは、なんか、それ両方可哀想じゃない?まあ、いいや、ユウにとって良い朝になれば、きっとタマジローもすぐ起きるでしょう。」

2人はドアを閉めて部屋を後にする。
そう、2人で。

─────────────────

(胸の辺りが暖かい。それになにかが振動している・・・空気が漏れるような音と、時々鼻先に冷たく濡れた柔らかいものが・・・これは何だろう・・・ここは、どこだろう・・・)

うっすらと、覚醒しつつある意識。
魔法使いはうつらうつらとしたまま、それらの感覚に沈んでいく。

(眠い、そうだ俺、昨日も遅くまでタマジローさんと研究をしていて・・・気がついたら)

ゆっくり、ゆっくりとユウは開かない瞳を開けながら、首をあげる。
その時、ユウの鼻先に冷たく濡れた柔らかいものが当たり、ユウの意識は一気に覚醒する。
自分の鼻先に触れる小さな鼻先。
そこから漏れる鼻息。
そして、目の前の二つの小さな小さな湖。

「ぬっ!?うおおぉぉおおおわああ!!?えっ、・・・?ぬぅおおおおおおああああ!!!うわっ!ぬあああああああああ!!!ティア!ティィィィイイイアあああああああ!!!!」

「フガニャッッフッ!!!んぬぁ!?ユウ!?どうした!!!?」

アイリの家に、賑やかな声が響きわたり、それはリビングまで筒抜けとなる。
味噌汁の味見をしていたアイリがティアの方を見て親指を立てる。
そしてティアは小さくガッツポーズを決める。
程なくして、騒がしい足音がリビングへと向かってくる。

「ティアあああっっっ!だめだコイツ!!襲うぞ!俺に!そのっ!俺に!せっ!せせせ!せっぷ───


「いやいや、ないから、おはよう。ユウ。」

「心臓にわりぃぜ、ユウの野郎、いきなり喚きやがってよぅ、胸の上に仔ウルウルフが乗ってただけじゃねえかよ・・・ふわあ~」

「あら、ユウがご迷惑をおかけしてすみません、おはようございます。タマジローさん」

よほど焦ったのであろう、ユウは右手に声も漏らさずにただプルプル震える仔ウルウルフをぶら下げながら額の汗を拭っている。
さすがにこのままじゃユウも仔ウルウルフも可哀想だと思ったアイリはユウに事情を説明して、とりあえず顔を洗って歯磨きををしてくるように促した。

───数分後───

「ふむ、それじゃあどうしても決定打にかけていたせいで昨日私とアイリが取ってきた品物はまだ使えないと言うことですね?タマジローさん?」

魚の骨を器用に箸ではがしつつ、ティアはタマジローの話に耳を傾ける。

「ペロ、ニャイン!?・・・そ、そうだ、すまねぇ、だから、今日はアイリとお前さんはゆっくりと休んで昨日の疲れを癒してくれ、俺とユウは飯を済ませたらまた急いで研究にとりかかる。」

「もぐもぐ。そっか、アイリ?どうする?」

「あ、そうそう、ブーメラン、直すよ、ティア。もぐもぐ」

「わぁ!ありがとう!」

「しかしカレー作りに手こずってたせいで研究があまり進まなかったとはねぇ、それにあれ、魔法料理?ってやつだったんでしょ?よくわからないけど。」

「あぁ、そうなんだよ、アイリさん、さっき俺の隣で味噌汁で火傷してた獣がさぁ、だだこねるから大変だったんだぜ?」

「はぁ!?タマジロー!!あんた!ユウにまでだだっ子したのかい!!?ごめんねー!ユウ!うざかったでしょう!?」

「ああ、足を怪我したとかそうでないとかのくだりが最高にうざかった。もぐもぐ。」

「タマジロー・・・あんた、ほんっとうにしょうもない・・・そんなんだから魔法で失敗なんかするんだよ・・・獣の姿なのはその性格の悪さのツケが回ってきたんだよ、業がふかいねぇ。」

「・・・」

「ところでユウ、タマジローがこんなんだからタマジローには期待できないよ、魔法は成功しそうかい?」

「まぁー・・・原因は掴んでるからな。あとはそれを打ち砕く決定打がな・・・」

「もぐもぐ、ごくん。ふーん、なんでタマジローさん、直らないの?ユウ。」

「うん、タマジローさんにかかっている魔法は、身体の一部を獣に変える魔法なんだけど、本来は身体全部が獣に変わってしまうのを変化を否定する魔力で一部を人間のままにするって方法をとってるんだ。それがどういうわけかうまく働かなくてあえなく全身獣。そして厄介なことにさ、その変化を否定する魔力が人間側じゃなくて、獣の姿の方にかかっちまってるんだ。」

「へぇー、よくわからないね、アイリ!」

「うん、まったくだ!ティア!」

「・・・」

「まぁ、アタシは武器職人だからさ、魔法のことはよくわからないけどね、変化云々なら、昨日のカレーさんシチューの魔法じゃダメなのかい?・・・ほら、料理と魔法が通ずるのは昨日の魔法が証明してたわけだし・・・なーんて、そんな簡単なわけないか、ごめんね?ははは・・・」

「・・・っ!!」

「おい・・・ユウっ!!」

「うん!タマジローさん!!」

アイリの言葉を聞いたユウは突然立ち上がり、タマジローの方を見る。
タマジローもユウの意図に気付いたのだろう、立ち上がったユウを見上げ、後に椅子から降りる。

「ごっ!ごちそうさま!アイリさん!ごめん!ちょっと!研究に戻るよ!」

「あっ!ちょっ!ユウ!?・・・行っちゃった・・・」

椅子から降りたタマジローはアイリの席まで歩き、アイリの横腿に軽く頭突きを入れ、嬉しそうな声で話す。

「アイリ!流石は俺の女だ!待ってろ!すぐにパーフェクトタマジロー降臨だ!」

「・・・え?ぁあ、うん、ありがとう・・・」

走り去るタマジローの尻を見送り、2人はリビングに取り残された。

「あー、アイリ?どうする?」

「う、うーん、、、知らんっ!全く、男ってのはさ・・・いいよ、アタシ達はゆっくりご飯食べて、ブーメラン直して、仔ウルちゃんの散歩にでも行こうか、ああなったらもう女には理解できないよ!ほっとこう!」

「おおっ!アイリ!良い女!!」

「ぷふっ!なにそれ!」

どうせ待つしかないのならば、沈んで待つよりも気楽に待つ方が良いに決まっている。
アイリはそのことを理解しているため、待つべき所は無理に動こうとはしない。
なんだかんだいいつつも、タマジローのことを信用している証拠である。


「なんかねー、膝とかが良くないときはコンドロイチンって物質がねー」

「ふむ、鋼に混ぜてみたいね、それ。」

「武器も膝から崩れ落ちるの?」

「武器の膝って、どの部分に当たるのかねぇ・・・場所によっちゃあそうかもね。」

「ふーん。それよりさ、アイリ?それ、散歩になってるの?」

「・・・さぁ?」

「・・・」

ティアとアイリは商業区を練り歩いていた。
仔ウルウルフの散歩だ。
散歩の間、ずっと仔ウルウルフがアイリの胸に抱かれていたことにティアはひどく違和感を感じていた。

「その子もさ、ちゃんと散歩ぐらいあるかせないと、きっと膝から崩れ落ちちゃうよ?」

「・・・まさか、タマジローやユウじゃあるまいし・・・ね?」

と、言いつつもアイリは仔ウルウルフを地面にそっと下ろす。
相変わらず仔ウルウルフはただただウルウルするのみで、その愛らしい姿は女性のハートを鷲掴みにする。

「いやぁー!それにしてもかーわいいよねー!この子!」

「ああ、ほんとに!いっつもプルプルウルウルしちゃってね!・・・すこし大人しすぎる気もするけど、それもまた可愛いのよねー。」

「ところでさ、この子、名前とか決めてるの?アイリ?」

「名前?・・・あぁ、確かにずっと仔ウルちゃんって呼ぶのもねぇ・・・一応お腹が白いからメスらしいよ?図鑑に書いてた。」

「おお!女の子なんだ!ガールズトークがはかどるね!」

「喋れればの、話だけどね・・・タマジローじゃあるまいし・・・」

「・・・うん、仮に喋れたとしても・・・喋らなそうだよね、この子・・・それより女の子ってわかってるなら名ま───

「さんご。」

「・・・えっ・・・ちょっと、アイリ。」

「さんご。」

「いや、認めないからね?そっちがその気なら私ははまぐりを推すよ?ねえ。」

「さんご。決まり!おー、よしよし、さんご、おいでー。」

「んなっ!?・・・ほーら、はまぐり~、こっちにおいで~」

───十数分後───

「いや!だからね!普通ウルウルフの子どもにはまぐりなんて名前つける!?ユウ!!?」

「さんごだって大概でしょ!?ユウ!早くなんとか言いなさいよ!」

「タマジローさん・・・タマジローさん!・・・おい、そっぽ向いてんじゃねえよ、コラ、獣。」

「・・・ああ?シラネーヨ、迷ったなら名前なんざタマサブローにでもしとけよ、めんどくせえ。」

「「「やめい。」」」

ティアとアイリは予定していたよりも早めに散歩を切り上げた。
ユウに対して用事が出来たからである。
皮肉なことに、荷物をまとめた実績を買われたユウはティアとアイリのトラブルシューターになっている。
目を合わせようとしない獣、ぎゃいぎゃい喚く2人の女性・・・いや、獣。

自分もいっそ獣の如く振る舞うことができたなら・・・

そんなことを考えつつ、ユウは災いの種をタマジローの隣へと避難させる。

「はぁ、いっそコイツもタマジローさんみたく喋らねえかな・・・ついでに勝手に自己紹介始めてこの場を丸く収めねぇかな・・・。」

「獣を人間にする魔法?つくるか?」

「失敗する未来しかみえねー。」

「「ちょっと!ユウ!聞きなさい!」」

「いちいちハモるなよ~二倍耳がいてえよ~」

「あー、もう、あれだ、ユウに決めさせるぞ、アイリ、ティア。それで文句ねぇだろ?」

「・・・ま、まぁ、うん。それがタマジローの提案なのが腑に落ちないけど、ユウが決めるなら」

「ま、まぁ、ユウが裏切ってさんごって名前にしないのなら・・・それで。」

ほら、ここから先はお前の出番だぜ?とでも言いたげにバチコン☆とユウへとウインクを投げる獣に、ユウはわずかに殺意を覚える。
なんだか全てがどうでもよくなりつつあったユウは、テキトーな方向に話をずらし、それっぽい名前にする事にした。

「おお!よく見るとコイツ!タマジローさんに似てねえか!?」

「「やめてよ、いや、ほんとに。」」

「なんか知らんが今俺は傷ついたぜ、ユウ。」

「知らん。まぁ、俺はタマジローさんに似てると思うんだ(これっぽっちも思っちゃいねえけど。)。だから、名前はタマジローさんから───

「そうか、タマサブローだな!」

「・・・とって決めようかと思うんだ、いいか?ティア、アイリさん?」

「そうか、無視だな!」

「えー、女の子なんだよ?ユウ!」

「いや、まあ、名前によっちゃあさ。女の子にもなれるよ。タマジロー子とか、タマジロー美とか。」

「そうか、女の子なのか、それなら尚更決まりだな!玉をとるぞ!!」

「・・・意外と品がないね、ユウ。まぁ、アタシが言えた口じゃないけどさ・・・」

「なるほど!ユウ!ナイスアイディア!それなら名前は決まりだね!!」

「ああ!コイツの名前はジロ───

「タマなんだね!?ユウ!」

「「えっ!?」」

自信満々でティアはユウの言葉を遮った、そしてティアはユウの予想の斜め上をいっていた。

「いや、まてよ、ティア?違うだろ?どうしてタマジローさんからタマをとるとタマになるんだ?」

「え!?だって、女の子なのにジローなんて・・・え?というかユウが『タマをとる』って言ったんじゃない!!」

「え!?おい!こんなに見た目が犬々しいのにタマはないだろ?タマったらネコだろ!?というかそれ、ジローをとってるじゃねえか!」

「えっ!?」

「えっ!?」

言葉は時に誤解を招く。
ティアは文字通りタマジローからタマをとり、名前をタマだと思った。
ユウはタマジローからタマを取り除き、名前をジローとしたはずだった。
その後、結局ユウとティアは和解せずに、あるルールで『けっとう』を行うことにした。
『けっとう』のルールは至ってシンプルである。
ティアとアイリが最初に行っていたことと同じ、仔ウルウルフがどちらの呼びかけに応じるか、というものだ。
ユウとティアは2人で工房の入り口に立ち、大声で仔ウルウルフを呼んだ。
危うく通行人が衛兵を呼ぶところだったが、アイリが必死に説得して事なきを得る。

仔ウルウルフは終始ウルウルしながら右へ左へとヨタつくばかりで、結局名前なんてどうでもいいと思っていたことを思い出したユウがあっさり負けを認め、晴れて仔ウルウルフの名前は『タマ』に決まった。


「はー、疲れた。なんか、タマって名前に決まった途端、タマジローさんの方がタマから名前をとったみたいになったな。」

「まぁ、『ジロー』だからな。だからあれほどタマサブローにしろと・・・」

「きゃああ、タマー」

「いやーん、タマー」

「・・・幸せそうだな。」

「ああ、さすが俺から一部名前を受け継いだだけのことはあるな、人気者だ!」

名前が決まったぐらいでタマは動揺などしない。
毅然として誇らしげにプルプルウルウルする姿はやはり女性のハートをつかんで離さない。
せっかくアイリの発想から研究がすすんで昨日2人が集めてきた材料の出番だというのに、当の本人たちはユウとタマジローの研究などそっちのけでタマに釘づけである。

「アイリ!タマもいいがこっちも見てくれ!お前のおかげで研究はかなり良い方向に進んだぜ?」

「ティア!昨日ティアとアイリさんが集めてくれた材料の出番だ!気にならないか?」

「あらー、タマちゃん?獣の獣と魔法使いのお兄さんがなにか話してるよ?見に行くー?」

「んー、そっかそっか、タマもみたいかー、じゃあティアお姉ちゃんと一緒に見に行ってみようねー?」

「あっ、ティア!だめ!タマはアタシと見に行きたいっていってるじゃないの!」

「えー!アイリはタマジローさんがいるでしょう?ずるいよ!」

「「・・・」」

「じゃあみんなでみようねー、タマー?」

「わぁ、さすがアイリお姉さんねー?タマー?見に行こうか!」

「・・・なぁ、ユウ。」

「なんだ?」

「なんでお前は魔法使いのお兄さんなのに、俺は獣の獣なんだ・・・?」

「・・・同情するよ。タマジローさん。」

部屋の入り口できゃあきゃあ騒いでいた2人と、静かにウルウルしていた一匹を加えて全員が実験机の前に集合した。

「よし、では、さっそく昨日集めてもらった材料を使わせてもらうぜ!感謝する!」

「「わー」」

「ほれ、ユウ!」

「「おー」」

やる気のなさそうな拍手に、ユウは若干のやりにくさを感じつつ、机の上に材料を並べる。

「じゃあ、まずは、ナナヒカリニジイロハッコウタケだな!みてろよー!・・・よし、ユウ、やるんだ。」

「うん。」

ユウはアルコールランプに火を灯し、銀の小皿を加熱しはじめる。
その後、沸騰したかのようにボコボコと沸き立つビーカーに入った透明な液体に、ピンセットでつまんだナナヒカリニジイロハッコウタケを突っ込む、数秒後、それを取り出すと、ナナヒカリニジイロハッコウタケはその光を失い、パリッパリに乾いていた。

「おおっ!光らなくなった!」

「すごい、干し椎茸みたい・・・!!」

意外にも女性陣の食いつきはいい。
タマはおそらく理解していない。

「よし、予定通り。次だ!ユウ!」

「うん。」

ユウは高嶺の花の花びらを千切り、透明な袋の中にいれる。
その後、パリッパリに乾いたナナヒカリニジイロハッコウタケを小さなハンマーでぺちぺちと粉々にして、その粉末を、加熱している銀の小皿にのせる、きらきらと輝く煙が粉末ナナヒカリニジイロハッコウタケから上がる。
その様子を確認したあと、先ほどの花びらが入った袋でその煙を捕まえ、口をとじて軽く振る、すると。

「うわぁ!ユウ!花びらがナナヒカリニジイロハッコウタケ色に・・・!」

「ふふ、なによその色、でも、確かにそうとしか言えない色だねぇ、綺麗だ。」

タマジローは得意げに頷き、言葉を漏らした。

「ふむ、俺の計算通りだ。すばらしい!」

「うん。」

ユウはその花びらをピンセットで取り出し、ビーカーの中に入っている赤い薬品に浮かべる。
数秒後、突然吸い込まれたかのように花びらは薬品の中に瞬時に沈んだ。
「ふむ。」と納得したかのように声を漏らしたユウは、翡翠晶をザラザラとその中へと流し込み、次いで、その中に先の光った凧糸を落としていく。

「ねえ、ユウ?なんでその凧糸、先っちょが光ってたの?」

「あー、魔法石のタネだ。俺の魔力に反応して光ってた。」

「ふーん。」

「ティア、わかるの?」

「いや、全く。」

「・・・」

「そろそろだな・・・」

「「っ!!」」

ユウは凧糸の端っこをちょいちょいと引っ張りながらつぶやく。
凧糸は質量のある物を吊しているようで、ピンと張っている。
次に起こることを見逃すまいと、ティアとアイリは目を丸くしてビーカーと凧糸を見つめる。

「そらそらそら・・・よーっ・・・とと・・・」

「わあっ!綺麗!!」

「っはあー!応用したら武器づくりに活用できないかなっ!」

そっとそっと、凧糸を引っ張り上げた先っちょには、ナナヒカリニジイロハッコウタケのような光を放つ花びらが閉じ込められた、宝石のように透き通る緑のまん丸の球がついていた。
その姿はエメラルドにも引けをとらない美しさで、女性陣もうっとりする。
仕上げと言わんばかりにユウは、凧糸を火の魔法で燃やす。

「どうだ!できたぜ、タマジローさん!花翡翠の魔力球だ!」

「おおっ!いいぜ!あとは最後の素材にそいつを浸して、出来た魔力を魔導書に込めるだけだな!おつかれさん、ユウ!」

「・・・すごいね、アイリ!」

「うん!すごい!・・・けど、タマジロー何もしてないじゃない・・・」

「っぐ、アイリ、痛いところを突かないでくれ、獣の姿じゃ限界があるんだよ。じゃあ最後に俺の仕事だ!質問は!?女性陣諸君!」

アイリが静かに手を上げる。

「あのさ、前々から気になってたんだけど、なんで魔法ってできたらいちいち魔力だけ抜いて魔導書に入れなきゃいけないわけ?そのまま使えないの?」

「ああ、確かにそう思うかもしれねぇな。簡単に説明する。魔法が料理だとしたら、魔導書は皿だ、食器だ!より安全に、より効率よく、手を汚さずに食すためのもの。とでも言うと伝わるかな?」

「なるほどねぇ・・・確かに料理をフライパンから直接手づかみで食べようもんなら手は汚れるわ火傷するわ、それこそ昨日のカレーみたいなのはちゃんとした食器がないと食べれないねぇ・・・あれ?でもなんで、わざわざ魔導書じゃないといけないの?武器とかににそのままつくった魔法を突っ込めたらおもしろそうなのに・・・」

「ふむ、いい着眼点だな、アイリ!確かにお前さんの言うことは可能だ!しかし、難しい!それをやろうとしたらあらかじめ魔法を武器に馴染むように調整したり、その上で失敗や暴走が無いようにしなくてはならねえんだ。そうすると魔法が失敗する確率もあがるし、単純にめんどくせえんだ。尚且つ、そこまでが上手くいったにしても、魔法がこもったその道具を他の魔力と近づけるなり、ぶつけるなり、交ぜるなりしたときにバクが起きねえ保証もない!危険なのさ。」

「ふむふむ。」

「それから、なぜ魔導書でなくてはならないかというのは、例えば傘があるとするだろ?傘を正しく使おうとするとどうだ?雨を避けようとするとどうだ?自然とああいう形に決まってくるだろう?傘なら話はそれで終わりだ。
しかし魔法は用途がきまっていても形が思い浮かばないことが多いだろ?魔法ってのは精神や、呪術的な面が大きく関わってくる。魔法を使う者に違和感を感じさせたらそれだけでも失敗や暴走につながりやすいんだ。
そこで傘と同じ発想だ、自然と違和感を感じない形にしていく。
形のない物に形を与えていくには説明しかねえよな?そう、魔導書っていうのは決まった形というものを持っていない魔法に対して、説明によって形を与えるのにうってつけなんだ。
そうだな

『傘って、どんなもの?』

って聞かれたら、傘について説明するか、傘そのものをみせるだろ?
そのノリで、今俺にかかっている魔法について

『ビーストウォーリアって、どんなもの?』

と聞かれた場合にビーストウォーリアの魔導書を見せるのが一番なのさ。
傘について説明した上で『ちゃんと傘の機能をもった傘』を渡せばそいつは難なく傘を使うだろう。
同じように、魔法について説明がかかれた魔導書が『ちゃんと魔法が機能するように魔力をもっていれば』魔法も難なく発動しやすいってわけさ。
ちなみに、バカすぎて魔導書が理解できなかったり、魔力が足りなかったりすると、そいつは魔導書の魔法がつかえねえ。
傘についてまたまた置き換えると・・・まぁ、そんなアホはいねぇと思うが、傘を持ち上げれねえほど非力だったり、傘の説明を聞いても傘の開き方がわからねえみたいなもんだ。

余談だが、魔導書を読んで、それ以降は魔導書を読まなくてもその魔法を使えるようになるのは、身体がその魔力を覚えるからだ。
一度作り方を覚えた料理を作るのに、いちいち最初に作るときに読んだレシピは開かねえだろ?それに感覚は近い。
でも、なんどもその料理を作る度、いや、この場合はなんどもその魔法を使う度、かな?
『癖』がでるんだよ。使い手の。だから同じ魔導書を参考にして魔法を使うにしても、そいつの癖や、アレンジ、熟練度が魔法にはドストレートに現れる。だから魔法は料理と同じく飽きが無く、おもしれえんだ。

以上、長くなって悪かったな、納得してくれたか?アイリ?」

「うん・・・なんか、説明に愛を感じた。」

「なんだそりゃ?」

アイリの質問の説明を鼻息を荒くしつつ頷きながら聞いていたティアも、説明が終わったのを確認して静かに手をあげた。

「あの・・・ウルウルフの牙は・・・使わないんですか?」

ティアの質問を聞いたユウとタマジローは、互いに目を合わせてからひとつ頷き、ティアの質問への答を述べる。

「そうだな、せっかく取ってきてもらったんだ、もちろん使うさ。」

「ふむ、ひょっとして、直接的にタマジローさんをなおすのに必要ではないとか、そういった話なのではないでしょうか?」

「・・・ん?なぜ、そう思う?」

「さっきタマジローさんがユウが作った球をみたとき『最後の素材にそいつを浸して』と仰っていたのを聞いて、違和感を感じたのです。
牙は最後の素材ではなく、最後の素材はなんらかの液体。
そしてそれを手に入れるためにウルウルフの牙が必要。
といった考えが浮かびましたが、実際のところはどうなんですか?」

「・・・大当たりだな、ティア。90点だ、残りの10点分は解説しよう。」

アイリはティアをみて、驚いた様子で話す。

「ほえ~、花が高いところに咲いてるのを予測してさりげなくブーメラン持ってきてたり、ウルウルフに囲まれてるのにいち早く気づいたり、あんたってば普段抜けてるようで実はすごくしっかりしてて鋭いんだねぇ・・・びっくりしちゃった・・・」

「えへへー、そうでしょそうでしょ?」

「まぁ、俺よりも気は利くよな、ティアはさ。間抜けだけど。」

「えへへへへーそうでしょそう・・・間抜けじゃないわよっ!」

「脳ある鷹は、爪を隠すからな・・・ティアは脳を隠して爪を出しているようにも見えたが・・・」

タマジローの言葉にふんふんとどや顔でうなずき倒すティアに、少し呆れ顔のユウとアイリだが、実際にティアはよく気がつくし、機転が利く場面が多く見られる。
やや、間抜けに見えるのは、たまにその機転と気遣いが変な方向へと転がることがあるからだと思われる。
タマジローは何気にそのことを見抜いていたからこそ、あえて、ウルウルフの牙の話題はださず、質問された後も一度ティアの考えを聞いたのかもしれない。

「話が逸れたな、残りの10点の話にもどそうか。
ティアの言うとおり、この魔法の仕上げに使うのはウルウルフの牙ではない!」

「それで?何を使うのさ?」

「まぁまぁ、あわてるなよ、アイリ。」

「いや、別にあわてちゃいないけどさ、なんでアタシたちに昨日の段階で最後の素材を取りにいかせなかったんだい?」

「私たちだけだと取れない物だったんじゃない?アイリ。」

「なんか今日のティアはキレキレだな。きもちわりーぜ。」

「なんでキレキレだと気持ち悪いのよ・・・まぁ、キレキレってことは、これも当たらずといえども遠からず。なのかしら?」

「ふむ、ティア、正解だ。アイリ!やり直し!」

「なによそれ?ユウのものまね?」

「実はいっぺんやってみたかったんだよ、突っ込んでくれるな。
さあ、最後の素材だな、これまたティアの言うとおりだ、欲しい素材がこの辺じゃとれねえんだ。
そう、『魔獣の血』はな。」

「「魔獣の血!?」」

ペールタウン付近に魔獣などは生息していない、そもそも、ティアとアイリには物理的に手に入れることができなかったのである。

「じゃ、じゃあさ!それをどうやって手に入れるっていうの?近くにない物を、あんたとユウが加わったからってとれるの??」

「ふっふっふ、とれるんだなぁ?それが・・・『コイツ』と・・・『コイツ』でなぁ・・・!!」

「おおっ、やっぱりタマジローさんの出番ではないんですね!」

タマジローは得意げにウルウルフの牙とユウを鼻差す。
その様子にはさすがにティアも突っ込みを入れてしまった。
ティアの突っ込みにアイリはからからと笑う。

「そりゃそう思うよねえ?ティア!タマジローさっきからなんもしてないもんね?
で?どうやって魔獣の血をてにいれるんだって?タマジロー?」

「うるせぇ、茶化すなよ・・・あれだ。方法は簡単さ、ユウがウルウルフの牙を使って狼の魔獣を召喚する!召喚された魔獣は大人しくユウの言うことを聞くからあとはでっかい注射器なりなんなりで献血してもらうだけさ。」

「ほう!楽勝ね!『ユウが居れば』ね!」

「アイリさん、タマジローさん、すごく沈んでるよ?」


うつむいてプルプル震えるタマジローの姿は見るに耐えないほどに惨めで、いたたまれなくなったティアは良かれと思って最悪のフォローをいれる。

「・・・ほ、ほら!タマジローさんとユウが作ったシチューもおいしかったですよ!?すごいからそんなに落ち込まないでください!」

言えない、自分の間違いで失敗して魔法を発動させてしまって結果としてシチューになったなんて、タマジローは言えない。

「・・・ちょっと、ティア・・・なんか、地雷踏んだんじゃない?タマジローがタマみたいになってない・・・?え?てか、タマジローって獣になってから泣いたことなんて・・・え?てかてか、泣けるの?獣の身体じゃ泣けないんじゃなかったの・・・?」

「そうだよ・・・ユウが居れば余裕なんだ・・・何のための『依頼』だよ・・・俺じゃ出来ねぇから他人に頼むんだろうが・・・これからあ!!作戦のぉおう!!説明をするぞおお!!!
こっから先は俺の説明を聞けえ!!!くだらん突っ込みで話の腰を折るんじゃねえええい!!!」

「「「あ、開き直った。」」」

最後の素材

『魔獣の血』

を手に入れるための作戦が、今始まる。

「2人はゆっくり休んでてよかったのに、大丈夫か?昨日の疲れはとれてるのか?」

「魔獣の血は俺とユウだけでもとれるからな、2人は家で待ってても良かったんだぞ?」

「狼の魔獣、見たかったから・・・」

「アタシはどっちでもよかったけど、ついてきた方が面白そうだったし・・・ティアにタマもついて行っちゃってたし・・・」

三人と二匹は昨日の丘に来ていた。
街中で魔獣などを召喚するわけにもいかず、人気の無いところを選んだのだ。
途中、洞窟内で無惨にも抜き散らかされたナナヒカリニジイロハッコウタケにユウとタマジローが慌てたり、丘に落ちていたいかめしらしきものをタマが食べてしまったりとトラブルはあったものの、無事にたどり着いた。

「それで?この魔導書の通りにすれば狼の魔獣を召喚できると。」

「ああ、その魔導書そのものと牙がないと召喚はできねえけどな。
召喚魔法を魔導書フリー、素材ナシにするのは難しいもんだ。」

今回使用する召喚魔法はタマジローのオリジナル魔法である。
所々にタマジローの意匠も込められている。

「ふーん、俺は召喚魔法なんて研究したことねえし、わからねーけど・・・」

その場にしゃがんだユウはリュックから大きな布を一枚取り出して、丘の芝生の上に敷く。
土の魔法を上手く使って布の端四カ所を上手く固定したとき、布の全貌が明かされる。

「なにこれ、すごい魔法っぽい!!」

「おお、そういう魔法の使い方もあるんだ!!タマジローさんが考えたのですか?」

「まぁな。名付けて!どこでも魔法陣!!」

ユウが広げた布にはでかでかと正確な魔法陣が描かれていた。
魔導書を読みながらユウは作業に取りかかる、魔法陣の六芒星の先六ヶ所に一本ずつマナ水を置いていき、真ん中にウルウルフの牙を置く。
そして手前の小さな円の中に立ち、魔導書を広げる。

「こんなもんか?タマジローさん。」

「ああ、後は今開いてるページの詠唱!」

「っえー、このちょっと痛々しいの読まねえといけねーの?」

「我慢してくれ・・・」

魔導書を苦い顔で指差しつつブーブー言うユウ。
タマジローも出来ることなら変えたいと思っている詠唱である。

「じゃ、じゃあ、始めるか」

「な、なんか、ユウが魔法っぽい魔法を使うよ!アイリ!!」

「うん!なんか、なんだかんだいってユウもタマジローもすごい!」

ユウが魔力を解放し始めると同時に、どこからともなく風が吹き始め、魔法陣がまぶしいほどに光る。

「『魔導の深淵に生まれし闇の契約者よ その禍々しき力、我の眼に映し出せ 神に背きし法の下、汝を咎めし者はない 銀の殺戮者よ 来たれ ダークソウルリカバリー』!」

突如として上空に暗雲が立ち込め、魔法陣の周りに竜巻の如く魔力がまわる、落雷がウルウルフの牙に落ち、眩しくて直視できないほどの輝きを放つ。

「ぬっ!ぬおっ!タマジローさん!大丈夫なのか!?これ!ヤバそうな雰囲気しかねえぞ!?」

「魔導書、各種アイテム、魔法陣、長い詠唱が必ず必要、ないとうまく行かない・・・一応大魔法なんだよ。これでいいんだ!」

「うっぐ、まぶし・・・」

「うわあ!タマジロー!なにこれ!?風!まぶし!」

一通り謎の演出も収まり、辺りには白い煙が立ち込める。

「・・・!?」

「ふむ。」

「わぁ・・・」

「ひいっ!タッ!タマ!おいで!」

煙の中に巨大な影が見える。
煙が一通りはける頃、それは姿を現す。
風に靡く銀の剛毛、丸太ほどもある前足、刃物のような真っ白な爪、槍のように巨大な牙、この世の者とは思えないほど暗く、鋭く、不気味な目。

「・・・な、なんだよ・・・これ・・・」

「驚いてる様子だな?」

「かっこいいー・・・というか」

「う・・・うん、なんか、逆に格好良すぎるせいで一周してダサいというか、ちょっと反抗期な子供が好きそうな・・・」

「あー・・・それだ。私もそれが言いたかったの・・・変に、格好良すぎるよね・・・」

「はぁん!?なんだと女性陣諸君!何を隠そうコイツがビーストウォーリアの変化モデルだぞ!格好良いだろ!!」

「いや、だからさ。格好良すぎるのよ。無駄に・・・」

「・・・」

黙ってユウを見下ろしてお座りをする巨大な狼・・・というにはいささか厳か過ぎる。
一種の神々しさすらも感じられるその姿に、一行は息を呑む。

「い、いや、待てよ、タマジローさんさっきコイツがビーストウォーリアの変化モデルって・・・!?」

「おお?そうだぜ?すげえだろ?ビーストウォーリアを全身にかけると人間サイズのコイツみてえな姿になるのさ!」

「・・・」

「ふーん?流石のユウも言葉も出ねえようだな?ん?」

ちらっちらとユウとそれとを交互に見やる目の前の謎生物。
加えてどや説明。得意げ、謎のゆらゆらステップ。
ユウは我慢の限界を越えた。

「・・・っぐぶはあ!ーーーーっっっだぁっーーーーっはっはっはっはっは!!!おい!タマッジローさっ!ざけんなっ!!っははははははは!」

タマッジローを指差し、ユウは涙をこぼしながら腹をかかえる。
その様子にタマジローも困惑する。

「はあ?なにを笑ってやがる?ふざけてんのはてめえだろ。」

「うふ!ぶふっ!!ふざけてっん・・・うわあああっははははひーーー!タマジロさっ!うげほっ!けっ獣になってから!鏡見たことねーのかよっ!ひーーー!」

「あんだと!?」

「よくそんな姿で恥ずかしげもなくコイツがモデルだとかっうはーははははっ!おえっ!俺なら死んでもいえねえよっ!!ふっふぐっ!うふっ、そっ!そのチンケな小動物スタイルの間抜け面に加えて・・・ってか!そのネコ成分はどこから入ってきてんだょ!!どう間違えてもネコにはならねえだろうがよ!だっはっはっはっはっは!!!」

「・・・」

タマジローはうつむき黙り込んだ。
女性陣が口を抑え、頬をリスのようにパンパンにしながらプルプル震えているのを見てしまったのだ。
ユウだけではなく、ティアからみても、アイリからみても、ユウの言うことが正しいと言うことを証明された気分であった。
これ以上は反論できない。
反論すると、ティアとアイリを含めて自分が三倍笑われるということをタマジローは確信していた。
わざわざ自ら己の傷を深めることもない、女性陣もあんなに必死に笑いをこらえてくれているのだから無碍にはしたくない。
タマジローは、黙るしかなかった。

「・・・ユウ、魔力を、そいつに込めてみろ、意志を持つ・・・っぐっ!そしたら・・・命令するんだ・・・!血を・・・よこせと・・・っ!!」

タマジロー自身が血の涙を流しそうな勢いで、ユウに次の指示を出す。
その悔しそうな間抜けな獣の様子を見て、とうとうユウは呼吸困難寸前に陥った。

今度から、こういう魔法のモデルには間抜けなものを用意しよう。

タマジローは心の底で思うのであった。


「さあ、さっさと終わらせようか・・・。
ほれ、血をくれよ。」

「ユウ・・・なんかそれ、軽すぎない?」

魔獣に魔力を供給し、ユウは血を要求してみる。

「・・・?」

「・・・」

「・・・」

「・・・なぁ、タマジローさん。動かねえ。」

「おう、そうだな。動かねえな・・・おかしい。」

魔獣はお座りのまんまぴくりとも動かない。
ユウはふと、あることに気づく。

「ていうかさ、これ、許可いるの?タマジローさん。
今のうちに注射器ぶっさすなりティアに斬ってもらうなりして血をもらっちゃいけねえのか?」

「ん?ああ、出来ねえこともねえが、お前じゃ出来ねえ。ユウ。」

「え?なんで?」

「お前は今、契約の下そいつに命令をする身分だ。
命令なしにお前がそいつにどうこうするのは契約違反。
というか、命令をしないで危害を加えるようなことはできねえ。試しに攻撃してみろよ。」

「え?いいのか?そんなことして。」

「まあ、試せばわかる。」

ユウは魔獣に向かって杖を構える。
そして、魔法を放った。

「アース=スフィア=ドロップ」

ユウの周囲から魔獣の頭上に向かって土があつまり、岩が形成される。
ユウが杖尻を地面に落とすと、岩が魔獣へと落下する。

「っ!?えっ!?」

「ほらな?」

重たい音を響かせ、ユウが落とした岩はなんの抵抗もなく地面に落ちる。
透けている。
魔獣は岩に埋まるようにして、その場から動かない。

「なにこれ・・・シュールね・・・ティア。」

「うん・・・雪だるま?岩だるま?の頭がこわい狼・・みたいになったみたい・・・。」

「見ての通りだ、お前からの攻撃は効く効かない以前にまず当たらねえ。透けるんだ。


「殴ってもだめ?」

「・・・お前、パンチであれが倒せるのか?」

「無理。」

「だろ?」

「うーん、仕方ないな、ティア、頼むよ。」
「おっけー」

ティアはユウのからの依頼を快諾し、採血用の注射器を構えて魔獣に歩み寄る。
その時、魔獣がティアを睨みつける。

「っ!!ティア!!」

「言われなくてもっ・・・!!」

慌ててティアが飛び退く。
ティアが立っていた所には太く、白い前脚が叩きつけられていた。

「っ、なんなんだよ、コイツ、俺はティアに攻撃しろなんて命令してねーぞ・・・」

「っうわぁ・・・なんか、威力すごそう・・・当たってたらすごく痛かったかも・・・」

衝撃で少しへこんだ地面を眺めてティアは息を呑んだ。

「おい!タマジローさん!コイツ言うこと聞かねえだけじゃなくて勝手にティアのこと攻撃しやがったぞ!?なんなんだよ!?」

「・・・っ、わからねえ・・・間違いなく魔法は成功していたはずだ、、、考えられる原因は・・・っ!?あぶねえティアっ!!」

「っうおわっ!また私!?」

魔獣はティアの方へと突進を始める。
ティアはそれを横へのステップで回避した。
魔獣はなおもティアを睨みつけ、その様子をみたタマジローの頭に、原因が浮かぶ。

「・・・っ!まさか!
ティア!!もしかしてその牙の持ち主!生きてるんじゃねえのか!?」

「っ!?だめなんですか!?」

ティアには心当たりがあるなんてものじゃあない、なにせ自ら見逃がしたのだから。
今となっては関係ないが、タマの今後を考えたときに無闇に群れを潰すのは得策ではないと踏んだ結果である。

「生きてるのか!?だとしたらそれが原因だ!」

「えっ!?」

「牙の持ち主が生きてるせいで召喚の際にノイズが混じったんだ!それのせいで完全な召喚にならなかった!
ノイズは牙の持ち主の激しい感情、お前に対する怨みだろうな・・・。結構派手にボコったんじゃねえのか!?」

「そんな!?おわっ!危ない!・・・っと、ひと思いにっおわあ!一撃で・・・よっと、すませましたよ!?」

「いや、ボコったには変わりねえだろ?今牙の持ち主はお前に仕返しがしたくてしかたねえようだ!作戦変更!わかるな!?」

「よっこいしょーっと・・・そうですか!・・・第2ラウンドってわけね・・・」

魔獣の攻撃をひらひらとかわしつつ、話を聞いて納得したティアも攻撃体勢に入る。
避けることに専念していたが、剣を構えて魔獣を正面に捉える。

「来なさい・・・!」

魔獣が凪払う形で鋭い爪をティアへと振るう。

「・・・っ!たあ!!」

身を低くしてその一撃をかわし、がら空きの脇腹へと一撃を見舞う・・・が。

「っく!?」

ティアは刃先に違和感を覚える。
その違和感の正体に気づく刹那、ティアに隙が生じ、大きく身体をよじった魔獣の後ろ脚に弾かれた。

「うぐあっ!?」

「きゃあああ!ティアあああ!!!」

アイリは絶叫する。
ゴム人形のようにティアは飛び、芝の上を跳ねて数メートル転がる。
その様子を見ていたユウがティアに声をかけ、その言葉にアイリは激怒する。

「ははっ、油断してんじゃねーよ!交代か?ティア!!」

「・・・!?
ちょっとユウ!!ふざけてる場合じゃないでしょ!?ティアが!」

アイリの反応は至ってまともである。
普通の人間なら下手をしたら死んでいてもおかしくはない飛ばされ方をしていたのだ。
それを挑発すらも含んだような言葉で流したのだ、怒って当然である。

「ぅ・・・いったぁ・・・」

「えっ!!?ティア!?大丈夫なの!?」

「・・・う、うん、大丈夫よ・・・」

ヨロヨロと立ち上がり頭を押さえるティアはユウの言葉に、ユウの攻撃が通らないことに対しての皮肉も込めて返す。

「交代でもいいわよ・・・?ユウ・・・あなたに、勝てるならね!」

「え!?・・・ティア?」

「言ってくれるじゃねえか!まあいいさ。それより一応俺が召喚した魔獣なんだ、油断すると死ぬぜ?」

「・・・ふん、なおさらよ、悪いけどちゃっちゃと狩らせてもらうわ!」

「・・・ティアは、大丈夫なの・・・?」

「あぁ、心配すんな、アイリさん、アイツにとっちゃあんな攻撃挨拶代わりだよ。」

「まさか!?」

「いや、アイリ、ユウの言うとおりだ。ユウとティアは一般人とは鍛え方が違うみてぇだからな・・・まぁ、人間の姿なら俺の方が強いけど・・・」

起き上がったティアを確認した魔獣は追い討ちと言わんばかりにティアとの距離を詰める。
ティアが感じた違和感は魔獣の『剛毛』である。
ふさふさとクッションにもなり、一本一本がかなりの硬さを誇るため、打撃はおろか、斬撃さえも満足に通さない。
ティアの中で答えは出ていた。
迫り来る魔獣に対し、ティアも剣を構えて駆け寄る。

「なによ・・・斬れないならば・・・もっと斬る・・・っ!」

魔獣はティアの動きに合わせて口をあけ、迫るティアに噛みつこうとする。
ティアは難なく牙をかわし、魔獣の股下を流水の如くすり抜ける───直後、血飛沫が上がり、魔獣の足、腹下の毛が紅に染まる。
ガクリと魔獣の身体が下がる。

「っやあああっ!!」

そのままティアはすぐさま身を翻し、魔獣の尻尾、背中を踏み台にして大きく跳んだ。

「轟槌!!剣打っ!!!」

そのまま空中で一回転、両手でしっかりと剣を握り締め、鋼の槌を真白い頭頂部へと叩き落とした。
魔獣は沈黙し、魔獣の頭からひょいと降りたティアは一旦剣をしまう。
流れるような一連の動きに、アイリとタマジローは感嘆の声を上げる。

「・・・なっ・・・に?いまのは?速いっ!!」

「ほう、すり抜けざまに全ての脚を傷つけて怯ませ、追い討ちは打撃が通りやすい頭部への重い一撃か・・・やるな!」

「え!?でも!なんで血があんなに出たの!?さっき脇腹に切りかかった時は刃がうまく通らなかったのに・・・?」

「『煌閃』ったかな?剣の切れ味が異様に上がるティアのインチキだ。」

「・・・な、そんなことが・・・!?
・・・すごい・・・」

沈黙を続ける魔獣を見下ろすティアはある疑問をタマジローへとぶつける。

「あの、タマジローさん?この魔獣・・・狼みたいな見た目で、狼みたいな動きだったのに、なんか、脚のつくりが人間っぽくないですか?変ですよ?」

「言っただろう?そいつはビーストウォーリアの変化モデルだと。
ビーストウォーリアは身体の一部を獣にする魔法だが、使用者は人間さ。
だから、人間のつくりに近い変身にしないと使い勝手が悪いのさ。
だからそいつも・・・ティア!」

「っ!?うそ!?」

魔獣が起き上がった。
どうやら仕留めきれていなかったようだ、ティアも手応えが浅めだったと思っていたため、そのこと自体はさほど驚きはしなかった。
なぜティアは大きく驚いたのか

それは、起き上がった魔獣が

二本足で立っていた

からであろうか。


「ああーくそ。
コイツ『自分が二本足で立てることに気付きやがった』な・・・ティア!もういっちょ頼まれてくれねえか!?こっからが本番だ!!」

「はい!もちろん!」

魔獣に向き直り、ティアは再び剣を構えるが・・・

「っちょっと・・・これはいくらなんでもさ・・・」

そう、大きいのだ。
四足で立っていた時でもティアがするすると股下をぬけれるぐらいの大きさがあったのだ、それが二本足で立ったとするとどれほど大きくなるかは想像するに難しくはない。
しかしティアは怖じ気づく様子も見せずに魔獣へと向かう。

「・・・ね、ねぇ、タマジロー・・・なんであれ・・・に、二本足で・・・」

ティアと打ち合うそれを見上げたアイリは、かたかたと震えながらタマジローへと問う。
その瞳には恐怖と畏怖の色がみえる。

「ああ、おそらく、だが、奴は召喚される時に牙の持ち主の強い感情によるノイズ・・・
つまり、ウルウルフが抱くティアに対しての怨みを持った・・・
そしてティアを見てその感情が爆発、興奮状態陥り、がむしゃらに攻撃、その時、ノイズの影響で奴は自身を獣だと感じていたのだろう。
だが奴はティアにぶったたかれて少し頭が冷えたらしい、そして自分の身体が獣ではなく魔獣、そして、作りが人間に近いことに気付きやがった。
あとは簡単だ。もともとビーストウォーリアのモデル用としてだ、より人間的な動きに馴染むように調整してある。
その結果が───

「ウィンド!!
ティア、あいつ、強いのか?」

タマジローの話を止めたのは魔獣の攻撃を受けて吹き飛ばされたティア、どうやら吹き飛んだティアをユウが風魔法によって受け止めたらしい。

「ありがと!ユウ!
あいつ、動きが変わったよ!あと、思ったより叩かれると痛い・・・」

切ったのであろう、口下から垂れる血を袖で拭いながらティアはこたえる。

「ティア!もともとあいつは人間的な動きをするように調整したんだ!獣だと思うな!人間を相手にするように立ち回れ!」

タマジローがティアへとアドバイスをよこし、ひとつうなずいたティアは剣を握りなおして魔獣の方へと駆けていった。

(足を狙えば・・・崩せるかな・・・いや!
もっと簡単に・・・)

魔獣の足元へとたどり着いたティアは、一瞬足へと剣を振りかぶるが、すぐさまそれをさげ、様子見へと入る。
そこに赤と白の腕が打ち下ろされ、ティアは紙一重でそれをかわす。

(ふーん、私が足元にいても頑なに腕で攻撃をするのね・・・よし。)

一旦距離をあけたティアはユウに向かって声を上げた。

「ユウ!私が合図をしたら指示通りに足場を!」

「わからん!部位!」

ユウがティアへと問うと、ティアは魔獣の攻撃をさばきつつ、トントンと自身の頭を人差し指でつつく。

「OK!合図の仕方は任せた!思いっきりやれ!」

一通りやりとりが終わるとティアも反撃に移る。
相変わらず振り回される腕を紙一重でかわす刹那、的確に腕に向かって斬撃を入れていく。
打ち下ろされれば振り上げ、払われれば逆方向に滑らせ、突き出されれば利用して傷つける。
魔獣が腕を振る度にその白い毛は赤く染まり、千切れ、舞い、飛散する。
明らかに腕だけが赤く染まっていく。

「仕上げっ!!」

ティアが声をあげ、打ち下ろされされた腕を避けると、その腕に力を込めて剣を打ち込む。
すると、ティアが剣を入れた箇所以外の箇所にも裂傷が走り、魔獣がうめき声を上げた。
ダラリと下がった腕を振り回しつつ、魔獣は逆の腕でティアを狙うが、同じようにその腕は一撃、しかし複数の傷が入り、落とされた。

「えっ!?なにあれ!?ユウ!ティアが!今度は何をしたの!?一回でたくさん切れた!!」

「あれは・・・『切影』か。」

「キリカゲ?」

「剣の周りに斬撃を纏う謎のインチキだ。
今回の煌閃と併用してるのは初めて見たけど、轟槌剣打と併用した切影轟槌は俺も食らったことあるぜ。
すっげえ痛かった。」

「ティア・・・すごい・・・」

「ユウ!準備!」

ティアの声が響く。
魔獣との距離をとって剣を握りなおしていた。

「お、やるのか。
いいぜ!はやくしろよ!!」

「うん、ステップ三回分先!高さは任せる!3秒後!」

「任せろ!」

「せっーのっ!」

「「ゴー!!」」

ティアが魔獣へと走り、ユウが杖に魔力を込める。
ユウはティアのステップ一回分の距離をだいたい把握している。
そのことを知っているティアもそのほうが指示が出しやすかったのだ。
2秒後、ティアが跳ぶ、同時に着地点に魔法陣が浮かび上がる。
そして、3秒後───

「よし!どんぴしゃっ!!」

「アース=ポール!!」

ティアの着地と同時に、勢いよく地面が円柱形に付き上がる、その勢いを生かしてティアは高く飛翔する。

「ぬぅわあっ!?
バカッ!ユウ!高い!高い高い!」

意外な所で2人の息は合わない。

「任せるって言ったろ!?くそっ!」

軽々とティアは魔獣の頭よりも高い所へ向かっていく。
焦るティアのさらに頭上に岩の太陽が現れた。

「ほら!使え!ティア!」

アース=スフィア。
空中に足場が完成した。
ふわふわ浮かぶその岩に向かってティアは着地を決めて、地面からティアを見上げる魔獣をティアも見上げ返す。

「ったく、そうするなら最初から言っときなさいよ!」

岩を思いっきり蹴り、ティアは魔獣へと急降下、剣を構える。
魔獣はティアの攻撃を迎え撃とうとしているのか、または受け止めようとしているのか、赤くなった腕を上げようとしたが。

「ごめんね、もう上がらないんでしょ?痛くて。
・・・轟槌・・・!!!」

「・・・メテオール!!!」

ティアの剣が打ち下ろされる瞬間、ユウの声が上がった。
上げようとした腕が上がらない魔獣は、なすすべもなく額に斬れない剣を受ける。
大量の血が吹き出し、そのまま潰れるように地面へと押され倒れる。
仰向けの魔獣の胸に、返り血を浴びた少女が着地する。

「・・・なによ。轟槌メテオールって・・・」

不機嫌そうな一言が風に運ばれタマジローとアイリの元へと届き、涙目でアイリはタマジローへと抱きついた。
その嬉しそうな姿を眺め、少女は満足気にその場に腰を下ろした。

「これで、完成だな。」

工房に戻ってきた一行は早速魔獣の血を使って魔法を完成させていた。
魔獣の血以外にもたくさんの魔獣素材を手に入れたアイリは何時になくほくほく顔である。

「おお!できたの!?ユウ!!」

「うん、出来たぜ、アイリさん・・・」

「・・・」

「・・・??」

なぜか弾まない声色のユウと黙り込むタマジローにティアは首をかしげている。
魔獣の血に浸したあと、取り出された魔力球は花びらが赤く染まっていた。
これで完成には間違いないらしいが、どうも盛り上がりが薄い。

「どうしたの・・・タマジロー・・・?
ユウ・・・?」

ユウは気まずそうにタマジローの顔を見る。
そして、タマジローが困ったユウの表情を見て、静かに口を開いた。

「アイリ・・・ティア、お前等には礼を言う。
自分の尻も拭えねえ俺の言うことを聞いてくれて・・・
それからユウ、世話になったな。これがおそらくお前に頼る最後の機会だろう・・・お願いだ、俺を、元の姿に戻してくれ・・・!」

「そうじゃねぇだろ・・・?タマジローさん・・・」

ユウは明後日の方向に視線を飛ばしながらぶっきらぼうに言葉を投げた。

「・・・
・・・そうだな。ちゃんと、伝えねえとな・・・。


一度、ギリリと歯を食いしばったタマジローはポツポツと話を始めた。
しかしいまいち踏ん切りがつかないのか、いつになく自信が無さそうな語りに、ティアとアイリは戸惑いを隠せない。
アイリもこんなタマジローを見るのは初めてな様子で、その視線はティアの顔とタマジローの顔とを困ったようにいったりきたりしている。

「・・・アイリ、すまねえ。
・・・実はな、今回の魔法は・・・成功する保証が全くねえんだ・・・」

「えっ・・・」

一瞬、アイリの心臓が止まる。
その初めての一瞬の苦しさに、アイリは胸に手を当てて生唾を飲み込む。

「っ!?ユウ!?どういうことなの!?タマジローさんは・・・タマジローさんは!?」
ティアは大げさなほどに両うでを広げてユウとタマジローを見る。

「それは───

「いや、ユウ、お前に頼るのは最後の魔法でもう終わりさ。
俺が説明するよ・・・。」

タマジローは気まずそうなユウの言葉を遮って、自ら説明を始める。

「隠していた訳じゃねえんだ・・・自信がなくて、言い出せなかった・・・。
ただ、ユウが計算しても一緒だった。
ビーストウォーリアが確実に解除できる期間は、多く見積もっても魔法にかかってから一年だったんだ・・・それ以降はもう、本来なら人としての人格はとうに壊れて、身体も魔法に完全に乗っ取られて・・・治せねえ。
だから、実はな、今俺がこうして『ここにいる』ことも、話ができるのも、あり得ねえはずの『奇跡』なんだよ。
原因は、結局わからなかった。

だけどな、今なら少し自信をもってその奇跡の原因を口にする事ができる・・・

アイリ・・・お前のお陰だ

俺は、お前がいたから・・・お前がずっと一緒にいてくれたからな、きっと、耐えてこれたんだ。
俺もお前と一緒にいたい、その気持ちだけで、今日までやってこれた。

最期になるかもしれない、だから、伝えておきたいんだ・・・

アイリ、ありがとな。
俺は、お前と一緒にいれて本物の幸せ者だったよ。」

拳を強く握りうつむいていたアイリは、顔を上げて大声を上げた。

「っっっの!!!バカッ!!!」

「「「!!??」」」

突然の大声にユウも、ティアも、タマジローも肩をすくめる。

「なに勝手に最期とか言ってんのさ!ずっと!ずっと一緒だって約束したじゃない!!

アンタは本当にどうしようもなくバカで!マヌケで!
アホで!わがままで!自意識過剰で!!
まっっったく好みじゃない顔で!!
それでも・・・それでもさ・・・アタシは・・・アタシには・・・アンタがいないと・・・

それに!約束だけは絶対に守る!そんなアンタがアタシは大好きだったんだよ!?
守ってよ・・・あの時、約束・・・アタシ・・・ずっと、ずっと待ってて!楽しみにしてて!
それだけを楽しみに今日まで頑張って!!

・・・お願いよ・・・タマジロー・・・最期なんて・・・言わないでよ・・・やだよ・・・」

「・・・」

うつむき、肩を震わせるアイリ。
その足元に落ちる数滴の雫をタマが舐めて苦い顔をする。

「ユウ・・・魔法で大事な事はなんだ?」

「・・・きたねえぞ、タマジローさん。
俺に頼るんじゃねえ!」

鼻水を啜りながら顔を背けるユウ。

「ああ、そうだな。
大丈夫、大丈夫だ、魔法は絶対に成功する!
大事な大事な『約束』があるんだ!
約束事を守った魔法は間違いなく成功する、また、約束を守るように作られた魔法も必ずうまくいく!」

袖で目元を拭ったティアは鼻息を荒くして頷く。

「俺は約束を守るぞ!ユウ!アイリを・・・必ず幸せにするっ!!」

「ぐすっ!そうだろ!?待ってた!タマジローさん!
任せろ!!
俺も約束は守る!タマジローさんを元に戻すっ!!」

ユウは赤い顔で魔法の準備を始めた。